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ルイズと無重力巫女さん-42




トリステイン魔法学院。
朝の始まりとも言える一限目の授業が始まってまだ数十分しか経っていない程度の時間帯…
教室から少し離れた階段の踊り場に、痛い目にあっている黒白の魔法使いと不機嫌な桃色ブロンドのメイジがやってきた。

「全く、どうしてこう…アンタってヤツはすぐ目立とうとするのよ」
「そ…その前にまず私の耳を引っ張ってる手を離してくれよ。変な病気にでもなったらどうする」
耳を引っ張られて教室の外に連れ出された魔理沙に、ルイズは開口一番にそう言った。
しかしそんな事を言われた魔理沙はというと、ルイズの言葉を聞くよりも先に耳の痛みに気が向いていた。
ルイズはその言葉に従い、耳を掴んでいた手を放す。
ようやく耳を解放された魔理沙はヒリヒリと痛む耳をさすりながら苦々しい表情を浮かべた。
「イタタ…何だよたくっ、一体私が何をしたっていうんだ?」
「何をしたですって…?アンタがあの装置を゛魔法゛で動かそうとしたから止めただけよ」
苦言を漏らす魔理沙に、ツンとした表情でルイズはハッキリと言った。
その言葉の意味が良くわからないのか、魔理沙の顔には怪訝な表情が浮かんだ。

「だってあの装置は、コルベールが言うところには魔法でしか動かないんだろう…?だったら魔法を使うしかないぜ」
「―――じゃあ一つ聞くけど。貴方は魔法を使うときに゛杖゛を使うのかしら」
「杖だって?残念ながら幻想郷じゃあ杖を媒介にして魔法を使う魔法使いの知り合いはいないな」
ルイズにとってはある程度予想していた魔理沙の言葉に、「やっぱり」と呟いて溜め息をついた。
「マリサ。この前オールド・オスマンと話したときに彼がなんて言っていたのか忘れてない?」
「オスマン?…あぁそういや異様に長い白髯の爺さんと話したっけなー……で、それが何なんだ?」
「オールド・オスマンはこう言ってたわ―――」

―――良いか皆の者よ?今日の話は他言無用で頼むぞ。
     迂闊にも誰かに話せばたちどころに広がるからのぅ。そこらへんには気をつけるのじゃ――

「――…無論。ミス・ヴァリエールの後ろにいる二人もな」…って言ってたでしょう?その言葉の意味、わかるかしら?」
「おぉ!中々そっくりじゃないか。声真似大会に出たらベスト10間違い無しだぜ」
「そ、そう…私ってそんなに似てるかしら?……ってそういう事じゃない!!」
老人独特の、しわがれた声を瑞々しい少女の声で真似ながらもルイズは言った。
しかし魔理沙は、オスマンの言っていた言葉を思い出したことよりも、ルイズの声真似に感心していた。
そんなルイズに怒鳴られつつも、魔理沙は悪戯がばれた子供が浮かべるような笑顔を浮かべる。
「悪い悪い…つまりアレだろ?つまり「自分の事を話すな」って事だろう?それなら私の魔法を見せても…―――」
「わかってない…わかってないわマリサ…」
目の前に出された答案用紙の答えを全て知っているかのような感じで、魔理沙は自信を持って答えた。
だが、その回答は桃色ブロンドの小さな教師が想定していた回答ではない。
「良い?レイムはともかく、貴方はここでは゛幻想郷出身゛のマリサじゃなく、゛ハルケギニア出身゛のマリサなのよ…つまり――」
「…つまり?」
そこで一息入れると、ズイッと自身の顔を魔理沙の顔に近づけると、口を開いた。

「ここで゛ハルケギニア出身゛である筈の貴方が、ここで゛ハルケギニアにある魔法゛ではなく…
                  ゛ハルケギニアにない魔法゛を見せたら、否が応でも目立ってしまうということよ」

目の前にいる黒白にハッキリと認識させるために、ルイズは強い口調でそう言った。
まだ魔理沙の魔法を見てはいないルイズであったが先程の「杖を使わない」という言葉を聞き、連れ出して良かったと内心思った。

