あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Mission 11 <稲妻の盟友> 前編


店内が静まり返る中、チャキン、と鍔の音だけが鳴り響く。
閻魔刀を静かに納めるスパーダはずっと左手に持っていた空のグラスに顔を近付け、見つめていた。
しばしの後、残念そうに大きなため息をつき、
「ラストオーダーが台無しだ」
先ほどまで自分が座っていた椅子とテーブルはバラバラに壊れてしまい、近くのテーブルもほとんど倒れてしまっていたが、
まだ無事な他の客が座っていたであろう食べ残しの皿が残っている別のテーブルにグラスをそっと置く。
「すまないが、誰か衛兵を呼んでもらえないか」
スパーダは店の隅で怯えるように震えていたスカロンや給仕の少女達の方を振り向き、何事もなかったかのように呼びかけていた。
(やりすぎたか……)
店の真ん中の床では下級貴族の男達が折り重なり、その一番上に醜い豚のようなまぬけ面で気絶するチュレンヌが乗っていたため、
その下にいる者達は苦しそうに呻いていた。
いくらこいつらが原因の元とはいえ、暴れすぎたかと少し反省する。

チュレンヌの取り巻き達は杖を抜いて襲いかかってきたが、ルーンを唱えている間に閻魔刀による神速の居合いを繰り出して
杖を真っ二つに斬り裂いてやった。メイジも所詮は一人の人間。杖さえなければ、平民と同じである。
それでも下級貴族達はスパーダに向かって来たが、閻魔刀の鞘と柄頭で打ちつけ、次々と瞬殺してやった。
取り巻きが全滅させられてしまったことで腰を抜かし、床を這いながら逃げ出そうとしたチュレンヌだったが、
スパーダが回り込んで入口に立ち塞がったために半ばやけくそでスパーダに杖を向けて魔法を放とうとした。
それを閻魔刀の鞘で叩き落とすと、後は勝手に失神してしまったのだ。

「……あ、あたしが呼んでくるよ!」
スカロンらと違って怯えてはいなかったが、呆然としていたジェシカが我に返って数名の給仕達と共に小走りで店の外へと出ていった。
それからしばらくして、ジェシカが町の警邏をしていた衛兵を連れて戻ってきていた。
衛兵達は店主であるスカロンから簡潔に事情を聞かされると、チュレンヌの一群を縄で縛り上げ、うなだれたままの彼らをそのまま連行していった。

すると、外では「やったあっ!!」と見物人達から次々と歓声が上がっていた。
今まで怯え、呆然としていた魅惑の妖精亭の給仕達も同様に歓喜し、互いに手を取り合う。
いきなりの出来事に、スパーダは一瞬呆気に取られた。
「あのチュレンヌの顔ったら無かったわ!」
「胸がすっとしたわね、最高っ!」
給仕の少女達からそんな言葉が聞こえてくる。
やはり、暴虐を尽くしてきたあいつはそれだけ恨まれていたようだ。
「もうっ! あなた素敵よおっ!」
突然、猛烈な勢いで駆けて来たスカロンがスパーダに突進するように抱きつこうとしたが、ヒラリとそれをかわす。
スカロンは勢いあまって壁にぶつかってしまった。
「本当、あたしもあいつらがあんな顔する所、初めて見たわ」
ジェシカがスパーダの近くにやってきて、感心した表情を浮かべていた。
「奴らは相当、歓迎されない連中だったようだな」
「当然よ。あいつ、この辺の徴税官を勤めてたんだけど、ああやって管轄区域のお店にやってきては、あたし達にたかってたの。
本当、嫌な奴だったわ。銅貨一枚たりとも払ったことなんてなかったんだから!」
腰に両手を当てて憤慨するジェシカ。
「あいつの機嫌を損ねたりすれば重い税をかけられて店がつぶれちゃうから、みんな言うこと聞いていたの。
うちの店でもさっきみたいに横暴を振るって、あたしらに触るだけ触ってチップ一枚もよこさなかったのよ!」
「そんな奴がああして捕まって、満足というわけか」
「もちろん!」
ジェシカも心底嬉しそうな顔で答えていた。
「しかし、悪かったな。店もこんなにしてしまった」
すっかり乱雑にちらかってしまった店内を見回すスパーダ。
さらに、彼女が作ってくれたストロベリーサンデーが入っていたグラスをちらりと見つめる。
「良いのよ! 店は充分直せるんだし、あなたは無駄に残したりするあいつらなんかと違ってあそこまで食べてくれたんだもの。
一杯くらい、どうとでもなるわ」
すると、ジェシカはじっとスパーダの全身に視線をなめるように這わせだす。
「あなた、そんななりなのに本当に貴族じゃないの? 魔法は全然使わなかったけど」
「ずっと昔はそうだった」
「もしかして、ゲルマニアの人? あそこって平民でもお金さえあれば貴族になれるらしいけど」
「いや、もっと遠くからだ。……そうだな、東方から来たとでも言っておこう」
ハルケギニアよりも遥か東の土地、エルフが住まう砂漠よりも東方をロバ・アル・カリイエというらしい。
時々、そちらからここにも色々な物が商人の手によって流れ込んで来たりするそうだが、どのような土地なのかは分からないそうだ。
「へぇ……あんな所からわざわざここに? 東方の貴族ってここの貴族なんかよりも全然良いね」
「もう貴族ではないと言っているだろう」
「でも、昔はそうだったんでしょ? じゃあ、変わりないじゃない」


