あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのドリフターズ-03



 ピンッと張り詰めた糸のように――意識の水面を揺らすことなく心を澄ます。そこにはひとしずくの波紋もいらない。
極限まで高められた集中力は、自覚することなく・・・・・・感覚全てであらゆる情報を余さず捉える。
一分の隙もなく、最適解を導き出す。行動をする上で最も理想的な形、意識する無意識――無意識の意識。
言うは易し行うは難し。されど追い求め続ける無想の極地。あらゆることに通ずるコンセントレーション。
有意識と無意識の狭間でうつろいながらも、シャルロットは握り、抜き、起こし、引いた。

 破裂音と同時に掛かる反動を受け止め流す。
照準をつけて撃鉄を起こして引鉄を引く行為を、さらに五度繰り返す。
遠間にある土柱に向かって音と共に弾痕を刻んでいく。

 "コルトシングルアクションアーミー"。通称"ピースメーカー"。
ワイルドバンチの二人が、元の世界の逃亡中に奪った品物の一つである。
こちらの世界では珍重なその銃を一挺と、ガンベルトまで貰い受けた。
伯父のコネで持っていた火打ち式の銃とはまるで比べ物にならないシロモノ。
精度も、連射性能も、射程距離も、安全性も、取り回しやすさも、全てにおいて桁が違っていた。

 シャルロットの手の中にある"コルトSAA"の"フロンティア"モデル。
ブッチやキッドも使っている、オーソドックスな"弾薬式"のリボルバー。
この"弾薬"というものを実際に見て・・・・・・使って、シャルロットは感動を覚えた。
同時に漂流物の持つ知識や技術が、心底恐るべきものなのだとも実感する。

 弾丸と発射薬と雷管と薬莢を一体化させた、自己完結型のカートリッジ。
金属の筒に火薬を入れ、弾丸をセットし、底にある起爆剤を叩くことで爆発させる。
ハルケギニアにも鉛弾と火薬を紙で包んだペーパーカートリッジは存在する。
しかしそこからの発想と進化が凄まじい。自己完結型となったことで銃そのものが様変わりした。
紙の弾薬包を利用する場合、機構や安全性の問題上どうしても信用に欠けていたことが可能となったのだ。
即ち――予め複数の弾薬を込めて安全に置いておき、自由に撃つことを可能にした『連射式』の銃。

 弾の方を改良したことにより銃そのものが全く別の進化が成ったという、まさに目から鱗が落ちる思い。
ハルケギニアで普及している新式のマスケット銃が、化石にも思えるほどである。

 さらにキッドが持つウィンチェスターライフルは、レバーを倒して戻すだけで排莢と装填を行える。
コルトSAAと弾薬を共用可能で、実用性を追求した機能美をも感じられる。
またブッチがもう一挺使っているパーカッション式リボルバーを見ても、銃そのもののを改良する発想と技術も驚嘆すべきもの。

 同時に何故これほどのものが普及しないのか――謎であるとも感じる。
数ある漂流物の中には漂流者も含め、知識や技術を持つ者は昔から存在していた。
単純に、別世界の圧倒的な技術力の高さ。そしてハルケギニアの冶金技術の低さなどもあるだろう。
されどどうあっても実現出来ないかと言えば・・・・・・否である。
時間は掛かってもしっかりと工程を確立させれば、世界の違いこそあれど同じ人間である。
いつかは完成形を見られるだろう。しかし現状そうはなっていない。

 考えられるとすれば、魔法の存在とそれを扱うメイジの立場・・・・・・なのか。
弾薬は確かに破格の技術、実現させれば魔法が飛び交う戦場にも大きく変化は顕われるに違いない。
精度が高く連発する銃が相手では、これまでの先込め式の銃や弓・弩と違って、一瞬たりとも気を抜けない。
さらにその技術のスケールを大きくして、大砲などに流用したのであれば、もはや魔法では防げないレベルになるだろう。
だからこそ自分達の地位を揺るがし崩しかねない――絶対的な力量差を埋めかねない弾薬と銃の存在を認められないのだ。
平民が――貴族を――脅かすなどあってはならないということが、技術革新に蓋をしているのだろう。

