あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

萌え萌えゼロ大戦(略)-47b



「では、これより骨髄移植手術を開始します。
 手順は先程打ち合わせたとおり。まずは二人に眠ってもらって、
それからカリーヌさんの拒絶反応を滅失。その後ルイーズさんの腸骨から
骨髄液を採取して、これを腕からの静脈点滴としてカリーヌさんに移植します」
「……まったく。そういうことなら先に話を通してくれても良かったんじゃ
ないですか?」
 部屋の扉が閉まり、あかぎが用意した道具を前にしての説明を聞きながら、
ラルカスは小さく溜息をついた。
「ごめんなさいね。でも、これはトリステインの最重要機密事項なの。
少なくともあと三十年、できれば死ぬまで内緒にして欲しいわね」
「……仕方ないですね。吹聴したところでこちらに益はないですし。
わかりました。それでは、始めますか」
「ええ。ド・モンモランシ夫人、お願いします」
 あかぎの言葉にモンモランシ夫人は真剣な面持ちで頷いて、ベッドに
仰向けに横たわるカリンとうつぶせに横たわるカリンの姉の二人に
『眠りの雲』(スリープ・クラウド)の魔法をかける。術者の心根を
映し出したかのような安らかな眠りに誘われ、二人はすぐに寝息を
立て始めた。
「次にカリーヌさんの拒絶反応の滅失。ミスタ・ラルカス、お願いします」
「心得ました。……さて、うまくいってくれるといいのですけれど」
 そう言って呪文を唱えるラルカス。『治癒』(ヒーリング)の呪文に
近いが、その効果はある意味真逆。モンモランシ夫人もその一語一句を
聞き漏らすまいと真剣に耳を傾ける。

 その様子を、カリンは夢見心地のまま、現実感を喪失した状況として
感じていた。
 自分が自分じゃなくなる感じがする――カリンはラルカスの魔法で
自身のほとんど崩壊した遺伝子情報が喪失するのをそう感じていた。
 ふと顔を横に向けようとする……が、それはできなかった。
ただ、姉の規則正しい寝息が聞こえるだけ。諦めてそのまま眠りに身を
委ねようとしたとき――絹を引き裂くような悲鳴が部屋に響き渡った……

「次はルイーズさんの腸骨から骨髄液を採取ね。自分の腰に手を当てて、
両肘を張った時に親指が当たる位置の少し下くらいの場所から採取するの」
 あかぎはそう言ってラルカスに消毒済みの注射器を手渡す。
トリステインの職人たちが不眠不休で五日間、精魂込めて作り上げた逸品。
あかぎの要求したハルケギニアの常識を覆すミリ単位以下の精度を熟練の
職人の勘と腕前のみで実現したゆがみのないその銀の針は、彼らの伎倆と
意地のたまもの。もちろんメイジたちも負けてはおらず、骨を貫くために
用いられるステンレス鋼が存在しないハルケギニアで職人たちが生み出した
針に『固定化』と『硬化』で補強を施したのみならず、ゆがみなく透明度の
高いガラス製の注射筒、そして中央にはめ込まれた黄金の象嵌リングが
彼らの美意識と伎倆を誇示していた。
 ラルカスは一度自分の腰に手を当てて位置を確認してから、あらわに
なったカリンの姉の腰に手を添えてゆっくりと針を沈み込ませる――が、
そのとき、カリンの姉が痛みに絹を引き裂くような叫びを上げた。
「……くっ。眠りが浅かったか」
 骨をも貫く痛みに暴れるカリンの姉。針が折れるのを恐れたラルカスが
とっさに針を引き抜こうとしたが、長い針が抜ける際に生じる痛みが
さらに彼女を苦しめる。何とか針を痛めることなく抜くことができたが、
モンモランシ夫人が『眠りの雲』をかけても効かず、あかぎも暴れる
彼女を押さえるのに手一杯になった。
「……どうした!?何があった!?」
「入ってこないで!」
 異常事態を察して外から激しく扉を叩く音とともに聞こえる声。骨髄液の
採取と移植は細心の注意を払う必要がある。無菌室がない状況で、これ以上の
騒動は厳禁。あかぎの声で外は収まったものの、ベッドの上で声をかけて