チュレンヌらが庶民から巻き上げ、この場に置いていかれた税金は、
その一部を魅惑の妖精亭の修理代とチップとして、残りは他の庶民達の元へと戻されることになった。
スパーダは迷惑代として20エキューをスカロンに渡し、店を後にする。
その際、スカロンが「何か困ったことがあればいつでも頼ってちょうだいね」と持ちかけ、入口の前でスパーダは片手だけを軽く上げて答えていた。
……さて、もうすっかり外は夜。そろそろ学院に戻らねばルイズがうるさく言い出すだろう。
馬を預けてある、町の入口の駅へ一直線に向かおうと歩を進めだした。

「おい、待て」
チクトンネ街を抜けてブルドンネ街へと戻って来た時、突如後ろから誰かに呼び止められる。
立ち止まり振り向くと、そこには女が一人立っていた。
厳しく凛々しい顔をしたその金髪の女には、見覚えがあった。
何より右肩に革帯で吊している鉄の塊に目がついた。
「あの時の……」
昼間に武器屋で鉢合わせになった、あの女戦士だった。
その女はやけに感心しきった様子でスパーダを見ている。
「お前、ずいぶんと派手なことをしたものだな? メイジである貴族を相手に。しかし、汚職で捕まるとはあいつもついに年貢の納め時か」
彼女も先ほどの揉めごとを見ていたのか。
「自業自得だ。……で、私に何か用か」
「ああ、済まない。アニエスだ、よろしく」
「スパーダだ」
気さくに自己紹介をしつつ手を差し出してくるアニエスという女と軽く握手を交わす。
「お前、そんななりなのに貴族ではないそうだな。あの娘の話を聞いていたが」
アニエス曰く、チクトンネ街の小さな場末の酒場で飲んでいたら魅惑の妖精亭という酒場でチュレンヌの一派が剣を持った貴族らしき男と
争っているという話を聞いて、駆けつけたらその男がスパーダであると知ったという。
貴族なのに剣を手にするのが不思議だと思っていたが、彼は貴族ではないという話を聞いてメイジである貴族にあそこまで真っ向から立ち向かったことに感銘を受けたそうだ。
「武器屋で見かけた時は、貴族が武器を直接見にくるなんておかしいと思っていたがそういうことだったとはな」
「それで? 用事はそれだけか」
「ああ、すまない。もし良ければで構わないが、仕事を手伝ってはもらえないか? 人手が足りなくて困っていたんだ」
「仕事?」
彼女は本来、宮廷に勤めている軍人であるらしいのだが平民である彼女は魔法を使うメイジが主体である宮廷では対した期待もされておらず、他の平民出の軍人達と共に邪魔者扱いされているそうだ。
しかし、それでもメイジの軍人達は自分達に回されてきた面倒臭そうな厄介ごとを時折、彼女達に押し付けてくるという。
そして、今回も宮廷に地方の領主から依頼が来たのが彼女達に押し付けられたのである。

