あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Adventure-seeker Killy in the magian world quest-09


LOG-9 ネット球

小川が金糸のように煌く美しい草原をはるか遠くに垣間見える漆黒の空間に、ゆっくりと光が入る。
天の川のような白い川が、何か大事なものを隔てるように現れた。
同時に、辺りは方向の分からない、ただの無になっていた。

「ここは…………………」

「ネット球(スフィア)の領域の一つ。君は脳内の情報の配列(フォーマット)が何か強引な方法で書き換えられていた為に、ここの知覚が可能になっていたのだ。
 恐らくは、霧亥と呼ばれる人物への不正なアクセスが、その主要な要因だろう………我々は君の意識混濁に乗じ、それを利用した」

「あなた、だれ?」

いつの間にか意識が川の向こうに飛ばされて、辺りは一面の無から、何かが溢れては消える場所に変わった。

“二つの何か”の膨大な組み合わせによって出来る塔。

その中に、あの霧亥とへし折れた剣、加えて自分が、浮かぶように溶け込んでいるのが、まるで第三者から視たように知覚できた。
それともう一つ、白い一枚の布で覆われて、能面のような青白い顔だけをそこから出したようなイメージで知覚される何かが、この領域そのものの一部であるかのように存在している。

「統治局―――ネットスフィアの支配レベル………霧亥と呼ばれる人物へメッセージを伝える為に、我々はネットスフィア・ローカルネットワークを作出し、そこに自己の個性を複製した………………」

強烈な意識と情報があたりにばら撒かれては、ノイズとなって頭に流れ込む。
これが言葉であると軟弱な思考で理解するのは、可聴域を超えた音波を分析するのに等しい苦痛と時間が必要だった。

「現在、混沌とした感染症の状態は、変わることなく続いており、我々はネットスフィアの正常化を望んでいる」

辺りで蠢く二つの何かは、数字で言うならゼロともう一つ、最小にして最大を意味する数字の組み合わせだ。
二進法の世界での1だとは理解しきれなかった。

「霧亥と呼ばれる人物が、都市への不正干渉によって拉致され、目的を果たせていないことを、我々は当初より確認していた。しかし、彼を保護しようとする試みは、全て不可能だった。
 なぜなら、如何なる理由があろうとも、ネットスフィアの支配レベルでしかない我々が、霧亥と呼ばれる人物のレベルへ直接的なコンタクトを取ることは、許可されていないからだ。
 また、そちらへの介入と、不正干渉への制裁措置についても、同様である」

辺りに感じるイメージは、情報の塔だ。

「一連の不正干渉は、世界線を越えての都市そのものへの干渉であり、カウンタープログラムの発動は、ネットスフィア支配レベルからは完全に独立して行われる。
 この瞬間にも、我々は霧亥と呼ばれる人物の救出を果たす前に、状況が壊滅的になってしまうのを阻止する為、独自に様々な処置を試みているが、そちらの世界線による秩序の破壊が、これを妨害している―――」

「……それで、あなたたちの目的は、何なの?」

「―――悪意あるシステムがそちらの領域に存在し、都市の状態に乗じて無作為な干渉を行い、これがカオスの拡大要因の一つになっている。
悪質な行為とはいえ極めて小規模であり、通常これらへの対処の優先順位は低いが、これを解決して後、都市の正常化を果たさなければならない理由がある。
 ネットを正常化し、都市を救うには、その可能性を託すに足る存在である“彼”の協力が、不可欠なのだ。
 不正干渉を行うシステムは、これを無力化、あるいは破壊することが必要不可欠であるが、
 同時に、我々の権限では霧亥と呼ばれる人物を独自に救出することが不可能な為、拉致に使用されたシステムを制御し、利用することが帰還に必要となる。
 強硬な手段に出ることはできないのだ」

情報は積み重なっては腐り落ちて消え、それを肥やしに新たな情報を生み出していく。
自分もその生ごみの中に溶けていることに気づいた。
霧亥や、統治局だけが、異様な輝きを放つようにして、確かに存在している。

「だが、我々は未だにその方法を発見できずにいる。都市のカオスは深刻な域に達しており、規則的制約以外にも、様々な障害が発生しているからだ。
 そちらでの独自の行動によってそれを発見しなければならない」

