あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ルイズと無重力巫女さん-49




ドアを開けようとした矢先、霊夢の耳に魔理沙とルイズの声が入ってきた。
「ちょっ…ま…どうやって来たんだよお前!?」

声の感じからして、恐らく考えてもいなかった事態に直面して焦っているようだ。
それに続いてカンカンに怒っているであろうルイズも聞こえてきた。
「やっぱり霊夢を追ったのは正解だったようね!どうせ二人してしばらく雲隠れでもしようかと企んでたんでしょ!?」
「うぇっ…?おいおいちょっと待てよ、霊夢はともかく私は逃げる気なんてないぜ」
「嘘おっしゃい!下手な嘘付いたらその分痛い目を見る事になるわよ!?」

霊夢はドアの前でふと足を止めた。どうやってルイズがここまで来れたのだろうか?
ここは学院から結構離れているし、何よりどうやって追いついてきたのか。
色々と疑問が浮かんでくるがそれを解決する前に、ルイズの゛勘違い゛をどうにかする必要がある。
もしも魔理沙の言葉を鵜呑みしてしまったら、全ての怒りが自分に降りかかってくるのだから。
(別にこっちは逃げる気なんてサラサラ無いっていうのに…疲れるわね)
心の中で呟きながらドアノブを握り、力を込めてドアを開けた。

瞬間、ドンッ!となにか柔らかいモノにぶつかったような鈍い音が響き、次いで「キャッ!?」という少女の声が聞こえた。

「あっ!ちょっ霊夢お前…なんてことを…」
霊夢を見て、魔理沙はビックリしたと言いたげ表情を浮かべて目を丸くした。

「何よ魔理沙。そんなに目を丸くして…あら?」
魔理沙に向かって一歩踏み出そうとしたとき、霊夢は自分の足下でルイズが倒れている事に気がついた。
プリッツスカートに包まれた小さくて可愛らしいヒップを、霊夢に向けて突き上げるような形で倒れている。
「声が大きいなぁと思ったらそんなとこにいたのね。アンタ……って、あれ?」
倒れたルイズを見下ろしながら喋っていた霊夢の視界に、ある物が目に入った。
ルイズの手元に転がっていたそれは、鞘から出ないよう縄でキツク縛られたデルフであった。

(デルフ?何でこんなところに…)
ここにいない筈のルイズよりも更にいないと思っていたデルフが転がっていた事に、霊夢は目を丸くした。
一体全体、どうしてこんなヤツがルイズと一緒に、どうやって森の中まで私たちを追ってきたのか?
色々と考えたい事が山ほどあるのに、更に疑問の種が一気に二つも増えた事に、霊夢は溜め息をつきたくなった。
そんな時、目の前の厄介事であるルイズの声が足下の方から聞こえてきた。
「…あぁ!」
「ん?」
霊夢がそちらの方へ目をやると、顔だけをこちらに向けたルイズが目を丸くしていた。
まるで何度も捜したが今まで見つからなかった捜し物がカンタンに見つけてしまったときの様な表情を浮かべている。
「レ、レイム!!」
ルイズが大声でそう言うと、霊夢は両手を腰に当てて言った。
「そう、私が博麗霊夢。素敵な巫女さんよ」
「ま、見た目はステキでも賽銭箱の方はいつも空だけどな」
それに続いて魔理沙が余計な事を言ったが、霊夢はあえて無視することにした。

一方のルイズは、急いで立ち上がると腰に差した杖を手に取り、それを霊夢に向ける。

「ようやく見つけたわよレイム。もう逃げられないんだからね!」
ルイズは鬼の首を取ったかのような表情を浮かべ、言い放った。
だが杖を突き付けられても尚霊夢の態度は変わらず、腰に手を当ててルイズをジッと見つめている。
やがてルイズが杖を突き付けてから十秒ほど経ってから、霊夢がルイズの後ろにいる魔理沙に話し掛けた。
「ねぇ、さっき雲隠れがどうとか言ってたけど…なんか色々と勘違いしてるわねコイツ」
霊夢のうんざりとした雰囲気が漂う言葉に答えたのは魔理沙ではなく、ルイズであった。

