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Mission 01 <異界への訪問>




〝魔剣士〟と呼ばれる悪魔がいた。

力だけが全て、弱肉強食の世界である魔界においてその悪魔の力は絶大であった。
同じ闇の世界に生きる悪魔達にとって彼は憧れであり、越えるべき目標でもあった。
彼は悪魔でありながら珍しく、〝義〟を重んじる心も持っていた希有な存在だった。

彼はそれだけの力を持ちながら、〝魔帝〟と呼ばれる悪魔に仕えていた。
魔界において最も強大な力を持つ大悪魔――闇の世界を統べる皇帝。
その大悪魔に匹敵する〝覇王〟〝羅王〟との抗争において〝魔帝〟は己の力と、腹心の力を借りて勝利を治めた。

〝魔剣士〟は〝魔帝〟が最も信頼する右腕。彼の力無くしては、魔界の支配は成し遂げられなかっただろう。

――だが、突如〝魔剣士〟は〝魔帝〟を裏切った。

〝魔帝〟だけではない。

魔界そのものを裏切り、彼は人界に侵略を仕掛けようとした全ての悪魔達と戦った。

〝正義〟の心に目覚めし〝魔剣士〟は、たった一人で魔界の侵略から人界を守り通し、故郷を封じた。

人界に降臨せし〝魔剣士〟は、1000年以上の長きに渡り、数々の伝説を残し、争いだけしかない魔界とは異なる平和な世界を見守った。

そんな〝魔剣士〟は突如、姿を消した。

魔界でも人界でもない、異世界へと旅立った。



「宇宙の果てのどこかにいる……わたしのしもべよ!」
ここはハルケギニア、トリステイン魔法学院。
「神聖で美しく!そして、強力な使い魔よ!」
桃色の髪を揺らす一人の少女が、己の使い魔を召喚すべく杖を掲げ、呪文を唱えていた。
周囲には、彼女を見ながらクスクスと笑いを漏らす生徒が多数存在する。
無理もない――彼女はこの春の使い魔召喚の儀で、幾度と無く失敗しているからだ。
この儀式だけならまだしも、彼女はこれまで様々な魔法に失敗している。もしもこの儀式ができなければ、彼女は留年してしまう。
もう失敗は許されない。

周囲からは、
「いい加減にしろ!」
「まだできねーのかよ」
「ゼロのルイズなんかに、魔法ができるわけないよ」
「あと何回で成功するか賭けようぜ?」
「退屈だよ……まったく」
といった野次まで飛ぶ始末。

この儀式の教官である禿げ頭の教師、コルベールはつい先ほど最後通告を出しはしたものの、次こそは必ず成功すると信じていた。
何故なら、彼女はいくら魔法が失敗していようとそれで諦めるなんて事はなかったのだから。そんな彼女の努力は、必ず実るはずなのだ。
(さあ、自分を信じて!)
教師として心の底から、彼女を応援していた。

「私は心より求め、訴えるわ! 我が導きに――応えなさい!」
一瞬、虚空の中にバチバチと微かな雷光が弾けたと思った途端――これまでにない大爆発を引き起こした。
その尋常でない爆発に、多くの生徒達が自分の使い魔もろとも吹き飛ばされた。
吹き飛ばされなかったのは、教師コルベール、青い髪と赤い髪の少女、そして使い魔を召喚しようとしたルイズだけである。
「この馬鹿! だから言ったんだよ!」
「ゼロのルイズなんかが、サモン・サーヴァントができるわけないって!」
「わーっ! 僕の使い魔が!」
「いい加減に諦めろ! とっとと留年しちまえ!」
そんな野次が飛んできて、ルイズは唇を噛み締める。
何故だ。何故、自分にはできないのだ。一生懸命に勉強した。練習だってした。なのに、何故……。
己の無力さを呪い、ルイズは目に涙を浮かべて泣きかけた。
「泣いているのか」
突然、巨大な土煙が立ち昇るはずだけの目の前から男の声がかかった。
ルイズはハッとして、面を上げる。

「お、おい……あれって……」
「ま、まさか成功した!?」
「……あ、でもよく見たら人間じゃん」
「ぷぷっ……ゼロのルイズのやつ、使い魔の代わりにあんなのを用意するなんて」
「でもさ、あれってひょっとして……」
嘲笑していた生徒達にも動揺が生じた。
土煙が晴れ始めると、そこには一人の見慣れない男が立っていたからだ。
オールバックにした銀髪、左目にはモノクル、そして濃い紫を基調として赤と黒の刺繍で彩られたコートなど、その姿は明らかに平民と呼べるものではない。
背中には鍔の中央に骸骨の意匠が施された大剣が背負われている。まるで金属から直接削りだされて装飾されたような重厚さがあった。
そして、腰には見たことのない造型と意匠が施された120数サントほどの僅かな反りを有する細身の剣が携えられている。

