あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Mission 09 <災厄招く、破壊の箱> 前編


翌日、当然ながら学院では昨晩から朝まで騒ぎが続いていた。
何せ、由緒正しいこのトリステイン魔法学院が、世を騒がす怪盗〝土くれのフーケ〟のターゲットにされ、しかも巨大なゴーレムによって大胆な襲撃をされてしまったのだ。
厳重に〝固定化〟の魔法で防御を固められ、破壊されるはずのない宝物庫がこうもあっさりと破られ、さらにそこで保管されていた〝破壊の箱〟までまんまと盗まれてしまった。

『破壊の箱、確かに領収致しました。 土くれのフーケ』

堂々と壁に刻まれた犯行のメッセージに、教師達は口惜しさに皆、肩を震わせるばかり。
学院創設以来の大事件、そして過去に例を見ない大失態だった。

本日の授業は全面休講。
学院長室には教師達と昨晩の四人の目撃者達が集められ、対策会議が開かれていた。
……しかし、実際に行われているのは、教師達の愚痴や責任の押し付け合いばかり。
当直の教師は誰だったのか、衛兵はどうしていたのか、衛兵など所詮は平民に過ぎないから当てにならない、などと醜い口論が続けられるばかり。
そして、昨晩の当直であったシュヴルーズがサボっていたので責任を取れと他の教師達が言い、オスマンがそれらを嗜める。
まともに当直などできた者はいない、そしてこの責任は教師全員にあるという事実を述べると教師達は誰も反論できなくなり、俯いてしまった。

(……どうしようもない連中だな)
教師達の他にルイズ、キュルケ、タバサが並んで立つ中に混ざって、スパーダも腕を組んで目を瞑ったまま沈黙していたが、教師達のあまりの無能さに頭を抱えたくなった。
この世界の貴族とやらは貴族……いや、メイジとしての力と権威に溺れ、そしてその上で胡座をかいているだけの者が多いようだ。
普段からそのような状態なのだから、肝心な時には何もできない。
こんな腑抜けでは、連中が蔑んでいる〝平民〟とほとんど何も変わりはしない。

教師達が静まった所でオスマンがコホンと軽く咳払いをし、ルイズ達の顔を見回す。
「さて、昨晩の出来事の目撃者は君らだと聞く。詳しく説明してもらえんかの?」
そこでルイズが前へ出て、昨晩のことを有りのままに手早くオスマンに報告を行った。
無能な教師達に比べて、的確に報告を行える彼女達の方が立派だ。

ちなみにあの後、タバサの使い魔シルフィードがゴーレムを追跡したそうだが、その道中で土くれの山だけが残されていたのを発見したらしい。
これでは後を追おうにも手がかりがない。

……しかし、一つだけ手がかりはある。
いや、手がかりというより真実なのであるが。
「ミス・ロングビル! どこへ行っていたのですか!?」
と、コルベールが興奮した様子で声を上げるとスパーダが思い浮かべていた人物——土くれのフーケこと、ロングビルが姿を現していた。
「申し訳ありません。朝から急いで調査をしておりましたの」
さて、首謀者は一体どのような作り話を語ろうというのか。スパーダは内心、面白がりながら彼女の報告とやらに耳を傾けた。
ロングビル曰く、学院近在の農民から聞き込みを行い、近くの森の中にある廃屋へと入っていった黒ずくめのローブ姿の人間を見たという情報を得たらしい。
そして、そこがフーケの隠れ家ではないかという推測をオスマンらに伝えていた。
「黒ずくめのローブ? それはフーケです! 間違いありません!」
と、話を聞いていたルイズが叫ぶ。
「そこは近いのかね?」
「はい。徒歩で半日、馬なら四時間といった所です」

