あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

memory-25 「英知がもたらすは」後篇




 新型のアサシンブレードと写本の断片を受け取り、コルベールの研究室を後にしたエツィオは、一人、広場へと向かって歩いていた。
するとふと視線を向けた先に、しばらく会えなかった人物が歩いているのを見つけた。
エツィオはニヤっと笑みを浮かべると、気配を殺し、ゆっくりとその人物の背後に近づき、背後から目隠しをする。

「だーれだ」
「ひゃっ!?」

 突然背後から視界を覆われたその人物……、メイドのシエスタは頓狂な悲鳴を上げ、背後を振り返る。

「やあシエスタ!」
「え、エツィオさん!」

 にこりと魅力的な笑みを浮かべるエツィオを、シエスタは心底驚いた様子で見つめていたが。
やがて、その顔が、ふにゃっと崩れた。
久方ぶりの再会に感極まったシエスタは、そのまま泣きだしてしまった。

「えっ……えぐっ……、ど、どこに、どこにいってたんですかぁ……!」
「ちょっとしたお使いでね、昨日戻ったんだが、少しバタバタしてしまったんだ」
「うっ……ひっく……、ミス・ヴァリエールに尋ねてもっ……なにもっ、教えてくれなくて……、ひぐっ、わたしっ……わたしっ……!」 
「心配をかけてしまったようだね、すまなかった、寂しい思いをさせて」

 泣きじゃくるシエスタの涙を指先で拭ってやりながら、エツィオはにこりとほほ笑んだ。
シエスタは再び顔を崩すと、エツィオの胸に飛び込んだ。

 しばらくそうやって涙を流していたシエスタであったが、しばらくして落ち着いたのか、少し気恥ずかしそうにエツィオから離れた。

「あっ、ご、ごめんなさい、わたしったら……、こんなに泣いちゃうなんて……」
「すまなかったな、きみに寂しい思いをさせた分、これからたっぷりときみの相手をさせていただくよ」

 シエスタの顎を指でなぞりながらエツィオが嘯く、するとシエスタは頬を赤く染めながら口を開いた。

「もう……エツィオさんったら……、それに、言い方が違います」
「ほう? 違うというと?」
「わたしはエツィオさんの専属メイドなんですよ? もっと命令するような感じで言って下さらないと……」

 もじもじとしながらシエスタが呟く。
エツィオは口元に笑みを浮かべると、シエスタの顎を持ち、ぐいと自分の方へ引き寄せた。

「そうだったな、それじゃシエスタ、きみの気が済むまで、俺の相手をしてもらおうか」
「はい……」

 エツィオが耳元で甘く囁くと、シエスタはうっとりとした表情で頷いた。
それから、何かを思い出したかのか、シエスタはぽんと手を打った。

「そ、そうだわ、是非エツィオさんに御馳走したいものがあったんです!」
「御馳走というと?」
「なんでも東方から運ばれてきたとても珍しい品だそうですよ、『コーヒー』って言うんです。
わたしはまだ飲んだことがないんですけど、ものすごく高級なんですって! 今お持ちしますね!」

 また『コーヒー』か。と一瞬苦笑しそうになったが、そこはエツィオ、あえて表情には出さず、厨房へ戻ろうとしているシエスタに、声をかける。

「ああシエスタ、なら砂糖とミルクも一緒に頼むよ」
「え? 砂糖と、ミルク、ですか?」

 首を傾げるシエスタに、エツィオは小さく笑みを浮かべた。

「そのままだと、きっときみは飲めないだろうからな」


 『コーヒー』を取りに厨房へと小走りで駆けてゆくシエスタを見送った後、
エツィオは中庭の隅にあるガーデンチェアに腰かけ、コルベールから受け取った写本の断片に、目を通し始める。
その顔は、先ほどまでシエスタに見せていた顔とは違い、真剣そのものだ。
一枚一枚じっくりと目を通し、やがてそのうちの一枚へと視線を落とす。

「ん? これは……」

 エツィオはその一枚には見覚えがあった。
それは、アサシンの技術……、つまり暗殺技術について書かれた指南書であった。
何か新しい技術はないか、と少々期待したものの、残念ながら、それらは既に、全て身に付けたものであった。
つまり、今のエツィオにとっては必要のないものと言える。

