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Mission 21 <伝説の魔剣士、降臨> 後編



上級悪魔の生命力は、人間はおろかそこらの幻獣や巨大な竜を遥かに凌ぐ。
故にちょっとやそっとの傷はすぐに癒えてしまうし、心臓を貫かれたり脳天を撃ち抜かれたり、人間なら致死量の血を流しても死ぬことはない。
もっとも、痛みはそこそこ感じるのだが。
己の四肢を四つの槍で串刺しにして縫われ、腹を巨大な槍に、そして心臓を愛剣が豪快に貫いている状況の中、スパーダは深く溜め息を吐いた。
そして、心底不快感を露にしながら横目で左手を睨みつける。
このルーンは実に邪魔な存在だ。もはや奴隷を服従させるための枷にも等しい。
常日頃から自分を洗脳しようとしつこく力を働きかけてくるので集中力が削がれる上、戦闘になればルーンが勝手に自分の体を動かそうとするので、スパーダ自身が慣れた動きで剣を振るうことができない。
ガンダールヴのルーンはあらゆる武器を自在に扱いこなす力を与えるとされるそうだが、はっきり言ってスパーダには不要な代物だ。
自分にはこれ以上、余計な力は必要ない。スパーダにはスパーダで、自分に合った力があるのだから。

だが、このルーンを消し去ってしまうとルイズに迷惑がかかるようなのでそれはできない。
……とにかく、今はこのルーンの影響が及ばないようにする必要がある。

さすがのガンダールヴのルーンも、全盛期よりは衰えたとはいえスパーダが力を解放すれば制御することもできなくなるはずだ。
(貴様の奴隷などではないことを思い知らせてやる)
スパーダは全ての意識を集中させ、己の奥底で眠らせている力を解放し始めた。

それは久しぶりとなる、全力の発揮だ。普段は人間としての活動に支障を来たすために自ら封印しているのである。
全盛期ほどの力があれば、人間はおろか何万もの悪魔の軍勢でさえも剣の一振りで薙ぎ倒すことだろう。

純粋な、悪魔の力――。

それを自らを縛りつけるルーンに、そして悪魔の心を持つあの男に思い知らせてやる。


(な、何?)
全てを諦め、絶望し、放心していたはずだったルイズはその重く砕け散る音で我へと返った。
気付くとキュルケもタバサもギーシュもウェールズもロングビルも、そしてワルドでさえも始祖像に縫い付けられているスパーダを見上げていた。
亜人と化しているワルド以外の全員が愕然とした表情を浮かべていた。特にあのキュルケは恐怖に顔を歪ませ、目を見開いている。
見ればスパーダを縫い付けていたはずだったワルドの武器は全て跡形も無く消えており、胸を貫くリベリオンだけとなっていた。
そして、スパーダの全身からは何やら禍々しい赤いオーラが煙のように湧き出ている。

スパーダに一体、何が起きているのだ。

ルイズが困惑する中、スパーダの胸を貫いていたリベリオンが突如、勝手に抜け出した。その拍子にスパーダの血が一気に噴き出す。
抜け出したリベリオンは落ちていくスパーダと共に落下し、床に突き立てられた。
静かに着地したスパーダの髪はいつの間にかオールバックから前髪を額に垂らしたものになっている。
「い、生きている……?」
あれだけの致命傷を負い、血を流したのにも関わらずスパーダは死んでいない。
本来ならばスパーダが生きていたことに喜ぶべきであろうが、そのあり得ない光景に喜ぶことはできず、逆に恐怖を感じていた。

全身から未だ赤いオーラが生じる中、スパーダは突き立てられたリベリオンを引き抜き、手にしだす。
『は、はは……ま、まさか……相棒が……〝ヴァリヤーグ〟だったってのか……?』
アンジェロ・ワルドを貫いている赤い剣から、恐怖に震えたデルフが蚊の鳴くようなの声で呟く。
スパーダが人間でないことはあの武器屋で触れられた時にも分かっていた。
だが、どうにも懐かしく、同時に思い出したくない何かをスパーダから感じてもいたのだが今まではそれが分からなかった。
それが今、確信へと変わった。そして、六千年という時の彼方の記憶に封じられていたものが次々と蘇った。
かつて始祖ブリミルとその使い魔達が恐れた、あの忌まわしい化け物だった……。

