あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのドリフターズ-01



 ――ハルケギニアに一つの人影が立った。

 その者は全身が隠れるほどのローブに頭から身を包み、素顔は暗く塗り潰されたように窺い知ることは出来ない。
外套から伸びる傷痕の残る腕、その手には先端に蜻蛉のような意匠がついた杖を握っていた。

 ――憎い。人が憎い。世界が憎い。全てが憎い。
滲み出すほどに内に秘めたるは、ただただ憎悪の一色。
何物よりも深く濃い純粋な色。あらゆるものを呑み込み染め上げる闇黒色。
彼の者はゆっくりと・・・・・・噛み締めるかのように荒野を睥睨する。

 ――そう、全てはここから始まる。

「人を救おうとした、だが拒絶された」

 感情を込め、されど抑揚のない声で絞り出す。

「ならば人ならざる者を救い、人を滅ぼすしかない」

 ――そう、全てを滅ぼさねばならない。

「私は不退転。歩き回り叫ぶ不退転の災厄である」

 決意を顕に、漆黒の意志を言葉に紡ぐ。

「人類廃絶の旅は終わらぬ。一人も残さぬ」

 黒き――何物よりも冥き――存在は、絶対の"理"が如く言の葉を口にする。

「一人残さず人なる者を打ち倒す終わりであり、一人残さず人ならざる者を救う始まりである」


「ふふっ」
少女"EASY"はほくそ笑んだ。左右を細いリボンで結んだ黒髪を長く伸ばし、ゴシック・アンド・ロリータ風の黒衣がよく似合う女の子。
生意気そうな切れ長の目をさらに細め、少女でありながら少女らしからぬ"ナニカ"を内包したような笑みを浮かべている。
「そう・・・・・・ムダなあがきよ。もう私の勝ち、あの『廃棄物』が負けるわけがない。私の"廃棄物"たちを倒せるわけないのよ」
EASYは"紫"の心情を考えてさらに表情を歪ませた。
――彼女の悪意が世界を殺す――彼女が起こす波紋が幾重にも重なり、それは誰にも止められぬ大波と化す。

「"あなた"の『漂流物』たちなんかじゃ、もうどうしようもないんだから」
そう言うとEASYは、黒と白のみで彩られた――異様なほどに扉が並ぶ――通路を歩き出した。


「はぁ~・・・・・・」
ゆっくりと・・・・・・肺に溜めた息を吐き出した。満ち足りた時間。トリステイン魔法学院のヴェストリの広場を横に見る木陰。
僅かに差し込まれる陽光と草葉の香りに包まれ本を読む。晴れ渡った昼の少ない時間にのみ堪能出来る小さな幸福のひととき。
少女シャルロットは、本を一旦閉じると独りごちる――雲ひとつ無い澄んだ空色の瞳と親譲りの端麗な容姿。
別段眼が悪いわけではないのだが、なんとなく掛けている赤縁のメガネがアクセントになっている。
腰ほどにまで伸びる――瞳と同じ青空色の――長髪を、赤いリボンでポニーテールにまとめていた。
体躯は平均的。女性らしい起伏も見て取れ、15歳という年齢特有の艶やかさを内包していた。
文武に秀でた優等生であり、やや取っつきにくさはあるものの・・・・・・それもまたクールで陰があると男子生徒から密かな人気もある。
しかし・・・・・・彼女を取り巻く"環境"に加え、唯一にして致命的とも言える"欠点"の所為で彼女にアタックを掛けてくる男は誰一人としていなかった。

「シャルロット~」
ふと自分を呼ぶ声の方へと顔を向ける。見れば知ったる二人が遠目に窺えた。
一人は双子の妹ジョゼット。一卵性ゆえに容姿の殆どが似通っているものの、わかりやすい相違点はジョゼットの方が髪が短いということ。
ショートに切り揃えられた同じ青色の髪は、活発で明るい妹に良く似合っていた。
もう一人は従姉妹の姉にあたるイザベラ。一族の証たる青色の髪。バックにまとめてデコが強調されたストレートロング。
キリッとした目元は父親のジョゼフによく似ていて、根は優しいのだが何かとツンツンしている面がある。
従姉妹ではあるものの、実のところ垣根なく三姉妹のように育ってきた。

