第十三話『二人の姫殿下』
ルイズは夢を見ていた。まだ小さい頃、トリステイン魔法学院に行く前の時の事だった。
「ルイズ、ルイズ、どこに行ったの?まだお説教は終わっていませんよ!」
ルイズは自分の実家である、ラ・ヴァリエールの屋敷の中庭を逃げ回っていた。
騒いでいるのは母、追ってくるのは召使である。
理由は簡単で、デキのいい姉達と魔法の成績を比べられ、物覚えが悪いと叱られていた最中逃げ出したからだ。
幸い、中庭には迷宮のような埋め込みの陰が多々ある。その中の一つに隠れてやり過ごそうとしたのだが……
「ルイズ、ルイズ、どこに行ったの?まだお説教は終わっていませんよ!」
ルイズは自分の実家である、ラ・ヴァリエールの屋敷の中庭を逃げ回っていた。
騒いでいるのは母、追ってくるのは召使である。
理由は簡単で、デキのいい姉達と魔法の成績を比べられ、物覚えが悪いと叱られていた最中逃げ出したからだ。
幸い、中庭には迷宮のような埋め込みの陰が多々ある。その中の一つに隠れてやり過ごそうとしたのだが……
「ルイズお嬢様は難儀だねえ…」
「まったくだ。上の二人のお嬢様はあんなに魔法がおできになるっていうのに……」
召使の会話を聞いて、ルイズは奥歯を噛み締める。それがどうしても悲しくて、悔しくて、落ちこぼれの自分に腹立てていた。と、召使達は埋め込みの中をがさごそと捜し始めた。ルイズはそれを見て再び逃げ出した。
「まったくだ。上の二人のお嬢様はあんなに魔法がおできになるっていうのに……」
召使の会話を聞いて、ルイズは奥歯を噛み締める。それがどうしても悲しくて、悔しくて、落ちこぼれの自分に腹立てていた。と、召使達は埋め込みの中をがさごそと捜し始めた。ルイズはそれを見て再び逃げ出した。
そう、彼女の唯一安心出来る場所、秘密の場所となる中庭の池へと向かう。
途中見つからないようにと、小さい体をさらに小さくして細心の注意をはらう。
あまり人が寄りつかない、うらぶれた中庭。池の周りには季節の花が咲き乱れ、小鳥が集う石のアーチとベンチがあった。池の真ん中には小さな島があり、そこには白い石で造られた東屋が建っている。
その小さな島のほとりに小船が一艘浮いていた。船遊びを楽しむ為の小船も、今は使われない。、最早この忘れられた中庭の島のほとりにある小船を気に留めるのはルイズ以外誰もいない。ルイズは叱られると毎回この中に隠れてやり過ごしていた。
予め用意してあった毛布に潜り込み、のんびり時間を過ごそうとしているとふと影がルイズにかかり一人のマントを羽織った立派な貴族が、ルイズの小さな視界に写りこむ。
年は大体十代後半、ルイズよりも十程年上の紳士的な美丈夫。
「泣いているのかい? ルイズ」
つばの広い帽子に顔が隠されても、ルイズは声でわかる。子爵だ。
最近、近所の領地を相続した年上の貴族。
途中見つからないようにと、小さい体をさらに小さくして細心の注意をはらう。
あまり人が寄りつかない、うらぶれた中庭。池の周りには季節の花が咲き乱れ、小鳥が集う石のアーチとベンチがあった。池の真ん中には小さな島があり、そこには白い石で造られた東屋が建っている。
その小さな島のほとりに小船が一艘浮いていた。船遊びを楽しむ為の小船も、今は使われない。、最早この忘れられた中庭の島のほとりにある小船を気に留めるのはルイズ以外誰もいない。ルイズは叱られると毎回この中に隠れてやり過ごしていた。
予め用意してあった毛布に潜り込み、のんびり時間を過ごそうとしているとふと影がルイズにかかり一人のマントを羽織った立派な貴族が、ルイズの小さな視界に写りこむ。
年は大体十代後半、ルイズよりも十程年上の紳士的な美丈夫。
「泣いているのかい? ルイズ」
