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Secret Mission 01 <魔剣士の休日>


王都トリスタニアの街は、その日もいつもと変わらぬのどかな時間が流れていた。
昼過ぎのブルドンネ街の大通りでは露店や屋台が軒を連ねており、客の呼び込みや値段交渉の声が絶えず続けられている。
食料や日用品はもちろんのこと、宝石商といった面々まで様々な種類の店が出ている。
そんな活気に溢れた表通りとは裏腹に、日の当たらぬ裏路地は相変わらず掃き溜めのように汚く、治安も行き届いていない。
「ひっ……」
裏通りに巣食う一人のチンピラに突きつけられた、妖しい光を放つ細身の刀身。
3メイルも幅がないほどに狭い路地には、五人のチンピラ達が無様に倒れ伏して重なり合い、呻き声を上げていた。
「——Leave me.(失せろ)」
閻魔刀を突きつけるスパーダの一言に、チンピラがへなへなと力なく尻餅をついていた。
その横を通り過ぎながら、優雅な動作で納刀し、その場を後にする。


その日のスパーダはたった一人で、トリスタニアの町を訪れていた。
二日前にこの街へ訪れた際、デルフリンガーをレンタルした武器屋の店主との約束を果たすためである。
ルイズはもちろん、今日は授業があるので同行はしていない。
もっとも、「パートナーだけを行かせるわけにはいかない」と反論して無理矢理ついてこようとしていたが、
自らの力に自信をつけたルイズはこれからが大事な成長の時期となる。そのため、勉学は疎かにしてはならない。
と、説得をすることで渋々ながらスパーダに外出の許可をくれた。
午後の授業の合間までにギーシュの剣術の特訓に付き合っていたので、それが終わってから学院の馬を借りてトリスタニアまで来たのである。
そして、武器屋へ向かう途中にチンピラ数名に絡まれたのだが、持ってきた閻魔刀を抜くまでもない。
鞘や柄頭で打ちつけ、あっという間に伸したのだった。

スパーダは路地を歩きながら懐から取り出した、握り拳ほどの大きさの皮袋を手の上で弄ぶ。
動かしたり、手の上で弾ませてやると中でジャラジャラと音がする。
今朝、フーケ討伐の狂言によって得ることとなった18000エキューの報酬が学院へと届けられていた。
届けられていたやや大きめの宝石箱には新金貨とエキュー金貨が18000エキュー分、数十の皮袋に入れられて詰まっていたのである
本来は30000であったはずの報酬が減りはしたものの、領地を買うこともできるあまりの大金に公爵家のルイズでも羨ましそうにしていた。
多くの生徒達も貴族の子女とはいえ書生の身であるし、実家が様々な事情で領地の経営や屋敷の維持だけで苦しいのが
ほとんどであるらしく、スパーダが手に入れた金は喉から手が出るほどに魅力的だったようだ。
当然、スパーダはこれらの資金は恵んでやる気はないし、奢る気もない。
だからと言って、盗まれでもしたら堪ったものではない。
スパーダは学院の宝物庫でこの報酬を保管してもらうように頼み、とりあえず600エキュー分の金貨が入った皮袋を一つだけ所持することにしていた。

