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Mission 21 <伝説の魔剣士、降臨> 前編



「さて、ガンダールヴよ。貴様は異国の没落貴族と言えど、その力は本物だ。それは認めねばならん。故に私も本気を出させてもらうが、依存はないな?」
不敵な笑みを浮かべながらワルドは言うが、スパーダは答えない。
既に彼は目の前の敵を倒すことだけを考えている。今は彼にこちらから話しかけても何も答えはしないだろう。
だが、ワルドのあの自信は何だ? 既に自分が勝利することを確信しているようだ。
そもそも、ワルドは先ほどの戦いでも本気を出していなかったのか。だが、あの自信がハッタリとも思えない。

「あれをやる気ね……」
ティファニアを連れてルイズ達の元まで来ていたロングビルが顔を顰めて呟いた。
まるで何か汚いものでも見るような忌々しい視線でワルドを睨んでいる。

ルイズはそのことを問おうと思ったが、目の前で起きている出来事の方に目を奪われる——。

ワルドの全身が、見る見るうちに光へと包まれていき、その瞳もまるで血に飢えた獰猛な獣のように鋭く、赤く変わっていった。
ディテクトマジックをかけなくとも、トライアングルクラスのメイジであるキュルケとタバサ、そしてウェールズはワルドの魔力がより大きく膨れ上がり、
そして強靭なものへと変貌していくのを感じていた。
やがて、ワルドを包んでいた光が静かに収まり……。

ルイズ達は唖然とした表情で絶句していた。

「ワ、ワルド……なの?」
恐る恐る、ルイズが口を開く。
バサッ、と風竜かグリフォンなどの幻獣が大きな翼をゆっくりと広げるような音が響き、ワルドが立っていたはずの場所には見たことのない亜人の姿があった。
精悍な肉体は魔法衛士隊のマントと同じ黒で蜥蜴のような尾を生やし、足先も鋭い鉤爪が付いていた。
その背には羽先が刃のごとき銀色でグリフォンの物と同じ双翼を生やし、猛禽類の頭と人間の頭が融合したような頭部の横には後ろに向かって湾曲した角が伸びている。
そして、左腕全体を覆うように巨大な盾のようなものが装備され、右手には馬上槍のように鋭く、肥大化した銀色のレイピアが握られていた。
その亜人の姿にルイズ達は恐ろしい物でも見るかのように目を見開き、愕然としていた。

『その通りだよ。ルイズ』
その亜人の口から、響きがかかってはいたがはっきりとワルドの声が聞こえてきた。
「に、人間じゃ……ない?」
タバサの体を抱えるキュルケの声が、震えている。

『偉大なる始祖に選ばれし者のみが——人を超え、生まれ変わるのだ。……天使としてな!!』
ワルドはレイピアを薙ぎ払い、礼拝堂に一陣の烈風が巻き起こる。
その烈風は礼拝堂のありとあらゆる物を吹き飛ばし、さらには壁や床にヒビを入れるほどの威力だった。
スパーダはその烈風を全身で受け止めるが、微動だにせずワルドを睨み続けている。
ルイズ達は逆に烈風に耐えられず容易く吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
ロングビルだけはティファニアを抱えて必死に持ち堪えている。

ワルドの体がふわりと、宙へ浮かび上がっていく。
『レコン・キスタの崇高なる目的のために、私は盟約により力を手に入れた!!
偉大なる始祖が与えたもうたこの力を持って……ガンダールヴよ! 貴様を倒す!』
スパーダを見下ろしながらワルドはレイピアを突きつけてくる。
当の打倒宣言を受けたスパーダはそんなワルドを睨みながら、ぼそりと呟いた。
「……哀れな男だ」

それは決して、天使の力などではない。——自分と同じ、悪魔だ。そのことに、ワルドは気づいていないようである。
今までワルドから感じていた奇妙な魔力の正体はこういうことだったのだ。
メイジとしての魔力と混ざってしまってこれまではよく分からなかったが、今はすっかりその悪魔の力を感じることができる。
人間が悪魔の力を行使する……魔に魅入られた人間達が無数に生み出した数々の秘術にはそのようなものがある。
その狂気の秘術が、この世界にも存在していたというのか。
……それとも、何者かがこいつらにその知識と技術を与えたか。