『き、貴様……何故だ……! 何故、死なんのだ……!?』
ワルドもあれだけの致命傷を負わせたにも関わらず生きているスパーダに愕然としていた。
だが、スパーダはその問いに答えない。手にするリベリオンを無造作に垂らしたまま立ち尽くしている。
異常な事態に困惑するワルドだが、すぐにある結論へと思い至っていた。
『まさか……貴様も〝帰天〟しているのか!?』
レコン・キスタとの盟約によって手に入れた、人の身を超える存在へと生まれ変わるという秘術。
その力でワルドもこうして人を超えた力を手に入れることができたのだ。
その秘術をこの男も行っているからに違いない。それならばこれほどの生命力も考えがつく。

「ひっ……」
スパーダがゆっくりと顔を上げ、こちらを振り向いた時、ルイズは底知れぬ恐怖に力なく尻餅をついていた。
「ス、パー……ダ……?」
恐怖に怯えて震えた声が漏れ出す。
その表情は今まで見てきたものとはあまりにもかけ離れていた。
無表情ではあるが……それは氷のように冷たく、研ぎ澄まされた刃のように鋭い、恐ろしい雰囲気を纏っている。
全てを威圧し、押し潰さんとする冷酷な表情……。
この表情にルイズは見覚えがあった。
それは確か、夢で現れたスパーダが浮かべていたもの。
この世のものと思えぬ化け物達を斬り伏せても全く変わることがなかった、あの悪魔の表情と同じであった。


『……ハハハッ! そうか! これは面白い! 同じ天使の力を得た者同士、存分に――』
タネが分かったと思い込んでいたワルドの思考に余裕が戻り、腹を貫く剣を抜き捨てて笑いを上げていたその時だった。
スパーダの姿が忽然と消えた途端、突如自分の目の前へと迫っていた。
リベリオンを手にする手を後ろに引き――。
『グハッ!』
空を切る音を響かせ、赤い閃光が走った。
突き出されたリベリオンはワルドの腹を豪快に貫いていた。盾で防御することも、レイピアで切り結ぶ暇もなかった。
腹から大量の血が噴き出し、口からも血を吐き出す中、スパーダは右手だけでリベリオンを豪快に振り回し、
ワルドの体を先ほどまで自分が縫い付けられていた半壊している始祖像目掛けて放り飛ばす。
『お、おのれ……!』
叩きつけられる寸前に翼を広げ受け身を取ると、舞い散る銀の羽を無数の投げ槍へと変え、次々とスパーダ目掛けて飛ばしていく。
だが、スパーダはワルドを睨みつけたままその場から微動だにしない。
彼の周囲に澄んだ音を鳴らしつつ次々と現れた幻影剣が射出されていき、ワルドの放った投げ槍を撃ち落していく。
『我が天使の力が! 貴様に劣るはずがない!!』
叫ぶワルドがレイピアを振り上げるとその全身が一瞬、ぼんやりと歪みだす。
まるで蜃気楼のように朧げであったワルドはすぐに先ほどと同じように分裂するように数を増やし、五人となっていた。
天使の力を得たことで普段よりも増強された魔力は、スクウェアクラスの魔法を唱えてもラインクラスの魔法を唱えた時程度しか精神力を消耗しない。
故にこれだけ乱発をしてもまだまだ精神力に余裕がある。
天使の力を得た自分が、人を超えた自分が、負けるはずがないのだ。たとえ自分と同じく天使の力を奴が得ていようと。
『死ねぃ! ガンダールヴ!!』
本体のワルドが叫ぶと同時に散開し、多方向からスパーダを取り囲んだ五人のワルド達がブレイドの魔法をかけたレイピアで斬りかかる。
スパーダは本体のワルドから視線を外さぬまま、リベリオンを無造作に垂らしていた。
見るからに隙だらけだ。これだけの一斉攻撃をかわすことも、弾くこともできやしないはずだ。
『……!!』
突如、荒れ狂う嵐のような衝撃がワルドの全身に襲い掛かった。
エア・ハンマーのような真空の槌で打たれたのとはまるで違う、上手く表現できないほどに強力な衝撃で打たれたワルドの体は人形のように軽々と吹き飛ばされた。
しかも、偏在による分身達はその衝撃を喰らっただけで跡形もなく消滅してしまう。
スパーダはいつの間にか、垂らしていたはずのリベリオンを反対の肩に向けて袈裟に振り上げていた……。
『グギャア!』
さらに、スパーダから次々と放たれた幻影剣が容赦なく空中で受身を取れないワルドの全身と翼を貫いていた。
『……兄ちゃんよ。相棒は、天使なんかじゃあねえぜ……』
己を貫く幻影剣から一斉にデルフの声が響きだす。
ワルドの全身は深く傷つけられ、さらに右の翼が一列に刺し貫く幻影剣によって引きちぎられていた。
矢で撃ち落された鳥のように床にぼとりと墜落していくワルドだが、スパーダの容赦ない追撃は終わらない。
赤いオーラを纏ったリベリオンを振り下ろして巨大な衝撃波を放ってきたのだ。
死の恐怖に怯えたワルドは慌てて左腕の盾を構え、衝撃波を受け止める。
先ほどの一振りで放たれた衝撃以上に強力なだった。そのあまりに強すぎる力に盾が耐えられず、砕け散ってしまう。
それでも助かったことに一瞬、安堵したワルドだったが、すぐに更なる衝撃と恐怖を味わうことになる。


