あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

GOTHIC DELUSION ZERO02


ローは怒っていた。
自身の不甲斐無さと突如起こった理不尽に。

それは、ほんの少し前のこと。
ローは襲撃者たちの周到な罠に落ちてしまっていた。
学校を戦場にされ、大好きな不可咲貴路や吹摘遥を自分たちの戦いに巻き込んでしまう。

襲撃者たちはその時のローよりも圧倒的に強く、戦えば敗北。
ひいては死さえも覚悟しなければならなかった。
だが、勇気を振り絞ってローと共に戦った貴路の機転。
そして、二人とは別の場所で襲撃者の一人を食い止めた遥の奮闘。
更には襲撃者たちの誤算など、いくつもの要素が重なり、何とか彼らを退けることが出来た。

傷だらけになりながらも、ローたちの平穏は守られた。
……その筈であった。

そう思った矢先に、ローたちの目の前にまた新たな敵が現れた。
その名はファルシュ・レイミア・ヴァレンタイン。
今のローと同じようなゴシックロリータの服を着た美しき少女。
彼女は襲撃者たちをも超える圧倒的な力を以って、ローと貴路をあっさりと打ちのめす。
その上、彼女はローが一番信頼していた伯爵を映像ではあるが、その場に連れて来ていた。

突然現れた伯爵が告げたのは、残酷な真実とローを見捨てることであった。

伯爵への絶対の信頼をいとも容易く打ち砕かれたローは絶望し、その場から逃げ出した。
それは、大好きな貴路を敵……レイミアから遠ざけるという意味も含まれていた。

ローはそのまま死ぬつもりであった。
生きる意味も支えも全て失い、何も残らない空っぽな小さき少女の命は今にも消えてしまいそうであった。

だが、そんな彼女を救いに来たのは貴路であった。
貴路は告げる。

自分がローの支えになると。
ローが辛い時、苦しい時には必ず自分が傍にいると。

泣いている子には何をしてあげられるか?

その答えを貴路はローへと告げたのだ。
自らの意思で。

それは、人間であることを捨てる選択でもあった。
ローはその優しさを受け入れたいと思いつつも、躊躇いがあった。
巻き込んでしまえば、貴路が危険な目に遭ってしまう。
もしかしたら死んでしまい、二度と会えなくなってしまうかも知れない。
そう思うと、自分の気持ちとは裏腹にローは貴路の申し出を断るようなことを口走っていた。

だが、貴路にとってはそんなことはどうでも良かったのだ。

あの夜、トランクの上で寂しそうに座るローに声を掛けたのは、決して同情などでは無い。
ここへ繋がる運命の始まりだったのだ。

かくして、貴路はローの遂<ミニオン>となり、ローと共にレイミアと改めて対峙する。
その戦いは儚くとも厳しく、悲しくとも優しいものであった。

死闘の末、レイミアを討ったローは彼女のあまりにも救いの無い死を悲しみ、そして自身の運命へ立ち向かおうと決意する。
……事件が起きたのはその直後だった。
目の前に突如謎の鏡が現れたのである。

「な、なんなのだ、これは!?」

先の戦いにて疲弊していたローであったが、また新たな敵の攻撃かと警戒し、鏡を調べようとした。
そうして鏡へ触れた瞬間、ローの体は鏡の中へ吸い込まれる。

「うわあああ」
「ロー!!」

貴路はローへと手を伸ばして鏡から引き離そうとするも、それが出来なかった。
ローの遂<ミニオン>となり、人外の力を手に入れた貴路ではあったが、鏡がローを引っ張る力は物理的なものでは無いらしく、力を込めても彼女が鏡の中へ吸い込まれるのを止めることが出来ない。
そして、そのまま一緒に飲み込まれてしまった。



これが、少し前の出来事である。

鏡の中で気を失っていた二人ではあったが、先にローが目を覚ました。
顔に当たる草がちくちくしてむず痒い。
ぼんやりとした意識のままゆっくり体を起こして周りを見回すと、何処かの広場にいるようであった。
鏡の中へ入った時のことはよく覚えてはいないが、中にいる間は変な感じがしていたことは覚えていた。
その感じがしないということは今ここは鏡の中では無いのだろうとローは思った。

「……たかみち?」

意識がハッキリしていくにつれて、ローは一緒に鏡の中へ入った筈の貴路の姿が何処にも見えないことに気付いた。
慌てて気を集中し、貴路を探す。
遂<ミニオン>になった貴路とローはとても深い繋がりを持っている。
それを利用すれば、貴路の姿を探すことは不可能ではないだろう。

(たかみち……たかみち……!!)

