あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

カーチャン召喚

今でもはっきりと、あの情景を思い出せる。
召喚の儀、私のこの、後悔のはじまり。
幾度となく失敗を重ね、これが最後のチャンスと、渾身の力を振り絞って発動させたスペルだった。
かつてない手応えを感じた私は、待望の使い魔がこの先にいるのだと確信していた。
しかし、縋るように見つめていた白煙の中から現れたのは、黒髪の、年老いたただの平民だった。

「カーチャンだ! 平民のカーチャンだ!」
「ゼロのルイズが平民のカーチャンを召喚したぞ!!」

一目に平民(カーチャン)と分かるその容貌を見て、クラスの生徒たちが私を嘲るように騒ぎ出す。
すべてを賭けた私のマホウ。
その成果が、目の前でただ困惑した様子を見せる、平民の女だった。
同級生たちの野次も、コンクラント・サーヴァントを促す教師の声も、一切耳には入ってこなかった。
ただ、私は耳を塞ぎ、俯いて目を閉じることしかできなかったのだ。


「なんでアンタみたいな使えない平民を召喚しちゃったのかしら!」
「ごめんね、カーチャンでごめんね」

それから、幾許かの時間が流れた。
平民の女は、私がどんな文句をつけようと、いつもただ申し訳なさそうに謝るばかりだった。
その様子が更に私を苛立たせる。
ドラゴンやグリフォンのような、素晴らしい使い魔を得ることを夢想してきた。
しかし、現実には薄汚い平民の女がいるだけ。
最後の希望を踏み躙られた私は、自分の才能の無さを、すべてその平民に押し付けていた。


ある日、平民にお使いを頼んだ。
トリスタニアまで行かなければ手に入らない秘薬を購入するためだ。
平民は馬に乗れないと言っていたが、馬に乗れないなら歩いて行けと、着の身着のままで放り出した。
4日経って、ようやく平民は戻ってきた。
その姿はボロボロで、顔色も優れず、極度の疲労上体にあることが一目で見てとれた。
お金は秘薬の代金分しか渡さなかったので、それも無理からぬことだった。
命じた私はと言えば、買い物に行かせたこと自体をすっかり忘れていたので、生活に困窮した不埒な平民が強盗にでも入ってきたのかと思ってしまったほどだ。

「頼まれた秘薬を買ってきたよ」
「なっ……! これ、ただの色のついた水じゃないの!! アンタ、買い物ひとつできないの!?」

聞けば、トリスタニアへの街路の途中で行商人から格安で購入したらしい。
何も知らない無知な平民と馬鹿にされ、騙されたのだろう。
少し考えれば、騙されていることくらい気付くだろうに。

「ごめんね、カーチャン、バカだから……ごめんね」
「弁償しなさいよね! このバカバカバカッ!! 死んじゃえ!!」
「ごめんね……」

それ以来、私はその平民に、必要最低限のこと以外、一切話をしなくなった。
身の回りの世話をすべて任せ、たまに喋ると思えば罵倒するだけ。
食事は癖になるからと、あるいは私の機嫌を損ねた罰として、本当に質素なものしか与えなかった。
今にして思えば、八つ当たり以外の何物でもなかった。


ある深夜、ふと目覚めた私は、平民が藁の寝床からいなくなっていることに気付いた。
後方で気配がしたので、寝返りを打つフリをしてそっと振り返ってみると、そこには涙を流して月を眺めている平民の姿があった。

「タケシ……」

誰かの名前を呼びながら、はらはらと泣く平民の姿に、私はなんだか無性に不愉快になり、無言で布団をかぶった。


翌日から、平民への待遇を少しだけ良くしてやった。
食事は学院で働く平民と同じものを与え、あまり無茶な要求はしないようにした。
立派な使い魔が駄目なら、せめて立派な使用人にしようと、身なりを整えさえ、文字を教えた。
それでも、平民は何日か置きに夜な夜な起き出しては、ひたすら涙を流していた。
その様子が、私にはたまらなく不愉快だった。

この平民は、私の使い魔だけをやっていれば良いのだ。
タケシなる人物がいかにこの平民と親しかろうが、使い魔の最優先事項は主である私でなければならない。
私自身に愛着を持たせるために、少しだけ優しくしてやろうと思ったのだ。