落ち着かせようとしても無理な状況で、押さえつけるだけでは術式の
続行などできるはずもない。
 そのとき……モンモランシ夫人があかぎをそっと押しのけて、カリンの
姉を優しく抱き上げる。ベッドに上がって患者の腰を外に向け、全身を
使って保定する。
「ごめんなさいね。わたくしの魔法が甘かったから。でも、もう少しだけ
我慢して。すぐに終わるから」
 ぎゅっと胸に抱きしめて。ゆっくりと落ち着かせようとするモンモランシ夫人。
そこにラルカスの狙いを定めた『眠りの雲』がかかり、今度こそゆっくりとした
寝息が聞こえ始めた。範囲魔法を間近にいる人間を巻き込まずに決めた
彼の伎倆に、あかぎは内心舌を巻く。
「ふう。一時はどうなることかと思いましたよ……」
「でも、落ち着いてくれて良かったわ~。ミスタ・ラルカス、注射器に
異常はありませんか?」
「ええ。中に少しだけ入った体液を捨てて消毒し直せば問題なく使えます。
あまり時間をかけるのも患者に負担をかけるだけですから、手早く
やりましょう」
「わたくしはこのまま保定しています。何かあった時を考えれば、
こうするのが一番でしょう」
「お願いします」
 ラルカスはそう言うと、注射器を洗浄消毒して、先程よりも慎重に
針を突き刺した。針が腰に深々と突き刺さり、骨の表層を貫いた硬い感触と
その先の柔らかい感触を確かめた状態でゆっくりと押子を引き、ガラスの
注射筒に赤いゼリー状の骨髄液を採取する。初めて見る生きた骨髄液
――それはまさしく生命の設計図だ――にラルカスとモンモランシ夫人は
畏怖を禁じ得なかったが、それを素早く埃が入らないように工夫された
袋の中でガラスの瓶に移し替え、必要量が揃うとカリンの右腕に点滴
静脈注射を開始する。これらの道具もトリステインの職人、メイジたちの
力作。点滴セットは今はここにある三セットだけだが、注射器とともに
トリスタニアでは今も新しく製作が続けられ、あかぎたちの帰還を待っていた。
「こ、これで……後は待つだけですね……」
 ラルカスが疲れた表情であかぎに向かい合う。モンモランシ夫人も同様。
二人はあかぎが点滴を行う手順を一挙手一投足見逃すことなく覚え込んだ。
二人はこれからそれぞれの国の患者たちを治療する中心となる。
だが、今はお互いやり遂げた達成感で満たされていた。
「ええ。
後は、静脈から入った骨髄液がカリーヌさんに定着してくれることを
祈るだけ。定着しても最低三週間は常に注意が必要よ。血色が良くなって、
ちゃんと血液が作られるようになったら、一般の病室に移しても大丈夫よ」
「それにしても……これが、生命を移す……ですか。やりようによっては
衰えた肉体から脳だけを移す、なんてこともできそうですね」
「それは私の国でもまだ現実的じゃないわね。いずれはできるように
なるかもしれないけれど、それ以上に問題が多すぎるわ」
「そうですか……」
 あかぎの言葉に、ラルカスはやや落胆した様子を見せる。その様子に、
あかぎは不穏なものを感じたのだが、口にはしなかった――


「……こうして、カリーヌさんやギンヌメール伯爵さま、ワルド子爵さまを
何とか助けられたの。拒絶反応がほとんど発生しなかったのは、今でも
本当に奇跡だと思うわ。
 でもね、本当の問題はこの後に発生したのよ……」
 そう言って、あかぎは語りを中断する。そのタイミングを見計らって
シエスタが冷めてしまったお茶を取り替える。
 シエスタが戻ってから、あかぎは話を続ける。
「『キョウリュウ』の毒――放射線の影響は、それから三年以上過ぎてから
私たちに牙をむいたわ。多発する癌と風評被害……『毒が移る』って
言われて、縁談が破談になった人も多く出たって聞いたわ。トリステイン
だけじゃない。ガリアでも、ゲルマニアでも、アルビオンでも。
あの戦いから私が眠りにつくまでろくな小競り合いもほとんど発生
しなかったのは、どこもそんなことをしている余裕がなくなってしまった
からね。
