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ルイズと夜闇の魔法使い-24b



 ※ ※ ※


 半分ほど重なり合った双月を、タバサは開けた森の中からじっと見つめていた。
 その双月を分かつように伸びた輝線が夜空で弧を描き、ゆっくりと彼女の下へと迫ってくる。
 やがて『破壊の杖』――箒にまたがった柊が彼女の前に降り立った。
「なんだ、まだ寝てなかったのか?」
「……シルフィードを呼んできた」
「ああ、そっか。結構離れてんのに、アイツよくここがわかったな……使い魔の共感能力って奴か」
 首肯するタバサを見て柊は感嘆したように頷き、辺りを見渡した。
 見たところこの場にそのシルフィードの姿はない……とはいえ、灯火一つも満足にない上この一画を囲むように木々が乱立しているので見えないだけかもしれないが。
 柊がそんな風にしていると脇からタバサがポツリと呟いてきた。
「ニューカッスルに行っていたの?」
「ああ。一応どんなモンか見とこうと思ってな」

 サイト達との話し合いの後、柊はヒートアップしたサイトとデルフリンガーに巻き込まれる形でサイトと手合わせする羽目になってしまった。
 そしてその結果は……サイトの惨敗。
 彼が言っていたガンダールヴの力、武器を自在に操り身体能力が向上するという能力は確かに瞠目に値するものだった。
 が、それでも柊からすればそこまで脅威足りえるものではなかったのだ。
 何しろ彼が手に入れたヴァルキューレ03――近接戦闘用箒はその性能も扱い方も柊は熟知しており、サイトの扱いもその想定をでるものではなかった。
 更に身体能力では確かにサイトの動きは速く一撃も重い。
 だが、単純に"それだけ"では更に規格外の魔王達と戦いを重ねてきた柊から見るとやはり見劣りしてしまう。
 総括して言ってしまうと、個々の能力こそかなり高いものの、逆にソツがなさ過ぎて意外性――サイト自身の個性とも言うべきか――がなく非常に行動を予測しやすいのだ。
 もっともサイトは元々闘いとは無縁の世界で暮らしていたのである意味当然の事ではあるのだが。
 ともかく、そんな感じでサイトを打ちのめしデルフリンガーの溜飲を大いに下げ、夕食を取った後柊は一人ウェストウッド村を出てニューカッスルの様子を見に行ったのである。

 その結果を窺うような視線を送ってくるタバサに、柊は大仰に肩を竦めて見せた。
「ダメだな。城一つ相手に馬鹿みてえな規模の布陣が敷いてあった。まっとうな方法じゃ抜けらんねえ」
 ニューカッスルに辿り着いた頃にはかなり夜も更けていたが、周りに灯っている無数の篝火だけで規模はおおよそ理解できた。
 示威行為なのか余裕なのかはわからないが、まさに蟻の這い出る隙間もないといった様子だったのである。
「こうなるともうフーケ……いやマチルダか? まあどっちでもいいけど……とにかくあいつに任せるしかないだろ」
 あの陣容を鑑みた上で秘密裏に接触できるルートがあるとすれば、おそらく古典的に隠し通路的な代物なのだろう。
 そうなるとやはり彼女の案内が必要になる。
 柊がそう言うとタバサはそう、とだけ呟いて黙り込んでしまった。
 元々彼女の側から必要以上の言葉は出てくることはなく、柊としても特に会話をする種もないので場に静寂が漂ってしまった。
 張り詰めいているのか単に気まずいのか微妙な空気の中、柊がふと思い出したようにタバサに言った。
「あー……あのさ」
「……?」
「昼間に話したこと……ルイズの事なんだけどな」
 柊はどこかばつが悪そうに頭をかいてからタバサに眼を向けた。
 しかし彼女はさほど興味もなさそうにこう返す。
「あの時に言った。誰にも言うつもりはない」
「うん、まあ……すまねえ。頼む」
 これが自分の事だけだったらわざわざ重ねて確認したりはしないのだが、ルイズのことを勝手に話してその秘密を暴露してしまったのだ。
 彼女は言いふらしたりはしないだろう事はわかっていても、やはり気にしてしまう。
 なんとなくいたたまれなくなって柊は溜息をつき、双月を見上げた。
 ほんの少しの沈黙の後、どうにもする事も話す事もなくなったので柊は自分にあてがわれた部屋に戻ろうかと思いかけた。
 が、それとほぼ同時に隣で囁くような声が漏れた。
「……私はガリアのとある貴族の生まれ」
「え?」
 タバサの言葉の意図を理解できず、柊は思わず間の抜けた声を漏らした。
 しかし彼女はそんな柊を無視して、どこか自分に語るようにして続ける。
「それなりに有名な家だったけど、ある男の陰謀にかけられ父は死に、母は心を失い、家名は地に堕ちた」
 言いながら彼女は僅かに眼を細めた。
 視線の先にはウェストウッドの森が広がっているだけだが、彼女が見ているモノは別のものなのだろう。
「私は父の無念を晴らし、母の心を取り戻したい。そのためには『力』がいる。あの男を討ち倒すだけの『力』が」
「……」
 語る彼女の横顔を見て、ふと柊は気付いた。
 あまり表情を浮かばせない部分が彼の仲間である緋室 灯に似ていると思っていたが、根本の部分で異なっていた。
 緋室 灯が感情の起伏に乏しいのは、ウィザードとして(厳密にはそれだけではないが)重度の強化処理を施された結果情操面が欠如してしまったためだ。
 言ってしまえば彼女はそもそもそういった感情を『知らない』のである。
 だがタバサはそういう『仮面』を被っているだけで、内実はちゃんとした感情を備えた人間なのだ。
 あまり良い方向のものではないとしても、今見せているタバサの顔は間違いなく彼女本人の表情だった。
「……なんでその話を?」
 あまりにも唐突に話を振られたので、柊は僅かにいぶかしんでタバサに尋ねた。
 すると彼女は一度だけ柊に眼をやり、そしてすぐに眼を切り……更に顔を背けて、言った。
「――誰にも言わないで」
「……」
 思わず柊は目を丸めてしまった。
 柊はまじまじとタバサを見つめ、しかし決してこちらを振り向こうとしない彼女にくくっと笑いを漏らしてしまう。
「……わかった。じゃ、お互い様ってことで」
「……」
 意外に義理堅い少女に柊が口の端を歪めて言うと、彼女はやはり彼を振り向かないまま小さく頷いた。
 そして彼女は話は終わりとばかりに歩き出したが、それを柊は呼び止める。
「ちょっと待った」
 足を止めたタバサの背中を見やりながら柊は少し逡巡し、そして再び彼女に向かって口を開く。
「せっかくだから、今教えとくよ。……プラーナの事、知りたいんだろ?」
 するとタバサはようやく柊を振り返り、以前の無貌の仮面を被った目つきで彼を見据えた。
 彼女の行為と目的――復讐に関して柊は口出しできる立場ではない。
 それを知った上でそれを教えるのが彼女にとって良い事かどうかはわからないが、少なくともその約束をしている以上反故にはできなかった。
「改めて確認しとくけど、コレはあくまで俺の世界にあったもので、この世界でもプラーナがあるのか、それを使えるのかはわからない。それでもいいんだな?」
「構わない」
 逡巡することもなく彼女は答える。
 箒などを見ていた時のような興味本位とは違う、どこか張り詰めたような表情のタバサを見て柊は腹をくくり彼女に語った。

