あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのしもべ第3部-6

 扉のきしむ音に、ルイズが夢の世界から引き戻されると、荷物をまとめて出て行こうとするバビル2世と目が合った。
「……なにごと!?」
 一瞬で目が冴えて、飛び起きる。
 そりゃそうだ。起床したとたんかを出て行こうとする人間と目が合えば、どんな低血圧であろうと覚醒する。帰ってきたら置手紙だけ、
よりもよっぽど心臓に悪い。
「やあ、おはよう。起こしてしまったか。ゴメン、ゴメン。」
 爽やかに挨拶をするバビル2世。とてもじゃないが家出をしようとしている人間とは思えないほど明るい。
「やあおはよう。じゃないわよ!なに荷物まとめてるのよ!家出?家出なの!?使い魔のくせに家出?主人を見捨てて出て行こう
ってわけ??あったま来たわ!」
 ベッドの脇に立てかけてある杖を取り上げて、さっと掲げる。
「逃げるというなら今すぐ消し飛ばしてあげるわ!覚悟しなさい。」
 呪文を詠唱しはじめるルイズ。慌ててバビル2世が止める。
「違う。誤解だ。家を出るわけじゃない。」
「どこが違うのよ。あんたの荷物、あらかた持っていこうとしてるじゃないの。どう考えても家出です。本当にありがとうございました。」
「おーい、遅いじゃないか。いったいどうしたんだ!?」
 ドアを開けて、同じように旅支度をしたギーシュが入ってくる。
「あれ?ギーシュ?」
 ギーシュが入ってきてあわてて詠唱を中断するルイズ。虚無の魔法は極秘事項。たとえ級友といえどもばれてはならない。
 だが、ルイズは忘れていた。普通の魔法ならば呪文を中止すれば魔法はそこで終結。マッチ一本程度の火すら出ない。しかし虚無
の魔法に呪文の中断は意味がない。途中止めであろうと、かまわずある程度の威力で発動する。
 すなわち、不幸にも部屋に入ってきたギーシュは、あわれ学園の藻屑と消えた。
「ま、まだ死んでない……」
 爆発を受けてふっとんだギーシュがよろよろと立ち上がる。丹念にセットしているのであろう髪型はドリフのコントのようにチリチリに
なって、まるで鳥の巣のようだ。呪文が途中止めになったおかげで、この程度で済んだのだろう。まさに不幸中の幸いだ。
「ギーシュ!?ちょっと、なにこれ??」
 これまた旅支度をしたモンモランシーが廊下を走り寄って来る。
「どーいうこと?なにがあったの??」
 3人が3人とも荷物をまとめている様子を見て、ようやくルイズがなにごとかあったのだと気づく。それを聞いて思わず顔を見合わせる
3人。そして窓の外を指差し、
「あれに気づかないとは、よほど昨日は疲れていたんだな。」
 なんとも微妙な表情をする3人。ルイズが言われるがままに外を覗くと…
「……なにあれ?」
 そこには学園に生えた木に抱きついて、ひたすら愛の言葉を唱え続けるマリコルヌの姿が。
「……説明すると長くなるんだが。」
「短く。」
「無茶言うな!」
 できるだけ簡潔に説明するとこうだ。
 モンモランシーが興味本位で惚れ薬を作った。それをギーシュに使おうとした。しかし、事故からマリコルヌが惚れ薬を飲んでしまい、
そのとき最初に見てしまった木に求愛をしている。
「短く済んだじゃないの。」
「じゃっし!」
 声を荒げるギーシュとモンモランシ。
「せっかくぼくたちがメインで書かれるかもしれないエピソードを!」
「省略して話さないといけないのよ!」
「「どんなに苦痛で悲しいことかわかるというのか!?」」
 2人にドアップで追求され、さすがのルイズもたじろぐ。荒勢なみのがぶり寄りだ。
「ご、ごめんなさい。」
 その威力のほどは、ルイズが素直に謝罪したことからもうかがい知れるだろう。
「それで、解除薬を作ろうと思ったんだけど…」
「材料の水の秘薬が、何らかのトラブルで入手できないらしくて……」
「それで皆で、材料があるというラグドリアン湖に行くことになったんだ。」
