あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

使い魔はじめました-24


使い魔はじめました――第二十四話――

 「ここまでは順調だったのに!」
アカデミーの一室で、エレオノールが悔しげにるつぼの中の液体を見つめていた。
ゲルマニアに蔓延する『カエルの呪い』の特効薬――になる予定のものである。
「まさか、『水の精霊の涙』の在庫が切れてるなんて……」
ヴァレリーもまた、困り切った様子で液体を見つめている。
この世界には『水の秘薬』という水の魔法の効能を高める薬が存在する。
『水の精霊の涙』の涙はその秘薬の中でもとてつもなく希少なもの。
水の精霊との交渉役を務める家から、極々稀に市場に出回るだけであった。
「あんまり出回ってないとは聞いたけど、ここまでとはね」
「あなたの荷物の中に代用が出来そうなものはないの?」
エレオノールに問われ、サララは考える。
考えたが、それに該当するものは今は手元にはなかった。
もし向こうの世界に戻れたら早急に『賢者の石』を入手しておこう、と決める。
「参ったわね……ゲルマニアは既に話を通してあるらしいし、あんまり先延ばしに出来ないわ」
ゲルマニアは非公式ながら、『カエルの呪い』が悪魔の手によるものであったと認めている。
風の噂では、実は皇帝自らも悪魔(エンペル)の姿を見かけていたらしい。
それを公に口にしなかったのは、悪魔を見たなどと言えば頭の病気を疑われ、
即刻帝位を奪われて幽閉されかねなかったからだ、とかなんとか。
その皇帝からは、国民の支持を取り戻すためにも早急に解呪薬を、という意見書が来ており
一刻も早く薬を完成させねばならないのであった。
「『別の』市場も覗いてみたんだけど、あっちにも全然無いみたい」
ヴァレリーが声をひそめる。別の、とはサララの世界で言うところの盗賊ギルドであろう。
――目的を達するために必要な品がない。その状況でサララのとる行動は至って単純だ。
「え? 水の精霊が何処にいるか、ですって? あなたそれを聞いてどうするの?」
疑問符を浮かべるエレオノールに向かって、サララは微笑んだ。
ちょっと、取りに行ってきます、と。
欲しいものがあるなら危険を冒してでも手に入れろ。
それがだんじょんの町で生きてきたサララの信条だった。
面倒だからって夜中だけ開いてる店で買って済ますようなことは、性に合わない。


「それで、一度こっちに戻ってきたわけ?」
問いかけるルイズの膝には、一冊の古びた本が載せられている。
始祖の祈祷書、と呼ばれるその本は王族の婚姻で祝詞を読み上げる巫女が
大事に持っていなければならないとされるものだ。
ゲルマニアの件が片付けばウェールズと結婚する予定のアンリエッタが、
その巫女役をルイズに頼んだため、今はその場にある。
「ラグドリアン湖かぁ、何度か行ったけど綺麗な所なのよねぇ」
袋にせっせと荷物を詰め込むサララの背中に向かって呟く。
「いいところなのよねぇ、ラグドリアン湖」
それは楽しみですね、早く行きましょう、とサララが笑って答える。
「へ? え、ええ、勿論よ! ついていくに決まってるじゃない!」
本を小脇に抱えて立ちあがると、クローゼットへ歩みを進める。
「サララは私のパートナーなんだからねっ、私が一緒に居て当たり前じゃない!」
ぷりぷりと口を尖らせながらも、その表情には喜びが隠し切れていない。
正直少しルイズは寂しかったのだ。何しろ二週間もの間サララはアカデミーに籠り切りで、
自分のパートナーであるサララが自分の傍に居ないことが、不満だった。
だから、危急の事態とはいえサララと一緒に居られるのが嬉しいのだった。
こういう時にワクワクしてしまう辺り、ルイズも少々サララに感化されているようである。
「でもさぁ、どうやってその水の精霊に涙を分けてもらうわけ?」
ウキウキしていた主従の動きが、チョコの一言で止まった。
「……考えてなかったの?」
サララの視線が明後日の方を向いている。前髪で見えないが。
「はぁ……。ま、ちょっとボクにツテがあるから聞いてみるよ」
「ツテ、ってどこにあんのよ?」
ルイズが首を傾げる。チョコは得意そうに告げた。
「ふふん。ボクだって何も昼寝ばっかりしてたわけじゃないんだよ」
自慢の尻尾を揺らし、胸を張るチョコを二人は不思議そうに眺めて顔を見合わせた。

