あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

アクマがこんにちわ-23


戦場と化したはずのアルビオンの首都ロンディニウムで、略奪にいそしむ傭兵達の姿があった。
貴族派は王党派打倒のため、手柄のあった傭兵部隊に大金を支払う約束をしていた。多数の傭兵は目立った手柄など立てられなかったが、その穴は略奪で埋めるというのが常套手段であった。
積極的に城を攻め落とし、残された財宝を手に入れようと戦う者もいれば、早々に町中の裕福そうな館に押し入って略奪を行う者もいた。



「何か、物はあったかよ」
「ろくなものはねえ、くそっ、ハズレか」

首都ロンディニウムの家々を物色していた盗賊が、いらだちを隠さずに声を上げた。
本業は盗賊で副業が傭兵、そんな彼らは攻城戦を早々に離脱し略奪を行っていた。

金目の物が残されていないとわかると、盗賊は不満そうに空の食器棚を蹴りつけた。
裕福層にとって、食器は調度品であり、調度品は財力の象徴でもある。それが無いと言うことは、どこかに隠されているか、持って逃げたのだろう。

「どっかに隠したって様子じゃねえな、ああ畜生、女でも隠れてりゃなあ」
腹いせにテーブルを蹴飛ばすのを見て、別の盗賊がニヤリと笑みを浮かべる。
「…そのあたりが怪しくねえか、食器棚の後ろだ」
「これか、…そうだな、隠し部屋ぐらいあるかもしれねえ。 おらよ!」

一人が食器棚を引き倒す、すると予想通りそこには扉があった。

「昨日みてえな女、隠れてねえかなあ」
「昨日はおまえが先にやったせいで売り物にならなくなったんだからな」
「俺のせいじゃねえだろ?おまえが首を絞めたから死んだんだよ、俺は殴っただけだ」
「ばか、顔殴ったら売り物にならねえ、せめてあっちの方が役に立てばいいのに、おまえが無茶したせいで」

ばきっ

「 あぶっ」
「あ?」

突然、扉が吹き飛び、ドアノブを掴もうとしていた盗賊が部屋の隅へと転がった。

「メイジか!?」
魔法で扉ごと吹き飛ばされた、そう考えた盗賊達は一斉に武器を構えた。隠し部屋には、顔に入れ墨を入れた男が立っている。こいつがメイジだろう、と。

男が隠し部屋から足を踏み出すと、入り口の影に隠れていた盗賊が叫んだ。
「…う、おおっ!」
杖は持っていない!そう判断した他の盗賊も、男へ剣を突き刺す。

やった!そう思った。誰もが男の血が噴き出す様を想像した。
だが実際に血を吹き出したのは、剣を向けた盗賊達であった。
盗賊の一人は自分の頭に剣を振り下ろしていた、またある者は自分の腹に剣を突き刺し、またある者は自分の顔に剣を突き立て貫通していた。

「あ、あひ」
「なに、なにが」
残った盗賊二人は、突然自殺した仲間の姿を見て、得体の知れない悪寒に襲われた。
男の顔に見える入れ墨は、暗黒の底へ繋がっているようであり、その『穴』から自分が見られている気すらしたのだ。
「うわああああああああああ!!」
なりふり構わずに叫び、逃げようとした盗賊の背後から、男はポケットから取り出した小さな青銅のつぶてを投げた。
つぶては逃げようとした盗賊の脳幹を破壊した、叫び声にならない声を上げながら、廊下の壁に激突し、そのままばたばたと足を動かして…しばらくの後、完全に動きを止めた。
「あ、ああああああ」
最後に残った一人は、足をばたばたと動かしながら失禁していた。
手に持っていた斧を投げ出し、命乞いをする。
「たすけてください、ころさないで、ころさないでください」
「質問に答えろ」
「はい、はい!」
「外の様子はどうなってる?城はどうなった?」
「し、城はもう瓦礫まみれのはずで、へえ、今頃、お宝探しに殺到してる頃で!」
「レコン・キスタの陣地は?」
「あ、あのナントカってでかい建物、王宮から西にちょっと離れた場所に」
「それは本陣か」
「いいえ、本陣はあっしらも知りません!本当です!」
「この辺りに、お前達以外に傭兵が居て、家々を回って略奪をしているのか?」
「いることはいますが、そんなには多くねえと思いやす、貴族の建物がある場所じゃありやせんから…」