天使のような姿を模している悪魔と化したワルド——アンジェロ・ワルドは左腕の盾を構えながらスパーダ目がけて突撃してきた。
先ほど、タバサとギーシュを相手にしていた際に使っていたフライの魔法よりも遥かに速い。まるで、風竜のようだ。
だが、スパーダは突き出された巨大なレイピアを体を横に逸してあっさりとかわす。
外れたレイピアは床に激突し、1メイルほどの穴を開けて砕き、陥没させていた。
アンジェロ・ワルドは間髪入れずに体を反転させながらレイピアを薙払ってくる。
スパーダはそれをリベリオンを振り回して弾くと、後ろへと跳躍する。
弾かれたリベリオンをそのまま片手で振り上げると刀身に赤いオーラが纏わりつき、すぐに一気に振り下ろした。
彼がいつも使う剣圧の衝撃波だが、力を溜めていないためかそれほど威力はない。突撃してくるアンジェロ・ワルドの盾によって容易く防がれる。
残像を残し、一瞬にしてスパーダの目の前まで距離を詰めたアンジェロ・ワルドは恐らくブレイドの魔法をかけたのであろう、
青白く光るレイピアで目にも止まらぬ速さの連続突きを繰り出してきた。
タバサでさえ捉えられないその攻撃を、スパーダは最小限の動きで全てかわし、時にリベリオンを盾にしていなしている。

突如、突きをかわしていたスパーダの姿が煙のように掻き消えた。
アンジェロ・ワルドは即座に残像を残しつつ、滑べるような動きで大きく後退していった。
その時間差で、アンジェロ・ワルドが立っていた場所の上方からスパーダがリベリオンを振り下ろしながら急降下してきた。
兜割りはズガン、と鋭い音を立てて激突し、床を砕く。

『これが、天使の力だ!!』
アンジェロ・ワルドの右手からレイピアがつむじ風に包まれ煙のように消えた代わりに、つむじ風と共に現れたのは3メイル近くもある巨大で鋭い銀色の矛だった。
その矛をアンジェロ・ワルドは軽々と振り上げ、豪快に投げつけてきた。
真空が渦巻くように纏わりつく矛は一直線にスパーダ目がけて飛んでいく。
リベリオンを収めていたスパーダは閻魔刀を構え、片手で振り抜く。
手が僅かに動いたようにしか見えない神速の居合いはスパーダとアンジェロ・ワルドの間にある空間を歪ませ、斬撃が発生していた。
投げ放たれた矛はその斬撃に呑み込まれると同時に、跡形もなく消滅する。
さらにスパーダは絶え間なく連続で居合いを繰り出し、アンジェロ・ワルドのいる場所に次々と斬撃を放っていく。
対するアンジェロ・ワルドも自分のいる空間が歪み始めた途端に閃光のごとき速さで移動し、更なる矛を連続で投げ放っていた。
閻魔刀を収めたスパーダは向かってくる矛を即座にリベリオンを袈裟に振り下ろし、明後日の方向へと全て豪快に打ち返した。
弾かれた矛は礼拝堂の壁、天井、果ては始祖の像さえも一撃で粉砕してしまっていた。


「きゃあっ!」
「うひゃあ!」
礼拝堂の隅にまで届く烈風に先ほどからルイズとギーシュは悲鳴を上げてばかりいた。
亜人と化したワルドは先ほどよりも激しい攻撃を次々とスパーダに仕掛け、スパーダもその攻撃を的確にいなしつつ反撃を行っていた。
もはやこの戦いに、自分達が入り込む余地などない。無理して入った所で、一切の容赦がない攻撃に巻き込まれるのがオチだ。
タバサでさえ、目の前で行われる次元の違う激闘に目を奪われていた。先ほどまでの自分達の戦いなど、まるで子供の遊びみたいに生ぬるい。
これが本物の、戦士と戦士の戦いなのだ。
その戦いのすぐ側に自分達がいるのに、未だこちらに被害が出ないのも不思議である。
「あれが……スパーダ殿の力か」
つい先ほど、タバサの魔法で傷を癒されて幾分楽になっていたウェールズは目の前で起きている戦いに嘆息を吐く。
「参ったな。彼ほどの戦士が、君の使い魔とは。トリステインの貴族も、まだまだ捨てたものではないな」
「こ、光栄でございます」
思わずルイズは頭を下げて跪く。
ルイズもスパーダがあそこまで強いことに、嬉しさを感じていた。
自分よりも遥かに大きなゴーレムでさえも物怖じせずに立ち向かい、返り討ちにしてしまうどころか、あのような
おぞましく強力な怪物となってしまったワルドとさえも互角に渡り合っている。
豪然たる力を持った異国の剣豪であり、立派な貴族でもあるあの男が自分のパートナーだなんて、何だか誇らしく思ってしまう。
今度、実家に戻る機会があればスパーダのことを父や母、そして姉達にも自信を持って紹介することもできる。
「……でも、何だかおかしくない?」
キュルケが怪訝そうに呟く。
「どういうこと?」
「彼にしては、何だか動きが固い気がするよ」
ルイズの問いに答えたのは、スパーダの弟子であるギーシュだった。