ローは不安だった。
そして、恐れていた。
貴路を失うことを。
貴路が自分の傍からいなくなってしまうことを。

ローは遥のことを思い出す。

自分よりも長い間、貴路のことを強く想っていた遥。
ローは遥のその想いを知った時、自分は彼女に勝てないと悟った。
彼女から貴路を奪い、遂<ミニオン>にすることは不可能だと確信した。

その夜、ローは泣いた。
悔しくて、切なくて、悲しくて、ローは涙を流した。
だが、ローは遥が好きだった。
そんな風に真っ直ぐ貴路を想える遥が大好きだった。
だから自分は貴路から身を引こうと決心した。
それは、幼い彼女が初めて経験した失恋でもあった。

しかし、その遥では無く、出逢って僅かな時間しか共にいなかった自分を貴路は選んでくれた。
貴路は何時でも自分の傍にいてくれると言ってくれたのだ。
胸も無い、料理も出来ない、想いの強さも遥には及ばない。
そんな自分でいいと。
受け止めてくれると言ってくれたのだ。
(たかみち!!)

『ロー……』

「……!!たかみち!!」

心の経路が繋がり、貴路の呟くような声が聞こえる。
それと同時に、彼の居場所も特定出来た。
今、ローがいる場所とそれ程離れてはいないみたいだ。

「プライス<鞄>!!」

ローが呼ぶと、彼女と同じ大きさぐらいのトランクが独りでに車輪を回しながらやって来る。
どうやら、ローの持ち物もこの世界へ持ち運ばれたらしい。
ローはプライス<鞄>の上に華麗に飛び乗ると、そのまま貴路がいると思われる場所まで急いだ。
すると、何やら人だかりが出来ているのが見えて来る。

(あのなかに……たかみちがいる!!)

ローはスピードを緩めることなく、そのまま人だかりの中へと突っ込んだ。

「うわあ!!」

突如背後から襲って来た何者かに、何人かが思わず道を開ける。
その隙間を突っ切り、ようやくローは貴路の姿をその目で捉えることが出来た。

(いた……)

貴路がそこにいた。
それだけでローの中に安堵と嬉しさが湧いて来る。
自らの声で呼び掛けようとしたその時、ローは見た。

一人の少女が何やら怪しげな力を纏いながら、貴路へキスをしようとしているところを。

「やめろ!!!!」

気が付くと、ローは考えるよりも先に叫んでいた。

嫌だった。
少女の唇を通して、貴路に怪しげな力が干渉することよりも。
自分では無い、他の誰かに……それも全く知らない人間に貴路の唇を奪われてしまうことの方が嫌だった。

ローの胸の中が雑音で支配される。

我侭。
嫉妬。
独占欲。

今のローの心情を言葉で言い表すならば、そのようなものが適切だろう。
そう言えば、遥が貴路へモーションをかけていた時も同じような気持ちになったことをローは思い出した。

ローの叫びに、少女は貴路の唇に触れる直前で動きを止めた。
すると、同時に少女に纏っていた怪しげな力も雲散していったのが見えた。
ローは一先ずホッとした後、少女の纏っていた力について考えた。

キス……。
そして力……。
考えられる可能性はいくつかある。

治療。
毒。
使役。
などなど。

もしも治療の為に行おうとしていたならば、少し悪いことをしたなとローは思う。
だが、ふと耳に入った周囲の者の言葉に、思わずハッとなる。

……平民の<使い魔>。

使い魔。

この状況でその言葉は貴路のことを示すのだろうとローは察する。
そして使い魔という言葉が文字通りの意味だとすれば先程少女のしようとしていたことは……。
ローは色濃く浮かび上がった敵意を少女に抱く。

「たかみちはわたしの遂<ミニオン>だ!おまえのつかいまなどにはけっしてならない!!」

貴路は自分のものであると、そう宣言する。
相手に立場をはっきりとさせる為とは言え、自分のものだという表現をローは好まなかった。
貴路の意思は貴路の意思だし、いくら自分の遂<ミニオン>でも貴路には貴路でいて欲しいと思っている。