「そうか…ああ、ところで、さっき誰かが言っていた、昨日の女ってのはどうした?買い取ってやってもいい」
「へ……買い…取る、ですか」
「そうだ。金貨ならある」
「へ、へへ、ああ、昨日の女ね、昨日の女…い、いや、そいつは、ジョンが殺しちまったんです、それにあんまりいい女じゃありませんでした!お望みならもっといい女を捜してきます!」

恐怖が薄れてきた盗賊は、これがチャンスだと思い、必死で気に入られようと言葉をまくし立てた。

「 だまれ 」
ベキッ


■■■


「………デルフ、周囲に人は?」
『俺の解る範囲には居なそうだ』
「そうか」
人修羅はデルフリンガーと共に周囲の気配を探り、家の周囲に誰もいないことを確かめると、盗賊達の死体を一瞥した。
「…くそっ」
『相棒、おめえ…』
「なんだよ。ハッキリ言ってくれ」
『相棒が何を経験したのかいまいち解らねーけど、相棒は心の中で謝りながらこの家に食料を探しに来たんだろ? 罪悪感の欠片もねー連中とは絶対に別モノだ』
「…気を遣わせたな。デルフ」
修羅は深呼吸すると、隠し部屋で眠っているルイズの額に手を置いた。
窓から差し込む明かりは少しずつ縦に伸びている、夕方が近くなっている証拠だ。

『爆発』で自分の体を焼いたルイズは瀕死の重傷を負った、人修羅の『メディアラハン』で完全に治癒されても丸一日眠ったままであった。
ワルドに裏切られたことがショックだったのか、それとも魔法の影響かわからないが、人修羅でもどうにもならない事態に陥っていた。
優しく、ルイズの額に手を乗せる。熱はない。呼吸も正常。生命力も魔力も満ちている。それなのに目覚めない。


「食料もない。ルイズも目覚めない。少ないとはいえ盗賊は辺りをうろついている。夜までここに留まるべきか…」
『俺が辺りを見回せば、相棒には見えない物陰まで見通してやれる、すぐ移動した方がいいんじゃねーか?こんな盗賊がまだまだ来るかもしれねーしよ』
この場を離れるべきと考えているデルフリンガーは、自分を使えと言うが、人修羅には別の懸念があった。
「使い魔や、竜騎士に発見される可能性は?」
『あいつらは夜目も利くから意味がねーな』
「そっか、夜目が利くなら昼夜の意味はないな。…あとワルドのことだ、奴がこちらの特徴を伝えていたとしたら、レコン・キスタに囲まれるかもしれない」
『どっちにしてもよ、周囲の状況が解らなきゃ動きが取れねえ。人の気配を探りながら町外れまで行って、逃げ出せそうなら逃げる』
「『逃走加速』しても風竜相手だときつい…逃げ出しやすい位置を取るのは賛成だ」

人修羅はクローゼットから地味な配色の服を探した。
女性の使用人が着ていたと思しき服を見つけると、それをルイズに着せ、フードをかぶせた。
ルイズに着せていた自分の服を着直すと、ポケットに詰め込んだ青銅のつぶてや、平たくした五寸釘のようなナイフをベルトに刺し直し、デルフリンガーの鞘を胸の前で斜めにかけなおす。

ルイズを背負った後、風呂敷包みのように布で体を固定する。

「よし。行くか」

人修羅はデルフリンガーの先導に従い、注意深く裏通りを進んでいった。


■■■


アルビオンの首都ロンディニウムは、過去に大火に見舞われ大きな被害を被った。当時の王は防火の観点から、石造りの家を推奨したとされている。
土地勘のない人修羅にとって、似たような家の並ぶ城下町は迷路のようなもので、頼りになるのは日影の向きだけであった。
戦場の音、つまり大砲の音や怒号はもう聞こえてこない。城は陥落したのだと嫌でも理解できた。

ルイズを背負ったまま、不規則に立てられた家々の間を走り抜けていくと、途中の家々から人の気配が感じられた。
この戦争はあくまでもニューカッスルの城を落とすための物であり、町外れに住む人々には直接的な被害はないはずだった。
だが、人修羅の記憶には自分以外の誰かの記憶が、マガツヒと共にすり込まれている。