その地方に点在する村々で出没するオーク鬼を討伐して欲しいと農民達は領主に助けを求めて来た。
領主は面倒臭いながらも兵を派遣しようとしたが、オーク鬼が突如として現れなくなったために討伐依頼は一度取り下げられたという。
ところが、今度は見たこともない化け物が近隣の村々はおろか領主の屋敷にまで姿を現して襲ってきたため、
領主はその化け物達が潜んでいる場所が何十年も前に打ち捨てられた、森の中にある開拓村の寺院の廃墟であることを突き止め、
直ちに兵を派遣したが誰一人として戻ってはこなかった。
アニエスらにその廃墟の調査をする任務が押し付けられてきたが、現在出られる他の同僚は情けない男達ばかりで頼りにならないために
自分一人で行くことになった。しかし、せめてあと一人はいてくれなければ辛い仕事になるかもしれないという。
そこで下級ながらもメイジを瞬殺したというスパーダに声をかけたそうである。
純粋に、スパーダの実力を評価してのことらしい。
(見たこともない化け物、か)
アニエスから話を聞かされ、顔を顰めスパーダは考え込む。
オーク鬼はハルケギニアでは一般的な魔物。それが出て来ない代わりに現れたという怪物……。
「お前は見た所、手練れのようだ。来てくれるとありがたいんだが。もちろん、強制はしない」
「いや、付き合わせてもらおう。その化け物とやらが気になる」
真顔で頷き、スパーダはアニエスの申し入れを即座に受け入れていた。


「きゅい、きゅい! あの悪魔、今度はどこへ行くのね?」
チクトンネ街とブルドンネ街の境にある路地から顔を出す、一人の青い長髪の女がいた。
20歳くらいに見える美しい麗人と呼べるかもしれないが、別の理由でそれは否定される。
まずスタイルの良いその体には服ではなくボロ布だけしか纏っていないし、その口調や性格も20代とは思えぬほどに幼く子供っぽい。
「お姉様、悪魔が行っちゃうのね! 早く追うの!」
ずっと後をつけてきたスパーダが金髪の女と共に町の入り口の方へ向かっていく。
女は傍らに控え、大きな杖を抱えながら本を読み続ける同じ青い髪の少女に呼びかける。
午後の授業を終えた夕刻、タバサはすぐにシルフィードに乗ってトリスタニアへと訪れ、スパーダの後をつけていた。
町の外でシルフィードを人間の姿へと変身させ、スパーダの後を追っていると彼は魅惑の妖精亭という酒場へ入っていった。
シルフィードは店の中から漂ってくる料理の匂いに我慢ができなかったようで、「シルフィもご飯! お肉食べたい!」
とせがんできたが、あいにく金は持ってきていないのでそんなことはできないし、たとえあっても「我慢して」と答えていた。
その後、スパーダが役人とその取り巻き達を軽く伸し、町の入り口へと向かっていったらあの女に呼び止められたのだ。
タバサはきっと彼がまた何か悪魔絡みの厄介事に顔を突っ込むかと思ってその後をつけていたのだが、案の定だ。
スパーダは町の入り口の駅で馬に乗り、戦士の風体をした女と共にどこかへと繰り出して行く。
タバサも即座にシルフィードを風竜の姿へと戻させ、空からその後を追っていった。