『グアアアアアアッ!!』
気付けば背後に回っていたスパーダがリベリオンを振り下ろし、ワルドの左腕を肩もろとも一刀両断にしていたのだ。
いかに天使の力を得たとはいえ、これほどまの傷に痛みを感じないわけがない。
『腕が……腕がああああっ!』
耐え難い激痛に絶叫を上げ、悶絶するワルド。
床に着く寸前、スパーダはワルドの体を床に突き飛ばしていた。
『ひっ……』
左腕を失い、無様に床に転がるワルドはすぐに体を起こすと、スパーダがリベリオンを手にゆっくりと迫ってくる。
『ライトニング・クラウド! エア・カッター!』
迫ってくるスパーダにレイピアを向け、必死に次々と魔法を放つ。
スパーダはその攻撃を避けもせずに堂々と体で受け止め物ともせずに歩いてくる。まるで効いている様子がない。
多少は傷つきはしたが、すぐにその傷が絵の具で塗り潰すかのごとく塞がっていく。天使の力を得ていても、この再生力はあまりに異常だった。
あり得ない光景に、ワルドの心は絶望で支配されていく。
『貴様……! に、人間ではないのか……!? な、何者だ!?』
恐怖ですっかり震え上がり、慄くワルドが叫ぶ。それまでの威勢は完全に失せていた。
迫ってきていたスパーダの足が目の前まで来た所で止まる。

その時、朧げながら全身にオーラを纏うスパーダの姿と共に何かが浮かび上がるのをワルドははっきりと目にした。
幻のように浮かび上がったもの……それは禍々しい角や多重の翼をマントを纏うように背中に収めている、黒い体の悪魔であった。
悪魔の姿と、スパーダの姿が交互に重なっている。
ワルドを睨み続けているその冷たい冷酷な瞳には、一切の慈悲は宿っていなかった。
あるのは、目の前に立ち塞がる敵は全て葬り去るというだけ。
その冷酷な瞳に、ワルドは魂の底から恐怖を感じていた。

『いつまでも調子に乗るな。人間よ』

地の底から響くような、恐ろしい声をスパーダは発していた。
だが、同時にその声には何者も侵すことはできない威厳さに満ちている。

『貴様は侵してはならん領域に踏み込んだ』

静かにリベリオンの剣先をワルドに突きつける。

『過ぎた力に溺れ……人の心を失った愚か者よ。すぐに我が前から消え失せろ。そして、二度とその悪魔の顔を見せるな』
『な、何を言う! 貴様だって人間なんかじゃない! 貴様こそ、本物の悪魔――』

喚くように反論するワルドの言葉を遮り、スパーダはリベリオンを薙ぎ払った。
礼拝堂に嵐のような突風が吹き荒れ、その間近にいたワルドを紙切れのように容易く吹き飛ばし、壁に叩きつける。
呻きながら体を起こし、スパーダを見やるワルド。
『ひ……』
スパーダは相変わらずの冷酷で無慈悲な表情を浮かべたまま、じっとこちらに目を合わせている。
それだけで、ワルドは己の心臓を掴まれ握り潰されてしまいそうなプレッシャーが襲い掛かる。

こいつは、悪魔だ。

天使の力を得た自分でさえ、まるで歯が立たない。

この恐ろしい悪魔には……何者も打ち勝つことはできない……。

メイジも、竜も、エルフも。果ては、神さえも。

『……た、助けてくれえええっ!!』
完全に戦意を失ったワルドは地を這いつくばり、スパーダから背を向け、片翼と左腕を失くした痛々しい姿のまま礼拝堂から逃げ出した。
あまりにも惨めな姿であったが、スパーダはそれ以上追い討ちを仕掛けることはなく静かにその姿を見届けていた。