 ――本来であれば自分達も含めて『ガリア王国』の王族であった。
しかしもう伯父のジョゼフも父親のシャルルも・・・・・・そして当然娘である自分達も王族ではない。今は制服に身を包んだ魔法学院の生徒である。
今やガリアそのものが存在していない――40年ほど前に滅んでしまったのだ。
およそ50年前・・・・・・ガリア領内にて一人の指導者が端を発し、天才的な演説と人心掌握術で――まるで手慣れたものかの様に――みるみる内に強大化。
とある有力人物が味方についたこともあって、瞬く間にガリア本国を呑み込み・・・・・・新たに『オルテ帝国』を建国してしまった。
その勢いはハルケギニア全土を統一するほどの勢いであったが、指導者であり同時に国父と呼ばれたその人物が突然謎の自殺をしたことでオルテは混乱に陥った。
さらには隣国の『帝政ゲルマニア』が乗じて、大衆の好みそうな尤もらしい大義名分を掲げて宣戦布告をした。
そんな侵攻のおかげもあってか、自分達への追跡が有耶無耶になったことは感謝すべきことだろう。
最終的にゲルマニアも戦争に負けて崩壊。軍閥も解体されて、いくつもの独立した小国家となった。
その頃には地盤もある程度固まったオルテは、本格的に他国への侵攻を開始。
ここ『トリステイン王国』、『ロマリア連合皇国』、浮遊大陸『アルビオン王国』、『旧ゲルマニア小国家群』、そしてエルフが住む領域『サハラ』にまで手を出し始めた。
強力な元ガリアの国力を吸収したオルテをもってしても、戦力の分散を招いた結果は火を見るより明らかであった。
ここ30年弱の間は一進一退の攻防を繰り返しては、その国力を磨り減らし続けている。特にエルフ勢力の反抗が大きな要因と言えよう。


 亡国王族の血筋たる自分達は王座を奪われ国を追われたものの、トリステインの庇護下にて隠れるように今を暮らしている。
何かあった時のために利用されるのは目に見えている・・・・・・言わば生殺与奪が握られている立場ではあるものの――
それでも待遇そのものは悪くなく、平穏無事に暮らせていた。
――トリステインは、空中艦隊が必要なアルビオンと並んで、オルテからの侵攻が薄いおかげであった。
それはオルテ帝国の実に1/4を占める・・・・・・とある巨大貴族領が隣接していたのが理由だった。
その貴族は戦争に参陣しないばかりか、何かと理由を付けてはオルテ本国軍を通さなかったのだ。
真意は不明。しかし最初に国父につき、寝返らなければ建国出来なかったと言われるその貴族に口を出せる者はいなかった。
ゆえに時折遠征軍が来る程度に留まり、トリステイン国内は平和を維持出来ていた。
自分達にとって故国ガリアを滅ぼすキッカケとなった人物であり、同時に現状を幸せに暮らせている要因となっている人物。
父達は幼少期の話だから何か思うところはあるかも知れないけれど、子たる自分達にとっては生まれる前の話であり特に感じ入ることはなかった。

 それにもし――もしもの話だが、仮にガリアが滅ぼされることなく王族として生きていたなら――
全く別の――それも血で血を争うような不幸な――未来を歩んでいたような、そんな気が・・・・・・予感がしていた。
確たる根拠はない・・・・・・が、王族である以上後継者問題などは常について回る。場合によっては悲惨な結末を迎えていた可能性は充分に考えられた。
今日の幸福を想えばこそ身震いがする"もしも"の話。兎にも角にも今を取り巻く環境はかけがえのないものであると噛み締める。
それもいつまで続くかはわからないからだ。

