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ゼロと電流-21


 一同の行動を決めたのは、一羽の梟だった。
 見覚えがあるというキュルケに、シルフィードは今までタバサへの指令を運んでいた梟だと告げる。

「ルイズへ。七日後、我が屋敷に来られたし」

 タバサの筆跡であることを確認すると、キュルケはその内容をルイズへ伝える。

「シルフィードが私の所に逃げるって予想していたようね。タバサの屋敷はラグドリアン湖畔、国境付近のガリア領内の屋敷よ」

 モンモランシーがキュルケの言葉に動揺を見せる。

「それ、間違いないの?」
「ええ。一度だけど行ったことあるもの」

 初耳だとギーシュが言うと、ひけらかすようなことではない、とキュルケは応える。
 自分の出自をタバサが語りたがらないことは全員が知っていたので、それは確かに納得できることだった。
 しかし、モンモランシーは続ける。

「待ってよ。ガリア側にある昔からの大きな屋敷なんて、一つしかないじゃない」
「なら、話が早いわ。そこのことよ」
「誰の屋敷か知っているの?」
「勿論」

 キュルケは一息置くと、一同を見渡しながら言った。

「無能王ことガリア王ジョゼフの実弟、オルレアン公のお屋敷」

 ギーシュとシエスタはポカンと口を開け、モンモランシーの表情は厳しくなる。
 そして、ルイズは頷いていた。

「ジョゼフにより暗殺された、と言われているオルレアン公の屋敷ね」
「待ってくれ、それじゃあ、タバサはガリア王の血筋の者ということかい?」 
「あるいは、深く関わりのある者か」

 カリーヌが言を続ける。

「オルレアン公にはシャルロットという娘がいたと聞いています。年は、タバサと名乗る子と同じくらいでしょうね」

 全員が口を閉じ、互いの顔を見合わせる。
 やがて、ギーシュがぽつりと言った。

「……もしかして、ガリアのお家騒動に関わることになるのか?」
「あの子はタバサ。あの子が自分でそう名乗り続ける限り、私にとってタバサはタバサ」

 キュルケは言い切る。
 反論は許さない。タバサの友として。

「シャルロットなんて私は知らない。私が救いたいのはタバサ。それ以外の何者でもないわ」

 そうか。と誰かが呟く。
 次いで二人、三人、と呟きが広がる。

「オルレアン公の娘なんて、そんな畏れ多い知り合いなんて、私にはいません。でも、タバサ様は大切な御方です」

 シエスタが言い、キュルケは微笑んだ。そして頷く一同。

「満場一致ね」
「囚われの姫を救うのは騎士の誉れという奴だね。男子たるもの一度は夢見るシーンじゃないかね」
「ああ、ギーシュのお姫さまはタバサなのね。よくわかったわ」
「いやその、モンモランシー? これは言葉の綾というもので……痛い! 痛いって!」

 タバサを救う。一同の意志は固まっていた。
 しかし、場所も時間も相手の指定のままである。
 罠を仕掛けるにはあまりにも絶好だろう。

「知らずに罠に掛かるのと、知ってて罠に向かうのは自ずから別のものでね」

 モンモランシーから逃げたギーシュが知ったように嘯く。

「罠を逆に利用してやればいいのさ」
「どうやって?」
「うん、それは今から考えるとしてだね」
「やっぱり馬鹿ね、貴方」

 モンモランシーとギーシュのやりとりに思わず笑うルイズ。
 キュルケも笑い、カリーヌもやや相好を緩めている。
 期日までの七日間を、一同はヴァリエール家の別荘で過ごすことになった。
 傷を癒す者、魔法に工夫を加える者、異界のマシンの技に習熟する者。それぞれが思うように時間を過ごす。
 そして指定された当日、一同はラグドリアン湖畔に集まっていた。
 いや、正確には集まっていたのではない。足止めされていた。