ハルケギニアにおいて魔法というのは、一般的に゛杖゛を用いて発動させるものである。
それ以外の魔法と言えば先住魔法があるのだが、これは自分たち人間の敵であるエルフや亜人達の力だ。
もしもあのような広い教室で、魔理沙が゛杖を使わず魔法を発動゛すれば…たちどころにその話は学院中に伝わる。
下手すれば吸血鬼か何かだと勘違いされ、魔理沙どころかルイズや霊夢にも危害が及ぶかも知れないのだ。
そうなればルイズの家にも迷惑が掛かるし最悪お家潰しにもなりかねない。

ルイズは同学年の子達と比べれば頭の良い部類に入る。
だからこそそこまでの事を見越して、魔理沙の゛魔法゛を皆に見せまいと教室から出てきたのだ。

「――なら、そこは言いようだな」
「…へ?言いよう?」

しかし、そんな彼女の傍にいる黒白の魔法使いは、頭の回転が速かった。
そして他人の言葉を、自分に都合良く解釈してしまうほどの機転の早さも持ち合わせている。
最も、それは霊夢を含めた幻想郷の住人達の大半がそうなのであるが。

「あぁ、もしも私の魔法を見て、アイツ等が何か言ってきたら…こう言ってやるさ」
魔理沙はそう言うと頭に被っていた帽子を外し、クルリと裏返すと帽子の内側に入っていた゛八角形の置物゛を取り出した。
表面にはルイズの見たことがない文字が幾つも刻まれており、真ん中には小さな穴が開いていた。
それは霧雨魔理沙という人物を語るには必要不可欠な道具であり、また彼女を象徴する物である。

「…これは貴方達がかつて見たことのない。新しい魔法です―――ってね?」
魔理沙はそう言って、手に持った「ミニ八卦炉」を両手に持ち、ルイズの方へ向けた。
そして全く予想していなかった言葉に唖然とした表情を浮かべている彼女に対して、「バン!」と大きな声で叫んだ。

数秒後、ルイズの拳が「ドガッ!」という大きな音を立てて魔理沙の額に直撃した。



それから数十分後…
授業を再開して暫く経ったとき、ルイズだけが教室に戻ってきた。ハンカチで右手を拭きながら。
「み、ミス・ヴァリエール…」
「授業中の退室、申し訳ございませんでしたミスタ・コルベール」
落ち着いた様子で授業の最中に退室してしまった事を謝ると、そさくさと自分の席に座った。
彼女の顔には何処か憑きものが落ちたかのような、嬉しそうでスッキリとした表情を浮かんでいる。
近くにいた生徒達は、彼女の様子を見て何かを感じ取ったのか冷や汗を流していた。
もう気づいているのだろう、今のルイズに漂うひとつの゛疑問゛…
 ゛本当なら、ルイズと一緒に教室に戻ってきている人間がいない゛という疑問に。

だが、人としてはまだまだ幼い生徒達はその疑問に触れることを避けた。

何でか知らないが、今のルイズにはその事を聞かないでおこう―――

生徒達は言葉を交えずとも、それぞれの意見は驚くほど一致した。
しかし悲しきかな、世の中にはその場の雰囲気的にやってはいけない事をついついやってしまう人がいる。
誰が望まずとも、所謂゛空気の読めない人゛というのはいるものだ。

ルイズが落ち着いた様子で席に座ったところで、ふとコルベールが口を開いた。
「あの、ミス・ヴァリエール。…ミス・マリサは…?」
空気が読めなかったコルベールの言葉に、ルイズは笑顔で応えた。

「彼女は居候の身分で失礼な事を口にしたので鉄拳制裁の後、今は私の部屋で頭を冷やしていますわ」


平日は授業がある為か、生徒達の暮らす寮塔は恐ろしいくらいの静寂に包まれる。
時折モップとバケツを持った給士達が床の掃除をしにくるだけで、後は授業が終わるまで誰も来ない。
窓から日差しが入るお陰で廊下はそれなりに明るいのだが、逆にその明るさは不気味さを醸し出していた。
まるで住む者達がいなくなった廃墟のような、朧気な切なさと儚さが立ちこめていた。

