あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Mission 05 <這い寄りし惨劇>




朝食が終わると、必要があればルイズの授業に付き合い、共に講義を聞く。
先日、スパーダがギーシュを叩きのめしたことで、生徒達の彼を見る目は変わっていた。
男子生徒は彼の剣を振るう姿に見惚れた者もいれば、メイジが剣に負けたということで彼を疎ましく思う者もいた。
女子生徒は大半がスパーダを憧れの眼差しで見るようになっており、傍を通り過ぎたりするだけで「ごきげんよう。ミスタ・スパーダ」と
敬意を表して呼ぶようになり、そんな彼の主人であるルイズを羨むようにもなっていた。

授業で魔法の実演があればルイズが爆発を起こし、その被害の後始末を手伝う。
ルイズのあの爆発は失敗ではないというのに、それを本人ですら自覚していないのでブツブツと愚痴をつぶやくばかりだ。
昼は午後の授業までの合間に、ギーシュが「剣を教えてくれ」とせがむので徹底的に鍛えてやることにした。
……あとは夕食を摂る程度しかやることがない。
夜はキュルケがしつこく誘ってきたりはするのだが、スパーダはそれを無視した。


四日目の朝――朝食を終えたスパーダは、ルイズの授業には付き合わず、学院長室を目指して本塔の螺旋階段を登っていた。
「今度食事でもどうです? ミス・ロングビル」
「……それは光栄ですわ。モット伯」
「うむ。楽しみにしているよ」
「はい……」
学院長室前の廊下まで登ってくると、学院長の秘書・ロングビルと男の会話が聞こえてきた。
気品はあるがやや好色そうな男の声と、敬意は払ってはいるがどこか刺々しいロングビルの声。
廊下まで登りきった途端、その声の主である男の姿が見えた。赤いマントに襞襟を付けた、見るからに貴族らしい派手な出で立ち。
カールした細い髭が特徴の、中年の男だ。
「これは失礼した。ミスタ」
スパーダと肩がぶつかり、モット伯爵なる男は軽く頭を下げて詫びてくる。
肩越しにスパーダのことを見つめて不思議そうな顔をし、そのまま階段を下りていった。
見慣れぬ貴族の姿であるスパーダが気になっていたようだ。
(あいつ……)
「あら、ミスタ・スパーダ。学院長に何かご用事でも?」
「ああ、ちょっとな。客人が来ていたのなら、オスマンはいるのだろう?」
スパーダはまだ刺々しい表情なままのロングビルと共に学院長室へと入っていった。
「やあ、ミスタ・スパーダ。どうしたのかね?」
学院長室へ来た理由。それは、この学院にある図書館を利用する許可が欲しいことだった。
これからルイズのパートナーとして活動することになる以上、見知らぬ土地であるハルケギニアのことを色々と知っておかなければならない。
そこで、そうした知識を得るのに打ってつけなのがここの図書館なのだ。先日、ルイズにその存在を知らされ、こうして来たわけである。
「なんじゃ。そういうことか。よかろう。すぐに手配はしよう」
「助かる。……ところで、さっきの男だが」
「モット伯のことかの? 彼は王宮からの勅使じゃ。ああして、ここへ来ては宮廷からの勅命を持ってくるのじゃよ」
「今回は、どんな無理難題を?」
魔法を用いて本を棚に戻す作業を行いながら、ロングビルが尋ねる。
「何、くれぐれも泥棒に気をつけろ、と勧告に来ただけじゃ」
「泥棒だと?」
「うむ。近頃、フーケとか言う魔法で貴族の所有する宝を専門に盗み出す賊が世間を騒がせておるらしいでな」
この世界にもそんな派手なことをしでかす奴がいるのかと思いながら、スパーダは頷く。
だがしかし、このハルケギニアで裕福であったりするのはほとんどが王侯貴族ばかりだ。
怪盗のターゲットとしては間違ってはいない。むしろ至って普通である。
「〝土くれ〟のフーケ、ですか?」
「我が学院には、王宮から預かった秘宝〝破壊の箱〟があるからの」
「破壊の箱? ……物騒な名前ですこと」
「フーケとやらがどれだけ優れたメイジかは知らぬが、ここの宝物庫はスクウェアクラスのメイジが幾重にも魔法をかけて防御を固めた特別製じゃ。取り越し苦労じゃよ」
自信に満ちた言葉を口にするオスマンは傍に立て掛けていた己の杖を手にし、机の上に置いてあった手の形をしたペーパーウェイトを浮かべ、
それでロングビルの背中をなぞっていた。
ロングビルは声を漏らした後、そのペーパーウェイトをオスマンに向かって力いっぱいに投げつける。
学院長室に、滑稽な悲鳴が響き渡った。