統治局は始めてその姿が一枚絵でないことを証明した。
その目は、虚空ではなく、霧亥を見つめている。

「すでに我々は代理構成体を派遣した。今後も最大限の努力を惜しまない。探索の必要がある」

霧亥は覚醒しながらこの夢の世界の中に居るのだと、不思議と理解できた。
だから、まるでこの世界では喋れないのだろう。
まるで白昼夢の中で金縛りに会うように…ただ意思の疎通は、口を動かす以上に、正確で、濃密に、何らかの手段を用いて行えるのもなんとなく分かった。

「どこかに都市への帰還を果たす可能性が存在し、その探索によってそれが発見されることを………そして、君が協力してくれることを、我々は信じている………ありがとう―――」

重たい首を少しだけ持ち上げて、統治局を見つめる。

「まって、霧亥はあなたたちと同じなの?」

この奇妙な世界で唯一、見覚えのある何かが、統治局の額に刻まれていた。

「―――霧亥は我々とは違う。ネットスフィア以前の、システムの………密使………………」

…ひどく長い夢を見たような気がしたが、助け起こした友人たちは「だいじょうぶ、一分ないほどしか寝ていない」とだけ告げた。
まあ、夢などそんなものだ、おまけにはっきり覚えているわけでもない。
ルイズはそこでやっと自分の直面した状況と、目にした光景を思い出して跳ね上がる。
こちらは空ろな夢ではない、酷い現実だ。
調子に乗った級友が、腕を蒸発させられるようなちゃちなものではない、何かものすごいことが起こっているとしかいえない光景だ。
その中心人物たる、自身の使い魔―――として召喚した、由来の判らぬ男はどこにいったのかと、あわてて見回すと、また何か騒ぎの原因を生み出そうとしているのが見えた。

止めに入ろうと走り出したものの、次の瞬間には、小さいころにぶちまけた積み木がたてるような音を聞くことになった。

すっかり耳をやられていたとはいえ、その振動だけで思わず三人はへたり込む。
収まり始めたばかりの砂埃は、更なる増援を得てもうもうと勢いを取り戻し、辺りに立ち込める。
学院の本体ともいえる構造の一角が、たった一人の男に引き裂かれて崩れ落ちた。
砂埃がなければ、開いた口が塞がらなかっただろう。

「なにやってるのよ………」

怒鳴ろうとして失敗したルイズは、霧亥が手にする棒状のものに気づく。
棒状というより、近づいてみてみれば、まさしく杖といった趣のものだ。
「なに、それ?」
霧亥は答えず、口周りを覆ったり目を細めたりする様子もなしに、そのまま歩き去っていく。
こういったときに自然と発せられる霧亥の非人間的な力強さから、恐ろしくも頼もしく、やたら颯爽として見えるのは、先のゴーレムの粉砕という事実がなくとも無理のないことである。
が、三人はそれを通り越して、完全に思考が停止しかかっていた。

唖然

そのまま三人は、ほとんど頭の回転が滞ったまま霧亥の後に続く。
「おお、ミスタ・キリイ!!」
そんな叫び声が聞こえて我に返ったころには、もう学院の内部だった・・・

…そのまま窓が吹き飛んだ挙句、壁までひび割れだらけになった学院長室に案内された霧亥たち四人は、神妙な顔つきの教師陣に、事の顛末を説明するように言われた。
学院長の秘書、ロングビルが騒動に巻き込まれ、重傷を負ったこともあって、中では数人の教師が忙しそうに動いている。
四人がまとめて呼ばれたといっても、霧亥は部屋には入らず、シュヴルーズが慣れた手つきで非常に細かい粒子で出来た堆積物に似たものと水―――粘土を作り、壁を補修しているのを半開きの扉から観察していた。
というのも、平民風情の言うことなど当てにならないと言う、大多数の教師の批判を受けてのことだ。
事実、今回の事件の最中、平民の守衛たちは何もできずにいた。
当直を無視して就寝中だった教師や、生徒たちがおとなしく床に就いたかを見て回っていた教師が、何も知らぬうちに昏倒したことなどは体よく無視されて、それなりに信用に足る生徒たちの証言が始まる。

