あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Adventure-seeker Killy in the magian world quest-10a


EX-LOG

霧亥の来訪からはすでに300時間が経過した。
これは、霧亥の存在が学院全体に広く認知され、同時に近しいものにとって日常に溶け込み始めるに十分な時間である。
当の本人は、馴れ合いの一つも見せなかったが、明らかな攻撃性を示すこともまた、なかった。

「せっかくの虚無の曜日に、一日中ぼうっとしているだけだったけれどね」

惑星の自転8回分、約192時間の周期の最後、24時間ほどの業務定休期間。
詳しい経緯は不明だが、あまり効率的とは言えない“習わし”の一つらしい休みの日が終わり、また一週間が始まった。
この間、霧亥は書籍を読み漁り、適当なところに座り込んでは思索にふけることを繰り返している。
何とかして連れ出そうとしたルイズだったが、帰り道を探索するという餌にも食いつかず、諦めて自分の必要品を買いあさり、結局そのまま夜が明けた。
これは難なく受け流せたが、問題はその週が明けての最初の日だ。

「でもまあ、今日のは一大イベントだし、オールド・オスマンの太鼓判ももらったし、顔くらいは見せてよね」

ルイズだけでなく、誰もが大量の物品を買い込んではあわただしく走り回る光景。
知識としては何が始まるのかを知り得ている霧亥だが、やはり奇怪だった。
一晩は続いた準備と喧騒だったが、翌日にもなると、メイドが走り回る以外は、大量の食品を加工する作業が続くばかりで別段変わった様子もない。
が、一部生徒たちはやはり忙しない。
「霧亥、これどうかしら」
ただ暇を持て余すのでなく、珍しくルイズの要請に応えた霧亥は、次から次へ取り出される装備品の数々を観察させられた。
複雑な縫い合わせの布の衣服や、様々な鉱物を埋め込まれた金属。
どれもこれも、はっきりと言って、興味をそそられるものではない。
「ねえ、何か言いなさいよ。今夜披露する前に意見を聞けるのは、使用人を除けばあなたくらいなのよ」
「商人はお世辞しか言わないしね」と続けて、宝石箱の中身をあさる。
治療費で財政を圧迫されたと不平を漏らしていた割には、昨日いとも簡単に貨幣を調達したルイズは、その大半を湯水のように使った。
彼女の生みの親が、今日という日のために、追加で仕送りしたらしい。
「やっぱりこれかしら」
相変わらず経済的な知識と、それを活用する思考能力は低いと見える。
少なくとも、大半の生徒とは比べ物にならぬ価値の支給を受けた割には、購入した物品の価値はそこまで圧倒的とは、霧亥には感じられなかった。
彼女が今、その手にしている炭素結晶は、表面の切断角度によって光の反射を調節し、銀で隠された部分の、ささやかな上げ底を誤魔化している。

615 名前:Adventure-seeker Killy in the magian world quest[sage] 投稿日:2012/02/20(月) 23:43:37.45 ID:BEDITOqo
「どう? ねえ、これとか!―――」
社会的地位と実力を示す意味でも、こういった装飾は適切な観察力と情報を持たぬ者たちにはわかりやすいのだろう。
使い魔その他の動物たちに見る、奇妙に変質した皮膚や骨格と同じだ。
それならそれで、もっと適切に自分を飾り、周囲に訴える方法を、少ない労力と対価で得ることができるのではないか。
「………」
ドレスを広げて見せるルイズの前に、黒尽くめの服と頭髪で一層際立つ切っ先のような眼が、微動だにせずある。
「―――な、何か言ってよ」
霧亥の無感情で変化のない表情。
つい勢いで気にならなくなっていたが、改めてたじろぐ。
審美眼のほどは知らないがとにかく一足先に誰かに見せびらかそうと、彼の国の美的意識や服飾文化がこちらと通ずるかも知らずに引っ張り込んできて、そもそも彼にとっていかにも興味がなさそうな話題を振ったのは間違いだったかもしれない。
そんなことを今更ながら考えた。
「その装備の工作精度はあまり高くない」
おもむろに口を開いた霧亥に、どう謝ろうかとまで考え始めていたルイズが戸惑う。
要するに何を言われたのか分からなかった。
「他にしろ」
霧亥は美的意識も服飾文化も意に介さず、機能面と出来の映え具合を見て助言をした。
それがはたしてどう他人の目に映るかはわからないが、合理的にかつ風俗的バイアスを排除すれば、霧亥の判断は正確だった。
「え? あ、そういうことね……でもこれ一番高かったんだけど…………」
呻きながら元の箱にしまうと、最初に取り出したドレスをみつめて、また宝石箱に手を伸ばす。
「銀細工の方が駄目なら、金細工にこっちのドレスね! で、あとは石をどうするか………こっちは良いものが手に入らなかったから、昔買った翡翠を蝋処理し直してもらったものとかがあるんだけれど、キリイもいいと思う?」
ここまで来ると、最早そこに機能などありはしないので、もう個人の主観による良し悪しで決めて欲しいものだった。
あえてやろうと思えば、原材料の調達難度とその需要や、加工技術の高さを比較することもできるが、それは適正な貨幣価値を求めるばかりで、ルイズの求めるような価値は出てこない。
「ああ」
イノ珪酸塩鉱物に価値など感じもしなかったし、適当なことを言うのはあまりいい気がしなかった。
とはいえ、相手の都合に付き合うのもいい気はしないので、適当に肯定するようなそぶりを見せておくことにした。
「じゃ、これね」
次の意見を求められる前に、さっさと退出してしまおう。
その許可を求めることも、確認を取ることもせず、霧亥はあっという間に部屋から姿を消した。
「………あいつ、ホントになんなのよ………そもそも―――」
愚痴をこぼそうとして、ふと大事なことを思い出す。
「―――そうだ、キリイの分の正装、ないじゃない」
詳しい事情は知られていまいが、霧亥もまた、今回の注目の的の一人だった。
学院を救った英雄とは言わないが、虚構も含めてひどく言いふらされたおかげで話題性は十分にあったので、使い魔モドキの身分さえなければ十分役者には足りる。
とはいうものの、本人に自覚はないし、あったとしてもそれがどうした、といった雰囲気をまとっているもので、いまのところ誰も本人にそのことは切り出せていない。
「ま、無駄ね」