つばの広い帽子に顔が隠されても、ルイズは声でわかる。子爵だ。
最近、近所の領地を相続した年上の貴族。
「子爵さま、いらしてたのですか?」
慌てて目の前にいる子爵から視線を外して赤くなった涙目を慌てて拭う。見られたくない自分の顔を憧れの人に見られてしまったので、
ルイズは顔を赤く染めた。
「今日はきみのお父上に呼ばれたのさ。あのお話の事でね」
「まぁ!いけない人ですわ。子爵さまは……」
ますます顔を赤くしてルイズは俯いてしまう、あの話とはルイズの父親が決めた子爵との婚約の話…
「ルイズ。ぼくの小さなルイズ。きみはぼくのことが嫌いかい?」
いつもと変わらぬ口調で子爵が言った。ルイズは首を横に振る
「いえ、そんなことはありませんわ。でも……わたし、まだ小さいし、よくわかりませんの。」
ルイズははにかんで言った。自分の素直な気持ちを理解してくれたのか、帽子の下の顔がにっこりと笑った。
「ミ・レィディ手を貸してあげよう。ほら、僕の手を取りたまえ。もうじき晩餐会が始まるよ」
普段のルイズから真っ先に掴むのだが、今回は躊躇われる。
「でも……」
「また怒られたんだね? 安心しなさい。ぼくからお父上にとりなしてあげよう」
さぁ、と再び手を差し延べてくる。大きな、憧れの手。
ルイズに断る余裕はない。頷いて立ち上がりその手を握ろうとした。
慌てて目の前にいる子爵から視線を外して赤くなった涙目を慌てて拭う。見られたくない自分の顔を憧れの人に見られてしまったので、
ルイズは顔を赤く染めた。
「今日はきみのお父上に呼ばれたのさ。あのお話の事でね」
「まぁ!いけない人ですわ。子爵さまは……」
ますます顔を赤くしてルイズは俯いてしまう、あの話とはルイズの父親が決めた子爵との婚約の話…
「ルイズ。ぼくの小さなルイズ。きみはぼくのことが嫌いかい?」
いつもと変わらぬ口調で子爵が言った。ルイズは首を横に振る
「いえ、そんなことはありませんわ。でも……わたし、まだ小さいし、よくわかりませんの。」
ルイズははにかんで言った。自分の素直な気持ちを理解してくれたのか、帽子の下の顔がにっこりと笑った。
「ミ・レィディ手を貸してあげよう。ほら、僕の手を取りたまえ。もうじき晩餐会が始まるよ」
普段のルイズから真っ先に掴むのだが、今回は躊躇われる。
「でも……」
「また怒られたんだね? 安心しなさい。ぼくからお父上にとりなしてあげよう」
さぁ、と再び手を差し延べてくる。大きな、憧れの手。
ルイズに断る余裕はない。頷いて立ち上がりその手を握ろうとした。
その時、突然何者かが視界の外から勢いよく飛び込んでくると子爵を小舟の上から池の中へと蹴り落とした。
「ミント!!あんた何て事を!!」
思わずルイズは子爵を蹴り飛ばした人物の名を叫ぶ。いつの間にか気づけばルイズは元の16歳の姿に戻っており、
子爵の姿は湖の底に完全に消えてしまっていた。
そしてミントはこれまたいつの間にか現れていた長く続く回廊、その先の果てに輝く黄金のリングに包まれ浮遊する虹色のクリスタルを今はただじっと見つめている。
「ミント!!あんた何て事を!!」
思わずルイズは子爵を蹴り飛ばした人物の名を叫ぶ。いつの間にか気づけばルイズは元の16歳の姿に戻っており、
子爵の姿は湖の底に完全に消えてしまっていた。
そしてミントはこれまたいつの間にか現れていた長く続く回廊、その先の果てに輝く黄金のリングに包まれ浮遊する虹色のクリスタルを今はただじっと見つめている。
「………」
しばらくそうしていたと思えば無言のままミントはその奇妙なオブジェに向かって走り出した。
「あっ…待ちなさいよ!!」
思わずルイズはミントを追いかけその背に手を伸ばす。するとミントは立ち止まって振り返るとやはり何も言わずルイズの手をただ強く握った。
