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ルイズと無重力巫女さん-50




夕闇にそまりつつあるトリステイン王国のとある山中―――――
太陽が真っ赤な夕日となり人気のない森の中を照らしている。
木々の間から漏れる赤い木漏れ日は幻想的で、この世の光景とは思えない程綺麗であった。
もしその場に画家か旅の絵描きでもいれば、その光景を写そうと鞄の中から急いで画材を取り出すに違いない。

人の手が一切加えられていないその森は、悠久の時を経て自然が生み出した一つの芸術。
とある世界の人々が、自らの手で破壊の限りを尽くした原生林そのものであった。

だが――今日に限って、その森の中で戦いのゴングを鳴らした者達がいた。
ある者達は自然の摂理から外れた異形から受けた突然の奇襲により危機に立たされ、またある者は正体の掴めない者から攻撃を受けた。
血肉に飢えた獣たちと、人の常識では計り知れないモノ達が集い来る゛夜゛がすぐそこまで迫りつつあるその場所で―――


我ながら油断した―――。
左肩に受けた傷を手で押さえつつ、魔理沙とルイズの上に乗っている霊夢は悔しさのあまり歯ぎしりをしそうになる。
しかしそれをすると傷口から流れ出る血の量が増えそうな気がしたので、することはしなかった。
それにそんな事をしている暇があるなら、すぐにでも体勢を整えた方が有意義だと考えた。
霊夢はすぐにも行動を移そうとしたが、思いのほか自分の体が言うことを聞かないのである。
「くっ…う…!」
体を動かそうとするたびに間接の節々が痺れるように痛み出し、ビクリと止まってしまうのだ。
一体どうしたのかと疑問に思ったとき、咄嗟に左肩の傷口が目に入った。
傷口自体は大して深くもないのに血は一向に止まらず、痛みも最初の時より強くなってきている。
出血が止まらない傷口と関節の痛み。―――その二つから見つかる仮説が、霊夢の脳裏をよぎった。

(まさか、アイツの爪に毒が仕込まれてるっていうの?)

そこまで考えて、今の自分はかなり最悪な状況に陥ってるかもしれないと霊夢は改めて実感した。

一方、心中で冷や汗をかいた霊夢の事などつゆ知らず、下にいるルイズと魔理沙が声を掛けてくる。
「お、おい…そろそろどいてくれよ霊夢…いい加減苦しくなってきたぜ…」
リアルタイムで体力を削られている魔理沙に続き、その上にいるルイズも思わず苦言を漏らす。
「このまま倒れてたら…上にいるアイツに…」

「ヴヴヴゥ…!」

ルイズが言い終える前に頭上から二度目の呻き声を耳にした三人は、思わずそちらの方へと視線を向ける。
彼女らの視線の先、この世の生物とは思えない気配を放つ怪物が斜面の上から見下ろしていた。
先程悲鳴を上げたルイズはもう一度悲鳴を上げそうになるのを堪え、腰に差している杖に手を伸ばす。
しかし杖を取ろうとした右手はスカッと空気を掴んだだけで何も取れず、ルイズはハッとした表情を浮かべた。
(まさか斜面に転がり落ちたときに…)
瞬間、彼女の脳裏につい一、二分ほど前の光景が蘇る。
なんとか頭だけは満足に動かせるルイズはすぐに辺りを見回すが、自分の杖は見つからない。
今必要な物が一向に見つからず、ただ無駄な時間と焦燥だけが貯まっていく。

フーケのゴーレムと対峙したときや、霊夢がかつて自分の想い人だった男に刺されたときの様に――

(もう!どうしてこういう時だけ運が悪くなるのよ私は!?)
ここぞという時で全く活躍できない自分自身に怒鳴りたくなったルイズの視界に、ある物が目に入った。
それはルイズの捜している物ではなかったが、すぐ傍にいる少女の持ち物である。
小さくもズッシリとした重量感のある六角形の「ソレ」は、日が暮れてゆく森の中で異様な存在感を放っていた。

