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機械仕掛けの使い魔 幕間-02



機械仕掛けの使い魔 幕間2
~モンモランシーとケティ、ギーシュとミー~


 アウストリの広場の片隅に設置されているテーブル。そのイスに腰掛けているギーシュは、杖たるバラの造花を眺めながら、小さく溜息を吐いた。
テーブルには冷め切った紅茶が乗っているが、量は全く減っていない。
「僕が男なら、か…」
思い出すのは、クロと決闘をしたあの一件。その時のクロの一喝が、ギーシュの心に深く突き刺さったままなのだ。

 ――てめぇが男なら! 二股なんざかけずに1人の女を愛してみせやがれッ!

 バラは多くの女性を魅了する物。ギーシュの信念である。賛否あるだろうが、少なくとも自分は今まで、ずっとこの信念に基づいて生きてきた。
 だが、それが揺らいだ。こうして、長い時間考え込むまでに。

 どれだけの時間が経っただろうか。もう口にする気も起きない冷めた紅茶を交換してもらおうと、ギーシュが席を立とうとした、その時だった。
「元気ないね、ギーシュ君。どうしたの?」
足元から、声がする。見下ろしてみると、そこには純白のコック帽をかぶったミーがいた。両手で抱えた皿の上では、焼き立てと思われるクッキーが、甘い匂いを立ち上らせている。
「さっき厨房のみんなで焼いたんだ。これ食べて、元気出しなよ!」
別段空腹なワケではない。しかし、この焼き立てのクッキーの匂いは、どうにも抗いがたい何かがある。促されるまま、ギーシュはクッキーを1つつまんだ。

 サクッ、と軽快な音と共にクッキーが割れると、香ばしい香りと優しい甘みが、ギーシュの口内を包み込んだ。
噛めば噛むほどに香りと甘みは柔らかく広がり、自然、ギーシュの顔が、何とも言えぬ表情に蕩けていく。
「おぉ、これは…実にうまいよ!」
「えへへ、でしょ~」
 口の中でペーストになるまで咀嚼を続け、ようやく飲み込んだギーシュは、たった1つでは足りぬとばかりに、2個、3個とクッキーを口へ放り込んだ。
「慌てなくても、まだ沢山あるからね」

 クッキーが半分ほどまでに減り、そこでギーシュはほぅ、と一息ついた。
「よくよく考えれば、こんなにおいしいクッキーを勢いで食べるなんて、もったいないにも程がある。ゆっくり頂くとするよ」
食べている間にやって来たメイドに淹れ直してもらった紅茶を一口含み、背もたれに背中を預ける。心地よい充足感がギーシュを満たした。
「おいしい物は、みんなを幸せにしてくれるからね。やっぱり元気が一番だよっ!」
イスの上で軽くガッツポーズを取るミー。するとその拍子に、コック帽が頭からずり落ちた。赤面して帽子をかぶり直すミーに、ギーシュはプッと噴き出した

 ギーシュの表情に余裕が出て来たのを見て取ったミーは、ここで本題を切り出した。
「ずいぶん悩んでたみたいだけど、一体何があったの?」
そこで途端に彼の表情が翳った。もしかすると、人には話したくない事なのかも知れない。
「ほ、ホラ、ボク猫だからさ。人に言えない事でも、ボクなら、って思ったんだけど…」
わざと陽気に振舞ってみるが、それも尻すぼみになってしまう。ギーシュの暗い雰囲気に当てられたか。
 と、ここでギーシュが動いた。クッキーを1枚口に入れ、ゆっくりと噛み、飲み込む。口中に残ったクッキーを紅茶で喉の奥に流し込むと、ようやく語り始めた。
「君の友達…クロちゃんに怒られたんだよ。男なら、1人の女性を愛せってね」
「1人の女性…ギーシュくん、二股とかしてたの?」
かつて1匹の犬に恋をし、儚い失恋を経験していたミーは、心中で眉を顰めた。
そして同様に犬への告白を目前として剛の野望に阻まれ、今では小さな恋人志願者・ナナと文句を言いつつも満更ではなさそうなクロなら、そういう言葉をぶつけるだろうなぁ、と納得していた。
「僕はバラとして、多くの女の子たちを喜ばせたいと、そう考えていた。
だがクロちゃんの言葉1つで、僕の信念は揺れに揺れている。今までの僕とクロちゃん、どちらが正しいんだろうか、とね…」
バラの造花を指先で弄ぶギーシュ。彼の目は、今にも花弁を一枚ずつちぎって、花占いでも始めそうなほどに思い詰めている様子だった。