スパーダは早速図書館へ向かい、まずはハルケギニアの常識や地理などについて勉強しようと、それに関した本を手にして読み始めた。
「読み難いな……」
現代の人間界の言語とは明らかに異なるハルケギニアの言語。
しかし、やや訛ってはいるが何千年も前に人間界で用いられていた古代言語と少々似ている部分が多かったため、辛うじて読むことはできていた。
このハルケギニアは主に四つの国家で構成されている。まずはここ、トリステイン王国。
面積は人間界にも存在したオランダとベルギーが合わさった程度の小さな国だ。
すぐ北に面するのが帝政国家ゲルマニア。国土面積はトリステインの約十倍という大国だ。
元は都市国家だったらしいが、周辺地域を併呑して版図を広げたそうである。
さらにトリステインの南側に位置するのが同じく大国に列せられるガリア王国。
人口約1500万人というハルケギニア一の大国で魔法先進国らしい。
そのガリアよりさらに南にあるのがロマリア連合皇国という都市国家群。かつて王国だった時代もあるが、
現在は教皇が治めているらしく神官の最高権威「宗教庁」が存在し、世俗の権力や戦乱には無関心だそうだ。
そして、ハルケギニアより西の海上に位置するアルビオン大陸という所に存在するのがアルビオン王国。
この大陸、信じられないことに空に浮いているらしく、一定のコースでハルケギニア上空を周回浮遊しているらしい。
他にも新興国でクルデンホルフとかいう国もあるらしいが、あまり話題にはなっていない。

ハルケギニアの東側には砂漠が広がっているそうで、そこにはエルフなる異種族が住まうという。
その異種族は〝先住魔法〟というメイジの魔法とは異なる強力な魔法を操るそうで、ハルケギニアの人間達には恐怖の象徴となっているそうだ。
「……まるで悪魔を相手にしているようだな」
1500年以上も前に人間界で起きた魔界の侵略。あの時からも、人間達は悪魔を恐れるようになっていた。
他にも本を読んでみると、このハルケギニアでは魔界でも存在しないような魔物が多く存在するらしいが、それでもエルフには到底及ばないそうだ。


すっかり図書館で一日を過ごしてしまったスパーダはルイズの部屋へと戻り、窓の外を眺めていた。
空を見上げれば赤と青、二つの大きな月が視界に飛び込んでくる。
魔界でも人間界でも見たことのない絶景に、スパーダは妙な魅力を感じていた。
「何してるのよ。そろそろ明かりを消すわ」
「うむ」
ベッドのルイズに声をかけられ、スパーダはテーブルへと戻っていく。
ルイズが指を振ると、ランプの明かりが消えて暗闇に包まれ、月光だけが朧げに部屋を照らしていた。
「あなた、そんなに月が珍しいの? 昨日も見ていたけど」
「あまり見る機会が無かったのでな。私の場合は」
人間界では普通の月なら何度でも見てきたが、魔界には月などというものはなかった。
ましてや、二つの月など初めて目にする。
「ところで、今日は一日中どこにいたのよ? 昼食はおろか夕食にまで来ないし」
「図書館に入る許可が貰えたのでな。今日はそちらへ行かせてもらった。何しろ、私はこの土地に関しては無知なのでな。色々と知っておかなければこれから損をする」
「ふ~ん。で、どんなことを勉強したわけ?」
「大したことではない。ハルケギニアの地理や一般常識くらいだ。ところでミス・ヴァリエール。君はモット伯という男を知っているか?」
「モット伯?」
突然話を振られたルイズはオスマンの時と同じく彼の説明をするが、「いつも偉そうにしていてあまり好きじゃない」と言った。
また、彼はここに来ては学院で働くメイドを引き抜き、自分の元に仕えさせているらしい。それも〝夜の相手〟込みで。
「……で、彼がどうかしたの?」
「気にするな」
そう答え、スパーダは椅子に腰掛けたまま目を瞑る。
しかし、その表情はとても険しかった。
あの時、モット伯と邂逅した時に感じた気配。あれは、人間が悪魔の標的にされた時に付けられる目印に間違いなかったからだ。
信じたくはないが、この世界にも魔界の住人は訪れるようである。
……それはつまり、奴らがこの世界を狙っているということに他ならない。
かつての人間界のように。


翌日、厨房へ訪れると何やら厨房全体の空気が重く沈んでいる。
厨房には使用人達やマルトーを筆頭とする料理人たちが集まっているが全員表情が暗かった。
その中にシエスタの姿は見ることが出来なかった。
「何をしている? ……シエスタはどうした」
「ああ、あんたか……」
マルトーがスパーダの存在に気づき、力なく答える。
彼らの話によると、シエスタは先日来ていたモット伯に見初められて仕える事になったらしく、今朝早く迎えの馬車で行ってしまったらしい。
しかし、彼はあまり言い噂を聞かないため、シエスタのことを不憫に思ってこうして沈んでしまっているわけである。
結局、平民は貴族には逆らえないのだ、と嘆いていた。
どうやらルイズが言っていたことは本当だったようだ。
スパーダは賄いも貰わずに早々と厨房を後にした。

