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三重の異界の使い魔たち-12



~第12話 伝説:1+1/3×3~

 時は少し遡る。
 午前最後の授業が終わるよりも前、中堅の教師であるジャン・コルベールは学院の図書館にいた。
学院本塔にある図書館の蔵書は膨大であり、30メイルを下らない高さの本棚が壁際に並んでいる。
その中で、彼がいるのは“フェニアのライブラリー”。教師のみが閲覧できる区画だ。生徒たちも
利用できる一般区画には、彼の求める答えはなかったのである。巨大な本棚に押し込まれた無数の
書物に、コルベールは次々と目を走らせていく。

――あの使い魔たちのルーン、どうしても気になる
 それは、学院の生徒であるルイズとタバサ、2人の召喚した使い魔たちを調べるためだ。落ちこぼれと
呼ばれるルイズが風竜を召喚したことには驚いたが、それ以上に興味を引いたのは、あの見慣れない
ルーンだった。また、タバサが召喚した、3名もの使い魔たち。複数の召喚などという話は聞いた
ことがなかった上に、彼らのルーンもやはり珍しかった。そして、四者それぞれのルーンを見比べた
時、更に驚愕することになった。
 その驚きはすぐさま好奇心へと変わり、コルベールは一心不乱にそのルーンを調べていた。そして、
やがて目当ての答えは見つかった。“始祖ブリミルの使い魔たち”という、書物の中に。
 目を見開き、自分の持つスケッチと、その中のルーン図を見比べる。そひて、それが間違いで
ないことを知るや否や、コルベールは矢のような勢いで図書館を後にした。魔法学院の学院長、
オスマンの部屋へと向かう。

 図書館の上、本塔の最上階にある学院長室のドアまで来ると、軽く身なりを整える。逸る心を
押さえつつ、ドアをノックしようとすると、中から声が聞こえてきた。
「カーッ! 王室が怖くて魔法学院学院長が務まるかーっ!」
 やたら気合のこもった声が響いたかと思えば、今度はなにやら鈍器で泥炭袋を殴る様な音が耳に
飛び込んでくる。
「あだっ! 年寄りを。きみ。そんな風に。こら! あいだっ!」
 次いで、聞くに堪えない情けない声を聞き、コルベールは溜息をついた。どうやら、オスマンは
自身の秘書であるロングビルに不埒な真似を働いたらしい。オスマンのセクハラ癖と、それに対する
ロングビルの報復は、教職員の間では密かに有名だった。
 一気に気分が冷めそうになるが、自身がここに来た理由を思い出すとすぐに昂りを取り戻す。
折角の興奮に水を差される形となったコルベールは、もどかしさも手伝って乱暴にドアを開けた。
「オールド・オスマン!」
「なんじゃね?」
 先程聞こえてきた声が嘘のように、部屋の主とその秘書は泰然とした姿で出迎えてきた。恐るべき
早業で体裁を繕ったのだろう。きっちりとそれはばれているのだが、コルベールは優しい気持ちで
気付かないふりをした。

 コルベールはセコイアの机に肘をついたオスマンの許へ駆け寄ると、持っていた書物を見せる。
 白く染まった髪と髭(ひげ)を長く伸ばしたオスマンは、いかにも齢と経験を蓄えた風貌をして
いる。齢100とも300ともいわれる国内でも高名な老メイジは、コルベールの差し出した本を
つまらなそうに一瞥した。
「まーたこのような古臭い文献など漁りおって。そんな暇があるなら、たるんだ貴族たちから学費を
徴収するうまい手でも考えたら」
「そんなことより! これも見てください!」
 学院長の戯言を遮り、コルベールは件(くだん)の使い魔たちのルーンのスケッチを手渡した。
そこで、オスマンの表情が変わる。
「ミス・ロングビル。席を外しなさい」
 その言葉に、ロングビルは立ち上がって一礼する。長い緑色の髪と、知的な美貌が眩しい眼鏡の
秘書は、余計な言葉もなく部屋を後にした。実によくできた女性である。
「詳しく説明するんじゃ。ミスタ……なんだっけ?」
「コルベールです! お忘れですか!」
 雇い主はあれであるが。