「か、勘違いですって!?嘘おっしゃい!アンタたち私が詰め寄ったときに部屋から出て行ったじゃないの!?」
「だってあの時どちらかが出て行かなかったら部屋が使い物にならなくなってたでしょうに?」
ルイズの怒りが篭もった言葉に対し、霊夢はやけに冷めた感じの言葉で返す。
霊夢の言葉にルイズの表情がうぐぐ…と言いたげな苦い表情に代わり、杖をギリリと握りしめた。
一方、半ば蚊帳の外にいる魔理沙は霊夢の言葉を聞いてあぁ成る程と心の中で感心した。

確かに、あの時のルイズは今よりも大分怒っていて下手したら部屋の中でドンパチ騒ぎが始まってただろう。
そうなってたらまず部屋が滅茶苦茶になっていたし、何より一緒にいた自分やシエスタまで巻き込まれていたかもしれない。
だとすれば、あの時霊夢が出て行った事にも納得できる。
(割と他人に冷たいところはあるが、少しだけ優しいところがあるじゃないか。…まぁ少しだけな)
一人勝手に納得しつつ、魔理沙はウンウンと頷いていた。

ちなみに、魔理沙はルイズの魔法がどんなものなのか未だに知らない。
授業には出ているものの、ルイズの事を知っている教師達が敢えて指名しないので、魔理沙はまだ一度も目にしていないのだ。


「そう…。なら、ここでアンタに魔法をお見舞いしても大丈夫の筈よね」
ルイズはそう言うと霊夢から少し距離を置き、ルーンの詠唱を始めようとする。
それを見て「お、コレは不味いぜ」と感じた魔理沙が急いでルイズの肩を掴んだ。
「おいおい、同じ部屋の住人同士でやり合う気かよ?」
突如後ろから入ってきた魔理沙に対して、ルイズは鋭い視線を浴びせる。
今のルイズの綺麗な鳶色の瞳には、紛うこと無き憤怒の色が浮かび上がっていた。
止めてなかったら今頃大変な事になっていた。と魔理沙は心の中で震えた。
「離しなさいマリサ」
ルイズの言葉には、いつもの綺麗な声には似合わないドスが混ざっている。
それに対し、魔理沙はいつもの態度と言葉で言い返す。
「離したら大変な事になるだろ」
「大変な事ですって?私はただ、アイツに人の礼儀を教えてあげるだけよ」
ルイズのその言葉に、魔理沙はヤレヤレと首を横に振りながら、こう言った。

「おいおい、クッキーの事はまだ根に持ってるのかよ?まぁほんの数時間前の事だけどな」

魔理沙の口から出た「クッキー」という言葉は、見事なほどの失言である。
黙っていれば良いものの。わざわざ事の発端となった数時間前の記憶を、魔理沙は掘り起こしてしまった。
「…良いわよ。そこまで言うなら、アンタにも今から教えてあげるわ。人としての礼儀ってヤツを」
ルイズは目をキッと鋭くさせてそう言うと自分の肩を掴んでいる魔理沙の手を勢いよく振り解き、ルーンの詠唱をし始めた。
手を振り解かれた魔理沙は後ろに少し下がりつつ、霊夢の方へ視線を向ける。

「どうする霊夢?もう滅茶苦茶やる気のようだが…」
「…う~ん、とりあえずルイズの思い違いをどうにかした方がいいかしらね」
魔理沙の言葉に霊夢は肩をすくめながらそう言うと、ルイズの体がピクリと反応した。
詠唱は既に終わっており、後は杖を振るだけで魔法が発動する状態である。
要は、手榴弾のピンに指をかけた人間を説得するようなものだ。
しかも相手はピンを抜いたら自爆覚悟で爆発させるだろう、何があっても。
霊夢はヤレヤレと言いたげな溜め息をついた後、ルイズに話し掛けた。