 ようやく合点の行ったルイズがなるほどと頷いた。そのための旅姿だったのか。その水の秘薬を手に入れるのに何日かかるかわか
らないし、元々バビル2世の私物は少ない。そのため荷物を全部まとめて、出て行くようなことになったのだ。
 ルイズはくるっとバビル2世のほうを向いた。
「早く言いなさいよ!」
「説明をしようにも聞く耳がなかったじゃないか。それに、机の上にシエスタに書いてもらった置手紙を置いてある。」
 見ると、たしかに机の上に手紙らしきものが置いてある。拡げて見ると、
『表のマリコルヌを元に戻すためにラグドリアン湖に行ってきます。いつ帰ってこれるかわからないけど、心配しないでください』
と書かれている。


「あのメイド、字が書けたのね。」
 時が読み書きできない平民は多い。読めても、書けない人間も多い。それができるシエスタに感心するルイズ。
「ああ。ひいおじいさんの方針で、一族のもの全員に強制的に読み書きそろばんを習わせているらしい。戦前の日本人らしいなぁ。」
 バビル2世も感心していたが、ベクトルの方向が違っていた。
「ぼくもこっちの字を勉強する必要がありそうだな。」
「そうね。いちいちわたしが読んだり、書いたりしてたら手間がかかってしょうがないものね。」
 ここで髪の毛を櫛で整えたギーシュが二人の間に割って入った。
「――そういうことで、僕たちはこれからラグドリアン湖に行くんだ。あとはよろしく、ルイズ。」
 仮面ライダーV3ァのようなポーズをとるギーシュ。なんだその構えは。
「ええ、じゃあ、行きましょうか。」
 だがルイズは聞いちゃいなかった。
「ついてくるのかい?」
「ついてくるの?」
「ついてくる気みたいだね。」
 ふん、と鼻を鳴らすルイズ。
「当たり前でしょ。使い魔と主人は一心同体。それに、ラグドリアン湖へは何度か行ったことがあるし、道案内ぐらいはできるわよ。」
 えっへんと小さな胸を張るルイズ。背伸びする幼女みたいでかわいらしい。
「あら。そんなことを言ったら、わたしはラグドリアン湖に住む精霊とトリステイン王家との旧い盟約を、代々取り仕切ってきたモンモラ
ンシ家の人間よ。道案内はいらないんじゃないかしら?」
 ルイズたちと一緒にいたおかげでギーシュがかっこよくなったと思い込んでいるモンモンが対抗する。つまり道案内は必要ないから、
おまえはここにいろと言っているのだ。
「じゃあ、ミス・モンモランシは水の精霊に何度会ったの?その口ぶりだと毎年訪れてるんでしょうね?」
 ぐっ、と言葉に詰まるモンモランシー。小さな声で、
「小さいときに、一度だけ…」
と呟く。
「……二人とも行けばいいんじゃないかな。」
 バビル2世の正論は、罵詈雑言の渦へ飲み込まれ、消えて行った。

 結局ルイズを加えた4人が出発したのは2時間後であった。大幅な遅れである。
 そのため、急遽ロプロスを呼び寄せて、それに乗り出発することとなった。
「な、なによこれ!?なにこの化け物!?」
 ロプロスを見て仰天するモンモランシー。ギーシュは、
「ああ、そういえばすごいねぇ。前見たときも思ったけど、なんだろうねこれ。でもまあ、ビッグ・ファイアくんの命令に従ってるし、彼の
使い魔じゃないかな?」
 なんでそこまで無関心なんだ、こいつは。ヴェルダンデにはご執心なくせに、他人の、それも男の使い魔にはとことん無関心な男
なのだろうか。ある意味大物なのかもしれない。
「使い魔って……でも彼、メイジじゃなくてエルフなんじゃないの?エルフも使い魔を持ってるのかしら?」
「そうなんじゃないかな。持っている種族かもしれないしね。」
 間違いなく大物だよ、ギーシュくん。
 さて、人数が人数である。背中に乗ろうにも、さすがにバビル2世が全員を支えることはできない。
 というわけで道案内にルイズを残し、二人は口の中に入ることになった。
「だ、大丈夫なの?」
 不安そうなモンモン。大丈夫だと太鼓判を押すバビル2世。
「でもこの前、ロプロスって口から何かはいてなかった?」
