何時の間にか夜の帳が下り、ただでさえ薄暗かった森は完全な闇と化している。
一寸先も見えぬ暗闇の中、克己と京水は仕方なくその場で野宿することにした。
一寸先も見えぬ暗闇の中、克己と京水は仕方なくその場で野宿することにした。
二人はその辺に落ちていた枝や葉っぱをかき集めると、器用に火をおこし始める。
やがて小さな明かりが闇の中で明滅し、それが枝や葉っぱに広がっていくと、それは立派な焚き火となった。
狭い範囲ではあるが、その場を明るく照らし、更に二人へ暖を与えている。
しかし、二人の体は決して温まることは無かった。
それは二人が『NEVER』……生ける屍だったからである。
やがて小さな明かりが闇の中で明滅し、それが枝や葉っぱに広がっていくと、それは立派な焚き火となった。
狭い範囲ではあるが、その場を明るく照らし、更に二人へ暖を与えている。
しかし、二人の体は決して温まることは無かった。
それは二人が『NEVER』……生ける屍だったからである。
だが……。
「……京水、おかしいとは思わないか?」
徐に克己が口を開く。
何やら思考に沈んでいる様子である。
京水は少しだけ首を傾げて答えた。
何やら思考に沈んでいる様子である。
京水は少しだけ首を傾げて答えた。
「おかしい……って、何が?」
「……そろそろの筈だ」
「そろそろって何……あ!!」
「……そろそろの筈だ」
「そろそろって何……あ!!」
京水は突然、自らの体のあちこちをぺたぺたと触り始めた。
「何?何?何なの?」
戸惑いがそのまま言葉となり、京水の口からついて出る。
「どうして?どうしてアタシたちの体が無事なの!?とっくに酵素が切れてもいい時間なのに!!」
克己たちの肉体は既に死んでいる。
その為、定期的に特殊酵素を打たなければ、肉体は徐々に腐敗を始め、やがて死体へと戻ってしまう。
これが『NEVER』の特色であり、一番の弱点でもある。
特殊酵素は克己の母である大道マリアが作ったものである。
だから彼女がいない今は特殊酵素の調達は望めず、そう遠くない未来に二人は死ぬ。
そういう運命になる筈であった。
その為、定期的に特殊酵素を打たなければ、肉体は徐々に腐敗を始め、やがて死体へと戻ってしまう。
これが『NEVER』の特色であり、一番の弱点でもある。
特殊酵素は克己の母である大道マリアが作ったものである。
だから彼女がいない今は特殊酵素の調達は望めず、そう遠くない未来に二人は死ぬ。
そういう運命になる筈であった。
だが、今の二人にはその兆候すらない。
二人が目を覚ましてから、半日以上は経過していると言うのに。
克己は自身の手の平を暫く見つめた後に口を開いた。
二人が目を覚ましてから、半日以上は経過していると言うのに。
克己は自身の手の平を暫く見つめた後に口を開いた。
「……まあ、いい。理解は出来ないが、困ることじゃない。寧ろ喜ぶべきことだ。俺たちが今一番危惧しているものがそれだったのだからな。
それに、別に俺たちが生き返った……というわけでもないらしい。相変わらず何も感じないし、『NEVER』としての身体能力もそのままだ」
「そう……ね。確かに分からないことをいくら考えていても仕方ないわね」
それに、別に俺たちが生き返った……というわけでもないらしい。相変わらず何も感じないし、『NEVER』としての身体能力もそのままだ」
「そう……ね。確かに分からないことをいくら考えていても仕方ないわね」
克己の言葉に京水は頷く。
二人の肉体に起きた変化については一先ず置いておくことにした。
二人の肉体に起きた変化については一先ず置いておくことにした。
「それよりも先のことね。街まではさっき見つけた街道を歩いて行けばいつかは辿り着くと思うけど……」
「ここが何処か……ということか?」
「ええ」
「ここが何処か……ということか?」
「ええ」
京水はここが自分たちの知っている土地ではないのではないか、と危惧していた。
ここまでに至る道のりを振り返ると、人の格好や建物など、どれも前時代的な雰囲気がしていた。
今の時代、よっぽどの未開拓地でない限りは、この様な初歩的な文明を持っている国や土地はそうそうない。
それよりは数百年前の世界へタイムスリップしたと思った方が、まだ合点がいくといった感じであった。
ここまでに至る道のりを振り返ると、人の格好や建物など、どれも前時代的な雰囲気がしていた。
今の時代、よっぽどの未開拓地でない限りは、この様な初歩的な文明を持っている国や土地はそうそうない。