「まぁ何処から話せばいいか迷うけど。とりあえずここへきた理由を話しといた方がいいかしら」
「理由ですって?魔理沙と一緒にアタシから逃げるためにここへ来たんじゃないの?」
霊夢の言葉にすかさずルイズが反応し、そう言い返した。
「別に逃げやしないわよ。第一、雲隠れ程度でアンタの怒りが収まるワケがないのは知ってるし」
しかし霊夢はイヤイヤと右手を振りながらルイズの言葉を否定する。
彼女の言葉を聞き、怒りの篭もったルイズの瞳が少しだけ丸くなった。
「じゃあそれだけ私のコトわかっといて、どうしてこんな所にまではるばるやってきたのよ」
「それはこっちも言いたい台詞だけど…まぁ面倒くさいから先に話しとくわ」
霊夢は頭に浮かぶ疑問を抑えつつ、ここまで来た経緯をなるべく簡潔に説明し始めた。


――――…イタ イタ イタ

ミツケタ ミツケタ ミツケタ

モドッテキタ モドッテキタ モドッテキタ

ドウスル ドウスル ドウスル

サンニン サンニン サンニン

ヒトリモクヒョウ ヒトリメイジ ヒトリツヨイニンゲン

ミギウデナイ ミギウデナイ ミギウデナイ

ツライ ツライ ツライ

タイキ タイキ タイキ

カンサツ カンサツ カンサツ

タイミング タイミング タイミング

タイミング ハカッテ コロス

コロス ノハ アカイリボン ノ ニンゲン





――…とまぁ、そういうワケよ」
「へぇ~…そうだったのね」
時間にして数分間、自身の誤解を解くための短い説明が終わった。
霊夢が自身の誤解を解くためにルイズにはこう説明した。

  • ルイズの部屋を出た後、男子寮塔の屋上で昼寝していた。
  • それからしばらくすると、遠くの方から変な鳴き声が聞こえてきた。
  • 何かと思い目を覚ますと、ふと変な気配(霊夢曰く無機質な殺気)を感じた。
  • 以前にも似たような気配を持つ虫の怪物と戦ったことがあり、ソイツの姿が思い浮かんだ。
  • とりあえず放っておいても何時人を襲うかわからないので確認or退治しに行くことに。
  • しかし、目的地についてみると既に魔理沙がいて怪物がいたから退治してやったと言った。
  • 確かに気配も無くなっていたのでとりあえず近くの山小屋に入ったら、外からルイズの声がした。

霊夢の説明を聞き終えたルイズは杖を霊夢に突き付けたまま、視線を少しだけ下の方へ動かす。
(そう言えば…デルフが帰ってきた夜の時に化け物がどうとか言ってたわね…)
足下に転がっているデルフをチラリと見つつ、ルイズはその時の事を思い出した。



あの日…
部屋に帰ってきた霊夢から聞いた話は、まさかと思いあまり信じてはいなかった。
だがその翌日、生徒達の間で女子寮塔の事務室にいた教師達と警備の衛士達が気絶していたという事件を聞いたのである。


聞くところによると事務室に二人いた内の一人は衛士達の宿舎に倒れていて、衛士達は全員が持ち場で気絶していたという。
更に女子寮塔の事務室が大きく荒らされ、その事務室の前でミセス・シュヴルーズが倒れていたのだという話も後になって知った。
その後教師達が何が起こったのか色々調査しており、衛士達や当直の教師たちに事情聴取をしているという事も…。
ルイズは周囲のうわさ話を聞き、霊夢の言っていた事が真実なのだと確信した。
ところどころいい加減な所が垣間見える性格の持ち主であるが、あまり嘘をつくような人間ではないという事はこれまで一緒に過ごしていてわかっていた。
その後霊夢の口から更なる詳細を聞きだしたルイズは以前幻想郷へ連れて行かれた際、紫に言われた言葉を思い出した。