 純粋に疑問を口にするルイズ。このタイミングで言うとはなんという外道だ。
「大丈夫、大丈夫です。」
 怯える二人をなだめて中に乗せるバビル2世。
「あのタイミングで言わないで欲しいんだが…。」
「でも、危ないと思ったから…」
 たしかに気持ちはわかる。軍船を一撃で沈めるようなミサイルや、人間を粉々にする超音波を口から放つのだ。おまけに見た目は
鳥である。食べられるような気がしても致し方ない。
「大丈夫だ。ロプロスはロボット、つまりゴーレムみたいなものだから、飲み込むことはない。」
 わかった、と頷くルイズを抱えるようにして、ロプロスの背中に飛び乗ったバビル2世が南を指差す。
 ロプロスが土煙を上げ、はるかガリア国境を目指して飛び去っていく。
 問題は、まだ朝早いとはいえ何人もの生徒や教師がその光景を目撃していたということである。そのため、学院で多少の混乱が
おきたことは言うまでもないだろう。

 ラグドリアン湖を見下ろしたルイズが驚きの声を上げた。
「おかしいわね。昔はこんなに大きくなかったわよ…」
 だがさまよう湖ロブ・ノールの例もある。なんらかの気象や地形の変化で、湖が大きくなったり小さくなってもおかしくはないだろう。


 地上に着陸して改めてラグドリアン湖を眺望する。陽光を受けて、湖面がキラキラと瞬いている。
 対岸を数名の騎士らしき集団が歩いている。空の雲や、森が湖面に映りこみ、まるで一枚の絵画のようであった。
 興奮したギーシュが湖に飛び込み溺れるイベントがあったが一同当然のようにスルーする。というのも、
「なにかしら、これ……」
見るとま新しい石碑が建っていた。なんと書いてあるのかよくわからないが、絵からさっするとこの湖の中には巨大な主がいて、
どこかへ消え去ったらしい。描かれている絵は、まるで海坊主のようである。
「ラグドリアンの水の精霊は有名だけど……こんなの聞いたことないわね。」
 モンモランシーも訝しげに石碑を眺める。どうやらごく最近に作った観光資源であるらしかった。
「水の精霊というと、今回の目的だね。」
 バビル2世の言葉にルイズとモンモンが頷く。水の秘薬を手に入れるためには、水の精霊と交渉をする必要があるのだという。つまり
水の精霊に会うことが、今回の旅の第一の関門である。会わなければ秘薬を手に入れるも糞もない。
「ところで水の精というのはどういう姿をしているんだい?わからないと探しようがないんだが。」
「すっごく綺麗よ。」
 バビル2世の問いに即答をするモンモン。
「美の代名詞になるぐらい。ラグドリアン湖は、水の精霊の美しさがこぼれてできた、なんていうぐらいに。」
 子供時代に見た記憶を辿り、水の精霊の姿を思い浮かべるモンモン。それを読み取ったバビル2世も感心する。なるほど、褒め言葉
になるのも納得の美しさである。生きた宝石の塊、と評するのがピッタリだ。決して踊る宝石ではない。
 その後偶然通りかかった農夫によると、どうも今の湖の惨状はその水の精霊が行っているものだという。ここ数週間あまり前から、
湖が急な勢いで増水をはじめたのだという。それはこの湖の巨大な主の足跡が見つかった時期と一致しており、そこで精霊の心を
なぐさめるようと石碑を建立したのだという。
「儀式をすれば一番確実なんですが、溺れるものは藁をも掴むというやつです。なにしろこの辺りの領主は前の領主様と違い……」
 愚痴を言いかけた老父は自分の失言に気づいたのだろう。慌てて口をつぐみ、そそくさとどこかへ行ってしまった。
 どうやら秘薬の入手が困難になっているのはこのためらしい。
「なにが原因で怒っているのか、湖の精霊に直接聞かないといけないみたいね。」
 モンモンが鼻息も荒く立ち上がる。そして使い魔のカエル『ロビン』に水の精霊を呼んでくるように命じた。これであとは水の精霊を
連れてくるのを待つだけだ。
「ずいぶんあっさり話が進んでいくな。」