 その理由こそ・・・・・・新たな脅威。旧ゲルマニア領に出現した新たな存在の所為である。
脅威の名は"黒王"。その黒王と呼ばれる謎の人物は、オルテとゲルマニア小国家群を問わず戦火を拡げている。
箝口令や情報統制の所為で詳細はわかりかねる部分が多い。しかしそれでも噂という形で耳まで流れてくる。
オーク鬼やコボルトなどの多数の亜人種達を傘下に、無差別で凶悪な大侵攻をしていると。
オルテ帝国すらも徐々に押されているとか。その勢いはかつてのオルテ国父をも凌ぎ、踏みしめた地は例外なく廃と化していると。

 時に矛盾していることもあって真偽のほどは不明だが、共通していることはいずれもネガティブな情報ということであった。
真なる意図は未だ不明。交戦国は問わない。ゆえにトリステインもいずれは黒王軍と戦うことになるだろうと、予断の許さない状況であることは確かであった。


 ――だから自分は・・・・・・この一瞬を大切に生きている。
かけがえのない、なんてことない時間を決して忘れないように。

 改めてそんなことを思い耽っていると、いつの間にかジョゼットとイザベラが目の前に立っていた。
「ボーっとしてないでシャルロット、午後は使い魔召喚の儀だから急がないと」
「あぁ・・・・・・そっか」
「あなたが忘れるなんて珍しいわね」
今日は平常授業とは異なる特別な日。いつものペースでは遅れてしまう。
トリステイン魔法学院恒例の使い魔召喚。己の目耳手足となる生物を喚びよせて、契約する神聖な儀式。
シャルロットは憂鬱な思いを胸にしまって立ち上がった。


「シャルロットはいいなあ~スラッと女らしくて・・・・・・双子なのにどうしてわたしの方は貧相なんだろう」
ジョゼットは妹だが、姉である自分を名前で呼ぶ。ほんの僅かの差で生まれた自分達に姉妹といった感覚はない。
お互いに名前で呼び合い、従姉妹のイザベラが二人にとっての姉となる。
「よく食べて、よく運動して、よく寝たから」
遺伝的には同じだが、後天的に差が出た。栄養ある食事を摂り、運動により身体各部が刺激され、長い睡眠が成長ホルモンを分泌させる。
そうせざる得なかった――自分の進むべき道が――それしかなかった。

 唯一にして致命的と言える"欠点"。それは"魔法の才能がない"ということ。
魔法学院に通う身としてはまさに致命的。双子である妹には父親譲りの優秀な才能が若くして見て取れた。
『雪風』という二つ名を持ち、既にトライアングルのメイジ。双子ゆえに幼い頃から余計に比較され続けてきた。
若くして片鱗を見せ、父親から長杖も継いだ妹。姉の自分はいくら努力し、足掻き続けても一向に上達しない魔法。
昔は嫉妬することもあった・・・・・・が、早々に見切りをつけて開き直り、単純に頭と体を鍛え続けることにシフトした。
結果文武共に同世代でトップに君臨し続けている。されど魔法は使えない。これ以上ない高嶺の花の筈なのだが最も重要な魔法という要素が抜け落ちている。
そのアンバランスさがさらに一線を画すこととなり、性格を加えた近付き難い雰囲気をより一層強いものとしていたのだった。

 学はジャンルを問わなかった。学院の座学は自分に使うことの出来ない魔法理論を含めて当然に学ぶ。
それ以外も図書館を漁り、時には街へと出て役に立ちそうな知識は何でもかんでも詰め込んで己への肥やしとしていた。
武は身体能力を含め――時に"メイジ殺し"と呼ばれる――魔法使いをも前提にした技術を特に独学で磨く。
父シャルルからも基礎は教わったものの、それ以降は自分なりの戦闘スタイルを探求し確立させた。
敵が魔法を使えようと使えまいと、対多数であろうとも白兵では決して負けない為に、竜や先住魔法を扱うエルフすらも想定して鍛え続けた。
"切り札"こそ持っているものの、鍛錬の前提はそれくらいを目標にして然るべきであるというのが己の中にある芯だった。
おかげで男子にも負けない身体能力、年齢に見合わぬ知力・技術を備えるに至る。
それでも"今の状態"で実際にメイジと相対すれば、同級生にすら負けるのは必至だと自分では思っていた。

