あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Adventure-seeker Killy in the magian world quest-06


LOG-6 襲撃者

…王都トリスタニアは、学院から徒歩で二日、馬の足なら二時間の距離であるという。
正確な距離は不明だが、霧亥にとっては徒歩でも何の問題も無い距離である。
もし、なんらかの移動手段を講じるというのなら、この程度は軌道車両や昇降機の類を用いれば、直線機動なら数分で到達可能になる距離だ。
歩くのは耐えられない、徒歩以外の移動手段も貧弱とは、なんとも頼りない。
仕方なしに、水と蛋白質の塊が制御不能なニューラルネットワークに指示されて牽いている、今にも致命的な損傷が発生しそうな車両に霧亥は乗っている。
もちろん霧亥は、この馬車が今この場で分解しても痛くもかゆくも無い。
むしろ、横転程度でも生命の危機に陥りそうなルイズが、顔色一つも変えずに揺られていることが、普段の彼女からすると理解できない。
「あれがトリスタニア。もう王城も見えるわよ」
真っ白な建材で出来た建造物が立ち並んでいる。
構成物質からは、堆積層を破って露出した地殻の一部を切り出して作られたらしいことが分かる。
中央の施設が王城だろうか?
学院と同じく、結合力等が意図的に改変されており、走査しにくい。
無数の有機物が動き回っているが、特に王城の内部には、金属製品を帯びて直立不動のものや、空中を浮遊する影など妙なものが見える。
“王”の何たるかを霧亥は当然知らないが、王への忠誠などといった言葉を聞いたことがある。
ルイズの簡単な説明からも、政治的な存在らしいことが分かる。
大方、貴族のように「近親間の交配で遺伝子情報を可能な限り変化させないように努力してきた」ような個体がその任に当たるのだろう。
統治者生育のためのリソースを最小限に収めるのはいいが、相対的高等教育を受けてなお、決して有能な存在とは思えない者たちに集中させるのは危険だ。
移民最初期の遺伝端末移植による魔法の使用権限が残っているだけで、その能力は平民と大差なく、むしろ魔法使用に多くを割くために、同等の教育を受ければそれ以外では劣る。
ましてや、目の前の集落の様子を見ても分かるように、比率において平民が圧倒しているのだ。
才能ある者達が偶然生まれ出る確率は平民のほうが遥かに高い。
常識的な社会であれば、貴族とは魔法使用に特化した専門職としての運命を誕生と同時に背負わされる。
もしかすると単純に、一対一の殴り合いでは貴族が有利という原始的な恐怖から、このような体制が生まれたのかもしれない。
ハードウェア―――肉体の性能が平民と互角である以上、そうまで圧倒的な優位性があるとは思えなかった。
もっともこの見解は、ハルケギニアが積み重ねてきたのとは、比較することすら困難な闘争の知識と理論を溜め込んでいる霧亥の考えであり、ここの人間が共有できるものではない。
遺伝子の変異を悪とし、古いものを善しとし保守するのも、殖民初期の文明が失われることへの恐怖の名残だろうと霧亥は納得した。
それはそうと、気になることが一つ、霧亥にはあったので、馬の足音に消されそうな感情の無い声を出す。
「ルイズ」
「えっ?」
霧亥のほうから話しかけてくるとは、まったくの不意打ちだったので、「機会があれば講釈しよう」と頭の中でまとめていた言葉も消し飛んだ。
「なんてここには天井が無いんだ?」
ルイズはいっている言葉の意味が分からず、間抜けに口をあける。
霧亥の基準で言えば、集落に一つの構造としての連結が無く、吹き曝しというのはどうにも理解できなかい。
もっと言えば、人か活動可能な領域全てに、いわゆる“床”と“天井”にあたるものが存在しない場所があるというのも、少し前の彼には想像出来ないことだった…。

「ブルドンネ街に入ったわ」
のろのろ走行するうちに、ついに集落に進入した霧亥だが、学院以上に悲惨な有様だった。