「……でも連れてこれるかどうかは、水の精霊が私のことを覚えているかどうかにかかってるし……。五分五分ってところね。」
 モンモンの話によると、代々交渉役を務めてきたものの、自分が子供のころ父が精霊の機嫌を損ねてしまったのだという。そのせい
で進めていた事業が失敗し、モンモランシ家の財政は火の車に転落。今はかつかつでなんとかやっている状況とのこと。
「私の血をおぼえてくれてさえいれば来てくれるはずなんだけど……」
 不安そうに湖面をジッと見つめるモンモン。ギーシュが安心おし、とでも言うようにそっと手を握った。モンモンはそれを握り返す。な
んだかんだで、ギーシュはそういうやつなのだ。
 その不安を吹き飛ばすように、離れた水面が光りだした。
 水が意思を持っているかのようにうごめく。膨れ上がり、盛り上がって、人の姿へと変化していく。まるでロデムの変身を見ているよう
だ。
 湖から戻ってきたロビンを迎えたモンモンが、水の精霊に向けて両手を広げ、口を開いた。
「私はモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。水の使い手で、旧き盟約の一員の家系よ。カエルにつけた血に覚え
はおありかしら? 覚えていたら、私達に解るやり方と言葉で返事をしてちょうだい」
 美しい女の姿へと変化した水の精霊が、無表情となって答える。
「覚えている。単なるものよ。貴様の体を流れる液体を、我は覚えている。貴様に最後に会ってから、月が52回交差した。」
 この精霊は遺伝子を識別できるのだろうか。いったいどの程度まで遺伝子が残っていれば、血を判断できるのだろう。自身も血によ
ってバベルの塔に選ばれたものであるバビル2世は考える。
『あるいは血に流れる魔法を感じているのだろうか。』
 そんなことを考えている間にも交渉は進んでいく。水の秘薬、つまり水の精霊の体の一部を分けてくれとねだるモンモン。水の精霊
が、にこっと微笑み返す。脈ありなのか!?


「だが、断る。単なるものよ。」あっさり拒絶された。よほど機嫌が悪いらしい。
「なにか条件付でもらうとかできないのかい?水の精霊が好きなものをプレゼントするとか…」
 ギーシュが提案をする。そういえば湖を広げているのは、精霊がなにか気に食わないことがあるからではないかと言っていたことを
思い出す。
 そこで改めて頼むと、しばしの思案の後、水の精霊が「よかろう」と了承した。
「世の理を知らぬものよ。貴様はなんでもするか?」
 マリコルヌにそこまでの義理はないが、あのまま放置しておいても朝晩やかましいだけである。それにかわいそうだ。頼みごとの内
容にもよるが、とりあえずなんでもする気はある。
「二つある。一つは我に仇なす貴様らの同胞を、退治すること。もう一つは我が守りし秘宝をお前たちの同胞が盗んだのだ。これを取
り返してきて欲しい。」
「ちょっと、待ってくれないか。」
 仇なす同胞、というのはわかる。おそらく水の秘薬を求めて精霊を襲う、プロのハンターのことだろう。水の秘薬は精霊の体の一部
だという。かなりの高額であるらしいから、金に困ったメイジが命がけで精霊を襲うのはおかしくはない。
 が、秘宝とはいったいなんだろうか。
「我が共に、時を過ごした鐘。我が友、命の鐘。」
「命の鐘?」
 ゆらゆらと水の精霊が揺れる。おそらく頷いているのだろう。
 水の精霊によると、それは『生命』を操る力を持つ不思議なベルであるという。遥か昔にこの湖にやって来て、それ以来共に過ごして
いたらしい。
「口ぶりからすると、それは意識を持っているのかい?」
 バビル2世が訊くと、水の精霊はゆらゆらと揺れる。頷いたようであった。
「天才悪魔と我は呼んでいた。いずこから来たのかは我も知らぬ。我が友であり、我が愛を見届けしもの。」
「あいをみとどけしもの?」
 水の精霊としては意外すぎる言葉が出て、一斉に聞き返す。水の精霊はゆらゆらと揺れる。