 チョコに言われるままやってきたのは学園の一角にある広場だ。
ここでは使い魔達が好き勝手にくつろいでいる。
元は野生の動物とはいえ、メイジと契約を結んだからには人を襲うことはないし、
種族間での闘争もほとんど行っていない。なんとも暢気な光景がそこには広がっている。
あちらでカラスがオウムと共に歌っているかと思えば、
こちらの足元を狼とウサギが駆け比べをしている。
かと思えば、少し離れた噴水ではスキュラがまどろんでいる、といった様子だ。
チョコはその噴水へとてとて歩み寄ると、縁に手をかけて何やらにゃごにゃご言っている。
動物同士で話す際には人間相手に使うのとは異なった言語を使用するらしい。
そのにゃごにゃごが止まったかと思うと、噴水からぴょん、と一匹のカエルが跳び上がった。
ぬめぬめとした黄色い肌に黒い点が幾つも散った、いかにも毒がありそうなカエルだ。
「きゃっ、かっ、カエルっ」
ルイズが可愛らしい悲鳴を上げてサララの後ろに隠れる。
子供の頃、一番上の姉にカエル関係でからかわれて以来のカエル嫌いは未だ治らない。
「この子はロビン。この子のご主人さまが水の精霊との交渉役の家系なんだってさ」
チョコが彼女(ロビンはメスである)に聞いた話によると、
水の精霊との交渉は指定された一族の血を継ぐ者にしか行えないらしい。
幸い、ロビンの主がその一族の末席に名を連ねているため頼んではどうか、とのことだった。
「ボクたちも知ってる人だしね」
「あ、そっか」
その言葉を聞いて何やら思い出したのか、ルイズがぱん、と手を叩く。
「確か、水の精霊との交渉役って、モンモランシ家の仕事だったわね」
「ええ、その通りよ」
タイミングを計ったかのごとく、声がかけられる。
「厳密には元、だけど」
金の巻髪を揺らしながら現れたのは、モンモランシーであった。
「それで、どうして水の精霊と交渉しなきゃいけないのよ」
「それは、アン……むぐっ」
アンリエッタの命によるものだ、と答えかけたルイズの口をサララが慌てて塞ぐ。
どうして命を受けたのか、という話になればアンリエッタの密命をバラさねばならなくなる。
いくらなんでもそれはまずいだろう。
「……まぁ、あなたにはお世話になってるし、ちょっと分けてもらえるんなら私も問題はないわ」
と言っても、とモンモランシーはため息をこぼした。
「何年か前にお父様が水の精霊の機嫌を損ねたせいで、一度お役御免になってるのよね。
 だから、何か交渉材料があればいいんだけど……」
「水の精霊が欲しがってるものがあればいいってこと?」
「そうね……そんなものがあればだけど」
あ! とサララが一声上げて袋の中から一つの指輪を取り出した。
先日エンペルの手から奪ってきた『アンドバリの指輪』だ。
確か本来ならば、水の精霊の持ち物であったはずである。
「……綺麗な指輪ね。でも指輪なんかで喜ぶかしら」
強い水の力はあるみたいだけど、と不思議そうに見つめながらも、モンモランシーは納得したらしい。
「それじゃあ、行きましょうか。ラグドリアン湖へ」
モンモランシーの言葉を受け、二人は馬小屋へと進んだ。
なおその馬小屋で後輩の少女と遠乗りをしようとしていたギーシュと遭遇し、
しばらくもめることになったのだが特に詳しくは書かない。
 置いて行くと浮気しそうだから、というモンモランシーの一言でギーシュも連れ、
一行がラグドリアン湖に到着したのは昼を少し回った辺りだった。
湖畔近くの木陰に座ると、一行は昼食をとった。
「いやしかしこのスキヤキという料理は実に美味いね」
一人に一個宛がわれた鍋を空にして、ギーシュは満足げに呟いた。
「この甘辛いタレがおいしいのよね、今度レシピ教えてちょうだい」
モンモランシーの問いに、サララは笑みを返すばかりだ。
これの出所が知られたら、多分彼女は商売が出来なくなる。
ルイズは、サララのこの笑みが何かをごまかす時のものだと気付いているが、
それを突っ込んでこの美味しい料理が食べられなくなるのは嫌なので黙っていた。
「そういえばモンモランシー、交渉というのはどうやるんだい?」
「一族のものの血を使い魔に水の精霊まで届けてもらって、話をさせてもらうのよ」
モンモランシーは立ちあがると、腰の袋からロビンを取り出す。
ポケットからは針を取り出し、それで指先を突いて傷を付けた。
そこからこぼれた血を一滴、ロビンの背に垂らす。
「あなたの旧いお友達に、旧き偉大な水の精霊に伝えてちょうだい。
 盟約の持ち主の一人が話をしたいって言ってる、って」
任せておけ、とばかりにゲコ、とロビンは鳴いて湖に潜っていった。
「そういえば、水の精霊ってどんな姿をしているの?」
ルイズが問いかける。
「どんな、と言われても困るわね。その時々で姿を変化させるから」
「とてつもなく美しい、と前に話してくれたっけ」
「ええ。陽光にキラキラと輝いて、とても美しいのよ」
ダンジョンでよく見かけるウンディーネと似た姿だろうか、とサララは一人考えている。
意思を持つ水が魔物と化したものだが、見た目と中身は愛らしい少女のそれだ。
しかし、見た目は美しくとも魔物は魔物。
その生きた水の中に冒険者の死体を貯め込んでいる恐ろしい一面もある。
冒険者の命を呼び戻すためサララは幾度となく彼女達に立ち向かい、
その死体を取り戻すために尽力した。その回数は数えきれない。
そう、彼女達に立ち向かったのは命を救うためである。
断じて、断じて、その冒険者が持っている金品の半分を、彼らを蘇生させる教会と
山分けにするためではない。彼らを救うためだ。救うためなのだ。
などと誰へとでもなく言い訳をしているサララは、ふと気配を感じて湖面を見つめた。
湖面は光り輝き、そこに水の精霊が現れたのである。
 まるでそれ自体が意思を持つかのようにうねうねとうごめく。
盛り上がった水面は見えない手でこねられるかのようにして様々に形を変える。
戻ってきたロビンを迎えいれ、頭を撫でてやった後、モンモランシーは水の精霊に向き直る。
「私はモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。
 旧い盟約の一員よ。カエルにつけた血に覚えがおありなら、私達にわかる
 やり方と言葉で返事をちょうだい」
水面がぐねぐねと形を変えていく。サララは驚いた。
その姿が、モンモランシーのそっくりのものになって微笑んだからだ。
ただし、実際の彼女よりは一回り大きく、服も身につけていない。
透明な裸のモンモランシーだった。氷の彫像を思ってもらえばいいかもしれない。
ギーシュがくるりと後ろを向いた。ポケットからハンカチを出して鼻を拭っているようだ。
存外、彼はウブである。
「覚えている、単なるものよ。貴様に最後にあってから月が五十二回交差した」
「よかったわ。お願いがあるの。あつかましいと思うけど、あなたの体の一部を
 私達に分けてもらえないかしら」
そこまで言うと、モンモランシーがちらり、とサララを見やる。
アイコンタクトを受け、サララが水の精霊の方へ近づいた。
これをお返ししますから、どうかわけてください、と指輪を差し出す。
「おぉ……、これは悪魔によって奪われた、アンドバリの指輪……」
精霊は水の一部を触手のように伸ばすと、サララの手から受け取ろうとして触れる。
触れた途端、水の精霊の姿が大きく揺れ動いた。
「おぉ! おぉ!」
「え、ちょっと、ど、どうしたのよ」
こんな水の精霊を見るのは初めてらしいモンモランシーがうろたえる。
「単なるもの。貴様は『全ての始まり』の血族。我が遠き同胞を知るもの」
水の精霊は感極まった、とでも言うようにゆらゆらと揺れる。
「貴様が交渉をし、我は物品を受け取った。ならば、支払いをせねばなるまい」
アンドバリの指輪を受け取ったのとは、別の触手がサララの掌に伸びる。
その先端がぶつり、と切れたかと思うとそこに一掬いの水が残った。
「こっ、こんなに!」
モンモランシーが慌てて瓶を差し出し、サララは一滴もこぼさぬようにその中に収めた。
「指輪を取り戻したことを、感謝しよう。全ての始まりの血族よ」
再びただの湖面へと戻っていく水の精霊。
だが、そこへ向かってルイズが叫んだ。
「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ! 『全ての始まりの血族』ってなんなの!?」
また小さく湖面が揺らぐ。水滴の王冠を被った透明の少女、とでも
表せるような姿で水の精霊が姿を見せた。
「この世界はね、人の想いから生まれたの。魔女さんの一族が、その想いを集めた。
 世界が出来て、私達が生まれた。だから、魔女さんは『全ての始まりの血族』」
先程まで感情がなかったのが嘘のように、水の精霊は笑った。
「嬉しいなぁ。はじめて、魔女さんからお買いものしちゃった。ずっと、憧れてたんだ」
その笑みを残して、ぱしゃん、と今度こそ水の精霊は消えた。