「うーん……、以前の俺だったら助かったんだろうけどな……」

 頭をぽりぽりと書きながら、エツィオは少々残念そうに呟いた。その時だ。

「エツィオさん! お待たせしました!」

 その声に、写本を見ていたエツィオが顔を上げる。
見ると、シエスタがティーポットとカップ、そして小さな壜が乗ったトレーを持って、こちらに歩いてくるのが見えた。
エツィオは、今までの真剣な表情を一変させ、顔をほころばせる。

「ああ、ありがとう」

 エツィオは礼を言うと、写本の断片をまとめ、懐にしまい込んだ。
ティーカップにコーヒーを注ぎながら、横目でそれを見ていたシエスタが尋ねる。

「何をお読みになってたんですか?」
「宿題だよ、コルベール殿のな。ありがとう、いい香りだ」

 エツィオはウィンクしながら肩を竦める。
それからコーヒーが注がれたカップを受け取ると、ミルクと砂糖を入れた。

「ミスタ・コルベールですか?」
「ああ、彼に宿題を出していてね、その採点さ」
「まあ、先生に宿題を出すだなんて!」

 エツィオの冗談にシエスタはころころと笑う。
そして自分の分のカップにもコーヒーを注ぎ終えたシエスタが、向かいの椅子に腰かけた。

「それじゃ、いただくよ」

 エツィオはコーヒーを口に運んだ。
コルベールの研究室で飲んだコーヒーよりも甘くまろやかな味わいに、エツィオは頬を緩めた。

「うん、思った通りだ、これはいけるな」
「エツィオさんは、コーヒーを飲んだことがおありなんですか?」
「実は先ほど、コルベール殿の研究室でも御馳走になってね」
「そうだったんですか……」

 そんなエツィオを見つめながら、シエスタもカップを口に運ぶ、そしてその苦さに思わず顔をしかめた。

「にっ! にっがぁ~い……」
「はははっ、びっくりしたか? だから砂糖とミルクを頼んだんだ。きみも入れてみるといい、きっと飲みやすくなる」

 エツィオが笑いながら、砂糖とミルクがそれぞれ入った壜を手渡す。
シエスタはそれらを入れ、もう一度カップに口を付けた。口の中に甘い香りと風味が広がってゆく。

「わぁ、本当ですね、すごく飲みやすくなりました! 甘くてまろやかで……、なんだか落ち着きます」

 シエスタは、ほぅ……っとため息をつくと、エツィオを見つめた。

「ねえ、エツィオさんの国ってどんなところなんですか?」
「俺の国か?」
「はい、聞かせてくださいな」

 身を乗り出し、シエスタは無邪気に聞いてくる。
こうやって身近で見ると、シエスタはとてもかわいらしい顔立ちをしていることに改めて気づく。
黒真珠の様な艶やかな黒髪に、同じく大きな黒い瞳、低めの鼻も愛嬌があってとても可愛らしい。

「そうだな……、学問と芸術が栄える、美しい都だよ。フィレンツェっていうんだ」
「フィレンツェ……ですか」
「花の都って呼ばれるくらいだ、イタリアの中でも特に美しい、華やかな都さ」
「まぁ! きっと素敵な所なんでしょうね……」

 エツィオは、フィレンツェの事を話した。由緒ある大聖堂や、その横にそびえる大鐘楼、その頂上から眺めるフィレンツェの美しさ。
シエスタは、目を輝かせて、その話に聞き入った。
あまり大した話はしていないと思うのだが、シエスタは一生懸命に聞いている。
いつしかエツィオは、時を忘れて故郷の話をしていた。

 しばらく経つと、シエスタは立ち上がり、エツィオにぺこりと礼をした。

「ありがとうございます。とても楽しかったです、エツィオさんのお話、とても素敵でしたわ」

 シエスタは嬉しそうに言った。

「また、聞かせてくれますか?」
「勿論さ。でも、今度はきみの話も聞きたいな」

 エツィオはにっこりとほほ笑んだ。
シエスタはそれから、頬を染めて俯くと、はにかんだように、指をいじりながら言った。

「は、はいっ……! え、えっと……あの、エツィオさんのお話も、とっても素敵だけど……一番素敵なのは……」
「ん?」
「あなた……かも」
「きみの魅力には及ばないさ」