そして再びミントが走り出す、今度はルイズを連れて…
しばらくそうしていたと思えば無言のままミントはその奇妙なオブジェに向かって走り出した。
「あっ…待ちなさいよ!!」
思わずルイズはミントを追いかけその背に手を伸ばす。するとミントは立ち止まって振り返るとやはり何も言わずルイズの手をただ強く握った。
そして再びミントが走り出す、今度はルイズを連れて…
走り続ける内にいつの間にかルイズは夢の中ミントの手を振り解き、その隣をがむしゃらに走り続けていた。
せめて足を引っ張らぬ様に…
せめて置いていかれぬ様に…
せめて置いていかれぬ様に…
そしていつか追い抜ける様に…と……
ルイズ達がフーケを捕らえてから数日が経ったとある日。
その日執り行われた授業の担当教師は疾風のギトー、いつも黒を基調とした服装を身に纏って毎度毎度授業の度に自らの属性である『風』がいかに最強であるかを嫌みったらしくこんこんと説明してばかりの生徒達の人気が非常に低い教師である。
ルイズ達がフーケを捕らえてから数日が経ったとある日。
その日執り行われた授業の担当教師は疾風のギトー、いつも黒を基調とした服装を身に纏って毎度毎度授業の度に自らの属性である『風』がいかに最強であるかを嫌みったらしくこんこんと説明してばかりの生徒達の人気が非常に低い教師である。
そして今日の授業でもいつもの様にギトーの風最強説の講義は行われていた。
「では質問だミス・ツェルプストー最強の系統とは何かね?」
このクラスで最もランクの高いメイジであるキュルケを挑発する様にギトーはキュルケに問う。尚タバサは風と水のメイジなのでギトーの嫌味の対象外である。
「虚無ではありませんの?」
対してキュルケは爪を磨きながらつまらなそうにギトーの質問に答えた。
「今は系統魔法の話をしているのだ。虚無などという伝説は今は関係ない。」
そう言って鼻で笑ったギトーにキュルケは不快感を覚える。
「では、火だと思いますわ。火はあらゆるものを燃やす、破壊と情熱の象徴、まさに最強に相応しい力。」
「ふむ、成る程、君らしい意見だ。ではそれを実践して見せてくれたまえ。君の最も得意な火の魔法、それが風に果たして通用するのかを…ね。」
ギトーのその言葉に教室中に緊張が走る。既にキュルケに火がついてしまっている事は明らかだ。
「ミスタ、火傷ではすみません事よ?」
胸の谷間からキュルケの杖がスラリと抜き放たれ、真っ直ぐにギトーに向けられる。
杖の先で小さな火が灯ったと思えばキュルケの詠唱に合わせて火は爆発的に大きくなり、1メイルを超えた辺りでついにギトーに向かって放たれた…
「フレイムボール!!」
火球は教室中に凄まじい熱風を生み出しながらギトーへと真っ直ぐに飛翔していく。
しかしギトーの目の前まで火球が迫った時ギトーは短く呪文を唱えて杖を薙ぐ様に振った。
ギトーが生み出した風はキュルケの放ったフレイムボールを粉砕し、風の衝撃がキュルケを襲いその身体を教室の壁に強かに打ち付ける。
すんでの所でタバサが空気のクッションを生み出した為キュルケには怪我一つ無いが、プライドを傷付けられたキュルケは忌々しそうにギトーを睨む。
ギトーはその様を満足げに確認してから、視線を教室全体へ移す。
「諸君。ご覧のとおりだ。強大な破壊力を秘めた火の魔法でも、私が操る風の前にはその力が及ばなかった事を覚えて置いていただきたい。風こそが最強、今日は特別にその所以たる魔法を今ここで御覧に入れるとしよう…ユビキタス・…」
このクラスで最もランクの高いメイジであるキュルケを挑発する様にギトーはキュルケに問う。尚タバサは風と水のメイジなのでギトーの嫌味の対象外である。