ブレイドをかけたワルドの巨大なレイピアをスパーダはリベリオンを振るって次々と弾いており、
時に自分からリベリオンの連続突きを繰り出し、ワルドはそれを盾で防ぐ。
どちらも一歩も引いていない。あれがどうしたというのか。

「それに彼は、先ほどから右手だけで戦っている。左手を全く使っていないんだ」
その通りである。スパーダは右手だけでリベリオンを振り回したり、閻魔刀を抜いたりしているのだ。
両手を使えば、ワルドの防御などとっくに崩したり、レイピアをその手から弾いてしまってもおかしくはない。
なのに、スパーダは何故か両手を使おうとしない。つまり、全力を出していないことになる。
……いや、出したくてもあれは出せない、という方が正しいか。
「どうしたのかしら……」
ギーシュの言葉に、ルイズは心配した表情でスパーダの戦いを見つめていた。

(ルーンが、光っている?)
二人の戦いに怯えているティファニアを抱えるロングビルは戦っているスパーダの左手に注目する。
その手袋に包まれている手の甲が僅かに光り始めていることに気づいていた。


(邪魔な……)
右手でリベリオンを振りながらアンジェロ・ワルドと切り結ぶスパーダは忌々しそうに自らの左手をちらりと睨んだ。
先日、力を封じたと思ったルーンがこんな時に限って復活しだしたのだ。
やはり自身の力を封じてしまった以上、全盛期の頃と比べて力は衰えてしまっているのは仕方がない。
もっとも力を封じてからスパーダもそのままにしていた訳ではなく人間界で千年以上もの間、自らを鍛えてきたので
かつての時よりも三分の一くらいまでは取り戻すことには成功した。
だが、やはり力が不完全であることには変わりないため、このルーンの力を封じても一時的なものにしかならないようだ。
今もまた、ルイズに隷属するように自分を洗脳しようと力を働きかけてきており、それを悪魔としての本能が抑え込んでいるために
戦いに集中できないし、左手を自由に使うこともできない。
実に目障りなルーンだった。こんな時に限って自分の邪魔をするとは。

『どうした? 動きの切れが悪くなってきているようだが?』
距離を取って浮遊するアンジェロ・ワルドがあざ笑ってくる。
スパーダはリベリオンを収め、銃を一つ手にするとアンジェロ・ワルドに向けて連続で発砲した。
『ハアァァァッ!!』
アンジェロ・ワルドは盾を構えてあっさりと防御すると、力ある叫びと共に双翼を大きく広げる。
銀色の羽が次々と舞い散り、そしてその羽は肥大化しつつ鋭い刃へと変わっていく。
手投げ用の小さな槍のような形に変わった無数の羽はアンジェロ・ワルドに付き従うように浮んでいると、次々とその切先をスパーダに向けてきた。
連続で射出されてきたその槍をスパーダは銃で撃ち落としていく。
すると、今度はスパーダの周りを旋回し取り囲むように槍が現れる。
スパーダは即座にリベリオンを手にすると一気に周囲を薙払うように振るい、突風を巻き起こした。
槍を全て吹き飛ばした途端、アンジェロ・ワルドはスパーダ目がけて突撃してきた。
さらに、突き出しているレイピアの先からウインドブレイクの魔法が放たれ、ついにスパーダを捉えていた。