一方のルイズも困惑していた。
召喚に失敗したと思ったら、成功していた――ところが現れたのは明らかに貴族と呼ぶべき出で立ちをした男だった。
歳は三十前後に見えなくもないが……どうなのだろうか。
だがその端正な顔立ちは若いながらも貴族らしい威厳に満ちており、とても洗練されているのが窺える。
「何故、泣いている」
冷徹な口調で男に指摘されてまだ涙を流していることに気がついたルイズはぐしぐしと目を拭う。
「な、何でもないわ。……そ、それより、あなたは誰?」
「私は――」

「うわっ! な、何だ!?」
男が名乗ろうとした途端、突然この場にいる生徒達の使い魔が次々に暴れだしていた。
生徒達は何とか落ち着かせようとして試みるが、余計に暴れられるだけだ。
使い魔達は何かに恐怖していたのか、その恐怖が限界に達して暴れだしたようだった。

「きゅるっ! きゅるっ!!」
「ちょっと! どうしたの!?」
「きゅいーーっ! きゅいーーっ!! きゅいーーっ!!!」
「落ち着いて」
赤い髪と青い髪の少女が召喚したのは火竜山脈に住まうとされるサラマンダー、そして幼生ではあるが立派な風竜。
そんな二人も、暴れだす己の使い魔を宥めようとしていた。
教官のコルベールは突然の事態にいささか混乱している。
今までこのような事態が起こったことなど無かったため、どうすれば良いのか分からず困惑した。

「Silence.(鎮まれ)」
冷徹で威厳に満ちたその一声。
ピタリと、使い魔達の動きが止まった。
その視線はルイズが召喚した貴族らしき男へと注がれている。


「私は、スパーダ。君は何者だ。そして、ここはどこだ」
「ちょ、ちょっと……そんなに一辺に聞かないでよ。わたしは、ルイズ、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエール。
ここはハルケギニア、トリステイン王国、トリステイン魔法学院よ。それくらいは知っているでしょう?」
スパーダと名乗った男は顎に手を当てて考え込み、首を横に振る。
「……まあいい。何故私がここにいる。見た所、君が呼び出したようだが」
「あなたはメイジの使い魔召喚の儀で呼ばれたのですよ」
突然、横から割り込んできたのは教官のコルベールだった。
ヴァリエールがやっと成功させて現れたのは、見た事もない出で立ちの貴族らしき男。
これで勝手に彼女が話を進めて彼を使い魔にしてしまったとあっては、問題になりかねない。
人間を使い魔にするなど前例がないが、ちゃんと召喚できたのは事実。だが、それがまさかこのような相手とは。
「こんな所で話も何ですから一度学院まで戻りましょう。そこで色々話をします。さあ! これにて解散にします! 君達も早く戻りなさい!」
コルベールが告げると生徒達は次々と宙へ浮かびだし、学院へと戻っていく。
ルイズら三人も、空は飛ばずに自分の足で歩いて戻っていった。
スパーダは昼ではあるが空に薄っすらと浮かぶ、大きな二つの月を見上げて微かに顔を顰めていた。


スパーダが連れてこられたのは、魔法学院の学院長室だった。
そこには立派な髭を蓄えた一見、威厳に満ちたように見える老人が待っていた。
「ふむ、ミス・ヴァリエールに召喚されたのが彼、とな……」
老人はじっとスパーダの顔を睨むように観察する。
スパーダの横でルイズは緊張しながら固まっていた。これから自分はどうなるのか、彼は一体何者なのか。様々な不安が湧き上がり、渦巻いていく。
「ワシは本学院の学院長をしておるオスマンと申す。皆からはオールド・オスマンと呼ばれておる。君の名前を聞かせてもらおう」
「スパーダだ。少し前まで、フォルトゥナで領主の任に就かせてもらっていた」
もっとも、その話は1000年以上も昔の話だ。
領主として治めていたのはそれほど長くはなく、十数年ほどで別の相手にその権利を渡していた。
自分が〝悪魔〟などと正直に言う訳にもいくまい。今は〝フォルトゥナの元領主〟そういう話にしておこう。
「フォルトゥナ? 聞いた事もない土地ですね」
「私もハルケギニアも、トリステインなどというものは知らん。互いに遠く離れて交流もなかったのだな」
コルベールの言葉に答えるスパーダ。
「私の事は良いとして何故、このミス・ヴァリエールに呼び出された? ついでにこの土地の常識についても教えてもらいたい」
冷徹で毅然としつつも割と友好的に接してくるスパーダに安堵を感じつつ、オスマンとコルベールはスパーダに説明する。

