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ドリフターズゼロ-01



第一話 「漂流者」

 ――時は1600年、後に天下の分け目と言われる、関ヶ原の戦い。

「待っておるぞ豊久! 待っておるぞ、薩摩で!! 待っておるぞおっ!! 死んだら許さぬぞ、豊久ぁ!」

 西軍の崩壊をもって陣を退くこととなった島津軍は、執拗なまでに追いかけてくる徳川の軍勢から逃げるために、多大な犠牲を払っていた。

 捨て奸(すてがまり)。

 殿の兵隊少数を場に留まらせ、追っ手を足止めさせて逃げる時間を稼ぐ戦法であり、「島津の退き口」としても語り草となった壮絶な逃走劇である。
 多くの犠牲を払うこととなったこの戦法は、生き残った島津義弘にとっても苦肉の策であったことは言うまでもない。主君を逃がすために兵が奮起したと言えば聞こえは良いだろうが、言ってしまえばこれは蜥蜴の尻尾切りだ。
 忠義を尽くした家来を、仲間を置き捨てるということ。残された僅かな兵士がどうなるかなど、想像は容易いだろう。

 そして置き捨てとなった兵隊の中に、その男の姿はあった。

(良か御養父どのじゃあ。豊久は幸せもんだわ)

 独特な赤色の鎧に、腰元の野太刀と短筒。迫り来る敵軍を前に立つ姿は威風堂々としており、恐れる様子はない。敵を見据えながらも口元には、笑みを浮かべていた。
 男の名は島津豊久。島津家久の息子であり、島津氏十七代目当主島津義弘の甥に当たる、島津家きっての武士(もののふ)であった。

(ここは一番武者働きせねば)

 号令と共に連続する発砲音。豊久の他に残った、島津の鉄砲隊だ。迫る敵に対しての一斉射撃はたちまち辺りに硝煙をくゆらせ、一面に立ち込める。
 その煙の中から、一陣の風が飛び出す。姿勢を低くして飛び出てきた赤い旋風は、射撃によって崩れた敵へと向かい、勢いのままに蹂躙した。

 出会い頭の一撃。

 必殺の威力を伴った一撃は、馬上の兵士を鎧の上から両断する。吹き出る血飛沫。煙より飛び出した赤い旋風は、その血を浴びながら叫ぶ。

「島津中務少輔豊久! 推参!!」

 獣の咆哮にも似た声と共に、豊久とすれ違った騎馬兵の首が飛ぶ。一撃一撃が必殺のそれに、追っ手は足を止めざるを得なかった。
 駆け抜けたところで身を襲うのは、すれ違う豊久による剣戟と、先に構える島津鉄砲隊の一斉射撃だ。数の上で遥か優位に立っているからといって、わざわざ殺されたがる物好きはいない。加えて数で優勢であれば尚更だ。

「死兵め! 貴様らはもう負けたのだぞ!」

 そう言った男、井伊直政は、軍馬の上から豊久を見下ろす。威圧感と殺意の混在したその目を前にしても、豊久は一歩も退かず不敵な笑みを浮かべるばかりだ。

「その首、俺の手柄になれい」

「何言いやがるクソボケが! 首になるのは俺(おい)じゃない、貴様よ!!」

「――阿呆が!」

 軍馬から振るわれる槍の重撃を、豊久の野太刀が弾く。直政を守らんと槍兵たちが並び、豊久と向かい合う。一斉に向けられる穂先。圧倒的に不利な状況。

「よか!」

 そんな状況でありながらも、豊久はそう言い切ってみせた。
 足が地を蹴る。槍衾の奥にいる直政の首を狩らんと、豊久は宙へとその身を躍らせた。

 ――結果的に言えば豊久は、一撃を加えることは出来たものの、直政を仕留めることは出来ず、死に花を咲かせることも出来ずに逃げられることとなる。逃げ去るその背に向けての叫びはむなしく戦場に響くだけで、何の答えも得られることはなかった。
 そしてその後、豊久はというと、無数の傷を負った体で失意のままに山中を放浪することとなり――

「!?」

 雨の降り止まぬ山中で突如目の前に現れた鏡のような楕円形の何かに、その体を飲み込まれた。

◇◆◇

 もう何度失敗しただろうか。呪文を紡ぎながらルイズは考えていた。本当なら余計なことを考えている余裕は無いのだが、本日何度目になるのか分からないサモン・サーヴァントの呪文は淀みなくスラスラと口からこぼれ出る。
 呪文を唱える姿だけを見れば優秀なメイジにしか見えないが、ここに立つルイズは一度たりとも魔法を成功させたことが無い、異形のメイジだった。
 成功しないまま終われば、留年確定。トリステイン屈指の名門ヴァリエール公爵家の三女として生まれ、座学ではほぼ学年トップとも言える成績を誇るルイズにとって、今これ以上に恐ろしいことは無い。
 留年が確定した後のことを考えればもっと恐ろしいモノが待ち受けているのだが、それは今考えることでは、否、考えたくないことだ。一度考えれば恐怖で身が竦む。先のことを想像しかけて、ルイズは頭の中で頭(かぶり)を振った。
 僅かに見えた光景は、鞭を持って立つ恐ろしい何かだった。

