あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Mission 23 <時空神の記憶> 後編



キュルケからの指摘にスパーダは軽く鼻を鳴らし、自嘲の笑みを浮かべていた。
果たして、この異世界の人間達はどこまで信じてくれるだろうか。このハルケギニア以外にも、彼らのような人間が住まう別の世界が存在するという事実を。
そして、その世界でかつて起きた出来事を、自分が起こした行動を全て信用してもらえるか。
スパーダが再び時空神像に手を触れると、砂時計から三度光が壁に放射され、新たな映像が映し出される。
ルイズ達の目に映りこんだのは、先の映像と同じく無数の悪魔達が大地や空を蹂躙する光景だった。
ただ、今回は先ほどのとは何かが違う。

翼を生やし、空を舞う悪魔達は魔界の禍々しい雰囲気がまるで感じられない、夕日が照り、赤々と焼けた夕焼けの空を飛び交っている。
大地を闊歩する悪魔達が足をつけているその地面は、瘴気や溶岩などを噴き出していた魔界の毒々しい大地とは異なり、草木が生えている肥沃で豊かなものであった。
そして、悪魔達が喰らっているのは弱肉強食の世界で互いに争い合っている同族ではない。

――きゃあああっ!

――助けてくれぇ!

――お母さぁぁん!!

――ぎゃああああっ!

燃え盛る炎の光景の中、幾多も響き渡る悲鳴と断末魔。そして、炎の中を悪魔達から逃げ惑う無数の人影。
それは紛れもなく、人間であった。
血に飢えた悪魔達は力のない人間達を容赦なくその爪牙で引き裂き、血肉を喰らっていく。
老いも若きも、男も女も、子供も大人も関係なく、ただひたすらに見るに耐えない殺戮を続けていた。
「ひどい……」
あまりに惨く、残酷な光景にルイズは思わず顔を背けそうになった。
「魔界を統一した魔帝ムンドゥスは魔界とは別の次元に、人間達が住まう異世界が存在することを知っていた。かつての我が主はその異世界をかねてより侵略することを企てていた」
顔を顰めながらスパーダは語る。
「元々、魔界と異世界との間には分厚い壁のような境界が存在し、互いに干渉することはできない。だが、力のない悪魔達はその境界の極小さな隙間を潜って人間界を行き来することができる。
如何にムンドゥスと言えど、自分のような上級悪魔達が通れるほどの穴を力づくで無理矢理押し広げることは難しかった。だが……」

映像が変わると、そこには天高くそびえる巨大な塔とそれを崇めるように囲む何百人もの人間の姿が映っていた。
荒野の中に建てられているその塔はハルケギニアに存在するいかなる城よりも遥かに山のように大きく、そして魔界のような禍々しさがありありと感じられていた。
その遥か頂上から、暗雲が広がる空に向けて赤い光が伸びている。
暗雲を突き破り、薄暗い空の中に大きな穴がぽっかりと開けられていた。
その穴を通って、幾多の悪魔達が次々と大地へ降り立っている。

「ムンドゥスは下級悪魔達を利用し、人間達を堕落させていった。堕落させられ、魔に魅入られた人間達は魔界と自分達の世界を繋ぐために塔を建てた。それが、このテメンニグル――〝恐怖を生み出す土台〟と呼ばれたものだ」
映像に映る禍々しいテメンニグルの塔、そして飛び交う悪魔達にルイズ達は目を疑った。
人間が魔界の扉を開き、悪魔達を招くためにこんな物を作り出しただなんて、狂気としか思えない。
いや、その狂気へと駆り立て堕落させたのが、魔界から送り込まれた悪魔なのだろう。
人間達はまんまとムンドゥスに利用され、悪魔達が侵略するための道を開いてしまったのだ。

