あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第2話『支配者』


「これが契約の刻印なのかな?」
アセルスが左手の甲にできたルーンをルイズに見せるものの、彼女の耳に届いていなかった。
契約が無事結ばれた事をコルベールが告げ、見たことのないルーンということで簡単にメモを取る。
コルベールの写生が取り終わった頃、ルイズはようやく現実に帰ってきた。

「あ、あ、あんた一体何をするのよ!!」
現実に戻ると同時に赤面した顔でアセルスを睨みつける。

「キスしてきたのはそっちでしょう?」
「あれは契約の儀式よ!し、舌まで入れてきて……!!」
契約を終えた安堵感からか、ルイズの口調がいつもの調子に戻る。
ファーストキスだったのにとか、いや人間相手じゃないならノーカンよねなど一人でブツブツ呟いていた。

「まあまあミス・ヴァリエール。
契約も済んだ事ですし、教室に戻りますよ」
妖魔が呼び出された上に怪我人も出すハプニングはあったが、契約は無事結ばれた。
契約のルーンが結ばれた以上は、主人に危害を加える事はまずないだろう。
その事に安堵し、生徒に教室に戻るよう指示を出す。

普段なら悪口の一つでもかけるクラスメイト達も、妖魔に関わるまいと足早にフライで飛び立つ。
広場から立ち去る時にアセルスに振り返ったのは二人の少女。

一人は背が低く、無表情で氷のように透き通った青髪をショートヘアーにしている。
もう一人は燃え盛る炎のように赤い長髪をなびかせ、胸元を大きく開いた色香を振りまくような褐色肌。
それぞれ思うことがありながらも、彼女たちも空へ飛び立っていった。

ルイズは系統魔法はおろか、簡単なコモンであるフライも使うことができない。
なので学院へは歩いて戻る。

「どこへ向かうの?」
「トリステイン魔法学院よ、私達はそこで魔法を学んでいるの」
学院を知らないのかと思ったが、妖魔ならば仕方ないのだろうとルイズは納得する。
アセルスも魔法学院と言う言葉に聞き覚えはない。
代わりに思い当たったのはかつて旅を共にしたルージュ。
彼がマジックキングダムのリージョン出身だと思い出し、学院も似たものだろうと勝手に推測した。

辺りはまだ夕暮れだが、月が朧気に見える。
アセルスが月を見上げている事に気が付いたルイズが訪ねる。

「どうしたの?」
「ここは月が二つあるんだね」
ルイズにはその言葉の意味がわからない。

「月は二つあるものでしょう?」
「私の居たところだと一つしかなかったから」
考えてみれば妖魔だと言うこと、それとアセルスと言う名前。
彼女の事はそれしか知らない。
そこでルイズは学院に戻るまでの道中、様々な質問をしてみる事にした。

「月が一つしかないって、どんなところから来たのよ?」
「針の城。ファシナトゥールと呼ばれる場所にある」
針の城、ファシナトゥール。
どちらにもルイズは聞き覚えがない。

「そんな所、聞いたことないわ」
「針の城は妖魔の支配するリージョンだから、普通の人間は近づく事すらないもの」
アセルスからすれば当然の知識だが、ルイズには未知の単語だ。

「リージョン……?」
首を傾げるルイズに、この星にはリージョンという概念がないのだとアセルスも気付く。

「ここのリージョン……領域も、混沌に点在する一つに過ぎないと言ったら分かる?」
アセルスの言葉は抽象的過ぎるが、ルイズの覚えにある知識に結び付いた。

「宇宙に星があるのは知っているわ、その中の一つがこのハルケギニアって事も」
以前読んだ本の中に、天体に関する記述があった。
それと同時に、宇宙は混沌そのものだと言う説も思い出す。

「リージョンは星か何かなの?」
「大体合っていると思う」
未知の領域というものは、ハルケギニア大陸にも存在する。
東にはエルフのいる地区があるものの、人が近づくことはない。
妖魔の支配地域も似たようなものだと納得したが、城と聞いてルイズはふと疑問が浮かぶ。

「城にいたって事は宮廷に仕えていたの?」
妖魔が城を持つというのも初耳だったが、自らも公爵の三女という立場がある。
なので、彼女がどのような階級だったのか気になった。
「いいえ、城の支配者は私よ」
支配者、その意味をゆっくり反芻させてようやくルイズは青ざめる。

「じ、女王なの!?」
驚きのあまりルイズの声がひっくり返る。
「気にする必要はないよ」
アセルスにはジーナも白薔薇もいない今、針の城に戻る気は微塵もない。

「で、でも……」
「私が望んで君と契約しているんだ、文句は言わせない」
ルイズ自身は、あまりの衝撃にまともな思考ができない。

改めてアセルスの姿を良く見る。
ルイズは実家が公爵という立場上、王族との懇親会などに参加していた。
アンリエッタ王女と親友のように遊んでいたのはいい思い出だ。

話が逸れたので元に戻す。
故にルイズは目利きというほどでもないが、衣服や装飾品の材質程度なら見極める事はできた。

服はかなり上質な布地である上に装飾もきめ細かく、金や貴金属で彩られている。
平民どころか並大抵の貴族すら用意できる服ではない。
身に付けている装飾品も社交界で見た物に勝るとも劣らない。
妖魔が城を持つのは初耳だったが、堂に入る気品に満ちた態度は王族と言われても説得力はあった。