「虚無ではありませんの?」
対してキュルケは爪を磨きながらつまらなそうにギトーの質問に答えた。
「今は系統魔法の話をしているのだ。虚無などという伝説は今は関係ない。」
そう言って鼻で笑ったギトーにキュルケは不快感を覚える。
「では、火だと思いますわ。火はあらゆるものを燃やす、破壊と情熱の象徴、まさに最強に相応しい力。」
「ふむ、成る程、君らしい意見だ。ではそれを実践して見せてくれたまえ。君の最も得意な火の魔法、それが風に果たして通用するのかを…ね。」
ギトーのその言葉に教室中に緊張が走る。既にキュルケに火がついてしまっている事は明らかだ。
「ミスタ、火傷ではすみません事よ?」
胸の谷間からキュルケの杖がスラリと抜き放たれ、真っ直ぐにギトーに向けられる。
杖の先で小さな火が灯ったと思えばキュルケの詠唱に合わせて火は爆発的に大きくなり、1メイルを超えた辺りでついにギトーに向かって放たれた…
「フレイムボール!!」
火球は教室中に凄まじい熱風を生み出しながらギトーへと真っ直ぐに飛翔していく。
しかしギトーの目の前まで火球が迫った時ギトーは短く呪文を唱えて杖を薙ぐ様に振った。
ギトーが生み出した風はキュルケの放ったフレイムボールを粉砕し、風の衝撃がキュルケを襲いその身体を教室の壁に強かに打ち付ける。
すんでの所でタバサが空気のクッションを生み出した為キュルケには怪我一つ無いが、プライドを傷付けられたキュルケは忌々しそうにギトーを睨む。
ギトーはその様を満足げに確認してから、視線を教室全体へ移す。
「諸君。ご覧のとおりだ。強大な破壊力を秘めた火の魔法でも、私が操る風の前にはその力が及ばなかった事を覚えて置いていただきたい。風こそが最強、今日は特別にその所以たる魔法を今ここで御覧に入れるとしよう…ユビキタス・…」
しかしルーンが完成しようとした瞬間、教室の扉が勢いよく開かれ一人の教師が飛び込んできた。
「皆さん、授業は中止です直ぐに正装して正門前に集合です。」
「どういう事ですかな?ミスタ・コルベール、それにその恰好は…」
ギトーは授業の妨害に明らかに不機嫌な様子でコルベールに教室の全員の疑問を代表して訪ねた。
コルベールの服装が今日は何故か普段とは大きくかけ離れている。普段のそれよりも上質のローブを纏い、それの襟には細やかなレースが付いている。
何よりも目を引くのは、 ファンシーメル並の立派な金髪ロールの鬘だ。普段の彼を知るものから見れば冗談にしか見えないようなゴージャスなロールヘアである。
「アンリエッタ王女殿下がゲルマニアの訪問のお帰りに我が魔法学園を訪問されるそうです!!各方杖を磨き、直ぐにお出迎えの用意をしなくてはなりませんぞ!」
「皆さん、授業は中止です直ぐに正装して正門前に集合です。」
「どういう事ですかな?ミスタ・コルベール、それにその恰好は…」
ギトーは授業の妨害に明らかに不機嫌な様子でコルベールに教室の全員の疑問を代表して訪ねた。
コルベールの服装が今日は何故か普段とは大きくかけ離れている。普段のそれよりも上質のローブを纏い、それの襟には細やかなレースが付いている。
何よりも目を引くのは、 ファンシーメル並の立派な金髪ロールの鬘だ。普段の彼を知るものから見れば冗談にしか見えないようなゴージャスなロールヘアである。
「アンリエッタ王女殿下がゲルマニアの訪問のお帰りに我が魔法学園を訪問されるそうです!!各方杖を磨き、直ぐにお出迎えの用意をしなくてはなりませんぞ!」
(どうしよう……)
ルイズはコルベールからアンリエッタの来校の話を聞いて全身から血の気が引くのを感じた…
ルイズはコルベールからアンリエッタの来校の話を聞いて全身から血の気が引くのを感じた…