「これはいつの出来事?」
映像を見ていて僅かに顔を顰めていたタバサがスパーダに尋ねていた。
「そうだな。今からおよそ1500年以上も前のものだ」
「……そんな話は、ハルケギニアの歴史には残っていない」
普段から様々な本を読んでいる彼女は、たまにハルケギニアの古い歴史書に目を通すことがある。
始祖ブリミルがハルケギニアに降臨したのは6000年も昔だということだけは伝えられているが、今スパーダが話し、ここに映し出されている出来事はどこにも記録などされていないものだった。
だが、先ほど時空神像が見ていたらしい自分の姿を見せられた以上、これも神像が見届けたものなのだろう。
決して、この出来事が作り物であるとは思えない。
だが、ハルケギニアの歴史には過去に悪魔によって侵略されたという記録も残っていない。
これほどの出来事が起きたのであれば、歴史書に載せられていてもおかしくはないはず。
「あたしも聞いたことないわねぇ」
キュルケもタバサに同意し、他の者達も同様であった。
「どういうこと、スパーダ?」
「……当然だ。この出来事は、ハルケギニアで起きたものではない」
腕を組むスパーダが発した言葉に一同、目を丸くする。
「このハルケギニア以外にも、お前達のような人間が住まう異世界が存在する。そこで起きたものだ。信じる、信じないかはお前達次第だが」
「い、異世界?」
ルイズは一瞬、その言葉が信じられなかった。ハルケギニアとは全く別で自分達と同じ人間が生きている世界が存在するだなんて。おとぎ話もいい所だ。
だが、スパーダが生まれた魔界という異世界が存在する以上、その話は信じざるを得なかった。
「あたしは信じるわよ。こんな凄いものを見せられちゃあね……」
キュルケが乾いた笑みを浮かべて未だ悪魔達が飛び交うテメンニグルの映像を見やった。

「……テメンニグルによって開けられた魔界の扉を通って、ムンドゥスは下級悪魔はもちろん上級悪魔達を次々と送り込んできた。
人間界に降臨した悪魔達、そして悪魔を崇拝する魔に魅入られた人間達はテメンニグルを拠点に各地へと侵攻し始めたのだ。
多くの人間達はそれに対抗したが、ほとんど劣勢だった」
「スパーダも……それに加わってたの?」
恐る恐る、ルイズが問いかける。
スパーダがムンドゥスの右腕だったならば、彼もまた人間界侵略の尖兵として送り込まれたことになる。
ルイズはスパーダが他の悪魔達と同様、人間達を容赦なく手にする剣で斬り伏せていたのではないかと、不安であった。
スパーダはルイズの問いに対して、何も答えなかった。ただ腕を組んだまま目を瞑り、顔を僅かに伏せている。
その沈黙は、肯定を意味しているのか。それとも答えあぐねているのか。
ルイズはもちろん、一行はその沈黙が肯定でないことを願った。
と、突然スパーダがまた自嘲の笑みを浮かべていた。
「……私は、悪魔の中では異端だったのかもな」

――魔剣士スパーダ。何のつもりだ。

突如、響いた禍々しく凶暴そうな悪魔の声。
映像には長剣を肩に担いでいるスパーダが強靭な黒い巨体に頭頂部には角を一本生やしている獣人のような姿の悪魔と対峙していた。
その巨大な悪魔の他にも様々な下級悪魔達がスパーダを取り囲んでいる。
だが、ルイズ達が目に入ったのはその巨大な悪魔でもスパーダを取り囲む悪魔達でもなかった。
周囲に転がる無数の悪魔達の亡骸、それらはスパーダ自身の足元にも転がっている。
悪魔達みんな、剣か何かで斬り捨てられたようだ。

――我らの目的はこの世界の制圧にある! 偉大なる我らが主を裏切る気か!?