そんな場所と化していた女子寮塔の廊下に、景気よい靴音を響かせて歩いている霊夢がいた。
彼女は何処か暇そうな表情を浮かべながらこの世界の住処であるルイズの部屋へと向かっている。
ついさっきまでは最近手元に戻ってきたデルフリンガーという喧しい剣がいるので部屋に戻ろうという考えは浮かばなかった。
しかしいざ外へ出てみると今日に限って自分の暇をつぶせるものがなく、それならばあの剣とお喋りしていた方がマシだと思ったのである。
「ホント、廊下っていうのは誰もいない時に限って酷く殺風景よね」
ひとり呟きつつも、霊夢は窓から入ってくる陽の光に目を細めた。
どの塔もそうであるが、廊下には控えめであるものの装飾はされているが、何処か殺風景な雰囲気を漂わせていた。
その原因が薄暗いせいか、はたまた大理石の床が冷たい所為なのか、そこら辺の所は良くわかっていない。
だが廊下というのはどこもそうなのではないか?霊夢はそんな事を考えつつルイズの部屋の前にまで来ていた。

恐らくもう百回近くは回したであろうドアノブを捻り、霊夢はドアを開けた。
ドアはキィー…という音も立てずすんなりと開き、なんとか三人くらいは暮らせそうな部屋へと続いていた。
服を入れる大きなクローゼットや箪笥に鏡台、来客用の大きなソファーと丸テーブルと椅子もある。
暖炉には火が灯っていないものの、開けっ放しにされた窓から入ってくる日差しが暖かいのでどうということはない。
その窓の近くにはこの部屋の主には大きすぎるベッドが置かれており、寄り添うように大きめの旅行鞄が二つ放置されていた。
更にその鞄の傍には多数の本が小さな塔を三つほど築いている。

そこは正に、霊夢にとって見慣れた部屋であった。たった一つを覗いて―――

「ただいま~……ってアレ?」
ドアを開けて部屋の中に入って霊夢は、この部屋よりもずっと見慣れている人物がベッドの上で寝ている事に気が付く。
よく神社に足を運んでは頼んでもいないのにやたらと話し掛けてきてお茶をタダのみする自称普通の魔法使い。
時折スペルカード対決を挑まれては返り討ちにしたり、逆に自分を倒してしまうほどの黒白の魔法使い。
たまに鬱陶しいと感じてしまうが、それでもまぁ一緒にいるのも悪くないと思ってしまう魔法使いの霧雨魔理沙。

そんな彼女は、ベッドの柔らかいシーツに体を沈み込ませるかのようにうつ伏せになって倒れていた。
どんな表情を浮かべているのかわからないが、少なくとも息はしているのか体が上下に動いている。
いつも頭に被っている黒いトンガリ帽子は箪笥の上に置かれており、窓越しの直射日光を浴びていた。
「なんで魔理沙がここで寝てるのかしら?」
予想だににしていなかった人物の思わぬ予想外の登場に、さしもの霊夢も目を丸くしていた。
しかし霊夢の言葉はもっともであった。何せ今の時間帯なら魔理沙はこの部屋にいない。
この世界に来てからはルイズについていって授業を見ているし、今日も同じ筈だ。
だから霊夢は二つある喧しい要因の内一つがいないこの部屋に戻ったのだが…これはどういうことか?
これを考察するために、霊夢が考え始めようとしたとき、あの゛剣゛が声を掛けてきた。

『おぉっ!戻ったかレイム!今まで何処にいたんだよ?オレっち寂しかったぜ!』
ベッドで倒れている魔理沙の腹の方から、あのだみ声がくぐもって聞こえてきた。
早速気づいたか…溜め息をつきつつ内心呟いた霊夢は魔理沙の方へと近寄る。
そしてフカフカのベッドで寝ている彼女の体を遠慮せず、思いっきり両手でひっくり返した。
うつ伏せから仰向けになった魔理沙はその顔に若干の苦痛を浮かべている。
恐らくルイズ辺りに思いっきり殴られたかして気絶したのであろう。額に大きなタンコブが出来ていた。
しかし今の霊夢にはそんな魔理沙より、その魔理沙の体の下にあった剣に話があった。