後年、私はこの話を、ある事件から親しくなった、唯一の親友に話したことがある。
彼女はそのとき、ただ悲しそうにこう言った。

「ルイズ。あなた、年下の兄弟はいなかったわよね。
 私にはいるわ。3つ下の妹が。
 まだ私が幼い頃の話だけどね、下の子が生まれた途端、母親が妹ばかりを構うようになったのよ。
 今にして思えば当たり前のことなんでしょうけど、当時の私にはそれがとにかく不愉快でね。
 その話のあなた、当時の私にそっくりよ。
 弟や妹がいる人ならば、誰だって一度は経験するはずよ。
 あなたのその気持ちは、母親を取られるんじゃないかっていう嫉妬だったのよ」


明くる日、学院に衝撃が走った。
巷で噂の「怪盗フーケ」が、学院の秘宝である「破壊の杖」を盗んで逃走したのだ。
その探索任務に、私は真っ先に立候補した。
詳細は省くが、その責任の一端が私と、今では親友であるキュルケにあったのだ。

結論から言おう。私は任務に失敗した。
フーケはまんまと逃れ、そして……。
無理に連れて来たあの平民、いや、私の大切な使い魔は、二度と戻ってくることはなかった。

貴族とは、敵に背を向けぬもの。
私の薄っぺらい矜持が、あの心優しい平民の命を奪った。
私が、私が彼女を殺したのだ。


事件の後、部屋に閉じこもった私を、誰も構うことはなかった。
学院で働く平民たちからは軽蔑の視線を向けられ、その存在をただ無視されていた。
それまで私をからかっていた学生たちは、腫れ物に触れるかのように私と距離を置きだした。
しかし唯一キュルケ、キュルケ・フォン・ツェルプストーだけは、それまで以上の頻度で私に絡んでくるようになった。
泣き叫びながら物を投げる私に、彼女はただされるがままにしていた。
だがそのときの私は、彼女のその優しささえも煩わしく、同情が更に私を惨めにしていた。

物に当たっていた私がその日記帳を見つけたのは、事件から一週間が経った頃だった


散乱した藁の下に隠されていたため、気付くのが遅れてしまったのだ。
最初の方は見知らぬ文字で書かれていたために解読できなかったが、しばらく読み進

めていくうちに、見慣れた言葉で書かれるようになっていた。

「タケシへ。
 今日は、ルイズさんが、ハルケギニア語、教えてもらうました。
 練習のために、この日記、ハルケギニア語で書くね。」

たどたどしく綴られる文字に、知らず涙が溢れてきた。
失われたもののほんの一部がここにあるような気がして、私はただ涙をこぼしながら

読み進めていった。
日を追うごとに、徐々に文法がしっかりしていく。
基本だけ教えて後は丸投げしていたのに、あの平民は、私の使い魔は、私の知らない

ところで努力をしていたのだ。

「タケシへ。
 今日は、ルイズさんが褒めてくれたよ。
 洗濯が、上手だって。嬉しかった。
 カーチャン、洗濯だけは誰にも負けないからね」

自分に愛着を持たせようと躍起になっていた頃の話だ。
日記は必ず「タケシへ」で始まり、その内容には必ず私のことが書かれていた。
あれだけ酷い扱いをしたのに、私への恨み言は一切なかった。
それが、また私を悲しくさせた。

「タケシへ。
 ルイズさんはちょっと誤解されやすいけど、とても良い子です。
 そういうところは、タケシに似てるね。
 いつ戻れるかわからないけど、いつか必ず戻ります。
 それまで、どうか元気でいてね」

違う! 私はそんな人間じゃない!!
そう叫んだつもりが、喉から発せられたのは、言葉にならない声だった。
もし私が立派な貴族であったならば、彼女にあんな無茶はさせなかった!
自分の才能の無さを彼女に押し付けるようなことはしなかった! 優しくしてあげら

れた!

ごめんなさい。
優しくしてあげられなくて、ごめんなさい。
彼女を、どこか遠い地で待つ「タケシ」という人に、ごめんなさい。
この罪は必ず、私が一生を賭けて償います。
だからどうか、これまで私が無茶させた分、どうか安らかに眠ってください。

私はいつか彼女がよくそうしていたように、窓の向こうに浮かぶ月へ向かい、ただは

らはらと涙を流して呟いた。

「カーチャン……」

二つの月は、何も応えてはくれない。


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