あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第3話『相容れぬもの』


ルイズは夢を見ていた。
少女と思われる人物の人生そのものを体験する夢。

年は自分と同じくらいだろうか。
何の変哲もない平民の家庭。
叔母の本屋を手伝っているようだ。

「それじゃおばさん行ってきます!」
少女の声が聞こえる。
彼女は奇妙な円柱状の鉄と車輪でできた乗り物に乗っている。
その乗り物に取り付けられたかごの隙間から
本を運んでいるのだと理解できた。

しばらくその乗り物を走らせて、一軒の民家の前に止まる。
ガラスで身だしなみを整えるその姿を見て、ルイズは驚愕した。

(アセルス!?)
活発そうな印象は今のアセルスとはまるで雰囲気が異なる。
大体彼女は妖魔ではないのか?

ルイズの疑問をよそに、アセルスは本を手渡して来た道を戻っていく。
鼻歌を口ずさむアセルスは気づいていなかった。
すぐ後ろから何かが迫っている事に。

アセルスが振り返った時、そこには馬車がいた。
だが、それがただの馬車ではないことはルイズもすぐに理解できた。

(化け物……!)
従者が率いる馬は普通の馬の2~3倍もある大きさ。
さらに従者は骸骨。
その奥にも誰かいるようではあったが、この世の者とは思えない眼差しだけが妖しく光る。

アセルスが馬車の存在に気づいた時にはもう遅い。
突進してきた馬車に体は砕かれ、車輪に引き裂かれていた……

「きゃあ!」
悲鳴と共に飛び起きる。
目覚めればそこはいつもの自分の部屋。
時計を見ればまだ日の昇らない深夜だった。

「ゆ、夢?」
思わず安堵する。
夢にしてはあまりに現実感に溢れていた。
今でも体中から嫌な汗が止まらない。

寝直そうとして、ベッドに目を向ける。
アセルスが隣で眠っていた。
彼女は知る由もないが、アセルスもその頃同じように夢を見ている。
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールという名の少女の夢を。



少女の家は貴族の三女だったようだ。
家族は少女にも貴族たれと厳しくも愛情を持って、育てられた。

だが、いつからだろう。
その愛情が重く感じるようになったのは。
少女は魔法が使えない。
その事により彼女は貴族として認識されなかった。

家族からは叱られる回数が増えた。
平民からは陰口を叩かれる事も多くなった。
蔑みの視線を浴びる事が日常になった。

少女は壊れそうな心を必死に奮い立たせる。
見返してやろうと、誰よりも魔法の事に関して努力した。

だが運命は決してその努力を実らせない。
むしろ嘲り笑うかのように、彼女に向けられる悪意は日々増えていく。
平民の陰口、貴族の社交界、入学した魔法学院の同級生。

人生において数え上げればきりが無いほど、他人の悪意を受け続けた。
結果、彼女の性格はわずかずつ歪んでいく。
人前で笑顔を見せる事がなくなった、一人きりで泣く時間が増えた。
心許せる人もいないまま、貴族としての自尊心だけが自らの拠り所となっていく。
彼女の姿勢を見て、魔法も使えないのに貴族を名乗るのが滑稽だと周囲は笑う。

やがて進学が訪れる。
使い魔を呼ぶ儀式、これに失敗すれば留年。
厳格な家族が留年などと言う不名誉を許すはずもなく、そのまま退学させられるだろう。

退学となれば彼女にとって、周囲から言われ続けた悪意。
『ゼロ』という事を認める事になってしまう。
だからこそ、彼女は願い叫んだ。

「宇宙の果てのどこかに居る私の僕よ!神聖で美しくそして強力な使い魔よ!!
私は心より求め、訴えるわ!!!我が導きに、答えなさいっ!!!!」
それはアセルスが鏡に触れる前に聞いた彼女の叫びだった。



そこでアセルスの目を覚める。
上質な貴族のベッドには一人分の重みしかない。
部屋の主であるルイズの姿を探すも見つからず、少し経った後に部屋に戻ってきた。
マントを羽織っているのは出かけていたのだろうと推測する。