「ねぇデルフ、早速アンタに聞きたいことがあるんだけど」
帰ってきた霊夢の第一声に、デルフは詳しく聞くまでも無く、こう言った。
『マリサの事だろ?お前さんが帰ってくるずいぶん前に二人のメイドさんが運んできたんだよ』
「ふぅん…で、この黒白がなんでこうなったのかそのメイドは言ってなかったの?」
霊夢の問いに、デルフは鞘に収まった刀身をカチャカチャと音を立てて左右に揺らした。
『いんや別に…けど二人いた内の金髪メイド、首に聖具をぶら下げてたな…ったく』
そのデルフの言葉の最後には、何処か忌々しい雰囲気があるのを霊夢は僅かに感じ取った。
まるで親の仇を目にしたかのような、一見すれば他人には良くわからない小さな憎しみ…

「あんた、宗教ってのが嫌いなのかしら?人間じゃない癖して」
直球過ぎる霊夢の言葉に、デルフはその刀身を激しく揺らしながら応えた。
『あたぼぅよ!何せ連中ときたら、録にブリミルの事も知らないでアイツを崇拝してるのさ。それがもぉ、イラっとくるんでぃ』
何処か江戸っ子ぽい口調のデルフに、霊夢はすかさず言葉を入れる。
「そのブリミルってのは数千年前の人間でしょうに?そんなに固執しなくてもいいんじゃないの?」
『お前さんは知らないのさレイム。ブリミル教の連中は、アイツの名を看板にして今までヒデェ事を沢山してきたんだ!』
熱を多量に含んだデルフの弾幕トークに、霊夢は軽い溜め息をつきつつもこう言った。


「…そんだけ喋ってりゃあ、物忘れが激しくなるのも納得ね」
『あぁ?どういう意味だよ?』
彼女の口から出たその言葉に、デルフは思わずそう聞き返してしまう。
それ対し霊夢は、呆れたと言いたげな表情を浮かべながらデルフへ向けてこんな言葉を送る。
「我を忘れて喋りまくってると、文字通り自分のことすら忘れちゃうのよ」

ガンダールヴやブリミルの事を、殆ど忘れちゃったようにね

最後にそう言って、霊夢は大きな溜め息をついた。




一方、場所は変わってトリステイン王宮にあるアンリエッタの居室。
そこでは今、女官や召使い達が、式で花嫁が纏うドレスの仮縫いを行っていた。
アンリエッタ勿論、そこには彼女の母である太后マリアンヌの姿もある。
彼女は人生に一度あるかないかの大事な儀式にしか着られないドレスに身を包んでいる娘を見て、目を細める。
その瞳の奥では、麗しかった頃の自分を思い出しているのであろうか。
色んな物に興味を持ち、小さくも勇敢で頼りがいのあった若騎士を連れて、街へと出かけていた頃の自分を――

だが、それと対を成すかのようにアンリエッタの表情には陰りが見えていた。
まるで医師に余命を宣告されたかのような、何処か諦めているかのような、それでいて告げられた事実に抗うかのような表情。
縫い子達が、袖の具合や腰の位置などを尋ねても意識が混濁している人間のように、曖昧に頷くだけ。
そんな彼女の様子に気づいたかの、何人かの侍女や女官達がその顔に不安の色を浮かべている。

マリアンヌが、そんな娘の様子を見かねたのか、一時縫い子達を下がらせることにした。
「どうやら私の娘は長い仮縫いで緊張してしまったようです。少し休むことに致しましょう」
太后直々の言葉に縫い子達は素直に従うとそさくさと退室していった。
次に彼女は後ろに控えている女官達に向き直り、彼女らにも退室を促す。
「貴方達も立ちっぱなしで疲れたでしょうに。すこし下に行ってお茶でも飲んできなさい」
縫い子達と同じく太后直々の言葉に彼女らは素直に従い、部屋を出て行った。

こうしてマリアンヌとアンリエッタ、母と娘だけになったところでマリアンヌは自身の娘に話し掛けた。
「愛しい娘や。元気がないようね」
「母さま…」
沈んだ表情を浮かべたアンリエッタは、母の膝に頬をうずめた。
子供の頃のように、まだ夢と希望を小さな体に抱いて生きていた頃の事を思い出すかのように。
「望まぬ結婚だというのは、わかっていますよ」
その言葉に、アンリエッタ顔をうずめたまま首を横にある。
「そのような事はありません。私は幸せ者ですわ。生きて、結婚することが出来ます…それに」
アンリエッタそこまで言うと一息入れるとすっと立ち上がり、後ろへと振りむいた。
大きな観音開きの窓から空から降り注ぐ太陽の光が入り、二人の体を優しく包んでいる。
アンリエッタはその光に目を細めながら、再び喋り始めた。