スパーダが彼らに教えられた事を要約すると、

1.ハルケギニアは魔法社会。魔法を使えるものはメイジと呼ばれ、貴族として封建社会を築いている。
2.逆に魔法が使えないのが平民。彼らは主に貴族に奉仕して生活をしている。
  ハルケギニアに住む大部分の人間はこちらである。
3.ここはトリステイン王国と言う小国の中にある魔法学院。ここで貴族の子女を預かって、魔法の勉強をしている。
4.スパーダを呼び出したのはトリステイン王国の大貴族、ヴァリエール公爵家の三女・ルイズ。
5.彼女は二年に進級するために使い魔召喚の儀を行い、それでスパーダを呼び出してしまった。
  契約をして使い魔を持たなければ留年してしまう。
6.しかし、スパーダは元とはいえれっきとした異国の貴族らしいので、易々と契約をする訳にはいかない。

「……と、まあこういう訳なんじゃよ。勝手に君を召喚してしまったのは悪いと思っているのじゃが……どうじゃろうか? 契約を受けて貰えんかの?」
「確認したいが、使い魔とやらの仕事は何をする」
ちらりとスパーダはルイズへと視線をやった。それはルイズに対する質問だ。
少し冷徹な視線にビクリと体を震わせたルイズは、恐る恐る口を開く。
「あ、べ、別に難しい事じゃないのよ。必要な秘薬を見つけてきたり、あたしを護衛してくれたりすればいいの。……後は、雑用かしら?」
「要は専属の使用人になれ、という事だな」
スパーダは考えた。仮にも魔界の最上級悪魔である自分が人間の下僕とならなければならないとは。
これで呼び出したのが自分ではなく……他の悪魔などであれば間違いなく牙をむく事だろう。
力なき者に従え、など多くの悪魔にとっては侮辱にすぎない。
「それはいつまで続ける」
「あたしかあなた、どちらかが死ぬまでよ」
普通の人間を相手にその言葉を言えば、「お前は死ぬまで自分専用の奴隷になれ」と言うようなものだろう。
もちろん、彼女の奴隷になる気はない。
だが、これは今から行う交渉でどうにでもすることができる。これからの自分の行動次第なのだ。
それに、自分と違って人間である彼女の命は短いのだ。その人生を見届けて見るのも悪くは無いだろう。
「……いいだろう。その申し出を受けよう」
「えっ? 本当に?」
スパーダの言葉に、三人の表情に安堵が沸きあがる。ルイズに至っては喜びの色も浮かべていた。
「ただし、これだけは言っておく。私は君のパートナーになるのは構わんが、隷属する気はないぞ」
「隷属とは……ちょっと口が過ぎるのではありませんか? 使い魔とは決して奴隷などではないのですよ」
「そうなるかは彼女次第だ。そもそも、私以外の……普通の人間を呼び出したりした時、お前達はどう対応していた」
スパーダにそう問われ、コルベールは呻く。この問いはルイズにも、オスマンにも向けられたものだ。
もしもあの時の召喚で、例えば普通の平民を喚び出していれば恐らくルイズは「もう一度召喚させろ」と叫んでいたかもしれない。
もちろん、使い魔召喚の儀は神聖なもの。やり直しはできない。すぐに「契約をしろ」とコルベールは促していた。
そして、状況を理解できていない平民に一方的な契約を済ませ、彼女から一方的な主従関係を示され、ほとんど奴隷のような扱いでその平民は彼女の元で生きなければならないだろう。
そこには信頼など、何もありはしない。

「自分に都合の良い、命令だけを聞く駒が手に入るなどと勘違いはしないことだ」
スパーダの厳しい言葉を聞いて、ルイズは少し落ち込んだ。
使い魔になるべきはずの相手から、初対面にいきなりこんな厳しい言葉をかけられるなんて。
ルイズはトリステイン屈指の名門貴族、ラ・ヴァリエール家の娘。どこの馬の骨とも知れぬ異国の貴族であるスパーダにそのようなことを言われて本来なら不満を感じないはずがない。
だが、ルイズは反論できなかった。彼の発する静かな威厳がそれを封じ込めてしまっている。