「バラとか喜ばせたいとか、ボクにはわからないけどさ…。じゃあ、今までギーシュ君は、どんな事をしてたの?」
 いまいち飲み込めていないミーの質問に、ギーシュは指を折りながら、自分がどのように振舞っていたかを説明した。
「その女の子の美しさを称える詩を送って、愛の言葉を囁いて、一緒に遠乗りに出かけて、学院では食事やお茶を一緒にして…」
ここではたと、説明と指が止まった。代わりに唸り声が漏れる。
「…それだけ?」
小首を傾げたミーに、ギーシュは反論出来なかった。思い返してみれば、同じ事を色々な女の子に繰り返してばかりだったのだ。

 10分程度唸り声を上げていたギーシュが、テーブルに伏せってしまった。どうやら、本当にネタが切れたらしい。
「う~ん、あくまでもボクの考えなんだけどさ…」
頭から煙を吹きそうな具合のギーシュに、ミーが率直な感想を述べた。
「聞く限りだとギーシュ君は、自分を売り込み過ぎなんじゃないかな?」
「自分を…?」
オウムのように繰り返したギーシュへ、ミーはコクリと頷いた。
「全部が一方通行過ぎて、女の子がギーシュ君にお願いとかするチャンスが、あんまりないように思うんだよね」
 入学してからを振り返ってみる。確かに多くの女の子に話しかけ、その大半は多少進展した。
しかしリアクション…女の子からのプレゼントやお願いに比べると、ギーシュからのアプローチが異常なまでに多いのだ。
 しかもそのアプローチも、大半は同じレパートリー。自分で思い返しておいて、少々欝な気分になったギーシュだった。

 すたっ、とイスから地面に跳び降りたミー。
「あくまでも猫からの意見だから、本気にしなくてもいいけどさ、ボクはそう思ったんだ」
「いや、貴重な意見だ。心当たりもあるし、参考にさせてもらうよ」
欝な気分を振り払うかのように笑顔を見せるが、それが無理に作った笑みだと、ミーはすぐに気付いた。顔が僅かにひくついているのだ。
「ボクだけじゃなくて、他の友達に相談するのもいいんじゃないかな? 1人で悩んでても、すぐに行き止まりに入っちゃうだろうしね」
割と当たり障りのないアドバイスを残し、ミーはその場を後にした。その場には、立ち去るミーに手を振った姿勢のままのギーシュが残される。
しかしやがてその姿勢も変わり、やはり先ほど同様、テーブルに向かって少し俯く姿勢に戻ってしまった。
 夕飯の準備を手伝いに戻る道すがら、ミーはずっと考え込んでいた。ちょっと気になって振り返ってみると、ギーシュがクッキーを届ける直前の、あの憂鬱を絵に描いたような姿勢に戻っていたからだ。
「この前とは随分雰囲気変わっちゃってるなぁ…あれじゃいつか、本当に身体壊しちゃうよ…」
 厨房の窓からでも、深刻に悩んでいるように見えた彼へ、ちょうど焼きあがったクッキーを届けてはみたものの、あまり効果はなかったように見受けられる。
 ミーが思った通りなら、ギーシュ自身が振舞い方を変える事で解決しそうだが、それが上手く行くかは彼次第である。
 これ以上気にかけても仕方のない事ではあるが、どうにも心に引っかかりを感じるミーだった。

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 翌日、虚無の曜日。学院に残っていた生徒たちが昼食を終え、厨房スタッフも賄い料理で腹を満たした頃、その少女は現れた。
「あのー…」
「あら、ミス・ロッタ!」
入り口から厨房を覗き込むように頭を突き出していたのは、ケティ・ド・ラ・ロッタ。学院の1年生である。
貴族という肩書きに付随する華やかな美しさではなく、道の片隅や川の土手に咲く一輪の花というような、素朴で優しい雰囲気を纏っている。