「うぅ…世界…むにゃ…征…服…」
今一応使い魔のミントは自分の隣の席で授業そっちのけで物騒な寝言を呟きながら昼寝をしているが彼女の立場は正真正銘の王女である。
そんな人物を双方の同意の下とはいえ使い魔にしているのがアンリエッタにばれたら不味い。
もしかしたらルイズには王族への敬意や忠誠が無いものと判断されるやもしれない。それは人一倍アンリエッタを敬愛するルイズにとっては耐えられぬ事だ…
今一応使い魔のミントは自分の隣の席で授業そっちのけで物騒な寝言を呟きながら昼寝をしているが彼女の立場は正真正銘の王女である。
そんな人物を双方の同意の下とはいえ使い魔にしているのがアンリエッタにばれたら不味い。
もしかしたらルイズには王族への敬意や忠誠が無いものと判断されるやもしれない。それは人一倍アンリエッタを敬愛するルイズにとっては耐えられぬ事だ…
アンリエッタのお出迎えパレードが正門付近で催される中、ミントはキュルケとタバサと共に離れた高台から興味なさ気にその様子を見ていた。
その生徒達が整列して作っている花道を如何にも王女らしい余所行きの白いドレスを纏った美少女が臣下達を引き連れてそこを歩く。
「あれがトリステインのお姫様か…大した事無いわね、あたしの方が絶対可愛いわ。」
「………それ、私の台詞なんだけど。…まぁいいわ。」
ミントは勝手に勝ち誇った様子で髪を掻き上げるとルイズがどこに居るのかと生徒達の花道を見渡す。
「おっ、居た居た。って…ん?」
ルイズはそんな生徒達の花道の最前列に並んでいたがその瞳はアンリエッタでは無く、その護衛についたグリフォンに跨がる一人の魔法衛士隊のメイジを映していた。
「ほほぅ、成る程ねぇ…」
「何々、どうしたの?…へぇ~…」
そのルイズの様子を遠目に見ながら何かを察してミントとキュルケははニヤリと口元を意地悪く歪めた。
その生徒達が整列して作っている花道を如何にも王女らしい余所行きの白いドレスを纏った美少女が臣下達を引き連れてそこを歩く。
「あれがトリステインのお姫様か…大した事無いわね、あたしの方が絶対可愛いわ。」
「………それ、私の台詞なんだけど。…まぁいいわ。」
ミントは勝手に勝ち誇った様子で髪を掻き上げるとルイズがどこに居るのかと生徒達の花道を見渡す。
「おっ、居た居た。って…ん?」
ルイズはそんな生徒達の花道の最前列に並んでいたがその瞳はアンリエッタでは無く、その護衛についたグリフォンに跨がる一人の魔法衛士隊のメイジを映していた。
「ほほぅ、成る程ねぇ…」
「何々、どうしたの?…へぇ~…」
そのルイズの様子を遠目に見ながら何かを察してミントとキュルケははニヤリと口元を意地悪く歪めた。
___ルイズの部屋
その夜、部屋に戻ったルイズは心ここにあらずといった様子でベッドのに座り込むと溜息を漏らしながらぼんやりとしていた。
「なぁ相棒、嬢ちゃんは一体どうなっちまったんだ?さっきから様子が変だぜ。」
テーブルに立て掛けられたデルフリンガーがカタカタと鍔を鳴らす。まるでミントに己の存在を必死に主張するように…
「さぁね~。」
大してデルフリンガーに構う事も無くミントがニヤニヤとルイズを見つめて笑っているとルイズの部屋のドアが規則正しく叩かれる。初めに長く二回、それから短く三回……
「なぁ相棒、嬢ちゃんは一体どうなっちまったんだ?さっきから様子が変だぜ。」
テーブルに立て掛けられたデルフリンガーがカタカタと鍔を鳴らす。まるでミントに己の存在を必死に主張するように…
「さぁね~。」
大してデルフリンガーに構う事も無くミントがニヤニヤとルイズを見つめて笑っているとルイズの部屋のドアが規則正しく叩かれる。初めに長く二回、それから短く三回……
「ん?ルイズ、お客さんよ。」