 だけど、それだけじゃなかった。私がそれを痛感したのは風評被害が
広がる前。『キョウリュウ』との戦いから二年が過ぎて……ピエールさんと
カリーヌさんに最初の子供が授かった時よ」
 あかぎの表情が暗くなる。それを聞いて、ルイズは「え?」と思った。
「あれ?エレオノール姉さまの年とずれてる?」
「ええ。エレオノールちゃんが生まれる前。そう、あなたたちにはお兄さんが
いたの。生まれてすぐに死んでしまったけれど……ね」
「そんなこと……父さまも母さまも一度も話してくれたことが……って、
あれ?そういえば……」
 ルイズはふと思い出す。そういえば……両親だけでヴァリエール家の
墓所にお参りすることがある。自分たちは決して連れて行ってくれない
けれど、それが、もしかすると――
 そんなルイズの横顔に、あかぎは若き日のカリン――カリーヌを重ねていた。

 ――あの子はどこ?ねえ、あかぎ!――
 ――あの子は……リオンは、きみの体の毒を持って始祖の御許へ向かったんだ!――
 ――ピエール?それ、どういうこと?ねえ、答えて!――

 そのときのことを思い出したあかぎは沈鬱な面持ちになる。
それから顔を上げ、ルイズを見た。
「……カリーヌさんは、ちゃんと骨髄が定着して元気になった……
そう思っていたわ。
 だけど、魔法で消したはずの生命の設計図――遺伝子の損傷が残って
いたのでしょうね……あの子……ピエールさんがリオン君って名付けた
あの子は、生まれても長く生きられない体だった……」
「どういうこと?」
 ふがくが問う。あかぎはその問いかけにぽつりぽつりと答えた。
「ふがくちゃんなら、分かるわね。
 単眼症(サイクロピア)だったのよ……。その子を見たのは、取り上げた私と、
ピエールさんだけ。
私が取り上げたのだって、カリーヌさんが強く望んだから。
 それでも二人とも強かったわ。
リオン君を送ってから、翌年にエレオノールちゃんが生まれて……
弱々しい産声だったけど、何とか元気に育ってくれたわ。
 けれど、次のカトレアちゃんの時に、また私たちは現実を突きつけられたの……」
 ルイズも、ふがくも、そしてシエスタもアニエスも、誰も何も言えなかった。
あかぎは言葉を濁し、そして続ける。
「だけどね。次のルイズちゃん……あなたが生まれたとき、二人とも
本当に喜んでいたのよ。力強い産声を上げたのは、あなただけだったから。
ううん。それだけじゃない。あなたが元気に生まれて育ってくれたことで、
ようやくカリーヌさんの戦後が終わったの」
「母さまの……戦後……」
 ルイズがその言葉を反芻する。その言葉の意味は重い。生きた伝説、
強さの権化だと思っていた母がそんなことを考えていたとは、ルイズは
これまで知ろうともしなかった。
「……その様子だと、あかぎは知っているみたいね。カトレアの病気が
なんなのかを」
「え?」
 ふがくの言葉に、ルイズは思わず顔を上げる。しかし、あかぎはそれには
明確に答えなかった。
「ええ。けれど、それは今話すことではないと思うわ。
 けれど、これだけは覚えておいて。ルイズちゃんが伝説の系統で、
ふがくちゃんがガンダールヴなら、これからもあなたたちの前に『槍』が
現れるかもしれないってことを」
「それはそうかもしれないけど……。それよりも、今話すことではないって……
それってどういうこと?」
 ルイズは混乱しそうだった。情報量が多すぎる。自分が『虚無』で、
ふがくが『ガンダールヴ』……なのは理解している。けれど、召喚された
『槍』と戦わなければならないかもしれないなど、考えたこともなかった。
 ルイズの問いかけに、あかぎはしばし瞑目する。そして、ゆっくりと
話し始めた。
「…………話さなければならないかしらね。私が、『キョウリュウ』を
倒してから何をしたのかを。
 ……フィリップ三世陛下も、末期癌で亡くなったの。癌に『治癒』の
魔法を使っても病状が悪化するだけだったし。そもそもハルケギニアで
