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ゼロのペルソナ 第8章 月 後編


始祖ブリミル像が置かれた礼拝堂には3人の人物がいた。
一人はウェールズ皇太子。3人だけの結婚式を取り仕切っている。
一人はワルド子爵。この結婚式の新郎。
最後の一人はルイズ。新婦である。
ルイズはぼんやりと考え込んでいた。
なぜ自分は姫さまの手紙を受け取りに来た戦場で式を挙げているのだろう?
式の執り行いをしているウェールズはアンリエッタ姫の大切な人、おそらく、いや間違いなく恋人であろう。
なぜ彼はにこやかに他の人間の結婚を祝福をしているのだろう?
彼がこれから向かうのは恋人のいるトリステインではなく死を敷き詰めた戦場だというのに。
傍らに立つのはワルド。ちらりと見ると、彼はにこりと笑いかけてくれる。
なぜ自分は結婚するのだろう?
「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして妻とすることを誓いますか」
ワルドは重々しく頷いて、杖を握った左手を胸の前に置いた。
「誓います」
ウェールズはにこりと笑って頷き、今度はルイズに視線を移した。
次はわたしの番であろうか。きっとそうだろう、結婚には新郎と新婦しかいないのだから。
未だにルイズは現実感をつかみかねていた。三人しかいない広間がひどくボンヤリしたものに感じられる。
ふわふわとした感覚の中、思い出したのはなぜか自分の使い魔のことだった。
昨夜の彼の横顔が自然と脳裏に甦る。ひどく楽しそうに彼は色々な思い出を語ってくれた。
中にはどこにでもありそうなバカをやった話からとても信じられないような話まで。
でもきっと全て本当のことなのであろう。彼はまるで本当のことのように、楽しそうに笑いながらウソをつける人間ではない。
自分も聞いてもらえばよかった。
結婚に悩んでいること。自分に自信が持てないこと。
それにこれ自分がどうすべきなのか。
話せばよかった。
完二と話がしたい。
ウェールズはルイズの様子に気付かずに婚約の儀式を執り行う。
「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。汝は始祖ブリミルの名において……」
しかし、ウェールズの言葉は最後まで続けらなかった。
バンと扉を開けられる音と同時に声も響き渡る。
「その結婚式ちょーーっっと待つクマ!」
それはまぎれもないクマの声だった。式を行っていた三人は予想外の声にいぶかしげに振り返る。
開かれた扉からやってくるのはクマだけでなく、その主のキュルケ、そしてルイズの使い魔である完二だ。
ルイズはポカンとしていが、自分の結婚式を中断させたのがクマであり、
自分の使い魔である完二はクマにおとなしく続いていることに腹が立ってきた。
どうしてあんたはのこのことクマの後ろについて来ているのよ。と理不尽にも近い怒りが湧き起こる。
だがワルドの様子は憤然とするルイズや半ば呆然とするウェールズと異なるものだった。
ワルドは彼らの姿を見とがめて表情を鋭くしルイズに突然手を伸ばしてくる。
彼がなぜそのような表情をするのか、彼が何をしようとしているのか。ルイズには理解できない。
ワルドが手を伸ばしてくることに反応できないルイズ。その時、完二の声が響く。
「ペルソナァ!」
ルイズとワルドの傍に以前ルイズも目にしたことがある完二のペルソナ、ロクテンマオウが現れた。
ワルドはトクテンマオウを視界に認めた瞬間に飛び退いた。
ワルドが飛び退いた一瞬の後、彼の立っていた場所にはロクテンマオウの得物が振り下ろされていた。
ワルドがさらに距離をとる一方、ルイズの元に完二、キュルケ、クマがやって来る。
「大丈夫?ワルドになにかされなかった?」
キュルケが心配そうに尋ねてくるが質問の意図がつかめない。

同じく突然の展開に呆然としていたウェールズがはっと気を取り戻し、婚約の儀式を邪魔した者を叱り付ける。
「きみたちこれはいったいどういうつもりだ!」
「花嫁をさらいに来たクマ」
「なにを言って……」
「おい、ワルド!テメエよくもルイズをさらおうとしやがったな……!」
ウェールズの更なる質問は完二の大声で中断させられたが、重要なのは完二の言った言葉だった。