怒りに燃える巨大な上級悪魔、〝豪閃獣〟ベオウルフは獰猛で凶悪な眼を赤く光らせながらスパーダに向かって吼える。

――裏切り者。

――逆賊め。

すると、周囲の悪魔たちも同様にスパーダに対する呪詛を口々に吐きかける。
スパーダはそんなことを同胞達に言われてもまるで気にしておらず、無表情のままベオウルフを睨みつけていた。
(あれ? このスパーダ……)
ルイズは映像に映るスパーダを見て、今までの映像のスパーダとは少し異なる印象に気づいていた。
前の映像のスパーダは悪魔らしく冷酷さに満ちた表情だった。だが、この映像のスパーダはその冷酷さが薄れているような気がした。
そして何より、悪魔達が口にした言葉が気になった。
(裏切り者? 逆賊?)

悪魔達が一斉に、スパーダに襲い掛かった。
スパーダは剣を大きく薙ぎ払うと、向かってきた悪魔達を次々と吹き飛ばしてしまっていた。
ベオウルフはスパーダの剣風を受けても堂々と立ち尽くし、怒りに燃え盛った瞳をスパーダに向け続けている。

――それが貴様の答えか。……逆賊スパーダ!! 裏切り者は決して生かしてはおかん!!

荒々しい悪魔の咆哮を上げ、ベオウルフはスパーダに飛び掛った。
同時に雷鳴が弾けるような音と共にスパーダの姿が今までの人間の姿から、あの悪魔の姿へと変わっていた。
豪腕を振り上げるベオウルフに対し、スパーダも長剣を両手で構え、正面から迎え撃っていた。

「私は魔界の軍勢を裏切り、人間達を救うためにかつての同胞達と戦った」
その言葉にルイズ達は驚き、目を見張った。
スパーダが魔界を裏切った? しかも、同胞である悪魔達を全て敵に回して?

映像は次々と変わっていき、どの映像もスパーダが悪魔達を相手に己の剣を振るって一人で戦う勇ましい姿だった。
人間の姿の時であれば悪魔の姿で戦うこともあり、猛々しい剣技以外にも拳から発する細かな赤い光弾を連射し、悪魔達を撃ち抜く。
剣を突き立て、悪魔達が蠢く大地に着地した途端、巨大な衝撃波が何万もの悪魔の軍勢を一瞬にして全滅させていた。
時に見るからに強靭そうな上級悪魔達と戦う姿もあったが、どの悪魔達を相手にしてもスパーダは一歩も引かない戦いぶりを見せていた。
そして、多くの場面でスパーダは悪魔に襲われる人間達を守るようにして戦っている。
時に人間の戦士がスパーダに加勢し、共に悪魔を相手に攻防を繰り広げていた。

「正直、私も同胞達はできるだけ魔界に追い返そうと努力はした。そのまま斬り捨ててしまった者達も多かったがな」
やがて、さらに映像が別のものに切り替わった。
暗雲が広がる空、どこまでも続く血の池、無残に転がる瓦礫の山、そしておぞましい姿をした鎌を手にする悪魔達。それを容赦なく斬り伏せていくスパーダ。
(これは、あの時の……)
ルイズはその場面に覚えがあった。
これは以前に夢で目にした光景。恐らく、魔界での出来事だ。
確か、あの悪魔達を倒した後に……。
「どうしたの、ルイズ?」
ルイズが青ざめた表情で映像から目を背けだしたのを見てキュルケが声をかけた。
「どうしたんだい、ルイズ。しっかりしたま――」
まるで発作を起こしたように呼吸と声を震わせるルイズの様子に心配したギーシュだったが、映像に映った物を目にして言葉を失った。
スパーダが見上げる暗雲の空に浮かび上がる、稲光を散らしながら不気味に光る三つの光。
目のように睨んでいるその光に、ルイズやギーシュはおろか他の者達も底知れぬ恐怖を感じていた。
ただの映像に過ぎないのに、この威圧感は何なのだ? どうして、ここまで恐怖を感じてしまうのだろう。
タバサでさえ、表情には出さないもののその三つ目の光に心の底から恐怖を味わっていた。……五年前、自分が初めて任務へと駆り出された時以上の恐怖だった。