癌なんて全く知られていない病気よね。
 だから……私は陛下の痛みを和らげるために二つの薬を処方したの」
「何を処方したの……って、まさか、あかぎ!?」
 ふがくが何かの気づいたのか、おもむろに立ち上がる。その射貫くような
視線を、あかぎは目を伏せ直視できなかった。
「……ふがくちゃんは気づいたみたいね。
 そう。私が処方したのはモルヒネとヒロポン……私の手持ちが尽きた
後は、クロステルマン伯爵の薬草園にあった芥子と麻黄から精製したわ。
それまで同じ材料から作っていた秘薬より純度が高い製法も教えたから、
それによって苦しみから逃れて安らかな死を迎えられた人も多かったけど、
伯爵を余計な騒動に巻き込んでしまったわ……結局、伯爵があんなことに
なってしまったのは、私のせいね」
「な……なんてものを渡すのよ!あかぎ、なんでそんなことしちゃったのよ!」
「ね、ねぇふがく。その『モルヒネ』と『ヒロポン』って……何?」
 テーブルを叩くふがくの剣幕に気圧されながら、ルイズがおずおずと
尋ねる。だが、それに答えたのはふがくではなく、アニエスだ。
「それはわたしが答えよう。
 『モルヒネ』は銃士隊を含むトリステインの近衛と王軍に支給される
鎮痛剤だ。軍医と衛生兵以外では竜騎士と魔法衛士だけが所持を許されている。
死にそうなくらいの痛みでも和らげてくれる強力な秘薬だ。
 『ヒロポン』は強壮剤……いや、戦闘薬だな。その圧倒的な効果から
『氷の女王』の異称もある。通常は支給されないが、眠気を払い、戦う事への
恐怖感をなくす秘薬だ。もっとも、効果が切れた後の疲労感はすさまじいがな――
どちらも一般には流通していないし、トリステインでしか生産されない秘薬。
そして許可なくの所持が発覚すれば問答無用で死罪。
 ……有り体に言えば、どちらも限定的な使用のみ許可されるべき麻薬だ。
かつては王国の侍医長だったクロステルマン伯爵、そして彼が謀反の咎で
刑死した後はリッシュモン高等法院長がその管理を行っていることが、
何よりの証拠だ」
「な……なによ、それ……」
 思わず絶句するルイズ。その様子に、あかぎは申し訳なさそうな顔をした。
「私が陛下に処方したのは末期癌の耐えがたい痛みを和らげるためよ。
ただそれだけ。陛下の最後の願いを無碍にはできなかったのよ……」
「だけど、どっちもこのハルケギニアには存在しない薬よ!そんなもの
渡しちゃったら、どんなことになるか、分からないあかぎじゃないでしょ!?」
「ええ。よく分かっているわ。
 けれど、自分がよく知る人間が、自分たちの世界のものの影響で
苦しんでいるのを見て、私は放っておけなかった。
 ふがくちゃんの言うとおりね。私は分かっていて混乱の種を植えたわ。
だから、武雄さんが死んでしまったとき、私は休眠することにしたの……
自分の弱さから逃げちゃったのよ」
 ルイズは、そんなあかぎにどう言葉をかけて良いものか迷った。
もし、自分が同じ立場だったら、自分が、自分のよく知る人のその苦しみを
和らげられる手段を持っていたなら、それを使うことを躊躇うだろうか?……
少し迷いはするだろうが、たぶん、躊躇わないに違いない。
 ルイズはふとふがくに視線を移す。拳を握りしめ、いらだつふがく。
彼女も分かっているのだ。いや、自分よりもこのあかぎという鋼の乙女を
知る彼女だからこそ、いらついているのだと。
 だから、ルイズはもう一度聞いた。あかぎに、自分が一番知りたいことを。
「……あかぎ。教えて。ちい姉さま、カトレア姉さまの病気がなんなのか。
『治癒』の魔法も効かない、少し無理をすれば大変なことになる姉さまの
病気を」
 ルイズはあかぎをまっすぐに見つめた。しかし……
「その答は、もう話したわね」
「え?それって、どういう……」
「言葉のとおりよ。そのものは話していないけれど、答はもう言ったわね。
それを理解できるかは、あなた次第よ。第一、それを知ったところで
どうする気だったのかしら?