(話があまり上手くないな)
スパーダは内心で深く溜め息をついていた。
彼女の作り話はどこも不自然な点だらけだ。
何故、その黒ずくめの正体がフーケだと断定できるのか。それに馬でも片道四時間はかかってしまうような場所まで行って調査をし、情報を仕入れて帰ってくるというのには無理がある。学院へ帰ってくるだけでも昼過ぎにはなるはずだ。
……と、これだけ不自然な報告であるが、誰も疑っている様子がない。
普通に考えれば分かるようなものだというのに、本当に鈍感な人間ばかりだとスパーダは呆れた。

その後、コルベールが王室衛士隊に頼んで兵を差し向けてもらおうと提案したがオスマンは知らせている間にフーケは逃げてしまう、学院の不始末は学院で解決する、と答えていた。
ロングビルはその言葉を待っていたかのように薄く微笑んでいる。
(そういえば、彼女はまだ何か用があるのか?)
ここでは破壊の箱と呼ばれている——アレ。
アレを盗んでしまえば、ここには用済みのはずだろう。
それなのに戻ってきたということは……恐らくアレの使い方が分からない。だから誰かに実際に使わせてみようか、そんな所だろう。
だが実際の所、アレは彼女では扱えやしないのだが。

「では、捜索隊を編成する。我こそはと思うものは杖を掲げよ」
オスマンが有志を募うが、教師達は困ったように互いに顔を見合わせるだけで誰も杖を掲げない。
「ん? どうした? フーケを捕まえて名を上げようと思う者はおらんのか!?」
どうにもならない腰抜け達だ。やはり、普段は魔法の力に頼っているだけでいざ本気のいざこざになれば強大な相手に恐れをなして何もできないようだ。
ただ、責任の押し付け合いに参加しなかったコルベールだけはフーケではなく別の何かに恐れているようだ。それが何かは分からないが。

スパーダは今度ははっきりと細く息を吐くと、スッと一歩前へと進み出た。
「私が行かせてもらう」
教師達やルイズはスパーダの行動に驚きざわめきだし、目を見張る。
そんな中、教師達の中から一人の黒い髪をした若い男がスパーダの元へ近づき、杖を突きつけてきた。
「魔法も使えぬ異国の没落貴族ごときが出しゃばるな!! これは我々の問題だ!」
風系統のメイジであるギトーが、スパーダに対して敵意を剥き出しにして突っかかってきた。
しかし、スパーダは目の前に杖を突きつけられているのにも関わらず、まるで動じず逆に涼やかな表情でこう返してきた。
「そうか。では、学院を代表してお前にフーケの討伐へ行ってもらうとしよう」
その言葉が出た途端にギトーの威勢は一気に萎え、顔が青ざめだす。
「聞けば、お前は風系統の優秀な教師だそうだな。ならば、フーケを捕まえるのも簡単なはずだろう。おまけに名も上げられて一石二鳥だな」
「い……いや、私は……」
弱々しく口篭り、杖を手にしていた手が力なく下げられていく。
「Humph, You scared.(フン、怖気づいたか)」
今度は明らかな嘲笑を交え、スパーダは下手に出しゃばってきたギトーに追い討ちをかける。
ギトーは唇を噛み締め、悔しそうにスパーダを睨みながら下がっていた。

(何なのよ……これが貴族の姿だというの?)
ルイズはあっさりと引き下がっていったギトーを見て、心底呆れ果てる所か憤りさえも感じていた。
生徒の規範であるはずの彼らは、貴族の誇りはおろか矜持さえも捨て去り、フーケに恐れをなしてしまっている。
それどころか責任逃れとその押し付け合いに終始し、己の保身のことしか考えていない。

魔法を使えることだけが貴族? 違う。敵に後ろを見せず、立ち向かう者のことを貴族と呼ぶのだ。

この中で最も貴族らしく、敵に後ろを見せようとしないのは、異国の貴族だと彼らが散々馬鹿にしているスパーダだけ。
ならば、その正しき姿と行動を自分も示さなければならない。

