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三重の異界の使い魔たち-08


~第8話 ゼロと雪風の邂逅~

 教室の窓から首を差し込んだシルフィードは、主の背中を眺めていた。未だ自身の魔法で
ボロボロなままのルイズは、無言のまま机を拭いている。
 あの爆発の後、ルイズは意識を取り戻したシュヴルーズに、教室の後片付けを命じられたのだ。
災害の再発防止なのか、魔法の使用禁止という措置付きで。既にあの妖しい仮面の妙な力によって
教室のほとんどは修復されていたが、それでもまだ破壊の跡は点々と残っている。
 ちなみに、授業自体は別の教室で続けられることになっていた。

 それにしても、あの仮面はやはり怪しい。あの力は、明らかに人間の魔法とも、そして精霊の
力とも違う。あんな奇怪な力を使うとは、ますますもって危険な仮面だ。
――大体、見た目からして趣味悪すぎだもの。例えシルフィが許しても大いなる意思があの
不気味っぷりを許さないのね。あのヘンテコな色だってどういうはしゃぎかたなのよ、
ジャイアントモールにでも食べられればいいのだわ、きゅい!
 そこまで考えると、何故か思考があの気味悪仮面への非難に変わっていたことに気が付き、
軌道修正する。

 とにかく、教室の傷跡を、自身の魔法の成果を処理している間、ルイズはずっと無言だった。
何も言わず、ただ手を動かし続けている。
 ずっと、肩を落とし、俯いたままで。

 そんなルイズの姿に、シルフィードの胸はかき乱される。
 正直にいって、ルイズの失敗には失望していた。物質を別の何かに変換させる魔法、しかし、
その結果は本来のそれとは全く関係のない、爆発というもの。しかも、他の生徒の反応を見るに、
それは今回に限った事ではないようだった。偉大な古代の眷族である自分を呼び出した以上、
彼女はすごい才能を持っているものとばかり思っていたが、実際はその反対だったのだ。それを
まざまざと見せつけられた時、シルフィードは心底がっかりしてしまった。

 しかし、ルイズの今の姿を見ていると、呆れの感情はなりをひそめてしまう。もの一つ言わず、
顔を上げようともせず、ただ爆発で煤けた机を拭く動作を続けるルイズ。彼女の落胆がシルフィードの
比ではないことは、その姿から明らかだった。今は、ルイズはシルフィードに背を向けているため
表情は判らないが、きっとその顔は苦渋に歪んでいることだろう。それを思うと、シルフィードの
胸がいやに痛んだ。

――ルイズ様、落ち込んでるのね……
 その考えが、心を苛む。
 確かに、ルイズは当初思っていたような、立派な魔法使いではなかった。自分が召喚される
時に期待していた、一族への土産話になるような知識の吸収は、きっと望めないだろう。
 しかし、シルフィードはそのことでルイズを貶す気にはなれなかった。ルイズは、自分が
召喚に応えたことを、とても喜んでくれたから。召喚された自分に、とても優しくしてくれた
から。
 だから、ルイズの辛そうな後ろ姿を眺めていることは、ひどく胸を苛ませた。
――慰めてあげたいのね、でも、どうすればいいのか判んないのね……

 何をしてあげるべきか、なんと声を掛けるべきか、見当がつかず、やきもきする。歯がゆさ
ばかりが募る中、小さな呟きが聞こえてきた。
「笑っちゃうわよね……」
 自嘲じみた響きの声に、シルフィードはルイズの姿を見直す。
「貴方は、伝説の幻獣、風韻竜……」
 言いながら、ルイズが首だけを振り向かせた。俯き気味のその顔は、前髪に隠れてよく見えない。
「けど、私は魔法一つ満足に使えない、ゼロ……」
 “ゼロ”の単語を口にする声が震えている。
「笑っちゃうわよね……、使い魔に全然釣り合ってない主人だなんて……」
 言葉づかいは軽く、けれど、その声音はとても重たい。
「莫迦みたいね、私……、貴方を呼んだからって、それで私が失敗しなくなる保証なんか
なかったのに」
 言われ、シルフィードは昨日のルイズの言葉を思い出した。

