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三重の異界の使い魔たち-13



~第13話 使い魔たち、街へ~

 ハルケギニア大陸の最南方、南海に面した小さな半島群。無数の都市国家がひしめくこの土地に、
ロマリア連合皇国は存在する。始祖ブリミルの直弟子、フォルサテにより開かれたといわれるこの
国は、ハルケギニアのブリミル教の総本山として君臨していた。ハルケギニアの全寺院を束ねる
宗教庁、そして、教徒たちの教えの全てを司る神の代弁者たる教皇、聖エイジス32世。この両者の
存在することが、ロマリアを始祖ブリミルへの信仰の要となり、この国が持つ“光の国”の称えの
所以となっていた。

「まったく、“お姫様”に会いに寄ってたら、すっかり遅くなってしまったな」
 愛竜アズーロに跨(またが)りながら、この国の神官たるジュリオは独りごつ。そのことで
受けるであろう小言を思うと、つい溜息が洩れた。
 うんざりした表情を浮かべるその顔を向けた先には、宗教庁たるロマリア大聖堂が見える。巨大な
本塔を中心に、五芒星を描くように並んだ5本の塔とそれを囲む城壁。トリステイン魔法学院を知る
者が初めてこの大聖堂を見れば、その両者のよく似た姿に驚くだろう。それはそうだ。トリステイン
魔法学院は、この聖堂を真似て建てられたのだから。もっとも、塔の高さがそれぞれ5割増しである
ことをはじめ、その大きさは犬と馬程も違う。
 ロマリアの中心たるこの大聖堂は、所詮小国であるトリステインの魔法学院よりも遥かに大きな
役割を担い、大きな規模を要するのだ。

 大聖堂の中庭に降りると、付近にいた神官たちが慌てた風に駆け寄ってくる。
「助祭枢機卿(じょさいすうききょう)殿!」
「お帰りなさいませ!」
 愛想笑いを浮かべた神官たち――その多くは巫女である――が、次々と群がってきた。本来、不吉の
象徴といわれる月目を持つジュリオが神官の法衣を着ることはまず許されない。しかし、“ある事情”
からジュリオは教皇の信頼が厚く、助祭枢機卿という高位の役職についていた。
「ええ、ただいま戻りましたよ。皆さまもお疲れ様です」
 軽く挨拶を返すと、誰にともなく問い掛ける。
「聖下は執務室においでですか?」
「はい、そう伺っております」
 教えてくれた巫女に礼を述べ、ジュリオは主の許へと向かった。

 大聖堂の中を抜け、重厚な扉の前に立つ。その扉の向こう側こそ、全神官たちの頂点、教皇
聖エイジス32世の執務室だった。
 しかし、ドアの前に立ってみれば、中からその称号にそぐわない談笑めいた声が聞こえてくる。
ジュリオは苦笑しながら扉をノックした。
「はーい!」
 すると、元気のいい声が返ってくる。それとともにドアが開き、小さな少女が顔を見せた。
「あ! ジュリオさま!」
「やあ、また聖下に読み書きを教わっていたのかい?」
 少女に笑い掛けてあげると、顔を真っ赤にさせた。あどけなくとも、女性は女性ということらしい。
苦笑混じりで少女の頭を軽く撫でてあげると、そのまま中へと入った。
「失礼します、聖下」
 おざなり気味に一言掛けながらドアをくぐると、そこは本の山だった。部屋の壁は一面に高い本棚が
並び、数々の書物がそこに収められている。宗教書以外にも様々なジャンルの書物が雑多に並んだその
様子は、さながら図書室や学者の研究室といった風情。とてもではないが、神官の最高権威たる教皇の
執務室には見えなかった。その印象を更に強めるのは、部屋で本を読んでいるたくさんの子どもたちだ。
一様に粗末な服を着た子どもたちは、1人の青年の話を聞きながら嬉しそうに笑っている。
「おれ、せいかにおぼえがはやいってほめられちゃった!」
「わたしも! わたしも!」
 元気にお喋りをしている少年少女たちをたしなめれば、そこでその男性はジュリオの存在に気が付いた
様だった。それから、大振りの机の上に乗った時計に目をやる。
「おっと、もうこんな時間か。皆、今日のお勉強はここまでです」
 途端、えー、と不満そうな声が唱和された。男性は苦笑すると、あやす様な声音で子どもたちに
言って聞かせる。
「大丈夫、明日はもっと面白いことをたくさん教えてあげますからね」
 男性が言えば、子どもたちの顔がぱっと輝いた。余程男のことを信頼しているのだろう、明るい
顔で、少年少女たちは執務室を後にしていく。
 子どもたちがいなくなると、ジュリオは男性に向き直った。まるで、召使いの様なラフな姿の、
若い男。中性的な、しかし輝く様な美しさを持つ、金髪の青年。その不可思議な、威光と呼ぶべき
ものを湛えた相手に向けて、ジュリオは1つ会釈をした。
「只今戻りました、教皇聖下」
 そう、その男こそがロマリア皇国教皇、実質上ハルケギニア最高の権力者、聖エイジス32世こと
ヴィットーリオ・セレヴァレその人だった。ヴィットーリオはジュリオの眼を見返すと、咎める
様な色をその眼に宿す。
「ジュリオ、ずいぶん遅かったですね」
 静かな、それでいて迫力のこもった声。中性的な外見からは想像もつかない程の威圧感が叩き
つけられるが、ジュリオは平然と受け流した。
「いつも予定通りにいくのでは、つまらないでしょう?」
 肩をすくめ、軽口で返す。とても主人に対するものではない口振りに、ヴィットーリオは怒るでも
なく首を振った。
「何処で寄り道をしていたんですか?」
「ええ、隠れた姫君の退屈を紛らわせて差し上げに」
 それを聞き、ヴィットーリオの表情が幾分和らいだ。ジュリオがかの姫君に会いに通う理由は、
彼もまたよく理解しているためだ。