王都から数リーグ離れた地方の森までは、馬で約二時間の距離だった。その森の奥に、化け物とやらが巣窟にしている廃墟があるという。
途中、まだ放棄されていない農村などが点在してはいたものの、田畑はおろか家畜さえも荒らされた形跡があり、
ひどい所では既に村そのものが全滅してしまい、死体が野ざらしにされている場所まであった。
どれも確実に人間の手によるものではなく、だからといってオーク鬼のような魔物が襲ってきたわけではない。
転がっていた死体はどれも首や胴体を真っ二つにされていたりと、無残な姿だった。おまけに異臭が漂う上にハエやウジが集っていて
普通の人間ならば即座に吐いていることだろう。
「こいつらもやられたようだな……」
スパーダとアニエスが森の中に入り、しばらく進んでいると人間よりも倍はある醜く太った体に、
豚のように突き出た鼻を持った顔が特徴のオーク鬼の群れの死体が転がっていた。
手練れの戦士5人に匹敵する戦闘力があるとされる魔物が、酸で頭を溶かされ、糸で絡み取られて喉を引き裂かれていたりと、農民達の死体同様にえげつない手段で惨殺されている。
「その化け物とやら、こんな魔物まで無慈悲に殺すとは。どんな奴だろうな」
スパーダは分かっていながら、あえてそんなことを言い出す。
「魔物ばかりではないからな。この世界にいるのは……」
ゆっくりと馬を歩かせながら、アニエスは呟く。
「ほう。では、他に何が考えられる?」
このアニエスという女、どうやら奴らを目にしたことがあるらしい。
それもただ見るだけではない。己が手にする武器で一戦も交えたことがあるようだ。
「悪魔、さ。お前は見たことがないのか」
忌々しげに低い声で答えるアニエス。
その瞳の奥に宿るのは……怒りや憎しみ、そんな負の感情だった。
スパーダは自嘲の笑みを浮かべ、軽く息を吐く。
「……これまで散々奴らは飽きるほど目にしてきている」
そして何より、自分自身がその悪魔なのだ。
「奴らはオークだとか、トロールなんかとは訳が違う。油断はするなよ」
「君は奴らを相手にしたことがあるようだな。どうだ? 悪魔を相手にした感想は」
「奴らは冷酷で残忍だ。おまけにオークみたいな連中よりも狡猾だから、まともに相手はし辛いさ」
魔法が使えるメイジならばまだしも、彼女は平民だ。
だが、その悪魔達を相手にして彼女は生き残ってきたのだろう。
さすがに上級の悪魔までは相手にしたことがないのだろうが、それでも悪魔を相手に生き残れるとは、
このアニエスという女、かなりの手練れらしい。

「ところで、君が持っているそれは一体何だ?」
スパーダはアニエスがずっと右肩に吊るしているあの大口径の砲銃を顎で指す。昼間、トリスタニアの武器屋で受け取ったものだ。
「私の仕事道具さ。悪魔が相手となると、これだけでは少々心もとないと思ったのでな」
アニエスは剣と共に腰に携えている短銃を見せていた。
「ゲルマニアの名のある職人に依頼して三年もかけて作ってもらったんだ。できれば、使わないで済めば良いが」
と、言いつつ馬から降りたアニエスは砲銃を両手で構えだす。
「あいにく、そうはいかんようだな」
スパーダも馬を降りると、閻魔刀をスラリと優雅な動作で鞘から引き抜き、右手で斜に構える。
森の木々がザワザワと音を立てだし、ギィギィという奇怪な鳴き声が聞こえてきた。
月の光が僅かに差し込む暗闇の中、何かがボトリと木の上から落ちてくる。
「アルケニー、か」
仄かな月光に照り返される青みを帯びた銀色の体を持った、大人ほどの大きさをした蜘蛛の異形。
かつては人であった女の魂が魔界へと渡り、その瘴気に当てられて変貌した下級悪魔だ。
次々と姿を現すアルケニーが二人を取り囲み、威嚇してくる。
アニエスは砲銃をいつでも撃てる姿勢を取っていた。スパーダも器用に閻魔刀を片手で交差に振り回す。
「さて、どうする?」
「決まっているだろう。……悪魔は潰す!」

