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memory-28 「Liberation」後篇



 最初、アルビオン兵の姿をしたエツィオをいぶかしんでいた傭兵達であったが、アニエスのとりなしで信用を得る事が出来た。
どうやら彼女は女性の身でありながら傭兵達を率いる身分らしい、相当な実力者のようだ。
 そうして捕虜の傭兵達を解放したエツィオは、彼らに作戦を説明し、納屋にあった農具で武装させ待機を命じた。
アルビオン兵の姿に変装させたアニエスには納屋の見張り役に立たせ、合図を待たせる。
それからエツィオは何食わぬ顔で納屋を後にし、行動を開始した。
まずエツィオが向かったのは、村の中心に聳え立つ物見櫓だった。
櫓の上には石弓を持った兵が二人控えており、周囲を警戒している。こちらの行動を察知されては困るため早急に始末する必要があったからだ。
エツィオは櫓を登ると、何気ない風を装い二人の弓兵に声をかけた。

「おい、困ったことが起きたんだ、ちょっと来てくれないか?」

 その言葉に反応した二人は、何事だろうかと首を傾げ、登ってきたエツィオに近づいてゆく。
その瞬間だった、エツィオの両腕から二本のアサシンブレードが弾かれたように飛び出し、二人の首を同時に切り裂いた。
声を出すこともできずに絶命した二人は、どさりと櫓の上に身を横たえる。この一瞬の早業に、気が付いたものは誰ひとりとしていなかった。

 首尾よく櫓の上の敵を始末したエツィオは、彼らが持っていた石弓とボルトを回収し、素早く櫓を降りる。
次にエツィオは、先ほど隠した肉の入った手桶を手に取った。
そして、その中の肉の塊に、アサシンブレードに仕込まれた毒剣を突き刺し、ありったけの毒を注入する。

「それ、竜にも利くかね? 竜相手じゃ、精々腹痛起こすとかその辺なんじゃないか?」

 その様子をみていたデルフリンガーがカチカチと音を立てる。エツィオは毒を注入しながら首を傾げた。

「こればかりはレオナルドを信じるしかないな、自信作とか言ってたが」
「その毒、中身はなんだ?」
「えーっと、確かドクゼリの根っこに毒ニンジン、ヒヨスのエキス……あと殴り殺した豚の肝臓に亜砒酸の混合……他色々だそうだ」
「うーん? 聞いたことねえのばっかりだな」
「だろうな、俺も毒については門外漢だ。とにかく、腹痛程度でも、無力化さえできればいいさ」

 そう呟きながら毒を注入し終えたエツィオは、風竜の目の前にその肉片を放り投げると、すぐにその場から離れ様子を見守る。
待ちかねていた食事に、風竜は嬉しそうに一声鳴くと、肉に齧り付いた。それを確認し、エツィオはそそくさとその場を立ち去る。
あとは毒の効果が表れてくれるのを祈るだけ……そう思っていた、その時だった。突然風竜が苦しそうにもがき始める。どうやら毒が効果を発揮し始めたようだ。
風竜は口から涎と泡、そして吐瀉物をまき散らし、翼や頭を振り回しながら広場で大暴れを始めた。

「お、おいおい……」

 予想以上の毒の効果にエツィオが思わず呟く。
 レオナルドが作ったとはいえ、本来人間相手に使うものである、
人間より遥かに強靭な肉体をもった竜にどれほどの効果が及ぼせるか不明ではあったが、まさかここまで強力な物だったとは思わなかったのだ。 

「竜すら殺す猛毒かよ……お前のその親友、おっかねえ野郎だな」
「……同感だ、あいつは恐るべき大天才だよ」
「それを人に使ったお前はもっとおっかねえけどな」

 デルフリンガーが呆れたように呟いたその時、風竜の異常に気が付いたのか、警備の為に村中に散っていた兵士たちが広場に集まり続ける。

「どうした! 何事だ!」
「風竜が暴れ出したぞ!」
「と、止めろ! なだめるんだ!」

 どうやら、村中の兵士たちの注意を集める結果になったようだ。これは予想外であったが、エツィオにとっては好都合だ。
必死になって竜をなだめようとする兵士たちを尻目に見ながら、次の行動に移るべく、そそくさと移動を開始する。ここからは早さとの勝負だ。
敵兵達の視線が、竜に釘付けになっている隙に、納屋の前のアニエスに向け手を振り、合図を送る。
すると納屋の扉があき、中にあった農具で武装した傭兵達が他の捕虜が囚われている家畜小屋や武器庫に忍び込み、没収された武器を運び出してゆくのが見えた。
捕虜を解放し、武装を終えた傭兵達が、アニエスの指示に従い、それぞれの配置場所へと移動してゆく。
全員が配置についたことを確認したエツィオは、すぐに物陰に隠れると、兵服からアサシンのローブへと着替え、フードを被る。作戦開始だ。