「な、何なの……あれ……」
「本当に……スパーダ?」
「人間じゃあ……ないの……?」
「……」
「あ……あ……」
トリステインの四人の生徒達、そしてウェールズとロングビル、ティファニアらは目の前で起きた出来事と目の前に存在に恐怖した。
特にルイズは、朧げながら浮かび上がった悪魔の姿が、前に夢で見たものと全く同じであったことに愕然としていた。
おぞましい姿に目を背けたくても、金縛りにあったかのように体が動かない以上、それはできない。
スパーダは、人間ではないのだ。……あれはまさしく、悪魔と呼べる姿。
先ほどのワルドなどとは比べ物にならない、真の悪魔だ。
自分は悪魔を使い魔に、パートナーにしていたというのか……?
だが、本物の悪魔ならば自分達を守るために戦うことなどないはずだ……。
悪魔は人間を堕落させ、時にはその命を、魂を狙うとされる凶悪な存在。スパーダが悪魔なら、今までもあんなに自分に気にかけることなども……。

『――ギャアアアアアアアアッ!!』
突如、礼拝堂の外、ワルドが逃げ去っていった入り口の向こうからけたたましいワルドの悲鳴が聞こえてきた。
何事かと入り口の方を見ていると、その入り口から次々と地を這うように姿を現したのは目にするのもおぞましい化け物達だった。
姿勢は低いが体の大きさは1.5メイルから3メイルほどまでと様々だった。しかし、その化け物には足が存在せず、代わりに長大な手と腕が伸びて足の代わりとなっている。
おまけに背中からも腕を生やしている上、体の所々に筋肉や背骨が露になっているし右腕に至っては全体の筋肉が剥き出しになっている。
そして、最もおぞましいと思ったのは左の脇腹から巨大な眼球がぎょろりと剥いていることだった。
「う……」
あまりのおぞましさに耐えられなかったのか、ギーシュが吐き気を催す。

魔界の最下級悪魔――あまりにも知能が低過ぎたが故に名前すら与えられなかった種族。
だが、その力は弱肉強食な魔界で生き残るには充分過ぎるほどに強く、時には上級悪魔でさえも返り討ちにし兼ねない。
その名も無き悪魔達は、ノーバディ――〝誰でもない者〟と呼ばれていた。

――ヘッヘッヘッヘ……。

――ヒャッハッハ……。

――ヒャッヘッヘ……。

知性の欠片も無い、気味の悪い奇怪な笑い声を上げながら次々と礼拝堂に侵入してくる化け物達。よく見ると、その中の一体の背中から生えた手が人間の頭を掴んでその体を無造作に吊るしていた。
左腕を完全に失っていたそれは紛れも無く、人間の姿に戻っていたワルドであった。

無残に逃げおおせた力なき敗者に待つのは、力ある者の餌食となるだけ。
既に戦う力もないワルドが弱肉強食の世界を生きる者の餌となるのは当然と言えた。

「……レコン・キスタがついに攻撃を始めたな。あれは奴らの放ったものだ」
ウェールズが化け物達の姿を見て忌々しそうに呻いた。
気付けば外から馬の蹄や大砲の音、竜の羽ばたく音などが響いてきているのが分かる。
もう外では王軍とレコン・キスタとの最後の戦いが始まっているのだ。

ここにこれ以上いてはいけない。だが、あの化け物達がいては逃げることもできない。
……そして、何よりも恐ろしい存在がいては――。

『ギーシュ。お前の使い魔をすぐに呼べ』
スパーダがじりじりと迫るノーバディ達と対峙し、リベリオンを構えながらそう命じる。
「……ヴェルダンデ!」
隅で嘔吐していたギーシュはスパーダの言葉を聞くと、先日イーグル号を降りてからずっと地中に潜り、自分達の下の地面に潜んでいたヴェルダンデで呼びつける。
床の一角が盛り上がると、そこには彼の使い魔たるジャイアント・モールがひょっこりと姿を現した。
『逃げ道を確保しろ』
ワルドの死体をゴミのように放り捨て、次々と襲い掛かるノーバディ達を斬り伏せながらスパーダはさらに命じた。
スパーダがリベリオンを振る度に突風が巻き起こり、ノーバディ達を吹き飛ばしていく。
だが、ノーバディも軽やかに受け身をとり、さらに中にはリベリオンをその長大な手で器用に白刃取りで受け止めてもいた。
スパーダの悪魔の姿と一面に恐怖しつつも、一行はその穴の中へと入っていく。
始めにギーシュ、次にキュルケとタバサが穴へ入っていった。最初の二人は穴に入る寸前、自分達のために剣を振るっているスパーダを恐ろしい物でも見るような視線と共に、畏敬の思いが込められた視線を送っていた。