その音にはっとルイズが反応し急い小走りで扉へ向かうと、ドアを開いた。
そこに立っていたのは、先端に水晶のついた杖を胸元に握りしめた真っ黒なローブの頭巾をすっぽりと被った少女であった。
少女はキョロキョロと辺りを伺い、部屋の外に誰もいない事を確認した後、ささっと部屋に入り、扉を閉める。
ルイズが声を出す前に、少女がしっと口元に指を立て、それから胸元の杖を軽く振りながら、ルーンを呟くと杖の先から光の粉が、部屋に漂う。
「……ディティクトマジック?」
「どこに耳が、目が光っているかわかりませんからね」
ルイズの部屋に魔法の類いの影響が無いのを確認してようやく少女はローブのフードを外してルイズとミントへその顔をさらした。
「あれ?あんた…」
「姫殿下!」
ルイズはノックの仕方で半ば確信していたが驚きの声を上げ、急いで膝をつく。勿論ミントはそれに倣ったりはしない。
「お久しぶりね、ルイズ・フランソワーズ。」
そう言って嬉しそうに微笑むとアンリエッタはルイズへと駆け寄りその身体を熱く抱擁した。
ルイズは慌ててアンリエッタの身体を優しく引きはがすと再び家臣の礼をとり恭しく頭を垂れる。
「いけません姫様、この様な場所にお一人で…」
「いや…この様な場所って一応あたしもここ住んでんだけど?」
ミントが呆れたように小さく呟くがどうやら既に二人はお互いの世界に入っている様で聞こえてはいないようだった。
「やめてルイズ、私達はお友達じゃない!ここには枢機卿も母上もあの友達面をして寄ってくる欲の皮の突っ張った宮廷貴族たちもいないのですよ!
ああ、もうわたくしには心を許せるお友達はいないのかしら。
昔馴染みの懐かしいルイズ・フランソワーズ、貴女にまで、そんなよそよそしい態度を取られたら、わたくし死んでしまうわ!」
「姫殿下…」
顔を両手で押さえ頭を振るうアンリエッタの様子にやっとルイズは顔を上げた。そこからは二人の幼馴染の懐かしい昔話が続いた。
それはルイズとアンリエッタが幼馴染で、幼いころ、遊んだり取っ組み合いの喧嘩をした、という様な極普通の子供の思い出話だった。
その音にはっとルイズが反応し急い小走りで扉へ向かうと、ドアを開いた。
そこに立っていたのは、先端に水晶のついた杖を胸元に握りしめた真っ黒なローブの頭巾をすっぽりと被った少女であった。
少女はキョロキョロと辺りを伺い、部屋の外に誰もいない事を確認した後、ささっと部屋に入り、扉を閉める。
ルイズが声を出す前に、少女がしっと口元に指を立て、それから胸元の杖を軽く振りながら、ルーンを呟くと杖の先から光の粉が、部屋に漂う。
「……ディティクトマジック?」
「どこに耳が、目が光っているかわかりませんからね」
ルイズの部屋に魔法の類いの影響が無いのを確認してようやく少女はローブのフードを外してルイズとミントへその顔をさらした。
「あれ?あんた…」
「姫殿下!」
ルイズはノックの仕方で半ば確信していたが驚きの声を上げ、急いで膝をつく。勿論ミントはそれに倣ったりはしない。
「お久しぶりね、ルイズ・フランソワーズ。」
そう言って嬉しそうに微笑むとアンリエッタはルイズへと駆け寄りその身体を熱く抱擁した。
ルイズは慌ててアンリエッタの身体を優しく引きはがすと再び家臣の礼をとり恭しく頭を垂れる。
「いけません姫様、この様な場所にお一人で…」
「いや…この様な場所って一応あたしもここ住んでんだけど?」
ミントが呆れたように小さく呟くがどうやら既に二人はお互いの世界に入っている様で聞こえてはいないようだった。
「やめてルイズ、私達はお友達じゃない!ここには枢機卿も母上もあの友達面をして寄ってくる欲の皮の突っ張った宮廷貴族たちもいないのですよ!