 そして、コルベールはルイズとタバサに召喚された使い魔たちとルーンのことを話していった。
そして、それを調べていった先に、この書物でその答えを得たことを。
「ふむ、始祖ブリミルの使い魔、“ガンダールヴ”か……」
 コルベールのスケッチと、書物の中のルーンを見比べながら、オスマンが呟いた。
「そうです! ミス・ヴァリエールの召喚した風竜、その左前足に刻まれたルーンは、伝説の使い魔
ガンダールヴに刻まれていたものと全く同じであります!」
 口から泡を飛ばしながら、コルベールは言葉を続ける。
「更に、ミス・タバサに召喚された使い魔たち! 彼らのルーンはかなり妙な形で刻まれていますが、
間違いなくガンダールヴに関わるものです! つまり、4体もの伝説の使い魔が現れたということ
です!」
 熱く語れば、ふむ、とオスマンが髭をしごいてみせた。
「確かに、その使い魔たちが伝説と関わる存在なのかも知れんが、ルーンだけで判断するのは早計かも
しれん」
「それもそうですな」
 真面目な顔と声で語る学院長を前に、コルベールは多少落ち着きを取り戻す。そこへ、ドアがノック
された。

「オールド・オスマン、至急、お耳に入れたいことが」
 扉の向こうから聞こえてきたのは、ロングビルの声だ。
「なんじゃ?」
「ヴェストリの広場で、決闘を起こしている生徒がいるようです。止めようとした教師たちも、
生徒たちの妨害で手を出せない様です」
 それを聞き、オスマンが呆れたように頭(かぶり)を振る。
「まったく、暇を持て余した貴族ほど、性質(たち)の悪い生き物はおらんわい。で、誰が暴れて
おるんだね?」
「1人はヴィリエ・ド・ロレーヌ」
「あの、ロレーヌんとこの莫迦息子か。確か、去年もミス・タバサと決闘騒ぎを起こしていたが、
まさかまた彼女と悶着を起こしたのか?」
 そこで、ロングビルは一瞬言葉を切る。
「いえ、彼女本人ではありません。彼女の使い魔の少年のようです」

 コルベールとオスマンは顔を見合わせた。
「教師たちは、決闘を止めるために“眠りの鐘”の使用許可を求めております」
「アホか。たかが子どもの喧嘩に秘宝なんぞ使えるか。放っておきなさい」
「判りました」
 ロングビルの立ち去る足音が聞こえると、コルベールはオスマンを見据え、オスマンが壁に
掛かった大鏡に杖を振る。それにより、“遠見の鏡”と呼ばれるマジック・アイテムがヴェストリの
広場の様子を映し出した。
 そして、オスマンとコルベールは、騒動の一部始終を見るのだった。
「オールド・オスマン」
「うむ」
「あの少年、勝ちましたな。ラインのメイジを相手に……」
「うむ」
 若干腑に落ちない気持ちで、コルベールはオスマンに尋ねる。
「やはり、彼はガンダールヴなのでしょうか?」
「ふむ。ミスタ・コルベールよ、ガンダールヴの伝承は知っているじゃろう?」
 逆にオスマンに問い返され、コルベールは頷いた。
「はい。始祖ブリミルの用いた4体の使い魔の1体、ガンダールヴ。その姿や種族は記述が
ありませんが、主人の呪文詠唱の時間を守るために特化した存在と伝え聞きます」
 始祖ブリミルは、その系統である虚無の強大さ故に、呪文の詠唱が長いという弱点があったと
いわれる。そして、呪文詠唱中のメイジは無力。その間を守護するための存在がガンダールヴで
あったと伝説は語っていた。

「そして、ガンダールヴの強さは千の軍勢に匹敵し、並のメイジでは全く歯が立たなかったと
いわれるが……」
 コルベールの言葉を引き継いだオスマンは、思案するように髭を撫でる。
「彼の戦いぶり、せいぜい剣士として一流というのがいいところじゃのう。伝説というには大袈裟
(おおげさ)すぎる」
 コルベールは頷いた。あの勝利は、どちらかというと彼を平民と侮っていたヴィリエの油断や、
あの羽の生えた光の助言によるところが大きそうだ。
「ですが、彼のルーンの状態を見ればそれも仕方がないのかもしれません」
「確かにのう」
 そこで、オスマンが1つ息をついた。
「全くどういうことなのかのう、“3分割されたガンダールヴのルーン”とは」
 そう、オスマンが言った通り、タバサの使い魔たちのルーンは、ルイズの風竜に刻まれた7字の
ルーンを3分割したものだった。少年の左手に最初の3字が、光る生き物の左の上羽に次の2字が、
仮面型の幻獣の触手に最後の2文字が刻まれている。