えっ?とルイズはワルドを見る。彼の顔にもルイズやウェールズと同じ困惑が浮かんでいる。
彼もこの状況が理解できないように見える。
ルイズの脳裏に先ほどの厳しい顔が思い出された。あれはなんだったのか、見間違いだったのだろうか。
「なんのことだい?」
「とぼけんな!仮面つけてオレたちを襲ったことを忘れたとは言わせねえぞコラ!」
仮面をつけて襲う?まさかラ・ロシェームで、自分を抱えて逃げようとした襲撃者がワルドだというのか。
ルイズはじっとワルドの顔を見た。彼は否定しない。
そして否定しない以上に完二の言葉を真実だと肯定するのはその様子だ。
戸惑っていたような表情をしていたのが、冷徹な、研ぎ澄ましたような剣のような雰囲気を帯びていく。
完二たちは身構えた。ウェールズも何をしたらいいかまだわからないようだが、事態の変化に気付いたようだった。
しかし、ワルドは彼らのことを気にしないというように、じっとルイズだけを見つめてくる。
「ルイズ、僕と一緒に行かないかい」
彼の雰囲気は鋭いものから更に変化していてもはや異常とさえいえる。
たまらずと言った様子でキュルケが言う。
「あなた何言って……」
その声に覆いかぶさるような大声で言った。
「世界だ、ルイズ!僕は世界を手にいれる!そのためにきみが必要なんだ!きみの能力が!きみの力が!」
叫び終わったあとにワルドは先ほどまでの狂気がウソのように穏やかな笑顔を浮かべた。
「一緒に行こう、ルイズ。幸せになろう」
一転した優しい言葉、しかしそれは先ほどまでの姿を忘れさせるものには足りない。
ルイズは確信した。そして自分がこれからどうするべきかも知る。
いつの間にかワルドだけでなく完二たちも見つめていた。不安そうな顔をする彼らにルイズは言葉をかける。
「ねえ、カンジ、あなた前にわたしを危ない目から守るって言ったのになんの役にも立たなかったわね」
「お、おう」
完二はいやに素直に答えた。
「今度はちゃんと間に合ったじゃない。ご主人さまとして褒めてあげるわ」
「ルイズ……!」
使い魔に報いるように笑いかけてからルイズは婚約者、いや元婚約者を睨みつける。
「ワルド、昔あなたが好きだったかもしれないわ。恋だったかもしれない……。で今のあなたはわたしを見てない。
あなたが好きだというのはわたしにあるという、ありもしない魔法の才能だけ。そんな理由で結婚しようなんて、こんな屈辱ないわ!」
ワルドの顔から先ほどまでの優しい表情は消え去った。全員へと語るような口調でワルドは喋り始める。
「わたしの目的の一つは潰えたわけだ」
「んだとぉ?」
「ルイズ、きみを手に入れることだ」
「当然よ!」
「そして……」
ワルドは突然二つ名の閃光のように素早く杖を引き抜き、呪文の詠唱を完成させた。
ワルドは風のように身を翻らせ、ウェールズの胸を青白く光る杖で貫いた。
「き、貴様……、『レコン・キスタ』……」
ウェールズの口からどっと鮮血があふれる。
「貴様の命だ、ウェールズ」

完二たちは呆然と目の前の光景を見ていた。
ルイズを守るために構えていたが、突然のウェールズへの攻撃に反応できなかった。
「貴族派!あなた、アルビオンの貴族派だったのね、ワルド!」
「そうともいかにも僕は、アルビオンの貴族派『レコン・キスタ』の一員さ。さて、ルイズ。最後にきみの胸ポケットにある手紙を頂いていくよ」
言い終わるか言い終わらないかの瞬間、完二がデルフリンガーを引き抜き、思いっきりワルドに叩きつけるように振りかぶる。
完二の攻撃をバックステップしてワルドは避けた。完二は武器を構え直す。
「キュルケ!ルイズを守ってやってくれ!」
「わかったわ」
「クマは王子さまを治すクマ」
クマがピョコピョコと歩いて地面に伏したウェールズに近寄る。
「無駄なことを。致命傷だ」
「やってみなきゃわかんねえだろーが!さあ、テメーとオレ、サシで勝負だ!」
ワルドはニヤリと笑った。
「決闘では僕の勝ちだったね?」
「へっ、二回も転ぶと思うなよ!」
完二が啖呵を切るとその手にあるデルフリンガーは柄の装飾部分をかちゃかちゃと音を立てながら喋り始めた。
「相棒!心が震えてるじゃねーか!悪くねー、俺も本気を見せてやる」
そう言うとデルフリンガーは突如輝き始める。輝きながらデルフリンガーは姿を変えていく。