狭い道端に食物が置かれ、自制の効かない動物の排泄物が放り出される。
住民たちの衛生・健康状態もとても良いとはいえない。
霧亥が最初に驚愕した、そこら中に微生物が存在するという事実は、この世界の人々にとっては致命的な事態を引き起こしかねないらしい。
それを自ら引き起こそうとしているかのように、体表の老廃物もそのままに、着の身着のままでいるものばかりだ。
栄養状態の悪さは、食糧生産が貧弱で、供給が間に合っていないということだろう。
なるほど、貴族というのはこの世界の上澄みであるというのは真実らしい。
「で、ここからは歩きね」
馬車を降り、有機物で汚れきった路地裏に入る。
ここで霧亥は、奇妙な視線に気がついた。
「早くついてきなさいよ、こっちだってば」
滞りなく、何の変哲も無い買い物が進行しているのであれば、何もこの言葉を霧亥は無視するつもりなど無かったが、どうやらそうもいかない。
「そこにいろ」
「え………」
ルイズが追おうとして振り返ると、もう霧亥の姿は無い。
あの目立つ姿で一瞬のうちに人ごみに溶けてしまうとは、とても信じられなかった。
ちなみに、このとき霧亥は特別な歩行法はとっていない。
先ほど問題になった自重を生かして、人ごみをかき分ける形で歩いただけだ。
かき分けるたびに、様々な状態の人間が目に映る。
人ごみの分析を、遺伝情報レベルまで進めていくが、あくまで目指すのは一つ。

「おい」

理由はともかく、目の前の男が先ほどから自分たちに注意を向けていたことは分かっていた。
男がいつでも戦闘行動を取れるようにしていたことも、霧亥が近づき始めたので位置を動かしたことも、監視対象を見失って狼狽したことも分かっていた。
何者であれ、敵対行動一歩手前であるし、先制され、イニシアティブを奪われぬためにも、接触はこちらからするべきだ―――そうして声を掛けたのだが、どうやら必要以上に驚かせたらしい。
男は魔法の発動体を取り出し、元素変成で何かを右腕に構築し始める。
何らかの後ろめたさがあるからこその行動であるなら、間違いなく彼は霧亥の敵であり、霧亥はそういったものに一切容赦はしない。
何かを始めようとして、そこまでで男の行動は終わった。
霧亥はゆっくりと銃をホルスターに戻す。
男の上半身は地面に落下し、下半身は激しく痙攣しながら跪く。
ギーシュのときとは違い、出力を下げ、照射時間を延ばした射撃は、一瞬で胴体の中心を横薙ぎに蒸発させる。
男は息絶えることも反撃することもかなわず、声を殺して数秒呻いて事切れた。
裏通りであったことが幸いし、廃棄物にまぎれた死体に人は気づいていない。
男が全力で距離をとろうとしていたというのに、ゆっくりと歩いてやってきた霧亥と遭遇するのに300秒も無かった。
一体彼らが何者であるのか、学院で可能な限りの広範囲の情報を集めていた際には、こういった事態の兆候は伺えなかったので見当も付かない。
排除するか尋問するか…霧亥は前者を採った。
後はもう幾つか気になる影があったが、まずはルイズのほうを監視していたもう一つ。
魔法が作用した建築物などによって視覚が遮られる可能性はあるが、十分に経験を積んだ霧亥は、もう自分の銃の位置を見失うことも、敵性体を見逃すことも無い。
位置さえ分かれば、すでに自身は追跡者たちの知覚領域から完全に外れているので、気づかれずに接近するのは楽なものだ。
次はルイズと同程度の成長度合いの女性体である。
身体能力的には何の障害もあるまい。
ルイズに接触し、何やら会話をした後、一旦離れて近くの廃屋の一室に侵入しようとしている。
接触時には言語野の活性化が見られた以外、好戦的とも危険とも取れる兆候は無かったので、壁越しの射撃は取りやめる。
霧亥は、少女の向かう廃屋の窓際に立ってタイミングを計ると、中に手を突っ込んでその少女を引きずり出した。
「―――っ!?」
何かを言う前に、霧亥は銃口を突きつける。
「まって、話なら………」