あれは…と呟きかけた瞬間。頭上から足音が聞こえてきた。
何かと思い目を動かすと、斜面の上にいた怪物がこちらに向かって斜面をゆっくりと降りてくるのが見えた。
ズシャリ…ズシャリ…と柔らかい土と小さな石が混ざった斜面を一歩、一歩としっかり踏みしめて降りてくる。


「マジかよ…あれを零距離で喰らって片腕だけで済むなんて、とんでもないヤツだぜ」
魔理沙はこちらに向かってくる怪物を見て、軽いショックを受けていた。
彼女の言葉通り、怪物の右腕は丁度肩の所から吹き飛んでしまったかのように無くなっている。
しかし不思議なことに血は一切出ておらず、赤く生々しい傷口は空からの夕日で艶めかしく光っている。
怪物は唯一残った左腕を空高く掲げ、指先から生えている鋭い爪をこれでもかと三人にアピールしていた。
未完成ながらも威力に自信のあった魔法を受けて倒れるどころかピンピンと立っているのだ。
魔理沙でなくとも、人形遣いや魔女でも同じような反応をしたかもしれない。多分。

一方、二人の上にいる霊夢は身体を蝕む毒に堪えつつこちらに向かってくる怪物を睨んでいた。
(参ったわね…まさかこんな状況に陥るなんて…)
未だ出血が止まらぬ左肩の傷口を押さえながら、霊夢は心の中で思考を始めた。
怪物は魔理沙の話や自分の目で見た感じ、恐らく背後からの不意打ちと接近戦を得意とするヤツだろう。
以前戦った虫の怪物と似通ったところはあるが、アレと比べれば外見はまだマシな方であった。
正面切って戦えば大して驚異にならない敵であるが、今の状況では正に強敵と言えた。
(どうやったか知らないけど…ギリギリまで気配を消すってのは卑怯じゃないの?)
背後からほぼ零距離で襲われた時、霊夢は怪物の気配を感じ取ることが出来なかった。


気配を消す…という事自体は思った以上に難しいが、訓練と経験を積めれば人間にも出来る。
だが霊夢が相手だと、普通に気配を消してもすぐに見つかってしまうだろう。
生まれつき勘が良いせいか、ある程度相手の気配を察知するといった事に長けてしまったのである。
その力は妖怪退治や異変解決の際に役立っているので、霊夢自身も便利だとは思っていた。

だが目の前にいる怪物は彼女の背後をとり、完全なる不意打ちを与えた。
まだ何処かにいないかルイズと話していた時にも密かに周囲の気配を探っていたのにもかかわらずだ。

魔理沙から話を聞いていた事もあって小屋の中にも入って調べていたのだが、塔の上で感じた気配の主は見つからなかった。
時間が経ち、突如やってきたルイズとの喧嘩もとりあえずの和解で収まった時――突然後ろから気配を感じたのである。
それはまるで、足下にあった石ころが突然爆発した時のような…霊夢にとって予想外どころか考えもしていなかった事であった。

いくら博麗の巫女と言えども、足下で爆発されては避ける暇も結界を張る暇も無いのだ。


(そして結果がこのザマとは…ホント参ったわね)
時間にすればわずか数十秒の思考が終わった瞬間、直ぐ傍にまで近づいてきた怪物が予想外の行動に出た。

「 エ゛ エ゛ エ゛ エ゛ ェ゛ イ ィ ! ! ! 」

耳元まで裂けていそうな口からおぞましい叫び声を上げて、いきなりその場で跳躍したのである。
突然の事に驚いた霊夢達は、飛び上がった怪物をその目で追い、そして驚いた。
異常な脚力で地上から五メイルほどジャンプした怪物は空中でくるりと一回転した後、なんと左手の爪を下にいる霊夢達に向けた状態で落ちてきたのだ。
それを見た三人はこれからの展開をなんとなく理解し、そして冷や汗を流しそうになった。
もしもこのままコッチに落ちてきたら、勢いよく突っ込んできた爪が霊夢どころかルイズと魔理沙の身体をも仲良く貫くに違いない。