「予想通り、っていうことね」

 キュルケの言葉に自嘲の響きはない。
 ルイズの同意を求めようとしたキュルケは、その妙な表情に気付く。

「どうしたの?」
「敵がまとまっているのよね」
「ええ」

 キュルケはルイズの視線を追う。そこには異形の怪物が数体、こちらを窺うように佇んでいる。

「あれは、メカアーミーって言うのよ。ザボーガーの記録で見たわ」
「ええ」
「ザボーガーは、メカアニマルには負けたことがないのよ」
「うん。え? アニマル?」
「アニマル」
「あそこにいるのは?」
「アーミー」

 メカアニマルはΣ団、メカアーミーはその後に戦った恐竜軍団の者である。
 当時、メカアーミー第一号に敗れたザボーガーはストロングザボーガーとして強化された。
 しかし、ストロングザボーガーに必要な合体相手、マシンバッハはここにはない。
 つまりは、ザボーガー単体で戦うことになる。

「ルイズ?」
「負けるとは思ってないけれど」

 今のザボーガーの動力源は虚無である。それは、かつてのダイモニウム、怒りの電流に比べれば遥に高性能なエネルギーである。
 つまり、同じザボーガーでも、かつてのザボーガーよりは強化されているということだ。
 さらにここには烈風がいる。キュルケもギーシュもいる。マシンホークもある。

「一人で突進しない限り、負けないわよ」

 その言葉にキュルケは何か言いかけた口を閉じる。そして、ギーシュとモンモランシーを見た。
 二人は嬉しそうに頷いている。
 やや時間を空け、ルイズは言った。

「キュルケ、ギーシュ、モンモランシー、シエスタ。そして、お母さま」

 ルイズはマシンザボーガーから降りると、一同をそれぞれ見やる。
 シルフィードは上空から降りてこない。三ッ首がいる、と彼女は断言し、そのまま上空を飛んでいるのだ。
 力量差にかかわらず、竜族である限り三ッ首には対抗できない、それを知った上での配置であった。

「一緒に、戦いましょう」

 答えは決まっている。
 カリーヌが杖剣を構える。
 ギーシュがゴーレムを作り上げる。
 キュルケが景気づけのように炎を飛ばす。

「チェンジホーク!」
「電人ザボーガー! GO!」

 虚無の力を得たザボーガーは、かつての劣勢を想像すらさせない力で、次々とメカアーミーを撃破する。
 チェーンパンチが胴を貫く。ブーメランカッターが胸を切り裂く。速射破壊銃の前に立ちはだかることのできるメカアーミーはない。
 あまりにもあっさりと片づいたことで、逆に一同には不審が募る。
 何らかの罠か、と周囲への警戒を怠らずに屋敷へと向かうが、その様子もない。
 そして、屋敷前に待ちかまえていたのはタバサ本人だった。

「やはり、皆で来た」
「タバサ、貴女無事なの?」
「怪我は負ってない」

 キュルケに一言応え、タバサの視線はルイズへと向けられる。

「ルイズ。何も言わず従って欲しい」
「断るわ」

 迷い無く答えるルイズ。

「貴女こそ、正気に戻りなさい。三ッ首が何者かわかっているの?」
「関係ない」

 やはり迷うことなく答えるタバサ。

「私は、任務を果たすだけ」

 瞬間、カリーヌが杖剣を構える。それにやや遅れて身構えるキュルケ。そしてギーシュはモンモランシーの前に立つ。

「これが……」
「……獣臭くて嫌になるわ」
「モ、モ、モンモランシー、き、君は下がっていたまえ」

 タバサの背後、屋敷の影から現れる巨体。異形の竜にしてリーヴスラシル、魔神三ッ首。
 シルフィードが一声鳴いた。それは威嚇か、あるいは恐怖か。

 ……よく来た、ザボーガー。大門豊でないのが惜しいがな

 そしてゆっくりと開く玄関扉。
 タバサは扉のほうにちらりと目を向け、言う。

「ルイズ以外は帰っていい」

 私の任務は、ザボーガーを『ここ』へ誘き出すこと。
 ザボーガーとその繰者であるルイズ以外は関係ない。
 タバサが告げると同時に、屋敷の中から現れるメカアーミー群。