「結婚は、女の幸せだと…母様は教えてくれたではありませんか」
もう一度振りむいて再び自らの母親と向き合ったアンリエッタは、泣いていた。
明るい調子であった言葉とは裏腹にその顔は曇っており、目にはうっすらと涙が溜まっていた。
そんな娘を見たマリアンヌは、泣き笑いのような表情を浮かべてアンリエッタの頭を撫でた。
「恋人が、いるのですね」
母の言葉に娘は首を横に振ることはなく、かといって頷くこともせず、静かに喋り始めた。
「『いた』と申すべきですわ。今の私は速い、速い川に流されているようなものです…。
 全てが私の手に納まることなく、通り過ぎていく…愛も、優しい言葉も、何も残らない」
今までずっと我慢してきていたモノを今ここで解放しているのか、アンリエッタの声は涙ぐんだものへと変わっていた。
マリアンヌはそんな娘の頭を撫でつつも、口を開く。
「恋ははしかのようなもの。熱が冷めれば、すぐに忘れますよ」
「忘れることなど…できましょうか?」
不安を隠すことすらしないアンリエッタの言葉に、マリアンヌの表情が若干厳しいものへと変わった。

「おなたは王女なのです。忘れねばならぬことは忘れなければいけないのです。
 あなたがそんな顔をしていては、貴女の後ろにいる家臣達が離れていくことになります。」
母の口から出たその言葉に、アンリエッタはハッとした表情を浮かべた。
「先々日の…内通者の事ですね」
「えぇ、枢機卿と幾人かの者達はこの事をなるべく穏便に済ませたいと考えてはいるようですが…
 此度の内通者は、間違いなくアルビオンの手先。奴等とは不可侵条約を結びましたが…それは偽りの契りだったのです」
マリアンヌの言葉を聞き、アンリエッタは何処かやるせない気持ちになった。


時間はルイズと霊夢がアルビオンから帰ってきた翌日の事――

ゲルマニア皇帝とアンリエッタの婚姻が正式に発表され、それに先立ち軍事同盟が締結された。
それから程なくしてアルビオンの新政府樹立の公布が為され、トリステインとゲルマニア両国に緊張が走った。
しかし王国から共和国に変わったアルビオンの新皇帝クロムウェルは、すぐさま両国に不可侵条約の締結を打診してきた。
両国は協議の末、この締結を受け入れる事にした。
ゲルマニア、トリステイン両国の空軍ではアルビオンの誇る空軍に太刀打ちすることは出来ないからだ。
のど元に短剣を突きつけられている状態で、納得のいかない不可侵条約であったが…。
それでも未だ軍備が整えきれていない両国にとって、この申し出は願ったりであった。

トリステインで、アルビオンの内通者が見つかるまでは…。


「ひとまず今回のことは被害が出る前に食い止められましたが、これっきりという事はないでしょう」
「…つまり、不可侵条約はアルビオンが私たちの前に差し出した釣り餌だと…いうのですね」
アンリエッタの苦々しい言葉に、マリアンヌは頷いた。
広い部屋にアンリエッタの思い溜め息が聞こえ、その表情も暗くなっていく。
冷たい沈黙が部屋に漂い始めた時、アンリエッタが喋り始める。

「母様、私は時々疑問に思うのです。…何故人はこうも、他人を騙す事が出来るのでしょうか?
 言葉を巧みに操って人を騙し、騙された人の事をなんとも思わぬ奴等は…どんな事を考えているのか…
  私には全く理解できません。何で助け合うという事ができないのでしょうか?」

アンリエッタの言葉に、マリアンヌはすぐさま答える事が出来なかった。
ただその瞳には、いいようのない哀しみと共に渇望の色も垣間見えていた。
若い頃の自分もこんな風に純粋であった――マリアンヌは心の中でそう呟く。
好きなモノには好きと言い、嫌いなモノには嫌いと言っていたあの頃の自分を、思い出していた。




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