…華やかな光景も、霧亥に何かを訴えることはなかった。
例えば、都市における、神話の時代より以前。
霧亥もかつて、自身と都市がまともだった頃に、このような場面で暇を持て余していた過去があった可能性もある。
すべてが正常であったなら、もしかすると彼がそれを思い出し、何かの奇跡が起こったかもしれない…が、そうはなっていない。
霧亥はパーティーホールを飾る観葉植物の辺りで幾人かの視線を浴びながら、少しだけ視線を動かしてあたりの様子を見ていた。
その白い顔に感情はない。
「君も出ておかねば」とオスマンは口にして、ここまで誘導してきたが、その後のことは何か要望したわけでもなく、そこにいるだけの彼は特に自発的に何をする気配もなかった。
話題の人といったところで、同級生の腕を―――さして気にする友人がいないとはいえ―――焼き落とした上に、トリステイン貴族への不敬な態度の数々、得体の知れなさ等々、良い意味でのみで目立っているわけではない。
オスマン等が、これを承知の上で公の場に出そうとするのは、ご機嫌取りを試みようという俗な理由と、あくまで学院側公認の存在であることを、これ以上面倒が発生する前に示しておくためであった。
少なくとも使用人やただの使い魔と同一に扱うつもりはないのだと、この場にいることで暗に示せる。
そうそう来賓が訪れることもないので、厄介な相手に露見することもなく、ちょうど良い。
このように、オスマン等にとっては機会ではあったが、本人は酷くやる気がないので、ほとんど活かせていない。
ただ青白い顔と、鋭い黒目を虚空に向けるばかり。
存在に気づいていない者が相当数いるようでは、まるで示せていない。
彼が注目の的になるには、もう一人の主役を待つ必要がある。
生徒たちが葡萄酒の一杯でも飲み干すころあいになって、見事に着飾ったルイズが登場した。
年の割に未熟ではあるが、極めて整った体つきと、ハルケギニアの基準でいって美しいというほかない容姿。
加えて、今まで座学を考慮しなければまったくの“ゼロ”とされた魔法の才が、霧亥の関係で見直されたので、彼女が集めた視線の中に批判的なものはほぼなかった。
こうして女子生徒最後の一人が参加したタイミングに合わせ、ホールに響く楽曲が変化する。
表情を変えた生徒たちは手ごろな相手に声をかけ、手を取り合って踊りだす。
ルイズもまた声を掛けられたが、そのすべてを断って歩む先には、彼女が呼び出した使い魔がいる。
「退屈?」
緊張か、ぎこちなく微笑んでいる目の前の少女に、霧亥は無言で答える。
「そういう時はね、こっそり離れて時間を潰すって相場は決まってるのよ」
控えめな手招きに、特にここにいる意味を感じていなかった霧亥は従うことにした。
「そしてね、星を見るのよ」
少しくさいセリフだが、別にキリイはそんなことは気にしないのだろうなぁ―――と漠然と思いながら、テラスに出る。
あいにく快晴とは言えないが、薄い雲には多くの切れ間がある。
「どうせ踊る気も、食事を楽しむ気もないんでしょ? あなたの故郷とは、まるで勝手が違う?」
「それとも―――」ルイズは少し震えそうになる。
馬鹿げた発言だという怖気かもしれないが、きっとこれは霧亥への畏れだ。
「―――踊りなんてなかった? 飲んだり、食べたりするなんてことも……ないの?」
即ち「何者なのか」という問いだった。
霧亥は難しい質問だと感じた。
優れた言語と思考、せめて相応の知識を持ったものでなければ、少ない言葉で理解させられるものではないだろう。
では、無理にわからせる必要もない。
ありのままの事実を押し付けておこう。