「ミスタ・コルベール。今折檻(せっかん)を受けているあの少年、彼は本当にただの人間だったの
かね?」
 主人であるタバサに罰を受けている少年を魔法の鏡越しに指すオスマンに、コルベールは頷いた。
「はい。念のためディテクト・マジックでも確かめてみましたが、見た目通りただの平民の少年の
ようでした」
「ふむ、ちなみに、あのけったいな仮面については? 人間の使い魔もそうじゃが、生き物でさえ
ないマジック・アイテムを使い魔にしたなど聞いたことがないぞ」
「ええ。あれはどうやら幻獣の一種のようです。実際、ディテクト・マジックにも反応がありません
でした」
「なんじゃと?」
 そう言うと、オスマンが目を丸くする。
「と、いうことは、あの仮面が使った魔法は、一体なんじゃ?」
「あっ!?」
 そこで、コルベールはその事実に気が付いた。
「ディテクト・マジックに反応しない魔法……もしや先住魔法?」
「いや、それはあるまい」
 コルベールの疑念を、オスマンは否定する。

「先住魔法を使う者とは、わしも対峙したことがある。しかし、あの仮面もどきの使ったものは全く
違う」
 言葉を探すように、オスマンは間を置いた。
「先住魔法は、もっと具体的に何をどうさせるかを言葉にし、それを効果として現すものじゃ。
しかし、さっきのはどうじゃった? まるで抽象的な物言いばかりで、しっかりと効果を出しおった」
「では、未知の魔法だと?」
「そうなるのう」
 厳粛な顔で、オスマンは口を開く。
「ミスタ・コルベール。この件を口外することはまかりならん」
「は? 事が事ですし、王室の指示を仰がれた方がよいのでは?」
「事が事だから、じゃよ」
 瞳を鋭くするオスマンに、自然コルベールは姿勢を正す。
「この件は、まだまだ不可解なことが多すぎる。彼らが本当にガンダールヴなのか、その内3体は何故
3分割などという奇妙な形でルーンが刻まれたのか、そしてあの仮面はなんなのか、そしてミス・
タバサは何故3体もの使い魔を得たのか、全く謎だらけじゃ」
「そうですね」
「とにかく、宮廷のボンクラどもにこんなことを教えても、厄介事にしかならんわ。ガンダールヴの
力を以って、戦を始めようなどといいだしかねん」
 それに、とオスマンは続けた。
「ミス・タバサの境遇を考えると、余計にな」
 深いしわの刻まれた顔に、やりきれない様な色が浮かんでいる。その表情に、コルベールは自分の
短慮を恥じた。オスマンのいうタバサの境遇については何も知らないが、あのネコにつける様な名前を
名乗る少女が並々ならぬ事情を持っているのだろうという事は察していたからだ。

「この件はわしが預かる。他言は無用じゃ、ミスタ・コルベール」
「畏まりました。学院長の深謀には恐れ入ります」
 オスマンは遠見の鏡を元に戻すと、窓の外を見て呟いた。
「伝説の使い魔ガンダールヴか……。一体、どのような姿をしておったのだろうなあ」
「あらゆる武器を使いこなしたという伝承ですので、腕と手はあったのだと思われますが」
「……手のない奴の方が多くないかの?」
「……ですね?」