発光を終えたデルフリンガーはサビに覆われた古い剣ではなかった。輝くような銀色の剣に様変わりしている。
「こいつぁ……」
「驚いたか、相棒?」
「お、おお!オマエこんなことできんのかよ!?」
「もちろん小奇麗になっただけじゃねえぜ」
「わかってるよ」
完二はぎゅっとデルフリンガーを握り直す。
体中に力を感じる。テレビの中での世界風に言うなら攻撃、防御力、命中・回避アップといったところか。たいした効果を持った剣だ。
「面白いものを見せてもらった。代わりに僕も面白いものを見せてあげよう」
ワルドは杖を立て呪文を紡ぐ。
「ユビキタス・デル・ウィンデ……」
呪文が完成すると、ワルドと全く同じ姿をしたものが4人現れた。遍在の呪文である。
ワルドは現在、遍在と本物のワルドと合わせて5人存在することになる。
「ク、クマー、ワルドが増えたクマ!」
「4人も遍在を……」
「なんという使い手だ」
二人の勝負を見守っていたクマとキュルケ、それにウェールズが驚嘆の声を上げた。ウェールズが立っているのはクマの回復が終ったためであろう。
ワルドはウェールズが平然として回復していることに驚いたようだったが、動揺はすぐに表情から消えた。
どうやらワルドはこれから戦いだろ言う時に別のことを引きずるようなことはしないらしい。
「カンジ、助太刀するクマ!」
自分の仕事をすでに終えたクマは完二に手助けを提案する。だが完二はその提案を退ける。
「やめろ!コレはオレとワルドとの勝負だ」
すでにサシと言った手前、クマの手は借りられない。
「でもでも敵は5人クマよ!」
「問題ねーよ、ちょーどいいハンデだぜ」
そして完二はワルドが5人だろうと10人だろうと負ける気がしなかった。心が震えてそれを教えている。
戦いが始まった。
五体のうち三体の遍在の杖に目に見えるエネルギーを纏わせる。まるで剣のようだと思った。
完二の思った通り、杖を剣にする呪文らしくその三体は接近戦を挑みかかってきた。
だが三人を相手にしても完二は全くひけをとらない。それどころか押しているのは完二だ。
デルフリンガーの力によって完二は体が軽く、そして体中に力が満ちていた。

戦いながら完二は先ほど船着場を飛び出してからのキュルケとの会話を思い出す。
「ねえ、カンジ。どうしてあなたルイズを助けるの?」
階段を駆け上がっているときにキュルケは尋ねてきた。
「はあ?んなこと言ったらクマや花村センパイだって……て、アレ?いねーなセンパイ?」
陽介は付いて来ていない。おそらくなにか考えがあってのことであろうと完二は納得した。
「あの子たちはあなたの付き添いでしょ。どうしてあなたはあの子に肩入れするの。別に好きだからってわけでもないんでしょ?」
「たりめーだ」
ルイズのことが好きだから助けるなどということはない。というかなぜそういう話になるかすらわからない。
「助ける理由なんて困ってるからで十分だろ」
ふうんとキュルケはなにか面白いものを見るようにしていた。
そうだ、好きどころではない。ルイズは完二にとって最も気に食わないタイプの女性だ。
エラそうにしてすぐに怒る。
この世界に召喚されてすぐに服を洗わうように命令されたことを思い出す。
なんでも出来るみたいな顔をして出来もしないことをしようとする。
ルイズがアンリエッタから任務を引き受けたときのことを思い出す。
本当は悩んでいるのに肩肘張って自分を強く見せようとする。
昨晩見た小さな背中を思い出す。
悩んでいるのに強がって、そんな姿を見せられれば助けるしかないではないか。
ルイズのことを考えると完二の心は震える。体は軽くなり、力が体中を巡る。
完二の激しい攻撃で防戦一方になっている三体の遍在。
一体をまさに仕留めようとする時に、白兵戦に参加していなかったうちの一人が風の魔法を完二に向かって放ってくる。
雷ではなく、風の攻撃だ。致命傷にはならないから耐え切ってみせようと完二は体で受け止めようとする。
しかし手にあるデルフリンガーがそれを制止する。
「相棒、俺で防げ!」
完二はデルフリンガーに言われるがまま構えた。すると風の刃は剣に吸い込まれていった。当然、完二の体には傷一つできない。
驚いて完二は剣に問うた。
「お前、魔法吸い込めるのか?」
「すげーだろ?」