「くそっ……! 貴重な竜が……!」
「一体何があったんだ? 急に暴れ出すなんて……」

 広場では、毒にのたうちまわっていた風竜がようやく息絶え、その巨大な身体を横たえていた。
その遺骸の周りに集まっていた敵兵達は、奇妙な急死を遂げた風竜を見て首を傾げていた。

「とにかく! これは責任問題だぞ! 原因を究明しろ! 最後に竜に触れた者は誰だ!」
「そ、それは確か……、あ、あれ? あいつはどこに……!」

 エツィオに餌を与えるように命じた騎士は、あわててその姿を探す。
その時だった、兵士が一人、息を切らせて広場へと駆けこんできた。

「大変だ! そこの草むらで、フェルトンの死体が見つかった!」
「な、なんだと! してみると、敵襲か!」
「それだけじゃない、死体から装備がひんむかれてやがった。俺達の中に、フェルトンに化けている奴がいる!」 
「と言うことは……、我々の中に敵の間諜がいるのか!?」

 その言葉に、兵達の間に一気に緊張が走った。見えぬ敵の姿に、誰もが剣、或いは杖の柄に手を伸ばす。
その時であった。兵士たちが集まる広場に不意に一つの影が差した。何事かと振り向いた兵士たちは、全員言葉を失った。

 兵達が視線を向けた先、村の寺院、そのファサードの頂上に立ち、天上に輝く二つの月を背にこちらを見下ろす一つの影。
目深に被った白のフードに、左肩に翻る血塗られた王家のマント……。その姿はまさしく、冥府より現れた死神のようだ。

「あ……アサシン……?」

 手配書となんら違わぬアサシンの姿を見た兵士が、戦慄いたように呟く。

「アサシン? あれがっ……!?」
「う、嘘だろ……? な、なんで奴がここにっ……!」

 動揺が、瞬く間に広場に集まった兵士たちの間に伝播してゆく。
それを俯瞰していたエツィオに、デルフリンガーが呟く。

「銃兵だ、相棒」

 その言葉に、エツィオは広場に集まった敵兵達の中から銃兵をすぐさま割り出す。

「魔法なら俺がなんとかできる。だが弾丸はそうもいかねえ、狙われる前に銃兵を先に潰しちまえ」
「そうさせてもらおう」

 エツィオは小さく呟くと、先手必勝とばかりに敵兵達の中心目がけて跳躍する、
同時に腰のナイフベルトから四本の投げナイフを両手で引き抜き空中からすかさず投擲。
ヒュンと音を立てて放たれた短剣は、死神が振う大鎌にも劣らぬ効果を発揮した。
眉間に深々と投げナイフが刺さった四人の兵士たちが、そのままどさりと地面に倒れる。
それとほぼ同時に着地したエツィオは、まるで猛禽が獲物を捕らえるかのように両腕のアサシンブレードで二人のメイジの首を貫く。
素早く死体からアサシンブレードを引き抜き、近くにいた敵兵の首や急所を、手当たり次第に切り裂き、貫いた。
横一文字に切り裂かれた敵兵達の首から真っ赤な鮮血が噴き出し、エツィオに降りかかる。その恐ろしい姿に、敵兵達がさらに竦み上がった。
その瞬間を見逃さず、エツィオは弾丸の様な速さで敵の間を駆け抜けながら、いつの間にか引き抜いていたデルフリンガーを振い、次々に敵兵達の胴体を薙いでゆく。
己の身を翻し、刃を閃かせるたびに、血しぶきが舞い、敵の身体が倒れてゆく。目につく敵をどんどん排除し、握ったデルフリンガーから鮮血を滴らせ、
弾を装填している銃兵達目がけ突っ込んでゆく。その突撃に完全に泡を食った銃兵達は、なすすべもなくなぎ倒されていった。
そして最後の一人である銃兵を斬り伏せようとした、その時。