 決闘から3日目の朝、才人たちは厨房を訪れた。
「おはようございまーす」
「おはようございます」
「邪魔するぞ」
 三者三様の挨拶でドアをくぐれば、真っ先に気が付いたシエスタが笑顔で駆け寄ってきた。
「皆さん! いらっしゃい!」
「シエスタ。おはよう」
 可愛い女の子からの歓迎に頬を緩めると、メイドの少女が気遣わしげな表情を見せる。
「サイトさん、大丈夫ですか? その、お仕置きの傷は」
「あ、あはは……。まあ、大丈夫だよ」
 誤魔化すように笑って見せるが、自分でも無理がある笑い方になっていることが判った。タバサから
受けた罰を思い出すと、それだけで体が痛む。
「ヒャハハ、3日も動けずで、大丈夫もないものだろう」
「うっせ! っつーか、お前がタバサに余計なこと吹き込んだせいだろ!」
 意地悪く笑うムジュラの仮面に言い返すが、逆に相手は笑みを深めた。
「うん? 莫迦な意地を張ってボロボロになって、主に迷惑をかけたことは棚上げにするか?」
 そう返されると、サイトとしては言葉に詰まる。
「そりゃ、そうだけどよ……」
「なら、オレを怒鳴るより反省した方がいいな」
 ヒャハハ、と甲高く笑う同僚を、才人は恨めし気に睨んだ。
「ったく、なんでそうお前性格悪いんだよ」
「そうでもないぞ? 根性が曲がっているだけだ」
「いや、同じだからそれ」
 呆れた溜息をつく横で、シエスタはくすくすと笑っている。傍から見ると、漫才じみて見えるの
かもしれない。
「それじゃあ皆さん、こちらへどうぞ。コック長も、皆さんに会いたがっていましたよ」
「あのオヤジさんが?」
 初日に会った豪快なコックの姿を思い出しながら、才人たちはシエスタの案内に従った。
「よう、来てくれたか! “我らの剣”に“我らの光”に“我らの面”!」
 そして、出会った瞬間に、マルトーの抱擁を受けることとなる。
「お、オヤジさん!? なにごと!?」
 突然抱きしめられて目を白黒させると、マルトーが興奮した口調で話しだした。
「何事だって? そりゃお前、我らが勇者たちの出迎えに決まってるだろうが!」
「勇者たち?」
 ナビィが聞くと、マルトーは満面の笑みで頷く。
「おうよ! お前らはあの生意気な貴族の小僧に真っ向から挑んでいって、その上勝っちまったんだ!
俺たちにとっちゃ、正に勇者だ!」
 熱く語るマルトーに、なんとなく合点がいった。要するに、マルトーは自分たち、特に彼と同じ
魔法の使えない才人がメイジに勝ったという事実に感動したのだ。そんな風に喜ぶ理由は、実際に
メイジと闘った才人には判る気がした。この世界の平民にとって、貴族はそれだけ逆らい難い力を
持っているのだ。そして、それをいいことに平民を蔑む高慢さも。だからこそ、それを平民が倒したと
いうニュースは、マルトー達にとって喜ばしいことだったのだろう。

「だから、お前らは俺たちにとっちゃ特別な存在だ! サイトが我らの剣で、ナビィが我らの光、
ムジュラが我らの面だ!」
 嬉しそうに言うマルトーに、厨房の面々がうんうんと頷いている。傷つきながらも立ち向かい、
最後には手にした剣でメイジを下した才人。その才人に的確な助言をし、魔法を破るための道を
開いてみせたナビィ。メイジを逆に魔法で一泡吹かせ、更に被れば平民でも魔法が使えるように
してくれるムジュラの仮面。人気が出ないはずはなかった。
「(オレはむしろ勇者と敵対した側なんだがな)」
 ムジュラの仮面が何か呟いていたが、小声だったために誰にも聞こえていない。
「なあ、お前は何処で剣を習った? 何処で習えば、メイジを倒せるような腕前になるのか、
俺にも教えてくれよ」
 マルトーが、才人の肩に腕を回して聞いてくる。それに対し、才人は眉をひそめた。
「それがよく判んないんだよ。剣術なんてやったことないのに、なんでか剣を握ったら体に力が
湧いてきたんだ。それに、あれは俺だけの力じゃなくてナビィのアドバイスのおかげでもあるし」
 正直にそういうと、何故かマルトーは顔を輝かせる。
「お前たち! 聞いたか! 本当の達人というものは、こんな風に己の腕前を誇ったりしないものだ!」
 勝手に盛り上がったコック長の声が、厨房中に響き渡る。それとともに、そこかしこから感嘆の
ざわめきが聞こえてきた。

