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ゼロの黒魔道士 Another Note-07


宛ても無く、彷徨った。
手掛かりも無く、探し続けた。

「んがぁあ~!!ジョゼットぉおお~……どこだぁあ~……?畜生ぉ~……」

男の目は充血し、顔色は疲労の色が濃い。
裏通りという裏通りは回ったつもりだし、
階段の下も、ゴミ箱の中も、
とにかく女の子一人が入れるスペースがある場所は探し尽くしたつもりだ。

「俺が悪かったぁ~……頼むから出てきてくれよぉお~……」

しかも自分は『亜人』。
どういう謂われかは存ぜぬが、ここらの住人に歓迎されていない。
祭の夜に人目を忍んだ上で人探しは、数十倍の労力を要する。
夜半過ぎには祭の喧騒は止んだとはいえ、それでもどこかに人の目がある。
この町の連中は眠らないのか?そう疑念を抱かずにいられない。

「……太陽が先に出てきちまった……いっかい宿に戻っかぁ。
 ベッドでスヤスヤ寝ててくれりゃ一番良いんだがなぁ……」

山間の秋の早朝に相応しく、霧越しの太陽が弱々しく男の顔を洗った。
一旦、男は宿に戻ることにした。
夜中探し続けて見つからないということは、きっと宿にでも戻ったのだろう。
そうだ、そうに決まってる。
宿で今頃、惚れた女はぐっすり眠っているんだ。
だから、起きたら謝るんだ。イの一番に。
男は、そう願っていた。そう信じていた。

この時は。


「あれっ、師匠!」

宿のまん前では、白い毛玉が腕を組んで待っていた。
ちょっとした招き猫のようにも見えるが、
その顔には毛の上からも分かるような、眉間の皺が刻まれていた。

「――やっと帰ったか、この大馬鹿野郎」
「ジョゼット見なかったッスか?」
「――いや」

願いは外れた。彼女は、宿に戻っていない。
だとすると、どこにいる?

「そっか……街中探したけど見つからないんスよねぇ。
 やっぱ手掛かり無く探すってのはタワケですかねぇ?
 せめて心当たりでもありゃ……」
「――心当たりは、あるぜ」
「マジっすかっ!?流石師匠っ!いよぉっ!大統領っ!」

師匠であるスティルツキンの言葉に、男は喜んだ。
流石は師匠。自分と違って、何でも知っている。
何でも分かる。
最初っから師匠に聞いた方が早かったか?

「んな足のつりそうな呼び方すんな。
 ――それに、心当たりがあっても見つかる保証は無ぇ」
「んーなの、探してみなけりゃ分かんねぇスって!で、何処なんスか?」

いやいや今更だ。今はとにかく、彼女を見つけて謝らないと。
そうだ、彼女を見つけて――

「――お前、一晩ほっつき回っといて、まだ分かんねぇのか……」
「へ?」

彼女はすぐに見つかる。
彼女の笑顔にすぐ会える。
男は、そう願っていた。そう信じていた。

この時までは。


           ゼロの黒魔道士 Another Note
           ~第漆篇~ たった一言



「ハァ、ハァ、ハァ……」

秋の弱い太陽とはいえ、徐々に空気を暖めはじめていた。
時間がたつごとに、霧が晴れていく。
男が走るほどに、視界が広がっていく。
そして、見えてくる。
男が『祭』と思い込んでいた、その真実が。


「――そっち降ろせーっ!」
「あいよー。よいしょぉっと……コラぁ!ちゃんと力入れろォ!」

ボロ布を運ぶ男達。
そこから真っ赤な液体が滴るが、気にしない。
いや、気にしていてもしょうがないのだ。
そんな包みが幾つも、幾つも。
蠅がたかるような臭気が、包みから漏れる。

「あぁ、悪い悪……うぅっ……オェ……」
「――吐くなら向こうにしてくれや。掃除が大変になる」

町の東側に行くにつれ、その臭気はより強くなる。
町の東側に行くにつれ、石畳が真っ赤に染まってゆく。

「なんだ……こりゃぁ……!!」

血。
足りない頭でも、すぐ分かるような、そんな匂い。
通りには血と、それに伴う死の臭いが、満ちていた。

「アンタァアア!?アンタ!?嘘って言っとくれよ!?」
「父ちゃーん……ねぇ、なんでこんなところで寝てるの?父ちゃーん……」
「奥さん、お子さんは引っ込めといてくんな。ここらは一番酷いんだ――」

泣き崩れる母親のの袖を引っ張り、幼子が首をかしげていた。
少年はまだ知らないのだ。
青白くなって、通りに転がった、掌の意味を。
人はいずれ死ぬということを、教えられずに旅立った、父の心を。