 ……言葉が悪かったわね。でも、仮にそれを知ったところで、治療できる
可能性があるのはミスタ・ラルカスとモンモランシ夫人だけ。
モンモランシ夫人はもう十年以上前に亡くなっているし、ミスタ・ラルカスも
南薔薇花壇騎士を辞めて自由騎士になったって聞いたわ。
 厳しいことを言うけれど、私がその二人と連絡を取れた時期にも
カトレアちゃんの治療をお願いしなかった、ってことを、ルイズちゃん、
あなたはどう理解するのかしら?」
 ルイズははっとする。ちい姉さま――カトレアの薬は、このタルブの村に
母カリーヌが自ら求めに来ている。それを誰が処方しているのかを聞いたことは
なかったが、間違いなくその処方箋を書いたのは目の前にいるあかぎ……
ミジュアメのようなあの特製の薬を匙一つ食べると、全身がきしむ痛みに
耐えていた姉の表情が和らいでいた。そして、その甘い香りに子供だった
ルイズが手を出そうとすると、母にこっぴどくしかられた。
それがどういう意味だったのかを、聡明なルイズはようやく理解した。
「……そんな……ひどい……ちい姉さまが、いったい何をしたって言うのよ」
「ルイズ……」
「ルイズさま……」
 ぽろぽろと涙が頬を伝う。その様子に、ふがくとシエスタが立ち上がる。
「仕方なかった、誰も悪くなかった、って言えるほど、簡単なことじゃ
なかったってくらいは私でも分かる。
 だけど……あかぎ、それはやっぱり間違ってると思う」
「ルイズさま。ミス・モンモランシにお話を伺ってみましょう。
それに、ガリアの騎士さまなら、同じガリアからの留学生のミス・タバサが
何かご存じかもしれません。
 ですから、お気持ちをしっかりと持って下さい」
「う、うん」
 二人はルイズを両脇から抱えるように寝室へと連れて行く。そのとき、
ふがくは電探に何か引っかかるものを感じたのだが、直接動く気配を
見せなかったため、それをノイズと判断して無視した。
 そして、アニエスはそんな三人を見送ってから、はっきりと言う。
「わたしは、あかぎ母さんが最善ではないとしても、次善だとしても、
どうにかしようとしたのは知っているつもりだ。
 子供の頃は分からなかったが、銃士になった今なら分かる。『守る』と
いうことの難しさが」
「……ごめんなさい。アニエスちゃん。少し、一人にしてもらえないかしら……」
 あかぎはテーブルの上で手を組み、祈るようにしてアニエスとは目を
合わせなかった。アニエスがそれ以上言葉をかけられないまま、詰所に
戻るために出て行くと、家族たちも食堂に近づかなかった。
そうしてあかぎの電探が近くに動くものを感じなくなったとき、彼女の
頬を一筋の涙が伝う。
「……ごめんなさい。武雄さん。ちょっとしゃべりすぎちゃったかな……」
 あかぎのつぶやきに食堂の空気がわずかに揺れる。ただ、それだけだった……



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