思えば彼の言うとおり、自分は使い魔召喚の儀を甘く見ていたかもしれない。
使い魔さえ召喚できれば後は勝手に何かをしてくれる、自分の言う事に何でも従う、意に反する意見は許さない、実に都合の良い駒として扱っていたかもしれない。
事実、スパーダが使い魔になってくれたら……何でも良いから使い魔が現れたら初めて手に入った自分だけの下僕として色々なことを命じてみようと考えていたのだから。
では、これから使い魔……パートナーとはどのようにして接していけば良いか。
ただ一つ言えるのは、彼が言ったように決して奴隷として扱ってはいけないことだ。
「では、契約とやらを済ませよう。どうすればいい」
スパーダが促してきて、ハッとルイズは顔をあげた。そして、「屈んでちょうだい」と彼に言う。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔となせ」
片膝をついた彼に、ルイズはコントラクト・サーヴァントの口付けを行おうとその前に立つ。
(うう~……初めてのキスがこんな……)
男にキスをするという行為が初めてであったので、ルイズは僅かに顔を赤く染まらせる。
ファースト・キスの相手がまさか使い魔、しかも人間とは……まあ、相手は異国のとはいえ貴族だし、顔立ちも全然悪くないのであるが……やっぱり恥ずかしいし、何より女としての抵抗がある。
できれば自分の心で決めた相手とファーストキスをしたいし、だからといって見知らぬこの男とキスをするのには受け入れ難い。
しかし、ここでキスを拒めば留年決定……。

「どうしたね? ミス・ヴァリエール」
「ミスタ・スパーダも待ってくれているんだから、早く済ませたまえ」
葛藤に思い悩み、どうすれば良いのかと必死に考えているとついにオスマンとコルベールから勧告がかかった。
スパーダは屈んだまま沈黙を続け、表情一つ変えずにじっと待ち続けている。
(ああ、どうすれば良いの? このままキスを……キス……キス……?)
ふと、ここでルイズはあることを思い出した。
実家であるラ・ヴァリエールにいた頃、公爵である父が城に仕事から戻ってきた際にはその頬に口付けをしたことを。
去年の夏期休業の時だって、久しぶりに会った父に接吻してくれと本人が言ってきたのだ。
そうだ。直接、唇を重ねる必要はないではないか。
(ええい! 一かバチか……!)
その方法で契約ができなければ、もはや覚悟を決めねばなるまい。
最後のあがきとしてルイズはスパーダの左側に移動すると、仕事帰りの父にやった時と同じようにその頬へそっと接吻した。

「ん?」
ずいぶんと葛藤していたルイズがようやく契約のキスを行った途端、左手に熱さを感じてスパーダは怪訝そうにする。
手袋を外してみると、そこには奇妙な魔法文字――ルーンと呼ばれるものが刻まれている。
(ガン、ダー、ルヴ……)
「変わったルーンですね。ちょっと写させてもらっていいですか?」
コルベールが興味津々な様子で、スパーダの左手に刻まれたルーンをスケッチしだす。
「さて、これで契約は済んだわけじゃ。おめでとう、ミス・ヴァリエール」
「ありがとうございます」
オスマンから祝福をもらい、ルイズはぺこりと頭を下げて謝辞を返した。


こうして晴れて自分の使い魔……いや、パートナーを手に入れて進級したルイズは心底嬉しそうにしていた。
本当は珍しい幻獣か動物が欲しかったのだが、それでもパートナーが手に入るというのは嬉しい事だ。
それに見た所、スパーダは腕の立つ剣士か何かのようだ。護衛役を勤めるにはちょうど良いだろう。
「ずいぶんとご満悦ね。ルイズ」
「何しに来たのよ、キュルケ」
ルイズは不機嫌そうに顔を顰める。
廊下を歩いていて目の前に現れたのは、燃えるような赤い髪に健康そうな褐色の肌をした女性。
その足元には赤い大きなトカゲ、サラマンダーの姿が。
「別に。あなたが喚び出したっていう使い魔を見に来ただけよ」
と、言いながらルイズの背後に立つスパーダへと視線をやる。
「それにしても、人間を喚び出すだなんてさすがじゃない。ゼロのルイズ」
明らかにルイズを馬鹿にした言葉だ。ルイズは少々、悔しそうにしている。
「あたしはあなたと違って一回で成功よ、ほら……って、どうしたの。ちゃんと挨拶なさい」
足元にいるフレイムはキュルケの後ろに隠れ、前に出ようとしない。
「ずいぶんと臆病なのね、あんたの使い魔は」
ここぞとばかりに、ルイズはキュルケに反撃する。
キュルケは少々悔しそうな顔をしていたがすぐに余裕を取り戻し、
「……まあいいわ。それにしても、よくみたらすごい色男じゃない。貴方のお名前をお教えいただけるかしら?」
腕を組んで傍観していたスパーダはちらりとキュルケの方を見る。
「スパーダだ」
「私はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。二つ名は〝微熱〟よ。よろしくねミスタ・スパーダ」
(……あいつに似ているな)
ふと、思い出したのは上級の女悪魔。赤い髪という点で共通しているが、肌の色はまるで違う。
それに感じられるその魔力の性質も全く違う。
それにしてもこの女性も自分を〝微熱〟と言っていたり、ルイズの事を〝ゼロ〟などと呼んでいた。
キュルケから感じられる魔力の性質で彼女のは意味が分かるが、何故ルイズは〝ゼロ〟なのだろうか。
「ちょっと、キュルケ! あたしの使い魔……パートナーに色目を使わないでよ!」
「あら失礼ね。ただの挨拶だというのに。ほら、タバサ。あなたもいらっしゃいよ」
柱の影から現れたのは、青い髪に大きな節くれの杖を手にし、眼鏡をかけた少女。
(何だ?)
スパーダはタバサという少女が妙に自分を警戒しているのを感じとっていた。
彼女は少しだけスパーダを見ていたが、すぐに持っていた本へと視線を移す。

