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ゼロのペルソナ 第16章 魔術師


タバサがアーハンブラ城に監禁されてから数日が経った。
出歩くことは当然許されない彼女の日課になったのは、母に『名も無き勇者』の本を読み聞かせることだ。
それはハルケギニアに広く親しまれている英雄譚である。
これと言った原点がないため、筋書きや登場人物が大きく違うものが多数存在する。
特に特徴的なのが、主人公であるはずの主人公が定まっていないことである。
平民であることもあれば、メイジであったり、青年の戦士であったり、平凡な少年であったり、人ですらないものも少なくないという。
まさしくタイトルどおり『名も無き英雄』である。主人公が違えば別の物語として認識されそうなものだが、共通点として3種の怪物と戦うことであろう。
そして一般的なものではそれらを倒して囚われの少女を救い出すことである。
『名も無き勇者』はタバサがよく母に読んでもらった本である。
幼いころ、むずかるタバサを寝かしつけるために枕元でよく本を読んでもらった。今とちょうど逆の立場で。
こうして本を読み聞かせているのは、そうしていると母が暴れないからだ。
母は人形のシャルロットがないと暴れ始めるのだが、なぜかこの本を読んでいるとなくても落ち着くようだ。
それに気付いて以来タバサは母に本を読み聞かせている。
エルフの心を狂わせる薬が完成するまでだが、それでも今までの暗い任務をこなしてきた日々よりもずっと有意義な時間に思えた。
母に読み聞かせながらタバサは昔を思い出していた。自分は昔この本を読みながら憧れた。
勇者にではない。助けられる少女に憧れた。楽しいながらも、退屈な日常から連れ出してくれる勇者を待ちわびた。
タバサは奇妙な感覚を覚えずには居られない。かつて憧れたものに自分はなっている。憧れの囚われの少女に。
違うのは自分を助けるものはいない、いや、いてはならないことだ。
それでも彼女の頭の中に使い魔の姿が思い浮かぶ。彼だって例外ではない。彼はエルフに敗れたではないか。
それでも……と本を読み、空想が得意な少女は仮定の話を想像してしまう。
もし自分を助け出してくれれば彼は勇者なのであろうか?
調子が良くて、力はあるはずなのにどことなく頼りない使い魔の姿を思い浮かべてタバサは心の中で苦笑した。
彼は勇者というがらではない。なんというか、そういうかっこいいものは似合わない気がする。
失礼なことを考えてると思う。しかし、使い魔のことを考えると心が暖かくなってきた。
その時扉が開いて、タバサと母だけの部屋にエルフが入って来る。
しかしタバサは突然の来訪者に構わず読み聞かせを続ける。
この数日間もそうだった。母との大切な時間をジャマされるつもりはない。
ビダーシャルは少し言いにくそうにしていたが、すぐに喋り始めた。
「薬の準備がじきに出来る。すぐにというわけではないが、もう長くはないだろう」
長くはないという言葉には主語に自分がつくことは言われなくとも分かった。
最後の正気でいられる時間を慮ったからなのかは知らないがそれだけ言うと彼はすぐに去っていった。
とうとう時が来たことを知る。もう自分が正気でいられる時間は長くないのだ。
だが、何も恐れることはない。これからはずっと母と一緒にいられるのだ。だから何も悪いことではない。
そう自分に言い聞かせながら本を読み続ける。
『名も無き勇者』を読んで、終ったら、また初めから読んでを繰り返す。それがもう何週目なのかわからなくなったとき、なにやら騒がしいことに気付く。
それでも読み聞かせを続けていたが、喧騒は大きくなり母は怯えてベッドの中にもぐりこんでしまった。
タバサは窓から外を見た。月が出ているとはいえ、もうすでに夜も更けている。
そのため見通しは悪いものの、松明がところどころあるため兵たちの様子が見える。なにやらいざこざが起きているらしい。
よく見てみると、他の兵士に殴りかかっている者も居れば、ぼーっとしているもの、なにかバラ撒いている者もいる。
その光景にタバサは既視感を覚え、すぐに思い出した。これはかつてアルビオンへ行く前にラ・ロシェールで襲撃を受けた際に見た光景に似ている。