「やや! これはこれは旦那様!」
先日も訪れた武器屋へ入ると店主が先日と同じようにカウンターでパイプを咥えていたが、スパーダが入ってくるなり威勢の良さそうな声を発していた。
背負っていたデルフリンガーを手にすると、カウンターの上に横たえる。
店主はあの憎たらしいデルフリンガーが今まで見たのと全く違う姿となっていることに驚き、目を丸くしている。
先日まで錆びていて、貧相な剣であったはずが、今ここにあるのは新品同然に磨き上げられたものとなっているのだ。
「残念だが、こいつは嘘つきだったな。魔法など吸収もしてくれなかった」
「はは……やはりそうでしたか。まったく、インテリジェンスソードのくせに大ボラなんか吹きやがって……。
やい、デル公! あんなホラを吹きやがって! お客様を騙すたあ、どういうわけだ!」
怒鳴りつけるも、デルフリンガーは何も言葉を発さない。
いつもなら憎まれ口を叩くはずの厄介者が何も言わないことに、店主は怪訝そうにする。
「何とか言ったらどうだ!?」
しかし、デルフは沈黙したままである。
「ああ、そいつはもう何も話さんぞ。絶対に喋らないようにさせたからな」
「え? そ、そうなんですかい……? おい、デルフ。何とか言えよ」
無駄だと言ったのに、店主は沈黙を続けるデルフリンガーに語りかけるも、やはり喋らない。
「そいつはこれから、普通の剣として売ることだな。そんなことより、約束通りに例の銃を残りの50で買わせて貰おう」
何故か残念そうに溜め息をつく店主は、先日スパーダに見せてきた最新式の二丁の短銃を持ってきていた。
スパーダは金貨数十枚をカウンターに置き、銃を受け取るとそれをひとまず両の懐に押し込む。
「ああ、それと篭手を一つもらう」
「こ、篭手ですかい。はぁ……」
店主はすぐにいくつか篭手を用意してきたが、スパーダはその中から左手の前腕部と指先を覆う銀色の篭手を選び、代金の100エキューを支払っていた。
そして、用が済んだとばかりに店を後にしようとする。
「あの……こいつ、本当にもう喋らないんですかい?」
「くどいぞ。厄介払いになったようで良いだろう?」
店主がスパーダの背に向かって声をかけてくるが、淡々と答える。
新品の姿となったデルフリンガーを見つめながら、店主は大きく溜め息をついていた。
いつも憎まれ口ばかり叩き、喧嘩をしていたとはいえやはりデルフには愛着があったようだ。
……もっとも、あの剣はもはや〝デルフリンガー〟ですらない。ただの新品の大振りな剣だ。

ふと、スパーダが店を出て行こうとした時、店内に一人の客が入ってきた。
短く切った金髪の下、澄み切った青い瞳が印象的な女だった。
だが、その顔つきは女とは思えぬほどに凛々しさと厳しさに満ちており、男を寄せつけぬような苛烈さが溢れている。
所々が板金で保護された鎖帷子に身を包み、その腰に剣を携えた姿は紛れもなく戦士だ。
女はスパーダに目も暮れず真っ直ぐに歩き、店主のいるカウンターの前までやってくる。
「例の物は届いているか?」
「……ん? あ、ああ。お前さんかい。確かにあれは預かってるよ。ちょっと待ちな」
そう言うと、店主はカウンターの奥へと消えていく。
(何だ?)
しばらくして姿を現した店主はカウンターの上にゴトリと音を立て、鉄の塊を置いていた。
それは紛れもなく銃と呼べる代物だった。先ほどスパーダが手に入れた短銃よりも二回りも大きいのだが、銃口や銃身の太さは太く重厚さがある。
店主はさらにカウンターの上に六つの手乗りサイズの流線形のドングリのようなものを並べていた。あの銃に入れる弾だろうか? かなり大きな弾だ。
「こいつがそれの弾だ。大事にしてくれよ。取り寄せるのも骨が折れるんだ」
「ああ」
女はその弾丸……もはや小さな砲弾とも言うべきそれを皮袋の中に入れ、革帯で銃を肩に吊るすとカウンターに金の入った袋を置き、踵を返して店を後にしていく。
スパーダは興味深そうに腕を組みながらずっと女を見ていたが、当の本人はスパーダなど眼中にない様子であった。
(この世界にもあんな女がいるのか)
女戦士というのは人間界でも割と珍しい存在であったが、この異世界にもそのような存在があることに感嘆とする。
女がいなくなってからスパーダも店を出て行くと、掃き溜めのように汚い裏路地を後にする。