「冗談……じゃぁ無ぇよなぁ……」

何も知らなかった――無知が罪と言うならば、男も同罪だ。
四本の腕を今みたいにちゃんと隠して、人目も気にせずここまで探しに来ていれば。
そう悔いてももう遅い。
惨劇は起こり、殺戮が行われたのだ。

「――ふむ、蝶番が老朽化しておったか。これは破られても……」
「他人事かよっ!!」
「修理しなかったのはどこのどいつだ!!」
「わ、私の責任では無いっ!かような事は想定外の自体であり……」

東の城門のあたりが何やら騒がしい。
いかつい男達に守られた、高そうでヒラヒラした服の男が、
他の多くの者の追及に言葉を濁している。

「嘆願書はもう何通も出してたぞっ!!」
「誰の税金で食ってっと思ってんだ!!」
「領主としての怠慢だっ!!」
「息子を返しとくれよぉおお!!!」

悲痛な叫びをいくら繰り返したところで、死んだ者は戻らない。
それでもなお、悲劇の中人々は問いつめるのだ。
『何故あいつは死んだんだ?死なねばならなかったのだ?』と。

「えぇい、待ちなさい、待ちなさい!私は、寝て無いのだぞ?」
「こっちも同じだってんだよぉおっ!!」

無責任な責任者の発言に、また怒号が一層強くなる。
寝て無いのは、自分も同じだ。理由こそは違うが。
そう男は頭の半分で思った。

「師匠ォ……これ、夢、じゃないん……スか?ねぇ?夢っつってくださいよォ……」

頭のもう半分では、これは夢だ、とまだ信じたくて、そう信じようとして、
ぐるぐるとしたものが渦巻いていた。

「俺に話しかけようとすんな。ただでさえウェアウルフのせいで緊張感ビリビリなんだ」

肩にかついだ大き目のリュックサックがそう返事をした。
スティルツキンの持つ鞄は、自分が納まるぐらい大きい。
荷物を全部抜けば、モーグリ族一匹ぐらいは余裕だ。
本当を言えば、あまり鞄の中に入りたくは無いが、
狼騒ぎで緊張の漂う町に新たな火種を撒くこともあるまいと我慢をした。

「ウェアウルフ……」
「……『亜人』、が嫌われてるワケだよな」

異なる種族同士が、食うや食われるかの対立を起こしている地。
少しでも外見の異なる者は歓迎されない。
容認はできなくとも、仕方が無いと言わざるを得ない。
男は、この町の置かれた状況をようやっと理解していた。

「ジョゼット……まさか……ジョゼット……」

自分が、自分がもっと早く、町の東側まで探しに来ていれば。
幾つもの後悔が、腹の底から渦巻いて止まらない。

「え、えぇい!ま、ままずはその被害状況の全容を把握してからだなぁ、しかる後に対策を……」
「ふざけんなっ!遅すぎるだろぅがっ!!」

この町の責任者と、町民との諍いはさらに酷いものになっていた。
特権階級と庶民の考え方の違いは、
もしかしたら種族の違いよりもさらに深いのかもしれない。

「まずは生きてるヤツ助けろよっ!?」
「息子が攫われているんだよっ!?生きたままで……」
「俺も弟が生け捕りにされたんだっ!く、食われるために……」
「女の子も攫われておりましたぞ!可哀想に……」
「た、ただちに食べられるわけでは無かろう……?」
「んな悠長なこと言ってる場合かっ!!」

商人風の男の言葉に、リュックを担いだ男は反応した。
女の子。もしかしたら。

「っ!?」
「あ、おいっ!?このバカ……」

わずかな希望に押し流されるように、男は人の群れの中に割って入って行く。
人に紛れたなら、もう四本腕とすぐ分かることもあるまい。
二本分の腕を縛る縄を解きながら、残る腕でその商人風の男をひっつかんだ。

「――おいっ!!」
「それに私の積み荷はどうな――はい?何です?」
「今、女の子って……」
「えぇ。そこの窓から見えておりました。ウェアウルフに袋詰めにされた女の子を……」
「まさか……白い髪の毛の、可愛らしい……」
「左様左様。まさしく雪のような女の子でしたなぁ……」

大当たり。男は、自分の血が湧き立つのを感じた。

「ジョゼット……てめぇっ!!なんで助けなかった!!」
「ご、御冗談でしょう?手前は一介の商人ですよ?
 だ、第一、メイジと傭兵が束になっても、ウェアウルフの群れとやり合うなんて……」