「相棒! 後ろだ!」

 デルフリンガーの叫びに、エツィオは素早く反応し背後に向け剣を振う。
するといつの間に放たれていたのだろう、背後から飛んできた火の玉が振ったデルフリンガーの刀身に吸い込まれ、消えて行った。

「礼は後だ!」

 エツィオは叫びながら、すぐ後ろにいた銃兵の胸倉をつかみ、デルフリンガーの刀身を鳩尾に突き立てる。
それから死体とデルフリンガーを盾に、そのまま魔法を飛ばしてきたメイジの元へ猛然と突っ込んでいった。
呪文を放ったメイジは、その恐ろしい姿に思わずひるみ上がり、がむしゃらに呪文を放った、しかしその呪文のいずれもが、デルフリンガーに吸収され、或いは
哀れな味方の死体に阻まれ、ついにエツィオに届くことはなかった。
エツィオは盾となってくれた死体を払いのけ、デルフリンガーを小さく振い、最小限の動きでメイジの喉を切り裂いた、
切り開かれた傷口から、ぱっと鮮血が舞う。メイジは切り裂かれた喉を押さえながら、がくりと膝を突き、崩れ落ちた。
 そうやって兵士たちをことごとく斬り伏せたエツィオがついと振り向くと、その姿に慄いたアルビオン兵達が恐怖のあまり後じさった。

「どうかな? 彼らには申し訳ないが、今降伏すれば、命だけは助けてやるぞ」

 そんな彼らに血糊が付いたデルフリンガーを左手で振いながら、エツィオが提案をする。
すると士官と思われるメイジが、激昂した様子でエツィオに杖を突きつけた。

「ふっ、ふざけるな! 貴様こそ、この数の不利を覆せると思うなよ!」

 その言葉に、怖気づいていた敵兵たちが剣や槍を構え、エツィオの周囲をぐるりと取り囲んだ。
メイジである者は杖を構え、呪文を詠唱しエツィオに突きつける。

「ここから生きて帰れると思うな! アサシン!」
「受け入れてはもらえないか……」

 しかし、剣や槍、果ては杖に囲まれてなお、エツィオは泰然とした態度で不敵に微笑んでいる。
それからエツィオは小さくため息をつくと、すっと右手を高く掲げる。

「残念だ」

 そう呟くや否や、エツィオは高く掲げた右手の指をパチン! と鳴らす。
その瞬間であった。真っ先に激昂しエツィオに杖を突きつけていたメイジが、ぐるんと白目をむき、ばたりと地面に倒れ伏した。
何事かと、敵兵が一斉にそちらを見つめる。メイジの背には、一本の矢が深々と突き刺さっていた。

「なっ、なにっ!?」

 敵兵達の間に、再び動揺が走ったそのとき、エツィオを囲む敵兵達目がけ、大量の矢、或いはボルトが次々撃ち込まれてゆく。
完全にエツィオに気を取られていたアルビオン兵達は、闇に紛れ背後に回り込んだ傭兵たちに全く気が付くことが出来なかった。
傭兵達の奇襲に、アルビオン兵達はなすすべもなく体中に矢を受け、地面に伏してゆく。
それは杖を構えていたメイジ達も同じであった。杖を目印に集中的に狙われた彼らは、真っ先に多くの矢を打ちこまれ絶命していった。

「今だ! 突撃開始!」

 あらかた矢を撃ち終えたのか、アニエスが号令をかける。傭兵達はそれぞれの得物を構え、広場へと突っ込んで行く。
エツィオもそれに合わせ、デルフリンガーを構え、アルビオン兵の中に斬り込んで行った。

 アサシンの襲撃に傭兵達の奇襲、それにより士官のメイジを失い恐慌状態に陥りつつあったアルビオン勢、
片やガンダールヴの力を発揮したエツィオにアニエス率いるトリステイン傭兵隊、その戦いの優劣は最早火を見るより明らかだった。
あっという間に戦況をひっくり返し、広場にはアルビオン勢の死体がどんどん増えてゆく。
優勢を確信したエツィオは、デルフリンガーを振り回し、敵を薙ぎ払いながらアニエスに指示を出した。