「数だけ揃えるなんて、雑魚確定じゃない?」
「まったく、少数精鋭という言葉を知らないと見える」

 ファイヤーボールが唸り、ゴーレムが拳を振るう。
 ルイズはメカアーミーには視線の一つも向けず、巨体を睨みつけるように立っている。

 ……ただのザボーガーで我に勝てると?

 凄まじいプレッシャーに顔をしかめるルイズ、その横に並ぶカリーヌとシエスタ。

「ルイズ、一人ではありませんよ」
「ルイズ様、ホークはこのためにハルケギニアに来たんだと思います」

 ……いや、そうでもないか

 二人に続いた三ッ首の呟きに被せるように、ホークでもザボーガーでもない第三の機械音。

「役者が揃ってるじゃないか!」

 唐突かつ聞き慣れぬ声。さらに砲声、爆音。
 吹き飛ばされるメカアーミー。驚きに目を見開くキュルケ達。そして、タバサ。

「どうして……」
「何驚いてるんだい? いつもの無表情な人形面はどうしたのさ?」

 ルイズの目も見開かれる。
 そこにあったのは、ザボーガーの記憶の中にあったマシン。盟友マシンバッハである。

「トリステインの貴族さん達? 緊急事態だ。跪けとまでは言わないが、挨拶ぐらいはしてもいいんじゃないかい?」
「これは失礼を。ガリアの姫よ」

 ただ一人、表情も変えずに応じるカリーヌにイザベラは笑い、

「さてと、細かい説明は後だ。そこの娘、合わせて貰おうじゃないか!」

 マシンバッハが唸る。
 ルイスは咄嗟にザボーガーをマシンに戻してターンさせると、バッハへと走る。
 シエスタはホークを三ッ首と二人の間に配置し、その動きを一瞬でも牽制しようと動く。

「あんたこそ、こっちに合わせなさいよ!」
「上等! やってみなっ!」

 二台が交差する直前、二人はそれぞれのマシンから飛び降り、そして命じた。

「チェンジ! ストロングザボーガー!」



 ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドは風のスクウェアである。
 だが、人々は気付いていない。彼の呪文には明らかな偏りがあることを。
 ワルドが使うことのできる魔法はただ一つ、「遍在」のみである。
 人々は知らない。彼が「遍在」のみに特化した風の使い手であることを。
 多種多様な風の魔法を操っているのは彼ではなく、彼の「遍在」である。
 それはワルドにのみ許されたレアスキル。「風の原石」の担い手となった者のみに許された、唯一の魔法。

 ワルドの母は、研究者だった。その研究内容が風石に関わっていることをワルドは知っていた。
 だが、ワルドにとってはただそれだけだ。詳細まで知っていたわけではない。
 ワルドがその内容を知ったのは、母の死後のことである。

 母は事故死とされた。しかしワルドは知っている。母の死の原因は自分だと。
 半ば気狂いのように研究に没頭する母を、彼は疎ましく感じていた。だからこそ、彼は母を日常にいない者として扱っていた。
 そんなある日、彼は進む道を邪魔するように立っていた母を払いのけた。悪意はなかった。ただ、邪魔だっただけ。
 しかしそこは、階上だった。さらに、階段のすぐ目の前だった。
 ワルドを弁護するのは容易い。母は実際に気狂いと言われても仕方のない状態だったのだ。
 彼は、壁に向けてそんな母を押しのけたのだ。
 抵抗するとは思っていなかったのだろう。抵抗しようとして、痛めていた膝が折れるとは予想できなかったのだろう。
 膝が折れた側に傾いた身体。その先には、階段があった。
 そしてワルドは、母を押しのけた自分を嫌悪し、そっぽを向いていた。
 気付いたとき、母の身体は段に叩きつけられ、滑るように落ちていくところだった。
 運がいいのか悪いのか、頭から落ちた母は即死だった。少なくとも、苦しむ時間は最小に抑えられたのだ。
 己のやったことに気付いたワルドは死体を見下ろす。

 ――母さんを殺したのは僕なのか?