ルイズ曰く―――町で不逞の輩に襲われた

キュルケ曰く―――ルイズたちが戻ってきた辺りで巨大なゴーレムが練成された

タバサ曰く―――そのゴーレムが学院の宝物を奪おうとして壁を殴打していた

さらに、みな口を揃え矢継ぎ早に、こう続ける

―――キリイが、三十メイルはある巨躯を、一撃の下に破砕した

―――その一撃には、ほとんど詠唱や特長的な動作がなかった

―――明らかに十分な一撃ではなく、過剰この上ない破壊だった

―――学院の被害は、この一撃の余波だ

更に、タバサが「その後で宝物庫の壁を崩したのは、キリイが素手でやった」と言おうとしたが、霧亥を盗賊扱いされては話がややこしくなると踏んだキュルケが、その口を押さえた。
ルイズは教師陣は一様に「まさか」という顔をするかと思ったが、恐る恐る顔を上げると、三人の教師はそうではなかった。
それ以外の教師も、とにかく圧倒的な破壊が起こった事実は認識しており、まるで原因の見当はついていなかったので「もしや」というくらいには思っているようだった。
「全員席をはずすように……これは確定事項ではなく、あくまで参考のための聴取でのう……聞き手が多くて、半端な情報を広められても困るわい」
うんざりした具合で、オスマンが口にする。
退出する教師たちは「そうだ、あの生徒の言うことが真であるはずがない」という具合に、オスマンの発言を理解した。
「あ、ミスタ・ギトー。少し頼まれてほしいことがあるので、ちょいと残ってくれ」
「はい、オールド・オスマン」
かくして、事情に理解のある教師三人が残り、オスマンは深刻な面持ちで深いため息をついた。
ルイズたちには、“三百年生きる老人”という中傷か賞賛か分からぬ陰口をたたかれているこの老人が、文字通り三百年生きた死体寸前の代物に写った。
「ミスタ・ギトー、キリイ君がそれほどの力を発揮する可能性はあると思うかね?」
「私は、先回の決闘の様子を確認しておりました………が、可能性はきわめて高いと、判断します」
「説明してくれんか」
ギトーは不吉そうな眼を窄めて、一息吸う。
「では、まず……ミスタ・キリイの使用した魔法、あるいはそれによらない何らかの武器は、あの間抜けな青銅のギーシュの腕を、消滅させました」
教師が生徒を“間抜け”とは…ルイズは少しムッとした。
「私の風の系統を持ってすれば、ライン以下の能力程度で、技術が低くとも、杖の一振り、一撃で腕など衣類ごと切り落とせましょう。
 ですが、驚嘆すべきは、それが“斬撃”ではなかった……という点です。私は、決闘の現場に、消し炭になったミスタ・ギーシュの指先を発見しました。
 攻撃の瞬間の発光と、強烈な熱の放射も確認できました。つまり、これは火の系統に分類されるような、物の燃焼を起こすことによる攻撃であるということです」
ちらりと、コルベールに視線を向ける。
「これは、驚くべきこと……異論はありますまい? どのような火力であっても、火で焼かれた物体は、せいぜいが炭になるか、融けて消えるのみです。
 炎に煽られて、飛ばされていくことはありましょうが、それはあの決闘の現場では起っていませんでした。
 …………では、ミスタ・コルベール―――」
「なんでしょうか」
「―――聞きますが、これほどの火力、トライアングルであり、火系統の研究の第一人者であり、かつて人を焼く立場でもあったあなたから見て、どれほどのものと見ますか?」
コルベールが眉をしかめる。
ルイズたち生徒も、おやっという感じでコルベールを見た。
そうか、彼は昔軍属だったのか。
「……脅威です。人間一人を炭化させる程度であれば、ラインでも容易に放てますが、それでも時間をかけた詠唱は不可欠です。
 鉄を溶解させる温度や、人体を骨も残さず灰にする火勢を生じさせるレベルにいけば、一言二言ですむような生半可な詠唱ではすまなくなります。
 更に言えば、熱した鉄板の上の水のように、一部とはいえ人体を跡形もなく蒸発させることなど……まして、それを一瞬で行うなど、不可能です。
 仮に可能であっても、相応のものを組み立ておかねばなりません。先住魔法のような、特殊なものであっても、事前にある種の行動をとらなければ魔法は満足に機能しないといいます」
「つまり、それを容易くこなして見せた彼は、稀代の才能を持つメイジであるか、我々の前提を根底から無視した途方もない、未知の強力な魔法と技術を持っているということです。
 彼はあなた方が暗器と分析した、いわば懐に忍ばせるナイフのようなものでこの威力を発揮しました。眼にも止まらぬ一瞬で、
 私の見る限り、何の事前準備もなしに………なにせ、直前まで、青銅製のこぶしを相手にしておりましたから。
 そして今回は、彼が主力として、騎士の長槍、銃士の小銃、そして我々の杖のように持ち歩いていた、あの奇妙な物体を使用しての攻撃―――だそうだな? ミス・タバサ」
「確かに見た」
キュルケも合わせて首を縦に振った。
「で、あれば、言うまでもなく本来の威力の一撃を、本気で放ったはずです。
 彼の常識で言えば、自身と同等の技術で巨大なゴーレムを生み出したと判断するでしょうから、過剰な破壊も納得できるというものですな。
 なにせ、青銅のゴーレムを素手で砕く兵士が住まう国の住人です。ま、本人の口から聞くのが、一番早そうですが」
霧亥は会話の終了を確認すると、部屋の外での待機をやめて一歩二歩と教師と生徒の間に進む。
「おお、そこまで来とったのか。すまんのう、どうにも教師とは頭が固い」