「アニエス! 手勢を率いてあの屋敷に襲撃をかけろ! 指揮官はそこにいる!」

 アニエスはエツィオの指示に耳を疑った。敵の身体を蹴り飛ばし、よろめいたところを止めを刺す。
血の滴る剣を抜きながら、彼女はエツィオを問いただした。

「お前は!」
「広場を制圧する! 言ったろ! 手柄はきみたちに譲るって!」

 エツィオはフードの下でウィンクすると、左右から同時に飛びかかってきた男達を瞬時に斬り倒した。

「急げ! 奴を逃がすな!」
「簡単に言ってくれる……! 聞いての通りだ! 敵将はこの中だ! わたしに続け! 討ち取るぞ!」

 アニエスは手早く傭兵に号令をかけ、村で一番大きな屋敷に突入してゆく。
勝利を確信したエツィオは、広場に残る敵兵達を睨みつける。もはやアルビオン勢の気勢は削がれ、武器を捨て命乞いを始めるものまでいた。
制圧は最早時間の問題だろう。
あとはアニエス達が出てくるのを待つだけか……。そう思っていた時だった。

 突如、アニエス達が突入した屋敷の扉から烈風が吹き荒れる、それと一緒に、中から彼女と共に突入した傭兵達が扉を突き破り広場にまで吹き飛ばされてきた。
何事かと、エツィオが屋敷の扉があった所を睨みつける。すると中から、立派な杖を持ったメイジの貴族が姿を現した。
果たしてその貴族とは、先ほど風竜に乗って村に降りてきたアルビオン軍総司令官、サー・ジョージ・ヴィリアーズ公であった。
ヴィリアーズ公はゆっくりと広場を見渡すと、じろりとエツィオを睨みつけた。
なんとも威圧感のある男である、その男が姿を現しただけで、いつの間にか広場は静まり返っている。

「アサシン……! 貴様が……!」

 ヴィリアーズ公は立派なカイゼル髭を揺らしながらエツィオに杖を突きつける。
だがエツィオは億した風もなく、優雅に腰を曲げて見せた。

「これはこれは、ヴィリアーズ公、お目にかかれて光栄の至り」

 いかにもわざとらしい、皮肉を込めた慇懃な振る舞いに、ヴィリアーズ公は不愉快だと言わんばかりに顔をしかめた。

「ふん! 薄汚いアサシンめ! 私の首を狙いに来たか!」
「御明察恐れ入ります、閣下。つきましては、我が刃の露と消えていただきたく……どうか御覚悟のほどを」

 エツィオはフードの下に笑みを浮かべ、左手を差し出す、同時にアサシンブレードが弾け、袖口から鋭い刃が飛び出す。

「成程、今までお前が殺してきた我が同胞たちのように、私もまたその刃で討ち取ろうというわけか。だがそうはいかぬぞ、アサシン!」

 そう言うと、ヴィリアーズ公は後ろからぐいと何者かを引っ張り出した。
果たしてそれは、先ほどこの屋敷に突入して行った、アニエスであった。

「くっ……! アウディトーレ……、すまない……!」

 アニエスは申し訳なさそうに俯くと、悔しそうに唇を噛みしめた。
ヴィリアーズ公はアニエスに杖を突きつけ、己の正面にまるで盾にするように立たせた。

「人質か、人のことを汚いと罵る割には、そちらも随分と卑劣な真似をするじゃないか」
「ほざけ! 貴様がこれまで行ってきた非道の数々に比べればどうということではないわ!
不意を打ち、その薄汚い刃にて多くの貴族の誇りを散々に踏みにじってきた貴様に比べればな!」
「お前も貴族だろう? だったら彼女を解放しろ。お前達が誇りとする魔法とやらで俺を殺してみろ!」
「貴様は挑発のつもりだろうが……、私は見ていたぞ、その剣に魔法が吸い込まれてゆくのを」

 ヴィリアーズ公はねめつける様にエツィオの手元のデルフリンガーを見つめた。

「この女を離してほしいか? ならばその剣を捨てろ、そうしたら離してやるぞ」
「離してはだめだ! 離したら奴は魔法を放つつもり――あうっ……!」
「黙っておれ! ……さあ剣を捨てろ、アサシン。それとも、丸腰の女を見殺しにするのかね?」

