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ゼロのペルソナ 第10章 悪魔


悪魔 意味……悪意・悪循環からの目覚め

タバサと陽介の主従はガリアの首都リュティスを訪れていた。
      シュヴァリエ・ド・ノールパルテル
その理由は北 花 壇 騎 士としての任務を北花壇騎士団団長であるイザベラから受けるためだ。
ガリア王国の王女でもあるイザベラが住まう宮殿プチ・トロワに入る前にタバサは以前したように使い魔を外で待たせようとした。
だがタバサなりの使い魔への気遣いは陽介が来るようにとのイザベラからの指示のために断念することになった。
タバサはイザベラのいつものいびりが陽介に向かうのではと心配した。
しかし陽介はタバサに「心配すんなよ」と言って彼女を待合室に残し、イザベラのいる謁見室に向かっていった。

メイドに連れられて陽介は大きな扉をくぐった。
扉が大きいだけあって部屋もなかなかの大きさで、天井も高い。
扉の直線状にイザベラはいた。RPGで王様のいるところのように階段状に高くなったところでずいぶんと高そうな椅子に鷹揚に腰かけている。
「久しぶりじゃない、ヨースケ」
「そーですね」
王族相手にどんな敬語を使ったらいいのかわからないが、とりあえず以前喋った時と同じノリで喋っておく。
特にイザベラがそれで気を害した様子もないのでこの調子でいいのだろう。
「これに今回の詳細が書かれているわ」
イザベラはポケットから一つの手紙を出した。
ポケット付きとか案外実用性の高いドレスだな。と陽介は思った。
陽介がどうでもいいことを考えているとき、使用人が陽介に手渡すべくイザベラから手紙を受けとろうとするが、
彼女はわずらわしそうに手をふってそれを制した。
「ヨースケ、あなたが直接取りに来なさい」


使用人たちの間にどよめきが走ったのを陽介は感じた。別に声にだして呻いたわけでもないが、
動揺が走ったのは確かだ。イザベラが何か妙なことをしたのかと思ったが、陽介には思い当たらない。
彼らの様子をいぶかしげに思いながら陽介は玉座の階段を上がって行く。
そしてイザベラと同じ高さの段に立った。
使用人たちが息を飲んだようだが何に彼らがそれほど気を張り詰めているのか陽介にはやはり分からない。
21世紀の日本育ちの高校生である陽介には知るはずもないことだが、
平民が玉座において王族と同じ高さに立つなど許されるはずもなく、
まして今イザベラは座っているため、陽介は見下ろす格好になっている。
使用人たちは全員陽助が不敬罪になるのではと肝をひやしているのであった。
しかし当人たちはどこ吹く風と言った様子である。
陽介はともかくハルケギニアでも指折りの高貴な血を持つイザベラは王族に要求される煩雑な作法を熟知しているというのに。
イザベラがその高貴な振る舞いを実践できているかどうか疑問もなくもないが、
しかし自分への礼儀を徹底させることに関しては熱心なイザベラの光景は使用人たちの目に奇異なものと映っていた。
「わたしはあいつを妬んでる。認めるよ」
イザベラは小さな声で言った。陽介にだけ聞こえるように。
「だからわたしはあいつに死ぬような任務を押し付けるのさ」
イザベラは陽介をきっと睨む。
陽介は目をそらさない。
「んなことしたって何の解決にもなんねーと思うぜ」
陽介は言葉を選ぶように額を押さえてから呟いた。
「やっぱ、話あったほうがいいんじゃないか。一人じゃ二人の関係は変わらねえと思うんだよ」
じっと見つめていたイザベラはくくくと笑った。
「あんたは王女さまにタメ口かい?」
陽介は慌てて訂正する。
「え……、っと自分はそう思うと思います!」
さらにイザベラは笑う。
テンパったためにへんな敬語しかでなかった。
陽介は言いなおそうとするが、彼女は笑いながら「いいよ別に」と言ってそれを制する。
笑い終わったあと、イザベラから表情が消えた。
「もう遅いんだよ。それに今回の任務は本当に危険だ。話し合う前に死んじまうさ」
陽介はイザベラの目を見て言った、強い意思を込めて。
「死なねえよ。タバサを死なせたりなんかさせねえ。
もちろん俺も死ぬ気はねえ。……だからきっと遅すぎるなんてことはないと思うぜ」
言い終わるなり陽介はイザベラに背を向けて退出する扉へと歩んでいった。
出て行く前に陽介はイザベラを見たが、顔を下げていたため表情は窺い知ることは出来なかった。