―えぇそうよ。…キッカケとはいえ、幻想郷とハルケギニアを繋いだ彼女の力は凄まじい。
 恐らくは今後、そんな彼女を狙って色んな連中がやって来る
 そしてその中に、今回の異変を起こした黒幕と深く関わっている連中が混じるのも間違いないわ
 つまり彼女の傍にいれば、自ずと黒幕の方からにじり寄ってくるって寸法よ


もしかすれば…霊夢が倒した怪物をけしかけたという貴族は、その黒幕の仲間かもしれない。
推測の域を出ないが、ルイズはそんな事を思ったのである。




そこまで思い出したルイズの思考は、ある結論へと辿りつこうとしていた。
(もしかしたら今回の怪物というのは…イヤでも、ちょっと待って)
だがたどり着く前に目の前にいる霊夢を見て、別の疑問が浮かび上がる。
その疑問を考えていく内に、段々とその表情が訝しいものへと変わっていく。
(でもレイムはここぞという時で嘘をつくような性格じゃないし…イヤ、でも…)
霊夢に突き付けていた杖を下ろし、自らの疑問と格闘し始めたルイズの顔には疑心の色が浮かんでいた。

「…なんかあんまり信じてなさそうね」
「当たり前じゃないの」
ルイズの顔色を見て霊夢がそう言うと、すぐにルイズも言葉を返した。
それは咄嗟の反応であったが言ってしまったが最後、自らの頭の中にある疑問を口にするしかなかった。
「この前倒したはずの怪物の気配をまた感じたなんてこと言われて、「はいそうですか」って言葉はすぐに出ないわよ」
簡潔に言えば「あなたの言っている事はイマイチ信用出来ない」という言葉に、霊夢の表情が少しだけ険しくなる。
「だからその怪物を、魔理沙が退治したって言ってたじゃない」
少し嫌悪感が漂う言葉で霊夢がそう返すと、ルイズは後ろにいる魔理沙の方へ視線を向けた。

「マリサ、アンタが戦った怪物ってどんなヤツだった?」
ルイズがそう質問すると、マリサは得意気な表情を浮かべて質問に答えた。
「あぁ、まぁトカゲというより爬虫類人間って感じのヤツだったぜ。少なくとも霊夢の言ってた虫っぽくはなかったな」
質問の答えを聞いたルイズは一呼吸置いた後、再度質問をする。
「その怪物と出会ったとき。何か変な、というか異質な気配を感じなかった?」
「いや、全然。まぁでも霊夢なら…何かの気配とかそういうの感じられそうだな」
魔理沙がそう言った後、ルイズと魔理沙は霊夢の方へと視線を向けた。
二人分の視線に当てられた霊夢は、ほれ見たことかと言わんばかりに肩を竦めて言った。

「別に気配の持ち主が虫の怪物ってワケじゃないかもしれないわよ」
「はぁ?」

突拍子もなく霊夢の口から出た言葉に、ルイズは首を傾げた。
「それってどういう意味よ」
「別に…ただ、あれはどうも普通の生き物って感じじゃあなかったし」
まるで人間と複数の虫を合成して作ったみたいなヤツだったわ。と霊夢は最後にそんな言葉を付け加えた。
それに続いて魔理沙もハッとした表情を浮かべると、思い出したかのように喋りだす。
「そういや…ワタシが戦ったヤツもなんというか…キメラみたいなヤツだったぜ」
魔理沙の口から出てきた単語に、ルイズの眉がピクンと動いた。
「キメラ…ですって?」
「あぁ、まるで爬虫類と人間を無理なく混ぜ込んだような気味悪いヤツだったよ」
でも退治したから二度と会うこともないな。と魔理沙は得意気にそう言った。
一方のルイズは、魔理沙の口から先程出た「キメラ」という単語が頭の中で引っ掛かっていた。