 魔法を抜いた基礎戦闘能力において同世代で少しでも相手になるのはキュルケ。メイジとしての実力も高く女としても魅力的。他ならぬ親友の一人である。
ゲルマニア崩壊後、力を持っていた貴族の一部は結託してオルテを攻めた。
それは忠義の為だったり、次の覇権を見越してであったり、いずれ来たるオルテ侵攻に対する先手だったりとそれぞれ様々な理由であった。
その中にキュルケのツェルプストー家があった。今でこそ没落してしまったが、キュルケは生粋の軍人家系だからこそ相手になるだけの実力を持っていた。
もう一人は妹ジョゼット。幼少期から何千回と手合わせしてきただけあって、魔法を抜きにしても強い。
頭も悪くなく人当たりも良くて社交的。元ガリア王族という境遇を加味しても男女問わず人気が高かった。
自分と違って男子に告白されることも多いようだが、そのことごとくを断り続け撃沈した男子は数知れず。
なんでも姉である自分を基準にしているらしく、最低でも私よりも文武で上にいかないと駄目だという噂。
可愛い妹に変な虫をくっつけない為にも、より高みを目指すモチベーションにしていた。


「それじゃあ・・・・・・その・・・・・・頑張りなさい」
他愛ない話をしながら召喚の儀を行う広場まで歩き続けて、学年が上のイザベラが先に別れる。
「んっ・・・・・・ありがとう」
はっきりとは誰も口に出さない。"もしかしたら召喚出来ない"ということを。"魔法がまともに使えない"のだから当然の予想であり危惧。
ジョゼットも負い目でも感じているのか、そのことには触れない。
コントラクト・サーヴァントを行う広場には、既にまばらに生徒が集まっていた。
「それじゃ」とジョゼットが――他の生徒が自分達に近付いて来る前に――別れる。それも一つの心遣いであった。

 ――と、すぐに後ろから迫る気配にシャルロットは気付く。
「やっほ」
煌々と燃ゆる炎のような長髪、褐色の肌に豊かな胸をワイシャツのボタンを半ばまではずして挑発的に強調させている。
「キュルケ」
声を聞く前からわかっていた。そもそも家族以外で自分に気軽に近付いて来る人間は数えるくらいだ。
最重要素たる魔法だけが使えない元ガリア王族の首席。魔法が使えないだけなら馬鹿にも出来ようが、それ以外に関しては他の追随を許さない。
どういう態度で接すればいいのか他の生徒は一線を引いてしまうのも無理はないし、自分自身でもどこか一線を引いていた。
それを易々と踏み越えてくる唯一がキュルケであった。

 キュルケはシャルロットの肩に腕をかけるようにしなだれかかる。
「当たってる」
「女同士でしょ、まっ男でも当てちゃうけどね」
「敗北感がある」
シャルロット自身、年齢にしては標準よりも豊かな方だとは自分でも思っている。
しかしキュルケのそれは最早凶器とも言えるレベル。
背の高さも相まったその妖艶なボディに言い寄られて断れる男など存在しないのでは?と思うほど。
実際に斬った男は「数えるのも面倒」だとか。
「で、あなた召喚大丈夫なの?」
「・・・・・・さぁ?」
キュルケの良いところは気兼ねなくズバズバと言ってくれることであった。打算がない。だからスッパリと付き合える。
普通なら無神経だと思われることだが、それが自分にとっては新鮮でキュルケだけ。そして何故だかどうにも気が合うのだ。
「ふ~ん、まっ・・・・・・やってみないとわかるわけないわよね。ルイズ共々気張りなさいな、わたしのが順番が先なら華麗なお手本くらい見せたげるから」
「うん、期待してる」
半分は本気、半分は諦観が混じった・・・・・・そんな声音が漏れてしまったことに気付く。
実際にやってみなくちゃわからないが、今までの魔法成功率からすれば・・・・・・それこそ奇跡でも起こらぬ限り不可能だ。
とはいえ最初から諦めて臨むようなことだけはしたくない、そんな二つの想いが心で絡み合い締め付ける――