「スパーダ!」
始祖の像に吹き飛ばされていくスパーダにルイズが悲鳴を上げた。
スパーダは即座に受身を取り、始祖像の上に着地した途端、そこへ目がけて稲妻の嵐が襲いかかる。
さらに羽が変化した銀の投げ槍が次々と飛来してきた。
「!」
スパーダはリベリオンを正面で回転させて盾にして全ての攻撃を防いだが、今度はあらぬ方向から矛が投擲されてきたたために、空間を転移して始祖像の下へと瞬時に移動する。
外れた矛は始祖像の顔に炸裂し、粉砕していた。
『今のをかわすとは、さすがはガンダールヴ』
『だが、そろそろ遊びは終わりだ』
ワルドの声が別々の場所より響き渡る。
スパーダは礼拝堂の宙を浮かぶ二人の同じ姿をした亜人に顔を顰めていた。
ルイズ達もいつのまにかワルドが二人に増えているこの状況に一瞬、混乱している。
『我が系統は風だ! 何故、風の魔法が最強と呼ばれるのか、その所以を教えてやろう!』
一人のワルドが叫ぶと、その背後の空間がブレるように揺らめき、さらに二人の亜人の姿をしたワルドが姿を現していた。
「風の偏在か……」
ワルドの数が増えだしたこの状況に、ウェールズが呟く。
スクウェアスペル、ユビキタス。風は遍在し、風の吹く所、何処となくさ迷い現れ、その距離は意思の力に比例するという。
つまりは、分身だ。しかも分身の一体がそれぞれ本体とは別に意思はおろか力を有するという。
「ちょ、ちょっと! いくら何でもあんなの反則だわ!」
思わずルイズが叫ぶ。
四対一、明らかにスパーダの方が不利だ。今まで一対一でも互角だったのが、あれだけの数で一気に攻められてはなぶり殺しもいい所だ。

『本気の戦いに、そんなものは関係ない!』
『全ては、力なきガンダールヴの責任だ!』
散開した四人のアンジェロ・ワルドがスパーダの全方位から次々と容赦なく攻撃を仕掛けてきた。
スパーダが一人のアンジェロ・ワルドの攻撃を防ごうとすれば、別の方向からもう一人のアンジェロ・ワルドが魔法を放ち、吹き飛ばされてしまう。
如何に全盛期ほどの力が失われているとはいえ、培ってきた技術までは失われはしない。
アンジェロ・ワルドの悪魔としての力は純粋な悪魔達と比べてみれば上級悪魔の中では中の下といったレベルであり、単体であれば
問題はないが、こうも四人に増えられて同時に攻められると多少はてこずるが倒せなくはないはずだった。
しかし、左手のルーンに邪魔をされてしまって思うように戦うことができない。

『『『『This's the end!(これで終わりだ!)』』』』
四人のアンジェロ・ワルドが一斉に叫んだ。
一人目がまず、スパーダの正面上方からウインドブレイクを放ち、スパーダはリベリオンの風圧でそれを掻き消す。
そこへ背後に回った二人目がライトニング・クラウドを仕掛け、スパーダの背中に稲妻が直撃した。
「スパーダ!」
ルイズが悲鳴を上げる。
『Die!(死ねぇ!)』
怯んだスパーダの正面から、二人のワルドが同時に至近距離からエア・ハンマーとウインドブレイクを叩き込み、スパーダを半壊している始祖像へと吹き飛ばした。
その拍子に手からリベリオンが落ちてしまう。
始祖像に背中から叩きつけられたスパーダの四肢を、間髪入れずにアンジェロ・ワルドが放った投げ槍が縫い付けていた。

——ドスッ!

そして、投げ放たれた巨大な矛が、始祖像の胴体で縫い付けられているスパーダの腹に突き刺さった。
おびただしいほどの量の鮮血がスパーダの腹から噴出し、矛が突き刺さった衝撃でスパーダの顔が持ち上がり、そしてがくりと項垂れた。
スパーダの血が、腹に突き刺さる槍を伝い、床へと滴り落ちていく。

「「スパーダ!!」」
ルイズとロングビルが、同時に悲痛な悲鳴を上げていた。
目の前で起きた、信じられぬ光景。決して、受け入れられない光景。
一瞬、ルイズ達の視界に映る全ての景色の時間が止まった。