「モット伯の屋敷だって?」
その日の昼過ぎにもギーシュに剣を教えていたスパーダであったが、休憩中にモット伯の所在について彼に聞いていた。
さすがにギーシュは知っていたようで、屋敷の所在地の他にもモット伯は〝波涛〟の二つ名を持つトライアングルクラスのメイジであることも教えてくれた。
確かにいつも偉そうにしてはいるが、トライアングルに恥じない実力は確かなのだそうだ。
「しかし、何故モット伯の所に?」
「気にするな。さ、もう少し相手をしてやろうか」
適当に相槌を打ち、稽古を再開した。

「どこにいくのよ? スパーダ」
日が暮れてきた頃、コートを身に纏うスパーダは二振りの愛剣、リベリオンと閻魔刀を携えて学院の門にいた。
そこをルイズに呼び止められたのだ。
「少し野暮用でな。今夜は遅くなるかもしれん」
「ギーシュに聞いたわよ。あなた、モット伯の所へ行く気ね? 何の用なのよ」
「言ったろう? ただの野暮用だ。彼とは気が合いそうでな。そういう訳で、少し留守にさせてもらう」
適当にそう答え、学院の門をくぐって外へ出るスパーダ。
「いい!? いくらあなたが元貴族だからって、面倒を起こしちゃいけないのよ! それと朝までには帰ってくるのよ!? あなたはあたしの使い魔……パートナーなんだからね!」
と、背後でルイズが叫ぶのが響いてきていた。

その光景を見届けていた、一人の生徒がいた。――タバサだ。
(あの目……)
スパーダの瞳に宿っていたのは、まるで獲物を狙う狩人そのもの。
鋭く研ぎ澄まされていた、冷たい瞳。
彼のあの瞳は、決して単なる野暮用によるものではない。彼はこれから、何かをする気なのだ。
それも彼が持つあの剣を使って。
それを、自分は見届けなければならない。
彼が何者なのか、本当に彼が悪魔なのか。そして、彼のその身に秘められた力を。
タバサは強く指笛を吹き、己の使い魔・シルフィードを呼び寄せていた。
「嫌なの! 嫌なの!! あの悪魔、怖いのねー!」
空へ高く浮かび上がり、スパーダの後を追うように命令するとシルフィードはタバサの命令を拒否する。
しかし、「ご飯抜き」と言ってやると渋々だが、スパーダの後を追ってくれた。


学院からモット伯の屋敷まではそれほど遠くはなかった。
すっかり暗くなってはいるが歩きのままでも三時間程度の距離の所に、彼の領地はあった。
門の先には広大な庭が広がり、その先に一軒の屋敷が建っている。
(……やはり、匂うな)
表情を険しくするスパーダ。
この周辺には明らかに、悪魔達の匂いや気配、殺気で充満している。
門に控える二人の衛兵の元へ近づくと、槍を交差させてスパーダの進行を止めた。
「失礼ですが、どちら様になりますか?」
衛兵達はスパーダが貴族であると勘違いしているようで、事務的に話してくる。
「モット伯に用がある。ここを通してもらおう」
「……それだけではお通しするわけにはいきません」
「ご要件をこちらで伺いますが」
衛兵達はスパーダの言葉に困惑するばかり。
それはそうだろう。いくら貴族に見えるからと言って、こんな怪しい言動では取り次いでくれもしない。
「直接、話をしたい」
「いえ、そういうわけには。我々も仕事故……」
全く聞く耳を持たないスパーダに衛兵達が困惑する中、スパーダはモノクルを外してこう呟きだす。
「……死にたくなければ、すぐにここから去れ」
その言葉に、顔を変えた衛兵達は槍を構えてスパーダに突きつけた。
「貴様……!」
「――ぎゃあっ!?」
突然、衛兵の一人が悲鳴を上げた。
「ど、どうし――」
もう一人がそちらを向くと、衛兵の胸から鋭い刃が突き出ており、大量の血が飛び散っていた。
その背後にはいつの間にか巨大な鎌を手にし、血に塗れた赤茶けた衣を纏う死神のような化け物が立っていた。
それも一体ではない。十にも昇る数の化け物達が次々と姿を現していた。
「ひ、ひぃっ!?」
衛兵が腰を抜かす中、飛び上がった死神がその衛兵に向かって大鎌を振り下ろそうとする。
『ギャアッ!』
ドスッ、ドスッという杭を打つような鋭い音と共に、赤黒く禍々しいオーラが溢れ出る数本の剣が死神を貫いていた。
死神は空中で弾け、辺りに砂を撒き散らす。
「さっさと逃げろ。死にたくなければな」
スパーダの冷たい一言に、衛兵は悲鳴を上げながら逃げていった。