それよりは数百年前の世界へタイムスリップしたと思った方が、まだ合点がいくといった感じであった。
「ねえ、克己ちゃん……」
「しっ……」
「しっ……」
突如克己が京水の言葉を遮る。
不思議に思って克己の顔を見ると、その顔は警戒の色に満ちていた。
京水は咄嗟に周囲の気配を探った。
と、複数の気配がこちらへ近付いているということが分かった。
最初は追っ手かと思い慎重になったが、どうも連中の足運びは人間のそれとは異なるように感じる。
であるならば、獣の類か。
こんな暗い森の中で火をおこせば、その明かりにつられて野生の生き物が近付いて来てもおかしくはない。
不思議に思って克己の顔を見ると、その顔は警戒の色に満ちていた。
京水は咄嗟に周囲の気配を探った。
と、複数の気配がこちらへ近付いているということが分かった。
最初は追っ手かと思い慎重になったが、どうも連中の足運びは人間のそれとは異なるように感じる。
であるならば、獣の類か。
こんな暗い森の中で火をおこせば、その明かりにつられて野生の生き物が近付いて来てもおかしくはない。
ガサッ
物音がする。
近い。
気配はすぐ側まで来ていた。
近い。
気配はすぐ側まで来ていた。
克己はナイフを構え、京水も鞭を手に取る。
二人が臨戦態勢を整えたと同時に現れたもの。
二人が臨戦態勢を整えたと同時に現れたもの。
それは……。
「な、何よ、こいつら!?」
京水は思わず叫んでいた。
二人が目にしたのは、豚の頭に肥満した人間のような肉体。
手には人一人分の大きさはあろうかという棍棒のようなものを持っている。
殺意を抱いた目でこちらを睨みつけては唸り声をあげる。
二人が目にしたのは、豚の頭に肥満した人間のような肉体。
手には人一人分の大きさはあろうかという棍棒のようなものを持っている。
殺意を抱いた目でこちらを睨みつけては唸り声をあげる。
それは正に化け物であった。
化け物が二人の目の前に現れてからそれ程時間も経たぬ内にもう一匹、更にもう一匹とその場に集まる。
二人は化け物に囲まれていた。
二人は化け物に囲まれていた。
「ドーパント……とは違うようだな」
目の前の異形の化け物は人間離れしてはいたが、かつて克己が出会って来たドーパントとは似ても似つかなかった。
インテリジェンスの欠片もなく、ただ本能と野生のままに動いているように見えた。
こちらの言葉が届くかどうか。
そもそも人間の言葉自体が通じそうにない。
インテリジェンスの欠片もなく、ただ本能と野生のままに動いているように見えた。
こちらの言葉が届くかどうか。
そもそも人間の言葉自体が通じそうにない。
「どうするの、克己ちゃん?」
「決まっている。こういう時は……」
「決まっている。こういう時は……」
克己はニヤリと笑った。
「付き合ってもらうぞ……そこそこ体の調子も戻ってきたところだしなあ!」
「……全く、そんな不細工な顔でアタシや克己ちゃんをジロジロと見るのは止めなさい!!」
「……全く、そんな不細工な顔でアタシや克己ちゃんをジロジロと見るのは止めなさい!!」
二人が化け物に対し、戦闘の意を表したのとほぼ同時に。
化け物たちは二人へと飛び掛ってきた。
化け物たちは二人へと飛び掛ってきた。
「フン!」
克己と京水は化け物たちの一斉攻撃を交わした。
鈍重そうな見かけとは裏腹に、とても俊敏な動きであったが、それでも『NEVER』である克己と京水の身体能力が勝っていた。
と、すぐに化け物たちの囲いから外へ出る。
そして、すぐに京水が克己の反対側へと移動した。
これで化け物たちを二人が挟み込む形となった。
鈍重そうな見かけとは裏腹に、とても俊敏な動きであったが、それでも『NEVER』である克己と京水の身体能力が勝っていた。
と、すぐに化け物たちの囲いから外へ出る。
そして、すぐに京水が克己の反対側へと移動した。
これで化け物たちを二人が挟み込む形となった。
「グゥオオオオ!!」
化け物の中の一体が克己へ向かって突進する。
克己は慌てる様子もなく、化け物の側頭部へカウンター気味に飛び蹴りを放った。
それをまともに受けた化け物は脳を揺らし、思わず動きを止める。
その瞬間を見逃さずに克己は化け物の懐に飛び込むと、ナイフをその首へ深々と突き刺した。
克己は慌てる様子もなく、化け物の側頭部へカウンター気味に飛び蹴りを放った。
それをまともに受けた化け物は脳を揺らし、思わず動きを止める。