「それでは、報告を聞きましょうか」
 その命に、ジュリオも表情を引き締める。
「トリステインの担い手が、風韻竜の幼体を召喚。ルーンはガンダールヴでした」
 そう告げると、ヴィットーリオは軽く驚いた顔をした。
「風韻竜がガンダールヴとは……まあ、かの種族の能力を考えればおかしなことでもないので
しょうか」
「おかしいのは、むしろ青の姫君の召喚した連中なんですよ」
 1人納得するように言うヴィットーリオに、ジュリオは言葉を続ける。
「どういうことですか?」
 怪訝とするヴィットーリオに、ジュリオは説明していった。青い髪の少女、タバサの召喚した、
3分割されたガンダールヴのルーンを持つ使い魔たちのことを。
「それは確かなのですか?」
 聞き返す教皇に、真面目な顔で頷く。それから、ヴィットーリオは思案するように顎に手をやった。
「担い手にあらざる者に召喚された、そしてルーンを3つに分けられたガンダールヴ……」
 ヴィットーリオが悩むように独りごちる中で、ジュリオは尋ねる。

「聖下、私に何か仰っていないことがおありなのですか?」
 冗談めかしながら、しかし視線は鋭く教皇を見据える。
「我々が揃えるべき、“四の四”。しかし、ガンダールヴが1体以上現れることがあるなど、僕は
伺っていませんでしたが?」
 声を厳しくさせながら、ジュリオは主の許へ歩み寄った。声音こそ静かに保っているが、その
心情は怒りに揺れている。教皇は今回の様なケースについて何も自分に教えていなかった。それは
自分の教皇に対する信頼を裏切ることも同じだったからだ。
「ジュリオ、その使い魔たちは、それぞれチキュウ、ハイラル、タルミナという世界から来たと
言っていたのですね?」
 しかし、ヴィットーリオはジュリオの糾弾に動じず、逆に聞き返してくる。それにジュリオは
眉をひそめながら頷くが、そこでヴィットーリオが杖を振り呪文を唱えはじめた。
 すると、空間の一部が歪みはじめ、やがて円盤型の光が生まれた。それから、その円盤はこの
場ではない、それどころか、“この世界ではない景色”を映し出していく。
 そこに映されていたものは、奇妙な形状の建造物。2つの四角い塔の様なもの、魔法ではまず
造ることが叶わないであろう、精巧かつ大規模な建物がまず見える。それを基礎に、渡り廊下らしき
ものが縦横に伸び、最上位の渡り廊下の片側に丸いものが取り付けられていた。窓があるところを
見ると、どうやらその球体も何かの部屋になっているのだろう。
「チキュウという世界については、貴方も知っていますね」
 問い掛けられ、ジュリオは頷いた。何故ならその“チキュウ”という世界は、今ヴィットーリオが
浮かべた円盤の中に浮かぶ景色の世界なのだから。