「その様子だと、何か心当たりでもあるのかしら?」
それに気づいた霊夢は、一見すれば何かを考えている風のルイズに声を掛ける。
霊夢に声を掛けられ、ルイズはほぼ反射的に言葉を返した。
「え…いや、キメラに関係した何かの研究を何処かの国が行ってたって噂話を聞いた事が…」
「へぇ、この世界じゃあキメラとか結構作ってるんだな」
自分もやってみたいと言いたげな感じで、魔理沙が呟く。
それは魔理沙の独り言であったものの、そうだと気づかなかったルイズは話を続けていく。
「作ってるって言ってもそんなの一部の国だけよ…色々危険だって噂もあるし」
「一部の国って何処の国よ?」
言い方が突っ込みに近い霊夢の質問に、ルイズは苦々しく答えた。

「そこまで知らないわ…ただそういう事がされてるって話をずいぶん前に街で…――…って、あぁっ!」
だがそれを言い終える前に、突如ルイズが素っ頓狂な声を上げた。
「どうしたのよ?」
「どうしたのよじゃないわよ!…話が逸れて危うく忘れるところだったじゃない!」
霊夢の言葉にそう返すと、ルイズはキッと霊夢を睨み付けた。
ルイズの言葉を聞き魔理沙はアッと言いたげな顔になり、霊夢は気怠げな表情を浮かべる。
どうやら話が少し逸れてしまった所為で、ルイズはここまで来た目的を忘れかけていたらしい。
そのまま忘れてくれれば良かったのに。霊夢は心の中で呟いた。

ルイズはコホンと小さな咳払いをした後、魔法を放つ気は無くなったのか杖を腰に収めると喋り始めた。
「まぁー…とりあえず、クッキーの件に関しては一つだけ言っておきたいことがあるわ」
ここで何か言ったらまた話が逸れると思い、霊夢と魔理沙は何も言わずに聞くことにした。

「あの後色々と考えて、そこで転がってるデルフにもアドバイスを貰ってね…ある答えに辿り着いたのよ」
ルイズはそこで一旦言葉を止めると、ピッと右手の人差し指を霊夢に向けた。
「…?」
突然指さされた霊夢は怪訝な表情を浮かべたところで、ルイズは後ろを振り返る。
「お、何だよ?」
後ろにいた魔理沙も霊夢と同じく怪訝な表情を浮かべると、ルイズは深呼吸をする。
肺に溜まっていた空気をある程度入れ替えた後彼女は出来るだけ胸を張った後、言った。



「今回の件、もう二度としないって約束してくれるのなら…む、む、無条件で…ゆ、ゆるしてあげるわ!」



その言葉はルイズ本人からしてみれば、かなりの大妥協であった。
本当ならば…、謝罪と軽い処罰でも与えようかと思っていたのだから。
しかしデルフが言ってくれた言葉と自身の考えもあってか、「謝罪と罰を与える」という考えを外す事にした。
(あの時のデルフの言葉…以外と役に立ったじゃない)
言い終えたルイズは胸を張った姿勢のまま、足下に転がっているインテリジェンスソードを一瞥した。

゛ちっとは大目に見てやろうぜ。そうでなきゃいつまでも溝は埋まらねぇぞ゛

その言葉を聞いてからここへ来る途中、ルイズは以前父親から授かった一つの言葉を思い出したのだ。
「貴族となる子供がまず最初に持つべき心とは。些細な事を自分から許し、共に手を繋いで歩いてゆこうとする寛大な心だ」
ルイズのベッドに腰掛けた父は、その大きな手で彼女の頭を撫でながら言ってくれた。
今思えば、その言葉にはこれから家を離れて暮らすことになる子供を思っての言葉だったのであろう。
例え喧嘩になってもこちらから許し、友と共に三年間の青春を歩んで欲しいという、父の言葉。

ルイズは今になってその言葉を思い出し、初めて許すことにしたのである。
最も、ある程度プライドが出来てしまったので、最後辺りで若干噛んでしまったのだが。
そんな言葉でも、直ぐ傍にいる霊夢と魔理沙に今の自分の意思を伝えることが出来た。