 思い切って言った言葉が、エツィオにさらりと返され、耳まで真っ赤になったシエスタは、居た堪れなくなったのか、逃げるように去って行った。
エツィオはそんな彼女の背中を見送った後、再び写本を取り出し、目を通し始めた。


 一通り写本の断片を読み終え、ルイズの部屋に戻ると、ルイズはベッドの上でなにかをやっていた。
エツィオの姿を見るや、慌ててそれをシーツで覆うとその上に本を乗せ、隠した。

「やあルイズ、何をやってるんだ?」
「な、なんでもないわ。ど、読書よ、読書!」

 僅かに頬を赤くしながら、取り繕う様にルイズは言った。
本当にこの子はわかりやすいな。と、両腕に付けたアサシンブレードを取り外しながら、エツィオは思った。
俺を見て慌てて隠す位だ、ということは、十中八九、俺関連だろう。
ならば、これ以上聞いても教えてはくれないだろうし、機嫌を損ねてしまう可能性もある、こういう時は無理に詮索しないのが一番だ。
 確かにルイズが自分の為に何をしてくれるのかは気になるが……、今はそれよりも……。

「ふぅん、ところで、きみ、いつからアサシンになったんだ?」

 エツィオはからかう様に笑いながら、ルイズの顔を覗き込む。
言葉の通り、ルイズは、エツィオのアサシンローブを着ていたのであった。
朝食の後、エツィオはルイズの提案通り、アサシンのローブを脱ぎ、部屋においていたのだ。
血の匂いが染みついていないかと心配したが、ルイズの様子を見るに、どうやらそんなことはないようだ。
ルイズは、おそらく下着の上に直にローブを着ているのだろう。ご丁寧にも腰のサッシュベルトまで捲いている。
しかし、袖も丈もぶかぶかなので、見ようによっては妙なワンピース姿にも見えた。
 ルイズはベッドに正座すると、フードを頭にかぶった。なんだか言いにくそうに、ルイズは言った。

「だって……、着るのなくなっちゃったんだもん」

 立てた指でシーツをこねくりまわしながら拗ねたように呟くルイズを見て、かわいいやつめ、とエツィオは内心ニヤついた。

「こんなに可愛いアサシンになら、殺されてもいいって奴が出てきそうだな」
「な、何言ってんのよ……もう」
「何って、俺がその一人だからさ」

 気恥ずかしそうに俯くルイズの顎を、指でなぞりながらエツィオが嘯く。
ルイズはびくっと震えると、身体をこわばらせ、う~~っと唸った。

「で? そんな凄腕アサシンは、一体何を読んでいるのかな?」

 エツィオはそう言うと、ルイズが慌てて何かを隠した本を見つめる。なにやら古ぼけた、大きな本である。

「『始祖の祈祷書』よ」
「『始祖の祈祷書』?」

 エツィオがその本を手に取ると、ルイズは少しだけつまらなそうに口をとがらせながら答えた。

「姫殿下が、今度ゲルマニアの皇帝とご結婚されるのは知ってるでしょ? その結婚式で、わたしはその書を手に詔を詠みあげなきゃいけないの」
「へえ、大役じゃないか。で、その詔は出来てるのか?」

 ルイズは首を横に振った。

「全然……、だからわたしは、式の日までに、その『始祖の祈祷書』を肌身離さず持ち歩いて、詔を考えなきゃいけないの。
あとそれ、トリステインに伝わる国宝だから、あまり雑に扱わないでよ」
「国宝の書物か……、どんな内容なんだ?」
「見てみたら? きっと驚くわよ」

 そう言われ、エツィオは何気なく『始祖の祈祷書』を開く、そしてその中身をみて、目を丸くした。

「なっ……! なんだ……これ……?」
「ね? 驚いたでしょ?」

 驚いたような表情のエツィオを横目に、『始祖の祈祷書』の中身を覗き込みながらルイズはつまらなそうに呟く。
エツィオがめくる『始祖の祈祷書』のページには何も書かれてはおらず、文字一つさえ見当たらない。どこまでめくっても真っ白なページが続くだけであった。

