あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

使い魔はじめました-25



使い魔はじめました――第二十五話―― 


「ゲコゲコ」
「……ヴァレリー、これ、カエルよね?」
「ええ、カエルよ」
今は、ルイズとサララが湖から学院に帰りついたその翌日の朝である。
むぅ、と口を尖らせてエレオノールは水槽に入ったカエルを見つめるていた
「いくらなんでもカエルを鍋で煮込んで、なんてやらないわよねアカデミーでは?」
ひょい、と取り出してバンザイさせてみる。
「しないわね」
掌に乗せて引っ繰り返し、腹をぐりぐりと撫で回す。
「ゲッ、ゲコッ、ゲコゲコッ」
焦ったようにカエルがとんちんかんな声をあげる。
「じゃあ、なんでここにカエルがいるのかしら?」
元の体勢に戻すと、よしよし、と頭を指先で撫でる。
「……エレオノール、私、あなたがカエルが好きだなんて知らなかったわ」
「このぬるっとぬめっとしてるのが可愛いんじゃない」
エレオノールの口元は若干緩んでいる。
「はーい、そんな私の同僚に残念なお知らせです」
「何よ?」
「私達が今取り組んでいる研究はなんだったでしょーか?」
「何って、『カエルの呪い』の解除薬で……」

沈黙。

「とある筋から『多少の副作用は構いませんから、早く戻してください』と送られてきたのよね」
「……そう。そうだったの」
カエルを水槽に戻す。
傍らの杖を手にとり、構えた。
「いいいいいいいいいい今すぐ忘れるほどの衝撃を与えてあげるわ」
「きゃ、きゃあああ! 落ち着いて! 落ち着いてエレオノール!!」
「失礼します、姉さま、水精霊の涙を手に入れ……姉さま!?」
扉を開いたルイズとサララが目にしたのは、杖を持って暴れ回る姉と、
彼女を必死に止めようと羽交い締めにしているその同僚の姿であった。
「こんなに大量の水精霊の涙を、よく手に入れられたわね」
瓶に半分程溜まっているのを見て、ヴァレリーは感嘆の声を上げた。
こっちの市場で売りに出せば幾らになりますか、と聞きたいのをサララはジッとこらえた。
必要なアイテムであっても、高価だと解ると店頭に並べたくなる癖は未だ治らない。
それどころか、元からの能力とミョズニトニルンの力のおかげで、
異世界のものであっても値段が解ってしまうので、実は以前より悪化している。
瓶半分の量であっても『定価 4000G』とか言われたらほんの少しだけ手放すのが惜しい。
依頼されて入手した『惚れ薬(定価 3000G)』が返却された後行方知れずになった時よりなお悔しい。
一番悔しい思い出はまだダンジョンに慣れていないころ、カエルやカラスと戦いを経て、
文字通り必死になって手に入れた『きれいな石(定価 300G)』の代金を踏み倒された時だが。
「サララ、難しい顔してどうしたのよ」
苦悶が顔に出ていたらしい。慌てて、なんでもありませんよ、と取り繕う。
「これだけの量で足りるか心配なのかしら? 大丈夫、十分よ」
座っていた椅子から立ち上がり、ヴァレリーはるつぼの蓋を開けた。
「これにほんの一滴垂らせば、それで十分だもの」
スポイトを用いて、瓶から水精霊の涙をるつぼの中へ垂らす。
ぽぉ、と光輝いたかと思うとそこに並々と薬が溢れていた。
「確認してもらえるかしら?」
手渡されたそれに意識を向ける。
熱を持った額のルーンが、サララにその薬の効能を知らせてくる。
どうやら、無事に解呪薬として完成したようだ。
「出来あがったのね。それじゃあ、早速実験しましょう」
腰に下げていた杖を一振り。レビテーションによって水槽の中のカエルがふわふわと浮かぶ。
ソファの上に下ろされたカエルの体に、解呪薬を垂らした。
ぽふん、と軽い発破音がし煙が立ち昇る。
煙の中から現れたのは、一人の青年だった。
「かかかっ、カエルが人間に!」
そういう薬なのだが、ルイズは忘れていたらしい。
青年は己の姿が元に戻ったことに頓着もせず、ジッ、とソファに座っている。
冷や汗で濡れた顔を動かさぬまま、チラリ、と視線を隣に送っていた。
彼の隣には、顔を真っ赤に染め上げたエレオノールが居た。
何かを言おうとして口を開き、顔を赤くし、また閉じる、を繰り返しているエレオノールが居た。
「お……お久しぶりです、ミス・アルベルティーヌ……」
「は……はい……」
青年に呼ばれ、エレオノールはどうにか返事をする。
「あの……失礼ですが、どなたでしょうか」
ルイズが不審げな眼差しを向ける。ヴァレリーは物凄く良い笑顔をしている。
「……あ、ああ、失礼しました。まずはお礼を言わねばなりませんね」
一旦声を出したことで、やや正気に戻ったらしい青年は、ルイズに向き直った。
「元の姿に戻していただき感謝します」