「空いているのでしたら、厨房の機材をお借りしたいのですけれど…」
「おぅ、好きに使ってくれていいですぜ!」
 ケティが厨房を使わせてもらう時の、いつもの合言葉だ。日にちが決まっているわけではないが、ある程度の暇な時間が出来た時、彼女は学院の厨房へ足を運ぶ。
当初はマルトーたちも気を使っていたが、ケティの裏表のなく、誰にでも丁寧な物腰から、いつしかお互いのやり取りは柔らかい物になっていた。

「今日はどんなお菓子を作るの?」
「えっとですね、今日はビスケットですよ、ミーくん」
 お菓子作りに使うであろうミルクや砂糖、小麦粉などを手早く用意しながら聞くミーに、ケティは頬をほんのり朱に染めて答えた。
このリアクションでは、さすがにそのビスケットがどんな人に振舞われるのか、気づくというものである。
「なるほどぉ、うん、頑張ってね!」
ミーの激励に、ケティは頷いて応えた。

 使い終わった道具を洗ったり、オーブンを予熱したりと、ケティの手伝いに奔走するミーは、ふとある事に気付いた。
「ふんふんふふ~ん」
ケティの表情である。鼻歌交じりに生地を混ぜ合わせる彼女の顔は、この上ないほどに幸せそうな表情をしていたのだ。見ているこちらも、釣られて笑んでしまいそうな、朗らかな笑い顔。
(よっぽど楽しみなんだろうな、誰か知らないけど、好きな人に食べてもらうのが)
そんな笑顔を見ながら、知らぬ間に作業に熱の入っていたミー。とそこへ、新たな来客が1人。

「ん、誰だろ?」
 見覚えはあった。確かルイズと同じ教室で授業を受けていたはず。しかし、名前はさすがに聞いていない。目線はその客へ、しかし手を休めぬまま考えていると、シエスタが反応した。
「ミス・モンモランシ、どうなされました?」
「秘薬に使う香草を切らしちゃったのよ。余ってるなら、少し頂こうかと思ったんだけど」
「解りました、いつものでよろしいでしょうか?」
「えぇ、お願いね」
 モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。ギーシュの想い人の1人である。こちらはケティとは反対に、長い金髪を縦ロールにセットし、いかにも貴族のお嬢様、といった風貌である。
 香水や水の秘薬の調合を得意としており、一般に流通している材料が切れた場合は、こうして厨房などへ調達しに来るのだ。もちろんタダではなく、後日彼女から、厨房スタッフへお手製香水が送られてくる。
その香水は品質が高く、ギブアンドテイクとしてはやや不釣合いかもしれないが、それも貴族の面子ゆえ、であろうか。

 このように、お互い時折厨房に顔を出すものだから、自然と顔を合わせる機会は多い。しかしこの日は、ギーシュの二股騒動以来初めての、モンモランシーの登場である。
無論ミーにとっても、彼女と顔をつき合わしたのはこれが初だ。
「ミス・ロッタ…だったかしら、今日は何を作っているの?」
「あ、ミス・モンモランシ…えっと、今日はビスケット、です…」
少々気後れしながら、ケティが答えた。相手が上級生かつ同じ男性を恋い慕っていた事が理由だろう。
しかしモンモランシーからすると、ギーシュに二股をかけられていた同士として、何となく妙な連帯感を感じていたりする。
「ふぅん…。相手は、ギーシュかしら?」
的を射たモンモランシーに、ケティは顔を真っ赤にして、小さく頷いた。動揺しているのか、生地をこねる手が止まってしまっている。
 それ以上言葉を交わさなくなった2人。ケティは生地こねを再開したが、先程よりは明らかに速度が遅く、モンモランシーは腕を組んで、香草の到着を待っている。

 やがて香草が到着すると、モンモランシーはそれを受け取り、二言三言シエスタと話して厨房を去った。
「ふぅ~~っ…」
 それを横目で見ていたケティは、深々と息を吐きながらイスに身を投げ出した。緊張の糸が切れたようだ。
「ケティちゃんがビスケットを作る相手って、ギーシュ君だったの?」
「は、はいぃ…」
答えながらケティは、プルプルと小動物のように震えていた。お互いギーシュの被害者と言えるのだが、上級生と想い人を奪い合っていたようなものだ。何をされるか解らず、戦々恐々だったのだろう。
「なるほどねぇ…」
昨日のギーシュの話と照らし合わせ、ミーもおおよそだが、その辺りの関係を把握した。まさか厨房で、とは思っていなかったが、むしろこれがミーに、ある閃きをもたらした。