“よかった……ちゃんと、来てくれた……成功、できた……”
 今になって、理解する。何故ルイズが自分を、風竜を召喚したことであんなに喜んでいたのかを。
“そうね、そうよね! とうとう努力が実ったんだわ! 私だってヴァリエール公爵家の娘
なんですもの、いつか大成するって信じてたわ!”
“見てなさいよ、あいつら! なんたって風韻竜を使い魔にしたんだから! これでもうゼロ
だなんて呼ばせないわ!”
 今になって、思い知る。何故自分が風韻竜だと知った時、あれほど笑顔を輝かせていたのかを。
 それは、単に高等な存在を使い魔に出来たからではなかった。それまで失敗ばかりだった
自分と、決別することができたと思えたからだったのだ。
 しかし、現実は残酷だった。高位の幻獣種である自分を召喚したにもかかわらず、それは
ルイズの成長を意味してはいなかったのだから。
 それが判ったその時、ルイズがどれほど愕然としたことか。彼女の心が、どれほど打ちのめ
されていることか。想像しただけで、胸が張り裂けそうになる。

「本当……莫迦だわ、私……」
 口許に哀しい笑みを浮かべながら、ルイズの自嘲が続く。刹那、その横顔に一筋の光が流れた。
前髪に隠された、瞳の辺りから。
 それを見た瞬間、シルフィードの中で何かが弾けた。
「ルイズ様!」
 自分でも、驚くほど大きな声。その呼び掛けに、ルイズはびくりと、涙にぬれた顔を向けて
きた。
「な、なによ、喋ったらいけないって約束だったでしょ!」
 顔を服の袖で拭いつつ、ルイズが叱りの言葉を投げてくる。それに怯まず、シルフィードは
再び口を開いた。
「ルイズ様は、ゼロなんかじゃないのね!」
 毅然と、その言葉を言い放つ。瞳を真っ直ぐに見つめての訴えに、ルイズは驚いた様な表情を
浮かべた。
「ど、どうしてよ……?」
 使い魔の言葉に戸惑っているのか、ルイズが視線を泳がせ気味に聞き返してくる。
「どうして、そんなこと言うのよ?」
 ただでさえ力無げなその声は、語尾の方では消え入りそうだ。それを口にする表情も、まるで
萎れた花の様に弱々しい。

 それを見てとり、シルフィードはまた力いっぱい想いを言葉に変える。
「ルイズ様が本当にゼロなら、私は今ここにいないわ! 今頃、巣の中で長老様たちのお説教
聞いているか、家族と一緒にお祈りしているかなのね! きゅい!」
 顔を引き締めて力説するが、ルイズはそれに寂し気な苦笑で返してくる。
「でも、それだってほんのまぐれかもしれないじゃない」
 弱気なことを言う主に、シルフィードはぶんぶんと頭を振る。
「まぐれでもなんでも、ルイズ様はシルフィを召喚しました! これは間違いないわ! そして、
シルフィは偉大な韻竜なのね! そんな私を召喚したのだから、きっとルイズ様も偉大な魔法使いに
なるはずだわ!」
 言いながら、シルフィードは思考がごちゃごちゃとしていくのを感じた。言葉を続ける度に、
頭の奥が熱くなってくる。
「それに、ルイズ様は私に優しくしてくれたもの。私が困ったことにならないようにって、色々と
考えてくれたもの」
 言葉が止まらない。なのに、言いたいことがまとまらず、余計に心が乱れていく。
「それに、シルフィードって新しい名前もくだすったわ。素敵な名前で、すごく嬉しかったのね」
「シルフィード?」
 声が何故かくぐもっていた。感情が昂り、わけが判らなくなる。それでも、慰めの言葉を
掛けるのをやめようとはしない

「それに、それに……」
 しかし、上手く言葉が出てこなかった。頭が熱くて、何を言ったらいいのか判らない。どうにも
ならずに声を詰まらせていると、柔らかな感触が頬に触れた。見れば、いつの間に傍まで来て
いたのか、ルイズがシルフィードを撫でてくれている。
「もう、なんであんたが泣いているのよ?」
 言われてみて、気付く。いつの間にか、自分の方が涙を流していたことを。軽く頬を舐めて
みれば、塩の味が舌を刺した。
 そんなシルフィードの頭を撫でながら、ルイズはふっと笑ってみせる。
「判った」
「きゅい?」
「判ったっていったの」
 言うなり、ルイズはそっぽを向いた。その横顔には、微かな赤みが差している。

