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Mission 03 <白昼の決闘>



ヴェストリ広場へと辿り着いたスパーダはギーシュと相対する。
これから行われるであろう〝決闘〟という名の貴族による一方的な制裁を見物しようと噂を聞きつけた生徒たちで、広場は溢れかえっていた。
「諸君!決闘だ!」
その広場の中心でギーシュは薔薇の造花を掲げ高らかに宣言をする。見物人から歓声が巻き起こる。
「ギーシュが決闘するぞ! 相手はルイズの召喚した没落貴族だってさ!」
ギーシュは腕を振って、歓声にこたえている。
一方、スパーダは己の愛刀の一つ――閻魔刀を片手に構えながら目を瞑り、静かに佇んでいた。

「逃げずによくきたな。没落貴族君!」
「前置きはどうでもいい。すぐに始めるぞ」
スパーダは目を瞑って落ち着いたまま答えていた。
「ふんっ、いいだろう。……では、始めようか!」
ギーシュが持っている薔薇の花びらを振り、花びらが一枚落ちた瞬間、その花びらは鎧を纏った女騎士の人形へと姿を変えた。
「先ほどの錬金とやらか」
「お褒めにいただき、光栄だ。僕の二つ名は〝青銅〟のギーシュ。従って、青銅のゴーレム〝ワルキューレ〟がお相手する。
言っておくが、卑怯などとは思わない事だよ。僕はメイジだ、魔法でカタをつけさせてもらう」
「Come on.(来い)」
スパーダの一声と共にギーシュが杖を振るい、ワルキューレが突進してくる。
スパーダ目掛けてワルキューレの拳が真っ直ぐに叩き込まれようとしている。
当のスパーダは目を瞑ったまま、その攻撃を避けるどころか見ることすらしようとはしない。
ギーシュは勝ち誇った顔でにやりと笑った。
没落貴族の無様な姿を他の者達にも見せ付けてやろう。――そう考えていた時である。

――ヴゥンッ。

突如、低い唸りのような音が響いた途端、目の前のワルキューレが一瞬にして十字に切り裂かれていた。
スパーダは閻魔刀の刃を、ほんの僅かに指で押し上げ覗かせている。

「な……なっ……」
突然の出来事に唖然とするギーシュ。そして、ギャラリー達。
「何が起こったんだ……?」
「あの男、何もしてないよな?」
誰もが、スパーダの神速の斬撃を見切れてはいなかった。
まさか彼らも今の抜刀が時に空間そのものを両断しかねないものだとは夢にも思わないだろう。
バラバラに切り裂かれ、ゴトゴトと地に落ちるワルキューレの残骸に広場にいるギャラリー達が凍りつく。

スパーダはワルキューレの残骸とギーシュを交互に見比べ、そして失望したようにため息をついた。
それからギーシュをじっと見つめると、彼は顎をしゃくりだす。「来い」と言わんばかりに。
(ば……馬鹿にしてるのか?)
まともに体を動かすどころか剣さえも抜かずにあしらわれ、挙句にはため息までつかれる始末。
まるで真剣さが感じられないようなその姿が、ギーシュの精神を逆撫でていた。
「ち、調子に乗るなよ! ワルキューレ!」
さらに花びらを二枚落とすと、それは二体のワルキューレへと変わる。
今度は槍やメイスといったもので武装していた。
左右から挟むようにしてスパーダに襲い掛かるが、当の本人は右手でワルキューレの振り下ろしたメイスを難なく受け止めた上、
閻魔刀の鞘で左から襲ってきたワルキューレを打ち付けて吹き飛ばす。
そして、メイスを振り下ろしたまま固まっているワルキューレに鋭い蹴りを叩き込んでいた。