 それがチキュウという世界の、極東の島国の臨海都市にある放送局であることまでは、流石に
2人が知る由はない。

「私も、今回の様なケースは知りません」
 感情を窺わせない表情で、ヴィットーリオが告白する。ジュリオがそれを疑わしく思うと、
ヴィットーリオが首を横に振った。
「この期に及んで、貴方にこんな嘘はつきませんよ」
 言いながら、教皇は異世界を映す窓へ視線を移した。
「私の知識も、所詮過去の文献から得たもの。この窓に映る景色が、かの“工芸品”の世界で
あるということも、全ては先人たちの教えにより知りしこと。所詮は前例に基づく知識である
以上、いつかは前例なき事態に直面することもまた然り」
 そこまで言うと、ヴィットーリオは憂いのこもった息をつく。
「これまでであれば、四の四を揃えることが第一の目標でありましたが……」
 難し気に眉根を寄せる教皇。珍しく苦悩を見せる主に、ジュリオは沈黙を続けた。
「今、世界はそれとは別に“神の盾”を求めているのかもしれませんね」
 口を閉ざすジュリオの目の先で、ヴィットーリオが中空の窓に手をかざす。
「この世界に、ここに映るチキュウ、そして新たに知ったハイラル、タルミナという世界」
 独りごちて、ヴィットーリオは小さく頭を振ってみせた。
「世界とは、一体幾つあるものなのでしょうか……」



「あら、タバサ?」
 週の初めであり休日でもある虚無の曜日の朝、なんとはなしに学院の中庭に来ていたキュルケは、
使い魔3名とともにいる親友の姿を見つけて驚いた。
「おはよう」
「よう、キュルケ。おはよう」
「おはようございます」
「ツェルプストーか、おはよう」
 4通りに挨拶を受け、キュルケも返事をする。
「ええ、おはよう。でもタバサ、貴方が虚無の曜日に部屋を出るなんて珍しいわね?」
 不思議に思って、尋ねてみる。読書好きなタバサは、授業のない日は1日本を読んで過ごすのが
常だった。図書室以外で彼女が外出するとは滅多にないことだ。
「服を買いに行く」
「服ぅ!?」
 そして、返ってきた言葉で更に仰天する。年頃の少女ならば服を買いに行くなんて当たり前の
ことだが、それがタバサとなると話は別だ。彼女が不必要に着る服を余分に欲しがるなんて事態は、
前代未聞だった。驚愕するキュルケに対し、タバサは事も無げに続ける。
「私のじゃない。彼の」
 言って、青髪の少女は隣のサイトを指した。
「ああ、そういうことね」
 どうやら、サイトの着替えを買いに行くだけらしい。ほっとした様な、親友がおしゃれに目覚めた
わけではなくてがっかりした様な、複雑な気分だ。
「でも、それならあたしもご一緒していいかしら?」
 しかし、すぐに気分を切り替え、キュルケは提案する。今日はこれといって予定はないし
――仮に誰かとデートの約束をしていたとしても、忘れる様な約束ならしていないのと同じだ――、
来週のフリッグの舞踏会のために新しいドレスやアクセサリーを探しておきたかったのだ。
 そして、キュルケの言葉にタバサは小さく頷いてみせた。
「ありがとう、タバサ」
 短く礼を言い、キュルケはタバサを抱きしめる。
「お2人とも、やっぱり仲がいいですね」
 微笑まし気な声でナビィが言うと、傍らに連れていたフレイムが相槌を打つように鳴いた。
「アハハ、フレイムもそう思うんだ」
 ナビィがそれに答えると、フレイムがまたキュルキュルと鳴く。
「へえ、大変だったんだね」
 そして、次のナビィの言葉に、キュルケは首を傾げた。ただの相槌ではなく、本当に会話して
いるようだ。
「ナビィ、貴方、フレイムの言っていること判るの?」
 問えば、ナビィは頷く様に体を傾ける。
「キュルケ様、昨夜たくさんの人と同じ時間にデートの約束していて、すっかり忘れていたん
ですって?」
 笑いを噛み殺している様な声で言われ、流石にキュルケは頬が熱くなった。
「な、なんでそのこと!」
「フレイムが、昨夜はちょっとした騒ぎだったって言ってますよ」
 そう言われて、キュルケはフレイムの頭を軽く叩く。
「もう! 駄目でしょう、フレイム。そんなこと他人に言いふらすなんて」
 子どもに言い聞かせる様な声で叱責すると、フレイムの首が申し訳なさそうに縮こまった。