完二はにやりと笑う。デルフリンガーも顔があったら笑っていただろう。そういう雰囲気だ。
これでワルドは電撃の魔法だけでなく、風の魔法も使えなくなる。しかも白兵戦でも押し負けているのだ。
ワルドの旗色が一気に悪くなる。
「くっ、一旦下がるぞ!」
ワルドたち完二から離れた。おそらく次の攻撃に移るためのインターバルだろう。だが、それは致命的な判断ミスだ。
完二の前に金色に輝くカードが現れる。
「ペルソナァ!」
姿を現したロクテンマオウはギザギザした雷状の得物を地面に突き刺すとそれを両の拳で打ち砕いた。
ロクテンマオウは魔力を解き放ち、電撃が5人のワルドを襲う。
マハジオ、広範囲に電撃を起こす魔法だ。最下級魔法であるが、完二の持つスキル電撃ブースタ、電撃ハイブースタによってその威力は引き上げられている。
普通の人間ならば一撃で戦闘能力を喪失する。
全ての遍在は消え、残ったのは地面に伏した本物のワルドだけである。
「馬鹿な……こんな……」
シビれでビクリと体を震わしながらワルドは呻いている。
完二は勝利した。

ルイズ、クマ、キュルケ、ウェールズが歓声を上げて近寄ってくる。
「すごいじゃないか!スクエアを倒すなんて」
「カンジ、惚れ直したわ!」
「さっすがカンジクマ」
「やるじゃない、カンジ!」
ウェールズ、キュルケ、クマ、ルイズが口々に完二を褒める。
「へっ、よせよ。これくらい」
完二もなんだか照れくさい。
だが勝利に酔っている間もなくウェールズはすぐに話を現実的な問題に切り替えた。
「で、これから君たちはどうするんだい?」
「どうするって……」
「もう最後の船は出てしまったているはずだ。すぐにでもこの城は戦場になるだろう」
完二、クウマ、キュルケは顔を見合わせる。どうしようかと言った具合だ。
はあ、とルイズは溜め息をつく。
「あんたら事前に考えてなかったの?」
「ほら衝動的に……ね?」
キュルケの言葉に再びルイズは溜め息をついた。
どうしようかと顔を見合わせている時、開け放されたままになっていた扉から大小二つの影が入ってきた。
陽介とタバサである。
「あ、センパイ。ずいぶん遅かったスね。もう終わっちまったぜ」
「みたいだな。んじゃ、さっさとトンズラするぞ」
そう言うと、陽介とタバサは走って、先ほど入ってきた扉から出て行った。完二たちもなにか考えがあるらしい二人の後を追う。
辿り着いた場所は港であった。当然、非難民を乗せる最後の船は全て出港していた。
「船、出てるじゃない」
キュルケがそう言うと、タバサは首を振り、端っこを指指した。
そこに一つの船があった。
「あら、まだあったの?じゃあ、さっさとあれに乗って……」
「風石がもはやない」
しかしウェールズが絶望的な現実を告げた。
陽介は頷いた。
「たしかに残ったわずかな風石を全部譲ってもらいましたけど、それでも必要量の一割もないそうです」
「じゃあ、どうするの?」
ルイズはイライラしているように言う。
「落ち着けって、ルイズ。足りないなら補えばいいんだ」
「補うって……?」
「わたしと彼」
彼というところで陽介を杖で指しながらタバサは言った。
「大丈夫なのか?」
ウェールズが心配そうに言う。
「大丈夫」
「ここまで来たらやるっきゃないんで」
タバサと陽介は強い意思を瞳に宿らせている。

「信頼してるわ」
キュルケは親友とその使い魔にウインクをしてみせる。
「クマ、タバサチャンを信じてるクマ。あ、もちろん陽介も」
「オマケみたいに言うな!」
クマはその口調とは裏腹に、言葉には信頼が満ちている。
「オレのタマ、預けるぜ」
「頼むわよ」
ルイズと完二は陽介とタバサに言った。
「おう、任せろ」
陽介が威勢よく応え、タバサも任せてというように頷いた。
「あ、そうだウェールズ皇太子、ひとつお願いがあるんですけど」
「なんだい?」
「この船動かすの俺たちだけじゃ無理なんで船乗りを貸してくんないっすかね。出来るだけ多く」
陽介の図々しいとも言える要求に少しウェールズはポカンとしてから笑い始めた。
「ははは、そうかうっかりしてたよ。確かに船乗りが必要だ。で、出来るだけ多くかい?」
「はい、出来る限り多く」
陽介は重要なことだというように強調する。
完二は陽介の意図を理解した。
できる限りこの戦場から人を逃がしたいのだ。たとえ彼ら自身がそれを望まなくとも。