ある文明では、買い戻すことも可能な『身分』としての奴隷があり、またある文明では『消耗品』としての奴隷があった。
ある地域では都市国家間での祭りを兼ねた争いとして戦争があり、またある地域では征服者による被征服民族の虐殺があった。

無数の戦争の記憶が、人修羅の中にうごめいていた。



人気の少ない草だらけの路地を通り抜け、割れた石畳の上を走り、崩れかけた家々の間をすり抜ける。

この辺りは古い平民街らしく、建物は不揃いな石と木の板で作られている。
乾いた砂だらけの通りは、雨が降れば泥となって足が沈むと想像できる程だ。
道には浅黒い肌の、年老いた乞食の姿もあり、現在は『貧民街』なのだろう。
黄色く変色した野菜を持った子供が、人修羅に視線を向けたのが解ったが、立ち止まる気はなかった。

しばらく走っていると、ロンディニウムを囲む外壁が見えてきた。
外壁は魔法学院よりも低く、防衛と言うよりは境界線として作られているように見える、この程度の高さなら飛び越えても問題はない。
飛び越えようと足に力を入れた、その瞬間、人修羅の視界に何かの影が映った。
「!」
崩れかけた家屋の影に隠れて、遠くの空を見上げると、竜に騎乗したメイジの姿が見える。
王党派の生き残りを捜しているのだろうか、念入りに城下を観察している。
幸いなことに、人修羅に対する特定の視線や害意は感じられなかった。

「こっちを狙ってる訳では…なさそうだな。王党派の生き残りを探しているのか?」

人修羅は少し考えて、ふと、この崩れかけた家屋に着目した。
屋根が半分崩れ、壁も三分の一が崩れているが、隠れるにはちょうど良い空間がありそうだ。
「デルフ、屋内に空間はあるか?」
『んー…地面が掘り下げてあるみてーだ。十分場所はあるな』
「よし。ここで夜を待つ」

竜騎士が向きを変えた隙を見計らって、崩れかけた壁の隙間へと滑り込む。
一休みするには十分な広さがあるが、床には砂が積もり、天井は低すぎるため立ち上がることはできなかった。
人修羅は比較的綺麗な床にルイズを降ろし、デルフリンガーを背中に結び直した。

「誰か近づいてきたら教えてくれ」
『あいよ』

人修羅はルイズの隣に座ると、そっと手を握った。
「ルイズ…」


■■■■■■■■■■■


まどろみのような、温かい液体の中にいるような、安らぎの世界…。
そこにルイズの意識があった。

その世界は無限に広く、永遠とも思える時間があった。

とくん、とくん、とくん……

聞こえてくるのは心臓の音だろうか、一定のリズムが聞こえると同時に、どこからか聞き慣れた声が聞こえてくる。



『そろそろ生まれるだろうか。医師のは数日中だと言うが』
『あなた、子を身ごもっている私以上に気にしてどうするのですか、もっと子供達の前では威厳を持って下さい』
『それは勿論だ。だがな、エレオノールの時も、カトレアの時も、そしてこの子が生まれそうな今も、男の私は何もできん。それが悔しくてな』
『だからといって、うろうろされては気が散ります』
『ううむ…』
『ところで、名前はちゃんと考えているのですか?』
『勿論だ。長男の名前、三女の名前両方考えてあるさ』
『………長男、長女、次はどちらを授かるのでしょう』
『そんなことを考えるなんて、お前らしくない、生まれてくれれば、それが何よりのことだ。男か女かなんて、王宮の連中が何を言ってるのかなど気にするな』
『…ええ、大丈夫』
『おまえとわたしの子だ。元気に生まれてくるさ…』



ルイズはその声に聞き覚えがあった、とても身近な人の声で、安心出来る声。
生まれる前から聞こえていたのだろうか、間違いなく父と母の声だった。
男か女か…王宮の誰かが言ったのであろう、その言葉の悪意を感じたのは物心ついてすぐの頃だった。
何処かの庭園で園遊会が行われた時に、ルイズを見た誰かが、わざとらしく『長男でないとは残念ですね』と言ったのを覚えている。
その言葉の意味は解らなかったが、その時はじめて父を怖いと思い、母が悲しそうにしていた。
その時からずっと心の奥に、得体の知れない不安が渦巻いていたのだろう。
自分は生まれてきてよかったのか、本当は、男の子が生まれるはずで、私は何かの間違いなのかと思ったことがある。