オスマンが有志を募ってからずっと俯いていたルイズは我慢が限界に達し、己の杖を顔の前に掲げだした。
「ミス・ヴァリエール! あなたは生徒ではありませんか! ここは私達教師に任せて……」
それをシュヴルーズが諌めようとするがルイズは、
「先生方は誰も掲げないじゃないですか!」
と、腰抜けな教師達全員に向けて責めるようにしつつも毅然とした態度で叫んでいた。
教師達は誰もその言葉に反論できない。ぐうの音もでない事実だったからだ。

スパーダはそんなルイズの姿を見て、微かに笑った。
正直、彼女には付いてきてもらった方が都合が良かった。彼女を成長させてやるには良い機会だ。
次にキュルケやタバサまでもが杖を掲げて同行を申し出る。
「ヴァリエールには負けられませんわ。……でも、あなたまで付いてこなくても良いのに」
キュルケが困ったようにタバサを見るが、「心配」とだけ答えていた。
オスマンはうんうん、と満足したように頷いていた。
「では、彼女達に頼むとしよう。何より、ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士だと聞いている」
タバサは返事もせずに突っ立っていたが、教師達やキュルケ、ルイズは驚いたように彼女を見つめていた。
まあ、あれだけのやり手ならばそれくらいの称号は持っていてもおかしくはない。
スパーダは別段、驚きもせずに彼女をちらりと見ていた。
次にオスマンはスパーダとルイズを見比べる。
「皆も知っておるはずじゃが、ミス・ヴァリエールの使い魔……ミスタ・スパーダはグラモン元帥の息子、ギーシュ・ド・グラモンと決闘して勝利している」
教師達の視線が、一斉にスパーダへと注がれる。

「彼らに勝てるという者がおるのであれば、前に一歩出たまえ」
ほとんどの教師はスパーダのことを魔法も使えない、どこの馬の骨とも知れない異国の没落貴族、平民上がりの生意気な男として蔑んだ視線で見ている。
だが、それを差し引いても彼の操るその剣術は人間とは思えぬものだった。
彼ならば、土くれのフーケに後れを取ることはないだろう。
……もっとも、魔法も使えぬ没落貴族などに自分達が後れを取るというのがどうにも悔しく感じられたが。

スパーダを除く三人は真顔になって直立し、恭しくオスマンに礼をする。
「オールド・オスマン。私が案内を務めますわ」
ロングビルが前へ出てきて、案内役を買って出る。
もっとも、彼女は首謀者なので、案内というより誘い込むというのが正しい。
「うむ。彼女達を手伝ってくれたまえ」
「もちろん。そのつもりですわ」


「ちくしょう……ひどいぜ、相棒……」
一方、ルイズの部屋へと置き去りにされたデルフリンガーはさめざめと泣き続けていた。
スパーダは自分を置いて、フーケの討伐に行ってしまった。
連れていってくれ、と懇願してもスパーダは「今のお前に用はない」と冷たく答えて、自らの愛剣を持って出て行った。
何故、力を示したのに使ってくれないのだ?
やはり自分が使っている愛剣の方がいいというのだろうか。
自分だって錆びてはいるが、あんな剣達なんかに負けない名剣だというのに。
リベリオンと閻魔刀に対する嫉妬が湧き上がってくる。
「あの悪魔……俺も使ってくれよぉ……」
誰も語る相手のいない部屋の中で、デルフは愚痴を呟き続けていた。


一行は屋根のない荷馬車でフーケの隠れ家へと向かっていた。
御者はフーケこと、ロングビルが務めている。
スパーダ達は馬車に揺られながら、ただただ到着を待ち続ける。
「ミス・ロングビル。どうして御者を自分で? 手綱なんて付き人にやらせればいいじゃないですか」
そんな中、キュルケがロングビルに話しかける。肩越しに少しだけ顔をこちらに向けながら、ロングビルは答えてきた。
「……いいのですよ。私は、貴族の名を無くした者ですから」
「だって、あなたはオールド・オスマンの秘書なのでしょ?」
「ええ。……でも、オスマン氏は貴族や平民だということに、あまり拘らないお方ですから」
表情は微笑んではいるものの、その裏側はとても哀しそうにスパーダは思えていた。
自分のことを没落貴族などと呼んでいた連中はあの学院にいたものの、それはあくまで余所者と認識してのことだろう。
ロングビルは本当に、その没落貴族と呼べる位置にいるのかもしれない。
彼女の家が何らかの事情で取り潰しに遭い、貴族としての地位を捨てなければならない理由があったのだろう。
そして、そのために盗賊という身分に零落れなければならなかったのだ。
それは自らが生き抜くためか、はたまた共に巻き添えを食らった大切な人のためか。