『Blast off.(消し飛べ)』
残り三体となったノーバディ達に、振り上げたリベリオンから衝撃波を放つ。
その巨大な一撃は生き残っていたノーバディ達はもちろん、床に無残に転がる亡骸さえ塵一つ残さずに消し飛ばし、礼拝堂の入り口さえも粉砕してしまう。


やがて、静寂が訪れた。
いや、外からは未だ大砲の音や兵達が攻めている音が静かに響いてきているために純粋な静寂は訪れてはいない。
だが、それまで壮絶な戦いが繰り広げられていた時に比べればとても静かだ。
礼拝堂は壁や柱、床の全てが砕かれているこの光景が、その戦いの爪跡として残されている。

リベリオンを背に収めたスパーダの全身から、禍々しいオーラが徐々に失せていく。
同時にスパーダから発せられていた威圧感も先ほどまでとは違って嘘のように消え失せ、普段の毅然とした雰囲気に戻っていた。
礼拝堂に残っているルイズ達は呆然としながらこちらへ歩み寄ってくるスパーダを見つめ、立ち尽くしていた。
「あ、あの……スパーダ……なのよね?」
「私はこの世に一人しかいない」
恐る恐る話しかけてくるルイズに、スパーダは何事も無かったかのように平然と答える。
その言葉を聞いた途端、不思議とルイズの表情と心には安堵が蘇っていた。つっけんどんな態度だが、いつものスパーダだ。
安心して思わず体中から力が抜けてしまう。へなへなと、床にへたり込んでしまった。
「何を呆けている。早く脱出せねば命がないぞ」
「あ……え、ええ……」
今まで混乱していた思考が徐々に正常に戻ってきたルイズはある疑問を思い出した。
「……っていうか、何であなたがミス・ロングビルと一緒に戻ってきたのよ! それにその子誰なのよ!」
先ほどまでの恐怖はどこへ行ったのか、喚き立てるルイズがロングビルとティファニアを指差した。
「ミス・サウスゴータ。何故、あなたがここに?」
全てが終わったことで、ウェールズもようやくその件についてを問いただすことができた。
ロングビルは眉を僅かに顰めたままティファニアを庇うように抱き締める。