「…うっわ、やべぇ!?コッチに向かって落ちてくるぞ!」
「ちょ、ちょっ…!」
相手がこれから何をしてくるのか気づいた魔理沙は驚愕し、次いでルイズが悲鳴にも似た叫び声を上げる。
そして何とか避けようと二人とも身体を動かすがルイズはともかく一番下の魔理沙はどう頑張っても逃げれそうになかった。
一方の霊夢は、落ちてくる怪物を睨み付けながらも逃げようとはせず、結界を張ろうと自分の体に軽く力を入れる。

しかしその瞬間、左肩の傷口を中心にして鋭い痛みと痺れが彼女の体を容赦なく攻撃してきた。
まるで傷口を容赦なく食い破る蛆虫のように、酷い激痛が襲い掛かってくる。
「ぐ…くっ!」

霊夢はソレに一瞬だけ怯むものの、後一メイルほどの距離にまで迫ってきた怪物を見て何とか力を振り絞る。
その結果が実ったのか、怪物の爪が霊夢の身体を突き刺すまであと十サントというところで結界は展開された。
急ごしらえの結界は実にお粗末な仕上がりであったが、怪物の攻撃を弾くことは出来た。

「ギェッ!!」
後一歩というところで霊夢の結界に勢いよくはじき飛ばされた怪物は十メイルほど吹き飛び、その姿は茂みの中に消えていった。


「…れ、レイム!」
「おぉ!流石のお前でもやる時は結構やるじゃないか」
霊夢が見事襲ってきた怪物を返り討ちにしたところを見たルイズと魔理沙は、自分たちの上にいる巫女へ賞賛の言葉を送った。
そんな二人の声を無視し、怪物がいなくなった事を確認した霊夢は両足にゆっくりと力を入れて立ち上がろうとした。
「うっ…」
しかし…先程無理をして結界を張ったせいか体中を這い回る毒が活性化し、呻き声を上げて前のめりに倒れた。
既に怪物によって付けられた爪の毒は、彼女の体を支配していた。
それは決して死に至る程ではないが、途方もない痛みと痺れが交互にやってくる。
「レイム!……あっ」
自分の直ぐ傍で倒れた霊夢を見たルイズは直ぐに立ち上がると彼女の傍に近寄り、そして驚いた。
先程までピンピンしていた彼女の体から、玉のような汗が滲み出てきているのだ。
浮かべている表情は高熱にうなされているかの如く苦しそうであり、呼吸も乱れ始めている。
「ちょっ、ちょっと…どうしたのよレイm…アツッ!」
状況が把握できないルイズは軽く錯乱した所為か偶然にも霊夢の額に触れ、驚く。
なんと彼女の額は、まるで沸騰したお湯が入ったティーポットのように熱くなっていた。

「ふぅ、一時はどうなることかと思って…ん?どうした霊夢?」
ようやく起きあがった魔理沙は、エプロンに付いた土を払い落とそうとしたところで霊夢の様子に気が付いた。
「ま、マリサ!何だかレイムの様子がおかしいのよ!?まるで熱にうなされてるみたいで…」
「何だって?」
ルイズの言葉を聞いてすぐさま霊夢の傍に寄ると彼女の言うとおり、確かに熱にうなされているかのような状態であった。
いつも霊夢の姿を傍で見ていた魔理沙は、それを見て目を丸くした。
「お、おいしっかりしろ霊夢。何か変な毒キノコでも喰ったのか?」
目を瞑って不規則な呼吸を繰り返す霊夢の頬をペシペシと叩きながら、魔理沙は話し掛ける。

いくら突然とはいえ、苦しそうな人間の頬を叩いて良いものだろうか?
魔理沙が霊夢の頬を叩く光景を目にしながらルイズはどうでも良いことを考えた。

「う、ぅ…」
しかしそれが功を成したのか、霊夢は閉じていた両目をゆっくりと開けた。
そして自分の傍にルイズ達がいるのに気が付き、二人の方へ顔を向ける。
「ルイズ…それと魔理沙」
意識を取り戻した霊夢に安堵しつつも、ルイズ達は早速彼女に話し掛ける。
「レイム!一体どうしたのよ?さっきまであんなに元気だったのに…」
魔理沙も気になっていたその質問を、ルイズが投げかけた。
「そうだぜ。いつも気怠そうな顔してるからって何も本当に倒れるこたぁないだろ」
「うっさいわね…この白黒…うくっ…」
魔理沙の言葉に罵声を混ぜて返しつつ、霊夢は言った。

「毒よ…アイツの爪に仕込まれてたのよ…」

その時であった、後ろの茂みからもう聞きたくも無かったあの叫び声が聞こえてきたのは。

キ ェ エ ー ッ ! 