ああ、もうわたくしには心を許せるお友達はいないのかしら。
昔馴染みの懐かしいルイズ・フランソワーズ、貴女にまで、そんなよそよそしい態度を取られたら、わたくし死んでしまうわ!」
「姫殿下…」
顔を両手で押さえ頭を振るうアンリエッタの様子にやっとルイズは顔を上げた。そこからは二人の幼馴染の懐かしい昔話が続いた。
それはルイズとアンリエッタが幼馴染で、幼いころ、遊んだり取っ組み合いの喧嘩をした、という様な極普通の子供の思い出話だった。
ぶっちゃけてそんな他人の思い出話等に興味の無いミントはルイズのベッドに腰掛けて半ば冷めた様子で二人のやり取りを眺め…
(王女ね~こんな娘が国を支配出来てるとは思えないけど…フフフ、良い機会だわ。ルイズをダシに近づいて王家の秘宝や情報をゲットする為に精々利用させて貰おうじゃ無い!!)
等と邪な考えを抱いていた。
(王女ね~こんな娘が国を支配出来てるとは思えないけど…フフフ、良い機会だわ。ルイズをダシに近づいて王家の秘宝や情報をゲットする為に精々利用させて貰おうじゃ無い!!)
等と邪な考えを抱いていた。
「結婚するのよ…わたくし……」
先程まで嬉しそうに明るく話していたアンリエッタの声のトーンが暗いものへと変わる…
「それは…おめでとうございます。」
それは暗にこの結婚話が望まぬ政略結婚だと訴えている…それをルイズも察してその祝福の言葉は残念ながら心からのものとは到底言えるものでは無かった。
先程まで嬉しそうに明るく話していたアンリエッタの声のトーンが暗いものへと変わる…
「それは…おめでとうございます。」
それは暗にこの結婚話が望まぬ政略結婚だと訴えている…それをルイズも察してその祝福の言葉は残念ながら心からのものとは到底言えるものでは無かった。
「所で…」
ここでようやくアンリエッタはルイズの後ろで退屈そうにゴロゴロしていたミントの存在に触れる。
「あちらの女性は学園のあなたの友人なのかしら?」
そうルイズに訪ね首を傾げたアンリエッタにルイズは自分がした昼間の最悪の想定が現実味を帯びた事に明らかに顔を青くした。
「あ、あの…姫様あいつはですね……」
「あたしはルイズの使い魔のミント様よ。よろしくアンリエッタ。」
どもるルイズに構う事無くミントは友好的な態度で立ち上がりアンリエッタに手を振ってみせる。
ここでようやくアンリエッタはルイズの後ろで退屈そうにゴロゴロしていたミントの存在に触れる。
「あちらの女性は学園のあなたの友人なのかしら?」
そうルイズに訪ね首を傾げたアンリエッタにルイズは自分がした昼間の最悪の想定が現実味を帯びた事に明らかに顔を青くした。
「あ、あの…姫様あいつはですね……」
「あたしはルイズの使い魔のミント様よ。よろしくアンリエッタ。」
どもるルイズに構う事無くミントは友好的な態度で立ち上がりアンリエッタに手を振ってみせる。
姫として体験した事の無い余りに砕けたその挨拶にアンリエッタは戸惑い、ルイズは頭を抱えて大きく溜息を漏らした。
「ミント、あなた少しは姫様へ礼儀を…お願いだから。」
ルイズは無駄と解りながらも言ってばつの悪そうな表情でがっくりと肩を落とす。
「別に良いじゃ無いルイズ、そんな事言ったらあんただってあたしに対してもっと礼儀を弁えなさいよ。」
「ぐぬぬ…」
ルイズとミントのやり取りにアンリエッタはついて行けず置いてけぼりになったままである。