「まったく、使い魔のくせにご主人様を慰めようだなんて、ホントに不敬なんだから……」
 次いで、ルイズの口から出てきたのは、そんな言葉だった。額面通りに捉えればきついものが
あるが、もちろん賢明な韻竜であるシルフィードは主の真意をちゃんと判っている。何故なら、
そういうルイズの口許には、柔らかな笑みが浮かんでいたのだから。
「でも、ご主人様を助けようっていう忠誠心には、報いないといけないわよね」
 言うなり、ルイズはシルフィードに目を合わせてきた。
「だから、ありがとう、シルフィード」
 そう言ったルイズの表情は、とても華やかな笑顔だった。先程までの、自嘲と自虐に満ちた
顔とはまるで違う。明るく、優しい光を灯した、綺麗な笑み。ボロボロの姿にあってさえ、その
姿は輝いて見えた。その微笑に、シルフィードは一瞬見惚れてしまう。
 さっきの萎れた花じゃない、艶やかに咲き誇る、大輪の花。その眩い様な微笑みが、美しいと
素直に感じさせた。
 そんな笑顔を見せてくれたことに、そして自分に礼を言ってくれたことに、シルフィードの
心は感極まる。

「きゅい! よかった、ルイズ様、元気になってくれたわ! きゅいきゅい!」
「わっ、ちょっと、シルフィード!?」
 感動のまま、シルフィードはルイズの顔をぺろぺろと舐め始めた。流石にルイズは困惑した
顔を浮かべるが、喜びに沸くシルフィードは止まらない。
 ルイズが元気を取り戻してくれたことが嬉しかった。もう泣いていないことが嬉しかった。
そして、自分に笑顔を見せてくれたことが嬉しかった。そんな歓喜の想いを舌に乗せ、何度も
何度も舐め続ける。
「でも」
 やがて、気持ちが落ち着いて舌を止めると、ルイズがシルフィードを見据えて口を開いた。
よだれでべとべとになった顔や髪を、ハンカチで拭いながら。
「人目がないからって、こんなところで言葉を話したのは事実だからね。次に喋ったら、
ご飯抜き」
「きゅい!?」
 思いもよらない発言に、シルフィードは目を見開く。
「ひどいのね! 横暴なのね! 断固然るべき抗議を訴えるのね!」
「駄目よ。それが嫌なら、ちゃんと約束守りなさい」
「きゅいー……」
 自分の抗議をまるで取り合わず、厳しい眼をむけるルイズに、シルフィードは情けない声を
漏らした。どうやらこの小さなご主人様は、意外とおっかない性格だったらしい。

 でも、とシルフィードは思う。少なくとも、さっきの哀しい表情、あんな顔をされるくらい
なら、今のちょっと怒った様な顔の方がよっぽどましだ。
 恐らく、魔法の得意でないらしいルイズは、これからも失敗することは多いだろう。そして、
きっとその度に劣等感に苦しむだろう。
 なら、その時は自分が彼女の支えになろう。彼女が挫けそうな時は、自分が彼女の背を押そう。
彼女の使い魔として。

 シルフィードが新たな決意を誓っている一方で、ルイズは何かに気付いた表情を見せる。
「そういえば、あの子にもお礼言わなきゃね」



 あれから、ルイズは急いで片付けを終わらせた。シルフィードの励ましで沈んだ気持ちが
浮き上がり、効率が上昇したのが大きい。とはいっても、結局終わった頃には2時限目の授業も
終わる時間になってしまったが。
 そして、一仕事を終えたルイズは、ボロボロになった服の着替えもそこそこに、今はある
人物を探している。といっても、相手の居場所は簡単に見当がつくのだが。