世界七大美味だという極楽鳥の卵を取ってくる。それが今回、騎士タバサに課せられた任務だった。
鳥の卵を取ってくるというだけでは簡単そうであるが、もちろん簡単ならばタバサに仕事は回ってこない。
極楽鳥は年二度卵を産む。今の季節はたしかに産卵時期のひとつなのだが、本来はこの時期に卵を取ることはない。
というのは極楽鳥は火竜山脈という6000メイル級の山が並ぶ山脈で卵を産むのだが、この時期は火竜山に子育てのために火竜も集まってくるからなのだ。
なので、火竜たちの居ない時期を狙って卵を取りに行くのが普通であり、そうでない時に卵を取りに行く者は自殺志願者としか思われない。
そして今、タバサと陽介はまさしくその危険な時に火竜山脈を登っていた。もちろんタバサも陽介も死ぬ気などさらさらない。
他人がその様子を見れば、そう思わないとしても。
「あっちい……」
陽介はゲンナリしたようにこぼした。
登山で体を動かしたからというのもあるが、事実として火竜山脈は暑いのだ。
通常、山というものは登れば登るほど気温は下がっていく。
そして一定以上の高さを持つ山は頂に雪がつもっているものだが、火竜山脈は6000メイルの高さがあるにも関わらず一片の雪も認めることはできない。そ
れは山のいたるところで溶岩流が噴出しているためだ。
そのため、山は高温に保たれ、その上降雨は全て水蒸気となるため火竜山脈は蒸し風呂同然だった。
陽介は腰に学ランを巻きつけていた。
だが巻いている分だけそこが熱を持ち、学ランを捨てたい衝動にかられる。
「この湯気にもうんざりだわ……。
俺って湯気にあんまり良いイメージないんだよな。なんか完二の思い出すっつーか」
「でも、わたしたちを隠してくれる」
陽介の言ったことの後半を無視しながらタバサは言った。
そのいつも変わらない涼しい口ぶりに陽介は感心する。
タバサの体も陽介と同様に多量の汗をかいているから暑いわけではないのであろう。
泥で汚れ、汗で前髪は額にへばり付いていた。白いシャツは汗で体に密着し体のラインを顕にしている……。
そこまで考えて、俺は思考を振り払うように頭を振る。
なんでこんな小さい子の体をじっと見てるんだ!アホか!変態か!
実際は17歳の陽介に対して15歳のタバサがそこまで幼いと言えないのだが、陽介はタバサを外観から12、13歳くらいだと考えているのであった。
そんな陽介の苦悩などお構いなしにタバサは登っていくので、陽介も余計な思考を振り払いついていく。
登っている途中、瑠璃色に光る鳥の羽が二人の視界を過ぎて行った。
「お、あれがそうじゃねーのか?」
「そう」
タバサはこくりと頷き、おおよそ極楽鳥が産卵する高さまで来たので卵を捜索すると陽介に言った。
また、極楽鳥が産卵する場所ということは火竜が生息するので気をつけるようにとも。
陽介は火竜に気をつけ小声で了承の意を伝えた。
それから20分ほど黙々とふたりは極楽鳥の卵を探した。
しかし、わかりやすいところには産まないのか卵は見つからない。極楽鳥が飛ぶ姿は時々見かけるのだが。
陽介がめげずにタバサに言われた通り岩の間を探っていると、二つの瑠璃色の卵を発見した。
ずいぶんと大きく、鶏の卵の十倍はあるんじゃないかと思われる。
「おい、タバサ。それっぽいの見つけたぜ」
陽介が小声でタバサを呼んだ。ちゃんと聞こえたらしくタバサが走り寄って来る。
その姿を確認して、陽介は岩の切れ間に手を伸ばした。届かない。
ならばと陽介は体をねじ込み、両手を伸ばす。
卵に手が届いた。なんとか片手ずつに大きな卵を持って、穴を抜け出そうする。しかし……
「あれ……?やべ、抜っけねえ!」
上半身全てを岩の切れ目に入れてしまったために体が引っかかりぬけなくなってしまった。
あせって腰の位置をずらしてなんとか脱出しようとするが抜けない。
鳥がなにやら甲高い声で鳴いているが、気にも留めなかった。今は穴から抜け出すことが全てにおいて最優先だ。