まるで地獄からやってきた餓鬼のような声に魔理沙とルイズが振り向く。
そして振り向いたと同時に、背後の茂みからあの怪物が再び飛びかかってきた。
先程霊夢の結界にはじき飛ばされたのにもかかわらず、元気であった。悪い意味で。

ルイズ、霊夢、魔理沙の内、最初に体が動いたのは魔理沙であった。

彼女はまず自分の傍にいるルイズを霊夢ごと両手で突き飛ばしてから、後方へと倒れ込んだ。
少しだけ湿った地面と植物が服と顔を汚したが、そのお陰で怪物の攻撃からは逃れる事が出来た。
魔理沙が倒れ込んだ直後。先程まで霊夢が倒れていた場所に、飛びかかってきた怪物の爪が勢いよく突き刺さる。
ドスッという恐ろしい音が辺り一帯に響き、木の枝に留まっていた一羽のフクロウが声を上げずに飛び去っていく。

(クソッ…何だよコイツは!?)
魔理沙は地面にうつ伏せた姿勢のまま、自分の後ろにいる怪物のしつこさに驚いている。
これまで幻想郷の弾幕ごっこを通じて戦闘を経験してきた魔理沙にとって、未知なる強敵であった。
いくら強力な攻撃を仕掛けてようが片腕を失おうが、コイツは怯えることはない。
まるで命令を与えられた人形や式のように、ダメージを受けようが手足を失おうが自分たちを殺すために向かってくる。
逃げるという選択もあるが、あの霊夢がまともに立ち上がれない程の一撃を与えたのだ。背中を見せれば襲ってくるだろう。

そんな相手を止める方法は二つに一つ。息の根を止めるか、戦略的撤退をするか。
だが、今のような切羽詰まった状況において行うべき行動は…間違いなく前者であろう。
(あんまり殺生とかはしたくないが…かといってむざむざ殺されたくないしな!)
やるしかないか―――心の中でそう決意した時、魔理沙の目がある物を捉える。
瞬間、彼女の心に残っていた未知なる敵に対する不安が驚愕と共に消え去った。

その道具は彼女、魔理沙にとって命の次に゛大切な道具゛であり、
いつも肌身離さず持ち歩き、その力と彼女自身の知識と技術を活かして幾多の戦いを共にくぐり抜け…
そして、つい数時間前にルイズのキツイ一撃と共に奪い取られてしまった、相棒とも言える程の存在。
彼女にとってかけがえのない物は今、湿り気を帯びた地面に転がっている。
(何でこんな所に…いや、そんな事よりもまずは…)
どうしてこんな所にあるのかわからなかったが、自然と体が動いた。
泥だらけの右手を動かしてすぐ目の前にある゛道具゛を手に取ろうとした時、悲鳴が聞こえてきた。

ハッとした表情を浮かべて振り向くと、あの怪物がルイズと霊夢を襲おうとしていたところであった。
まるで絵本の中に出てくる鬼の様に残った左手を天高く上げて、ゆっくりと二人に近づいていく。
「やだっ…!こっち来ないでよぉ!わたし達が何したっていうのよ!?」
先程悲鳴を上げたルイズは霊夢を庇うようにして怪物に背を向けながら、涙交じりの声で叫ぶ。
そして、一方の霊夢はもう殆ど意識が無いのか、目を瞑って苦しそうに息をしているだけだ。