 プラーナとは万物の根源たる『存在』の力だ。
 それはその本質通り、この世に存在するありとあらゆるモノに宿っている。
 これは物質的なものに限らず非物質的なもの、現象や概念すら例外ではない。
 ウィザード達はこのプラーナを感じ取り操ることによってその存在や方向性を明確化し強調することができるのだ。
 ごく単純に言ってしまえば、能力の増幅装置(ブースター)と言ってしまっていいだろう。
 攻撃や魔法の威力・逆にそれらに対する耐性を高めたり、知覚能力や行動速度を高めたり、およそ使用者が『そうしよう』と思った事にならば何にでもプラーナは適用できる。
 またあまり効率がいいとは言えないが体力や精神力に転化して治癒効果も得ることもできる。
 万物の根源ゆえに万象において作用する力――それがプラーナなのだ。

 とりあえず知識としての情報を説明してみたが、タバサの反応はといえば微妙に難しい顔で黙り込んだままだった。
 口で言ってもいまいちわからないだろうことは柊も予想していたので、彼はタバサに向かって手を差し出した。
 乗せられた手を軽く握った後、柊は瞑目して意識を集中する。
 そして小さな呼気と共に柊はプラーナを解放した。
 ギーシュとの決闘やギトーとの立会いで見せた時と同じように柊の身体から光が零れ、タバサは僅かに眼を見開く。
 あの時ほど激しい力強さではないが、はっきりと感じられる『何か』が手を通して彼女の身体を通り抜けた。
「……」
 タバサは何も言葉を発する事なく踏み寄って、柊に抱きついた。
 驚いて柊は思わず目を開いたが、彼女の意図を汲み取って動かなかった。
 二人を包んだプラーナは一分程も経たずに掻き消え、森の中に暗闇が戻る。
 光が消えた後も微動だにしないタバサの肩に柊が軽く手を添えると、彼女はようやく柊から身を離した。
「……どうだ?」
 柊が尋ねると、タバサは僅かに首を傾げた。
「……わかった」
「わかった? プラーナがあるのか?」
「わからない」
「……おい」
 半眼になって漏らした柊に、しかしタバサは首を振る。
「よくわからないけど、私たちメイジが感じている精神力や魔力とは違う『何か』があるような気がする。……上手く"掴め"ない」
「微妙だな……悪いけど、俺が教えられるのはこれくらいだ」
 プラーナの扱いに長けた『龍使い』や身に宿すプラーナが通常のウィザードと比して多い『勇者』ならばもっと上手く教えられるのかもしれない。
 しかしこの方面に関してはごく一般的なウィザードでしかない柊はこうして実践して見せる以上のやり方を知らなかった。
 幾分申し訳なさそうに頭をかいた柊に、タバサは自分の胸に手を添えて言う。
「これで十分。今まで感じられなかったモノが私の中にある。それを知る事ができた。後は私次第」
「そっか。すまねえ」
 こくりと頷いて返したタバサと共に柊は改めて歩き出した。