「差し支えなかったら、事情をお聞かせ願いたいわ」
キュルケが興味津々といった様子でロングビルに詰め寄るが、ロングビルは困ったような笑顔を返すのみ。
「いいじゃないの。教えてくださいな——」
御者台ににじり寄ろうとするキュルケに、スパーダは瞬時に閻魔刀を抜刀して突きつけた。
突然のスパーダの行動に、タバサを除く三人は驚き目を見張った。
「……よせ。彼女には話したくない理由がある。それを無理に抉り出しても彼女を傷つけるだけだ」
「そうよ! 聞かれたくないことを根掘り葉掘り聞こうだなんて! 空気を読みなさい! これだからゲルマニアの女は野蛮なのよ!」
ルイズまで彼女を責めるが、キュルケは一瞬ルイズの方をつまらなそうに睨んだ。
本来ならば彼女に嫌味を返してやりたい所だが、自分に突きつけられている閻魔刀を手にするスパーダの冷たい瞳は、本気で怒っている。
キュルケは仕方なく自分の位置へと戻り、大人しくすることにした。
「ミス・ロングビル。すまなかったな」
閻魔刀を納めたスパーダはロングビルに声をかける。
ロングビルはスパーダを見つめたまま呆気に取られていたが、すぐに微笑を浮かべて「いえ。良いのですよ」と、答えていた。
スパーダに対して感謝をしているような、それとも余計なお世話だとでも言いたそうな複雑な感情が入り混じった笑みだった。



馬車はその後、鬱蒼とした深い森へと入っていった。
ここから先へは馬車では進めないため、徒歩で進むことになる。
薄暗い森の奥へと小道を通ってしばらく進んでいくと、一行は開けた場所へと出た。
どうやら森の中の空き地のようであり、その中にぽつんと建っている廃屋が確かにあった。
「私が聞いた情報だと、あの中にいるという話です」
茂みに身を隠したまま、ロングビルはそう言う。
あの中ではなく、ここにいるのが正解だ。
大体、あんな場所を隠れ家にするというのがそもそもおかしい。本格的に山狩りをされれば完全に包囲されるのは目に見えている。
その後、ルイズ達は作戦を立て始め、タバサが地面に絵を描き始める。
スパーダはそれには参加せず、ちらりとロングビルの背中を見続けていた。
結局三人の作戦は、誰かが偵察兼囮役となってフーケを誘い出す、ということに決まったようだ。
「で、誰がやるの?」
キュルケが尋ねると、タバサは「すばしっこいの」と答える。
三人の視線がスパーダへと向けられるが、本人は首を横に振っていた。
「私より、ミス・タバサが適任だな。体も小さいし、罠にもかかり難いだろう」
そう返され、タバサは少しの間を置いてからこくりと頷く。
「私はこの辺りを偵察してきますね」
ロングビルがそう言って、森の中へと姿を消そうとする。
「ちょっと、どこへ行くのよ」
ロングビルの後を付いていこうとしたスパーダを、ルイズが不満そうに呼び止めた。
ロングビルも驚いた様子でスパーダを振り返る。
「私も同行しよう。君らで廃屋の調査をしてくれ」
「いえ、良いですよ。私一人で」
ロングビルが微かに焦った様子でスパーダの同行を拒否するが、
「君一人では危険だ。相手はあれだけ〝巨大で強靭〟なゴーレムを作り出せるのだからな」
そう答え、ロングビルの肩を叩くと彼女と共に森の奥へと姿を消していた。