(もうこの際なんだっていい)

 贅沢は言わない。成功出来さえすれば、どんな使い魔だって構わない。もちろん欲を言うならば、にっくきツェルプストーをあっと言わせるような凄いモノに出てきてほしいが。
 具体的には水色の髪をした少女が召喚した風竜とか。モグラとかは極力止めてほしい。ああ、でも……、

「……我が導きに、答えなさい!」

 考えごとの途中で呪文が終わる。同時に起こるいつもの爆発。ちょっと盛大だった気がしなくもないが。ああ、また失敗。と立ち籠めた土煙の中でルイズは涙ぐみ俯きかけ、

「……お、おいっ! 何かあるぞ!」

 失敗を嘲笑うばかりだった周囲から上がったその声に、顔を上げた。爆発の中心を見てみれば確かに、何かがそこに倒れている。

(……倒れている?)

 そう、倒れていた。そこに倒れていたのは、赤い服に身を包み、腰に長い剣と銃を携えた、血を流す一人の男だった。血はとめどなく草原を染め、一目見ても男の体の至る所に傷があった。
 突然の流血沙汰にルイズだけでなく、他の生徒たちも馬鹿にするのを忘れて凍りつく。何よりも驚きなのは、そんな重傷を負いながらも男が確かに男の最も近くにいたルイズを見たことだった。ギクリと身を竦める。が、男は口端を釣り上げて見せた。その口がもぞもぞと動く。

「く、はは……。こいつぁ……、どういうこっだ」

 男が何かを呟く。妙な訛りのある言葉を呟いて、男が気を失った。そのままピクリとも動かなくなる。ルイズは放心状態のままそれを見届け、

「ってちょっとアンタ……じゃない、誰か! ……ミスタ・コルベールっ!」

 男が倒れた意味を理解して、声を上げた。大慌てで同じく凍りついていた禿頭も僅かにしか無い髪を揺らし男の元に屈む。言うまでも無く重傷だ。細められた目が、そのことを物語っている。

「み、水系統のメイジを! あと誰か、救護室へ向かえ! 急いで!」

 ハゲの教師の指示に、一斉に生徒たちは動き出す。そんな中でルイズは、初めて魔法が成功したとかを忘れて、ただただ現れた自分の使い魔(予定)に、声をかけ続けるのだった。

 ――かくして少女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと、男、島津豊久は世界という垣根を越えて、邂逅を果たすこととなる。

 それがもたらす意味と、この先に待ち受けるであろう出来事を、当たり前だがルイズは知らず――今はただ目の前で死にかける謎の男の処置に、大騒ぎをしていた。

◆◇◆

 そして――そんな大騒ぎを「遠見の鏡」で見物する、一人の男がいた。
 白く長い口髭と、同様の白髪。ローブに身を包み、鏡を覗くその姿は賢者のようであり、また「大魔法使い」という男の呼び名を体現しているかのようであった。
 オールド・オスマン。ここ、トリステイン魔法学院の学院長であり、百の年月を生きると噂される、偉大なる魔法使いである。

「ほほう、これはまた、面白いことになっておるのう」

 鏡の中で奔走する生徒たちを見て、オスマンは楽しげに呟く。当人達からすれば面白くともなんともないのだが、日々暇を持て余すオスマンにとってはちょうど良い暇つぶしであった。
 もっとも最近は、以前のように暇なわけではないが。
 鏡の映像を消し、椅子に座る。秘書、ミス・ロングビルの居ないことを良いことに水ギセルを取り出して、ゆらゆらと紫煙をくゆらせた。
 そんな楽しげにしているオスマンに、同室にいた者が声をかけてくる。

「おう、何楽しそうにしてやがる」

 来賓用のソファに深々と腰をかける、その男。不遜な物言いにもオスマンは気にした様子を見せず、煙を吹かせて答えた。

「ほっほっほっ。何、ちょっと変わったことが続いておるものでの」

「変わったこと?」

 気になるのか、そのワードに男は食らいつき、体を起してオスマンの方を見る。覗く左目は何かを期待するように爛々と光を灯しており、口元にはニヤニヤと笑みを浮かべていた。

「うむ、今日は春の使い魔召喚の儀式を行っておってのう」

「それがどうした」

「そこで人が召喚されたのじゃよ」

「……それの何が楽しいんだ?」

「それがまた、見慣れない服装の男でな」

 オスマンの言葉に、男が反応する。笑みがより色濃くなり、一種の迫力すら漂わせる凄惨な笑みとなっている。

「もしかしたら、君と何か関係あるのかもしれないのう。ミスタ・ノブナガ」

 その言葉にミスタ・ノブナガ――織田信長は、ただただ笑みを浮かべ続けるのであった。

TO BE CONTINUED.




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