だが、だからこそ他人が勝手に手を出すのはローには許せなかった。
貴路がローの遂<ミニオン>になるまでにどんな紆余曲折があり、どれだけの想いが犠牲になったか。
それを考えれば、今目の前の少女がやろうとしていたことがローにとっては悪意にしか見えなかった。

「……アンタ誰よ?一体何なの?」

少女はローを睨みつけて来る。
だが、ローは怯まない。
寧ろ、それよりも更に強い視線を向け、そして胸を張って名乗り上げる。

「私の名はロー。ファルシュ・ドロレス・ヴァレンタインだ。ゴシックハートは<決して錆びぬ思い>。最上なる高貴、揺るぎなき誇りを掲ぐ<星の揺籃>の血と名を継ぎし者なり!!」

この名とゴシックハートを告げたのは、先のレイミアとの戦いの時以来であった。
まだそれから1時間と経っていない筈なのに、何故か遠い昔のことのように感じる。

「わたしはなまえをなのった!おまえのなまえはなんだ!?」

ローは少女へ問い返す。
敵であれ何であれ、まず相手のことを知らなければならない。
少女はわなわなと震えながらも、上ずった声で怒鳴り返して来た。

「わ、私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ!」
「ルイズか。ルイズはなぜ、たかみちをつかいまなどにしようとしたのだ!?」
「たかみち……?もしかしてこの平民の男のこと?……別にしたくてしようとしたわけじゃないわよ!!」
「したくもないのに、たかみちにキスしようとしたのか!?」
「仕方ないじゃない!!それが『コントラクト・サーヴァント』のやり方なんだもの!!」
「したくないのであれば、しなければよいであろう!!」
「そういうわけにはいかないわよ!!使い魔を召喚して契約出来なければ進級出来ないんだもの!!」
「召喚……?そうか、ローたちをすいこんだかがみはおまえのしわざか!!」

ローは合点がいくと同時に更に怒りを募らせる。
ここが何処かは分からないが、あの場所からここへ来たのは目の前の少女が原因だという。
レイミアと戦った後の心身の傷もまだ癒えず、またこれからのことも考えなきゃならなかったのに。
無論、迂闊に鏡へ触れてしまったローの過失もあるのだが、そもそもあのルイズという少女が召喚を行わなければこんなことにはならなかったのである。
「アハハハ、ゼロのルイズが使い魔に反抗されてるぜ!!」

二人のやり取りを傍から見ていた周囲の者たちの中の一人が心無い野次を飛ばす。
すると、ローはその者に向かって、声を張り上げた。

「かんけいないものがくちをだすでない!!」
「は、はぃ……」

ローの気迫に押されたのか、野次を飛ばした少年は思わず口ごもりながら意気消沈する。
ローは再びルイズへと向き直る。

「ローとたかみちをいますぐもとのばしょへもどせ!」
「無理よ!!」
「なぜだ!?」
「無理だからよ!!」

ルイズもかなりムキになっているらしく、このままでは埒が明かないとローは思った。
その時であった。

『ロー』

ローの心の中に聞こえた優しい声。
それは、間違いなく不可咲貴路の声に他ならなかった。

『た、たかみち!?めが……さめたのか』
『うん、もう大丈夫だよロー』
『よかった……』
『心配かけてごめんね、ロー』
『ううん、しんぱいなんかしていないぞ。たかみちがわたしのそばからいなくなるなどありえんからな』
『……うん、そうだね』

心の経路でお互いに会話を交わした後、貴路がゆっくりと起き上がる。
先程まで倒れていた男が目を覚ましたのを見て、周りが更に色めきだった。
目の前の少女もびっくりしたような表情をして貴路を見ている。
貴路はローへ向き直ると、優しく微笑みかけた。

「ロー」
「たかみち!」

ローは周りの目など気にせず、貴路の胸へと飛び込んだ。
そうすることで、貴路が確かにここにいるのだということを直接肌で感じたかったのだ。
そんなローを貴路は優しく抱き止めてくれた。

貴路の匂い。
貴路の温度。
貴路の感触。

その全てがそこに貴路がいるということをローに教えてくれる。

「たかみち……」

ローはもう一度貴路の名を呼んだ。
貴路は何も言わず、ローの髪を撫でる。
何時までもこうしていたかったが、そういうわけにもいかないことはローも理解している。
心の経路を通じて、貴路も大体の状況は飲み込んでいるようだ。