ルイズが言い終えた後、最初に口を開いたのは霊夢であった。
「…意外ね、アンタの口からそんな言葉が出るなんて」
「ふぇ!?…と、当然じゃない!これからし、しばらくの間三人で暮らすんだし!些細なことでけ、け、…喧嘩になってたら駄目じゃないの!」
今まで黙っていた霊夢がそう言うと、ルイズは言葉を噛みながらも言い返す。
一方の霊夢は、噛みながらも自分の意思をハッキリと伝えてくるルイズに対しある程度感心していた。
(プライドが高すぎるヤツだと思ってたけど。…やっぱり人間って変わるモノね)
心の中でそんな事を思いながらその顔に小さな笑みを浮かべると、口を開いた。
「じゃあ今度からは、普通に食べて良い茶菓子ぐらい用意しときなさいよね」
霊夢の口から出た意外な言葉に、ルイズはすぐさま反応した。
「はぁ?それってアンタたちが用意しとくべきじゃないの!」
「部屋の主なら、接客用の菓子くらい用意しとくべきだぜ?」
二人の会話に突然割り込んできた魔理沙の言葉を聞き、ルイズはキッと眼を話染めて彼女の方へ顔を向けた。
だが、ルイズの視界に入ってきた魔理沙はその顔に笑みを浮かべていた。初めて見るような暖かい笑みを。
まるで太陽の様に暖かく、優しい笑みはルイズにとって何処か懐かしさのあるものであった。

その笑顔を見ている内に、ルイズの中にあった怒りの感情は心の奥深くへと隠れてしまった。
ルイズは自分の思考を切り替えるかのようにゴホンと改めて咳払いをした後、自信満々な態度を隠さずに言った。
「そ、そ、そういうことなら任せなさい!あんた達も泣いて喜ぶほどの美味いのを用意しといてあげるわ!」
大見得を切ったルイズの言葉に、魔理沙はさもおかしそうにケラケラと笑った。
「おぉ、そいつは楽しみだな!ま、出来るだけ早く頼むぜ」
まるで少しだけ優しい借金取りが言いそうな言葉に、ルイズがすぐさま反応する。
「ちょ、待ちなさい。何よその言い方は…!」
ルイズは思わず両手を上げて怒鳴ったが、その反応がウケたのか魔理沙はまたもクスクスと笑った。
先程までの殺伐とした雰囲気は既になく、何処か穏やかなものへと変化していた。


「まさかこうなるなんて、流石の私でも思ってなかったわねぇ」
魔理沙とルイズのやり取りをボーッと見つめながら、霊夢はひとり呟いた。
以前のルイズならば、例え相手が神であろうとも杖を抜いて怒鳴る程の短気であったのに。
あのおしゃべりな剣に何を吹き込まれたのか知らないが、それがこの結果に繋がったのだからナイスであろう。
(剣としては錆びてて使えないけど、割と使えるじゃないの。)
ルイズの足下に転がっているインテリジェンスソードに、霊夢はささやかな感謝の念を送った。
それがちゃんと届いたのかどうかは知らないが。
(まぁこの件は一件落着として、ルイズに聞きたいことがあるのよね)
心の中で呟きながら二人のいる方へ近づこうとした時…――――気配を感じた。

それは霊夢にとって覚えのある気配であったが、出来れば再び感じたくない代物であった。
何故ならその気配が、人間の出せるモノではないと知っているからだ。
だが、その気配を感じ取った霊夢の頭に、二つの疑問が浮かび上がった。

なぜ今まで気づかなかったのか?どうして話している最中に襲ってこなかったのか?