表通りのブルドンネ街とは別の裏通り、チクトンネ街は無数の酒場や賭博場などが存在する場所だった。
平民が多く通るブルドンネ街とは異なり、こちらは貴族の姿がちらほらと見かけられる。
ブルドンネ街が昼に賑わう街であるなら、こちらは夜に賑わう街なのだろう。昼過ぎの今、ほとんどの店がまだ開店前であり、
少数の小さな酒場が細々と店を開いているのみである。
せっかく外出の許可が出ているので、スパーダはすぐには帰らずその寂れた裏通りの中を適当に歩き回っていた。
「とほほ……俺様、こんな変わり果てた姿になっちまって……」
左手には先ほど買った篭手を装備しているが、その篭手からあのデルフリンガーの落ち込んだ声が聞こえてきた。
「言っただろう。剣としてのお前には用はない。用があるのは、お前自身の力だけだ」
デルフの本体はあの剣ではなく、剣に宿っている魂だということを知ったスパーダは自分が使いやすい剣以外の
魂が宿る器としてこの篭手を選んでいた。
ちなみにあの綺麗になった剣であるが、先日フーケの討伐から帰ってきた時に自分の気を惹くためか、
〝本来の姿〟とやらに戻って必死に売り込んできたのだ。もちろん、そんなことをしても剣のデルフにはこれ以上の興味はない。
店を出た後、自分の魔力の一部として取り込んでいたデルフの魂を早速、この篭手に宿らせたのである。
デルフはかなり不満であるらしいが、得物の剣は既に二振りがあるので必要ない。ならば、能力を存分に発揮できる
この篭手が一番器としては相応しかった。
だが、これだけではまだまだ実戦に使うべきではない。
元々、デルフが一度に吸収できる魔力には限度があるようで、それを超えてしまえば器が壊れてしまう。
そのため、魔法学院に戻ったら時空神像を使って錬成を行わなければならない。
それに吸収するだけでは駄目だ。もっと別の能力も付加させなければ。
「まあ、出番がある時はちゃんと使ってやる。安心しろ」
「せめて剣として使ってくれよう。……ちくしょう。閻魔刀にリベリオンの野郎……俺だっててめえらに負けない伝説の剣だったってぇのに……」
さめざめと泣き出すデルフだが、スパーダは意に返さない。
「……こんな安物の篭手は居心地が悪いぜ。なあ、相棒の持ってるその閻魔刀にでも……ぐえっ!」
左手を壁に思い切り叩き付け、軽く陥没させるとデルフが呻き声を上げた。
人通りは少ないが、道行く人はスパーダに驚いたように視線を向ける。
愛用の剣にこんな奴を宿す? 冗談ではない。
余計な口を叩く篭手のデルフを魔力へと変え、自らの体内に内包して黙らせてやった。


日がだいぶ暮れてきた頃、スパーダは店が開き始めたチクトンネ街を未だうろついていた。
開店間際の一件の大きな酒場兼宿場の前でスパーダは腕を組みながら、店前に立てられた看板をじっと見つめていた。