貴路は少女へ話し掛ける。
「ルイズ……ちゃんだっけ?」
「……!!な、何よ!?」

突然名前を呼ばれてルイズは驚くが、それでも強気な態度は崩さない。
そんな彼女を見て、貴路は困ったように笑った。

「……そんなに怖い顔しなくても大丈夫だよ」
「誰が怖い顔しているのよ!!」
「めのまえにいるではないか」

返す刀で怒鳴りつけるルイズの言葉にローがそう口を挟むと、周囲の者たちはどっと笑いだした。
ルイズはプルプルと体を震わせている。

『ロー、そんなこと言ったら駄目だよ』
『だって……』
『だって、じゃないよ』
『むぅ~』

貴路が心の経路で嗜めると、ローは頬を膨らませて不満を露にする。
その様子を愛しげに見つめた後、視線をルイズへと戻す。

「ローが失礼なことを言ってごめんね。……改めて聞くけど、君は僕をどうしたいんだい?」

貴路がそう問い掛けると、ルイズは即答する。

「『サモン・サーヴァント』で呼び出されたんだから、アンタは私の使い魔に……」
「使い魔ってのはどういうことなのかな?」
「使い魔は使い魔よ!!主である私の為に何でもし、主である私を守る為に戦うの!!」
「なるほど……僕がそれになって欲しいのかい?」
「そうよ!さっきからそう言ってるじゃない!貴族に仕えるのは名誉なことなのよ?」
「それは本心かい?」
「違うわよ!!……し、仕方ないじゃない!!出て来たのがアンタなんだし!!」
「仕方ないから、僕を使い魔にするのかい?」
「だってそうしないと進級出来ないんだもん!!」

ルイズは先程ローに問い掛けられた時と同じような言葉を口にする。
貴路はそこまで聞くと、静かに首を振った。

「……僕は君の使い魔にはなれない」
「どうしてよ!!」

ルイズは声を荒げる。
それは、この日一番の怒声だった。
だが、貴路は怯むことなく、真っ直ぐルイズの瞳を見つめながら言った。

「君が僕を本当の意味で必要としていないから」
「……!!」

その言葉にルイズはショックを受けた。
確かに自分が欲しかったのは使い魔である。
だが、目の前の男が欲しかったわけでは無かった。
相反する思いがルイズの中に存在する。

「……」

何か言ってやりたかったが、言葉が出て来ない。
結局何も言い返さずその場に立ち尽くしていた。

貴路はそんなルイズを一瞥した後にローの手を取ると、無言でその場から立ち去ろうとした。
すると、先程までこちらを静観していた中年の男が口を開いた。

「……ミス・ヴァリエール以外の者は皆使い魔と一緒に自室へ戻って下さい」

中年の男の言葉に周囲の者たちはブーイングの声を上げる。
しかし、中年の男は再び同じ言葉を繰り返した。
その言いようの無い重圧に負け、一人また一人と寮の方へ戻る者が出て来る。
やがて、広場には中年の男に、ルイズ。
そしてローと貴路だけが残った。
それを確認すると、中年の男は軽く咳払いをした後、貴路たちへと話しかけた。

「私、この場の監督をしているジャン・コルベールと申します。あなた方は何処へ行かれるおつもりですか?」
「……さあ、分かりません」
「失礼ですが、あなたたちはこの辺の地理に明るく無いのでは?」
「そうですね。何せ急にここへ連れて来られましたから」
「でしたら、下手に動き回るのは危険です」
「でしょうね」
「……それが分かっていて、ここを出るのですか?」
「はい」

貴路はきっぱりと言った。

「あの子の使い魔……でしたっけ?それにならないのであれば、僕たちはここにいることは恐らく出来ないでしょうから」
「……そんなに小さい子を連れて、当ても無く彷徨うおつもりですか?」
「ローならだいじょうぶだぞ。たかみちがいっしょならばなにもこわくなどない!」

ローが胸を張ってコルベールへそう宣言をする。
それは強がりでも何でもなく、本当にそう思っているのだとコルベールは感じ取る。
この二人の信頼感はちょっとやそっとのものでは無い。
貴路はコルベールに向かって、深々と礼をした。