 はっとしたように叫ぶアニエスの顔をヴィリアーズ公が殴りつけた。それからエツィオを見つめ、楽しそうに呟く。
 するとエツィオは肩を竦め、何を考えたか、手に持っていたデルフリンガーを地面へと放り投げた。
がちゃり、と音を立て、デルフリンガーが地面に転がった。

「馬鹿め! 卑しいアサシンめ! 死ぬがいい!」

 それを見たヴィリアーズ公は盾にしていたアニエスを突きとばし、エツィオに杖を突きつけ、勝ち誇ったように叫んだ。
その時であった、すっとエツィオの左腕が伸び、掌をヴィリアーズ公にかざす。その瞬間、耳をつんざくような轟音と共に、エツィオの指の間から白煙が上がった。

「……卑しいのはお前の心だ。その穢れた魂とともに朽ち果てよ。――眠れ、安らかに」

 ――どさり。と、直立不動のまま、ヴィリアーズ公の身体が仰向けに倒れ込む。
倒れ伏した彼の額には小さな穴があき、そこから鮮血が溢れ出て、見る見るうちに血だまりを作った。
 周囲にいた人間は、何が起こったのか全く理解できなかった。それはヴィリアーズ公の最も近くにいた、アニエスもだった。
ただ分かったのは、アサシンが手をかざした瞬間、ジョージ・ヴィリアーズが額に穴を開け、地面に倒れ伏したということだけである。

「ひっ……!」

 アルビオン兵の一人が、情けない声を上げ、持っていた武器を放り投げる。それからじりじりと後じさったかと思うと、踵を返し全速力で村の外へと逃げて行った。
それは他の兵達も同じであった。手を触れずして、文字通り一瞬で総司令官の命を奪ったアサシンに対する恐怖が、見る見るうちにアルビオン兵達の間に広がってゆく。

「し、死神だ……! 奴は死神だぁああっ!」
「た、助けてくれ! こ、降参だ!」
「殺さないでくれ! 投降する! この通りだ!」

 ある者は地に跪いて命乞いをし、またある者は一目散に村の外へと逃げてゆく。
エツィオは、もう戦いを続ける必要が無いことを確信すると、地面に転がったデルフリンガーを拾い上げ、呆然と座り込んでいるアニエスの傍へと歩いていった。

「無事か?」
「あ、アウディトーレ? い、一体何が……?」

 アニエスはヴィリアーズ公の死体とエツィオの顔を交互に見比べながら、訳がわからないと言った表情で呟く。

「さぁ? そんなことより、いま重要なのは……」

 そんな彼女にエツィオはニヤリと笑みを浮かべると、近くに倒れていた傭兵の死体から、彼の持っていた拳銃を拾い上げ、こっそりとアニエスの手に握らせた。
そのエツィオの意図を測りかねているのか、さらに首を傾げる彼女を引き立たせながら、エツィオは大声で叫んだ。

「諸君!」

 その力強く勇ましい声に、半ば呆然としていた傭兵達が、はっとした表情でエツィオとアニエスを見つめた。

「アルビオン軍総司令官、サー・ジョージ・ヴィリアーズは、彼女の機転によって討たれた! この戦、我らの勝利だ!」

 デルフリンガーを天高く掲げ、エツィオが叫んだ。

「勝利は我らの手に!」

 大胆な宣言に、傭兵達も拳を突き上げ、或いは武器を振りかざす。そして一斉に雄叫びをあげた。

「勝利は我らの手に!」
「うおおおおおおおおぉーッ!」
「勝った! 勝ったぞ! 俺達の勝ちだ!」
「アサシン! アサシンだ! 俺達にはアサシンがついてるぞ!」

 静寂に包まれていたタルブの村に、勇ましい勝利の雄叫びが響き渡る。
傭兵達の歓喜に包まれる中、ただ一人、エツィオの隣で呆然としていたアニエスは、慌てたようにエツィオに喰ってかかった。