 その遣り取りを見ていたサイトが、感心したように呟く。
「すごいな、本当にフレイムの言葉判るのか」
「フレイムだけじゃないよ、他の使い魔の皆ともね」
 少し得意気な声で、ナビィが答えた。
「使い魔の皆が話してる言葉、多分何か精霊と近しい種族が使ってた言葉なんじゃないかな?
妖精のワタシには聞き取り易いわ」
 それを聞き、ムジュラの仮面が言葉を発する。
「まあ、浮遊霊の声さえ聞きとるのが妖精だからな。それくらいはできるわけだ」
 その発言に、タバサが反応する。
「浮遊……霊?」
「うん? まあ、要するに死んで漂っている魂だな」
 なんでもない様な調子で言うムジュラの仮面を、何故かタバサは少し表情を硬くした。そこで、
ムジュラの仮面の眼に楽し気な色が浮かぶ。
「なんだ? 亡者の類が恐いのか?」
「違う」
「ふうん? まあ、どうでもいいことだな」
 感情を窺(うかが)わせないタバサの反論ににやついた様な眼で応じた後、ムジュラの仮面は
サイトに向き直る。
「ではヒラガ、被れ」
「? おう、了解」
 言われて、黒髪の少年が異形の仮面を被った。
「今度は何するんだ? 服買いに行くだけなのに、なんか魔法使うのか?」
 不思議そうに聞くサイトには答えず、ムジュラの仮面が言う。
「主でもツェルプストーでもどちらでもいいが、今から行く街のイメージをしっかり思い浮かべ
られるか?」
 その質問に、キュルケとタバサは顔を見合わせた。問いの意味は判るが、意図がよく判らない。
それがどうかしたのか、とキュルケが聞くより早く、タバサが答えていた。
「できる」
「そうか。ならヒラガ」
 ムジュラの仮面が声を掛けると、サイトが頭に手をあてがう。
「ん……またなんか音楽が……これ、こないだのいやしの歌ってのの仲間か?」
「仲間というのは語弊がありそうだが、特殊な力を持つ曲という点では確かに同じだな」
 言って、ムジュラの仮面は説明した。
「“大翼の歌”といってな、自分の望みの場所に瞬間移動するための歌だ」
「おお、ワープってことか!? すげえ!」
 サイトが興奮した声を上げ、キュルケもまた驚きの眼を仮面の使い魔に向ける。音楽だけで
瞬間移動が可能とは、ムジュラの仮面の世界は一体どうなっているのか。
「そういう曲だからな、移動するためには、最低行き先のことが判ってなければならないんだよ」
「だから街のイメージを?」
 タバサの問いに、ムジュラの仮面はそうだと答えた。
「そんじゃ、俺はタバサたちが街のイメージ思い浮かべたら、この曲吹けばいいんだな?」
「ああ」
 そこで、サイトはよしきたとばかりに指笛の用意をした。そして、タバサは街を思い浮かべて
いるのか、眼をつむって集中している。つられ、キュルケも街の風景を頭に浮かべた。
「サイト、吹いて」
「了解!」
 意気揚々とばかりにサイトは答え、短く口笛を吹いた。シンプルながら、何処か力強い躍動感の
ある曲だ。
 そして、それが鳴り響いたその刹那、純白の光が巻き起こった。白銀に輝く、翼の形に煌めく
光。それが羽ばたく様に広がると、すぐさま閉じて一気にキュルケ達を包み込んだ。そして、光が
凄まじい速さで回転を始め、純白の繭(まゆ)を形作ったかと思えば、やがて急な浮遊感を感じる。