『スパーダ――』

『スパーダ――』

『スパーダ――』

死神達はスパーダを取り囲み、殺意と憎悪に満ちたおぞましい呪詛を呟く。
色欲の罪を犯して死んだ人間を地獄で責め続ける、下級の悪魔にして魔界の住人、ヘル=ラスト。
力は大したことがないが、それでも悪魔である以上は常人では立ち向かうこともできない力を持つ。

『スパーダ――』

『スパーダ――』

『スパーダ――』

相変わらず怨嗟の声を発し続けるヘル=ラストが一斉に突進し、大鎌で斬りつけようとしてきた。
スパーダは身構えようともせず、その場に立ち尽くしたまま、一言だけ呟く。
「Leave me.(失せろ)」
透けるようにして現れ、スパーダの周りを高速で旋回する八本の赤黒い魔力の剣――幻影剣。
突っ込んできたヘル=ラストを次々と切り刻んでいき、それでも死ななかった奴には全ての幻影剣を真上に配置させ、上空から串刺しにしてやった。
幻影剣が砕け散ると同時、虚空を突き破り、または周囲の地面が盛り上がり、そこから更なるヘル=ラスト達が姿を現す。
スパーダは背負っていたリベリオンに手を伸ばそうとした。

『ギャアッ!』
突如、上空から飛来してくる、無数の鋭い氷の槍が次々とヘル=ラストを貫いていった。
(来たか)
スパーダはその光景に驚く様子はなく、むしろこうなると分かっていたような涼しい顔だ。
ここへ来るまでの道中も感じ取っていた、氷のように冷たく刃のように研ぎ澄まされた魔力。
ふと空を見上げると、二つの月の光をシルエットに、高々度より頭から急降下してくる少女の姿が。
少女が手にする大きな杖の先から次々と氷の槍が作り出され、ヘル=ラスト達に向けて放たれていく。
成す術もなく次々と屠られていくヘル=ラスト達の姿に、スパーダはリベリオンを手にしようとしていた手を下ろし、嘆息を漏らす。

やがて、地上までかなり近づいてきた所で少女の降下速度がゆっくりとなっていき、そのまま地上へふわりとした動作で着地した。
「君か」
スパーダの目の前に現れたのは、まぎれもなくタバサであった。
タバサはスパーダの傍まで寄ってくると、砂となって消えていくヘル=ラスト達を見回して怪訝そうにしていた。
「これは……何?」
「見ての通り、悪魔という奴だ。見るのは初めてか」
タバサは無言のままこくりと頷く。心なしか、無表情なその顔の裏側に微かな嫌悪を感じ取る。
「何の用で来た? 私はこれからこの屋敷に用があるのだが」
スパーダの言葉に、タバサは杖を手にして身構えた。
周囲には再び、ヘル=ラスト達が姿を現していたからだ。
「手伝う」
「奴らは冷酷で残忍だ。決して簡単な仕事ではない。やれるか?」
タバサに声をかけるとまたも無言のまま頷いていた。
スパーダは微かに口端に笑みをこぼし、呟く。
「ならば好きにしろ。責任は自分で取れ」
飛び掛ってくるヘル=ラスト達に次々と幻影剣を放っていくスパーダ。
タバサも呪文を一瞬にして唱え、ウィンディ・アイシクルによる氷の矢を放ち、ヘル=ラスト達を迎撃していく。
ヘル=ラスト達の数を減らし、道が開くとスパーダは屋敷に向かって疾走していき、タバサもそのすぐ後ろをついてくる。

次々と湧くヘル=ラスト達をリベリオンを振るって葬っていく。
屋敷へと近づくにつれ、その中から悲鳴が上がっているのがはっきりと聞こえてきた。
奴らはすでに内部にも入り込んでいるらしい。モット伯の魔力も感じられる。
どうやら、彼も奴らを相手に戦っているようだ。何しろ奴らの狙いはモット伯自身なのだから。

そしてそのすぐ近く――先日も感じた懐かしさ――シエスタから感じられた見知った悪魔の気配が、今度ははっきりと感じられていた。
〝腰抜け〟や〝出来損ない〟と呼ばれ、大した力も無い下級悪魔達からも蔑まれ、虐げられていた中級の悪魔。
悪魔でありながら、人間のような心を持っていた男を。




新着情報

取得中です。