「俺は人間だ」

そう、まさしく、霧亥こそは真の人間の姿の一つだった。
すべてが崩壊し、人が“正規の”人とすら認められなくなった世界において、彼は多くを失いつつも、辛うじて古い“登録”を保持し続けていた人間だった。
基底現実に縛られた、時代遅れのサイバネティクスと有機生命体の融合物という、醜い姿になっても、彼は人間だった。

「呆れた…嘘に思えないんだもん」
なら、そういう人間なのだ。
彼を呼び出してから長くはないが、質問に対していつもと変わらない、驚くほど鋭いがそれでいて気力を感じさせない眼で見つめられて、これは嘘ではないだろうと自然に納得してしまった。
「……そうだ、聞こうと思ってたことがもう一つ」
人差し指を立てると、そのままぐいっと腕を掲げる。
「あなたの元いた場所でも、ここと同じ星が見えたの?」
「………………お前たちと同じ星がある場所にはいなかった」
都市を覆った太古の星空と、ここから見える星空は、もしかすると同じだったのではと推測できるほど、共通点が多い。
しかし、彼が最後の超構造体の向こう側で見た星空は、ここハルケギニアから見え、都市拡大以前にも見えたであろう星のうち、相当数が解体され、姿を消していた。
正確な比較は無理だが、かなり位置―――星の位置も、観測する側の位置も―――も変化していたように思う。
ということは、ここは都市が現在の大きさに達する以前に、世界線を越えて見出されたどこかであるはずだ。
そこまで壮大な思いをはせたわけではないが、この回答はルイズにため息をつかせるに十分だった。
「もしやとは思った、けど……」
残った手を額に当て、ルイズは絶望しかけた。
もしも、学者たちの言うように、世界が一定の大きさの球形であるという意見が正しいなら、その周りを回る空は、夜か昼かの違いだけでどこでも同じはずだ。
逆に平らであったり、球の大きさが想像よりはるかに大きいとすれば、きっと頭上の星が移動してしまうほど、遠くへ行けるだろうし、星が消えたりあらわれたりする現象のあるところにも行けるだろう。
でもそれは、どれほどの距離か?
ハルケギニアの端から端へ行っても、星は動かないらしい。
きっとキリイの故郷は出鱈目な遠くだ!―――めまいがするような事実だ。
天体観測の本が大間違いであってくれればいいとさえ思った。
大宇宙の真理と比較してみて、確かにその本は大間違いだらけではあったが、導き出した結果はおおよそ中っている。
むしろ予測が甘いくらいなのである。
なんにしても、霧亥ほどの“人間”がいる場所となると「人は皆同じ空の下にいる」というような美しい文句も通じない。
「ルイズ、いくら人目がないからって、いくなり脇を見せつけるのはどうなのよ」
「はっ!?」
美しい文句が通じないと言えば、この尻軽女も勝るとも劣らない―――ルイズは二重に顔を赤くした。
「二人で逢引したって、目立ってるんだからすぐ分かるわよ」
ダンスのパートナー志願者のほうへ戻ろうとする赤毛の悪友を追って、ルイズは姿を消す。
残ったのは霧亥と、その半分ほどしか身長がないタバサだけだ。
「食べる?」
青毛という赤毛の一段上を行く珍しさを持ったほうの少女は、食べかけが載った皿を差し出している。
葉緑体たっぷりの植物を体内に取り込む趣味はなかったので、申し出を無視する。
「そう………でも美味しい」
見せつけるように次々に口の中に運び込む。
「あれだけあるのにもったいない、と思う」
「………」
「…そう」
何がしたいのか分からない相手だったが、結局去って行った。
最後に残った男もテラスを後にし、その後ろ姿を見たルイズは普段通りに踊り、振る舞った。
霧亥という人物が、少しではあるが、ハルケギニアという世界に溶けた気がして、ルイズは妙な気分だった。

まだ、非日常が日常へ潜り込みはじめたという、想像を絶する脅威について、誰も本当には気づけていない・・・

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