 答える者などいなかった。

 さらにその数年後、父を失い天涯孤独の身となった頃、彼は母親の残した研究成果を己の血肉としていた。
 成果は三つ。

「大隆起」
「風原石」
「四つの虚無」

 それらの情報をワルドは手中に収めたのだ。
 トリステイン、いや、ハルケギニア全体を破壊しかねない天変地異「大隆起」の詳細。
 全ての風石を束ねる、あるいは下位とする最大かつ最高にして唯一の風石「風原石」の所在地と制御法。
 世界の始まりと理すら左右する「虚無」に関する知識。
 これらが揃えば、破壊、君臨、どれを選ぼうと不可能ではない。ハルケギニアの神も悪魔も自在のままだった。
 だが、完璧ではないことにワルドは気付いていた。
 ワルドは時を待つ。己が力を蓄える。
 まずは「風原石」を手中に収め、風石の一斉活動による「大隆起」の時期を限定的ながら制御する術を手に。
 そして、「風原石」により得たレアスキル「遍在特化」により、十数体の遍在を自在に操る。
 それほどの時をかけず、ワルドの手元には莫大な情報が集まることとなる。何しろ、彼の遍在はその全てが風のスクウェアである。
 そのうえ、死と引き替えにしてまで情報を得ることが出来るのだ。
 さらに、それによって得た「アンドバリの指輪」は、まさに水系統における「風原石」のようなアイテムであった。
 人の心を操り、あるいは死人すら操る水の力。
 これだけの力を個人で得た者が、かつてのハルケギニアにいただろうか。
 いや、いたことを、ワルドは知っている。
 始祖ブリミル。そしておそらくはリーヴスラシル三ッ首竜。
 ワルドは、三人目なのだ。

 今、史上三人目の力を手にした男はアルビオンにいた。

 玉座に背を預け目を閉じたワルドは、心を遍在へと飛ばす。
 いくつもの情景がめまぐるしく移り変わる中、ワルドは一つの情景に心を止めた。
 それはラグドリアン。
 ガリアの情報を知って以来、ガリア各地に埋め込んでいた遍在の一部。
 水と風の究極の力により遍在もまた、その力を変えた。
遍在特化とアンドバリの力を掛け合わせることにより、人ならざる遍在を操ることが可能となった。
 操るのは「人」である必要などない。そこには「人」の部品があればいい。
 目玉一つに耳一つ、そして手首。それだけあれば見、聞き、移動することが出来る。
 今、ラグドリアン……いや、ガリアの各地では奇妙な動物を見ることが出来る。耳と目を持ち、自在に動き回る手首を。
 その内の数体が、タバサの屋敷の屋根裏に、地下に、壁の隙間に集まっている。

 ワルドは、いくつかの視界を通じ、屋敷内の情景を眺めている。
 カリーヌ達と共にメカアーミーを薙ぎ倒すザボーガー。
 現れる三ッ首。
 ストロングザボーガーの登場に、ワルドは眉を上げた。
 やりとりを聞く限り、それはザボーガーのパワーアップ形態なのだろう。おそらくは、三ッ首を倒せるはずの。
 ザボーガーによる三ッ首打倒は、ワルドにとっても望むべきことだ。
 ワルドにとって三ッ首打倒は難しい。ザボーガーを倒すことも同じ。しかし、ルイズを倒すと考えれば難易度は極端に下がる。
 ならば、ワルドにとっては三ッ首をザボーガーに倒させるのが最も有利なのだ。