 世界の成り立ちについて、ルイズ達は、否、ハルケギニアに住む人々の大半は
詳しいことを知らない。そもそもブリミル教徒はブリミル降臨以前のことを
深く考えることを異端と考えているのだ。
であるからして、この小さな魔女の血族が世界を作るのに関わっていた、などと
言われても理解が及ぶものではない。
「と、とにかくこれだけあれば十分なんじゃないかしら」
モンモランシーの言葉に、誰ともなく頷く。
「そうね。早く帰りましょう、サララ」
ルイズが声をかける。サララは押し黙っている。
「……サララ? ねぇ、どうしたのよ、サララ!」
肩をつかんでゆすぶられて、ようやく呼ばれているのに気付いたらしい。
なんでもありません、と笑う顔は、やはり何かをごまかしている顔だ。
ルイズの胸が不安で軋んだ。
サララが何処か遠くへ行ってしまいそうで寂しい、と心中をよぎり
そもそも彼女は遠くからこちらへ来ているだけで、いつか帰ってしまうのだ、と
今まで忘れていたその事実がルイズの胸をさらに軋ませた。
顔を曇らせた彼女に、サララは気付かない。未だに考え事をしていたから。
彼女が思い出していたのは、おとぎ話だった。
一人の魔女が鍋いっぱいに集めたアイテム。
それにこめられた人々の想いの力で、世界が出来たのだという魔女に伝わるおとぎ話。
今まで考えて見たこともなかったが、この世界もサララの故郷と同じように
『魔女』が作り上げた近くて遠い世界なのかもしれない。
だったら、帰るための手段はきっと見つかるはずだ。
頑張って探してみよう、サララは決意を新たにした。
こちらでの生活も楽しいけれど、自分はだんじょんの町の商人なのだ。
あんまり長く、店を空けておくわけにはいかない。
そう決意したサララは、ルイズの顔が不安げなのに気付かなかった。