 自分のクラスの、次の授業があるはずの教室へ向かうと途中で目当ての人物を発見する。人一倍
小柄な背丈に、青い髪、身長より長い杖に、付き従う奇妙な3体の使い魔たち。恐らく次の
教室へ向かっているのだろう、静かに歩くタバサの背中を見つけることができた。それを見て
取ると、ルイズは彼女に近づきながら声を掛ける。
「ええと、ミス・タバサ?」
 背中へ向けて呼び掛けると、彼女は足を止めて振り返った。続いて、彼女の使い魔たちも
こちらを向いてくる。ルイズは行儀の悪くならない程度に早足で追いつくと、彼女に礼を述べた。
「さっきのこと、お礼を言うわ。ありがとう」
「?」
 一方、述べられた方は意味が判らないとばかりに首を傾げる。
「ほら、教室のことよ。私の、その、ほら、し、失敗の片づけをしてくれたじゃない」
 説明とはいえ、自分の失敗を口にするのはあまりいい気がしない。恐らく自分の頬は引きつって
いたことだろう。そして、それを聞いたタバサは無表情ながら、合点がいったとばかりに頷いた。
 教室の片づけをしている間、ルイズはそのことが気になっていたのだ。失敗による落胆は
シルフィードの拙いながら一生懸命な言葉で払拭されたが、代わりに自分の失敗の後始末を
してくれた相手への感謝が心を占めていた。もし彼女が教室の修復を大部分終わらせておいて
くれなければ、ルイズの片付けはさらに時間がかかっていたことだろう。

「私じゃない」
「え?」
 しかし、返ってきたのは意外な言葉だった。次いで、彼女は杖の先で傍らの少年と宙に浮く
仮面――サイズは教室で見たより縮んでいた――を指し示す。
「使い魔たちがやったこと。お礼は彼らに言うべき」
 そう言われ、ルイズは戸惑った。基本的にトリステインの貴族は気位が高く、ルイズもその
例に漏れていないことは自覚している。そのため、ルイズは他人に頭を下げるのが苦手なのだ。
 先程はシルフィード、今はタバサに礼を言ったものの、前者は自分のために涙を流す彼女を
あやす様な意味もあったし、後者は同じ貴族だ。
 しかし、他人の使い魔、それも平民とマジック・アイテムに礼を言うとなると、どうしても
二の足を踏んでしまう。
 とはいえ、ルイズは貴族だ。受けた恩義を無視するということは、彼女の理想とする貴族の
道に反する気がする。なので、意を決して礼を口にしようとすれば、黒髪の少年がそれを遮った。
「いや、お礼はムジュラ、このお面だけでいいよ。俺はこいつに言われなきゃ、特に何かする
つもりはなかったんだ」
「だから、仮面といえ」
 憮然という仮面を前に、ルイズはますます迷う。平民の少年も一緒というなら、まだ謝礼に
踏み切ることができた。大抵は単なる労いだろうが、平民に礼を言う貴族はいないではない
からだ。しかし、この気味の悪いマジック・アイテム単体に頭を下げるというのは、流石に
どうだろうか。その上、この仮面は自分の使い魔がひどく警戒している。そして、実際に間近で
対面してみれば、その懸念が正しく思えてきた。なんだか判らないが、妙な妖しさを感じさせる。
そんな相手に頭を下げるのは、どうにもためらわれた。

 どうしたものかと悩んでいると、今度は仮面の方が声を発する。
「オレとて、礼といわれてもな。単に親近感で気まぐれを起こしただけだからな」
 面倒くさそうなその言葉に、ルイズは助かったと思うよりもむっとする。
――か、仮面のくせに、この私の感謝が必要ないっていうの!? 仮面のくせに! 不気味なくせに!
色遣いもヘンテコなくせに! ジャイアントモールにでも食べられればいい様な見た目のくせに!
 怒りのままにそこまで思うと、何故か“似た者主従”という単語が頭をよぎった。それに首を
傾げる間もなく、黒髪の少年が怪訝とした声を上げる。
「親近感って、お前がこの娘(こ)にどんな親近感わくんだ? 似ても似つかないじゃん」
 先程から自分を貴族と思ってもいない様な無礼な物言いに眉尻が上がるが、彼の言う通りだ。
親近感とこの仮面はいうが、こんな悪趣味な仮面と自分に共通するものがあるなどとは思えない。
むしろ、あって欲しくない。
 しかし、謎の仮面が次に発した言葉は、想像すらできないことだった。
「自分でいうのもなんだが、オレも強大な力を弱めている身だからな。本来強い力を持って
いるはずなのに上手く扱えんでいるこの娘が、他人事に思えなかったんだよ」
 初めは、何を言われたのか判らなかった。次第にその言葉の意味を理解していくと、胸の
鼓動がはやりだす。