「私は魔界の軍勢に抗う人間達の協力を得て、魔界を、テメンニグルを封じることに成功した」
テメンニグルを封じる際、スパーダは〝穢れなき巫女〟と呼ばれていた人間の女性の血と自分の血を用いて塔を地中深くに沈めて封印した。
その際、ベオウルフの他、スパーダが直接従えていた上級悪魔なども共に塔の中へ幽閉したのである。
そして、自分の力は人間界に留まるには大きすぎたため、魔界の深淵へと封じてきた。
「そして、かつての我が主、魔帝ムンドゥスを魔界の深淵に封じるべく戦いを挑んだ」
映像のスパーダが長剣を手にして三つ目の光――魔帝ムンドゥスに向かって駆け出した。
あの夢で、ルイズは必死にスパーダを呼び止めた。絶対に戦いを挑んではいけない、勝てるわけがないと精神が警鐘を鳴らしていたからだ。
だが、スパーダは決して止まらなかった。
その姿を彼本来の悪魔の姿へと戻し、手にする剣もまた今までとはまるで違う、禍々しく巨大な異形の剣へと変えて。

そこで映像が終わり、時空神像からの光も消え失せていた。
魔界、悪魔、そして魔帝ムンドゥスの恐ろしさを存分に味わったルイズ達は憔悴し切った様子で、スパーダを振り返っていた。
「私のことは、大まかに説明するとこのようなものだ」
「……でも、どうして悪魔のスパーダが人間の味方を?」
誰もが最も不思議に思う疑問。悪魔であるスパーダが自分よりも力の弱い人間を守ろうとしたのだろう。
「……私は無意味な殺戮も、弱者を虐げるのも良しとはしなかった。それだけだ」
スパーダは自嘲の笑みを崩さぬまま言った。
「それに我が主にも少々不満があったからな」
「不満?」
「我が主は、あまりにも残酷で無慈悲だった。主はたとえ自分の腹心であろうと、戦力にならないと分かればすぐに切り捨てる。……あそこまで悪魔らしい悪魔もいない」
かつて魔界で起きた三大勢力の戦いで、ムンドゥスの腹心が他の悪魔の勢力の悪魔に幾度も敗北した時、たとえ忠臣であろうと容赦なく自らの手で消し去る。
ムンドゥスにとっては、他の悪魔達も自分の手駒に過ぎない。役に立たなくなった手駒はこれ以上、自分の手にあっても邪魔なだけ。
ならば、早々に消えてもらった方が都合が良い。
スパーダはムンドゥスの右腕として仕える中で、その光景を何度も目にしてきた。
その度にスパーダの胸は痛んだ。主にとっては駒でも、スパーダにとっては同志であり仲間だったのだから。

スパーダが珍しく意気消沈している様子を見て、ルイズ達は初めてスパーダの心の一部を垣間見たような気がしていた。
たとえ悪魔でも、スパーダのように他者を思いやる慈しみの心を持っている悪魔がいるなんて意外だ。
「私も他の悪魔達と同様に、主の命を受けて人間界へと送り込まれた。人間達は悪魔達の攻撃を受け、次々とその命を奪われていった。
……私は見ているだけだったが、それを見続けているとどうにも気分が悪くなったものだ」
そして、その心は同胞だけではない。全く別の力のない種族である人間達にさえも向けられていたのだ。
「だが、人間達は我らには無いものを持っていることを知った。私は……それに惹かれた」
「人間にあって、悪魔にないもの?」
「それは、何なんだい?」
ルイズとギーシュが問いただし、他の者達も強く興味を持ってスパーダの答えを待った。
スパーダは自嘲の笑みを消し、真剣な顔になるとルイズ達を見回しながら自分の胸を拳で叩いた。
「〝心〟だ」
「心?」
「〝力〟を制し、他者を虐げることしか能がない我らとは違い、人間には〝心〟というものがある。
確かに人間は弱い。単純な力だけならば我らよりも劣るかもしれん。事実、多くの人間が抗うことはできなかった。
……だが、他者を思いやり、愛する者を守るために心を奮わせることで人間は思いもよらぬ力を発揮する。時に心が生み出し、爆発させた力は我ら悪魔をも凌駕した。
私は、人間の〝愛〟を、そして人間の可能性というものを思い知らされた……」
スパーダは人間が発揮した、〝心〟の力を思い起こした。