「なんで裸なのよ!」
部屋に入ってきたときは少し不機嫌そうな表情を浮かべていたが、次に赤面してアセルスに叫ぶ。

「ん?ああ、服が濡れていたままだったから」
「あ……替えの服とか持ってないわよね」
納得すると、クローゼットからシャツと制服のスカートを投げ渡す。

「服の洗濯はメイドに頼んでおくわ。
それまではサイズ合わないかもしれないけど、我慢して」
ルイズもマントと昨日から着たままだった服を脱いで、着替える。

「わかった、後で持っていくよ」
「いいわ、私がやるから。しばらく待ってて頂戴」
普段のルイズなら雑用を自らやる事はない。
ただ自分なりの思惑があって、洗濯物を運ぶ必要があったのだ。
誤魔化すように急いで着替えて、洗濯物を持って部屋から出て行く。

アセルスはルイズを待つ間、彼女の机にあった本を1冊手に取る。
本屋で働いた事のあるアセルスにも見た事もない言語であった。
二つの月、地名にも聞き覚えがない事から自分が未知のリージョンにいるのだと理解していた。

未開のリージョンという存在は別に珍しい事でもない。
上級妖魔あるいはそれに匹敵する力を持つ者であれば自らの力でリージョンを作れるからだ。

それよりも彼女は夢の内容が気になっていた。
あの夢は彼女の人生だろう。
なぜそんな夢を見たのかはわからないが、アセルスにはルイズへの視線の正体に気づいていた。

半妖である事への見下しや蔑み、上級妖魔の血を得た事による嫉妬。
あの感覚と同じである事に。



同じ頃、洗濯物をメイドに預けたルイズも今朝見た夢について考えようとしていた。
彼女は平民にすら魔法を使えない事で馬鹿にされていると自覚している。
洗濯場にいたメイドは自分を馬鹿にしない数少ない相手だったので安堵して渡した。

来た道を戻りながらルイズは夢で見たアセルスを思い出す。
彼女はあの化け物馬車によって轢死したのでは?

アセルスに問い尋ねてみようかと思ったが、あくまで夢の話である。
冷静に考えてみれば、単なる変な夢だったかもしれない。

考えを遮るように、胃が空腹を知らせる音を鳴らす。
思い返してみれば昨日は疲れて夕食も取らずに寝てしまった。
その上、早朝から動き回った為に限界が近い。

うん、朝食を取ってから考えよう。
使い魔の役割説明とかもしないといけないけど食事の後だ。

そう結論付けて、ルイズにある問題点が浮かぶ。
妖魔の食事で一般的に知られるものと言えば……人間の血液。

どうやって準備すればいいのか?
自分の血を与える?
流石にそれは御免蒙りたいが食事を取らせない訳にもいくまい。

頭悩ませるルイズ。
その頃には、今朝見た夢の事などすっかり忘れてしまっていた。



ルイズが悩んだ食事は、アセルスが普通の食事も取れるので問題なく落ち着く。
部屋に戻ってまず食事情について尋ねたルイズは安心して、アセルスと共に食堂へ向かおうとする。

部屋の扉を開けると、ルイズの隣室の扉もほぼ同時に開く。

「あら、おはようルイズ」
「おはようツェルプストー……」
ルイズは憎々しい表情で隣人の女性を睨む。
彼女の顔はアセルスにも見覚えがあった。

ルイズと同年代と思えぬ体躯の良さ、胸元をひけらかす様にシャツを開けている。
健康的な褐色肌と炎のように赤い長髪。
彼女の名はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。
儀式の広場でルイズのほうを振り返った少女のうちの一人である。

「貴女、妖魔を使い魔にしたんですって?」
「そうよ、アンタも見てたでしょ」
ルイズが胸を張って答えてみせる。
キュルケはアセルスのほうをまじまじと観察するように見ている。
そして一言。

「……どこかから平民を連れてきただけじゃないの?」
「違うわよ!」
キュルケの指摘に思わず大声で反論する。

「だって妖魔を使い魔にするなんて聞いた事ないもの」
「亜人を使い魔にした例ならあるわ!」
「妖魔にしては見たことのない種族だし」
「彼女はハルケギニアより遠くの出身だから知られていないだけよ!」
小馬鹿にしたようなキュルケの態度が気に入らないのだろう。
ルイズはいちいち声を張り上げて反論する。

「大体貴女に、強力な妖魔を従えることが出来ると思えないのよね」
「どういう意味よ!」
ルイズが思わず、苛立ちから歯軋りする。
だがその音が聞こえるのはアセルスだけだった。

「あら、言わないと分からないかしら?だって貴女は『ゼロ』の……」
「そのくらいにしておきなよ」
アセルスの一言が過熱する彼女達の口論を静止させた。
口調こそ穏やかだが、拒絶が許されない程強い意思を込めて睨む。
キュルケは一瞬身体を震わせるが、すぐに取り繕う。