自分たちは船に関しては素人。動力をなんとかしても船を操ることはできない。
そして客である自分たちに何かあったら彼らの面子に関わることであるので彼らは断れないだろう。
「クマくんには命を助けてもらったうえ、大使を安全に送れないとなっては貴族の名折れ。手配しよう」
しばらくするとウェールズは10人の船員を連れてきた。
死ぬつもりだったためか不本意そうな顔をしたが、ウェールズに叱咤激励を受け、その顔は引き締まったものになる。
彼らに加えてルイズたち6人が船に乗り込む。
その際にウェールズはクマに感謝の言葉を述べた。
「ありがとう、クマくん。きみの魔法は、どんな水の魔法も秘薬も効かないような致命傷からわたしを救ってくれた。
きみのおかげでわたしは戦場で立派に死ぬことが出来る」
クマは悲しそうな顔を浮かべる。
「クマはー、死ぬために王子さまを助けたんじゃないクマよ……」
ウェールズは微笑みを浮かべただけで何も答えなかった。
全員が船に乗り込み、準備が終わったときにウェールズが岸で大声を上げた。
「勇敢な我らが友に、敬礼!」
ルイズたち一行を乗せた船は港に集まった魔法使い、兵士の敬礼で送り出された。

「はあ、地面がこれほど恋しく思えたこともなかったわね……」
「まったくね……」
珍しくルイズはキュルケに同意する。
現在、彼女らは船の上にいたが、その船は空の上でも、当然海の上でもなく陸の上にあった。
ニューカッスル城を出港して2時間以上のフライトの末に彼女らの乗る船は草原へと不時着した。
燃料である風石は出港してすぐに切れて、ほとんど人力による飛行であった。
ウェールズがつけてくれた10人の中にいた4人の風の魔法使い、そしてタバサと陽介、彼らが船を飛ばした。
とはいえ実質的に船の浮力を作っていたのは陽介一人で、他は全てサポートであった。
船を浮かすとは大変な魔力のいることであり、多少のサポートで風石の使用量を減らすことが出来ても単体で飛ばすことなど普通ならば出来ない。
そういう意味で陽介は異常であった。
彼は本来風石が入れられるはずの動力源に終始、魔力を送り続けた。
もし彼がいなければ船は出航後、30分もしないうちに地面へと真っ逆さまだったろう。
今回の最大の功労者というほかない。そういうわけで現在、陽介は甲板でぐーすかと寝ているのも、文句はない。
いつの間にやらタバサがそれに寄り添って寝ているのもだ。彼女も魔力を使い切っている。
しかし……
「なんでこいつらも寝てるのよ……」
「さあ……」
甲板で寝ているのは陽介とタバサ、それにクマと完二だ。陽介が寝るなり二人も彼に倣うというように寝始めたのだ。
他の船員はみな船室に入っている。おそらくそこで寝ているのだろう。
「いいんじゃない。別にわたしたち待つ以外することがないわけだし」
キュルケの言うことはもっともなのでルイズも反論はしない。
現在、船はトリステイン国内の草原にあるのだが、近くに村落もない。それに船は不時着の際に船底部分が相当破損したのでもう浮かすこともできない。
そういうわけで現在彼らは誰かが船の飛ぶ姿を見て、その通報を聞きつけたトリステイン兵でもやってくるのを待つ他ない身だ。
「それにあの子もあなたのために戦ったんだからそれくらい許してあげなさい。」
そういうとキュルケは、わたしも寝ると言ってクマに寄り添って寝始めた。
わかってるわよ。ルイズは口の中で言った。
ルイズは音を立てないようにしのび足で仰向けに寝ている完二に近づいた。
彼の顔はなんとも無防備で、間抜けな笑顔だ。マユゲがないためかいかつい印象も与える。
タバサも、キュルケも自分の使い魔に寄り添って寝ている。なんとなく自分も完二の隣で仰向けになってみる。
視界いっぱいに広がる青い空。空に残月が彼女の気を引く。青い空に消されそうになっている淡い月だ。
昨晩、スヴァルの月夜だったためその影は一つである。完二の言葉によると完二のいた世界は月が一つだけの世界らしい。
月が二つ現れることがないなどありえないような話だが、ルイズは完二の話を信じると決めている。
今、見える空は彼の世界の空と同じ景色なのであろうか。
そう思いながら彼女は眠りに着いた。


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