ぺこり、とルイズだけでなくサララにも頭を下げる。
貴族なのに頭が低い珍しい人だな、とサララは思った。
「ゲルマニアへ旅行中にカエルになった時は焦りましたが、
 ……今の状況よりマシかもしれません」
そう告げて、はぁと大きなため息を一つこぼした。
隣のエレオノールは何故かやや涙目になっていて、
ルイズは滅多に見ない姉の姿に目を見張った。
ヴァレリーは凄まじく良い笑顔をしている。
「改めまして……、コホン。
 私はロジェ・エカルラート・ド・バーガンディと申しまして、その……です」
「え? あの、今なんと」
小声になった部分が聞き取れず、聞き返す。
「……ミス・アルベルティーヌの、婚約者、です」
「あら、そうでしたの? ちっとも知りませんでしたわ」
ヴァレリーがとてつもなく良い笑顔でわざとらしく驚いた声を上げた。
「さる伯爵家の方から持ち込まれたサンプルが、
 まさかエレオノールの婚約者だったなんて!」
あ、この人全部理解してたな、とサララは察したがそれを追求することはしなかった。
色々な事情を持つお客様に接してきた経験から、沈黙すべき瞬間は理解しているのだ。
「まあまあ、やらかしちゃったわねえエレオノールあなた!」
「……うぅ……」
「婚約者の体を? それとは知らず? 好き勝手に弄り回してデレデレしてたわね!」
「……ヴァレリー」
ゆらり、とエレオノールが立ちあがる。
「ねえどんな気持ち? 今どんな気持ち?」
エレオノールの堪忍袋の緒が、ぶちぶちと音を立てて千切れた。
「フンッ!」
渾身のボディブローがヴァレリーの鳩尾に吸い込まれる。
ドサリ、と彼女が倒れ伏すのを確認し、エレオノールが振り向く。
「何か、おっしゃりたいことはございますかしら、ミスタ・バーガンディ」
釣り上がった瞳の端に、涙が浮かんでいた。
「……あれだけ好き勝手にされたら……」
ぼそり、と彼は答える。
「もう、あなた以外のところへお婿に行けない……」
「……へっ」
部屋の中にたちまち茹でダコが二匹出来あがった。
「カエルのもんだいもこれでかたがついたし、あとはまかせてかえりましょう」
はいそうですね、と下手な人形劇の人形のように言葉を発して、
二人は出来るだけ背後を振り返らないようにして部屋を出た。
正気に戻ったエレオノールが、先程までの恥ずかしい光景を見られたことに気付き、
口封じに来ない内に学院に帰らねばならない。
「……なんか、昨日と今日で凄く疲れたわ……」
ベッドに寝転がり、始祖の祈祷書を開いたままため息をこぼした。
「ボクどっちにもついてかないでよかったよ」
くぁ、とベッドサイドでチョコが欠伸をした。
サララは、と言えば日記に書くネタが増えて楽しいなどと暢気なことを考えながら、
カリカリと日記にペンを走らせている。
『コンコン』
が、何かを叩く音が聞えて顔を上げた。
『コンコン』
音の出所を探し、きょろきょろと辺りを見回す。
「ほっといていいわよ。キュルケのとこに来たオトコが部屋間違えてるんでしょ」
『コンコン』
ノックの音が止まる気配はない。それどころか、段々強くなってるようだ。
「……ああもうっ!」
苛立ちを覚え、ルイズはベッドから起き上がる。
カーテンを開き、思い切り窓を開けた。
「部屋間違ってるわよ! キュルケなら」
隣よ、と告げようとした口から、声が引っ込んだ。
そこに立っていたものが、人に見えなかったからだ。
月目に青白い肌。背中に生えた翼。黒衣をまとったその少年は、明らかに人ではない。
「……サララ」
少年は視線の先にサララを見つけ、どこか安堵したように声を上げた。
「こんなところで何をしているんだ?」
首を傾げる少年に、しばし呆気に取られていたサララだったが、
ハッと正気に戻ると窓へと駆け寄った。
「どうしてここに、だと? それはこちらの台詞だ」
ルイズを押しのけるようにして部屋の中に入り、アイオンはジッとサララを見つめた。
「三十日以上も店を空けないなど、お前らしくもない。こんなところに何の用がある」
「こ、こんなところって何よ! 失礼ね! だ、大体あんた誰よ!」
「こいつの店の客だ」
事もなげに答える。
「はぁ!? サララの店って異世界じゃない! どうやって来たのよ!」
「ダンジョンの中にある古いテレポーターを使っただけだ」
「何よそれ! その、テレポーターとやらがあればサララは帰れるとでもいうの!?」
「……そうだが?」
「えーっ!?」
チョコが素っ頓狂な声を上げた。サララは驚きの余り声が出ない。
「……うそ……」
ルイズは呆然と呟いた。
こんなにあっさりとサララが帰る手段が見つかるなど、考えもしていなかったのだから。



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