 ――そんな想いを抱いているのは自分以外にもう一人いた。
桃色ブロンドを長く伸ばしたルイズが目の端に映る。同じ悩みを持ったもう一人の親友。顔ごと視線をルイズへと向けるとキュルケも気付いて口を開く。
「な~にあれ? ・・・・・・まさか昼休み始まってから、ずっとああしてるんじゃないでしょうね」
「なるほどありえる」とシャルロットは思った。杖を持って目を瞑ってひたすら集中しているルイズ。
キュルケ同様、学院に入ってからの付き合いとなるルイズ。知り合ったキッカケは――"同じだから"――
"魔法が使えない"という、絶対的な才能がない共通点。同じ悩みと苦を知る友。ゆえに何かと一緒にいることも多くなった。

「・・・・・・?」
シャルロットとキュルケ、二つの視線に何か感じるところでもあったのか。はたまたただの偶然か、ルイズは鳶色の瞳を見開いた。
見回すとすぐにこちらへと気付いた様子で、お互いに遠目に頷き合う。
ルイズは自分よりも気負うところが遥かに大きい。トリステインの名門ラ・ヴァリエール公爵家の三女。それにプライドが高く頑固な面もある。
とっくの昔に開き直っている自分と違って、ルイズは未だにメイジとして大成することを諦めていない。
お家の面子というのもあるのだろう。そんなしがらみもない自分と比べて圧倒的なプレッシャーがルイズにはのしかかっているのだ。
それでも本人はへこたれることなく努力をし続けている。しかし往々にして空回るのだ。
意固地な為に、過ぎたるは及ばざるが如しを地でいくことが多い。
さらにルイズはナメられることが嫌いで何かと出しゃばることも多く、事あるたびに魔法を詠唱しては失敗して爆発を起こす。
残るのは惨事だけなので同じ"魔法を使えない者同士"でありながら、一人だけ成功率"0"。『ゼロ』のルイズの二つ名まで付けられる始末であった。

「あら、以心伝心?」
シャルロットとルイズの僅かだが確かなやりとりをその眼に眺めたキュルケが、ほんのり嫉妬を帯びたような感じで言った。
キュルケとルイズは何かと反目し合っている。今でこそゲルマニア貴族でなくなったキュルケ。
しかしゲルマニアがまだ存在していた頃、キュルケのツェルプストー家とルイズのヴァリエール家は国境を挟んで代々続く犬猿の仲だったらしい。
今はツェルプストー家再興を目指してトリステイン魔法学院に通う身。だからもう既に家のことはキュルケもルイズも関係ない。
だけど系譜の流れる血が為すのか、あまり反りが合わない節がある。
ともあれお互いに心底嫌い合っているわけではないことは、二人を友に持つ身としてもわかる。
若干ではあるが心苦しさを感じるものの、それも一つの在り方。二人の間にのみ許されるコミュニケーションなのだと納得している。


 そうこうしている内に一人、また数人とめいめい広場に生徒が集まり始め、最後にコルベール教諭がやってきた。
生えてこないのか剃っているのかは知らないが、頭頂部に髪の毛がないのが特徴のコルベールは集合して並ぶ生徒達を確認する。
「それでは召喚の儀を始めましょうか、変に力を入れず適度な緊張感と楽な気持ちで」

 ジャン・コルベール、二つ名を『炎蛇』。
温和な教師であり、大人としての対応を弁えていて生徒からの人気もそこそこにあった。
授業も丁寧でわかりやすい、時折脱線しては趣味の研究話に没頭してしまうこともあるがそれもまた愛嬌である。
「一度に見られるのは限度がありますので二人ずついきます。尚、契約を終えた者から自由時間となりますので使い魔と共に過ごすのが良いでしょう」