悪魔に襲われる家族や仲間、恋人を命がけで守るために戦った人間。そして、愛する者の命を奪われた者達。
彼らは愛する者を思う心を爆発させ、時には上級悪魔さえも人間の心の力に敗れ去ることもあったのだ。
その時に目にした人間の可能性、自分達悪魔にはない〝心〟が発揮する力、そして愛する者のために流した涙……。

「あれを見せられては、私も魔界と決別するしかなかった」
自嘲しつつ、どこか嬉しそうに笑っているスパーダにルイズ達は呆気に取られた。
一人の悪魔が人間の〝心〟を、〝愛〟を知り、人間のために故郷と決別する。まるでおとぎ話のような話である。
だが、ルイズはこれまでのスパーダとの交流を思い返していた。

スパーダはつっけんどんながらも、魔法に失敗してばかりいる自分を気にかけてくれた。そして、自分の失敗を新しいものにするという方向へと導いてくれた。
そして、何千年にも渡って培ってきたのであろう魔の剣技で自分達を守ってくれた。あの勇ましい姿は、決して忘れられない。

ギーシュもまた、スパーダと剣を通して彼の厳しくも父親のような包容力に惹かれていた。

タバサは以前、スパーダが悪魔の巣窟と化した屋敷からメイドのシエスタを助け出した時のことを思い返した。
悪魔の血と力を宿す己を恐れていたシエスタを、スパーダは人間であると諭していた。

――Devils Never Cry.(悪魔は泣かない)

その言葉を口にして。

「全てを終えた後、人間界に留まり人間達を見守っていた。フォルトゥナの土地を治めていたのは、それから数百年も後のことだ。
もっとも、知っての通り今の私はただの没落貴族だが」
スパーダはかつての主を、故郷を裏切り人間達を守るために戦った。そして、同胞達を魔界へと追い返し、挙句の果てにはムンドゥスさえも封印してしまったのだ。
あまりにも凄まじい偉業だった。その異世界ではきっと、スパーダの活躍は始祖ブリミルのように伝説として語り継がれているのだろう。

……だが、ルイズはスパーダの偉業に感服すると同時に彼に対して不満を抱いていた。
「……何で」
絞りだすような声でルイズは声を出す。
「何で、あたしに黙っていたの? どうして、あたしに嘘をついたの?」
今まで人間だと思っていた男が実は悪魔だった。それをパートナーとなった自分に何も教えてくれなかったことがショックだった。
自分の正体を知られるのを恐れていたというのであればまあ仕方がないかもしれないが、スパーダはそのような恐怖などまるで抱いていないのだ。
それはこうして堂々と自分の正体を明かしていることが意味している。
それだったら素直に自分に話してくれても良いはずなのに、そうしてくれなかったため、ルイズはやはり自分が信頼されていないと思い込んでいた。

だが、スパーダは小さく溜め息を吐きながら言う。
「……君は一度も聞かなかっただろう」
「メイジは使い魔の、パートナーのことは何でも知ってないと駄目なのよ!」
癇癪を上げながらその場で立ち上がるルイズをスパーダはじっと見つめた。
他の者達もルイズのその態度に思わず驚いてしまう。
「あたしは、あなたが人間じゃなくても全然構わないし、誰にも言わないわ。だから、パートナーに隠し事なんてされたくないのよ!
あなた、あたしを信じていなかったの!?」
「そういうわけではないが」
「じゃあ、どうして隠していたのよ!」
凄い剣幕でスパーダに詰め寄るルイズ。その目元には薄らと涙が浮かんでいた。
スパーダは子供のように喚くルイズを見つめていたが、やがて溜め息を吐く。
「悪魔である私の存在で混乱されるのを避けようとしたまでだ。……だが、君の思いを踏み躙った無礼は詫びよう」
軽く頭を下げるスパーダに、ルイズは嗚咽を漏らしつつも目を逸らさずに見つめたままだった。