その時、敵は味方を襲い所持金を撒いていた。そしてその状況を作り出したのは陽介であった。
彼が来ている。そう確信する。
急いで廊下へ出る扉に駆け寄るが、やはりロックの魔法がかけられていて出ることが出来ない。
タバサの手には杖がなく、杖がなければ北花壇騎士団として恐れられたタバサも扉一つ開けられない無力な少女でしかない。
きっと彼は自分を助けに来たのであろう。なぜ助けに来たのだろう。彼だってエルフに敗れたというのに。
焦燥に駆られながらも、心にかかる重石が軽くなったことに彼女は気付かないでいる。
アーハンブラ城が建つ丘の麓は活気のある町がある。それは初めは小さな宿泊所だったのだが、交易所になり現在まで発展してきたのだ。
もともとエルフに築かれたアーハンブラ城は幾何学的な模様が刻まれていて、双月が輝くときには人々の視線を集める美しい幻想的な城となる。
時刻は深夜。魅入られたわけでもないのに、その城を見つめる5人の集団がいた。陽介たちである。
「混乱しているわね」
キュルケはアーハンブラ城を観察していた。城内を1000以上の兵が暴れまわっている。
城に詰めていた兵たち以上の数の兵が暴れまわっているのだからこれ以上混乱しようがないほどであろう。
今、神秘的な城を襲っているのは陽介のテンタラフーとそしてルイズのイリュージョンだった。
イリュージョンとは本物に近い幻覚を作り出す“虚無”魔法だという。つまりルイズは虚無魔法の使い手というこただ。
本人がそう言い、デルフリンガーや完二や陽介が言ったため、信じてはいたつもりだ。そうでなければ親友を救うために連れてきたりはしない。
それでもやはり頭で信じるのと、見るのとでは違う。
「まさか虚無が、ルイズがねえ……」
同じく城の様子を窺っていた陽介が指示を出した。
「よし、んじゃ突撃すんぞ。あのエルフを見たら……わかってんな?」
全員が頷いた。
5つの影が混乱する城の中へと入っていく。
ガリア王の姪に飲ませるための薬が完成したとき、ビダーシャルは外が騒がしくなっていることに気付いた。
窓の外を覗くと多くの兵がなにやら暴れまわっているようであった。
彼はアーハンブラの城の土地と契約を交わしたので城内のことが感じられるが、ガリア兵300のほかになにやら妙な存在を放つものが現れた。
なにやら存在しているのかしていないのか判然とせず、しいて言うなら存在感のある霞のようなものであった。
ビダーシャルが今まで感知したことのないものに困惑していると次は別の5つの存在が城内に侵入してきた。
それらは間違いなく実体のあるものだった。その足取りは速く、なにかしらの目的があるのがわかる。
間違いなくシャルロット親子の奪還であろう。他にこの城に侵入する価値のあるものなどない。
どうやらガリア王の言ったとおりの展開になったことをビダーシャルは認めた。
そしてビダーシャルは自己の任務を全うするため部屋を出た。歩きながら5人の侵入者は途中で3組に分かれたことを察知する。
おそらくあの親子がどこに監禁しているのか知らないのであろう三方向別々の方向へ向かっている。
しかし3組に分かれたうち一人になったものは――おそらく偶然であろうが――監禁している場所へとかなり近いルートをとっている。最初に狙う標的をそれに定める。
ビダーシャルが幾つかの階段を下りて、廊下を歩んでいった。ビダーシャルの警備すべき対象と侵入者の奪還対象に向かう道合で男に出会う。
それは人の身でありながら使い魔と名乗った男であった。
「また貴様か。何の用があってここに来た」
尋ねられたほうは臨戦態勢で答えた。
「わかってんだろ?タバサを返せ」
「それは出来ない相談だな。早く去るといい。エルフは戦いを好まない。もし貴様がこのまま引き下がるなら何もしない」
「はい、そうですか。って引き下がれるわけねーだろが」
シャルロットに陽介と呼ばれた男はビダーシャルの申し出を跳ね除けた。
「交渉は決裂だな」
「当たり前だ。ペルソナ!」
陽介の背後に青いキャンドルに火をともしたような外見のなにかが現れた。
それはビダーシャルの目には亜人のように見えた。前回のときもそうであったが、おそらくあれは目の前の男の力なのであろう。
博覧強記なエルフであるビダーシャルもそれがなにかは知らなかったが、ただ自分の敵足り得ないことは前回の攻撃でわかった。