「へっ!? いやっ! ちょ、ちょっと待て! わ、わたしが……、わたしが討っただと!?」
「ああそうさ、やったじゃないか、大手柄だ」

 悪戯っぽく微笑みエツィオがウィンクする。

「いや! しかし!こ、ここ、この戦果は……っ!」
「よかったじゃないか、うまくいけば貴族の地位だって夢じゃないんじゃないか?」

 泡を食ったように慌てるアニエスを見て、エツィオはとぼけたように言った。
それからエツィオは傍らのヴィリアーズ公の死体に近づくと、驚愕に見開かれたままの彼の瞼をそっと閉じ、顔を整える。暫しの間瞑目し、祈りを捧げる。
そんなエツィオを見て、アニエスは小さく首を傾げた。

「何を……しているんだ?」
「祈りをな、死者には敬意を払うべきだ」

 生憎、信仰するものは違うけどな。と、エツィオは小さく呟く。
 アニエスはそんな彼の左肩にあるマントを見つめた。血で赤黒く染まったアルビオン王家のマント。
それを纏ったアサシンの噂は、当然彼女の耳にも入っていた。だとすれば、彼こそが『アルビオンの死神』その人なのだろう。

「『死神』と呼ばれるお前がか?」

 アニエスが、わずかに皮肉をこめた調子で尋ねる。
アルビオン軍に『死神』の二つ名で呼ばれ、恐れられるアサシンが、自ら手に掛けた標的に祈りを捧げるなど、まさに皮肉のように思えたのだ。

「そう蔑まれてもだ」

 そんな彼女の問いに、エツィオは顔色を変えずに答え、立ち上がった。

「……すまない。しかし、まさかお前があの『アサシン』だったとはな。何故もっと早く言わなかったんだ?」
「言っても信じてもらえないと思ってね」
「普段から真面目に振るまってりゃ、そうはならないんだがねぇ」
「ほっといてくれ」

 デルフリンガーの茶々に、エツィオはむっとした表情で、つまらなそうに腕を組んだ。
それから気を取り直す様にアニエスに視線を向け、肩を竦めて見せる。

「さてアニエス、こうして総司令官を討ちはしたが、残念ながら戦はまだ終わってはいない、異変に気が付いた草原の部隊がこちらにくる可能性もある、迎撃の準備に取り掛かろう」
「あ、ああ……そうだな」
「連中に総司令官の死が知れ渡るまで時間を稼ぐ。何としても生き残らなきゃな」

 エツィオの言うことにも一理ある、アニエスは素直に頷き、未だ広場で歓喜に沸く傭兵達に向け大声で叫んだ。

「聞いたな! 全員! 迎撃の準備――」
「待った」

 アニエスがそこまで言った時だった、突如エツィオがそれを遮り、前に進み出た。

「諸君! その前にだ!」

 引き継ぐように叫ぶエツィオに、何事かと傭兵達が首を傾げる。
そんな彼らをよそに、エツィオはぐるりと広場を見渡す。戦士者達には既にハエがたかり始めていた。

「死者を弔おう、手伝ってくれ。……仲間の死体を、野ざらしにはできないだろう?」

 エツィオはそう言うと、前へと進み出て、戦死した傭兵の死体を担ぎあげた。
そんな彼を見た傭兵達は顔を見合わせると、誰ともなくその後に続き、死体を運び出し始める。
誰もが怒りと悔しさを噛みしめながら、そして死した戦友達と共に勝利を噛みしめながら、黙々と亡骸を弔った。


 さて、時は遡りエツィオがラ・ロシェールに向かい馬を走らせていたその頃……。
こちらはトリステイン魔法学院のルイズの部屋。
入浴を終え、部屋へと戻ったルイズは、ふらふらとベッドに近づき、ばたっと倒れ込むと枕に顔を埋めた。
今の様な気分の時は誰とも会う気がしない。ベッドの中に閉じこもり、食堂に食事に行く時と、入浴の時だけ部屋を出た。