対象が有機体である、といった様なあまり意味の無い情報に混じって、先ほどの男との関係をうかがわせる情報の数々が入り込んでくる。
話を聞くのも悪くないが、聞き出せそうなことはほとんど“視る”ことが出来たので、もうどうでもよかった。
隠し持った武器を取り出される前に、霧亥はその頭部を蒸発させ、直後につかんだままの手を大きく振って、家屋の間に詰め込む。
騒ぎを起こされてはたまったものではない。
ただすでに関係者はこちらの動きに感づいたようだが…二つの影が合流している。
何れも武器を帯びていることは疑いようがなかった。
呼応するように、霧亥はまたゆっくりと歩き出す。
壁越しに見える敵性体二つを走査しながら、再び手ごろな路地裏に踏み込む。
進路を塞いだ四足歩行動物を手で掴んで抛り棄てたところで、その二人が現れる。
両脇の建物の影から一人ずつ。
「ジャネットとジャックを殺したな? この元素の兄弟を二人か、見事なものだ」
それが自分の殺した二人の名であることは、霧亥にも理解できる。
お互い、先ほどからの流れは把握できているらしい。
言葉こそ交わしていないが、今回はある意味双方同意の上でこの場に居合わせたことになる。
少しは話が出来そうだ。
外観年齢は幼いが、抗老化処置を施したのか、あるいは遺伝的特徴か、少なくとも脳の大脳皮質を見るに、十年そこらではない情報が蓄積されている。
「ダミアン兄さん、殺そう………」
それに比べると、もう一人はまともな交渉が出来ないほどの興奮具合だ。
「黙っていろ、ドゥドゥー………お前が東方から召喚されたことは確信できた。俺たちと来るんだ、こっちなら、お前の帰還にも協力できるはずだ」
見返りは貰うが、とでも言いたげである。
実際、彼の脳内のニューロンの発火は、間違いなくそうだと語っている。
とても信用できたものではない。
そして、彼らが今まさに自分の存在を確認し、密偵の類である彼ら以外の誰にもいまだに知らせられていないということも、また語っている。
なら問題ない。
とくに向こうが優位であるわけでもないなら、こんな急場の交渉などせずとも、ここを凌いでゆっくり後日対処すればいい。
こうも自信に満ち、高圧的な要求が出来る理由は知りたかったが、霧亥を“東方”とやらから拉致された人間であるという認識と同じように、誤った見かたから来るものだろう。
「………交渉は決裂かな? だとすれば、兄弟の敵くらいは討たせてもらうよ。死体であっても、向こうのと一緒なら価値は十分だ―――」
四人の指揮官であるダミアンは、ルイズのほうを向いて自身ありげに鼻を鳴らすも、明らかに焦っていた。
こうなってしまっては、身柄確保などではなく、この男を殺したとしても召喚者だけでも手に入れねばならない。
正しく事態を理解できていない彼や、彼の多くの上司にとっては、哀れにもハルケギニアに引きずり込まれた“被召喚者”よりも、“召喚者”の持つ素質のほうが重要なのだから、別に問題は無い。
だが、被召喚者の男一人に、自分たちのほうがまるで狩り出されているようではないか。
それにこの男は、東方から召喚された、というようなあらかじめ聞かされていた代物とは明らかに次元が違う。
ダミアンは、密偵としてこの町に送られる前のことを思い出す。
当初の想定では、それらしいものを見つけては、ゆっくりと遠巻きに観察して集めた情報を上司に送り、精査した上で正当な手段とは言えずとも穏便に身柄を確保。
不測の事態が発生しても、たかが異国から召喚されたというだけの一人の人間であり、自分たちの実力を思えば問題ないはずだったのだ。
これが極めて甘い目論見である可能性など、考慮されるはずもなかった。
「―――あの二人のように行くと思っているのか?」
霧亥から見ても、一頻り悩んだ目の前の敵が戦闘において無駄となる思考を捨てたのが分かった。
攻撃が始まる。
ダミアンは、刺突剣を抜き取るのに併せて巻き起こされる強風を背に強烈な踏み込みを行うと、剣を杖代わりに、あらかじめ準備しておいた魔力の塊を霧亥に叩き付ける。
彼らの基準でいえば、即死級の一撃。