 シャルロットはさらに深く考える。異世界の工芸品を無差別に吸収した場合の弊害――
"技術と技術の間隔に疑念を持てなくなる。技術と技術の間には大事な関連がある"。
"連鎖・反発・蓄積・・・・・・見比べることで新たな発見もある"。
"異世界から次々と完成品だけを手渡され、その間に蓄積されるべきものを、十分に考察出来なくなる"。
つまりは『異世界文明』にその進化と発展を、おんぶにだっこしてしまうことになりかねない。
便利な物だからと、ひたすら取り入れ続けること。その道具や技術を軽い気持ちで行使すること。

 それはいつか――"持て余すナニカ"がもたらされた時、正しくそれを扱うことが出来るのだろうか。
異世界と切り離された時に、"後戻りの出来ない間違い"を犯してしまうことになりはしないだろうか。
"身に余る道具や技術は――悲劇を生む"ことにもなりかねない危険を孕んでいるのだ――

(――・・・・・・なんて、私が考えていても仕方ないか)
自分はたかが一生徒に過ぎない。いくら己が考えを巡らせても詮無いことだ。
それでも世界は回っていくし、漂流物は流れてくるのだろう。

 シリンダー内の空薬莢はそのままに、まだ熱を帯びたままの銃を手の内でクルクルと回して弄ぶ。
回転を維持させたまま、腰に着けた皮製のホルスターへとしまう。さらに即座に抜いて、構えて、戻すを繰り返す。
放り投げたり、回したり、何度も素早く出し入れしたりと・・・・・・。
銃――武器――をあたかも手足の延長にするかのように、馴染ませるように遊ぶ。
・・・・・・待ち人が来たるまで。


「やっほ~」
声のした方向――空――を見上げるまでもない。すぐにその人物は使い魔から降り立った。
「おはよう」
「おっはよぅ!」
朝日のような笑顔でジョゼットは挨拶を返す。次いで発せられる"竜の言葉"。
「おはようなのね」
ジョゼットの使い魔"風韻竜"イルククゥ。本来竜は言葉を喋ることは出来ない。
しかし目の前の竜はそれはとても珍しい種族であった。

 "韻竜"という種はとりわけ知能が高く、言葉を介し、話し、そして『先住魔法』をも使うことが出来る。
メイジが使い魔として召喚可能な存在では最高峰であろう。
その一点だけでも、ジョゼットの実力は凄まじいものなのがわかる。

「またいつものなのね」
使い魔になって日の浅いイルククゥも流石に慣れてきた。日課となっている二人のこと。
ジョゼットは杖を大仰に振り回して準備運動を行う。父から貰った木製の長杖。
通常――杖はコンパクトで携帯性に優れたものが好まれ、それが主流である。
軍人であればシャルロットが持つように、杖を仕込んで剣に加工したものや、軍杖を使う場合がある。
しかしジョゼットはメイジの中でも珍しく、自分の背丈よりも少し長いその杖を気に入っていた。

 シャルロットは木剣を取り出すと、体を不動のままに腕だけで何度か振る。
剣先を丸くし、本来扱うサーベルと同じ重量・重心になるよう鉄芯を入れて調節された鍛錬用の特注品。
それでもやはり僅かにだが本物とは勝手が違う。よって都度感触を確かめる。
ウォーミングアップを終えて完全に構えに入った二人を見て、イルククゥが叫ぶ。

「はじめー!! なのね」
イルククゥの開戦の合図に応じて、二人は剣と杖をぶつけ合う。
回復魔法がある為に、多少無理をしても問題ない。
徐々にギアを上げて本気になっていく似たもの姉妹を、風韻竜は外野から応援する。

「いけー! そこ! あぶないのね!!」
シャルロット、ジョゼット、共に集中する二人の耳に雑音などは聞こえない。
それでも観戦するイルククゥは声を張り上げ続けた。
今この時間は・・・・・・イルククゥにとって言葉を話せる数少ない時間だからである――