その後、タバサが廃屋の偵察を行い、フーケがいない上に何も罠がないことも確認すると中へと入っていく。
何か手がかりがないものか、ほこりだらけの廃屋内を調べ始める三人。
タバサがその中にあったチェストを開けてみると……。
「これが、〝破壊の箱〟?」
タバサが中から引きずり出し、抱えているそれを見てルイズが不思議そうに声を上げる。
それは側面に奇妙な骸骨の紋章が刻まれたスーツケースにしか見えなかった。
ルイズも破壊の箱は初めてみるのだが、これは一体どうやって使うのだろうか?
「あっけないわねー」
キュルケが拍子抜けしたように声を上げる。
「中に何が入ってるのかしら? ちょっと、貸してみて」
タバサから受け取った破壊の箱をキュルケが開けようとするが、鍵が掛かっているのか開かない。
杖を振るい、開錠の魔法をかけてみてもビクともしない。
大きさの割にそんなに重くないことから、中には何も入っていない様子なのだが……。
「そんなことより、早くスパーダ達を呼んできましょうよ」
ルイズが促し、三人は廃屋の外へと出て行った。


森の奥へと偵察へ向かっていった二人の男女。
その片方が、もう一人に己の杖を突きつけていた。
しかし、剣を背負う男はその状況にまるで動じず、腕を組み続けている。
「……いつから? 私がフーケだと分かったのは」
ロングビルは先ほどまでの温和で優しそうな秘書の笑顔ではなく、その目は油断無く得物を狙う猛禽類のように鋭くなっていた。
「昨日、君が大胆なことをしていた時だな。〝ロングビル〟の魔力と〝フーケ〟の魔力は性質から何から何まで全く同じだったのでな」
腕を組んだまま軽く肩を竦めるスパーダ。
純粋な悪魔である彼には魔力を持った存在の力量や性質まで感じたり、見たりすることは容易いこと。
いくら彼女が変装をしようが、それはスパーダにとっては無意味なことだった。
ルイズ達と別れ、その姿が見えなくなってきた頃にスパーダは唐突にロングビルにこう問いかけた。

「君が朝一番に仕入れてきたという情報。あれは少々無理があるな。何故、あれだけの具体的な情報を短時間で持ち帰られたのだ?
馬でも片道四時間はかかる距離をたったの数時間で君は持ち帰ることができた」
スパーダのその指摘にロングビルは「こちらも必死になって調査をしましたので」と、とぼけた。
もちろん、さらにスパーダは追い討ちをかけた。
「君が朝一番で調査をしに出かけたのであれば、戻ってくるのは最低でも昼過ぎになっていたはずだ。にも関わらず、君は短時間であれだけの具体的な情報を仕入れて戻ってきた。それは何故か?
……フーケの行動を随一、監視でもできる人間でなければ不可能だからだ。そして、それができるのは、〝本人〟である君くらいなものだ」
そこまで指摘をしてやると、ロングビルは微かに舌打ちをしながら素早く振り向き、スパーダに杖を突きつけてきたのだ。
少しでも動こうとすれば、彼女は確実に一撃で仕留めるような攻撃をしてくるだろう。

だが、スパーダはまるで動じない。涼やかな表情のままだ。
「……私の魔力が分かる? あなた、魔法を使えない元貴族だと聞いていたけど……何者?」
「ただの退屈な没落貴族だ。異国にはそのような奴がいるということだ」
スパーダはフッと笑ってやり、モノクルを外した。
「まあ、君のあの報告もあまりに不自然過ぎたな。昨日のあの時、君と会っていなくても学院長室での報告で気づいてたかもしれないな」
「……何もかもお見通しって訳」
僅かに口端を歪めるロングビル。
「君が私達をここに呼んだ理由は大体分かる。君が盗んだという〝破壊の箱〟とやらの使い方が分からないのだろう?」
「そうよ。盗んだは良いけど、使い方がまるで分からなかったの。それじゃあ売ったって、全然意味がないじゃない? それで、学院の誰かに使わせてそれを知ろうと考えたのよ」
「私達以外の誰も知らなかったらどうするつもりだった? ……いや、予想は付くな。君が呼び出したゴーレムで叩き潰し、また別の誰かを呼んでいた、そんな所か。だが、君だけがのこのこ戻ってきた所で却って怪しまれるだけだと思われるがな」
「……もっとも、その前にあなたをここで始末しないといけないけどね」
杖をスパーダの胸に近づけてくるロングビル。
だがそれでもスパーダ動じずに嘆息するだけだ。