特に、ルイズは目に大粒の涙を溢れさせて。

嘘だ、嘘だ、嘘だ。

スパーダが、負けるだなんて。あんな、悪魔みたいな男に……スパーダが負けるはずはがない。

だが、これは夢ではない。現実だ。

スパーダは……負けたのだ。

あの、悪魔のような男に。

着地したワルドは全ての偏在を消滅させると、床に突き刺さっていたリベリオンを拾い上げる。
そして、それを容赦なくスパーダ目掛けて投げ放っていた。
リベリオンはスパーダの胸に突き刺さり、更なる鮮血が噴出する。

「スパーダぁ!」
思わず立ち上がったルイズは始祖像のスパーダに駆け寄ろうとするが、ワルドがレイピアを突きつけてきたため、立ち止まっていた。
恐ろしい亜人の姿となっているワルドの表情は一体どうなっているのか、ルイズには分からない。
だが、この威圧感にはこれまで感じたことのない恐怖を感じざるを得なかった。
『分かっただろう、ルイズ。奴では、君を守れぬ』
感情が読み取れない、冷酷な声でワルドは言う。
ルイズはじりじりと迫ってくるワルドに、恐る恐る後ずさる。
『素晴らしいぞ、この力。私は始祖の従えた伝説の使い魔さえも凌駕したのだ』
自らに酔ったような口調で言葉を続けるワルド。
『私と共に来れば、君にもこの力を授けてあげたというのに。残念だよ……』
冗談ではない。こんな、悪魔みたいな力なんか欲しくない。
そして、その恐ろしい力を自ら望んで手に入れたワルドはもはや人間ではない。
——悪魔だ。

『もはや、お前達を守れる者はもういない。これで、最期だ……。裏切り者もろとも、始末してやろう!』
激しい稲妻が散りだすレイピアにルイズ達は慄き、ロングビルがティファニアを庇うように抱きしめる。

『死ねぃ!』

今度こそ、もう駄目だ。
この悪魔のような男に、如何にスパーダと言えども歯が立たなかった。
もはやこの男に、人間では太刀打ちできないのだ。たとえメイジであろうとも。
無力な自分が憎らしい。自分にも、もっと力があれば……スパーダを助けられたかもしれないのに……。
こんな悪魔に対して、自分の力は無力なのだ。

無力、絶望、虚脱——全てを諦めたルイズは力なく膝を折り、涙を流した。
きっと、自分の体を稲妻が貫いても痛みさえも感じずに死ぬのだろう。
ここにいるみんなも、一緒に。
結局、自分は何の力にもなれずにここで死ぬのだ。

姫様の願いも、叶えられずに。

『ぐあっ!』
突如、ワルドが呻き声を上げた。
無力感に苛まれていたルイズはそれに気付くことはなかったが、他の者達は目の前の光景に呆気に取られる。
ワルドの腹部から赤い色をした片刃の剣が突き出ていたのだ。
『な、何だ!』
あまりの出来事に、膝をつき困惑するワルドは自らを貫く剣に手をかける。

『おい……待ちな。兄ちゃんよ……』
その赤い剣から、キュルケ、ギーシュ、タバサに聞き覚えのある声が響いてきた。
『相棒は……まだ、くたばっちゃあいねえ……』
それは、明らかに元インテリジェンスソードであり、今は篭手となっているはずだったデルフリンガーの声だった。
だが、その声は何やら何かを恐れているようで震えているのが分かる。
ルイズを除く一行は、恐る恐る始祖像の方を見上げた。
困惑するワルドも同じように振り向く。

始祖像に縫い付けられていたスパーダの全身から、禍々しい赤色のオーラが静かに湧き出ているのがはっきりと分かる。
そして同時に、いつの間にか礼拝堂全体が静かに揺れていることに気付いた。
その揺れは徐々に強くなっていき……やがて、スパーダの胸を貫くリベリオンもカタカタと震えだす。

一行は何かは分からないが、底知れぬ恐怖と戦慄を、スパーダからはっきりと感じとっていた。
今すぐにでもここから逃げ出したい。だが、足がすくんでしまって立つことはできない。

故に、今目の前で起きる光景を見届けることを強制されていた。

——リベリオンの骸骨の意匠の目が赤く、妖しく光りだし、閉じられていた口が開かれ、鍔も横へ広がるように開かれた。

同時に、彼を縫い付けるワルドの武器が全て砕け散った。

次の瞬間、スパーダから全てを薙ぎ倒さんとする奔流が衝撃となって溢れ出し、礼拝堂を震感させた。



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