「本当にそんなんじゃないんだけどなあ」
 持ち上げられて悪い気はしないが、ここまで興奮されると少し心苦しい。なんだか、人の良い
大人をだましている気分だ。
「ただ、なんだか判んない力が勝手に湧いてきたってだけで……」
「火事場の莫迦力というやつか?」
 ムジュラの仮面に聞かれ、才人は考えてみる。
「うーん、そういうのともちょっと違う気がするな」
 そこで、あの時左手のルーンがぼんやりと発光していたことを思い出した。もしかすると、この
ルーンが何か関係しているのだろうか。
 再び思案に暮れそうになるが、それよりも早く胃袋が自己主張をはじめる。
「あのさ、朝飯もらえるかな」
「あ、はい!」
 才人の頼みに、傍で控えていたシエスタが笑顔で応えた。

「さあ、サイトさん。こちらへどうぞ」
「あ、ありがと」
 シエスタが引いてくれた椅子に座ると、そこへ次々と豪勢な料理が並んでいく。
「おお、すっげー!」
 その豪華さと食欲をそそる香りに、才人の胃袋が早速逸りはじめた。
「さ、どうぞ!」
「たっぷり食ってくれ! 我らの剣よ!」
「んじゃ、遠慮なく! いただきまーす!」
 大きめに切った熱々のチキンステーキを一噛みする。途端、ジューシーな肉汁と甘酸っぱい
ソースの味が広がり、才人の舌を心地よく刺激した。
「うまい! いつもうまいけど、今日はまた一段と!」
「うふふ、おいしいですか? サイトさん、病み上がりなんですから、しっかり栄養をつけて
くださいね」
 愛らしく微笑むシエスタに対し、一方才人は苦笑する。
「はは、決闘の傷じゃなくてお仕置きの痛みで3日もくたばってたってのが情けないけど……」
 頭を掻きながら言うと、シエスタが何か思いついた顔をした。
「そういえば、サイトさんは普段どちらで寝ておられるんですか? お見舞いの時にミス・タバサの
お部屋に入れていただきましたけれど、サイトさん用のベッドがあったわけではありませんでしたし」
「あー、その……」
 不思議そうに首を傾げられ、才人は少し返答に困る。しかし、結局言い訳が思い付くことも無く、
正直に話すことにした。
「実はさ、タバサと一緒のベッドに寝かせてもらってるんだ」
 瞬間、シエスタは目を見開く。

「サイトさん! いけません、そんなの!」
 そうかと思えば、猛烈な勢いで才人に詰め寄ってくる。
「年頃の女性と男性が寝床を共にするだなんて! ましてや主人と使い魔なのに! もう倫理的にも
主従関係的にもダメダメです!」
「お、おう」
 何故か必死の形相で迫るシエスタに、才人はたじたじになった。言っていることはその通りだとは
思うが、迫力が圧倒的すぎる。シエスタは見るからに真面目な感じであるし、こういうことには
うるさいのかもしれない。
「でも、ダメっていわれても他に寝る場所があるわけじゃないしなあ」
 ステーキを口に運びながら呟くと、ナビィが声を掛けてくる。
「それなら、間に合わせの寝床を作るっていうのはどう? ワラの上に毛布を敷くとか」
「ワラでしたら、馬の餌用のものが用意できますよ」
 妖精の少女の提案にメイドの少女が乗ってくるが、提案された才人は渋い顔を作った。
「うーん、確かに代用品にはなりそうだけど、なんかニワトリ扱いが加速しそうだな」
 何の因果か日本人の名前イコールニワトリの名前と思い込んでいる主人の勘違いに、才人は呻く。
ニワトリの巣の様な藁の寝床なんて、ますますそのイメージを助長しそうだ。
「なんというか、ごめんね」
「まあ、今更仕方ないけどさ」
 体ごと頭を下げるナビィに、才人はそう返した。彼女の発言が本で起こった誤解であるが、決闘で
助けてもらった恩を考えるとこの程度で怒ることはできない。それより、今は寝床をどうするかだ。