 ようやく気を持ち直し、生地をこねる作業に戻ろうとしたケティだったが、厨房にやってきた再度の来客で、また手が止まる事となる。
「何度もごめんなさいね。私もここ、使わせてもらっていいかしら?」
「へ、ミス・モンモランシが、ですかい? そりゃ構いませんが…」
再びやって来たモンモランシーから、思わぬ要求が出た。厨房スタッフには特に不都合はない為、了承の意を示すと、彼女は済ました顔でケティの隣に立った。
「…はぇ!? み、ミス・モンモランシ!?」
これにはケティも心臓が口から飛び出るほどに驚いた。しかしモンモランシーは全く気にした様子もなく、調理台の上に持参したビンを置いた。
コルク栓をしただけの飾り気のないガラス瓶には、無色透明な液体が封入されている。
「ねぇ、ミス・ロ「は、はいぃっ!」ッ…タ?」
 特に気まずい沈黙が訪れる事もなく、モンモランシーはすぐにケティへ話しかけたが、よほど気を張っていたのか、彼女は名前を最後まで呼ばれる前に、裏声で返答した。
瞬間、厨房に静寂が訪れる。こちらの方が、ケティにとってよほど気まずい沈黙となった。
 隣からの大音量の裏声に、少々耳鳴りを感じてイラッとしたモンモランシーだが、すぐにケティの心境を察し、肩をぽんと叩く。
「そんなに怖がらなくてもいいわ。私もあなたも、同じギーシュの被害者、それでいいじゃない」
「え、えーっと…その…」
「そんな事より、私もお菓子を作りたいの。あなたが作ってるそれ、よかったら作り方を教えてもらえないかしら?」
言い方は少しそっけなかったが、モンモランシーの顔はほんのりと笑っていた。この笑顔にようやく安心したケティは、「はい!」と元気よく承諾した。


 ケティのビスケット講座は、和やかな空気で執り行われた。秘薬作りには慣れているモンモランシーも、料理はさすがに経験がなかったようで、調理器具の扱いには四苦八苦していた。
また“小さじ1杯”や“1つまみ”などの料理用語も聞いたことがなかった為、まさしくさじ加減が解らない、といった様子である。
 そんな彼女に、ケティとミーがゆっくりと教える。お菓子作りの得意なケティと料理の鉄人たるミーの布陣は完璧で、生地こねが佳境に入ろうかという頃には、モンモランシーの手つきは最初とは見違えるほどになった。

 こねが終わり、そろそろ生地を寝かせる、という段になって、モンモランシーが先程のビンを手に取った。
「気にはなってたんだけど、そのビンって何なの?」
「私もあなたが気になっていたんだけどね、この前の授業から…。まぁいいわ、これは私が調合したポーションよ」
ビンをミーに突き出し、軽く胸を反らせるモンモランシー。どう、すごいでしょ? とでも言わんばかりだが…
「ぽーしょん…何それ?」
残念ながら、ハルケギニアにやって来てまだ日の浅いミーは、ポーションが何なのかも知らず、モンモランシーを固まらせた。

「…簡単に言えば薬よ、薬。このポーションを生地に練り込めば、焼き立ての香りと味がより一層引き立つ…はずよ」
「はず…? はずって何なんですか、ミス・モンモランシ?」
 微妙に自信がなさそうな語尾を、ケティは聞き逃さなかった。そんな彼女に、モンモランシーはそっぽを向いて答えた。
「ま、まだ試作品なのよ、レシピも私オリジナルだし。最悪の場合は爆発するでしょうけど、水のルーンの詠唱で安定させれば、それも起きないわ」
「「ば、爆発っ!?」」
物騒な単語が飛び出し、思わず大声で合唱したケティとミー。そして間髪置かず、それを聞き届けた厨房スタッフ共々、厨房の片隅に急いで避難した。
「…爆発しないって言ってるのに、失礼ね…。ま、その方が都合がいいわ」
ただ1人、調理台の前に残されたモンモランシーは、肩を竦めながら呟いた。
 丸まった生地にポーションをかけ、力一杯こねながら何やらむにゃむにゃと口にするモンモランシー。遠目に見ても、その姿は一生懸命さがひしひしと伝わって来た。
「なぁミス・ロッタ。俺たち平民にゃあ、ミス・モンモランシが何してるのか解んねぇんですが、大丈夫なんで?」
そんな彼女の背中を見守りながら、マルトーがケティに耳打ちした。厨房で爆発騒ぎを起こされたくないのだろう。
「ごめんなさい、私は火のメイジですから、水の秘薬の事はよく解らなくて…。でも、あの様子なら大丈夫じゃないかと…」
申し訳なさそうに答えるケティ。系統が違う上に、モンモランシーは水の秘薬に関して高度な知識を有しているのだ。無理もない。
「うぅん、大丈夫。生地の熱は、ほとんど上下してないし」
 こっそりと熱源走査をしていたミー。何らかの薬品を練り込んで爆発となれば、化学反応による急激な熱量上昇が関係すると予想していた。
だがモンモランシーの体温による極僅かな温度上昇があった程度で、爆発を起こすには明らかに熱量が足りない。
 ハルケギニアは魔法が当たり前に存在する世界なので、化学的な視点だけでは断言出来ない。ミーの想像出来ない理由で爆発するとも考えられる。
しかしミーは、化学とは別な根拠も加味して、爆発は起きないと断言した。この場ではミーだからこそ知り得た、もう1つの根拠である。