『新しいデザートが入りました。ぜひ、お召し上がりを。 魅惑の妖精亭』

その看板に描かれている絵に、スパーダは注目していた。
恐らく新しいデザートなのであろうそれは、紛れもなくスパーダが人間界で口にした〝アイスクリーム〟とよく似ていた。
せっかくなので、この世界のアイスクリームがどのような味なのかを少し確かめようと考えたのである。
「さあ、開店よ!」
店の中から聞こえてきた豪快で威勢の良い、だが何故かオカマのような口調をした男の声と共に店の羽扉が開いて、
いつの間にか集まっていた、スパーダ同様に開店を待ちきれなかった客達がなだれ込んでいったのだ。
スパーダはずっと看板を眺めていたので、その客達の最後尾となって羽扉を開け、酒場へと足を踏み入れた。
(何だ? この店は)
一見、ただの酒場なのかと思われたが、給仕をしている可憐な少女達は全員際どい衣装を身につけて、料理やら酒やらを運んで仕事をしているという何とも変わった光景であった。
だが、客達(男が多い)はみんな少女達の接客に満足している様子だった。
まあ、確かに変わっているのは際どい身なりだけで接客はしっかりとしている。
「いらっしゃいませぇ! あら、お初でございますね! しかも貴族の旦那様とは珍しい!」
入り口で呆然としていたスパーダの元にやってきたのは、胸毛が生えた胸元が開いた紫の革の胴着を身につけている、背の高いたくましい筋肉質な体格をしている男だった。
先ほどのオカマの声の主はこの男のようだ。
「わたしは店長のスカロンでございます。今日はぜひとも、当店〝魅惑の妖精亭〟で楽しんでいってくださいませ!」
こんな異世界でもこのような滑稽な人間が存在するとは、さすがのスパーダも呆気に取られてしまう。
「……この店で、新しくできたデザートがあると聞いているのだが」
「まあ! 旦那様、お目が高い! 当店お勧めのデザート、〝ストロベリーサンデー〟を所望でございますね! では、まずはお席へごあんなぁい!」
(アイスではないのか?)
スカロンに案内され、店の真ん中のテーブルにつくスパーダ。
店の隅に設けられた人形達が派手な音楽を演奏し続けており、店内の賑やかさに拍車をかけている。
しばらくするとスパーダの座るテーブルに、長いストレートの黒髪をした給仕の少女が盆を手に近づいてきた。
(……ん?)
「お待ちどお様ぁ!」
テーブルの上にグラスが置かれ、その上にはホイップやイチゴの果肉、シロップでトッピングされているという、何とも派手なアイスクリームだった。
一瞬、怪訝そうな顔をするスパーダはスプーンを手にして最初の一口を口に運ぶ。


美味い。


今まで人間界で色々な店のアイスクリームを食してきたが、これはその中でも上位に昇る美味さだ。
少々味は濃いものの、一口食べればまた一口、さらにもう一口と手が動いていく。
スパーダはじっくりとこの異世界のアイスクリーム……サンデーを味わっていた。
「そんなに美味しい? それ、貴族のお客にはあまり評判じゃないのよ?」
サンデーを持ってきた給仕の少女が、スパーダと向かいの席に座って興味深そうにこちらを見てきていた。
「……どんな舌をしている」
意外な批評を聞き、スパーダは片眉を吊り上げる。
そして、先日も感じ取り、その正体が分かった異質な気配に。
「初めてよ。貴族のお客にそれが受けたりするの」
「私は貴族ではない。こんななりだがな」
スパーダの言葉に少女は驚いたような顔をしていた。
「本当に? そうは見えないわねぇ」
スパーダの全身をじろじろと見つめ、怪訝そうな顔をする少女。
貴族と勘違いしているとはいえ、そんなことなど気にしない気さくな態度で接客を続けている。
「あたし、ジェシカっていうんだ。あなたは? この辺じゃあ見かけないけど」
「スパーダだ。……仕事に戻らなくても良いのか?」
「ああ、良いのよ。これもお仕事なんだから。それに、あたしスカロンの娘だもん」
スパーダはスプーンを手にする手を止め、店内で威勢よく働いているスカロンと彼女を見比べた。
……何とも不思議なものだ。人間というのは。
そういえば、スカロンからは例の気配は感じられない。
と、いうことはこの気配は母方から受け継がれたものか。
「でも、そんなことは良いの。あなたが食べてるそれ、あたしが作ったのよ。開店前からずっと店の外で待ってたみたいだけど、そのデザート好きなんだ」
「まあな。……どこでこんな作り方を覚えた?」
「本当はあたしのいとこが教えてくれたんだけどね。その子、今はトリステインの魔法学院で働いてるのよ」