 そして、フェオの月、ティワズの週、虚無の曜日、午前8時42分。鳥の羽ばたきの様な音と
ともに光が掻き消えた時、中庭にキュルケ達の姿はなかった。



 トリステイン王国王都トリスタニアは、魔法学院から馬で3時間程の距離に存在する。
大通りたる
ブルドンネ街は国有数の都市のそれとしては狭いものの、活気においては首都の名に恥じない
にぎわいを誇っている。その突き当たりに高々とそびえるトリステインの王宮の威光を受けながら、
貴族、平民を問わず人々は春の休日を謳歌していた。

 そんなうららかな虚無の曜日の午前8時42分、トリスタニアの一角にある噴水付近。恋人たちや
友人たちの会話声やら露天商の宣伝やらで喧騒高らかな場所。人々がめいめい休日の朝を過ごす
中、俄に、しかし大きく空気が揺れはじめる。
 唐突ながらも、無視するには大きな異変に、噴水周辺の人々は不思議そうに辺りを見回した。
「あれ?」
 そして、その内1人が、上空に輝く何かを発見した。白く光る、球の様なもの。その声に他の
人々も空を見上げる頃には、それは既にかなり近づいていた。
「うわぁっ!?」
「な、なんだっ!?」
 そして、凄まじい轟音と土煙を上げ、その球体は街の石畳に墜落する。瞬間、鳥の羽根の様な
ものが周囲に舞い散り、そして消えた。
 突然の事態に周囲の人々が混乱していると、やがて土煙の中に影が浮かびはじめる。よく目を
凝らしてみれば、そこには3人の男女と一匹の幻獣が倒れていた。

「お、おい、ムジュラ……」
 最初に体を起こしたのは、仮面を被った黒髪の人物。声や背格好からして少年と思わしきその
人物は、何やら恨みがましい声を出している。
「こりゃ、一体どういうこった?」
 静かながら怒気の籠(こも)った声が放たれると、それとは別の声が上がる。男とも女とも
つかない、高くて中性的な声だ。
「うん? なんのことだ?」
「なんのこと、とは、随分じゃない?」
 嘲笑めいた余裕がある声に対し、今度は女性の声が発せられた。見れば、貴族らしき赤毛の少女が
身を起こしている。
「確かにトリスタニアには着いているみたいだけど、なかなか素敵な着地よね?」
 赤毛の貴族は、その美しい顔を怒りに満ちた笑みで彩っていた。その隣では、虎程もある大きさの
サラマンダーが唸っている。そんな少女と火トカゲへと、再び中性的な声が答えた。
「ああ、こうなるだろうとは予想していたな」
 そこで、3番目の人影が体を起こす。やはり貴族と思わしき青い髪の少女で、先の2人とは違い
穏やかな様子で口を開いた。
「予想していたとは?」
「なに、この曲は本来特殊なフクロウの像と契約を交わし、それからその像の場所へと移動する
ための曲だ。そういう手順を踏まず、その上像のない任意の場所へとワープするのでは、なんらかの
形で不安定さが表れるとは思っていた。むしろ、墜落まがいで済んだだけましというところだ」
「じゃあ、やる前にそう言えよ!」
 その怒号を皮切りに、少年と赤毛の少女が怒りの叫びを放ちだすのを、周囲の人間たちは唖然と
眺めるのだった。



「ったく、一張羅(いっちょうら)が埃まみれじゃんかよ」
「ぼやくなよ、これから代わりを買いに行くんだろう?」
 大通りを歩きながらのサイトの文句に、ムジュラの仮面が飄々(ひょうひょう)と答える。
その会話を聞きながら、キュルケも割って入った。
「まったく、貴方って本当に何を考えているのか判らないわね」
「判らないなら教えてやる。オレは怒りや悲しみ、怯えに歪んだ顔を見るのが好きなだけだ」
「アホかっ!」
 サイトが呆れと義憤が半々になった様な声を上げ、一方ナビィが疲れた様な溜息をつく。
「ムジュラって、確かにモンスターの割には邪悪なものがないって判るんだけど、その代わり
良心とか倫理感とかも無いんだよね……」
「それでいて力はムチャ強いって、もしかして最悪なんじゃねーか?」
 不平を洩らす同僚たちに、ムジュラの仮面は余裕の笑みで答えた。
「色々言うがな、ヒラガにナビィ。オレがいることで与(あずか)る恩恵と、オレの根性曲がりで
被る不利益を比べて、どちらが大きいと思う?」
 そう言われて、サイトたちは黙ってしまう。高速で地面に激突する様なとんでもない到着では
あるが、宣言した通りトリスタニアへ瞬間的に移動するという点はきちんと果たして見せた。
意地の悪い行動をそこかしこで見せるとはいえ、彼の能力が有用であることは事実なのだ。
「食えない……」
 隣で沈黙を保っていたタバサが、小さく呟く。その声に何処となく苦いものを感じ、キュルケは
親友の頭を優しく撫でた。規格外な上に根性悪な使い魔を召喚してしまい、これから彼女は苦労
しそうだ。