「――諸君らは、この私と、部下達に死にに行けと言うつもりかねっ!?」

民衆の群れの真ん中で集中砲火を受けていた男が一転、反撃に出た。

「じゃぁ誰が助けに行くっつーんだよぉお!!」
「息子を返してっ!!あの子はまだ若いのよっ!!」
「気持ちは分かるが、むざむざ死地に飛び込むわけには――」
「大体、教区の会議ってもただの晩餐会だろうがっ!!」
「能無しメイジっ!お前が攫われれば良かったのにっ!!」
「今、発言した者はどいつだ!!能無しだと!?お前の口を『錬金』してやろうか!!」
「やれるもんならやってみろーっ!!」
「領主様を守れっ!!」
「どけぇこの金魚のフンっ!!」

鎧姿のいかつい男達が、民衆と金持ちな男の間の壁となる。
怒号がだんだんと収集のつかないものになっていった。

「……そんなに、強ぇのか、そのウェアウルフってのは……」
「強いなんてモノじゃないですよ……鎧を着ていようが、牙でこっちの身体をひきちぎっちまうんでさ」
「……そんなヤツらに、連れて行かれたってのか、ジョゼット……」

どれだけ、怖かっただろう。
どれだけ、辛かっただろう。
自分が、修道院から連れ出さなかったなら。
自分が、旅にさえ誘わなければ。

「さて、袋詰めにされておりましたので、生け捕られたのでしょうが……
 もはや、お気の毒さま、としか言いようが無いですな……」
「……」

商人の『もはや』には、手遅れという意味がこめられているのだろうか。
男は、無言で会話を切ると、
人ゴミのさらに中へ中へと、その身体をねじ込んで行った。

「……ゴメンなさい、よっ!……とぉ……」

鎧姿の男達に、一言だけ謝罪の挨拶をくれてやり、
また人ゴミの後ろの方へと下がった。
イケ好かないが、初見だ。別にこの町の長とやらに文句を言うつもりも無い。
そのまま黙って、男は人ゴミを抜けて通りに戻って行った。

「離せぇっ!このやろっ!!」
「えぇい、引っ込めっ!お前達は黙って主たる私の法に従っておれば良いのだっ!!」
「被害にあったのは俺達だ!!このぉっ!!」
「衛長っ!何をしておるっ!剣を抜いても構わん!鎮めろっ!」

中心部では、ついに武による鎮静化が開始されようとしていた。

「はっ!!各員、抜剣せ――よ……?」
「た、たいちょーっ、剣が無いですっ!?」
「お、同じく……」
「あ、あれ!?確かにさっきまで腰に……」

鎧の男達の腰元が、いつの間にか軽くなっている。
民を剣で威嚇するはずの男達から、鞘ごと剣が消えた。
これではただの鎧人形ではないか。

「えぇい、貴様らそれでも剣士かっ!いくらで雇われていると思っているっ!!」
「畳んじまえーっ!!」
「う、うわぁあああ!!」

この町の領主の悲鳴が、怒号の中に消え行くのを、その男は背で感じていた。
四つの手に、四本の剣をしっかり握りしめて。
流石に貴族に仕え、剣を生業にする者達の剣だ。
ちゃんと研いであるし、切れ味も悪くなさそうだ。
ギラリとした銀色の刀身に、男の赤髪が映り込んだ。

「――やれやれ、どうするつもりだ?そんなもん持って?」
「……助けに行くんスよ」
「ふん。やっぱ大馬鹿だな、お前は」

リュックサックの声は、何時に無く真剣であった。

「……師匠……」
「俺も鬼じゃない。無理だと思う冒険を勧め無いさ。
 だがな、今度ばかりは無理だ……ガイアに帰るには潮時だぜ」
「帰るって、そんな」
「良いか?
 彼女が生きていて、
 恐ろしい牙の化け物の群れをぶち破って巣に入り、
 目指す彼女の手を五体満足のまま握り締め、
 一緒に無事で帰ってくる……可能性は、ほぼ『ゼロ』だぜ?」

リュックサックの声は、何時に無く冷たく断言した。

「でも……」
「『でも』、何だ?臆病者は黙って逃げておけ。
 命あってのものだねだぞ。冒険家は生き残るのが一番大事なんだ」

リュックサックの声に、男はいつもなら黙して従ったかもしれない。
それが臆病者で、自分に自信の無い男の、ごく普通の行動だからだ。
だが、今回は、今回ばかりは。

「……ほぼ『ゼロ』ってこた、かんっぺきにまっさらの『ゼロ』ってこっちゃ無いっしょ?」
「まぁ、そりゃぁ……」
「……それに、師匠、言ってたじゃ無いッスか……
 『狙った宝は何が何でも手に入れろ』……トレジャーハンターの鉄則って……」
「……」