「ロケットチェーンパンチ!」

 ワルドが見たチェーンパンチとは異なり、それは火柱を噴き上げながら高速でメカアーミーを貫く。

「ジェット! ブーメラン!」

 これもブーメランカッターとは違う。当然の事ながら、威力は桁違いだ。
 ワルドの見る限り、ストロングザボーガーはザボーガーとは比べることすらできない強さだろう。
そのザボーガーに負けた自分が、正面から倒せる相手ではない。

「ストロングバズーカファイヤー!」

 腰の二門の砲塔からの砲撃がメカアーミーを粉砕する。
 ワルドは思わず笑っていた。
 強い。確かに強いのだ、ザボーガーは。
 だが、所詮は人によって操られるゴーレムの類に過ぎない。操者を倒すと考えれば、これほど簡単な相手もいないだろう。
 だから、それはいい。今のワルドにとって、この光景で気になっているのは二つだ。

「さて、ミス・サウスゴータ?」
「ここに」

 とある理由でガリアへ派遣された部隊と入れ替わるように戻ってきていたフーケが、即座に姿を見せる。

「その鏡を見たまえ」

 無造作に置かれた一つの鏡には、ワルドに送られている映像がそのまま映されている。

「ザボーガー……イザベラ? それに三ッ首ですか」
「イザベラが何故そこにいると思う?」
「三ッ首を倒すためでしょうか?」

 ガリアに潜入していたフーケの得た情報は三つ。
 ヴィンダールヴとしてマシンバッハを召喚したジョゼフは、三ッ首に与している。ただし、その理由は不明。
 イザベラは三ッ首に不信感を持ち、ガリア王の行動を由としていない。
 そして、生きる屍とされたロマリアの虚無ヴィットーリオが現在幽閉されている場所。

「手持ちの情報では不足か。ではもう一つ」

 ワルドは、鏡に映ったホークとシエスタの姿を示す。

「ルイズにはガンダールヴとしてザボーガー。ガリアにはミョズニトルンとしてマシンバッハ。ロマリアではリーヴスラシルの三ッ首」

 フーケは無言で鏡を見つめていた。
 動けない。ワルドの視線は一方向ではない。複数から感じる視線。それはワルドの遍在であった。
 いや、今のこの玉座に座っている本人すら遍在ではないと誰が言えるのか。

「マシンホークとやら、アルビオンのヴィンダールヴに思えるが」
「ならば、私の知らない内にアルビオンの何者かが召喚したのですね」
「君の妹は虚無には目覚めていない、と聞いたが」
「ザボーガーを召喚したルイズは王族の血を引いているとはいえ、ヴァリエール家の者です」
「アルビオン王家の血を引く者が他にいると?」
「いないとでも?」

 証明も反証も不可能だ。
 王家の者が愛人に産ませた子。隠された子がいないと、誰が断言できるのか。

「どちらにしろ、ザボーガーにもサポートは必要でしょう」
「確かにな」

 下がって良いと告げられ、一礼し下がろうとするフーケをしかしワルドは呼び止める。

「開き直りは一度だけ許す。次はない」
「……さあ、何のことだか私にはわかりかねますわ」
「ああ、それでいい」 

 それだけを告げると興味を失ったように視線を外し、再びガリアの光景へと埋没する。



「観念するんだね、図体だけのトカゲ野郎」

 メカアーミーを失った三ッ首に、イサベラが告げていた。

「ガリア王妃の名にかけ、貴様を誅殺する」

 三ッ首への視線をずらさず、

「……シャルロット、今ならまだ間に合う、三ッ首を捨てな」
「私はもうガリア王には与しない」
「解毒剤を渡すと言ってもかい?」
「信用できない」
「私や父上より、三ッ首のほうが信用できるって言うんだね」
「当然」
「だったら、ルイズを信じな!」