「心配してくれて有難うございます。……でしたら厚かましいことを承知で一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「……何でしょうか?」
「本当に元の場所へ戻す方法は無いのでしょうか?」
「……今のところは、としか言えません」

『今の』ところは。
もしかしたら、探せばあるのかも知れないということだろうか。
微かながらも希望はあるのだと、貴路はその言葉から理解する。

「……有難うございます。ついでにもう一つよろしいでしょうか?」
「……聞くだけ聞きましょう」

自分たちを呼びつけた責任を多少なりとも感じているのか、コルベールは貴路たちを邪険に扱うようなことはしなかった。
きっといい人なんだろうな、と貴路は思った。
周囲の子供たちやそれらを見る彼の目から察するに、コルベールという男は恐らく教師なのだろう。
それも、きっと生徒思いのいい教師。
自身も教師だから何となくそれが分かった。
今はもう教師としてはいられない体になってしまったのだが。

貴路はルイズの方へ目をやると、そのまま彼へ言った。

「あの子に、もう一度チャンスを与えてあげて下さい」
「……え?」

貴路の言葉に真っ先に反応したのはルイズであった。
意外そうな顔でルイズは貴路の顔を見つめている。
自分を拒絶した者が、自分の身を案じてくれたことが不思議だったのだ。

「何で、アンタ……」
「……確かに僕は君の使い魔にはなれない。僕はローの遂<ミニオン>だし、仮にそうじゃなくても、君が望まないのであれば、やはり僕は君の使い魔にはならなかったと思う」
「……」
「だから、その罪滅ぼしというわけじゃないけど、君が納得するまでやらせてあげたいんだ」

しかし、コルベールが貴路の言葉に首を振った。

「『サモン・サーヴァント』のやり直しは許可出来ない」
「何故です?」

貴路が尋ねると、コルベールは残念そうな顔で答える。

「『サモン・サーヴァント』は神聖な儀式だ。それをやり直すなど始祖ブリミルへの冒涜に繋がる」
「どうしてだ?」

今度はローがコルベールへ尋ねた。

「どうしてやりなおしたらだめなのだ?」
「ですから、それは始祖ブリミルへの……」
「うそだ。おまえはルイズにやりなおしをさせてやってもよいとかんがえているだろ」
「……!!」

コルベールは目の前の少女を思わず見つめる。
その丸く大きい満月のような瞳には、自分の全てが見透かされていそうで何処か抗い難いものを感じる。

「ローに嘘はつけませんよ」

貴路はローの肩へ手を乗せ、それだけ言った。
それが事実であることをコルベールは悟る。
このままだと、他に暴かれたくないことまで暴かれてしまいそうで、コルベールは思わずローから視線を逸らしてしまった。
それから眉間に皺を寄せた後、ため息を一つ吐いてから少女に向けて言った。

「……ミス・ヴァリエール。もう一度だけチャンスを与えよう。もう一度『サモン・サーヴァント』を行ってみたまえ」
「コルベール先生!?」

ルイズはこの日一番の驚きを見せる。
『サモン・サーヴァント』が神聖な儀式であることはルイズも知っている。
だからこそ、コルベールがやり直しを認めたことに強い驚きを感じたのであった。

「よろしいんですか?」
「……私はどうかしていた。大切なのは仕来りではない。未来ある子供たちの方が大切じゃないか」

そう言ったコルベールの顔は実に晴れやかだった。
まるで憑き物でも落ちたみたいに。
そのコルベールの表情を見た貴路はまるで自分のことのように嬉しくなっていた。

『うれしそうだな、たかみち!』
『うん。他人とは言え、やっぱり人が人を正しく導く姿を見るのは嬉しいよ』
『そうか。たかみちがうれしいとわたしもうれしいぞ!』
『有難う、ロー』

二人はルイズのやり直しが認められたのを確認すると、そのまま学院を後にした。



その後、ルイズはもう一度だけ『サモン・サーヴァント』を行い、これを成功させる。
そこに現れたのはまたも平民で、しかも今度は同年代の少年であった。
二回続けて人間、それも平民を呼び出したルイズは悟った。
これが自分の運命なのだと。

その後『コントラクト・サーヴァント』を無事に終わらせ、人間の使い魔を得た。
使い魔の名は平賀才人。

ルイズと才人。
ローと貴路。

この二組の主従が再び出会うのは、そう遠くない未来であった。


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