「ミスタ・コルベール、是非わたくしからやらせて頂きたいのですが」
キュルケは先刻自分に言ったように、きっと手本を見せるためにも言ったのだろう。
それ以外にも自信家としての側面もあったのだろうし、黙って自分の番が来るまで見学しているようなタマでもない。
「構いませんよ、貴方は最初から一番手と決まっています。魔法の実地成績が優秀な順番ですからね」
「あらそうでしたの」
そう言うとキュルケは前へと進み出る。コルベールの言からすればもう片方も決まっていた。
同級でも屈指のトライアングルメイジにして、他の追随を許さぬツートップのもう一人ジョゼット。
「・・・・・・」
二人はスムーズに詠唱を行う。よく見知る二人の姿。それを黙したままシャルロットは見つめる。
メイジのメイジたる技能としての順番で召喚の儀式をしていくのならば、必然的に自分とルイズは最後になるだろう。
慣れているとはいえ、もし失敗した時は気分の良いものではない。
コントラクト・サーヴァントまで終えた者が、先にはけていって好奇の目に晒されなかったとしても――

 ――瞬間、どよめきが起こった。コルベールすらも驚いている。
キュルケは火トカゲ。妹ジョゼットに至っては風竜のようであった。
どちらも優秀な使い魔であろうことは間違いない。そして二人の、メイジとしての確かな力量が現れていた。
難なく契約までも終えて二人はコルベールから感心の言葉を貰うと、ジョゼットは風竜に軽やかに飛び乗り空高く舞い上がる。
キュルケは背を向けたままさりげなく手を振ると、さっさとサラマンダーを連れていなくなってしまった。
羨ましく思うと同時に素直に成功を喜ぶ。確かに華麗なお手本にはなった、成功のイメージを思い描き易くなった。


 ――次々と召喚の儀は消化されていく。そして遂に自分達の名が呼ばれ、残ったルイズに目配せをすると互いに瞳だけで激励し合う。
これまで失敗は一人もなし。流れは良い、と言えるだろう。それに他の生徒達は空気を読んだのか、各人それぞれの使い魔達と共に皆が皆この場から去っている。
尤も視界内に見えはしないものの一組だけ、その気配と見守るような視線を感じていたが・・・・・・。

 所定の位置に立って力を抜く。一度だけゆっくりと深呼吸をして、音も無く――杖の仕込まれた細身の――サーベルを右手で鞘から抜いた。
天へと向いた剣先を水平に、一文字となった刀身に左手を添える。呪文を唱える上で今の形が最も落ち着いた。
求道を決めたその日から・・・・・・両利きになるよう訓練したものの、それでも僅かに右利きである。

 図らずも――隣にいるルイズと――詠唱が重なった。
流麗に口語の詠唱を同時に終えると、ルイズは手持ちの杖を軽やかに振り、同じくシャルロットは刃を一度左肩口まで振りかぶってから斜めに虚空を切り裂いた。

 爆発。

目が眩まんばかりの閃光。鼓膜を直接叩かれたような耳をつんざく轟音。次いで巻き上がる土煙が周囲一帯を覆い隠す。
(あぁ・・・・・・)
シャルロットは心の中で嘆息し――悟る。失敗だ。いつだって爆発は失敗の証の一つだ。特にルイズにとっては代名詞と言えるほどに。
本当に僅かに聞き分けられたが爆音は二つ、二人揃ってサモン・サーヴァントすら成らなかった。
想定の範囲内とはいえ、やはり落胆せざるを得ない。

「うぅ・・・・・・」
「ゲホッ・・・・・・ぐっ・・・・・・今度はなんだあ!?」
それぞれ呻く声と、咳き込み叫ぶ男の声。
「・・・・・・??」
思わず回復しきっていない目を細めつつも開ける。煙が晴れると・・・・・・新たな"人間"が"二人"。
どう判断すべきなのか、いやそもそも目の前の人間は・・・・・・――

 シャルロットの頭は未だかつて無い程に困惑しきっていた。



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