霧亥は顔色一つ変えずにそれを胸と腹で受け止め、銃に手を伸ばす。
「ドゥドゥー!!」
呼びかけに応じ、すでに詠唱を終えて機会をうかがっていたドゥドゥーが、ぎりぎりでダミアンが巻き込まれない角度から電流を放つ。
閃光とともに接近する電子の群れを、霧亥はその左腕で防ぐ。
電気的な攻撃で霧亥に打撃を与えるのは、不可能に近い。
もし仮に、魔法と呼ばれるシステムを最大限に利用して大電力を生成し、正確に霧亥へ空中放電することが出来たとしても、吸収し、都市であれば然るべき施設へ転送可能だ。
もちろん、そのエネルギーを重たい粒子の加速などに利用すれば、キリイの身体を破壊することも可能だが、そのような技術は持ち合わせていない。
霧亥が全身鎧姿とはいえ、ドゥドゥーが自分や味方を巻き込む覚悟で放ったライトニングは、腕の給電板から体内に難なく吸収された。
「化け物め!!」
いずれにせよ、受け止めた霧亥の隙は重要だ。
それを霧亥が、大したものではない、として慌てていなかったことなどは知らず、ダミアンは刺突剣を大きく振り上げる。
「ブレイド―――!!」
魔法で奇妙な力場を纏わせた細長い鋼の塊は、霧亥の予想を反して、突き刺すのではなく叩き付けるのに使われた。
狙いは首筋。
合板鎧であっても、隙間も狙わず切り裂ける一撃は、もう防ぎようが無いはずである。
あと少し、というところで、信じられないことに刃は止まった。
それはダミアンに命運尽き果てたと思わせるに足る光景だった。
霧亥は銃から離した左手を使って剣を握り締め、へし折る。
間合いを取らずに、すかさず次の一撃を出したのは、霧亥ではなくダミアン。
杖を魔法で剣のようにして、至近で突き刺す、相手の予期せぬ位置からの必殺の一撃であるはずの、いわば奥の手。
一見成功したかに見えるほど、この光の剣は霧亥の腹部にきれいに命中した。
だが、突き刺さってはいない。
霧亥は自分に差し出されたダミアンの左腕を、千切れんばかりに捻り上げると、そのまま壁に叩きつける。
「………ッ!!?」
壁が陥没し、ダミアンは脊椎を損傷。
痛みも感じず、声帯を振るわせることも出来ない。
この地面に崩れ落ちる前の一瞬、空中で横たわっている間に、すかさず霧亥の拳が驚異的速度で突き出され、その顔面を粉砕する。
霧亥に視線を向けることも適わなかった。
「イル・ウィンデ!」
音声入力。
大気の流動が、逃走の補助のためのものであることが容易に想像できる。
ここで殺さなければ、いずれこの様な状況が再び訪れるのだが、明らかに非合法な活動を行っていたあの四人組は、公的機関で然るべき手続きを踏み、公の場で霧亥と接触できない者たちではなさそうだ。
おまけに、霧亥のとった予想外の行動で、所属する組織本体との連携は取れていないようなので、口封じが出来なかったとしても、大きな危険が降りかかるとは思えなかった。
また、そのこととは別に、人目が集まり始めたことは、別の問題も呼び起こす。
霧亥はこの世界の情勢についての知識はろくに無いので確証はもてないが、この騒ぎの関係者として認知され、トリステイン内での立場を悪くすることのほうが問題ではないだろうか。
とりあえず、逃げた一人を殺すのは後回しにして、霧亥はその場を去ることにした。
ルイズを放置していることも、あまり良いことではない。
突風で巻き起こる砂埃を利用して、素早く建築物の合間を縫って広めの通りに出ると、人々の目線は霧亥より、ついさっきまで戦闘が行われていた場所に向いている。
「貴族の喧嘩か」といったような憶測が飛び交う中を、霧亥はルイズの姿を膨大な人影の情報から探しだし、余裕たっぷりに歩いていく。
先ほどの襲撃者の最後の一人の位置は把握しているし、詳細は掴めずとも、誰かと接触すればすぐに分かる。
もし仮に、致命的に状況が悪化するなら、この集落ごと“撃ち抜いて”もいいと思わせる余裕も、今ならあった・・・

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