叫ぶと同時にアルケニー達が一斉に、攻撃を仕掛けてきた。
その鋭い鎌のような前足を上げながら飛びかかり、口から酸を飛ばし、尻を持ち上げて糸を放ってきたりと
己が持つ能力を駆使して二人を仕留めようとしてきた。
アニエスは軽々とした動きで真上に跳躍し、酸を回避する。
かわした酸は二人が乗ってきた馬へと降りかかり、悲鳴を上げながらジュブジュブと音を立ててその身を溶かしていった。
スパーダは酸と糸をかわすと同時に飛び掛ってきたアルケニーに対して閻魔刀を突き出しながら突進し、胴体へと深く突き刺した。
奇声を上げながら呻き声を上げるアルケニーだが、スパーダは突き刺したままの閻魔刀をねじり、刃を上にすると
そのまま真上へと斬り上げ、アルケニーの体を斬り裂きながら跳躍した。

そこへ木の上からアニエスが砲銃を構えて引き金を引くと、バスッという鈍い音と共に銃口から弾が放たれる。
放たれた小型の砲弾による爆発が集まっていたアルケニー達を吹き飛ばし、肉体が四散する。
斬り上げから降りてきたスパーダが虫の息であるアルケニーに閻魔刀を突き立ててとどめを刺した。
アニエスも自分の剣を抜いて同様のことをしていた。
「なるほど。確かに、悪魔を相手にやり慣れているみたいだな」
まだ火が燻る中、スパーダは閻魔刀を納めてアニエスへと近づくと彼女はさらにスパーダに対して感心していた。
だが、スパーダは訝しそうにアニエスが手にする砲銃を見つめていた。
「それは本当にゲルマニアとやらで作られた物か?」
「そう言っただろう。何せ、あそこはトリステインなどと違って平民のための技術が大きく発展しているんだからな。私も『手持ちができる大砲』をオーダーしてこれを作ってもらったんだ」
アニエスは砲銃後方下部の銃身の一部を前にスライドさせると、新たな砲弾を込めながら言った。
たとえそうだとしても、彼女が持っている銃はハルケギニアの技術の水準を超えている。
使用されている素材も普通の鉄とはまた異なるようで、しかも高純度な品質であった。
以前、読んだ本でも彼女が言った通り平民でも貴族になれるゲルマニアはメイジでしかほとんど利用できない、魔法に関する技術が盛んな他の国々とは対照的に平民でも扱える技術が年々進歩しているとされている。
だからといって、あんな物まで作れる技術があるというのか?
あれは明らかにこの世界の人間が作ったものではない、規格外の技術のような気がしてならない。


悪魔達を退けて森の奥へと進んでいった二人は月の仄かな光が降り注ぐ、雑草が生い茂った開けた場所へと出ていた。
「ここがそうらしい」
かつては壮麗を誇っていたのであろう門柱は崩れ、鉄柵は錆びて朽ち果てている。
目の前に建つのは、紛れもなく古ぼけた廃墟と化した寺院だった。
建物は所々が崩れ、明かり窓であるステンドグラスも割れている。
(……何かいるな)
スパーダは寺院の周辺はおろか内部からも無数の悪魔達の気配を感じていたが、その中に中級以上の悪魔の気配も同時に感じていた。
だが、下級の悪魔達の気配と混じってしまって種類までは分からない。
「どうした、そんな難しそうな顔をして。
 確かに相手は悪魔だが、お前もこれまで多くを狩ってきたのだろう。先ほどみたいに」
「……いや、気にするな。行くぞ」
閻魔刀をいつでも抜刀できるように手をかけ、雑草を掻き分けて寺院の扉の前まで向かっていく。