 ふぅ、と一息ついて手を止めたモンモランシー。どうやら寝かせ前の最終工程が終わったようだ。
「…あなたたち、もう終わったから戻っていいわよ」
呼びかけに応じて、ケティとミーが調理台に戻った。モンモランシーが最後の仕上げを行った生地は、色も匂いも、先程と何ら変わっていない。ポーションの効果は、これから生地を寝かせ、型に取ってから焼いてのお楽しみ、である。
一同は生地の入ったボウルに濡れ布巾を掛け、しばしの間雑談に興じる事となった。

「で、あなたは一体何なの?」
 開口一番、モンモランシーの疑問だ。先程はポーションの件で有耶無耶になったが、改めて確認したいらしい。
「ボクはミーだよ。クロの…ライバル、なのかな? 今は一緒に、ルイズちゃんの使い魔ってのになってるんだ」
「何か、奥歯に物が詰まったみたいな言い方ね…。それにしても、2匹目の使い魔って事?」
「みたいだねー、クロのせいだけど」
「今度はバッサリね…」
 サイボーグ丸出しのメタルボディについても色々と聞かれたが、その辺りはミーもお茶を濁した。あまり多くを語っても、理解は難しいと踏んだのだ。同じ端折るにしても、クロとミーではえらい違いだった。
 そしてやがて、話題はギーシュへと移る。やれ気が多いだの、やれボキャブラリーが少ないだの、やれデート先の選択肢も少ないだの。
さすがは女の子。この手の話題となると2人揃えばガトリング砲である。その応酬にミーは、早期に話題への参加を諦めた。
「ま、言うだけ言ったけど…」
 ギーシュへの文句を言っている間に寝かせも済み、型でビスケットの形をくり抜きながら、モンモランシーが漏らした。
「こうしてお菓子を作ってる辺り…」
共通の敵(?)の存在ですっかりモンモランシーと意気投合したケティが続き、
「「どうにも、嫌いになれないのよね」」
見事に重なって、2人してくすくすと笑い合った。
(意外と、悪くない関係なのかも知れないなぁ。後はギーシュ君次第、かな?)
そんな、親睦を深めた2人を見上げながら、ミーはうんうんと頷くのだった。

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 この日も、ギーシュは同じ場所に座っていた。相変わらずテーブルには冷めた紅茶、手にはバラの造花。普段を考えれば、いよいよもって重症である。
 一体何度目か、本人も数えていない溜息を吐いたところで、彼はある事に気付いた。どこかから、とても甘くておいしそうな香りが漂っている。
昨日のミーのクッキーに負けずとも劣らぬほどだ。そんな香りに釣られ、首をキョロキョロとさせていると、
「何してるのよ、ギーシュ」
「ギーシュ様、お久しぶりです」
背後から、少女2人の声が。先程の香りもかなり近くに感じられる。振り返ると、
「モンモランシーに…ケティ?」
己が二股を掛けた…掛けてしまった相手がいた。表情がいつも通りなだけに、余計に気後れしてしまう。それに、この2人が一緒に自分に会いに来たという事実が、余計にギーシュを混乱させた。