「何も書いてないなんて、酷い出来よね。そんなのを国宝だなんて……」

 ルイズがそう呟くと、エツィオは信じられないと言った表情でルイズを見つめた。

「なにも書かれていないだって? きみ……これが見えないのか?」
「えっ!?」

 エツィオのその思いがけない言葉に、ルイズは心底驚いたような表情でエツィオの顔を見つめる。
いつもの冗談……ではない、エツィオの表情は、至って真面目だった。その目は、とても嘘をついているようには見えない。

「え? あ、あんた、もしかして見えるの?」
「あ、ああ……でも……」 
「なに? 何が書いてあるの?」

 ルイズの心臓が早鐘を打つ。
そうだ、エツィオには"タカの眼"があったんだ。もしかしたら、『始祖の祈祷書』を読み解けるかもしれない。
そんな期待に胸を躍らせながら、ルイズはエツィオを急かす。
エツィオは再び『始祖の祈祷書』に視線を戻す、だが、エツィオはすぐに眩い光を見つめるように目を細めた。
 あまりの眩さにたまらずエツィオは『始祖の祈祷書』を閉じてしまった。

「ど、どうしたの?」
「凄い魔力だ……、タカの眼で見るには、文字に込められた魔力が強すぎる……」

 エツィオは、目を擦りながら、呻くように呟く。
どうやらエツィオの"タカの眼"では、始祖の祈祷書を読み続ける事は出来ないらしい。
 ルイズは、辛そうな様子のエツィオを心配そうに見つめた。

「大丈夫?」
「眼が焼かれそうだ……。書き写してあげようにも、これじゃあな……」
「そう……」
「すまないな」
「な、なにもあやまらなくても……」

 どこか落胆した様子のルイズにエツィオが謝る。
ルイズは僅かに頬を赤らめて俯いた。

「しかし……、こんなに魔力を込めて書くなんて……、一体、これには何が書かれているんだ……?」
「せめてあんたの"タカの眼"でも読めるくらいに加減して書けばいいのにね」
「そうだな。書いていて思わず力むくらいだ、きっと恥ずかしい内容なんだろ?」

 エツィオの冗談に、二人はくつくつと笑いあう。
それからルイズはごそごそと布団に潜り込んだ。

「もう寝るのか?」

 エツィオが尋ねると、「うん」とだけ返事が返ってきた。
エツィオはにやっと笑みを浮かべると、ルイズのベッドに潜り込む。
それから何を思ったか、ルイズの肩に手を回すと、ぐいと抱き寄せた。

「ひゃっ! な、なにすんのよっ……!」

 突然エツィオに抱き寄せられたものだから、ルイズは目を白黒させて驚いた。
互いの息がかかるくらいに顔を近くに寄せると、エツィオはにっこりとほほ笑んだ。

「おやすみをまだ言ってなかったからな」
「あ……」

 文句を言おうと思っても、頭が回らない、まるで麻酔にかかったかのように頭がじんわりと痺れてくる。
「あわ、あわ、あわ」とわめくうちに、額にキスをされた。

「おやすみ、ルイズ」

 顔を真っ赤にしたルイズに、エツィオはニッと笑う。
相も変わらず、自信たっぷりな使い魔の笑顔に、文句を言おうにも言葉が出てこない。

「ばっ……ばかっ! な、なにしてんのよ! も、もう……」

 かろうじてそれだけ言うと、ルイズは毛布を頭から被って丸くなってしまった。
ルイズは布団のなかで落ち着きなくもぞもぞと動いている。たまに中から「なによもう……」とか、「いきなりあんなことするんだもん……」とか
ぶつぶつと文句が聞こえてくる。この調子では当分眠ってはくれなさそうだ。
これから毎晩やってやるかな、なんて事を考えながら、エツィオは天井を見つめる。
そう言えば、先ほどルイズが言っていたように、そろそろアンリエッタ姫殿下とゲルマニア皇帝の結婚式である。
気がかりは、それに先駆けた、アルビオンによる親善訪問の名を借りた先制攻撃だ。
そろそろマチルダから報告が届きそうなものなんだが……。とアルビオンで内偵を行っているマチルダのことを考える。