「我は愛を、いとしい方と誓った。命の鐘はそれを見届けしもの。命の鐘が盗まれし夜から月が一度も交差せぬ日、愛しい方は我が元
を去った。すなわち愛を見届けしものが戻れば、我がいとしきものも必ずや戻る。」
 ボーっとした表情で、わずかに目を潤ませて語る水の精霊。その表情は恋する乙女そのものであった。
「なんだそれは……たまげたなぁ。」
 伝説の美しさを持つという水の精霊の意外な事実に、少なからずショックを受けるギーシュ。
「そうね、意外ね。でも、水の精霊も恋をするんだって思うと、親近感沸いちゃった……。」
 チラリと横目でギーシュを見るモンモン。一途に愛するものを待つその姿を少しでもギーシュが見習ってくれれば、と心の中でため息
をつく。
「それで、その愛しい方ってのはどんなやつなのかしら?まさか石碑が建ってたあれかしら?」
 ルイズが考え込む。ロマンティックな気分になっているのだが、生来の気の強さがそれを認めたがっておらず、無理矢理考えないよ
うにしているのだ。
「可能性は高いな。もう少し詳しく聞いてみようか。」
 水の精霊に、愛しい方がどんな精霊なのか尋ねる。水の精霊はもじもじしながら、恥ずかしそうにぼそぼそと語り始めた。
「……大きな体に、逞しい胸板、そして太い腕。りりしい口元に、輝く目。無口な方だが、共にいて飽きることなく、心安らぐ。三日月の
ような頭。鉄の身体。水面を思わせる滑らかな肌。樽のような身体をした、愛しい方……」
「なんだか聞いてると水の精霊がどこに惚れたのかさっぱりわからないんだけど…」
「同感だね。」
「恋は盲目って、こういうことなのね……」
 3者が3者とも説明を聞いて首を捻っていた。水の精霊とはあまりに不釣合いに思えたからだ。
「……おや、きみ。どうしたんだい?」
 あきらかに困惑の表情を浮かべているバビル2世に気づき、ギーシュが尋ねる。
「なに、ひとつ思い当たることがあってね。」

 バビル2世が一歩前に出た。
「水の精霊。一つ提案があるんだが。」
「何か用か。単なるものよ。」
 ぼーっとしていた精霊が我にかえり、威厳を正して問う。
「その愛しい方を連れてきたら、身体を分けてもらえるかい?」
「今何と言った、単なるものよ!?」
 今までにない勢いで水の精霊が問い直す。ぐるぐると身体がうねりだし、渦を巻く。
「あなたの愛しい方に心当たりがある。だから連れてくることができるんだ。だからその代わり、身体を少し分けて欲しい。」
「それは本当か、単なるものよ。」
 今にも身体を差し出しそうな勢いで水の精霊が迫り寄る。
「連れてくれば、すぐにでもこの身体を分けよう。我に異論はない。」
「それにあと襲撃者も撃退する。それで水を元に戻して欲しい。どうだろうか?」
「……いいだろう。いとしい方が戻れば、襲撃者などものの数ではない。それに目的も達するのだ。」
「つまりその愛しい方を探すために、湖を広げていたってこと?復讐とかじゃなくって?」
 精霊が体を震わせた。
「復讐などという考えを、我は持たない。ただ愛しい方に会いたいだけ。ゆっくり水が浸食すれば、いずれ秘宝に届くだろう。水が全て
を覆い尽くすその暁には、我は愛しい方と出会うだろう。」
 命の鐘はどうでもいいんだろうか。
「命の鐘は我が友。長きときを過ごしたゆえ、共に居たいと願っている。しかし鐘が別れを望むなら、それは致し方ない。いずれまた
会うこともあるだろう。」
 けっこう不憫である。
「いつ連れてくればいいんだい?」
 バビル2世が問うと、水の精霊はフッと嗤った。
「お前たちの寿命が尽きるまででかまわぬ。我にとっては明日も未来もあまり変わらぬ。」
 バビル2世は、それの水中移動速度を思い浮かべ、距離から時間を算出する。
「おそらく明日の昼ごろにはつくはずなんだが」
「昼に頼む。」
 明日も未来も変わらぬ、と言ったことを忘れたように、水の精霊は即答をした。

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