そもそもルイズはミントに対して明らかに気を遣っている様子だし、ミントは自分が王女である事を認識した上でさっきの様な砕けた接し方をしてきた。アンリエッタにはいまいち自らを使い魔だと言ったミントの人物像を掴みかねていた。
「ミント、あなた少しは姫様へ礼儀を…お願いだから。」
ルイズは無駄と解りながらも言ってばつの悪そうな表情でがっくりと肩を落とす。
「別に良いじゃ無いルイズ、そんな事言ったらあんただってあたしに対してもっと礼儀を弁えなさいよ。」
「ぐぬぬ…」
ルイズとミントのやり取りにアンリエッタはついて行けず置いてけぼりになったままである。
そもそもルイズはミントに対して明らかに気を遣っている様子だし、ミントは自分が王女である事を認識した上でさっきの様な砕けた接し方をしてきた。アンリエッタにはいまいち自らを使い魔だと言ったミントの人物像を掴みかねていた。
「姫様、ミントの無礼をどうかお許し下さい。罰ならばわたくしに!!」
ルイズの真っ直ぐな視線にアンリエッタはさらに困惑する。
「どういう事なのルイズ・フランソワーズ彼女はあなたの使い魔なのでしょう?」
「はい、ミントは確かに私が春の使い魔召喚の儀式で呼び出した使い魔なのですが…」
ルイズは伏し目がちに観念し、アンリエッタにミントの事を説明する事にした。
「ミントはこことは違う異世界の魔法国家である東天王国の第一王女…位で言えばその…アンリエッタ姫殿下と同等の地位なのです。で、ですが現在私の使い魔で居るのはミントの意思で…痛っ!!」
そこまで言った所でルイズの脳天をデルフリンガーの鞘が軽く叩き、ルイズはあまりの衝撃にアンリエッタの前にも関わらず頭を押さえて床を転がりのたうち回る。
「言い訳してんじゃ無いわよ。まぁそんな訳でよろしくアンリエッタ。」
余程驚いたのか口を開いたまま唖然としているアンリエッタを見下ろしてルイズに振り下ろしたデルフリンガーを肩に担ぎ直しミントはニヤリと笑った。
「ミントォッ!!」
ルイズの真っ直ぐな視線にアンリエッタはさらに困惑する。
「どういう事なのルイズ・フランソワーズ彼女はあなたの使い魔なのでしょう?」
「はい、ミントは確かに私が春の使い魔召喚の儀式で呼び出した使い魔なのですが…」
ルイズは伏し目がちに観念し、アンリエッタにミントの事を説明する事にした。
「ミントはこことは違う異世界の魔法国家である東天王国の第一王女…位で言えばその…アンリエッタ姫殿下と同等の地位なのです。で、ですが現在私の使い魔で居るのはミントの意思で…痛っ!!」
そこまで言った所でルイズの脳天をデルフリンガーの鞘が軽く叩き、ルイズはあまりの衝撃にアンリエッタの前にも関わらず頭を押さえて床を転がりのたうち回る。
「言い訳してんじゃ無いわよ。まぁそんな訳でよろしくアンリエッタ。」
余程驚いたのか口を開いたまま唖然としているアンリエッタを見下ろしてルイズに振り下ろしたデルフリンガーを肩に担ぎ直しミントはニヤリと笑った。
「ミントォッ!!」
「本当に驚かされましたわ、ご迷惑をお掛けしますミント殿下。ルイズ・フランソワーズ、貴女って昔からどこか変わっていたけれど、相変わらずなのね。」
「お恥ずかしいですわ…」
ミントとルイズの些細な口論が終わりミントとの友好を深めたアンリエッタがクスクスと笑う。が、そこで再びアンリエッタは気落ちした様に憂鬱げな表情を浮かべた。
「お恥ずかしいですわ…」
ミントとルイズの些細な口論が終わりミントとの友好を深めたアンリエッタがクスクスと笑う。が、そこで再びアンリエッタは気落ちした様に憂鬱げな表情を浮かべた。
そう、ここからがこのお姫様の本題なのだ…