 韻竜は絶滅したとすら噂される程に希少な種族で、そういった生き物を狙う好事家な貴族もいる。
様々な生物などを掛け合わせて、合成生物たるキメラを作り出すような研究者や機関なども公ではないが存在する。
トリステイン王立魔法研究所。通称"アカデミー"でも、今でこそ非人道的実験はない――と言われている。
――ものの、一昔前ならば平気で解剖して生体を探るようなこともしていたと聞く。
まだ幼生のイルククゥを拘束、解剖ついでに尋問・拷問を加える。
さらに魔法薬で精神を廃にしてでも隠れ棲む韻竜達の所在を聞き出し、乱獲するようなことも辞さなかったかも知れない。

 とにかく危険な立場であることには変わりない。
知っているのもジョゼット、シャルロット、イザベラの三人のみ。
姉妹達と自分の他に誰もいない状況でしか話せない・・・・・・お喋り好きな風韻竜。
「ああっ!! 惜しいのね、もっとこう――」
イルククゥは今この場に、外の世界を堪能出来ることに喜びを感じていた。
召喚される日まで鬱屈とした制限だらけの生活だった。召喚に応じて学院に来た時は戸惑いもした。
周囲をガキに囲まれて叫んでやろうとでもした瞬間、それはジョゼットにすぐさま耳打ちされて止められた。
――危険であると。

 普段からおてんばなジョゼットだが、総じて要領が良く抜け目はない。
伊達に元ガリア王族という立場でもないし、酔狂でシャルロットの妹をやっているわけでもない。
試験が近くなれば猛勉強するし、召喚の儀が近付けば予習に予習を重ねて夢を膨らませた。
あらゆる召喚生物を調べていく内に、韻竜は普通の竜と瞳が違うことも知識として入っていた。
ゆえに取り返しがつかなくなる前に、その場ですぐに機転を利かせて耳打ちしたのだ。

 いざ契約し、話せば話すほどにジョゼットを知り、同時に実力あるメイジであることも知った。
イルククゥも将来性含めて、ジョゼットの使い魔になれたことを喜び慕った。
「イケー!! いくのねー!!」
集中力が切れてきてイルククゥの声がジョゼットの耳に聞こえてくる。
毎回試合うたびに同じ事を思う。シャルロットは強い。ここずっとは本当に勝てていない。
今では杖と剣のリーチ。間合の利ですら微塵にも覆せないほど。

 わたしは決して弱くない、むしろ強い。それでもなお、姉はその五歩先には行っている。
未だに息を乱さず、冷徹な試合運びを展開"させられる"。
でもそれでいい。それでこそ追いかけ甲斐があるというものだ。

 そして何合とぶつけ合う内に、ついに握力が杖を手中に保持出来なくなった。
長杖を弾かれ、バランスを取りきれずにそのまま尻餅をつく。
「あーーーっっ!! う~」
木剣が素早く首元まで突きつけられ、イルククゥのガッカリした声音も響いた。

「・・・・・・はい、いつも通りシャルロットの勝ち」
ほんの少しだけの意地。あたかも余力を残したようなトーンでそうジョゼットは言った。
「そう、いつも」
シャルロットの微笑み返しを見つめる。今に見ていろ、勝ってやる。
そう思うものの、そう考えていることすら読まれてそうな気がした。双子だから以心伝心なところもある。

「んしょっと!!」
ジョゼットは勢いよく立ち上がって、埃をパンッパンッと叩いて払ってから杖を拾った。
それから二言三言、イルククゥも交えて他愛もないことを話しながら体を休めて呼吸を整える。
「ふぅ・・・・・・次いこっか」
さっきのは純粋な肉体だけの試合。今度は直接攻撃魔法等はなしで補助魔法は有りの勝負。

 シャルロットは左手でナイフを抜いて剣と短剣の二刀流になる。
ジョゼットはより前傾に長杖を構えて、姿勢を低くした。
『飛行』<フライ>を唱えると、風を味方に地上にいながらにして高速機動戦闘を展開させた。


「――ん、そろそろ」
昇る陽の加減を見て、シャルロットが途中で闘争を閉じる。――次の約束が待っていた。
それぞれ打ち身を水魔法で治癒させて、揃ってググッと体全体で伸びをした。