「っと、着いたわよ」
 そうこうしている内に、やがて一行は目的地たる服屋へとたどり着いた。その店を一目見た
サイトが、感嘆の声を上げる。
「おー、結構大きい店だな」
「ええ、王宮も御用達の服屋ですもの」
 言葉の通り、その服屋は立派な店構えをしていた。両隣の建物に比べて2、3割増しの規模を
持ち、入口や看板も優美な装飾で飾られている。王都の中でもそうそうない大店舗だった。
 墜落で乱れた身なりを整えて一行が店内に入ると、中はやはり大勢の客でにぎわっている。
王室が贔屓(ひいき)にしているだけあり、客層の大半は貴族だった。
 キュルケ達が適当に服を見て回っていると、店員の1人が声を掛けてくる。
「いらっしゃいませ、お嬢様方。どのようなものをお探しでいらっしゃいますか?」
 営業スマイルたっぷりの店員に、タバサがいつものポーカー・フェイスで答えた。
「彼に」
 最初にサイトを杖で指し、次いでムジュラの仮面を指し示す。
「この仮面に似合う服を」
 その説明に、キュルケは小さく脱力した。
「ちょっとタバサ、ムジュラに合う服なんてそうそう」
「畏まりました」
「あるの!?」
 思わず、叫びを上げる。貴族向けの服がメインであるこの服屋に、異形の仮面とセットに出来る
服があるとは思ってもみなかった。驚くキュルケをよそに、店員は「少々お待ちを」と一言断って
店の奥へと消えていく。それから間もなく、赤いビロードで包まれたキャスター付きのケースを
押してきた。

「こちらなら、そちらの仮面とよくお似合いかと思いますよ」
 言いながら、2メイル程の高さの細長いケースを包むビロードを、店員が一気に引き剥がす。
そして、露わになったガラスケースの中身に、一行は唖然とした。
 そこに収まっていたのは、一揃いになった服だった。しかし、ただの服ではない。上着は
やたら派手なギンギラのサテンイエローを基調にし、なんのつもりか異様にたくさん鳥の羽と
レースが取りつけられている。その上、ケースを回転させてみれば、獅子の体にワシの羽を持つ
幻獣マンティコアの絵が背中にでかでかと描かれていた。ズボンもまたすごい。色自体は白地と
上着よりましだが、何故か両腿の部分に1匹ずつ竜が躍っている。おまけに、その竜の目が宝石で
出来ているのだから困る。後部に見え隠れするのは、もしかしなくても尻尾らしい。そこまで
くれば、帽子もただで済むわけはなかった。つば広なのは許せるが、七色に光るのはどういう
ことだろう。光の加減で浮き出るドクロは、もっとどういうことだろう。頂上部分に取り付け
られた水晶製のドクロは、とことんどういうことだろう。とどめめとばかりの宝石たっぷりな
蝶のマスクに至っては、もはや笑う以外に応じる術はあるのだろうか。
「いかがでしょうか?」
 呆気にとられているキュルケ達に、店員が営業スマイルで感想を求めた。キュルケ達が言葉に
困る中、タバサが短く答える。
「突き抜けている」
 そのコメントに、キュルケも内心で同意した。タバサの言う通り、間違いなく突き抜けている。
果てしなく間違った方角へと向けて。
「この服は、元々当店が仕立屋としてお客様の注文されたもののみを作っておりました頃に
デザインされたものでして」
 そんな現在の人類のファッションセンスに真っ向から宣戦布告するかのごときその衣装のことを、
その店員は聞いてもいないのに語りはじめる。
「かの伝説の騎士“烈風”のカリンが纏ったと言われる由緒正しいものであり、当時デザイン
されたものそのままに再現した品なのです」
 何処か誇らし気に店員が言うと、サイトが声を発した。
「烈風のカリンって?」
「数々の功績を残した、トリステイン史上最強と名高い騎士」
 タバサの説明に、キュルケも頷いた。
「あたしも聞いたことがあるわ。でも、噂の烈風殿ってどういう趣味だったのかしら?」
 デザインした方もした方だけど、と付け加え、キュルケは乾いた笑みを浮かべた。