 そうしばらくしているうちに、もぞもぞと動いていたルイズが、おとなしくなった。どうやら眠ったらしい。
とにかく、今はあまり考えても仕方が無い、まずはマチルダからの報告を待とう……。
エツィオはそう考えながら、静かに目を閉じた。

 ルイズが眠り、エツィオが目を閉じてから数時間後……。
突然エツィオが目を開け、むくりと起き上がる。
そして頭を振り、目頭を押さえると、彼には珍しく、少々イラついた様子で小さく呟いた。

「くそっ……全然眠れない……なんでだ?」

 首を傾げるも、理由がわからない。
目を閉じていればいずれ眠れるだろう……そう考えながらもう一度横になり、目を瞑る。
だが、どういうわけかその後も全く眠りにつけず、結局、エツィオがようやく眠りにつけたのは、空が明るみ始めた頃だった。




――写本の断片を入手

『私が助け、そして私の命を救ってくれた青年は、『オスマン』と名乗ってくれた。
(『オスマン』……記憶が正しければ、アナトリア地方に住む人間が名乗る名だ。ということは、ここはアナトリア地方なのだろうか?)
驚くべきことに、彼は『魔法』という力を行使する者(彼らが言うには『メイジ』と呼ばれる)らしい。
彼が私を助けるために行使した癒しの力、それが『魔法』なのだという。
最初、彼の口からそれを聞いた時、私は俄かには信じられなかった。
……魔法、私が知る限り、千夜一夜の物語に登場するような荒唐無稽なおとぎ話の中の力の筈だ。
しかし私はその魔法によって命を救われている。こうしてその力を目の当たりにした以上、信じないわけにはいかないだろう。
未だ半信半疑だった私は、別な魔法を使って見せるように彼に依頼をする。
彼は怪訝な表情をしたものの、私に様々な『魔法』を見せてくれた。
彼が杖を振るだけで、炎が噴き出し、風が巻き起こり、ただの土が金属へと変化する。
私は驚愕し、戦慄した。これは人が持ちえる技なのか? この力をテンプル騎士達が行使したらどうなる? 
この力は騎士団のような連中に知られるわけにはいかない……。

 ――その心配は全て杞憂に終わったことは幸運なことだった。

慄く私に、彼は首を傾げていたが、命を救ってくれた礼に宿を提供させてくれと申し出てきてくれた。
土地勘のない場所だったためにこの申し出は私にとって非常にありがたい話である、私は彼の申し出を受け入れ、彼の世話になることに決めた。
異国の友に感謝を。』


『私は推測していた、『果実』の暴走によって、私は遥か遠いところへ、それこそ別の大陸へと来てしまったのだと。
そしてその推測は、半分が当たっていて、半分は大きく外れていた。

結論から言おう、私が飛ばされてきたこの場所は、私が本来いるべきはずの世界から遥か遠くに隔絶された世界であった。
言わば別世界、異世界とも呼べる場所だ。

私はその事実に至った時、即座に『エデンの果実』を調査した、私をこの世界に導いたのがこの果実ならば、元の世界に戻す手段も当然これに限られるはずだ。
正直、使いたくはないが、他に手段がない、背に腹は代えられない。だが、果実は何も反応を示さない、戸惑う私に答えを教えてくれたのは、皮肉にも果実であった。
この果実の持つ空間転移と呼べる力、それ自体は多用できるものではなく、再び使用するためにはある程度時間を置かなくてはならないというのだ。
確かに、果実をよく"見る"と心なしか輝きを失っているように見える、しかし私の問いに答えたということは、機能を完全に停止するということは決して無いようだ。
なんとも間抜けな答えに、私は落胆しつつも安堵と一抹の不安を覚える。
これほどの力を行使したとしても、『エデンの果実』は決して機能を止めることはない。果たしてこの果実を止める、或いは破壊、封印する手立ては存在するのだろうか?
……兎も角、果実のエネルギーの充填を待つ間、私はこの世界に足止めとなる。
幸運なことに果実は私の手元にある、ということはテンプル騎士達に奪われる心配は少なくとも存在しないのだが、それだけに今は、マシャフに残る兄弟達だけが気がかりだ。
私が果実と共に消える時、傍にマリクがいた事を覚えている、兄弟達の不安を煽らぬよう、彼がうまく立ちまわってくれるのを祈るしかない』