そして私は魔法が使えなかった。
どれだけ練習しても、何度も何度も繰り返しても、爆発するばかりで、一つとして魔法ができない。
その時から母は冷たくなった、父は厳しくなった。
私は落ちこぼれだから人一倍やらなきゃいけないんだ、魔法以外のすべてが完璧でなければならないんだと、そう思った。


でも今は、私が嫌われていたのではないと解る。

母は私たち姉妹誰に対しても冷たく、恐ろしかった。父はとても厳しいけど、とても優しくもあった。

何度も聞いた言葉が、意識の中でこだまする。
『貴族として』『貴族らしく』『貴族ならば』『貴族の』『貴族は』……

母は私を貴族として育てようとした。
父は私を娘として愛してくれた。
エレオノール姉様は私の失敗を見つけては怒り、学問を教えて欲しいと頼んだときは魔法学院以上に丁寧に教えてくれた。
カトレア姉様は私に、人を傷つけてはならいことと、家族は私をずっと心配しているのだと言い聞かせてくれた。



それなのに


わたしは


私は…


ここで眠っていて、いいのだろうか


いいはずがない

それでいいはずがない!

目を覚まさなきゃ

目を覚まして、私は私のやるべき事をやらなければ!

心地良いまどろみから、出なければ!!!




「ルイズ」

はっきりとした誰かの声が、ルイズの意識に届いた。
誰かが自分の手を握って、呼びかけている。

「ルイズ!」

「人修羅!」


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「あ、ぐっ」
「ルイズ、ルイズ!」
「…は、ああ、人修羅?人修羅!」
「大丈夫か? 痛いところはないか?」

ルイズは暗闇の中で目を覚ました、ぼんやりと光る人修羅の姿は、消えゆく陽炎のようにも見えた。
だが、ハッキリとした手の感覚がある、人修羅はルイズの手をずっと握っていた。そしてルイズも、人修羅の手を強く握り替えしていたのだ。
「人修羅…ここにいるのね。私も、ここにいる…よかった」
「落ち着いた?」
「ええ、もう、大丈夫」

微笑みを浮かべたルイズが立ち上がろうとするのを、人修羅が慌てて制止した。
「ちょっと待て、ここは天井が低いんだ、頭をぶつける」
「天井?あ、うん…そういえば、ここは何処? どうなってるの?」

きょとんとした顔で問われ、人修羅は言葉に詰まった。
自分の体を吹き飛ばすような酷い目にあった後なのに平然としているのは、あまり良い兆候とは思えなかったからだ。

「どこから話せば…あのさ、ええと、ルイズはどこまで覚えてる?」
「ワルド様…いいえ、ワルド子爵の指輪をつけて、私が操られて、それで、私の魔法が私を吹き飛ばして…あっ、そういえば、腕が治ってる」
「腕、ああ。腕は治せた。ってことは、自分の怪我の様子まで覚えていたのか?」
「ちょっと違うの、あの、変な夢を見て…人修羅が出てきたと思うのだけど、その時私、片腕が、あ、それだけじゃなかったけど、酷い怪我になってたのは何となく解るわ」
「じゃあその時までのことはちゃんと覚えてる、って事だな…」

人修羅は、ルイズと別行動の間何があったのか、ルイズが魔法を使ってからどうやって逃げてきたのかを話した。
ミス・ロングビルを見送り、ウェールズ皇太子を助けたが、ワルドには逃げられてしまい、水のルビーも紛失…その後なんとか人目を避けて城下町まで逃げた、と。

「殿下は、生きているの?本当に?」
「ああ。衛士…だと思うが、側近の二人が別ルートから逃げると言っていた」

ルイズは辛そうに俯いたが、辛さに耐えて顔を上げ、人修羅の顔を見た。
「人修羅。あなたが居て良かった…。殿下がワルドに刺されて、私は、殿下を見殺しにしたのよ。でも、何とかしてくれたなんて、本当に…」
「違う。俺だけがやったんじゃない。ルーンを通して聞こえてきたんだ、ルイズの声が。だから助けに行く事ができた。…体は操られても、心は操られなかったんだ。よくやった」