「その娘は、モード大公の忘れ形見だ」
ロングビルに代わって、スパーダが平然とそう告げた。
元々、スパーダがここを訪れたのはワルドからルイズ達を救うためでもあったのだが、同時にウェールズにティファニアを会わせようともしていた。
ロングビルは始め、それに反対していた。ティファニア自身は抵抗は無かったものの、彼女やティファニアにとっては仇であるアルビオン王家の人間などと会わせるなどとんでもないことだったからだ。
だが、ウェールズは老害な父親と違ってモード大公の忘れ形見と会えれば会いたいと願っていることを知っていたため、少しだけ会わせることにしたのである。
討ち死にしようという、ウェールズへのせめてもの手向けとして。
「君が、我が叔父上の……」
スパーダから事の説明を聞かされ、唖然とするウェールズはロングビルに抱きついているティファニアをじっと見つめる。
しばしの間、ティファニアを見つめていたウェールズだったが突然、床に片膝を突いて深く頭を下げていた。
「ウェールズ殿下?」
話を聞かされて同じように驚いていたルイズが、ウェールズの行動に困惑した。
「我が従妹君、ティファニア。そして、マチルダ・オブ・サウスゴータ殿。
我が父、ジェームズがあなた達に行った暴挙を……心より詫びる」
真摯な態度でいきなり謝罪をしだすウェールズに、当の謝罪される本人達も呆然とした。
「我が王家が犯した行いを、決してあなた達二人は許してはくれぬだろう。だが、今の我らにできることはこれしかない……。
我らは憎まれても当然だ。この内乱も、元を正せばあの行いが元凶なのだからな……」
「あ、あの……そんなに謝らなくても良いんです。わたし達はこうして生きているんですから」
ロングビルはつまらなそうに鼻を微かに鳴らすが、ロングビルから離れたティファニアはウェールズの前で屈んでそう答えた。
「ウェールズさんは何もしていないんですから、そんなに頭を下げないでください」
「……私を憎んでくれても構わなかったのにな」
自分を全く憎んでいないティファニアの姿に、ウェールズは乾いた笑みを浮かべて顔を上げた。
そっと、フードの上からティファニアの頭を撫でる。
「ティファニア、君は生きてくれ。我が王家は間もなく潰え、歴史の片隅に追いやられることだろう。
だが、その血筋だけは未来に託しておいてもらいたい。始祖ブリミルが六千年にも渡って伝えてきた王家の血筋だけでも、守って欲しいのだ」
「……ウェールズ殿下。やはり、わたし達と共に亡命される気はないのですね?」
ルイズが物悲しそうに言うと、ウェールズは苦笑しながら頷いた。
「ああ。私はここに残らねばならん。王家の人間として、最後の務めを果たさねばならん。
君達はもう行きたまえ。間もなく第二波がここへ突入してくるだろう」
「殿下……」
「ミス・サウスゴータ。こんなことを頼める立場ではないが、我が従妹を……どうか守っていただきたい」
「……言われなくてもそうするよ」
「ティファニア。君と会えて良かった。どうか、元気で」
優しい笑みを浮かべるウェールズに、ティファニアの表情が曇る。
彼女としても、初めて出会った従兄とこのような別れをしなければならないのが辛い。
孤児の子供達はみんな殺され、そして従兄であるウェールズもこれから死に行くというのだ。
大切なものが、どんどん失われていく……。
「スパーダ殿。彼女を救い出してくれたことに感謝するよ」
立ち上がり、最後にスパーダに頭を下げて礼を述べた。
腕を組んだまま見守っていたスパーダは嘆息を吐く。
「アルビオン王家、皇太子ウェールズ・テューダーは今日ここで死んだ」
いきなりのスパーダの言葉にウェールズは目を丸くする。
「今、ここにいるのはただのメイジ……ウェールズだ。もはや王家とは何の関係もない」
「スパーダ、何を……」
「これから討ち死にをするか、ただのメイジとして生きるかはお前次第だ」
それだけを言い、スパーダは背を向けて穴の方へ歩き出す。
「だが、決して死に急ぐな。死すのであれば、命ある限り生き続けろ。……行くぞ」
振り向かぬまま威厳に満ちた言葉を発するスパーダに、ウェールズは一瞬呆然としていたが乾いた笑みを浮かべつつ微かに頷いていた。
「早く行きたまえ。……もう時間がない。穴は私が潰しておく」
入り口の向こうからバタバタと足音が小さく聞こえてくる。レコン・キスタの兵士達が攻めてきたのだ。
「ウェールズさん!」
「行け!」
杖を手にし、入り口の前で堂々と仁王立ちするウェールズ。
ロングビルはティファニアの手を引っ張り、スパーダの後を追って穴の中へ入っていったルイズに続いていった。

自分だけしかこの礼拝堂に誰もいなくなったことを確認し、ウェールズは穴の上の天井を風の魔法で崩し、下敷きにする。
「異国の剣士、スパーダよ。彼女達を、頼む……」


穴の先はアルビオン大陸の真下へと続いていた。その外ではタバサの使い魔、シルフィードが先に出ていた三人を乗せたまま待っていた。
ヴェルダンデはシルフィードの口に咥えられたまま、ジタバタと暴れているのを主であるギーシュがなだめている。
「遅かったじゃないの!」
スパーダ達もシルフィードに乗り込むと、キュルケがホッと安心しながら叫んでいた。
明らかに定員オーバーであったが、地上であるトリステインまでは滑空していけば問題なく辿り着けるはずだ。
「脱出」
タバサが短く命じると、一行を乗せたシルフィードが白い雲の中を緩やかに降下しながら進んでいった。
雲を抜けると、疾風のように飛ぶシルフィードの背中から見るアルビオンは次第に小さくなっていった。
短い滞在ではあったが、様々な出来事があったアルビオンが風と共に遠ざかっていく。
シルフィードの上では、誰も何も喋らない。無言のままだ。
全員の視線は腕を組んだまま瞑想しているスパーダに注がれたままだった。
「スパーダ、あの……」
「その話は魔法学院で話そう」
ルイズの言葉を遮り、そう答えてすぐに話を打ち切るスパーダ。
悪魔としての本性を見られた以上、面倒ではあるが話さねばなるまい。
だが、口で全てを話すのも手間がかかりそうだ。
……となると、真実は聞いてもらうよりは見てもらった方が手っ取り早い。



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