それはまるで子供をあしらうかのような光景だった。剣を手にしているのにそれをまともに抜きもしないのは、彼が全力どころかその十分の一さえ発揮していないことを意味する。
ギャラリー達は「何やってんだよギーシュ!」「そんな奴、さっさと叩きのめせー!」などと野次を飛ばしていた。
ギーシュは歯を食いしばりながら顔を顰めた。剣を抜きもしない没落貴族にここまでなめられるわけにはいかない。
「ふ、ふん! いくら倒しても無駄だ! 僕はワルキューレを無限に作り出せるぞ! それも一体や二体だけではない!」
その言葉が単なる虚勢である事がスパーダには分かっていた。
ワルキューレとやらを一体作り出すだけで相当の魔力を消耗するのは、メイジ達の魔力を直接視認する事ができるスパーダにはお見通しだった。
作れてもせいぜいあと四体が限界だろう。
(やはりな)
案の定、ワルキューレを四体呼び出しただけでギーシュの魔力はもう新たなゴーレムを作れる量ではなくなっている。
「ゆけ!」
顔を引き攣らせ、冷や汗を流しながら号令をかけるギーシュ。ワルキューレが一斉に突進してきた。
しかもただ闇雲に突撃させるだけ。物量で攻めようとギーシュは考えているようだが、司令塔たるギーシュのゴーレムの操作自体がなっていない。
芸がないなと思いつつ、スパーダは向かってきたワルキューレの胴体に閻魔刀の柄頭を打ち付けて怯ませ、体をくるりと反転させつつ閻魔刀の鞘を振るい、瞬時に後ろの二体を一度に怯ませた。
もう一体が横から剣を振り下ろすが、それをスッと体を僅かに反らせてかわすと蹴りを浴びせて吹き飛ばし、本塔の壁に激突させた。

体勢を取り戻した三体のワルキューレが一斉にスパーダに武器を振り下ろしてきたが、当たる寸前に右腕を素早く顔を庇うように構えだしていた。

――ガキンッ!

金属同士が衝突する、鋭い剣戟の音が響く。だが、スパーダは剣を一切抜いてはいない。
ギャラリー達は目の前で起きている光景に言葉を失った。
彼は剣でも、鞘でもなく、腕一本だけでワルキューレの攻撃を受け止めていることに。
しかも三体まとめてだ。
確かにギーシュのゴーレムの攻撃はスパーダを捉えてはいる。だが、彼はそれに参った様子はおろか、僅かな傷を負った様子さえない。
ただ受け止めるだけならまだしも、ワルキューレ達は逆にスパーダの防御に弾かれて後方に倒されてしまっていた。
「な、何だ? 今の」
「う、嘘だろ? あれを防いだっていうのかよ?」
「いや、何か腕に仕込んでるんじゃないのか?」
武器や防具どころか、己の体そのものでゴーレムの攻撃を真正面から受け止めるというありえない光景。
ギャラリー達は困惑し、さらにざわめきだす。

(何故だ、何故だ、何故だ! なんで、彼は平気なんだ!)
ギーシュも己が目にした現実に目を疑った。
青銅とはいえ、れっきとした金属でできたワルキューレの繰り出す攻撃はまともに受ければ痛いだけでは済まない。
腕や脚は折れ、内臓は砕かれるはず。にも関わらず、スパーダはその一撃を受けてもまるで堪えていないのだ。
逆にワルキューレの方が力負けをするという始末。……こんなことがあって良いものなのか。
彼は平民。自分はメイジ。魔法を使えぬ者と使える者。
なのに何故、ここまで実力に差が出てしまうのだ?
(ま、まさか……メイジ殺し!?)
魔法の使えぬ平民でありながらメイジにも引けを取らず、多大な戦果を示し、逆にそのメイジさえも容易く打ち倒す技と力を持つ者。
平民は貴族には勝てない。……世の理を否定する力を持つ存在。
昔から馬鹿馬鹿しいと感じてはいた。そんなことがあるはない、と。
だが、現実にギーシュはスパーダという男に追い詰められている。
(じょ、じょ、じょ、じょ、冗談じゃないぞ!? メイジ殺しだったなんて、聞いてない!)
こいつはただの没落貴族などではない。
ここに至って、初めてギーシュは後悔した。とんでもない存在を相手にしまったことに。
「……ワ、ワ、ワルキューレっ!!」
恐怖に喚きながらギーシュは杖を振るい、倒れているワルキューレ達を起き上がらせた。
スパーダは先ほどから腰の閻魔刀に手をかけたまま、じっと佇んでいる。自分から攻撃を仕掛けようとはしない。