「……まあ、それは良いとして、君はあの〝破壊の箱〟とやらがどういう物か知っているのか?」
スパーダは顎に手をやり、そう尋ねる。
「それをこれから知ろうって言うのよ。あなた達を使ってね」
不敵に笑うロングビルであるが、スパーダはかぶりを振ってはっきりと告げた。
「……やめておけ。あれは君はおろか普通の人間が手にするものではない」
「馬鹿にしないで? 使い方さえ知れれば後はどうとでもなるわよ」
「これは私からの警告だ。……あれを下手に使うのはやめておけ」
スパーダの声音が低く、冷たいものへと変化し、ロングビルは僅かにおののく。
「あれはな、本来は〝破壊の箱〟という名前ではないし、マジックアイテムですらない。〝災厄〟という意味を持った強大な力を持つ兵器だ。それも、私の故郷で作られたな」
「あなたの、故郷? ……いきなりそんな話をされて、信じると思って?」
「信じる、信じないかは君の勝手だがな」
未だロングビルに杖を突きつけられているのにも構わず後ろを振り返り、言葉を続ける。
「だが、重ねて言う。あれは君がまともに扱えるような代物ではない。……下手をすれば君自身が命を落としかねんぞ」
真剣に言葉を続けているスパーダに、ロングビルの身が強張る。
彼は自分の動揺を誘おうとする訳でも、油断させようとしている訳でもない。
ただ真剣に、事実を伝えようとしている。
そこには彼女に対する殺意はおろか、敵意さえもまるでない。
「そうだな……その気なればこの森なんぞ簡単に消し飛ばせる」
その言葉にロングビルの顔は僅かに青ざめた。
「君があれの使い方を知って売るのは大いに結構だ。……だが、あれがいずれ君にもいるであろう大切な人を傷つけないとも限らん」
ロングビルの表情がさらに青ざめる。
彼女の脳裏に、妖精のように美しく可愛らしい金髪の少女の姿が思い浮かぶ。

「そうなった時、あれを戦いが好きな奴の手に渡りでもすれば、どうなるか。簡単だな。
君が使い方を知って売った以上、それからの持ち主もそれを知るだろう。そして、その破壊の箱は数多くの災厄をもたらし続け、いずれは君の——」
「やめてっ!!」
ロングビルが突然叫びだし、スパーダは肩越しに振り向いた。
杖を下ろしていたロングビルが俯き、肩を震わせていた。
スパーダは彼女へと向き直り、その前に立つ。
「……捕まえたいなら、とっとと捕まえなさいよ。あなただって正体を知っていたのなら、どうせ私を捕まえるためにわざわざここまで来たんでしょう? だったら、好きにすればいいわよ」
唐突に観念した態度を取る彼女に、スパーダは肩を竦める。
「そんな気はさらさらない。……第一、君をフーケとして捕らえた所で私には何の意味もない」
スパーダの口から出てきたとんでもない返答にロングビルは呆気に取られた顔を見せていた。
「じゃ、じゃあ……何しに来たっていうの」
「君に少し協力して欲しいことがあってな。聞いてくれるか」
それからスパーダの口から出てくる言葉に、ロングビルは顔を顰めていた。
「……どういうつもり?」
「何、彼女達を鍛えてやりたいだけだ。存分に力を見せてもらうぞ。〝土くれのフーケ〟」
にやりと笑い、スパーダはロングビルを伴って廃屋の方へと戻っていく。
彼の足元には、漆黒のオーラが霧のように湧き上がっていた。



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