ルイズの劣等感となる『ゼロ』の言葉を投げかける場合、大半の理由は悪意だ。
自分達が出来て当然のことを出来ぬ者を見て貶め、嬲り、自らの尊厳を満足させる。
その様な者達なら、アセルスに睨まれただけでさっさと立ち去っただろう。

実のところキュルケは、ルイズのことを学院で正当に評価している一人である。
信念を曲げず、貴族足り得ようと努力を忘れない。
魔法が使えないだけで、学院の誰より貴族らしいとさえ思っている。

ならば何故『ゼロ』と呼ぶのか?
ルイズを単にからかっているだけである。
ほんの些細な一言にも、表情をよく変えて反応する姿。
意地を張って反論する様子は小動物のように愛くるしく、ついつい楽しんでしまう。

だからキュルケは気付かない。
自身とルイズの間に決定的な認識のズレが生じていた事を。

「で、何の用なのよ?」
ルイズが改めて尋ねる。
顔にはいつものように不機嫌な表情が張り付いている。

「貴女に私の使い魔を紹介しようと思っていたのよ、おいでフレイム」
キュルケが呼ぶと、一匹の炎を纏ったトカゲが足元に擦り寄る。

「それってサラマンダー?」
思わず呟いた一言だったが、すぐに失言だとルイズは気付いた。
案の定、目の前の憎き相手は火竜山脈に住む希少種だの好事家が価値を付けられないなど自分の使い魔を自慢し始めた。
一通り自慢し終わると、キュルケは自分の使い魔を連れて去っていく。

「何よ、あの女!自分が珍しい使い魔を呼び寄せたからって……!!」
ルイズは自分の呼び出した使い魔、アセルスに不満はない。
妖魔は正直恐ろしいが、オールド・オスマンも認める強さを持っているのである。
だが、妖魔の君と名乗る王族である事は周囲に伏せねばならない。

魔法が使えないと馬鹿にされ続けてきた自分が、初めての魔法で挙げた成果。
妖魔の城主に君臨する程、力を持った使い魔を呼び出したのだと。
なのに自慢することは許されないもどかしさ。

苛立つルイズは空腹に責任転嫁した。
お腹が空いてるからこうも苛々するのだと、とにかく朝食を取ることを優先した。



食堂では一旦アセルスと別行動を取った。
一緒に食堂で食べるつもりだったが、ルイズはアセルスの食事を注文する事を忘れていた。
急な依頼で同じ食事を用意する事が出来なかったので、厨房で賄いを分けてもらうように頼む。
ルイズは謝ったが、アセルスは気にした様子もなかった。

アセルスが去った後、ルイズは食堂に来る前の出来事を思い返す。
食堂に来る途中で、ルイズはアセルスに使い魔の事を聞かれたために答えた。

感覚の共有……に関しては何故かできなかった。
思惑もあり、アセルスには伝えていない。
秘薬の採取に関してはどうでもいい。
妖魔とは言え、王族にそんな小間使いの真似事をさせるつもりは毛頭無い。

最後に一番大切な主を護衛する事──
アセルスはルイズに告げた。

「いいとも、君を守ればいいんだね」
何気ない一言だったが、不意に涙が零れそうになる。
慌てて取り繕ったものの、この学院に来て初めて出来た味方に喜んだ。

同時にルイズは恐れた。
自分が魔法の使えない『ゼロ』だと知られたら失望されるのではないかと。
何故力を持つ妖魔でありながら、自分と契約を交わしたのか?
昨日からの疑問を尋ねることが出来なかったのも、それが理由である。

ルイズがアセルスの事を心から信用していれば疑問を素直に尋ねることはできただろう。
最も、これはルイズでなくても無理な相談だ。
本来ならば人間の敵となる存在の妖魔を出会ってから1日足らずで信頼しろという事なのだから。

ルイズは周囲からの悪影響で素直さというものを失っている。
そんなルイズだからこそ、アセルスは自分がメイジだから従っているのだと思い込んでいた。

しかし、授業の時間は刻々と迫っている。
いずれ気付かれるのは承知していたが、何とか誤魔化したいという気持ちもあった。

食事を終えて、アセルスと共に教室に向かう。
ルイズにとって喜ばしくも苦痛な時間が始まった……


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