とにかく突撃だ。突撃あるのみ。
ただ闇雲に、ワルキューレを特攻させるしか恐怖に支配されたギーシュの頭には残されていなかった。
先ほどまで発揮していた威勢や虚勢もすっかり萎えてしまった。


――キィンッ!

ワルキューレ達が動き出した瞬間、甲高い剣戟と共に眩い閃光が瞬いていた。

ギーシュがハッと気付けば、彼の右手にはいつのまにか抜刀したものと思われる閻魔刀が握られ、横へと薙ぎ払われていた。
その白刃は陽光を浴びて、微かに閃く。
(な……! 何だ……!?)
ギーシュはもちろん、ギャラリー達でさえ絶句した。
スパーダが剣を一振りした途端、斜め十字の青白い剣閃が飛び、向かってくるワルキューレ達を容赦なく切り刻んだのだ。
真正面から鋭い斬撃の風を食らったワルキューレ達はバラバラになって崩れさり、残骸は地面に落ちて山と化していた。
当然、それだけでは終わらない。
放たれた剣閃はそのままギーシュ目掛けて突き進んできている。
これをまともに食らえば、人間など一瞬にしてミンチ肉にされてしまうだろう。
「ひいっ!」
死の恐怖に顔を引き攣らせ、咄嗟に後に倒れて尻餅をつくギーシュ。
自分のすぐ真上を、剣閃は通り過ぎていった。冷たい風が体に吹き付けられる。
剣閃はそのまま学院の外堀まで飛んでいくと、内壁に当たり、消滅した。
スパーダは静かに、優雅な動作で閻魔刀の刃を鞘へと収めた。チャキン、と鍔の音が静かに鳴り響く。


(……何だ? 昨日から鬱陶しい)
閻魔刀を納刀しながら、スパーダは忌々しそうに自分の左手を見る。
手袋で覆われてはいるが、この下には使い魔契約のルーンが刻まれている。
昨日からこのルーンは自分に対して魔力を発揮し、強制力を働きかけてきていたのだ。

――主に従え。

――主を慕え。

――主から離れるな。

そんな意味が込められた強制力が秘められており、並みの獣や力の弱い下級悪魔であれば簡単にその力に屈してしまうことだろう。
しかし、力の大半を己の分身に封じたとはいえ最上級の悪魔であるスパーダにはそんな洗脳染みた魔力など受け付けはしなかった。
ルイズを気にかけたりするのは、あくまでスパーダ自身の意志によるもの。
これまで1000年以上もの間、多くの人間を見てきたからこそ、異世界に住まう人間がこれからどのようにして生きてゆくのか、そしてその周りで何が起きるのかを見届けるために彼女の〝パートナー〟となったのだ。

このルーンは自分をルイズにとって都合のいい〝使い魔〟にしようとしているようだが、洗脳などで築かれる信頼など片腹痛い。
自らの意志で彼女と共にあるからこそ、意味がある。
スパーダの悪魔としての本能が、ルーンの魔力を完全に抑え付けていた。


「す……すごい」
スパーダの戦いを見守っていたルイズはあまりの光景に唖然とした。
まさか、ここまで強いとは。
恐らく、スパーダはまるで本気を出していないのだろう。余裕の表情を浮かべている。
だが、これで彼の実力がはっきりと分かった。ドットとはいえメイジであるギーシュを軽く叩きのめしたのだ。
主人を……パートナーである自分を守る力となれるはずである。
「素敵……」
ルイズが喜びに震える中、隣にいたキュルケはトロンとした目で体をくねらせる。