 ギーシュの部屋にエツィオが転がり込んでいる事は知っていたので、先ほどギーシュが一人でいるところを捕まえ問いただしたら、
エツィオは何とあのメイドと共に彼女の故郷……タルブの村へと出かけてしまったのだという。
 ひどい。それを聞いたルイズはますます悲しくなった。ショックで頭の中は真っ白になり、どうやって部屋まで戻ってきたか思い出すことが出来ないほどだ。
そうしてベッドに倒れ込んだルイズはしくしくとすすり泣いていた。悔しさと切なさで、どうしても泣けてきてしまうのだった。
そんな時、ベッドの端に置いてあった『始祖の祈祷書』が、どさっと床に落ちてしまった。
気が付いたルイズはもそっと身体を起こす、目を擦りながらそれを拾い上げようと、床の『始祖の祈祷書』へと手を伸ばした。
おや? 視界がぼやけた。そして、落ちた際開いた白紙のページに、一瞬、文字の様なものが見えた。
ん? とルイズは目を凝らす。しかし、次の瞬間、それは霞のようにページの上から消えていた。
今のはなんだろう? と思ってページを見つめた。しかし、もう、そこには何も見えない。
気のせいかしら、目が疲れてるのね……。と思った。どれもこれも、全部エツィオの所為よ。とルイズは呟き、『始祖の祈祷書』を拾い上げた。
その時、ふとその横に落ちていた、くしゃくしゃに丸められた紙片が目に入った。見るにどうやら手紙のようだ。
なにかしら? と首を傾げながらルイズはそれを拾い上げ、紙片を広げる。そして中身に目を通して言葉を失った。

 中身は、先日エツィオが部屋の隅に落としてしまった、マチルダの手紙であった。
そこにはアルビオン軍が、すぐにでもトリステインに攻め込んでくるということ、
そしてその戦場がラ・ロシェールにほど近い、タルブの草原であろうことが事細かに記されていたのだ。
手紙の差出人にあるマチルダという名、それが誰なのか、そんなことは今のルイズにとってはどうでもよかった。
重要なのは、アルビオンの侵攻が予定通り行われるであろう、という文面であった。
 そしてその戦場となるタルブの草原……。ルイズははっとした表情で顔を上げた。エツィオが向かったというメイドの故郷である村の名前と同じ……。
 くしゃくしゃに丸められた手紙、エツィオが向かったというタルブの村、アルビオンによる侵攻。
どうにも嫌な予感がする。まさかエツィオは、トリステインに攻め込もうとしているアルビオン軍を迎え撃つためにタルブに向かったのだろうか?

「まさか……そんなっ……!」

 湧き上がる不安に居ても立ってもいられなくなったルイズは、ベッドから立ち上がると、『始祖の祈祷書』と杖を手に、部屋を飛び出した。
階段を駆け下り、学院の正面広場まで一気に飛び出した。その時である。
トリステイン王立衛士の制服を着た一人の使者が、息せき切って現れる。
 彼はオスマン氏の居室をルイズに尋ねると、足早に駆け去って行った。
その尋常ならざる様子にルイズは胸騒ぎを覚え、使者の後を追った。

 オスマン氏は、式に出席するための用意で忙しかった。
一週間ほど学院を留守にするため、様々な書類を片づけ、荷物をまとめていた。
 その時である、猛烈な勢いで扉が叩かれた。

「誰じゃね?」

 返事をするより早く、王宮からの使者が飛び込んできた。大声で口上を述べる。

「王宮からです! 申し上げます! アルビオンがトリステインに宣戦布告! 姫殿下の式は無期延期となりました!
王軍は現在、ラ・ロシェールに展開! したがって、学院におかれましては、安全の為、全生徒と職員の禁足令を願います!」

 オスマン氏は眉を顰めた。

「宣戦布告とな? なんと……戦争となってしまったか……。現在の戦況はどうなっているのかね?」
「は……はっ! あらかじめアルビオンの奇襲を察知していたことが功を奏し、制空権を奪われることなく、現在五分の状況に持ちこんでいる状況です。
しかし、地上部隊の降下を許してしまい、アルビオン軍はタルブの村を占領、現在地上部隊の本隊がタルブの草原に陣を張り、我が軍とにらみ合っている模様です」
「ふむ……ちと厳しい状況のようじゃな」