「フローリングじゃなくて畳だったら、そのまんま寝っ転がれるんだけどなー」
 故郷のそのまま座って寝れる床を思い出し、才人は郷愁の念を感じた。
「ほう、チキュウとやらにも畳があるのか?」
 そこに、ムジュラの仮面が反応してくる。
「もって、タルミナってとこにも畳あんのか!?」
「一般的ではないが、町の剣術道場の上座に少し敷いてあるぞ」
「おいおい、えらく和風だな……」
 かなり意外だった。召喚初日にタルミナのことを聞いた限り、ハルケギニアと同じヨーロッパ風の
世界を想像していたのだ。

 実際には、タルミナもハイラルも地球で例えるとヨーロッパを基調に世界各地の文化が雑多になった
様な土地柄であるのだが、流石にそこまでは才人が知る由もない。

 そこで、才人はふと思いついた。
「そうだ、それならさ、お前の力で畳作れないか?」
「ああ、その程度ならできるだろう」
 あっさりと肯定され、才人は軽くこぶしを握る。
「よっしゃ、それなら後で頼む!」
「でもそれなら、ベッドの方を作った方が早いんじゃない?」
 ナビィに言われるが、才人は首を横に振る。
「いや、やっぱり畳の方がいいよ。どうせなら故郷のもんを感じられる寝床のがいいし」
 言いながら、才人は切り分けた鶏肉をほおばった。地球にいた頃はベッドで寝ていたが、いざ離れると
日本を感じられるものを求めてしまう。人間の性であった。

「しっかし、ホントにうまいなこれ。タバサたち、いっつもこんないい肉食べてんのか」
 流石は貴族、と妙に感心していると、シエスタが小さく笑う。
「最近は特別ですよ。もうすぐ“フリッグの舞踏会”ですから、それに備えて今の時期から材料も
普段よりいいものを仕入れる様にしているんです」
「フリッグの舞踏会?」
 尋ねてみると、シエスタは答えてくれた。
「毎年の春に行われる舞踏会ですよ。なんでも、新入生の方々を歓迎するレクリエーションとして
開かれるとか」
 そこまで言うと、シエスタは夢見る様な表情になった。
「それから、そこで躍ったカップルは結ばれるという伝説があるそうですよ」
 ロマンティックですよねー、とうっとりとした声で言うシエスタに、才人は苦笑した。何処の
世界でも、女の子はこの手の話が好きらしい。
 その話をしている時、シエスタがちらちらと才人の方を見ていたことに全く気付かないのは、
才人の才人たる所以である。
「舞踏会か。タバサ様、どんなドレスを着るのかな?」
 楽し気なナビィの呟きで、才人もそのことに気が付いた。
「タバサのドレス姿か、興味あるな」
 食事の手を止めて、ドレスで装ったタバサの姿を想像してみる。黒を基調にし、レースやフリルで
飾られた、俗にいうゴシック・アンド・ロリータ系のドレスをまとったタバサ。彼女の小柄な肢体が
小悪魔的なドレスに包まれ、更にスカートの端を摘まんで会釈する姿を想像するだけで、口許が
だらしなく緩んでいく。
――って、おいおいおいおい! だから自嘲しろっての俺! タバサに欲情したりしたら、もう色々と
終わっちまうじゃねーかよ!
 そこまで想像――あるいは妄想――してはっと我に返り、才人は必死で頭(かぶり)を振った。
2つしか離れていない少女に対し、その思考はかなり失礼であるのだが、本人は気付いていない。
「なんでこいつは時々首を振りだすんだ?」
「癖なのかな?」
 そして、同僚たちの呟きにも、まるで気付いていないのだった。

「まあ、あの愛想も素っ気も無い小娘が着る服に迷う姿など、想像できんけどな」
「いえてんなー」
 ムジュラの仮面が言うと、雑念(ロリコンの呪縛)を振り切った才人は同意する。まだ付き合いは
浅いが、タバサという少女があまりおしゃれに関心はなさそうだということは気が付いていた。
「服といえば、俺も着替えがほしいな」
 着ているパーカーを軽くつまみ、ぽつりと言ってみる。ムジュラの仮面の力ですぐに洗濯はできるが、
着たきりスズメではどうにも落ち着かない。
「着替えの服くらい、オレが作れるが?」
「うーん、畳はともかく、こういうのはプロに任せたいな」
 ムジュラの仮面の言葉を、軽く拒む。彼には悪いが、餅は餅屋というやつだ。
「ルーンのことも気になるし、タバサに相談してみるか」

~続く~



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