ジェシカが発したその言葉に、スパーダは目を細めて再び手を止める。
いとこが魔法学院で働いている。
彼女から微かに発せられる、見知った悪魔の気配。
そして、その気配と同様の気配を持つ人間は、ただ一人。
「シエスタのことか」
「あれ? あの子のこと知ってるの。あなた、魔法学院の人?」
「そのようなものだ」
なるほど。シエスタの従姉妹であるならば、この悪魔の気配は納得ができる。
まだ覚醒はしていないようだが、確実にこの娘にもブラッドの悪魔の血が受け継がれているのだ。
それにしてもシエスタはやや控えめといった感じの田舎娘な印象に対し、従姉妹のジェシカは町娘という言葉が似合う快活さだ。
「あの子、元気にしてる? この間、モットっていう貴族の屋敷に奉仕しに行ったって噂を聞いてるんだけど。
モット伯ってあまり良い噂を聞かないからさ……心配だったのよ。この間だって、賊に入り込まれて殺されたって聞くし」
「案ずるな。彼女は今も元気だ。私も世話になっている」
そういえばあの屋敷での一件から数日が経つ。あの日の翌日には悪魔の魔手から逃れた人間達の通報で屋敷に捜索が入ったそうだが、死体と悪魔達の依り代である砂しか見つからなかったという話が届いている。
その話が届いた時、ルイズが激しく問い詰めてきたが「自分が尋ねた時は何もなかった」と、上手く誤魔化していた。
「でも良かった。シエスタの知り合いだったんだ。あの子のこと、よろしく頼むわね」
もちろん、そのつもりだ。悪魔の力が覚醒してしまった以上、彼女を放置するわけにはいかない。
万が一、何かが起きれば同じ悪魔であるスパーダだけが頼りとなる。
……この娘に関しては、覚醒する心配もないだろう。
スパーダは金貨を数枚取り出し、空となったグラスと共にジェシカに差し出した。
「前払いだ。あと二杯はもらう」
「はいはいっ」
満面の笑みを浮かべ、ジェシカはチップと共に受け取った金貨を持って厨房の奥へと消えた。


それからスパーダはストロベリーサンデーだけを追加し、ついでにワインも一杯頂いていた。
ジェシカは自分の作ったデザートをここまで気に入ってくれたスパーダに好感を抱いたのか、ストロベリーサンデーを持ってくる度に向かいの席に座って話に付き合ってくれた。
もちろん、チップをもらうための仕事でもあるがスパーダもせっかく美味いサンデーを作ってくれた恩義もあるのでちゃんとチップを渡してあげていた。
三回目のおかわりとなると、さすがのジェシカも「まだ食べる気?」と呆れている様子だった。
スカロンは自分の娘が作ったデザートがここまで好評であることにご満悦な様子で、体をくねらせながら「トレビアン」と口にしていた。
さすがにそろそろ引き上げ時かもしれない。ワインも飲んでこいつも食べたら帰るとしよう。

そんなことを考えていた矢先、突如あれだけ賑やかだった店内がシンと静まりかえる。人形の演奏もピタリと止まっていた。
「これはこれはチュレンヌ様……ようこそおいでくださいました」
あれだけ豪快だったスカロンがもみ手をせんばかりの勢いで入ってきた新来の客に歩み寄る。
六、七人前後の軍人のような風体の一群はどうやら下級の貴族であるらしく、腰にはレイピアのような杖を携えていた。
その先頭に立つのは派手な衣装と貴族のマントを身に着けた、肥えに肥え太った体格に道端に生えたの雑草のような薄い髪がはりついている中年の男だった。こいつがチュレンヌとかいう奴だろう。
どいつもこいつも、下衆な笑みを浮かべていて気品がない。まだモット伯の方がマシだ。
「ふむ。おっほん! だいぶ店は繁盛しておるようだな?」
「いえいえ、今日はたまたまでして。日頃はもう、閑古鳥が鳴くような……」
「言い訳は良い! 今日は仕事ではない。客として参ったのだ」
すまなそうに、そして冷や汗を滲ませながらスカロンは言葉を続ける。
「チュレンヌ様。本日はこのように満席でございまして……」
「私にはそのようには見えないが?」
何を言っているのだ、この豚は。
これだけの人間がいるというのに、そうは見えないだと?
スパーダはストロベリーサンデーを食べようとするのを止め、横目で睨んでいた。
うそぶいたチュレンヌが一度、ちらりと店内の客達を一瞥するとしたり顔でパチンと指を鳴らす。
すると、彼の取り巻きである下級貴族達が杖を抜き、客達を威圧しだした。
店内の客達は酔いが醒めて一目散に次々と店から逃げていってしまった。