突然現れたそれは力をビダーシャルに向け放つ。光弾がビダーシャルに当たるが傷一つない。
次はビダーシャルの反撃の番だった。
「意思に潜む精霊の力よ。我は古き盟約に基づき命令する。礫となりて我に仇なす敵を討て」
ビダーシャルの周りの城が、城を作る石がめくりあがり空中で爆発して陽介へと飛んで行く。
その標的となった男は石の散弾をよく避けた。しかし全てはかわしきれず、いくらか石の散弾を喰らう。
「吠えろ!スサノオ!」
ダメージを受けつつも目の前の敵は再び炎の亜人のようなものを呼び出した。
ビダーシャルはこの城の全ての“精霊の力”と契約している。どのような攻撃も彼を傷つけることはかなわない。
無駄なことを。
しかし、そう思ったビダーシャルの体は疾風の刃で斬りつけられた。
「よし!」
陽介は疾風呪文ガルが通用したのを見てガッツポーズをとる。
エルフに攻撃が通じたの理由は最初にエルフに放った魔法がその答えとなる。
疾風ガードキル、ガードキルは敵のある一つの属性耐性を完全に打ち消すものだ。
陽介が疾風ガードキルを持っているように、クマは氷結ガードキル、完二は電撃ガードキルを持っている。
デルフンリガーに優れた使い手のエルフはあらゆる耐性を持っていると聞いて、二人に授けた秘策もこれだ。
疾風ガードキルはエルフの反射のうち疾風への反射を消滅させ、風の刃の通り道を作ったのだ。
その結果、魔法使いにどんな魔物よりも恐れられ、陽介を一度は退けたエルフは陽介に膝をついている。
「貴様……いったい何を……?」
そういった事情を知らないエルフは膝をついて息を切らしながらそう言った。
「教えてやってもいいけど、その前にタバサがどこにいるか教えてもらうぜ。あいつは今どこにいんだ?」
しかし、その質問に答えようとする様子はない。膝をついている男に近寄ろうとする。
しかし傷ついたエルフが指輪を触ったかと思うと彼の体が糸で操られた人形のように浮かぶ。
それから陽介を襲うためにつぶてとなったために穴が開いた壁から、浮かんだ体は飛んでいった。
しばらくポカンとして見つめていたが、自分のすべきことを思い出し、駆け出した。
突然爆発音のようにも聞こえる激しい音が聞こえてきた。
タバサは戦いの始まりを感じとる。
まさかビダーシャルが?そして戦っている相手は?
彼女は情報が欲しくて扉に耳をくっつける。それが囚われの彼女に出来る唯一のことだ。
爆発音は再び聞こえてくることなかった。じっと耳を扉につけてしばらく経って別の音が聞こえてきた。
それは足音だった。
風系統の使い手として鍛えられた耳を持つタバサの耳はそれを認識する。
エルフのものでも、兵隊のものでもない。
この世界のものではない足音。
ルイズの使い魔でも、キュルケの使い魔でもない。
珍しい靴の形。見たことも聞いたこともない、柔らかい足音の響く靴。
「タバサ!どこだタバサ!」
自分の使い魔の声、足音、彼の音。
「ヨースケ……」
タバサの喉からか細い音がもれる。
彼女を探す人物は気付かずにまだ彼女の名前を叫んでいる。
「ヨースケ!」
タバサは大声で自分の使い魔の名を呼んだ。自分でもこんな声が出るのかと驚くほどだった。
「タバサ!?どこだ、どこにいんだ?」
足音が近づく。
「ここ、助けて!」
タバサは自分の使い魔に助けを求めた。ドンドンとタバサは扉を叩いた。
足音はタバサのいる扉越しに立つ。
「待ってろよ、ぶっ壊すから離れてろ!ペルソナ!」
言われたとおりタバサは扉から離れる。
扉が強い衝撃を受けて真ん中から折れ曲がりながら吹き飛んでいく。
自分と母だけがいた部屋を、自分と母だけがいた世界を仕切っている扉が壊される。
扉の向こうに見えるのは、黒い服、首にぶら下げたよくわからないもの、そして茶色い髪。
彼が部屋に入って来るよりも早く、彼女は扉を、壊された扉を飛び出す。
「タバサ、無事か……うお!」
タバサは陽介に抱きついた。
そして子供の頃のように泣いた。忘れていた安堵の涙を流した。

おとぎ話のように捕らえられた少女。
少女を牢獄から連れ出したのは勇者ではなく彼女の使い魔だった。


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