「これからは、隠し事は許さないわ」
「分かった。……それで、どうするのだ。ミス・ヴァリエール?」
「どうするって?」
「私はこのように悪魔だ。だが、始祖ブリミルという奴の残した教義では私のような悪魔は忌み嫌われるはずだろう。
私をこれまでのようにここに置き、もしも私が悪魔であることが他の者に知られれば君とてただでは済むまい」
「そ、それは……」
確かに、悪魔を使い魔にしただなんて知られればとんでもないことになる。
そして、自分は周囲から馬鹿にされる所か、悪魔を召喚した忌まわしいメイジとして虐げられるかもしれない。下手をすれば実家の家族からも……。
如何にスパーダが人間のために命がけで戦った正義の悪魔だとしても、人が本能的に恐れる悪魔そのものであることに変わりはないのだ。
「私を拒むのであれば、私は早々にこのルーンを排除してここを去る」
そう言い、スパーダは閻魔刀を手にして扉に向かって歩き出した。ルイズは慌ててスパーダの背中に声をかける。
「ス、スパーダ」
「しばらく時間をやろう。ゆっくり考えると良い」
パタン、と扉が閉められ、スパーダは部屋を後にしていた。

(スパーダが、いなくなる? あたしの元から……)
そう考えると、ルイズの心は痛んだ。
スパーダは大切で頼もしいパートナーだ。彼がこれからパートナーとしていてくれるならば、あれだけ心強い者は他にいない。
だが、彼は悪魔だ。彼がこれからもパートナーとして自分と共にいてくれるのはあまりにリスクが大き過ぎるのだ。
そして、その決断を下すのは彼のパートナーである自分に他ならない。誰にも、相談できることではない。
「まさか、ダーリンにあんな過去があっただなんてねぇ」
ルイズが決断に悩む中、キュルケがあっけらかんとした様子で言った。
あまりにも平然とした態度にルイズは当惑する。
「キュルケ、あんたスパーダが悪魔だって知って何とも思わないの?」
「それはもちろん驚いたわ。でも、ダーリンはいわば正義のヒーローよ。あれこそ、まさしくイーヴァルディの勇者と呼んでも過言じゃないわ」
「イーヴァルディの、勇者……」
ぴくりと、タバサが反応する。
始祖ブリミルの加護を受けた勇者が剣と槍を用いて龍や悪魔、亜人や怪物など様々な敵を倒すという物語。
タバサも幼い頃、よく愛読していたものだ。
「とにかく、あたしはダーリンを信じるわ。人間の愛を知って正義に目覚めるなんて、こんなにロマンチックなことはないもの」
そう言うと、キュルケは部屋を後にしようとする。タバサもその後を付いていった。
「僕もキュルケと同じだよ。彼は決して悪魔じゃない。紛れも無く人間だよ、あれは」
ギーシュは何故か満足した様子で部屋を後にしていった。

「ギーシュ! 何でアンタがルイズの部屋から出てくんのよ!!」
「モ、モンモランシー! いや、これは……うわあああっ!!」
その直後、部屋の外でそのようなわめき声が響いてくるのが聞こえていた。

ロングビルは何も言わずに窓からレビテーションの魔法で飛び降り、外へと出て行ってしまった。
一人部屋に残されたルイズはベッドに突っ伏し、悩み続けた。
これまでと同じようにスパーダと共にいるか。それとも彼と別れるか。
そのどちらを選択しても、自分に待つのは決して楽にはならない現実だ。
絶対に、後悔しない選択をしなければならない。




新着情報

取得中です。