陽介が極楽鳥の卵を発見したらしいので、タバサは陽介に近づいた。
陽介は上半身まですっぽりと岩の切れ間に体を入れて卵を取ろうとしていた。
これで任務も完了かと気を抜きかけたとき、タバサは空で極楽鳥がさえずっている意味に気付いた。
タバサが振り返ると、靄の中に大きな影がある。
それはタバサがエルフと並んで戦いたくない魔獣、竜だ。
しかもタバサの前に姿を現したそれは通常の火竜よりも大きく、十八メイルはあろうかという個体である。
頭には雄にあるトサカがなく、鱗の色は雄よりも色濃く燃え滾る炎のようだ。老成した雌である。
火竜は一鳴きした。極楽鳥の鳴き声に似ていたが、それは事実とは逆であろう。
極楽鳥は火竜を呼ぶためにその真似をしているのである。だが声質は似ていても声量はまるで違う。
空気が震える。それが伝染したかのようにタバサも身震いした。
その圧倒的過ぎる姿。人間がどれほど修練しようと勝てない存在それが彼女の前に存在した。
背後で陽介が「うわっ、なんの声だ!?」と騒いでいるのが聞こえる。くぐもった声なので未だに穴の中なのだあろう
さらに火竜は天を仰いで咆哮した。そしてどうやらそのまま火を吹こうとしているようだ。
口から火炎が溢れる。そのわずかな火炎でも、周りの空気は揺らめく。信じられない熱量だった。
タバサに戦慄が走る。逃げ出したくなる。しかし、一度背後を振り返ってから、タバサは地面に足を突き立てた。一歩も引かないつもりである。
なぜなら彼女の後ろには彼女の使い魔が居るのだ。
自分は魔法使いだ。使い魔を見捨てることなど出来ない。
タバサは強く決意し、呪文を唱える。
「ラグーズ・イス・イーサ・ウォータル……」
                    ジャベリン
タバサの杖の先に、太く、大きな“氷の槍”が膨れ上がる。
火竜は目の前の口を大きく開き、岩をも溶かすブレスを吐いた。
同時にタバサもジャベリンを解き放つ。
炎の息吹と氷の槍が空中で激しくぶつかった。
氷の槍が、巨大な熱量で溶けていく。
炎の息吹が、その冷気で燃え尽きていく。
激しい水蒸気が立ち上る。
時間にすれば一瞬の出来事だ。
氷と炎が生み出した霧が晴れる。
火竜も魔法使いも攻撃を放つ前の姿のままで佇んでいる。
タバサはじっと火竜を睨みつけていた。その視線は射るようだが、実際は先ほどの槍でもう精神力は空っぽになり彼女には魔法は撃てない。
もはや彼女に自衛の手段は何もなく、今残っているものは魔法使いとしての矜持とさきほどまで自身の持ちうる最高の氷槍を持っていたときの残滓である。
火竜はしばらくうなり続けていたが、それから再び首を天に向けた。再び炎の息吹を放つつもりだ。