「それじゃあ・・・・・・乗ってく?」
「是非乗るのね!!」
イルククゥはまだ幼生ながらも竜だけあって大きく、全長にして6メイルはある。
人一人余計にどころか、数人乗せても問題なく飛べるくらいであった。
「ううん、また今度」
「そ、綺麗なのにな~」
今くらいの時間だから堪能出来る絶景がある。だからこそシャルロットは時間を忘れそうで断った。
それにそろそろまとめておきたい考えがあった。――ワイルドバンチの二人に対して。

 ジョゼットは『浮遊』<レビテーション>を唱えてイルククゥに乗る。
「それじゃ、キッドさんとブッチさんによろしく!!」
「またなのね」
舞うように飛び上がる妹と使い魔を見上げる。唯一無二の双子の妹。大事な大事な双子の妹。

 今でこそ滅びたガリア、王家の紋章は"交差する二本の杖"。
それはかつて・・・・・・千年単位で数える途方もない昔、王位を巡って骨肉の争いをした双子の兄弟。
最終的に共に死んだとされる双子の兄弟。そんな二人を慰める為のものであったという。
同時にガリア王家にとって、双生児というものは忌むべきものとして扱われていたらしい。
長い長い歴史の中で、それ以降ガリアに双子の記録は存在しなかったそうな――
はたしてそれは単純に生まれなかったのか、それとも・・・・・・"ないもの"とされてきたのか。

 仮に・・・・・・自分達姉妹が王家のままであったらと思うとぞっとする話だ。
もしかしたら片方が亡き者とされていたのかも知れないのだから――
離れ離れになっていたかも知れないのだから。

「さてと」
あっという間に空の彼方へと消えるジョゼットとイルククゥを見届けてシャルロットは歩き出す。
シャルロットはまたコルトSAAを抜いて手遊びをしつつ、考えながら寮塔の自室へと戻った。


 コルトSAAのローディングゲートを開けて、一発ずつ空薬莢を排出して弾薬を装填していく。
普段使いであればその数は5発。落としたり、撃鉄が誤って押し込まれた時に暴発させない為だ。

 キッドとブッチが召喚されて一週間。
契約したあの日、コルベールが戻ってきてルーンのことが判明した。
キッドの額に刻まれた『ミョズニトニルン』。ブッチの左手に刻まれた『ガンダールヴ』。

 二人にとっては単に便利な程度のもの。されどハルケギニアの人間にとっては特別な意味を持つ。
メイジの始祖たる伝説のブリミルが従えた使い魔が刻んだとされる四つのルーン。
――理由はわからない。シャルロットにせよルイズにせよ、そこまでご大層なメイジではないのだ。

 その後オスマンとも話し、とりあえず学院に一時身を置くことになる。
その上でルーンのことは秘匿し、漂流者という立場としてのみ王宮に判断を仰ぐことになった。
二人は体と衣服を洗い、食事を摂って眠った後、次の日には揃って熱を出して寝込んでしまった。
最初こそ感染症や、下手すると世界単位での風土病やもと思った。
が、杞憂だった。単に肉体的・精神的な疲労が、気が抜けたことで吹き出したのだろうとのこと。

 あとは保健担当の者に任せて自分達は、"一つだけ違った"普段通りの生活へと戻った。
"魔法が使えるようになった"学園生活。当たり前の――夢見た――生活。
しかしコモン・マジックは使えるものの、系統魔法は未だに覚えられなかった。
コモン・マジックにしても、本来の効力には及ぶべくもないささやかなもの。

 通常、術者に合った系統魔法を唱えると、体中を魔力がうねるような感覚があると言われている。
けれど火水風土、それぞれ"試してみた"もののそういった感覚はついぞなかった。
それでも今まで全くと言っていいほどに使えなかった魔法。
コモン・マジックを僅かにだけとはいえ足掛かりが出来たのだ。
何一つ見込みがなかった昔よりは、遥かにマシな状況であるし気楽である。
これまで通りに気長に諦めず、努力を継続し待つこととした。

 トレーニング着を脱ぎ、濡らしたタオルで汗や体をしっかり拭いてから制服に着替える。
改めて"弾帯"を腰に巻き、"短剣"を後ろ腰に、右腰に"銃"、左腰に"剣"、"飛ヒョウ"を挿したベルトを太股に巻く。