――キャハハハハ……

――キャハハハハ……

――キャハハハハ……

不意に、どこからともなく不気味な笑い声が響いてきて、アニエスが即座に身構えていた。
スパーダは視線を流すように周囲へと向けている。
「フンッ!」
一際強い気配と殺意を感じると、スパーダは閻魔刀を抜刀して剣閃を庭の一角へ向けて飛ばした。
虚空が歪んだかと思うと、透けるようにして姿を見せたのは巨大な鋏を手にする、仮面を付けた死神のような姿をした悪魔だった。
下級悪魔の一体、シン・シザーズだ。
今の一閃によって依り代である仮面を真っ二つにされ、甲高い悲鳴を上げながら鋏だけを残して消えていく。
「ちぃっ! 何だ、こいつらは!」
アニエスは次々と透けるようにして現れて襲ってくるシン・シザーズと亜種である大鎌を持った女性の仮面のシン・サイズの攻撃を剣で弾いていた。
攻撃を弾いて怯ませ、斬りつけようとするがシンのマントをすりぬけてしまう。
「そいつらは付けている仮面が本体だ。そちらを狙え」
スパーダがシン・サイズの仮面に閻魔刀を突き刺すと、同じく甲高い悲鳴と共に鎌を残して消滅していった。
アニエスはシン・シザーズが突き出してきた鋏を剣で受け止めると、腰に携えていた短銃を手にし、ピタリとスパーダのアドバイス通りに仮面へと狙いを定める。

銃声と共に放たれた銃弾は一発でシン・シザーズの仮面を撃ち砕き、鋏だけを残して消滅させた。
「お前、悪魔に詳しいんだな」
「ああいう下級の悪魔は大抵の場合、依り代が本体である場合が多い。今の奴はマント以外は実体化した存在だ。なら、どちらかのみこちらの攻撃が届く」
銃に弾を込め直しているアニエスへ口添えに、閻魔刀を納めながら助言をするスパーダ。
「なるほど。……私より、奴らへの知識は上という訳か」
込め直した銃を腰に戻して苦笑すると、地面に刺していた剣を引き抜こうとした。

――キャハハハハ……

「なっ!」
引き抜いた途端に突如、目の前の地面から透けるようにして現れた新たなシン・サイズが大鎌を振り上げてきたのだ。
即座に反応し、剣で防御するものの、咄嗟のことだったので剣を弾かれてしまう。
後ろへ飛んで距離を取りつつ銃を構えようとした途端、シン・サイズは手にする大鎌を勢いよく回転させると、
それをアニエス目がけて投げつけてきた。
スパーダは閻魔刀を抜刀し剣閃を飛ばし、アニエスの目の前まで迫っていた鎌へとぶつける。魔力が弾ける音を響かせながら大鎌の軌道は逸れていた。

アニエスが銃を構えて引き金を引こうとした途端、戻ってきた大鎌を掴んだシン・サイズの仮面が突如砕け散り、消滅していった。
「な、なんだ?」
いきなりのことに呆気に取られるアニエス。
(ようやくお出ましか)
閻魔刀を納めるスパーダは自分達が今まで通ってきた森の方へ視線を向けた。
「誰だ!」
アニエスも何者かの気配を感じ、銃をスパーダの視線の先へと向ける。
森の中から、小さな人影がゆっくりと二人の目の前に姿を見せていた。
「……子供? ……メイジ?」
いきなり現れた大きな杖を手にするメイジらしき少女に、アニエスは顔を顰めた。
「また来ていたか」
スパーダは閻魔刀を納めながら現れた青い髪の少女――タバサの前へと歩み寄る。
トリスタニアで魅惑の妖精亭に入った辺りから彼女の魔力を感じていたが、またしても自分の後を付けてきたようだ。
彼女は悪魔絡みの仕事があれば一緒に連れて行って欲しいと言っていたが、何もなくとも自分から付いてきて
スパーダが事件に首を突っ込むのを待っていたのだろう。
「知り合いなのか?」
「彼女は魔法学院の生徒だ」
銃を納めたアニエスがタバサを見て、呆気に取られたように彼女を見ていた。
「何? 貴族の子女が、何故ここにいる。ここは子供の来る所ではないぞ」
「まあ、そう言うな。彼女はこれでもかなりの手練れだ。私が保証する」
アニエスがきつい物腰でタバサを追い返そうとするが、スパーダがとりなしてやった。
「保証するって……相手は悪魔だぞ」
「何、彼女も悪魔を倒しているからな。問題はない」
怪訝そうにタバサを見やるアニエスだったが、したり顔のスパーダはタバサの頭を撫でながら推挙する。
「また手伝う」
「好きにしろ。無理はせんようにな」
無表情ながらも進言してきたタバサの頭を撫でつつ、スパーダは不敵に微笑んでいた。



新着情報

取得中です。