タバサは絶望に包まれる。ついぞさっきまでの戦う者の表情はない。
それは彼女が“雪風”と呼ばれるようになってから、最も感情的な表情的なものだったかもしれない。
彼女にはもう目の前の巨大な存在に対抗することはできない。
それが火を噴けば自分の命は簡単にかき消えてしまうだろう。
タバサの口が小さく動いた。彼女が何を言おうとしたのかは彼女自身にもわからない。
その時、背後から陽介の叫びが聞こえて回転する円形の刃が火竜へと飛んだ。
そしてそれは天にのばされた火竜の首に接触し、切断した。
タバサは呆然とする。
何が起きたというのか?
切断されてかろうじて乗っかっていた切断された上部が切断面からズレて地面に落ちたときも
目の前で何が起きているか分からなかった。
「大丈夫か!タバサ!」
背後からかけられた声でタバサは後ろを振り向いた。
そこには彼女の使い魔、花村陽介が佇んでいた。両手に瑠璃色の卵を持って。
自分の使い魔が助けてくれたということにタバサはようやく気がついた。
タバサは地面にぺたりと座りこむ。
「大丈夫か!おい?」
陽介がもう一度尋ねてくる。タバサは力なくこくりと頷いた。
いつもの寡黙ではない。言いたいことがあるはずなのに声が出ないのだ。
「よかった……」
陽介がほっとしたように言った。
そのとき再び大きな足音が聞こえてきた。先ほどの火竜の鳴き声を聞いたからか三匹の火竜が現れる。
「んな!増援かよ!?」
陽介が驚いたように言うが、タバサは無感動だった。
現れた3匹は先ほどの雌火竜に比べてこぶりとはいえ、一匹の火竜より脅威に違いないというのにタバサの心は波打たなかった。
恐怖感が鈍くなっているのは、一匹でもかなわない恐ろしい火竜が三匹も現れたせいなのか、
それとも隣に立っている使い魔のせいなのか、タバサにはわからない。
現れた3匹の火竜は明らかに動揺していたようだった。おそらく強力な火竜は仲間の死体を見ることに慣れていなかったためであろう。
だが敵を前にしての逡巡はあまりにも無用心であり、そのツケは高い代償であがなわれた。
「頼むぜ、ペルソナ!」
陽介の背にペルソナ、スサノオが現れた。
スサノオは力を貯め、そして体の回りを回る刃を天に放つと同時に力を放出した。
三匹の火竜は嵐よりも激しい風の渦に襲われる。疾風の刃で体を切り刻まれ、
その体を地面に叩きつけて激しい音を立てながら地面に倒れ伏した。
タバサはただただその光景を見ているばかり。
「よしっ、終わりィ!」
タバサは座り込りこんだまま使い魔を見た。
今は黒い上着を脱いで白い服になっている以外はまるでいつもの様子だ。
とても魔法使いが死力を持ってしても倒せない火竜を4体もほふった人には見えない。
陽介はタバサに話しかけようとして、何かに気付いたらしく、卵を地面においてから改めて言った。
「ほらっ、立てっか」
ぼうっとしているタバサに陽介は手を伸ばした。
タバサはその手を取った。


イザベラは薄着でベッドの上で横になりながら、小さいころの思い出をよみがえらせていた。
自分は小さいころかあの従妹が嫌いだった。
いや、陽介が行ったようにコンプレックスを抱いていたというほうが正しいだろうか。
彼女は自分よりも小さいというのに魔法がうまかったために嫉妬した。
また、もしかすると彼女はいつも両親と楽しげにしていたことにも嫉妬していたのかもしれない。
彼女はあのころは良く笑う少女であった。
自分には母はおらず、父は自分と遊んでくれることなどなく顔を合わせること少なかった。
それを寂しいと思ったことがないわけではないが、そういうものだと割り切っていた。
しかし本当は自分の従妹のように親と楽しそうに話す姿に憧れていたのだろうか。
わからない、理由はわからないが実際自分は従妹に嫉妬していて
彼女の父が死んだ時も母の気が父の手で狂わされたときもかわいそうだとは思わなかった。
彼女に冷たい仕打ちをし続けた。しかしその結果はどうであろう?
ただただ虚しさが積っただけだ。一度でも満足できたことなどない。
やり直すべきなどであろうか。遅すぎることなんてないと思うなどと陽介は言ったが、遅すぎるとしか思えない。
そもそも今回の任務は危険すぎる。いくら腕利きの彼女とはいえ帰ってこれるとは……。
思考にふけっている時、イザベラの寝室に使用人が入ってきて彼女の予想を裏切ることを告げた。
「シャルロットさまが参りました」
イザベラは呼び方を人形七号に訂正させることもせずに、使用人の言葉を吟味した。
それからイザベラの言葉をじっと待つ使用人に彼女を使い魔と共に謁見の間に通すように命じた。