「きゅい! あの悪魔、やっぱりとんでもなく強いのね!」
ヴェストリ広場の上空を飛ぶ一匹の風竜が人間の言葉を口にしていた。
その背に乗る青い髪の少女、タバサは眼下で繰り広げられる戦いを観察し、驚愕していた。
(彼は……何者)
自分の使い魔・韻竜シルフィードがルイズの召喚した使い魔、スパーダの事をかなり恐れているようで、彼のことを〝悪魔〟とまで呼んでいる事にタバサも戦慄を抱いていた。
このハルケギニアには吸血鬼やら亜人といった異種族が存在するのだが、〝悪魔〟などという存在は御伽話の中でしか見た事がない。
しかし、スパーダから発せられる異様で冷たい雰囲気は、一人の戦士であるタバサをも震え上がらせる程に研ぎ澄まされていた。
だからこそ、ずっと彼のことを警戒していたのだ。
彼の正体がシルフィードの言うように本当に悪魔なのかどうかはまだはっきりとは分からない。
ただ、一つだけ分かるのは彼があまりにも強いということだけだ。
きっと、並大抵の実力のメイジでは相手にならないだろう。


「あ、あ……!」
最後の一手までもが全滅させられ、腰を抜かしたままギーシュは恐怖に打ち震えていた。
完全に見誤っていた。こんな恐ろしい相手に、ドットの自分が勝てるはずがない。
平民でありながら貴族をも屠ると言われる『メイジ殺し』の力を初めて目の当たりにし、ギーシュは戦慄する。
彼の力は明らかに、並のメイジを凌駕している。軍人の家系に生まれた人間として、彼が有する圧倒的な力を本能が感じ取る。
「く、くるな……! くるな!」
納刀した閻魔刀を手にしながら近づいてくるスパーダに、半狂乱のギーシュは薔薇の造花を振り回しながら叫んだ。
ギーシュの目の前で止まったスパーダは閻魔刀を再び抜き放ち、ギーシュの真横に突き立てる。
「ひぃっ……!」
冷徹な表情を浮かべて自分を見下ろすスパーダ。怒りも侮蔑も無い、何の感情も窺えぬ氷のような瞳に射抜かれギーシュは蒼ざめた。
「お前は死んだ」
「……へ?」
スパーダの発した一言に、間の抜けた声を出すギーシュ。
「もしもこれが本気の決闘であれば、お前は死んでいる」
ギーシュはその言葉の意味が分からず、唖然としたままスパーダを見ていた。
「お前は言ったな? 『決闘』をする、と。決闘とは本来、命を賭けた戦いだ。戯れなどありはしない。そして負けた方は『死ぬ』べきでもある」
『死』というその一言に、ギーシュは青ざめた。
「……お前がやろうとしたのは、命を軽視した行為だ。お前があのままメイドだったならばどうだった。それでお前が彼女の命を奪った時、お前は何を得る」
スパーダの言葉に怒りはない。それはギーシュを諌める威厳に満ち溢れた言葉だった。
ギーシュは彼の言葉に、背筋に何か冷たく恐ろしいものを感じた。
そんな事、考えてもみなかったからだ。
だが考えてみればあの時、彼がもし割り込まなかったなら、自分はあのメイドにひどい仕打ちをしていたかもしれない。
いくらギーシュとて、さすがに平民だろうとレディにそんなことはしたくなかったのだ。
「お前が貴族であろうと、彼女が平民であろうと、互いに〝人間〟であることに変わりは無い。彼女はお前の家畜などではない」

閻魔刀を地面から引き抜き、鞘に収めたスパーダは踵を返し、ヴェストリ広場を後にしていた。
ギーシュは未だ尻餅をついたままだったが、その胸の奥から何か熱いものが湧き上がっているのを自分でもはっきり感じていた。



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