「聞きたいことがある」

たじろぐオスマンは、汗を拭う。
「質問かね? こちらばかり聞いたわけじゃから、そりゃまあ大抵の事は―――」
霧亥の眼が余計に鋭くなったのを正面のコルベールが確認した刹那。
「ま、ま、まっとくれ、キリイ君!!」
「止せ! ミスタ・キリイ!!」
離れた位置にいたコルベールの杖を、抜き取られると同時に見えない力で破壊。
杖がその影の辺りにいたせいで、オスマンの机も内側から弾けた。
「あぢっ!!?」
すぐそばにいたギトーは、霧亥の左腕からほとばしった電流に当てられ、体中の筋肉が痙攣して吹き飛ぶ。
生徒達は対応する余裕がないほどに驚いたが、先ほどの光景に比べれば幾分衝撃は少ないようで、人に対して力を行使したことを警戒しつつも、激しく動じはしない。
机についたままのオスマンは、霧亥の帯電する左腕に、ついさっき粉々になったような、いわゆる杖と似た形状の物体があることに眼を丸くした。
「それは………」
その形状に、つい反射的に自分も杖を抜いたことを後悔しつつ、霧亥が握るのが宝物庫の収蔵品にあった杖であることを、コルベールも確認する。
銘はなんだったか―――逡巡するうちに、オスマンが「おお」と唸る

「その異界の杖は、そうか、もしやとは思ったが………」

―――オスマンは遠い目をして、よろよろと立ち上がった。
「いったいどういう事です!?」
「あの杖は、彼と同じ世界のものということじゃよ……そうなんじゃろう?」
霧亥に全ての視線が向けられるが、応答はなく、黙って杖をオスマンに向けているだけであることに、ルイズたちも冷や汗を流した。
「話してはくれんか……そうじゃろうな、無理ないわい………」
隠し立てする気はなかったが、そう思われても無理のないことだ。
客観的に見てもそのとおりで、ルイズたちも「たしかにこれは怒るだろう」と納得してしまった。
彼女らにも、一目で杖の表面に浮かぶ、光り輝く珍しい紋様が目に入ったのだ。
コルベールは腕をかばいながら、ゆっくり霧亥の持つ物体に視線を這わす。
「その印は、やはりミスタ・キリイの所属を表すものなのですか?…いや、しかし、そのような紋様は、保管時には見当たりませんでしたが………」
と、ここで彼の右手のルーンを思い出す。
杖との契約―――というのは妙だが、我々の杖が使用可能な状態になるまでに、幾つかの処置を経るように、彼の持つ杖もまた、使用者に応じて変化したというのだろうか?
「それでは、お前さんと彼は、同じ世界からやってきたのか………」
まるで動かない聞き手を抑えながら考察するコルベールをよそに、耄碌したように焦点のぼやけた目のオスマン。
うわ言を思わせる、掠れた声だった。
「どういう意味だ?」
霧亥は、早くも糸口を見つけたような気がしていた。
「それは、ある人物が、ずっと昔にわしの前で使ったものじゃよ………………確かに、どこかお前さんに似たところがあったわい」
知っていることをすべて話せ、と言われるような無言の圧力を受けて、昔話が始まった。