 突然の指名に絶句するルイズ。タバサは思わずルイズを確かめるように視線を向ける。

「ルイズ、あんたならわかるだろう」
「何よ」
「虚無魔法〈記録〉に目覚めたガリア王。そして、ガリアにあるマシンバッハ」

 ……視たのか

「ああ、そうさ。見たさ。クソトカゲ野郎が、人の母親に何をしたかまでね!」

 三ッ首配下として仕えたメザの姿を、ストロングザボーガーは当然見ている。その記録は、バッハの中にも残されていたのだ。

「……にも関わらずいけしゃあしゃあと、死んだ人間を蘇らせるために力を貸せとガリア王に申し出たクソトカゲ野郎がいたんだとさ」

 イザベラの瞳が三ッ首を射抜くように輝いている。

「騙された王も馬鹿さね。だけど、私は嬉しかったんだ。母さまを救うために父さまが動いてくれていることが!」

 だから、だからこそ。

「絶対に貴様は許さないッ!」

 それは、歓喜でもあった。
 ガリア王ならば、その程度の詐術に惑わされるわけがない。王を良く知る者ならば誰もが異口同音にそう言うだろう。
 だが、王は騙された。いや、騙されたかったのだ。
 最愛の女が、妻が、娘の母が蘇るという嘘を。
 だから、イザベラの心は震えた。
 父の母への愛を知ったから。たとえそれが、どれほど無様な結果に終わろうとも。父が母を愛していたことは事実なのだから。

 ……許しなど、乞うつもりもないわ。下等な人間ごときの命など、我の知ることか
 ……メザよ、虫けらを殺せ。お前の父を殺し、母を狂わせた男の娘を殺せ

「駄目ッ!」

 キュルケが手を伸ばす。
 その手に捕らえられるタバサは、三ッ首に操られるように杖を構える寸前だった。

「タバサ。貴方が人でなしになる必要はないのよ」
「放して」
「いや。この決着がついた後なら止めはしない。それでも貴女が今この場でどうしてもイザベラを討ちたいというのなら」

 まずは自分を撃て。キュルケは告げる。

「ガリアへの復讐は止められないかも知れない、だけど、三ッ首に与することだけは絶対に駄目」

 ……構わん。ザボーガーがここにいると言うことは、その人間は用済みだ。新しいメザなど、なんとでもなるわ

「させるかっ!」

 イザベラとルイズが走る。

「ザボーガー! ストロングバズーカファイヤー!」

 砲声と同時に白光が閃いた。
 三ッ首から伸びた牙が、ザボーガーの左肩を貫く。
 そして、砲撃を正面から受けた三ッ首は揺るぎもせずに立ちはだかっている。
 以前の三ッ首とは違う。
 確かにザボーガーは強化されている。虚無という力によって動くザボーガーの能力は上がっている。
 だが、三ッ首も条件は同じ。さらに、この世界は元々三ッ首の生まれた世界である。そしてもう一つ。
 今の三ッ首は、リーヴスラシルなのだ。
 使い魔としての能力アップは、その召喚主が存在する限りは消えない。三ッ首にとってのヴィットーリオは、ガリアにいる。
 正確には、幽閉されている。逃げ出さないように、いや、己の意思で動けぬように加工された状態で。
 今のヴィットーリオはただ、三ッ首をリーヴスラシルでいさせるためだけにその命を許されているのだ。