「ど、どうしたんだい2人とも?」
 平静に振舞おうとした矢先にどもった。心中でパニックが進行しつつあるギーシュ。そんな彼へ、モンモランシーとケティは、背中に隠していた包みを差し出した。
「これは…?」
おずおずと受け取る。白い包装紙で綺麗にラッピングされたそれは、手にほんのりとした暖かさを伝える。そして何より、ギーシュの胃袋を直撃する香ばしい香りを漂わせていた。
「そ、その子と一緒に作ったのよ。たまには、秘薬以外の物も作ってみたくなっただけ、それだけなんだから」
「この前は結局渡しそびれちゃいましたから、改めて食べていただきたくて、また作って来ました!」
頬を赤らめながら明後日の方を向くモンモランシーと、柔和な笑顔を見せるケティ。理解が状況に追いついていないギーシュだが、両名はそのまま、小走りで寮塔へ戻ってしまった。
残されたのは、左右の手に1つずつ包みを乗せているギーシュ。

 ぽつん、と立ち尽くすギーシュ。そこに響いたのは、彼が昨日も聞いた、金属質の独特な足音。ミーである。
「随分驚いてるね、ギーシュ君」
「ミーくん、これは…」
説明を求めようとするギーシュを、ミーは片手で止めた。
「そのビスケットは、モンモランシーちゃんとケティちゃんの気持ち。ボクは何も関わってない。ちょっとは手伝ったけどね」
その台詞を聞いた途端、ギーシュは両手の包みが、先程の何倍も重く感じられた。自分が傷付けた女の子の気持ち。重いのは当然である。
 震える手で、ギーシュはまず、ケティから受け取った包みを開いた。包みの口からは、こんがりと焼きあがったビスケットが顔を覗かせている。形は綺麗に揃っていて、彼女の腕前の程を窺わせた。
 ケティの包みをひとまずテーブルに置き、今度はモンモランシーの包みを開けた。その途端に、ケティのビスケットよりもさらに甘い匂いが鼻腔を刺激した。中には、形は不揃いだけれど、見事な出来栄えのビスケットが入っていた。

「このビスケットにどんな気持ちが込められてるか、ギーシュ君ならきっと解るはずだよ」
「…すまないミーくん、紅茶を淹れ直してもらえないかな…」
「ふふ、ガッテンガッテン!」
ギーシュの要望をミーは快く引き受け、ティーポットを受け取りに厨房へ向かった。

 イスに座り直したギーシュは、昨日のミーの言葉を思い出した。自分を売り込みすぎたが故に、今まで半ば蔑ろにして来たモンモランシーとケティの気持ち。それが形を成して、目の前にある。
「モンモランシーの気持ち、ケティの気持ち…」
どちらも、決して目を背けてはいけない。傷心の少女2人の気持ちを無碍にするなど、あってはならないのだから。
「まだ、チャンスはあるんだ…!」
 クロの言わんとした、1人の女性を愛するという事。はっきりとはまだ掴めていない。しかしそれをモノにするには、まずこのビスケットに篭った2人の気持ちを受け取らなければ。
バラが向けていいのは、花の美しさと香りであって、棘ではないのだ。


 厨房へ向かうミーの足取りは、軽い。ギーシュの悩みが解決に向かいそうだからだ。
「何だかんだで、ギーシュ君も愛されてるなぁ。ボクが口を挟む必要もなかったかも」
やはり、料理はみんなを元気にする。ビスケットでさらに深く繋がりを持ちそうな3人の関係に、ミーは嬉しさがこみ上げてきた。生身の頃から料理の勉強を続けてきた甲斐があったというものである。
「それにしても、モンモランシーちゃんのあの言葉…」
 ポーションを練り込んでいた際、モンモランシーが口にしていたのは、水のルーンなどではなかった。もっと簡単で、それでいて彼女の気持ちが簡潔に解る言葉。ミーも知っている、最高の隠し味だ。
「…うん、隠し味なんだから、誰にも教えちゃダメだよね」
これを教えてしまっては、全てが台無しになってしまう。だからミーは、その言葉を胸にしまっておこうと決めた。それにモンモランシーの性格からして、誰にも教えて欲しくないはずだ。

「よし、何はともあれ紅茶紅茶っと!」
 コック帽をかぶり直したミーは、一度だけモンモランシーの言葉を胸の内で反芻し、厨房へ駆け出した。

 ――ギーシュが、おいしいって言ってくれますように



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