そんな二人の姿を見た瞬間、魔理沙の瞳に明確な怒りの感情が灯ってゆく。
彼女はずっと以前に、幻想郷で似たような光景を幾つか目にしてきた。
その日暮らしの物乞いを平気な顔して集団で罵り、棒で叩こうとする良心の欠けた人間達。
弱り切って抵抗どころか命乞いすら出来ない人間を散々弄んだ挙げ句に喰い殺す下卑た妖怪。

所謂『圧倒的な力で弱者をいたぶる強者の構図』は、魔理沙にとって許せるものではなかった。
もはや遠慮はいらない。『コイツ』を一撃でぶっ飛ばしてやる―――!
心の中で決意した魔理沙は大きく息を吸い込み、力の限りこう叫んだ。

「おい!コッチ向けトカゲ野郎っ!!」

魔理沙が叫んだ瞬間、怪物はギィ!と鳴いてその体を彼女の方に向ける。
ルイズもまたその叫び声に反応して顔を上げると、偶然にも魔理沙と目があった。
魔理沙もそれに気づいてか一瞬だけルイズの方に顔を向けると、笑顔を浮かべてこう言った。


「よく見てろよルイズ、逆転の゛魔法゛を今からコイツにぶち込んでやるぜ」

「――――えっ…?」
それを聞いたルイズは魔理沙の言葉に目を丸くし、思わず声を上げてしまう。
その声を合図にしたのか、魔理沙は『魔法』を打ち上げるための行動に移った。

まず彼女はうつ伏せの姿勢からグルンと体を動かして仰向けの姿勢になると腰に力を入れて、勢いよく上半身だけを上げる。
次に、右手に持った゛道具゛に左手をそ添えて中央部分に作られた穴を怪物の方に向けた。
そして、体内にある魔力の一部を腕を通して迅速かつ正確に゛道具゛に注ぎ込んでいく。
目の前にいる相手を完膚無きまでに倒す一撃を与えるために。


「 キ ッ キ キ ィ ! ! ! 」 
自分が先手を取るとでも言いたいのか、怪物は叫び声を上げて跳躍する。
先程と違い地上から一気に十メイル程跳び上がると、そのまま魔理沙の方へと落ちてくる。
もしも彼女がこのまま動かなかったら、あの霊夢をダウンさせた爪の餌食になるのは目に見えている展開であった。

しかし、今の魔理沙にとっては絶好のチャンスとも言える状況であった。
空中にいるのならば避けられはしないだろうし、何より空に向けて『撃てば』ルイズ達に危害は加わらない。
今の魔理沙にとって先程まで『ヤバイ』と思っていた状況は、『貰った!』と言える程好都合だった。

「今更こっちに気づいても、手遅れだぜ?」
魔理沙はこちらに向かって落ちてくる怪物にそう呟き、笑顔を浮かべた。
その笑顔は相手をバカにするような嘲笑でも、ましてや人を徹底的に見下すかのような残酷な笑みでもない。
まるで陽の光を浴びて元気に育つ向日葵の如き、見る者を安堵させ元気づけてくれるそんな笑顔。
魔理沙よりも少し下の子供達が浮かべるような快活な笑みを、彼女は襲い来る怪物に見せていた。

――ザマァ見ろ!この勝負、私の勝ちだ!

魔理沙の心の内を代弁するかのように道具…否、『ミニ八卦炉』から一筋の光が放たれた。
丁度ピンポン球サイズの大きさを持つ光の線は速く、そして一直線に怪物の額を照らす。
しかしそれを意に介さず怪物は左手の爪を勢いよく振り上げ、叫び声を上げた。


「 キ ェ エ ェ ェ エ ェ ェ エ ! ! 」


さぁ死神よ、早く来い!お前の狩るべき命はここにあるぞ。
まるで人の命を狩りに来た死神を呼び寄せるかのような叫び声が森の中に響いた。

しかし、死神が選んだ命は魔理沙のものでもルイズのものでも霊夢のものでもなく――――怪物の命であった。

怪物の額を照らしていたミニ八卦炉の小さな光の線は一瞬にして何十倍もの大きさになり、その体を一気に飲み込んだ。
ビームが発射されたと同時にミニ八卦路からもの凄い異音が聞こえ始め、ついでそれを両手で持つ魔理沙の体を強い衝撃が襲う。
気を抜けばそのまま吹き飛ばされるかのような衝撃に歯を食いしばり、両足と腰にも力を入れて耐える。