「ザボーガー! 退きなさい!」

 ザボーガーを下げるルイズ。しかし、ザボーガーで対抗できない相手に誰が立ち向かうというのか。
 イザベラがザボーガーに並び、損傷を確認する。

「左手が完全にやられてるぞ」

 本来の装甲も固定化も全て引きちぎるように易々と貫いた三ッ首の牙である。今のハルキゲニアに止められるものはないだろう。

「ルイズ様! ザボーガーをもっと下げてください!」

 シエスタの声は頭上から。限りなく飛行に近い跳躍中のホークである。

「ホーク! 三ッ首を倒して!」

 ホークはザボーガーと違い、空戦特化の格闘仕様である。固定武装はないに等しい。
 対する三ッ首は、三つの竜口からそれぞれ炎、電撃、毒煙を噴き出すのだ。
 それでも、シエスタは果敢に三ッ首へと近づく。
 だが、ホークはあくまでもザボーガーの対抗機種であり、ストロングザボーガーほどの力はない。
三ッ首との直接対決では勝ち目はないと言っていいだろう。
 その隙にカリーヌはルイズとイザベラを庇うように進み、モンモランシーは霧状の水で視界を塞ごうと試みる。
 瞬時に火炎によって蒸発する霧。再び牙がザボーガーを襲う。

「ザボーガー! 逃げて!」

 ルイズの命令も虚しく、牙がザボーガーの腹部を貫いた。為す術もなく倒れるザボーガー。

「ルイズ。ザボーガーを逃がすのです」

 カッタートルネードを放ち、カリーヌがルイズに囁く。

「虚無魔法〈世界扉〉、覚えたはずですね?」
「お母さま、でも」
「時間がありません。自力で動ける内に、ザボーガーを逃がすのです」

 言いながら、カリーヌはデルフリンガーをザボーガーに握らせる。

「デルフ、頼みます」
「ああ、任せな」

 万が一、ということでルイズは既にカリーヌの計画を聞かされいた。だが、実際にそうなるとは予想していなかったのだ。
 今のルイズには、ザボーガーがこうも簡単に敗れるとは想像も出来なかったのだから。

「早く!」

 再び霧を生み出すモンモランシー。キュルケはタバサを抑えつつも、細かいファイヤーボールで三ッ首の視界を狭めようとする。

 ……逃がすと思うか

 三ッ首が動き、三つの牙が同時にホークを砕く。悲鳴を上げるシエスタ。
 しかし、ホークは破壊されながらも牙を抑え込む。

 ……邪魔だ

 ホークが最後の力を発揮しようとする寸前、ザボーガーが三ッ首の背後に現れる。
 振り向こうとし、ホークにしがみつかれる三ッ首。

 ……貴様!

 浴びせられる電撃、今度こそ砕けるホーク。だが、ザボーガーが三ッ首に肉薄する。
 ようやく振り向いた三ッ首は気付く。
 このザボーガーの左肩が砕けていないことに。
 ザボーガーに似せて作られた、ギーシュのゴーレムが砕け散った。

「苦労したんだ、引っかかってくれて嬉しいよ」

 吼える三ッ首が見たのは、輝く鏡の向こうへと走り去るザボーガーの姿だった。

「精々吼えな、今頃……」

 イザベラが憎々しげに微笑んだ。

「ガリア全騎士団を率いた王が、アルビオンと共にアンタの城をぶちこわしている頃だよ」

 メカアーミーとて、一機に多数で掛かれば倒せない相手ではない。
 それが、ガリアの誇る「裏」騎士団も含めてならば尚更だろう。 

 だが、イザベラはまだ知らなかった。
 ワルドの真意を。



「ほお……」

 ワルドの口元が笑みの形に歪む。

「なるほど、そういう事情だったのか、無能王。泣かせるじゃないか」

 ならば、約定通りに手伝ってやらねばなるまい。
 ワルドの心が再び揺らぎ、風原石を捉える。そこからさらに、ハルケギニア全土の地下に埋まった風石群へと心は飛ばされる。
 ガリア地下の風石を、ワルドの心は捉えていた。

「ふむ。少々過激すぎるかな。まあ、構うまい」

 ワルドの笑みが深まる。

「さらばだ、ガリア。そしてロマリアの虚無よ」

 大隆起の引き金が引かれる。

 その日、ガリアは滅びを迎えた。




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