 常在戦場。いつかは父様のように自分も前線に出ることになるだろう。
そうでなくとも情勢不安な昨今、常に万全の備えをしておいて損はない。憂いはなくしておく。
そして今の状態で動くことに慣らしておく。あらゆる状況に備える為の装備の数々。

 はっきり言ってしまえば異様。学院内の誰であってもここまで重武装している者はいない。
それも当然。メイジともなれば杖一本があるだけで、重装備しているのと変わらない。
魔法だけで攻撃も防御も速度も、全て魔法によって補える。
メイジの実力如何によっては、私が備えている装備の"殆ど"が通用しない。

 はずしていたリボンで髪を後ろでポニーテールにまとめ直し、身だしなみを整える。
赤縁眼鏡を掛けて最後にマントを羽織って鏡を見ると、くるりと一回転した。
マントと長めのスカートがフワッと軽く浮き、剣以外が目立たなくなるのを確認する。
シャルロットは、あまり遅くならぬよう早足気味で部屋を出た。


 シャルロットは向かった先の塔の部屋の扉をコンコンッとノックする。
返事を待ってから部屋へと招き入れられると、キッドとブッチへと挨拶した。
「おはようございます」
「おはよう」
「お~っす」
二人の為に用意された一室、ベッドの他にも生活用具一式が揃った部屋。
シャルロットは用意されている椅子へと座る。テーブルには本が数冊積まれていた。
それは言語のハウツー本。本来漂流者は、ハルケギニアとは一線を画す言語体系を持っている。
あれから詳しく調べてわかったことなのだが、漂流者達も出身や時代すら違う場合が多々あるのだ。

 ゆえに漂流者同士ですら、言語は基本的に通じない。
キッドとブッチのように、同じ国の同じ時代の人間が珍しいほどに。
当然ハルケギニア――旧ガリア公用語なども通じない筈なのだが・・・・・・。
召喚されたおかげなのか、何故だか言葉は最初から通じていた――ものの、文字は読めなかった。

 最初こそ言葉が通じるならと二人共面倒臭がっていたが、前の世界でも色々苦労したとかなんとか。
原因が不明だからこそ万が一を考えた時に、最悪読み書きくらいは出来ないと不味いと思ったそうな。
結果、朝の暇な時間に可能な限り教えることになった。

 シャルロットとしても、名家のルイズほど金銭的な面で援助が出来ない。
だからこういった部分でサポート出来るのは望むところであった。
と言っても、召喚か、はたまたルーンのおかげか、覚えるのが異様に早かった。
数日にして教えることがなくなってきたほどである。

 ――二人の環境に関して補足すれば、つつがなく使い魔として認められた。
召喚と共にやって来た結構な量の荷物も、数々の身に付けている衣服や武具も全て所有権を認められた。
他国ではともかく少なくともトリステインでは、漂流者の人権は大いに尊重されているおかげもあろう。

 通常自由意思こそ尊重されるものの、好き勝手やられても問題あるので大抵は監視などがつく。
しかし召喚された漂流者という特異性。召喚と契約そのものが持つ神聖性・不可侵性。
きちんとした生活の保障。さらにはルイズが名家で。しかもアンリエッタ王女殿下と幼馴染というのが大きかった。
よって諸々含んだ上でお預かりという形で認められることとなった。

「お二人は・・・・・・今後どうされるおつもりですか?」
「まだ決めてねぇな」
「意外に快適だからね」
シャルロットとしては意を決して尋ねたのだが、ブッチとキッドは軽い気持ちで答える。

 飯は美味いし、ベッドでの睡眠は気持ちが良い。女も街に出れば買える、何不自由ない暮らしだった。
ドンパチは散々っぱらやった所為でしばらくはお断りだった。
酒も煙草も少し勝手は違うものの、こっちはこっちで美味い。
豪遊とまではいかずとも、当分はこんな暮らしも悪くないのは確かであった。