――私が、強い力を持っている……?
 そのことを問い質そうと口を開こうとすれば、既に仮面の主であるタバサが問い掛けていた。
「どういう意味? ルイズの力とは?」
「言葉通りだ。結果は失敗とはいえ、たかだか物質変化程度に使う魔力で教室を半壊させる
威力を産むんだ。今はつぼみにもなっていないような才能らしいが、開花すれば相当な大輪に
なるだろうな」
 その言葉に、ルイズの胸が激しく揺れる。その動揺は、我知れず言葉として飛び出した。
「で、でも! 私はずっと失敗ばっかりだったのよ!? どんな魔法使っても、どんなに練習しても、
いっつも失敗して、爆発してばっかりで……」
 言いながら、切なくなってきてそこで言葉を切るが、何故か少年が変な顔をする。
「爆発ばっかりって、失敗っていう割にはやけに結果が安定してるな?」
 訝しげに言う少年に、ルイズは眉をひそめた。
「どういう意味、それ?」
 険のある声で聞き返せば、少年はたじろいだ風に言葉を重ねる。
「いや、ほら、魔法のことは俺はよく判らないけど、失敗ってさ、もっといろんなもんになるんじゃ
ないの? 普通さ、失敗ってどうなるか予測できないもんじゃないか」
 言われて、ルイズははっとする。思えば、ルイズの失敗は爆発だけだった。火、水、土、風、
そしてコモンマジック、それぞれ性質の異なる魔法にも関わらず、爆発以外の失敗はしたことがなかった。

 考えてみれば、おかしな話だ。普通、魔法を失敗しても爆発はしない。通常の魔法の失敗は、
何も起こらないこと。呪文の効果が表れないことを指す。だから、爆発という異常な失敗に
屈辱を感じてきたのだが、何故“爆発以外の失敗をしないのか”ということなど考えたことも
なかった。確かに、性質が違う魔法でも失敗の結果、現れる効果が常に同一というのは、奇妙に
思える。
 その考えに取り付かれ、沈黙していると、それまで黙っていた羽の生えた光が声を掛けてくる。
「失礼、よろしいですか?」
「え、ええ。何?」
「結果が同じということは、個々の失敗における原因が同じだからじゃないかと思うんですが、
失敗の原因はなんなんです?」
 言われ、ルイズは困ってしまう。
「知らないわよ、家族も、先生たちも、誰も爆発の理由を言えなかったんだもの」
 口調が、少し拗ねたものになってしまった。周囲の誰もが、自分の爆発を笑うだけで、その
意味を深く考えようとはしなかった。だから、ルイズはがむしゃらな努力を続けるしかなかったのだ。
 それを聞き、仮面と少年がまた言葉を発する。
「やれやれ。ということは、あの連中、相手の失敗の原因を言い当てることさえできんくせに、
相手を侮辱してたわけか。程度の低いことだな」
「でもよ、誰も原因が判らないなら、もしかして原因がないんじゃねーの?」
「原因のない失敗を、失敗とは呼びはしない」
「それもそうか」
 そんな会話をする両者に、ルイズは戸惑う。既に、相手の無礼に対する怒りはない。むしろ、
こんな風に自分の魔法のことを考えてくれることへの、困惑の方が大きかった。
 それを使っている、当のルイズでさえ、冷静に自分の爆発する魔法を考察することが、できて
いなかったのだから。

 そこで、また羽付きの光の声が耳に届く。
「ルイズ様でしたよね? ワタシの相棒のことを、聞いていただけますか?」
「あんたの相棒? 別にいいけど」
 では、と前置きして、光は話しはじめた。
「ワタシの相棒は、コキリ族という種族でした。コキリ族は、皆私のような存在を自分だけの
相棒として持っているんです」
「メイジと使い魔みたいね」
 光は、頷くように一度身体を傾ける。
「でも、ワタシの相棒は、ワタシが彼の許へ行くまで、相棒がいなかったんです。そのことで、
彼はずっと半人前と呼ばれ、莫迦にされていました」
 ルイズは息を飲んだ。周囲が持っているはずのものを、1人だけ持っていない。自分の境遇と
酷似している。
「でも、後になって彼に相棒がいなかった理由が判ったんです」
「なんだったの?」
 思ったより大きな声で聞いていた。会ったこともないその相棒とやらに、感情移入してしまった
からだろうか。
「その、改めて考えるとお粗末な話なんですけど……」
 何故か言い難そうにしながら、羽のある光は答えた。
「彼はコキリ族でなく、人間だったんです」
 一瞬、沈黙が訪れる。
「つまり、コキリって種族じゃなかったから、相棒がいない方が普通だったってこと……?」
「はい」
 その話に、ルイズは呆れてしまった。聞き終えてみれば、確かにお粗末な話だ。しかし、次に
聞いた言葉こそ問題だった。