その瞬間を見逃さずに克己は化け物の懐に飛び込むと、ナイフをその首へ深々と突き刺した。
「グゥオ!!」
「……ここで俺たちに会ったのはお前たちの不幸だ。俺の言葉が分かるとも思えんが、お前に言葉を一つ手向けてやる」
「……ここで俺たちに会ったのはお前たちの不幸だ。俺の言葉が分かるとも思えんが、お前に言葉を一つ手向けてやる」
克己は化け物の耳元で囁いた。
「……地獄を楽しめ。現世で楽しめなかった分な」
その言葉と同時にナイフを引き抜くと、化け物の首から大量に出血する。
「グゥアアアアアアア!!!!」
化け物は断末魔の叫びをあげた後、そのまま地面へバタリと倒れた。
「流石克己ちゃん!アタシも行くわ!!」
京水も器用に鞭を操ると、それを化け物へ向けて振るう。
素早い鞭の切っ先がかまいたちの様に化け物の厚い皮膚や肉を抉る。
素早い鞭の切っ先がかまいたちの様に化け物の厚い皮膚や肉を抉る。
「ガァアアアアアア!!!!」
化け物は悲鳴の様な声を上げると、全身をボロボロにしたままその場へうずくまる。
「そこっ!!」
京水は化け物の首をめがけ、鞭を振るった。
と、鞭が化け物の首へ巻かれる。
京水はそのまま化け物の首を締め上げた。
と、鞭が化け物の首へ巻かれる。
京水はそのまま化け物の首を締め上げた。
「さあ、気持ちよくなってしまいなさい!!」
「グッ……ガッ……ガアッ!!」
「グッ……ガッ……ガアッ!!」
化け物の全身から途端に力が抜けた。
どうやら絶命したようである。
どうやら絶命したようである。
「あら?意外と我慢弱いのね」
京水はそう言うと、化け物の首に巻きつけた鞭を手元へ戻した。
立て続けに二体も仲間が殺され、残った化け物は困惑しているようであった。
連中からしてみれば、二人はただの虫けら同然。
どうとでもなる。
生殺与奪の件は自分たちにあると、その少ない知能で考えていたのであろう。
連中からしてみれば、二人はただの虫けら同然。
どうとでもなる。
生殺与奪の件は自分たちにあると、その少ない知能で考えていたのであろう。
だが、現実はその虫けらにあっさりと仲間が殺されてしまった。
化け物にとっては理解の外。
異常事態であった。
化け物にとっては理解の外。
異常事態であった。
「グゥオオオオオオオオ」
化け物は二人へ背を向けて走り出した。
この場から一先ず退散し、そして他に仲間を連れて来ようと考えたからである。
あんなちっぽけな存在、数さえもっと揃えば殺せる筈。
自分より小さいものに、自分たちが負けてはならない。
この場から一先ず退散し、そして他に仲間を連れて来ようと考えたからである。
あんなちっぽけな存在、数さえもっと揃えば殺せる筈。
自分より小さいものに、自分たちが負けてはならない。
それは仲間の敵討ちなどという殊勝なものではなく、化け物なりのプライドであった。
「ガア!?」
次の瞬間、化け物の額を克己の投げたナイフが貫通していた。
化け物は二、三歩ほどゆっくり歩いた後に前のめりで倒れる。
そして、すぐにその周りに血の池が出来た。
化け物は二、三歩ほどゆっくり歩いた後に前のめりで倒れる。
そして、すぐにその周りに血の池が出来た。
「この程度、か……」
克己は残念そうにそう呟くと、化け物からナイフを引き抜き、血を拭う。
調子を取り戻しつつある自分を確かめたかったが、この化け物ではその相手には不足であった。
調子を取り戻しつつある自分を確かめたかったが、この化け物ではその相手には不足であった。
「それにしてもこいつら何なのかしら?こんな奴見たこと無いわ!!」
ナイフを仕舞おうとする克己の下へ京水が来る。
克己は無表情で言った。
克己は無表情で言った。
「さあな。何にせよ俺たちは“生きる”だけだ。“ここ”でな」
「……ええ、そうね。克己ちゃん」
「……ええ、そうね。克己ちゃん」
二人は焚き火を消すと、暗闇の中に身を潜めた。
火をおこしていれば、また連中のようなのが来るかも知れない。
相手をする分にはこちらが負けることはないが、あまり戦闘を続けていれば『NEVER』であっても疲労は溜まる。
明日の為にも、これ以上無駄に体力を使うのを避ける為であった。
火をおこしていれば、また連中のようなのが来るかも知れない。
相手をする分にはこちらが負けることはないが、あまり戦闘を続けていれば『NEVER』であっても疲労は溜まる。
明日の為にも、これ以上無駄に体力を使うのを避ける為であった。
二人はそのまま目を閉じ、夢を見ない束の間の眠りを取るのであった。