陽介とタバサは極楽鳥の卵を渡すべくプチトロワを再び訪れた。
今回はイザベラの命令で二人で謁見の間に来ていた。
「ふうん、本当に生きて帰って来るとはねえ……」
尊大に腰かけたままイザベラは言った。
それからイザベラは黙りこくった。何度か口を開こうとするが、思いなおしたように口を閉じる。
それを見て、用はないと判断した卵を渡したタバサはさっさと退出しようとする。
「あ、おい」
と陽介が呼び止めようとするが、構わずに去ろうとする。
本当は宮廷の適当な者に卵を渡して帰るつもりだったのだ。
それがなぜかイザベラは直接陽介と共に渡しに来るように命じたから来ただけだ。
タバサはこの従妹を嫌っているわけではない。だが、特に騎士になってからというもの、下らない嫌がらせをされ続けていた。
だから彼女が面倒な用事を思いつくのを待つつもりはなかった。
しかし退出しようとするタバサはイザベラは呼び止められた。
「ま、待ちな、用はまだ済んじゃいないよ!」
その声が若干上ずっていることが気にかかりながらタバサは踵を返して戻った。
用はあるといいながら、イザベラはタバサが待つとなると再び何か言おうとして、それを打ち消してを繰り返した。
その作業が何度目かに及んで、ようやくイザベラは喋り始めた。
「卵を二つ取ってきたんだよね?」
いつもの尊大さが感じられない質問に、タバサはいつものようにこくりと頷く。
「実はその依頼主はどっかの大貴族でね、大金払って北花壇騎士団に依頼してきたのさ」
イザベラは早口に言う。
「でだ。極楽鳥の卵は一つ渡せばそれで済むんだ。だから一つ3人で食べちまわないかい?」
イザベラは言い切ったという表情を浮かべている。
一方タバサは表情には出さなかったが、眉をひそめる思いだった。いったい何を考えているのだろう。
しかし、陽介の反応は気楽なものだ。
「えっ、いいのか?あれってめちゃくちゃ高級なシロモノなんだろ?」
「あ、ああ、構わないよ」
イザベラはなぜかホッとした様子だった。
「ラッキー!じゃあご相伴に預かろうぜ、タバサ」
自分の使い魔に勧められ、タバサはうなずいた。もともと彼女にはイザベラの申し出を断る権利などないのだ。


それから三人は部屋を変えて、長机についた。
上座にはイザベラ。そして彼女を挟むようにタバサと陽介が座っている。
極楽鳥の卵が調理されている間、会話はなかった。
タバサはいつもどおり寡黙で、イザベラはそわそわとしていただけで何も喋らない。
陽介が「3人で食うにはこの机長すぎね?俺たち端しか使ってないし」と言っても二人とも何も答えてくれなかった。
そんな時間もほんのしばらくで、シェフの手によって料理された極楽鳥の卵が運ばれて来た。
「お、来た来た……ってゆで卵?」
陽介は自分の前に置かれた料理を見て、きょとんとして言った。
こんな豪華な宮殿で調理されるというのだからどのような調理がされるのかと思っていたら、庶民的に調理されていたのだから当然だろう。
「いい食材はね、シンプルな料理法が一番おいしいのよ」
とイザベラが言った。
なるほど、ゆで卵というシンプルな調理法にも関わらず、それからはゆで卵とは思えないほどいい香りがしていた。
「たしかにこんなデカイゆで卵ってだけでたまんねえな、ちょっと」
陽介はさきほどとは打って変わって目の前の卵を楽しみそうに眺める。
マンが肉ではないがそれに近いものがあると陽介は思った。
「それじゃあ、お食べなさい。ヨースケ、シャルロット」
久しぶりに従妹の名前を呼んだイザベラはタバサをちらりと見た。タバサは特に変わった様子もなく、ゆで卵を口に運んでいた。
イザベラは小さく溜め息を吐くと二人に遅れて三等分させた極楽鳥のゆで卵を食べた。
それから沈黙が流れる。
タバサはいつもどおりのポーカーフェイスだが、イザベラと陽介は似たような表情を浮かべている。それは困惑とか戸惑いとかいったものだ。
陽介は遠慮がちに喋り始めた。
「さすが世界七大珍味っつーの?庶民的な俺の舌には合わないつーか……」
「珍味じゃなくて美味よ。あと、わたしの舌にも合わないわね」
イザベラが陽介の言葉を訂正しつつも同調した。
そしてタバサがはっきりと言い捨てた。
「まずい」
イザベラと陽介は大きく笑った。

結局、極楽鳥の卵は火竜のいない時期に取ってきたものだけが味が良く、
タバサの手に入れた卵は食用に適したものではなかった。
しかし、イザベラにとってこの食事は忘れられないものとなる。
悪循環は終わる。



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