妖魔とはいえ、王族を呼び出してしまった。
自分が何らかの責任を負わされる可能性は非常に高い。
混乱した思考の中で思いついたのは、教師であるコルベールに話して対応を考えてもらう事。
ようやく見えてきた学院へ急いだ。

学院で早速コルベールを探すが見つからない。
教室に残っていた生徒に尋ねると、学院長の元へ向かったという。

気は進まないがアセルスが妖魔の君と名乗る支配者であることを隠せば、
後々面倒な事になるのは容易に理解できる。
ルイズは重い足取りでアセルスを連れて、学院長室に向かった。



──その頃、学院長室には二人の人影があった。

「ふむ……それでミス・ヴァリエールは妖魔と契約したと?ミスタ・コーンビーフ」
白い髭を蓄えた老人。
彼こそが学院長であるオールド・オスマンである。
100歳とも300歳とも言われるその威厳あふれる眼光がコルベールを射抜く。

コルベールです。といつもなら名前の間違いでも指摘するところだろうが、
それを許されないほどの室内に緊張が張りつめる。

やはり契約を止めれなかったのは失敗だったか。
契約前に怪我人を出したのもまずい。
強大な妖魔が現れた時点で、指示を仰ぐべきだったかもしれない。
そんな考えが脳裏をよぎる。

「ま、いいんじゃないかの」
帰ってきたのは、張りつめていた緊張感が穴の開いた風船のように萎む気楽な一言だった。

「が、学院長!」
思わず抗議の声を上げるが、オールド・オスマンはそれを片手で制す。

「契約を結べなかったならともかく、亜人を使い魔にした前例はある。
契約前に暴れた使い魔によって、怪我人が出たということも良くある事じゃ」
オールド・オスマンの言う事がもっともなのはコルベールも理解している。

「それは仰る通りですが、力を持つ妖魔が何の抵抗もなく契約を受け入れたというのが……」
「腑に落ちないと言う訳じゃな?」
コルベールが無言で頷く。

「しかしのう……契約を結んだ以上我々にはせいぜい監視するくらいしかできんよ」
ため息をついて、髭を擦る。

「それでも構いません」
「後は……ミス・ヴァリエールと使い魔から話を聞いてみるしかないのう」
今後の対応について話していると、ドアがノックされる。

「失礼します、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールです。
こちらにコルベール先生はいらっしゃるでしょうか?」
噂をすれば何とやら。
扉の前に現れたのはまさに今呼ぼうとしていた本人の声だった。

「うむ、入りたまえ」
オールド・オスマンに見えたのはドアを開けて一礼する桃色の髪をした少女と横に立つ緑髪の少女。
少女の姿をしているが、その姿にはどことなく威圧感を感じる。

「ミス・ヴァリエールと、貴女が呼び出されたという妖魔かね?ミス……」
「私はアセルス。
でもね、人に尋ねる前に自分で名乗るのが礼儀よ」
アセルスの物言いは不躾にも聞こえるが、ルイズは気にした様子はない。
気にする余裕がないと言うほうが正しいのだが。

「ほほっ、これは失礼を。
この学院を預からせてもらっておるオールド・オスマンと申す」
「あの、僭越ながら使い魔の件に関して、
話しておかなければならない事があるのですがよろしいでしょうか?」
ルイズがおずおずと手を挙げる。

「ふむ、何かね?」
ルイズは先ほど聞いたアセルスが妖魔の城主であることを説明する。

「妖魔の城とな……」
わずかに驚いた表情を浮かべるオールド・オスマン。
理由は妖魔の城のこともあるが、説明中にディテクト・マジックを密かに使ったためである。
魔力を探知する事で、オールド・オスマンはコルベールがなぜ警戒していたのかを察する。

(なるほど……炎蛇のカンが鈍っておった訳じゃなさそうじゃの)
外見では平静を装いながら、内心では冷や汗を流す。

「ミス・アセルス。
今こちらに理解できておるのは、お主が想像以上に力を持っているだろうと言う事じゃ」
学院長お墨付きとなる力を持った使い魔。
思わず歓喜の声を上げたくなるルイズだったが、同時に疑問が浮かぶ。

それほどまで強力な妖魔が、なぜ自分の使い魔となったのか?