所変わって、アルビオンのとある場所。
数百年は経たであろう廃墟の片隅に奇妙な紋様があった。
円陣の中に六角星が描かれたその紋様が突如として光る。
光が消えると同時に、そこに人影が現れた。人影、と言ったがその姿は人間とは程遠かった。
青白い肌、銀の髪。ハルケギニアでは月目と呼ばれる左右で色の違う瞳。
だが何よりもその人影を異形たらしめているものは、背に生えた闇色の翼だ。
「なるほど……エンペルが言っていた『ハルケギニア』とやらはここか」
空を見上げる。二つの月が照らす世界は人影には少々眩しいようだった。
「だが、これくらい明るい方がアイツを見つけやすいな」
人影は独りごちて地面を蹴る。片方しか翼がないにも関わらず、
並み大抵の鳥よりも早く人影が夜空を翔けていく。
「魔力こそ多いが、アイツの魔力は独特だ。すぐに見つかるだろう」
空を翔けながら、人影はここへ来るまでのことを考える。
魔族である自分を、他の人間と分け隔てなく接する変わった魔女。
その魔女が行方不明になってから三十回以上月が巡った。
ダンジョンの中で倒れたとは聞かないが、黙って居なくなるような魔女ではない。
あちらこちらで魔女の安否を問う声がささやかれ始め、
彼自身も物足りなさを感じていた時に、部下の一人から彼女の匂いがして問い詰めた。
問い詰められた部下の言葉で、この世界に魔女が居ることが判明した。
それを知って、何故だか居ても立ってもいられずに迎えに来たのである。
魔族の少年は名をアイオンといい、時期魔王候補であり、サララの店の常連客であった。




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