 その瞬間、某王宮と某公爵家において1つずつくしゃみが起こったのだが、一行が知ったことでは
もちろんない。
「この服をかの勇者がお召しになられた時、当時の店主は感動に打ち震えたと言われておるの
ですよ」
 一種夢見る様な調子で店員は語る。それは、感動というよりは実際にこれを人が着た姿に
吐き気を催したのと、注文されたのだろうとはいえこんな服を貴族に着させて逆鱗に触れないかと
恐れ慄(おのの)いたのとで震えていただけだろう。実際の場面に立ち会っていたわけでは
ないが、それは十二分に推測できた。
 それにしても、この服の実物を見ながらそこまで持ち上げられるとは、この店員かなりの大物
なのかもしれない。
「この蝶のマスクの代わりにそちらの仮面を使っていただいても、全体的によい調和が取れるかと
存じます」
 締めくくる様に言われ、一同はあいまいに頷く。確かに、ムジュラの仮面が蝶のマスクに
代わってこの中に入ったとしても、さしたる違和感はないだろう。しかし、それは異形の仮面が
奇怪な服装とマッチするというだけで、不気味さを二乗にするということでしかない。

 形容しがたい空気が流れる中、サイトが青い顔で口を開いた。
「これ、俺が着んの……?」
 語る声が恐怖に震えていた。なるほど、実際にこれを着るかもしれないのは彼なのだから、
その気持ちはよく判る。
「それはない」
 そこでタバサが否定の声を上げ、サイトが安堵を見せた。やはり彼女もこの服はないと思って
いるようだ。そう思っていると、青髪の親友はまた口を開く。
「サイトが着るには小さい」
 言われ、キュルケ達は改めて服を見た。デザインの奇妙奇天烈さに囚われて気が付かなかったが、
確かにこの服はかなり小さなサイズにつくられていた。伝説の騎士というので大柄な偉丈夫を
想像していたが、烈風のカリンは意外に小柄だったのかもしれない。そういえば、かの騎士が
実は男装の麗人だったらしいという噂をキュルケは思い出した。
「残念」
 そして、続いた言葉にキュルケは眼を見開く。
「ちょいとご主人様? サイズが合ってたら、俺にこれ着せてたわけ?」
 サイトの問いに対し、タバサは無言で返した。
「いや、そこで黙らないでくれよ!」
「ちょっとした冗談」
「た、頼むからさあ……」
 タバサの返答にサイトが脱力する横で、ムジュラの仮面が愉快そうに言う。
「“メイジを知るには、使い魔を見よ”というのだったか? オレを召喚しただけあって、主も
なかなかいい性格をしているじゃないか」
「心外」
 珍しくタバサが微妙に嫌そうな顔をすれば、ムジュラの仮面がますます笑った。その遣り取りに、
キュルケは呆れながら続きを促す。