 こうなることを予期していたとでも言うのだろうか、冷静に聞き返してきたオスマン氏に、少々戸惑いながらも使者は答えた。

「同盟に基づき、以前よりゲルマニア軍への派遣を要請していましたが、有事が起こらぬ限り動かぬと一点張りでして……、先陣が到着するのは、三週間後とか……」

 オスマン氏はため息をついた。

「杞憂で終わればよかったのじゃがな……大鷲の働きも無に帰してしまったか……。あいわかった、すぐに禁足令を出そう、伝令御苦労じゃった」


 学院長室の扉に張りつき、聞き耳を立てていたルイズは、戦争と聞いて顔を蒼白にした。手紙を握った手に力がこもる。
タルブの村が戦場に? そこはエツィオが向かった村ではないか!
そこまで考えが至った瞬間、ルイズはすぐに踵を返し、走りだした。転がるように階段を駆け下り、息を切らせて馬小屋へと向かう。
鞍の付いた馬を一頭引っ張り出し、ひらりとそれに跨った。馬の腹に蹴りを入れ、学院の外へと走りだそうとした、その時である。
 学院の正門の向こうから、一人の人物が、馬を走らせてくるのが見えた。
ルイズはその人物に見覚えがあった、あれはたしか、エツィオを追いだすにいたった原因であるあのメイド、シエスタではないか!
しかし、見えるのは彼女だけである、エツィオと共にタルブへ出かけたと聞いていたが、そのエツィオがどこにも見当たらない。

「シエスタ!」

 ルイズが大声で名前を呼ぶと、シエスタははっとした表情で馬を降り、息せき切ってルイズの傍へ駆け寄った。

「ミ、ミス・ヴァリエール!」
「シエスタ! エ、エツィオは! エツィオは一緒じゃないの!?」

 ルイズも馬から降り尋ねると、シエスタは目に涙を浮かべながら激しく首を振った。それから自分達の身に起こったことをルイズに報告した。
エツィオと共にタルブに向かってる途中、避難するタルブの村人達と出会ったこと。
家族と共にトリスタニアへ向かい、落ち着いたらオスマン氏にこの事を報告するようにエツィオに指示されていたこと。
そして、やることがあると、エツィオはタルブへ向かったと言うこと。

 それを聞いたルイズの頭の中で全てがつながった。
ルイズはポケットから、丸めて突っ込んだ手紙を取り出し、それを広げると、呻くように呟いた。

「あいつは……全部知ってたんだわ」
「え……?」

 戸惑う様に首を傾げるシエスタにルイズはその手紙を手渡す。

「多分だけど……、あんたとタルブに行ったのは、村人達を避難させるためだったんじゃ……」

 推測にすぎないが……、抜け目のないあの男のことだ、見ず知らずの他人の自分が行ったところで警告を聞きいれてもらえる可能性は低い。
それゆえに、多少危険に晒してしまうことになっても、タルブ出身者のシエスタを同行させたのではないか。

「そんな……エツィオさん……」

 ルイズは再び、馬に跨った。
手紙を読み、言葉を失っていたシエスタは、はっとした表情でルイズの足にすがりついた。

「ミス! どこへ行くつもりなんですか!」
「タルブよ! そこにエツィオがいるんでしょ!」

 それを聞いたシエスタは顔色を変えた。

「ダ、ダメです! 戦争なんですよ!? 行ったら死んじゃいます! それにエツィオさんが学院から誰も出すなって!」
「離して! エツィオが行ったのよ! あいつが死んでもいいの!?」
「エ、エツィオさんは、様子を見たら、すぐに戻るって……!」
「様子を見る? あいつがそれだけで終わらせる筈がないじゃない! あいつはっ……!」

 アサシンなのよ! そう言おうとして、はっとした。以前オスマン氏に聞いた、とあるアサシンの話を思い出したからだ。
エツィオのルーツ。アサシン教団の伝説。
『戦争を終わらせるために、両勢力の要人達を暗殺した』

「あっ……!」

 ルイズの頭の中で、悪い予感がどんどん膨らんでゆく。
ひょっとしたらあいつは、『戦い』に行ったのではなく、『暗殺』をしに行ったのではないか?

「や、やることって……、まさか……あのバカ……!」
「あ、あの……ミ、ミス?」

 顔色を蒼白にし、ふるふると頭を振るルイズに、尋常じゃない雰囲気を感じたのか、ルイズの足を掴んでいたシエスタの手の力が緩む。
その時である。ルイズが突然馬を走らせ、わき目も振らずにタルブへと向かう街道を駆けだした。

「ま、待って下さい! ミス! わ、わたしも行きます!」

 一人取り残されたシエスタは、慌てて自分の乗ってきた馬に跨ると、ルイズを追い馬を走らせた。




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