 森を抜けてウェストウッドの集落に辿り着く間際、木々の間から村人達の小屋が見え始めた時。
 ティファニア達の小屋の脇に、一人の少女がいた。
「ティファニア?」
 遠目に映る少女に姿に違和感を覚えて柊は小さく首を捻り、そしてすぐにその違和感の正体に気付いた。
 彼女は帽子を被っていなかったのだ。
 ティファニアとは初めて会ってから半日ほどだが、その間彼女は室内にいる時でさえも決して帽子を取らなかったのだ。
 一応尋ねては見たが彼女は明らかに動揺するもののその理由を明らかにはしてくれなかった。
 なので柊は内心、彼女は――その、女性としては大変困った事情があるのだろうと思っていたのだ。具体的には、コルベール的な意味で。
 しかし今の彼女の姿を見ればそれが間違っていたことは一目瞭然だった。
 腰に届くほどの長い金糸の髪。
 頼りない月明かりを浴びて輝くそれが、夜風に浚われて緩やかに踊っている。
 彼女とは少し距離があり、しかも夜闇の中なので柊達の存在に気付いていないのだろう、ティファニアは気持ち良さそうに夜風を受け止めて自らの髪を撫で梳いた。
 その拍子にティファニアの横顔が――耳が露になる。
 明らかに人間とは違う、細く尖った耳が。

「エルフ」
 タバサが小さく呟いた。
「へえ……」
 柊はわずかな感嘆と共に息を吐いた。
 確かこの世界のエルフは人間と敵対――というよりは脅威の対象とされている種族だったはずだ。
 どういう事情があるのかは知れないが、彼女はそれを隠していたのだろう。
 この世界の住人ではない柊としてはどうでもいい事なのだが、タバサのような人間にとってはまた別の話だろう。
 何となく眼を向けるとタバサは、
「どうでもいい」
 言葉通りに欠片ほども興味がないといった風に返してきた。
 反論すべき点も議論する必要も全くないので、柊達は彼女に気付かれぬよう迂回するため踵を返す。
 歩いていると、風に乗ってハープの音色と共に少女の透き通るような歌声が流れてきた。


 ――神の左手ガンダールヴ。
      勇猛果敢な神の盾。右に大剣左に長槍、宿せし『信頼』に心震わせ導きし我を護りきる。
 ――神の右手がヴィンダールヴ。
      心優しき神の笛。猛る獣に『節制』を説き、これを従え導きし我を運ぶは陸海空。
 ――神の頭脳はミョズニトニルン。
      知恵のかたまり神の本。万理を解する『賢明』なる者にて、導きし我に助言を呈す。
 ――そして最後にもう一人。
      記すことさえ憚られる……。

 ――四人の僕を従えて、我はこの地にやってきた……。


「……」
 ティファニアの詩を耳に入れた柊は、ほんの僅かに考え込むような表情を浮かべてしまった。
 ほんの数ヶ月前にファー・ジ・アースで関わったとある事件。
 それの鍵となっていたのが共にハルケギニアに召喚された志宝エリスだった。
 『宝玉の継承者』と呼ばれた彼女だけが扱えた箒――アイン・ソフ・オウルと、それに収まるべき七元徳の名を冠した宝玉。
 すなわち『慈愛』、『賢明』、『剛毅』、『信頼』、『節制』、『正義』、そして『希望』。
 その単語のいくつかが詩の中で使われていた。
 もっとも、言葉自体は珍しくもないものなので詩に出てきてもおかしくはないだろう。
 それより柊が気になったのは、現在ルイズの使い魔となったエリスに刻まれたルーンである『リーヴスラシル』のことだった。
 ガンダールヴという単語が出た辺り、おそらく今の詩は虚無の使い魔に関する詩なのだろう。
 だが、虚無の使い魔達の中でリーヴスラシルだけが謳われなかった。
 ルイズが調べたときもその名だけはなかったらしいし、デルフリンガーも名前だけしか覚えていないと言っていた。
 何故リーヴスラシルだけが"記すことを憚られる"のだろうか?
 柊の経験則からいくと、この手の『名を伏せられた存在』というものは大抵の場合何かとてつもない厄介ごとの種になっているのだ。
 なんだか嫌な予感がわいてきて、柊はそれを振り払うように頭を振った。
 それを見咎めたタバサに「なんでもない」と返すと、二人はティファニアに気取られぬようその場を後にするのだった。




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