「…………まだわしが若い頃、東の国境の、人の手の入らない森の辺りでフィールドワークをしていたことがあったのじゃが、その時の事じゃよ………
 不意に遭遇したワイバーンに襲われたわしは、必死に逃げ回った末に追い詰められ、ついにそのブレスで焼かれようと言うところまで来た。
 ところが死を覚悟した後で、ワイバーンは突如としてその標的をわしから逸らした。その狙いの先に、彼が居たのじゃよ………」
霧亥以外も、この興味深い老人の昔話の核心部分を聞き逃すまいと、耳を澄ます。
オスマンは少し伏せ目がちだ。
「全身を黒色の革か金属のようなものでできた鎧をまとった、珍しい黒髪の男。その手に握られていたのが、その杖じゃ。
 驚くことに、ワイバーンに一切気づかれずに、その間合いの中に入り込んでいた彼は、まるで意に介していないように、威嚇の唸りを上げるワイバーンを見ておった。
 もうすぐに強烈なブレスが吐き出される―――というのが、その鋭い牙の隙間から熱と光が漏れ出すので分かった………が、結局は、ブレスが彼を焼くことも、わしを焼くこともなかった。
 巨大な竜の頭部が、ゆですぎた卵のようにして弾けて、めくれた頭骨や体液が、わしの攻撃ではとても敵わなかった鱗の外側に覗いていたんじゃよ。さすがに思わず悲鳴を上げてしまったわい。
 構えた杖から、何か見えない魔法で、彼がそれを引き起こしたのだと分かったが、そんなことはどうでもよくなった。
 ワイバーンを、鶏を絞めるように撃退して見せた男の“目”が………………まるで、わしの知る、“目”ではなかった」

今思えば同じだった―――老人はあからさまに顔色を悪くした。

一番長く霧亥と接していたルイズも、同じように顔色が悪くなる。
その他教師や生徒は、その光景を思い浮かべてぞっとしたが、あまり実感の湧くものではない。
「それで、彼は?」
ギトーはまだしびれの残る体に苦悶している。
「知らん。姿を消した後で、慌てて彼の立っていた場所に飛んでいったが、もう追跡できる足跡も残ってはおらなんだ……その杖が、何故か捨てられておった以外はのう」
それだけであることを念押しして、語りは終わった。
霧亥はその結末に、興味を失い、思わず警戒棒を下ろしてしまう。
「しかし、それほどのものを、なぜ捨てたのかは分からん。キリイ君には分かるのかと思うが―――」
「蓄電残量が無い。状況によっては使用不可能だ」
「―――よく分からんが、もうあの魔法を放てないほどに、消耗していると言うことかのう?」
霧亥は無言で肯定する。
「それもそうじゃのう………同じように、突如としてハルケギニアに飛ばされたのであれば、その消耗たるや尋常ではないはずじゃし………」
みなそれぞれに思いをはせる中、霧亥は件の人物について考えていた。

火器は原則として、使用者の脳内・電子体内に電子的に内蔵された火器管制用のアプリケーションと、身体構造に含まれる接続器からの電力供給がなければ使用できない。
ただし、使用の度に電力供給を一から行うのは、それ以外の活動に大きな制限がかかるのみならず、膨大な瞬間電力供給が必要になり、あまり実用的ではない。
その為、火器にはある程度の規模の電源、多くの場合はただの蓄電器が組み込まれていて、火器管制用のアプリのみでの、十分使用できるようになっている。
特殊例でもない限りは、火器の携行者は都市構造からの直接的なエネルギーの供給が常時行われているため、このようなもののみに頼ることはないが、その供給が断たれた場合には、
身体内や装備内の、残りの限られている電力をすり減らす形で活動するほかなくなる。
偽装を施されたエージェント達のするような、人の姿を借りた長期の活動程度では、当然力尽きることはないが、
そういったことをまるで想定せずに、限定・特化的な要件で作出された者達であれば、突然のスタンド・アローンとしての行動で、その力が持続するはずはない。
ましてや、ここは都市と違って、恒久的な電力供給どころか、都市の古い設備を利用した手間のかかる電力や装備の補給すら不可能だ。
延命を迫られれば、体内電力は可能な限り温存する必要に迫られ、火器の使用は身体の活動に影響のない、内臓電源に頼るほかない。
霧亥がそうであったように、だ。