「冗談はそれとして、サイトの着替えはどうするの?」
 言ってみれば、聞いていた店員が愛想好く答えた。
「こちらがお気に召されないのであれば、他にも用意がございますよ」
 言って、また一言断ってから店員は突飛な衣装のケースとともに奥へ行き、また新しいケースを
運んでくる。
「こちらなどはいかがでしょう?」
 次に持ってこられたのは、2枚重ねの貫頭衣だった。上着の裾は表裏とも真ん中から左右に
裂けるような形をしていて、裾の端は腿の辺りまで伸びている。ゆったりした袖は手が隠れる
程に長く、袖口から細長い布が数本伸びていた。模様は黒地の上に青緑のラインが幾何学模様を
描く感じで、同系統の模様の描かれた赤銅色のサーコートが長短2枚重ねで掛けられている。
上着の下の服もやはり黒く、裾は膝下まであるだろう。肩まわりは金属製のプロテクターの様な
もので鎧われ、喉元付近には赤い宝玉が取り付けられていた。
 どことなく神官服に似た形状のそれは、さながら邪教の法衣の風情である。
「お気に召しますでしょうか?」
 店員に感想を求められ、サイトは渋い顔を見せた。
「うーん、さっきのよりはまだまともだけど、なんか悪者くさい服だな」
「そうか? オレは気に入ったが」
 サイトがいかにも気乗り薄な一方で、ムジュラの仮面は満足気な様子を見せる。
「ヒラガ、これにしておけ」
「いや、お前はそういうけどさ」
 邪教服(仮)を薦(すす)めるムジュラの仮面だが、サイトは難色を示すままだ。
「お前が着る服ということは、お前に被られるオレの服でもある。オレにも選ぶ権利はあるだろう?」
「言われてみりゃ、そうかな?」
「どの道、オレの姿と相性のいい服の造形など限られている。どれであろうと、どうせ大差は
あるまい。ならば、余計な時間を掛けずここで手を打っていいんじゃないか?」
「それもそうだな」
 しかし、あっさりとムジュラの仮面に丸めこまれてしまった。

「Hey! タバサ様」
 扱い易すぎるサイトにキュルケが呆れていると、ナビィがタバサに声を掛ける。
「仲間を疑うみたいで嫌ですけど、ムジュラのことはよく見ておきましょう」
 ナビィの言葉に、タバサは頷いてみせた。
「ムジュラ、臆面も無く意地の悪いところを見せるせいでかえって憎めないところがあります
けど……」
「そう感じさせるための振る舞いにも見える」
 引き継ぐ様にタバサが言えば、今度はナビィが頷く。
「今のサイトにしても、随分簡単に言いくるめていた」
「ええ。サイトの単純さを差し引いたとしても、彼は時々よく判らない説得力を見せる時が
あります」
「私が彼を被った時もそうだった」
 ナビィの言葉を、タバサは肯定した。
「今までムジュラが何をしていたかは判りませんけど」
「まずろくなことじゃない」
「まあそうでしょうけど、それはともかく、彼はどうも人の心を操る術に長けているみたいです」
 だから、とナビィは続ける。
「ムジュラは、ワタシたちが彼を嫌わないギリギリの線を見抜いて行動してるんじゃないかって
思えるんです」
 同僚を悪くいうことに気が咎(とが)めるのだろう、ナビィの声は多少気まずそうだ。
「多分、彼がその気になればもっと善良に振る舞うこともできたでしょうが」
「悪事をした時に、私たちの失望を買う」
「でも、冗談めかした意地悪を普段から色々やっていたら、多少のことではいつものことだって
ワタシたちも思うようになります」
 ナビィの話を聞き、タバサが思案する様に間を置いた。
「私たちが本当にその意地悪を受け入れるかは博打(ばくち)めいているけれど、考え方は悪くない」
「はい。と、いっても、邪気の少ない彼が進んで悪事をすることはないと思いますけど」
「しない証拠にはならない?」
 タバサに問われ、ナビィが頷く。
「仲間を疑うみたいで嫌ですけど、ムジュラのことはよく見ておきましょう」
「それはさっき聞いた」
「あ、ごめんなさい! 癖なんです」
 恥ずかしそうにナビィが笑うと、タバサも心持ち柔らかな表情を浮かべていた。
――あらあら、すっかり仲良くなっちゃって
 そんな両者の遣り取りを、キュルケは微笑ましく見守る。ナビィもなかなか頭の回転が速い
様なので、聡明なタバサとは息が合うのかもしれない。親友が自分以外の友人に語り合う相手を
得たことに、キュルケは胸を温かくした。

――でも、2人だけで盛り上がられるとちょっと悔しいわね
 少し考え、キュルケは2名の話に割り込んでいく。
「タバサ、サイトの着替えは決まったみたいだし、私たちもドレスを見ていきましょうよ」
 言うなり、キュルケはタバサの手を取って店員に声を掛けた。親友の友人が増えたことは
喜ばしいが、付き合いの長い自分よりも睦まじい様子は少し面白くない。
――あたしって、もしかしてすっごいわがままなのかもしれないわね
 心の中で呟くと、キュルケはタバサにはどんなドレスが似合うかについて思案を巡らせていった。

~続く~



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