「・・・・・・その、こう言うのも難ですが・・・・・・強盗とかしたいとは思わないのですか?」
壁の穴強盗団"ワイルドバンチ"。
言語を教える以外にも暇があれば互いの歴史や生い立ちなどを勿論話した。
漂流物――未知の世界からやってきた者達。月が一つしかなく、魔法の存在しない世界。
知識欲の旺盛なシャルロットでなくとも、好奇心をそそられるというもの。それにそれは逆も言えた。

 ハリー・アロンソ・ロングボー――サンダンス・キッド。

 ロバート・リロイ・パーカー――ブッチ・キャシディ。

 二人にとって異世界は生活面に際しても知りたいことは多い。
元の世界ではワイルドバンチ強盗団として活動していた。異世界と犯罪者、二重の意味で住んでいた世界が違う二人。
聞こえは悪いが二人を管理する立場としては、はっきりと言っておかねばならぬこともある。

「あ~? ・・・・・・まあ金に困ってるわけじゃねえから特にやるつもりはないが」
「異邦人だし、かなり勝手は違うだろうね」
ボリビアに渡ってからの苦労は、言語の違い含めて散々な労力であった。
魔法なんて存在する世界で強盗をするには、リスクも高いしあまりに認識が違い過ぎる。

「文化が違ーう、ってやつですか。なら・・・・・・いいのですが・・・・・・」
「歯切れが悪いね」
顔色を読んだキッドが聞く。シャルロットは逡巡するも腹を決めた。
まだそれほど日は経ってないが、ある程度の信頼を築けていると勝手にだが思っている。
彼らは狂っている人間でもないし話も通じる。きっぱりと言ってしまってもいいだろう・・・・・・と。

「漂流者は本来厳格な監視が必要な存在です。オルテ国・・・・・・話しましたよね?
 私の祖国を滅ぼし建国したのも漂流者だと言われています。
 持っている衣服も武器も知識も技術も、代え難いものであると同時に危険視されるものなのです。
 人権こそ認められていますが動向には厳重な注意が払われます。
 最悪拘束されることもありますし、犯罪行為などもってのほかです」

 シャルロットは毅然とした口調と語気で、敢えて強めの言葉を使って濁さずにしっかり言う。
キッドとブッチも茶化さずに、真剣にそれを聞いてくれていた。
「キッドさん、ブッチさん、二人の処置もあくまで暫定的なものでしかありません。
 被召喚者であること、またトリステイン有数の貴族であるラ・ヴァリエールと深い関わりがあること。
 そのルイズと一応私が生活を保障し、手綱を握るという条件で辛うじて今の状態があるということ。
 ・・・・・・それらを忘れないで欲しいんです。つまりは強盗や殺人など犯罪行為は決して行わないで下さい」

 そうしてシャルロットは頭を下げた。
勝手に召喚しておいて、無礼な物言いに対する謝罪と・・・・・・お願いの意味を込めて。
キッドとブッチは少しだけ視線を交わす。
極貧生活で追い詰められるようなことがない限りはもうやらないだろう。
つまり漂流者であればその心配はない、何かしらの形で保護が求められるからだ。
結果として大なり小なり自由が束縛されたとしても、延々と追い続けられて死ぬよりはナンボかマシだ。
「わぁったよ」
「肝に命じておく、無茶はしないさ」

 三人で僅かに微笑み合う。と、その時であった。
ドタドタと聞こえるほどの階段を駆け上がる音。次いでノックもなしに扉が開け放たれた。
はたしてそれは息せき切って肩で呼吸をするルイズであった。
疑問符を浮かべる三人を他所にルイズは開口一番叫んだ。

「ブッチ! アンタ何が出来るの!?」


「使い魔品評会・・・・・・か。そんなのもあったっけ」
「そうよ! しかも姫さまが来るのよ!! 下手なものは見せられないわ」
「・・・・・・一応聞いていいかい?」
キッドの質問にシャルロットが答える。

 要するに、この前の使い魔召喚をおこなったメイジと使い魔が、様々な催し物をするというもの。
毎年恒例のお祭り行事みたいなもので、その年召喚した者達だけがメインでやるにしては割と規模が大きい。
そこにトリステイン王家のアンリエッタ王女殿下が来られるというので、ルイズはどうしても出なくちゃならないと言うのだ。
それも観客が目を見張り、あっと驚くようなことをやりたいと考えているようである。