「彼が今もどこかで活動しているか……というのはとりあえず措くとしても、キリイ君以外にもこちらに来ておる人間が居ると言うことは、案外、そちらとも近いのかもしれんのう」
霧亥も、もしかするとそうなのかもしれないと考えたことはあった。
純粋な三次元平面における距離ではないのかもしれない。
しかし、今回聞かされた話では、いかに電力不足に見舞われたとはいえ、孤立した状態で装備を破棄するような真似をした先例があるらしいのだ。
帰還の見込みが高ければ、延命のために装備への充電を拒否するだろうか?
あるいはネットスフィア側からの接触があり、破棄の決定を通達されたのかもしれないが、どちらにせよあまり良い事例ではない。
「少なくとも、昔から通じやすい状況にはあった―――というところですか」
ますます老け込んだ二人の言葉に、ルイズは冷や汗を掻いた。
「警戒すべきは、迷い込んだのではなく、確実に我々に連れ去られたという例が、ここにひとつ有るのだ………という事でしょうな」
ギトーの言葉に、今度はオスマンとコルベールが冷や汗を掻いた。
よくも今まで人前では口にせずに留めておいたことを、とでも言いたげに口をもごもごする。
あえてそれに言葉を返すこともしなかったし、恐ろしくて霧亥の表情を伺うこともしなかったが、何かしたところで二人の結論も変わらず、同じだ。

これは狂気の沙汰だ。

ゴーレムの襲撃の件と言い、何かが動き出しているような気配も、この認識を加速させた。
仮に、霧亥と同等の兵士が万の単位でハルケギニアに押し寄せたと言うだけで、エルフや東方を含め、抵抗できる勢力など、何処にもありはしないだろう。
もちろん、霧亥の故郷ほどの文明となれば、比較にならぬ人口と兵力、その派兵手段を持ち合わせているだろうから、抵抗できるかどうかと言う考えすら楽観的かもしれない。
いきなり全面戦争とはいかないかもしれないが、とにかく最低で外交問題相当の事態が、明るみに出ていないだけで、目の前で着実に進行している。
ほかの教師や生徒は、彼らに言わせればまったく考えが足らなかったが、霧亥の認識もこれと同じだ。
都市への不正な干渉のみならず、ネットスフィア関係者に害成したのだとすれば、自体は悪い方向に修正しなければなるまい。
ネットスフィアとその保安を司る団体が、自社と入会者の安全・利益を守るために、何らかの動きを見せる可能性が出てくる。
機能不全が著しい都市やネットそのものではなく、暴走こそすれ、機能の多くは保ったままのソフトウェアと組織に敵対することは、向こうの都合で運よく見逃される可能性が低くなってしまう。
何より、発足当時の民意を象徴するかのように、犯罪者達への対処は極めて厳格であり、そこに至るまでの過程も攻撃的だ。

「で、どうするの?」
しばし沈黙を破るキュルケ。
「いや、これからの方針をどうするのかとかいろいろあるんじゃが………………」
「それも良いですけど、あまり目立たせないようにするなら、一先ず先生達を呼び戻すのは―――」
「あ、忘れとった」
ルイズの指摘に、老人は慌てて自分の魔法で机の形だけを元に戻してから、どこからか持ってきたテーブルクロスで覆い隠し、思い思いの場所へ行き始めた教師達を速やかに呼び戻すようギトーへ指示する。
長引いた聴取や、異音を不審に思う教師も出るだろうから、それへの言い訳も適当にするよう告げた。
「まあ、何はともあれ、ミス・ロングビルを除けば、重傷者も出さず、宝物が盗まれることもなかったわけですな」
「そうじゃ、その通りそうじゃ、とにかく一安心。今すぐ解決する問題もないわけじゃし、補修などで慌しくはなろうが、大きく予定を変更することはあるまい。
 本塔への被害も、宝物庫の壁が崩れた程度で、食堂から締め出されるわけでもなく、講義場所が変更される程度ではないかと、凡そまとまっておる」
解決の先延ばし、と言うよりは、後で自分達だけで何らかの対策を秘密裏に執り行おうとしているのが、素人目にも見て取れた。
その後は、何ができるわけでもない生徒達は言われるままに退出し、残された霧亥はオスマンに質問を投げかけられた。
「君の故郷は、このこと知っとると思うかね?」
どこまでも、とは言わないが肯定できる。
「………………ああ」
どこかへと歩き去っていく霧亥の背後で、また二人の教師の老化が進んだが、さらに追い討ちをかけるような事実が、教師の尋問と生徒の証言から判明する。
具体的には、その唯一の重傷者―――ロングビルの服装や倒れていた位置は、ゴーレムの操縦者のものと同じであるという証言と、それを認めるロングビルの尋問結果である。
山積みの課題に、更に多くが積みあがった。
結果の隠蔽は困難。
学院の収蔵品を使い、優秀な生徒が意図せず撃退した―――というような過程をでっち上げるなど、事情を知る教師はこの後、長期にわたる対応に追われることとなった・・・

LOG.9@END


新着情報

取得中です。