「キャアッ…!」
一方のルイズは突然の出来事に驚くと同時に、目を開けていられないほどの閃光に思わず目を背けてしまう。
光の線から極太のビームへと昇華したそれは空を遮る無数の木の枝をも飲み込み、うっすらと星が見える夕暮れの空を上っていく。
時間にすれば僅か五秒であったが、ルイズとって五分もの時間が経ったように思えた。

しかし、その『五秒』が全てを終わらせた。
魔理沙のミニ八卦炉から放たれたビームは、見事怪物を消し去っていたのである。
それは比喩などではなく、文字通りの意味で。

ビームが放たれて一分が経ったであろうか、ルイズはゆっくりと魔理沙の方へと目を向けた。
魔理沙は双月がうっすらと見え始めた空にミニ八卦炉を向けた姿勢のまま、固まっている。
ふと頭上を見上げると、先程まで空を覆っていた幾つもの木の枝が綺麗サッパリ無くなっていた。

ルイズはそれを見て、先程ミニ八卦炉から出たビームが通った跡なのだと理解した。
そして自分たちを殺そうとした怪物はというと、何処にもその姿が見あたらなかった。
もしかすると、あのビームを直撃を受けて体が―――…そこまで考えて、ルイズは身震いする。
「すごい…こんな…」
ルイズは生まれて初めて見る゛魔法゛の感想かどうかはわからないが、無意識に呟く。
今まで数多くの魔法を見てきた彼女でも、パワーの塊とも言える魔理沙の゛魔法゛に驚きを隠せないでいた。


「どうだルイズ?見事この私があの怪物を退治してやったぜ」


ルイズの呟きに対し、魔理沙は満面の笑みを浮かべてそう言った。
その言葉に、流石のルイズもポカンと口を開けながら頷くしかなかった。




(全く、私が気絶してる間に終わっちゃったのね)
そしてそんなルイズの後ろ姿と魔理沙の笑顔を、横になった霊夢は何も言わずに見ていた。
幸いにも怪物の毒は死に至るほどのものではなく、安い痺れ薬程度の効力しかなかったのである。
とはいえ一時的な呼吸困難と高熱で気を失ってしまい、つい先程目を覚ましたばかりではあるが。


だが目を開けたとき、既に怪物との戦いに決着はついていたらしい。
どうやら自分に一撃を与えたあの怪物は、結局魔理沙に退治されたようだ。
自慢のミニ八卦炉を持って嬉しそうにしている彼女を見れば、それは一目瞭然であった。


(役に立たない時は立たないけど、立つときはしっかり立つのよね…)


まだ声を出せる程回復はしていないが、近いうちに礼でも述べてやろう。
霊夢は心の中でそう思いつつ、再度目を瞑った。
化け物がいなくなったのなら、無理に起きて体力を削る必要はないと思ったからだ。


目を瞑った後は体力も落ちていたからか、すぐに眠たくなってきた。
これが永眠にならない事を祈りつつ、霊夢は今日一日の感想を心の中で呟く。


(ホント、こうなることが分かってたら初めから屋上で寝てれば良かったわ…)


そんな事を思いながらも、霊夢は再び眠り始めた。
次に目覚める時は、柔らかいベッドの上だと一心に願いながら。


幾多もの星と双月が、暗くなっていく空を飾り始める夕暮れの時間。
この日、トリステインに住まう者達の何人かが、トリステインの地で空高く登っていく光の柱を見た。
それの正体を全く知らない者達は何かの予兆だと勘違いし、始祖への祈りを始めたり家に篭もる者もいた。
本当の事実を知っている者は少なく、そして彼らはその事を他人に言いふらしたりはしないであろう。

何故なら、この真実がどれ程現実味に薄れているのか理解しているのだ。
無論、真実のすぐ傍にいたルイズもその事を知っていた。

明日はきっと、とても良い天気になるわね。

ルイズはそんな事を考えながら、ボンヤリと空を見つめていた。




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