キュルケは肩を竦めて苦笑したが、
「ところで、もうすぐ次の授業が始まるわ。急がないと間に合わなくなるわよ?」
「あっ! そうだった。……スパーダ、次の授業は使い魔は一緒にいられないの。だから終わるまで待っていて」
そう言い置き、ルイズ達は歩き出す。ルイズとキュルケはぎゃあぎゃあと言い合いを続け、タバサはじっとスパーダに警戒の視線を送っていた。
この場に残されたのはスパーダと、キュルケの使い魔であるサラマンダーのフレイムのみ。
(……こ、来ないでくれ。悪魔――)
スパーダが視線をやると、先ほどから怯えた様子のフレイムがそのような事を言ってくる。
もちろん、口にしている訳ではないがスパーダには幻獣の言葉が分かる。
屈んで触れようとすると、一目散に逃げ出してしまった。
「……なるほど、な」
小さく鼻を鳴らしたスパーダは、これからしばらく世話になる学院の中を歩き回った。
その間、生徒達や学院に奉仕する平民達がちらちらと物珍しそうにスパーダを見つめてくるが無視した。


それからしばらくして、スパーダはその日の全ての授業を終えたルイズと合流し、女子寮にある彼女の部屋へと連れられた。
スパーダはコートを椅子にかけ、二振りの愛剣を立てかける。
「ねぇ、あなたはそのフォルトゥナっていう所で領主をしていたのよね?」
椅子に座り、互いに向かい合いながらルイズは黒と赤の刺繍で彩られたウェストコート姿のスパーダにそう問うた。
「そうだ。もっとも、君達のような魔法使いなどいはしなかったが」
「あなた、一体どんな所から来たのよ……」
「一つ言えるのは遠く離れた土地、という事だけだ。文化も互いに異なる」
「ふーん。そんな剣を持っていたって事は、そのフォルトゥナって戦争か何かあったのね」
「さてな」
まあ、ちょっとしたいざこざがあったりはしたが、基本フォルトゥナは平穏な土地だった。
むしろ最初に訪れた時に悪魔が蔓延っていたので、その時に愛剣を振るっていたのがほとんどだ。
「ところで、使い魔にはね、主人の目となり耳となる能力があるって言われてるの」
「感覚の共有か」
「ええ、でも駄目みたい。あなたが見てるものは、私には見えないもの」
「それは私も同じだな」
つっけんどんな態度をとるスパーダに眉をひそめるルイズ。
「……まあ、いいわ。とにかく、これからはこの部屋で寝てちょうだいね。今日はもう遅いからまた明日よ」
そう言いながら、ルイズは寝巻きに着替えだし、スパーダに脱いだ制服などを渡す。
「それは洗濯をしておいて。メイドに頼んでも良いから。明日の朝はちゃんと起こしてちょうだい」
そう言ってルイズはベッドへと潜り込む。

「異世界……か。悪くはないな」
スパーダは既に自分が人間界、そして魔界とも異なる世界に存在している事を自覚していた。
だが、別段驚いたりする事はない。何故なら、既に人界と魔界という二つの異なる世界が存在した以上、
このような異世界があってもおかしくはないのだ。
どちらかというと、人間界に近い環境ではあるが。

スパーダは椅子に腰掛け腕を組んだまま目を瞑り、異世界の初日を終えた。
窓の外から入り込んでくる二つの月の光――その穏やかな光がスパーダを照らす。
胸元のスカーフに飾られたアミュレットが赤く光を反射し、部屋に伸びるその影は本来の姿――悪魔の姿をしていた。


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