人修羅がルイズの両肩に手を置き、優しく抱きしめた。
「うん…。人修羅、ありがと…」




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



その頃。 ガリアの宮殿、プチ・トロワ。

「うんしょっ」
「もう少しだホー」

イザベラは杖を宙に浮かせ、その上に立つという遊びをやっていた。
遊びと言うには少々特殊かもしれない、何せ足場は水に浮いた木片のようにふわふわと動くのだから、相当なバランス感覚が要求されている。
「上手だホー」
「おっとっと…慣れると結構面白いものだね。と、おっと、あら、あわっ!」

ひゅるんと杖が回転し、イザベラはたまらず尻餅をついた。
床にぶつかれば痛いはずなのに、まるでクッションの上に落ちたような感触だった。
イザベラは「ベッドの上じゃないし何?」と自分の下を見る。
「ヒホー…」
「あわわわっ、ヒーホー!大丈夫かい!?」
「大丈夫だホー、マダに踏まれるより軽いホー」
「ごめんよヒーホー、マダってのが何だか解らないけど、落ちても大丈夫な高さでやってるんだから、お前が私を受け止めようとしなくていいんだよ」
「ん~~でも、痛そうなのは嫌だホー」
「……あああああああもうヒーホー!お前は何て可愛いんだ!」
「ホ~~~」
感極まったイザベラがヒーホーを抱きしめ、ごろごろと転がりだした。
しばらくして目を回したイザベラは、フラフラになりながらベッドへと腰を下ろした。

「さて、汗をかいたし、湯浴みをしたら寝ようか。お前湯浴みが嫌いだなんて、勿体ないねえ…一緒に入りたいのに」
「嫌いじゃないホー、苦手だホー」
「どっちでも同じさ。さて…」

床に落ちたままの杖に手を向け、くるりと手首を回転させる。すると杖は操り人形のようにぴょこんと起き上がり、ふわりと風に運ばれてイザベラの手に収まった。
自分の身長ほどもある杖を頭上で回転させると、空気中の水分が集まり、宙に直径1.5メイル程の水球が形成されていく。
「むむ…やっぱりまだ難しいね。『火』の動きまでは…ああ、お湯にならない…。まあいいか」

イザベラは無造作に服を脱ぐと、宙に浮いた水の球体へ飛び込んだ。飛沫が上がることなく、するりと水の球体に入り込むその姿は、飛び込むと言うより滑り込むといった方が適切かもしれない。

「イザベラちゃん凄いホー」
ヒーホーが大げさに手を叩いた。
「でも、こんなのは、ヒーホー達の魔法じゃ、初歩中の初歩なんだろ?この間夢に出てきた、スカアハと、オーデーンが言ってたじゃないか」
「あの二人から見たら何でも初歩になっちゃうホ」

「ぬるいけど、気持ちいいや…ふふ、自分が魔法でこんな事まで出来るなんて、ふふふ、ふふふ」
笑みを浮かべたイザベラが、息を止めて水中に潜り込む。くるりくるりと球体の中を泳ぐと、球体の真下からするりと抜け出し、杖を握りしめて体に熱を集めた。
みるみるうちに髪の毛まで乾いていき、寝るとき専用のキャミソールに着替える。

「さーて花壇に水をやるかね」
イザベラが杖を窓に向けると、『念力』で窓を開け、水の球体を風で削り、雨のようにして外の花壇に降らせた。
「エアロスが楽しそうだホー」

ヒーホーが見たイザベラの表情は、とても明るく、喜びに満ちていた。
ヒーホーが来る前からはとても想像できないほど、イザベラの心は満たされている。
精霊は、命令を与えても動いてはくれない、お互いに喜びを感じたとき最も力を発揮してくれる。
そのことに気づいてからの上達は早かった。
戦闘力では、一般的なラインクラスのメイジに劣るが、手足のように魔法を使いこなすという点でならトライアングルにも勝る部分があった。

今はまだその力を無邪気に楽しんでいる。
だが、次にタバサと向き合うとき、果たしてイザベラは優しいだろうか?

「ニンゲンも、アクマも仲良くしたいホー」
ヒーホーの呟きの意味が、今のイザベラにはまだ解らなかった。

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