「それで、ルイズ様も同じじゃないかと思うんです」
 刹那、ルイズは光を睨みつけるが、光は慌てて続けた。
「いえ、ルイズ様がメイジじゃないといっているんじゃないですよ!?」
 だけど、と光は続ける。
「あの失敗、誰もが原因が判らない様な特異な代物なら、失敗の一言で済ませていいものでは
ないと思うんです。もっと大きな視野で見ないと、正しい答えに辿り着けないんじゃないかって
思うんです」
 ワタシの相棒みたいに、と締めくくり、光は一礼した。
「そうかもしれない」
 そこで、タバサが声を発すると、ルイズのすぐ前までやってくる。無表情な彼女に間近で
見上げられ、少したじろいだ。
「な、なに?」
「私も、貴方の爆発を、ただの失敗としか見ていなかった」
 怒りが胸の内で熱を持つ。判っていたことではあるが、面と向かって言われてはやはり悔しい。
「悔しい」
「……は?」
 しかし、次の一言に、間の抜けた声が出た。
「貴方の爆発の特異性に、何も気付けなかったことが悔しい」
「そ、そう……」
 続いた言葉に納得いくが、どうにも調子の狂う少女だ。無表情で、何を考えているのか掴めない。
「これだけはいえる」
「?」
「不本意かもしれないけど、貴方は爆発という特異な性質を操れる。少なくとも、ゼロじゃない」
 顔が熱くなるのを感じた。真顔でそんなことを言われるとは、思ってもみなかったのだ。
――ゼロじゃない……
 先程シルフィードに言われた以上に説得力があるその言葉に、ルイズの鼓動は激しく踊る。

「あ、ありがとう、タバサ……」
「思ったことを言っただけ」
 礼はいらないと言いたいのだろうか。口数の少ない級友に、くすりと笑いが漏れる。
「なら、私もいいたいことを言っただけよ」
 次いで、ルイズはタバサの使い魔たちの方へ振り返った。
「貴方たちにも、一応言っておくわ」
 もう躊躇いはない。自分の魔法のことを考えてくれ、自分の魔法とどう向き合うべきか、道を
示してくれた者たちだ。これで恩を感じなければ、ヴァリエールの名が廃る。
「貴方たちの言葉、参考になったわ。ありがとう」
 言いながら、スカートの端をつまんで、一礼する。すると、使い魔3体は呆けたように沈黙した。
どういうわけか、動きもせずにこちらを見返してくる。
 それがなんだか恥ずかしくなってきて、ルイズは慌てて言い放つ。
「つ、使い魔に対して貴族が礼を言うなんて、普通はありえないんだからね! 感謝しなさい!」
「感謝に対して感謝というのは変」
 それに対し、涼しい声でタバサがつっこみ、ルイズは顔を真っ赤にした。
「も、もうすぐ次の授業が始まるわね! 急ぎましょう!」
 誤魔化すように叫ぶと、ルイズは逃げる様にその場を後にする。正に、脱兎の勢いで。

 そして、次の教室へと急ぐ中、ルイズはタバサのことを考えていた。
 タバサ。青い髪をした、小柄な自分よりさらに小柄なクラスメイト。奇妙な名前で、家名すら
知らない同級生。いつも無表情で、無口で、大抵本を読んでばかりいる、不思議な少女。
 そして、自分と関わろうとはしなかったが、莫迦にすることもなかった、ほとんど唯一の
生徒。自分を、ゼロじゃないと言ってくれた、初めての級友。
「タバサ、か……今度、また話してみようかな……」

 ルイズとタバサが、互いを意識した瞬間だった。

~続く~


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