「Scum…….(クズめ……)」
ただ一人動かず、席についたままぼそりと呟くスパーダ。
「がっはっはっは! 閑古鳥というのは本当のようだな!」
スパーダ以外の人間がいなくなったことに満足して、チュレンヌは大笑いをあげる。
大方、宮廷の役人か何かなのだろう。そして、その地位を傘にきて魔法が使えない、力のない平民を相手にたかっている、まさに掃き溜めのゴミそのもののような連中だ。見るだけで吐き気がする。
「ん? おい、お前! そこは我々の席だぞ!」
チュレンヌはスパーダが席につくテーブルまでやってくると、先ほどの脅しでも立ち去らなかったことに憤慨していた。
「ん? 見慣れぬ顔だが……どこの貴族だね? まあ、良い。ここはたった今から、我らの貸切りなのだ。
そして、そこは我らの特等席。すぐに退いていただきたい」
スパーダが貴族であると勘違いして、多少は敬意を込めて命ずるがスパーダは無視してストロベリーサンデーを食べ続けていた。
「おい! 聞いているのか!」
やかましい金切り声を上げるチュレンヌ。取り巻きの貴族達が一斉にスパーダに杖を突きつけてくるが、まるで動じない。
店の隅ではスカロンやジェシカ、給仕の少女達が緊張した様子でこの揉めごとを見つめていた。
「私は宮廷の徴税官であるのだぞ! これも仕事なのだ! それを邪魔する気か!?」
つい先ほど仕事ではない、などと言っていたくせに。
スパーダはスプーンを動かす手を止め、ぎろりとチュレンヌを横目で睨みつけた。
「……ただの徴税官か」
「な、何だと! 貴様ぁ!」
取り巻き達が呪文を唱えようとした途端、スプーンを振るって一口分のサンデーを次々と目にひっかけた。
突然のことに怯んだ取り巻き達にチュレンヌが狼狽するが、スパーダはグラスに残っていたストロベリーサンデーをその顔面に叩きつける。
腰の閻魔刀を鞘ごと手にすると、取り巻き達を次々と柄頭や鞘で打ちつけ、吹き飛ばしていく。

「「「『きゃああああ!!」」」
「いやあぁんっ!」
スカロンや給仕の少女達が、一斉に悲鳴を上げた。
「……ええい! 貴様! 宮廷の徴税官にこんなことをして、ただで済むとは思っていないだろうな!」
「掃き溜めの豚とゴミなどに尽くす礼はない」
「な……! 言ったな!」
取り巻き達が一斉に杖を突きつけ、暴言を発したスパーダ目掛けて魔法を放ってきた。
スパーダはすかさず自分が座っていた椅子とテーブルを蹴り上げると飛んでくる攻撃を防いだ。
さらに別の椅子を閻魔刀の鞘で打ち飛ばすと、一人にぶつけて昏倒させる。
「貴様、どこの貴族か知らんがここまでするとはな! 縛り首は間逃れんぞ!」
「それはどちらかな」
スパーダの冷静な一言にチュレンヌは顔を顰める。
「庶民より税を徴収する時には必ず宮廷から触れが出回るはずだ。そんな触れが果たしてあったか?」
冷徹な言葉にチュレンヌの顔が強張った。
「……そうでないなら、お前達は不当に税を巻き上げていることになるな。さらにその税を私有化し、徒党を組んでの庶民への脅迫か。役人のすることとは思えんな。……いや、役人だからこそこのような暴虐を尽くすのか」
「だ、黙れぇ! こ、こいつをやってしまえ!」
(図星か)
どうしようもない掃き溜めのクズ……いや、クズ以下の連中だ。
もはや、クズ相手に遠慮はいらない。
チャキン、と閻魔刀の鍔を鳴らしながら指で押し上げ、刀身を覗けさせた。




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