その疑問解決する暇はなく、霊夢はほぼ反射的に振り向いた。

そして、振り返った霊夢の視界にまず入ってきたのは…
自分の顔目がけて左手に生えた鋭い爪を振り下ろそうとする、怪物の姿であった。
霊夢は襲いかかってくる相手に対し、反撃や防御が間に合わない事を瞬時に悟る。

彼女は自身の運動神経に賭けて後ろへ――ルイズと魔理沙のいる方へと跳んだ。

しかし、それは間に合わなかった。


「あんたの言い方だとまるで私の家が貧乏貴族みたi「ウアッ…!!」…え?…ッキャア!」
魔理沙と喋っていたルイズの耳に、突如霊夢の叫び声が入ってきた。
思わずそちらの方へ目を向けた時、コチラに背中を向けた霊夢が勢いよくルイズの体にぶつかってきた。
ルイズはこちらへと飛んでくる霊夢に対して為す術もなく、後ろにいた魔理沙をも巻き込んで吹き飛んだ。

「ドワっ!?」
魔理沙もまた突然の事に体が対応できずルイズと同じく吹き飛ばされ、背後にあった斜面を転がり落ちた。
ゴロゴロ…ゴロゴロと丸太のように転がっていき、ルイズと霊夢もそれに続いて斜面を転がっていく。
幸い斜面にはある程度草が生えていたお陰で三人共怪我はしなかった。
「アイデッ!?」
だが、最初に転がった魔理沙は、続いて転がってきたルイズの下敷きとなり。
「アゥッ…!」
ルイズもまた、最後に転がってきた霊夢の下敷きとなった。

少女二人を背中に乗せたまま、魔理沙は苦々しく呟いた。
「クソッ…何だよイキナリ」
その言葉に、霊夢を乗せたルイズが苦しそうに喋る。
「あ、アタシだって知らないわよ、ただレイムが突然…―キャア!」
「おっおいどうし…あっ!」
喋りつつも霊夢の方へ顔を向けた瞬間、ルイズは叫び声を上げた。
その叫び声に驚きつつ魔理沙も霊夢の方へ顔を向け、驚いた表情を浮かべた。
二人の視線の先には、何とも痛々しい光景が広がっていた。

霊夢の左肩。服から露出したその部分には、先程まで無かった切り傷が出来ていた。
傷口自体は浅いのだが、そこを通してゆっくりと血が外に流れ出ている。
叫び声を上げたルイズは思わず目を瞑ってしまい、魔理沙は驚きのあまり目を見開いていた。
一方の霊夢は傷口を手で押さえようともせず、ただただ痛みに堪えている。
「クゥッ…」
「おっおい霊夢!大丈夫か!」
「大丈夫なワケ…ないでしょうが…見て分からないのこのバカ!」
いかにも苦しそうな呻き声をあげた霊夢に、咄嗟に魔理沙が話し掛ける。
魔理沙の言葉に霊夢は右手で傷口を押さえつつ罵声を混ぜて乱暴に答えた。
一体何が起こったのかと魔理沙が霊夢に聞こうとしたとき、二度と聞きたくなかった叫び声を耳にした。


キ ィ イ ィ イ イ イ  イ イ ィ ! 

まるで生きたまま皮を剥かれた猿の様な声が、頭上から聞こえてきた。
魔理沙とルイズそして霊夢がそちらの方へ顔を向けると――――『ヤツ』は斜面の上にいた。
後光に差されたそのフォルムは、一見すれば右腕が無い隻腕の成人男性に見えてしまう。
だが左手から生えている鋭い爪に爛々と光る大きな目玉は、自らが化け物だという事を三人にアピールしていた。

「…っ!あいつは!」
「ば…化け物!?」
その姿を見た魔理沙は、驚愕の余り目を見開いた。
目をそらしていたルイズもそちらの方へ目を動かし、次いで叫び声を上げる。


ヴ ヴ ヴ ヴ ヴ ヴ ・ ・ ・ !