「お主は力を持つ妖魔でありながら一切の抵抗なく、ミス・ヴァリエールの使い魔となったという。
そのことがこちらには不思議で仕方ない」

アセルスは自らの運命から人の警戒心や猜疑心などに人一倍敏感になっている。
彼らが警戒しているのは明白だ。
最もアセルス自身、ここで何か事を起こす気など微塵もない。

「使い魔の儀式はその人の求めるものが呼ばれると聞いたわ」
アセルスの言葉にオールド・オスマンは頷いて肯定する。

「彼女が私を求める声を聞いた、私はそれに答えただけ」
「つまり、彼女との契約は自ら望んだものだと言うことかね?」
アセルスは頷いて肯定する。

「うむ、ならばこちらも誠意でもって応対させてもらおう。ミス・ヴァリエール」
「はい」
畏まりながらも返事をする。

「聞いての通りじゃ。
彼女自ら使い魔となる事を望んでいる以上、問題あるまい」
その言葉を聴いて安堵する。

「だが、彼女は妖魔ながらも王族である。
お主も誇りある貴族として礼を逸することないようにするようにの」
「は、はい!分かりました。」
頭を下げて礼をするルイズの様子を見て、オールド・オスマンは満足そうに再び髭を擦る。

「うむ、それと彼女が王族であることは他言してはならん」
理由が分からないルイズはオールド・オスマンに尋ねる。

「無用な混乱を呼ぶから……ですか?」
「それもある、一番の問題は王宮のアカデミーじゃ。
彼らが城を持つ程の強大な妖魔がいると知れば、手段を問わず研究材料にしようとするじゃろ」
アカデミーという単語を聞いて、ルイズの表情が強張る。
オールド・オスマンの懸念が彼女にも理解できた。

アカデミーは国の研究機関だが、人道性を問わない研究方法からその評判は芳しくない。
まして城主の妖魔など前代未聞の話である。
アセルスから情報を聞き出すために、非道な手段も厭わないだろう。

ただ、そんな評判よりルイズには厳しい姉がアカデミーに勤めているという方が苦手意識が強い原因だが。

「ミス・アセルスも構わないかね?
妖魔であることは隠しようがないだろうが、あまり目立ってもらっても困るのじゃ」
「ええ」
アセルスにも研究施設に実験材料にされかけた過去がある。
その手の輩は彼女に取っても煩わしいものでしかない。

「うむ、ではもう下がってよいぞ」
退室した二人の少女を見届けたオスマンは水たばこを取り出し、一息つく。

「フゥ……ただ者ではないと思っていたが妖魔の君とはの」
「ただ城を率いる妖魔となると聞いたこともありません」
コルベールの言葉にオールド・オスマンも同意する。

エルフや翼人など優れた個体が同属を率いる例はあるものの、城ほど大人数を率いるということはない。
妖魔における一国一城の主ならば、どれほど強い力を秘めているかは容易に想像がついた。

「お主の報告では怪我人が出たとの事じゃが、先住魔法かの?」
「いや、それが口語もなかったので先住魔法かどうかも確証がありません」

つまり、彼女が妖魔だと言う事。
それも他の妖魔を率いるほどの強い力を持つ妖魔。
加えて先住魔法のようなものを使う。

「つまり、あの使い魔に関しては何もわからんのと同じじゃな」
何度目か分からないため息をつく。

「そういえば直接関係があるかわかりませんが、
彼女に刻まれたルーンはかなり珍しいものでした」
コルベールが懐からルーンを書き写したメモを取り出す。

「ふむ、確かに見たことのないルーンじゃ。
今は少しでも情報が欲しい。このルーンについて調べておいてくれ」
「はい、それと今後周辺で異変が起きた場合もただちに報告します」
「うむ」
コルベールが一礼して、学院室を立ち去る。

「まったく厄介な事になりそうじゃの……」
後はミス・ロングビルのスカートの中でも覗きながら考えよう。
気晴らしの方法を考えながら、オールド・オスマンは外を見る。
晴れていたはずの空には暗雲が立ち込めようとしていた。



「はぁ~~~疲れたぁ……」
部屋に戻ってきたルイズは着替えもせず、ベッドに倒れこんだ。
一時はどうなるかと思ったが、学院長に問題ないと言われた以上は大丈夫だろう。
張り詰めた緊張感からようやく開放される。

窓を見るとすでに夕日は沈んでいた。
気疲れもあり、このまま眠ってしまいたかった。

「もう寝るの?」
アセルスの声に顔を上げる。

「色々あって疲れたからもう眠りたいの……あ」
そこまで言って気がつく。
もともと使い魔の儀式は動物、幻獣を呼び出すのが通例である。
その為、ルイズが使い魔に用意していたものといえば床に敷かれた藁程度のみ。

「悪いけど、ベッドは一つしかないから一緒に寝る事になるわ」
妖魔と同じベッドで寝るというのは、正直望ましいものではない。
だが、彼女はサモン・サーヴァントで呼んだのである。
呼び出した使い魔を気味悪がるというのは、主人としても貴族としてもルイズの沽券に関わる事だった。

使い魔……その単語に先ほどと同じ疑問が脳裏をよぎる。
なぜ力を持つ妖魔でありながら、自分の使い魔となったのか?
もっとも疲れていたルイズはアセルスに尋ねる間もなく、意識を手放した。

「まるで子供ね」
ベッドに潜って一瞬で眠りに落ちた様子を見て、アセルスが呟く。
その表情は優しげな雰囲気に溢れていた。

自分を呼び出した少女であるルイズを見つめる。
愛らしい少女ではあるが、自分と似通っているところは思い当たらない。
なのに彼女に感じた懐旧の念は一体何なのか。

その正体を知る機会が宵闇と共に訪れる……


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