『(冶金法の解説書及び設計図:エラーにつき閲覧不可)』

『成功だ! かねてより研究を進めていた、極めて小さな弾丸を戦闘に用いる方法が分かった。
弾丸を用いた戦闘は前例のあることではない、東方の国々では既に使われていることは広く知られている。
だがそれはずっと大型の武器で、それこそ攻城戦に用いられるようなものであったため、我々の目的には合わなかったのだ。
今回、私はそれを大幅に小型化し、手首に装着できるように作りなおす方法を考えついたのだ。

その威力は人を死に至らしめるに十二分であり、遠く離れていても使える。……正直に告白しよう、私がこの発見を得たのは、控えめに言っても危険な方法によってだ。
精神を集中させ、ほんの短時間だけに限るなら、『リンゴ』を使っても大丈夫のようだ。

だが、ここは異世界であって、マシャフではない。魔法という手段があるとはいえ、ブレードに使用される合金の錬金は、所謂スクウェアクラスのメイジであっても不可能だ。
全体的に見て、この世界の冶金技術は全く進んでいないと言っていい。しかし、私のもつ……否、『リンゴ』がもたらした知識は、
この世界を根底からひっくり返しかねない技術であることもまた事実だ。速すぎる技術革新がもたらす混乱、それは私の望むところではない。
故に、この書物に封印することに決めた。願わくは、心ある者がこれを読み解かんことを』


『"英知がもたらすは悲嘆のみ。真実を知るほど、悲しみはいや増す"という哲学者の言葉が、今では十分に理解できる気がする。
そう、これは確かに正しい、鉄を作る知識を得れば、鉄は剣へと変わり、剣は戦いを生み出す。
これはこの魔法の世界でも同じことだ、現に魔法は戦いに利用されている。
四つの系統すべてに、戦いに対応した攻撃魔法が数多く存在していることから、それは最早自明の理だ。
人は何故戦いを求めるのだろうか? 手を取り合って生きるということはできないのだろうか。
この世界は神によって創造されたものなのだというが、果たしてそうなのだろうか。
暴力に飢えたおぞましい存在が創造したとしか私には思えないのだ、この魔法が支配する異世界も、……私のいた世界も』


『(ピストルの設計図:焼失したため閲覧不可)』


『この世界にも、我々の世界と同じように神として、または神の代理人として崇拝される人間がいた、その者はブリミルと名乗っていたそうだ。
降臨、信徒、数々の奇跡、彼もまた、かの大工のようにこの世界の人々に崇拝、信仰されている。
しかし私の知る神話とは異なる点がいくつかある。彼に関しての逸話が、ほぼ存在しないのだ。
だが、最も注目すべき点は彼の死後だ。
彼の死後、6000年間の間、誰一人として宗教的指導者が現れていない。まるで『ブリミル教』以外の教えを全て排除したかのような。
彼もまた、『エデンの果実』を利用したのだろうか? 概念を世界に浸透させ、根づかせたのだろうか。
ただ一つ異教と呼べるもの、それはブリミル光臨の時より敵対していたとされる『エルフ』と呼ばれる者たちだ。
『エルフ』……先住……。
だとすれば、『彼』……『彼ら』はどこから来たのだ? 『かつて来たりし者』との関係は? 考えれば考えるほど、謎は深まるばかりだ』


『(手製爆弾の設計図:画像エラーにつき閲覧不可)』

『dx/dt= -10x +10y
dy/dt= 28x -y -xz
dz/dt= -8/3z +xy

(方程式のグラフ:画像ファイル破損につき閲覧不可)

"ليس هناك ما هو صحيح ، كل شيء مسموح به"
Laa shay'a waqui'n moutlaq bale kouloun moumkine』




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