「くっ…」
そして霊夢は、コチラを見下ろす怪物を恨めしそうな目で見つめている。
彼女からしてみればこの状況は酷いくらいに最悪であったが、怪物からしてみれば面白いくらいに最高の状況であった。

何せ、『モクヒョウ』に一撃を喰らわしたのだ。
自らの頭にある『命令』を完遂できる確率は、大いに上昇した。



一方、霊夢達がいる場所から大分離れた森の中――
鬱蒼とした木々が陽の光を遮るその中で、タバサと黒髪の少女が対峙していた。
森の中では割と目立つ赤い大きなリボンを着けた黒髪の少女は、微動だにせずジッと頭上にいるタバサを睨み付けている。
タバサは大樹から生えた太い枝の上に立ち、その右手に大きな杖を持ったまま黒髪の少女を眼鏡越しに見つめている。
そしてその二人に挟まれるようにして、今も尚気を失い地面に倒れている村娘のニナがいた。
二人は何も言うことなく見つめ合っていたが、ふと黒髪の少女が口を開いた。

「何の用かしら?この子の保護者か何か?」
黒髪の少女の言葉にタバサは首を横に振り、黒髪の少女を指さす。
「何?もしかして私に用があるって言うの?」
その言葉に、タバサはコクコクと頷く。
黒髪の少女はそれに対して、右手をヒラヒラと振ってこう答えた。
「悪いけど後にしてくれない?今変な妖怪みたいなヤツに追われてて逃げてる最中なのよ」
「そう。けど、私の用も大事」
少女がそう言うと、今まで首を横に振るか頷くかしていたタバサが、ようやっと口を開いた。
タバサが喋った事に軽く驚いたのか、少女は目を丸くする。

「あんた喋れたんだ」
「最初から喋れる」
「そうなんだ。…まぁ私の知り合いの中に結構なお喋りが多いから、アンタの無口っぷりを習って欲しいわ」
少女は先程タバサに攻撃されたのにも関わらず、余裕満々と言いたいくらいに喋っていた。
そして彼女に攻撃したタバサはというと、少女が言い終えるのを待って、口を開く。
「あなたに聞きたいことがある」
「ん?何よ、アタシを吹き飛ばしてしまったからその謝礼をしたいのかしら」
つい先程の事を思い出したのか、少女は細めた目でタバサを睨んだ。
しかしタバサは首を横に振った後、ゆっくりと呟いた。


「あなたの記憶は、誰のモノ?」
「は?」


タバサの唐突な質問に、少女は目を丸くした。
突然の質問にしばらく硬直してしまったが、少女は話しにならないと言いたげな態度で返事をした。
「何言ってるのよ?この記憶はアタシの…」
「違う」
だが言い終える前に、タバサがその言葉を制した。

「あなたの記憶は、あなたの記憶であってあなたの記憶ではない。ただの模倣品に過ぎない」
タバサがそう言った瞬間、少女は背後からもの凄い殺気を感じ取った。
目を見開いて反射的にジャンプした瞬間、頭上から氷の矢が三本落ちてきた。
三本の氷の矢―『ウィンディ・アイシクル』は先程まで少女がいた地面に刺さり、そして砕けた。
少女は背後に落ちた氷の矢が砕けるのを見た後、ニナの近くに着地する。
そして頭上にいるタバサの方へ顔を向け、キッと睨み付けた。

「もしかして、アンタもあの妖怪の仲間…ってことかしら?」
少女の言葉を無視する形でタバサはただ一言、呟いた。

「あなたの身体と意志を、本来居るべき場所へと返す」
呟いた後にフッ…と杖を振ると、タバサの周囲に新たなウィンディ・アイシクルが五本も形成される。
ウィンディ・アイシクルの鏃は全て上を向いていたが、タバサが杖の先を少女に向けるとそれに習ってウィンディ・アイシクルも向きを変えた。
詠唱者の意志に従う五本の氷の矢は、全て地上にいる少女に向けられた。

「質問の答えになってないわよ。チビ眼鏡」
気を失っているニナが背後にいる少女は、ジッとタバサを睨み付けている。
その瞳には紛れもない怒りの色が入り、赤みがかった黒い瞳と混じってゆく。

「私と母の為に―――死んで」
最後にそう呟き、タバサは手に持った杖を勢いよく横に振った瞬間、
氷の矢は音を立て、少女とニナの方へと飛んでいった。



新着情報

取得中です。