男がポツポツと語る言葉に、鞄の中のモーグリは黙って耳を傾けていた。

「それに、それに俺……
 たった一言を、たった一言をジョゼットに言えて無いんすぜっ!?
 それなのにお別れなんて、あんまりじゃ無いッスかっ!!
 たったの、たった一言なのにっ!!」

たった一言を、惚れた女に言うために。
たった一言を、惚れた女に伝えるために。
それだけのために、この男は死地に赴こうとしている。
まったくもって馬鹿だ。
『超』もつくことをためらうほどの超大馬鹿だ。

だが。

「……それが、答えか?お前さんの……」
「――うっす!!」
「じゃぁ――ボサボサしてる暇ぁ無ぇな」

スティルツキンは、そういう馬鹿が嫌いなわけじゃない。
リュックサックの中で、優しい笑みがこぼれていた。

「うっす!!」

霧はほぼ消えていた。
進むべき道にも、また。



ピコン
ATE ~夢も希望もありません~

キィ、キィ。
洞窟の奥底で、錆びた金属が軋んだ音を奏でる。
キィ、キィ。
高音がいくつも重なって、コウモリの輪唱のようだ。

「……」

鎖で吊るされた、大きな鳥籠。
そうとしか形容できない容れ物の中に、彼女は膝を抱えて座っていた。
どこかの貴族が、大型の獣をペットにするために拵えたのだろうか、
鳥籠の底面にはその紋章が象られている。
もちろん、籠の中にいる彼女からそれを見ることはできないし、
見ることができたとしても見る気も起きなかっただろう。

≪明日、お前、食うー≫
≪食う違う。『ふっかつのぎしき』するー≫
≪そうだったー。ねくろふぉびあさま、ふっかつー≫
≪ばんざいー≫

低くしゃがれた、狼共の言葉が頭で繰り返される。
『復活の儀式』とやらがどのようなものかは分からない。
分かるのは、少なくともそれまで自分は無事。
そこから先は……ということだけだ。

「……」

キィ、キィ。
洞窟に時折吹く生温かい風で、鳥籠が揺れて軋む。
キィ、キィ。
尖った音が、頭に心に突き刺さる。

≪ガリア王家は、忌々しきブリミルに繋がる血……
 お前はそれを色濃く受け継いだ忌み子なのだよ……≫

ジョゼットは、ふと胸に手を当てた。
修道院長が、外さぬようにと厳命していたはずのペンダントがあった場所。
彼女に偽りの姿を押しつけていた、ペンダントがあった場所。

「……どうして、でしょうか。
 家族がいるって、分かってうれしいはずなのに……」

誰が聞いているわけでも無いのに、
彼女は虚空に向かって声を出した。
声を出さねば、自分が自分で無くなるような気がして、声を出した。
いつもと違って聞こえるのは、自分の声までペンダントで作られていたからだろうか。
それとも、あまりにも弱々しい、震えそうな涙声であったためだろうか。

≪何よりの証拠がその紺碧の髪……フフ、明日の夜には我がモノとなるその髪……≫

ネクロフォビアと名乗る男が触れたその髪を、つまむ様に持ち上げる。
見事な青。
海よりも、空よりも青い、青。
もう虐められることは無いであろう、見事なほどの青色。

「……どうして、でしょうか。
 真っ白けの髪の毛、あんなに嫌がってたはずなのに……」

知りたく無かった、と言えば嘘になる。
修道院に入っていた自分が、元々は何者なのか。
本当の親は王様で、とか、
本当は自分はすっごいメイジで、とかいう、たわいも無い妄想。

妄想が本当じゃなくても良いから、
彼女は、知りたかった。
彼女は、知ろうとした。
彼女は……知ってしまった。


「ぎやぁああああああああああああああ!!!」

悲鳴に、身体がビクンと震える。
これで四人目だ。
『復活の儀式』とやらの前に、
ネクロフォビアが魔力を得るための犠牲となったのは。

『復活の儀式』。
見るからに悪そうな人のために、自分が死ぬ。
まだ、何にも経験してないまま、
恋も、愛も、冒険も、何にもしないままに死ぬ。

嫌だ。死にたくない。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。

「……ジュリオ様……怖い、怖いの……助けて……」

助けを求めて、助けが入るなら苦労はいらない。
今まで何度、助けを求めただろう。
今まで何度、助けは来ぬと諦めただろう。

「助けて、よ……誰か……」

膝の上で組まれた手の甲に、爪がギリギリと食いこんでいく。
嫌だ。死にたくない。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。

ジョゼットの助けを求めた願いが、
涙と共に鳥籠に落ちる。

キィ、キィ。
鳥籠が音を立てて揺れていた。
キィ、キィ。
絞首台の死体のように揺れていた。


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