「お断りだな、ただでさえジロジロ見られたりヒソヒソ話されたりするってのに、さらに見世物になれってか? 冗談じゃねえ」
「ま・・・・・・まぁ・・・・・・人間が召喚されること自体が異例ですしね、ましてそれが漂流者ともなれば――」
好奇の目に晒され噂されるのも無理はない。
これまで魔法が成功したことのない二人が召喚と契約を成功させ、コモン・マジックも使えるようになった。
しかも件の使い魔は幻獣の類ではなく前代未聞の人間であって、それも漂流者であるならば関心を集めるのも当然である。

「代わりに出ろよキッド」
「はあ? なんでだ」
「どうせ俺ら二人でセットみたいなもんだろ? バレやしねえって。お前の"ガンファイター"っぷりを見せてやれよ」
「駄目! だめダメ!! そんな姫さまを騙すようなこと出来るわけないでしょ!!」
キッドが返事をするよりも前にルイズが割り込んで止めた。
ルイズとアンリエッタは旧知の仲であり、そうでなくとも王女を相手に信義に反し、裏切るような真似が出来る筈もない。

「誰のおかげで今の暮らしが出来ると思ってるわけ? 少しくらい恩に着てくれてもバチは当たらないわ!」
「それはそれで、これはこれだろうがよ。本当に高圧的で厚かましいガキンチョだな」

「ガッ!? ・・・・・・ぐ・・・・・・そもそもわたし達が召喚しなきゃアンタらは揃って火竜山脈のド真ん中にでも落ちてたかも知れないのよ!
 それに多分きっと恐らく間違いなく、言葉が通じてるのは召喚のおかげじゃないの!? つまりは感謝が足りないのよ感謝が」
「おーおー言ってくれるねえ、『契約してくれー何でもするから~』って半ベソかいてた奴がよ」

「泣いてなんかないわよ!! アンタ眼が腐ってんじゃないの!?」
「あーったく、もっとこう・・・・・・流れるような金髪でオッパイがデカく物静かで綺麗な女にでも召喚されたかったもんだ」

「はァ!? む・・・・・・胸なんて関係ないでしょ!!アンタわたしをそういう目で見てるわけ!?」
「いやそれはない」
「このっ・・・・・・ちょっとくらい肯定しなさいよ!!」

 もはや品評会のことなどどこか置き忘れ、全く関係のないところで口論し始める光景。
既に何度目になるだろうか、日常となりつつある光景。
「私はルイズのような"しがらみ"はないので無理強いはしませんよ?」
シャルロットはキッドへとそう言った。
基本的に強制ではあるものの、適当に理由をつけて休めないこともない。
内申点には多少なりと響くだろう、しかし魔法の実地以外は最優秀な自分には何も問題はない。

「ん~・・・・・・まぁこっちとしては別にやっても構わないよ、それくらいならね」
「ありがとうございます、"ガンファイター"と言うと、以前に見せてくれた"早撃ち"とかですか?」
銃を譲り受ける時にいくつか見せてもらった銃技の数々を思い出す。
銃の性能を含めて思わず見惚れたほどの技量。それをイメージして己も日々鍛錬しているのだ。
「そうそう。『ガンダールヴ』だっけ? あれの所為で今はブッチがやった方がもっと凄いの出来るけど――」
「・・・・・・でも・・・・・・あまり派手にはやらないほうがいいと思います。『ガンダールヴ』も『ミョズニトニルン』も特別なものです。
 万が一にも露見すると面倒なことになりかねません。・・・・・・ミョズニトニルンが使えそうなもの、あるんですけどね」

「じゃあ無難に・・・・・・クイックドロウでも――」
「いえそもそも無理なさらなくてもいいです。せめてブッチさんが承諾して――」

「シャルロット!!」
「キッド!!」
それぞれ呼ばれる声が重なる。

「あなたも」
「おまえも」
『なんとか言って』
「やって!!」
「やれ!!」

 相性ぴったりにユニゾンする二人に、シャルロットとキッドは笑い合った。



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