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Mr.0の使い魔 第五話

 コルベールらと別れたクロコダイルは、そのままの足取りで上の階を
目指した。昨日見たのは学院長室までであり、それより上はまだ未踏の
地なのである。
 螺旋階段を延々上り、学院長室の前を通過。魔法がかかっているのか
中の音は聞こえなかったが、今頃オスマンはのんきに眠っているのだろ
う。忍び込んで宝物庫の鍵をかっさらうのも、そう難しい事ではないの
かもしれない。

「今は必要ないが、な」

 笑いをかみ殺し、クロコダイルはさらに階段を上る。途中にある部屋
の配置を脳裏に刻み込んでから、ついに塔の屋上へと到達した。穏やか
な風を感じながら周囲を見渡すクロコダイル。広大な平原、まばらに茂
る木々、遠くに小さく見える王都の街並。

(まだ、”前”のような力はない。だが)

「おれは必ず、この世界の全てを手に入れてやるぞ……!」


 Mr.0の使い魔
  —エピソード・オブ・ハルケギニア—

     第五話


「……ん?」

 しばらく外を眺めていたクロコダイルの頭上を、何かが横切った。上
を向いて目を凝らすと、空に一点だけ、色の異なる場所がある。それは
あっという間に大きくなって——一頭の青い竜が、彼の傍らに舞い降り
た。その背中にまたがる小柄な少女が、クロコダイルを指差す。

「見つけた」
「何だ、てめェは?」
「タバサ。あなたを探してた」
「何の為に「わたしじゃない。あっち」あん?」

 極めて簡潔に自己紹介と状況説明を終えたタバサは、手にした大きな
杖で下方を指し示した。つられてクロコダイルが視線を下げると、塔の
根元付近で一人の少年が手を振っている。

「ギーシュが探していた。見つけたら教えて欲しい、と」
「ふん、わかった。詳しい話はあの小僧から聞く」

 それだけ言い捨て、クロコダイルは全身を砂に変えた。思いがけない
出来事に唖然とするタバサとシルフィードをその場に残して、散り散り
になった砂が塔の横壁を流れ落ちる。

「きゅいきゅい、あんな魔法初めてなのね!」

 見た事のない”変身”に思わず喋ってしまうシルフィード。いつもなら
杖の一撃が飛ぶところだが、今回はさすがのタバサも驚愕でそれどころ
ではなかった。
 メイジの魔法にも姿を変化させる物はあるが、それはあくまで変装程
度だ。シルフィードの使う先住魔法【変身】は、周囲の精霊の力を借り
る為に使用にはある程度の制約がつきまとう。
 しかし、クロコダイルの場合はそのどちらでもない。無詠唱で、しか
も砂——生物ですらない——に肉体を変化させる魔法など、非常識にも
ほどがある。『砂への変化』という特性だけとれば土系統の【錬金】に
近いかもしれないが、【錬金】は自我を持つ存在に対しては全くの無力
だ。おまけに一方向への変化であるから、元に戻すには再び【錬金】を
唱えて上書きするしかない。だが、眼下の砂の渦は一点に集まり、人間
へと形を変えているではないか!

「……興味深い」
「きゅい、お姉さま、どうかした?」


 下で待っていたギーシュの驚きは、タバサの比ではなかった。目の前
に巻き起こった砂の渦、そして砂が集結してクロコダイルを形作った時、
思わず尻餅をついたほどである。

「何の用だ、小僧」
「は、はいッ!」

 ギーシュはさっと立ち上がって敬礼した。クロコダイルが不機嫌なの
は、肌を刺すような殺気から明らかだ。目的を成功させる為に、少しで
も誠意を見せて心象をよくしておかねばならない。

「じ、実は折り入ってお頼みしたい事が……」
「頼みだと?」

 眉根を寄せるクロコダイルの殺気が緩む。好機と見たギーシュは一息
入れて、あたりに響くほどの大声で叫んだ。

「不肖、ギーシュ・ド・グラモン!
 土を操るメイジとして、是非ともあなたの弟子にしていただきたい!」


「却下」

 考慮とか思案とか、そういうものを一切挟まずの即答であった。

「な、なぜです!?」
「面倒くさい」
「そんな! お願いします、どうか!」
「しつけェな……だいたい、どうしておれなんだ?」

 昨日喚び出されたばかりのクロコダイルには、弟子入りを志願される
ような理由が思い浮かばない。弱者が強者に教えを請う、あるいは取り
入って力を借りる、というのはどこの世界でも見られる光景だが、自分
はこちらに来て未だその実力を披露した記憶はなく、当然ながらコネも
ない。そんな奴を頼る人間は、よほど考えなしなのか企みを持っている
かのどちらかぐらいだろう。
 不信感を露にするクロコダイルに、ギーシュは慌てて説明を始めた。

「き、昨日の召喚の時、あなたは無詠唱で砂の魔法を発動しました。
 その威力は、実際この身に受けて思い知っています。
 また先ほどの砂への変化も、土系統ならではの変身魔法。
 これらの事から、あなたが土系統を得意とするメイジとお見受けした次第で。
 ぼくの系統も同じく土。腕は未熟ですが、あなたの魔法から少しでも学べればと……」

 ギーシュの弁舌を聞き流しながら、クロコダイルはようやく納得する
と共に、どう説明するか悩む事になった。
 といっても、勘違いに対する罪悪感云々ではない。この誤解を利用し
メイジとして喧伝するか、それともメイジでないと正直に告げるか。各
案のメリットとデメリットを照らし合わせて、どちらにするかを決めか
ねたのである。この世界に関する情報が未だに少なく、より有利な方を
選ぶという事ができない。
 一方ギーシュは、唸っているクロコダイルを見てさらなる勘違いを重
ねていた。自分を弟子にするかどうかで迷っていると思ったのだ。

「やはり実力ある人物に指導を受ける事で、自分の才能を研磨する。
 何事においてもそれが一番だと思うのです。
 ですから、土系統を扱うぼくは同じ系統のあなたに師事したく……」

 延々と口上を続けるギーシュ。
 クロコダイルは一通り聞き流していたが、次第に鬱陶しく、耳障りに
感じ始めた。ただでさえ判断に困る事柄を頼りない情報を元に吟味して
いるというのに、すぐ傍らで喚かれては決定などできるわけがない。

「うるせェぞ、小僧!!」
「わひッ!?」

 怒号とともに右腕が砂の刃に変わり、凄まじい勢いでギーシュの隣を
駆け抜けた。二十サントもずれていれば、華奢な体は真っ二つになって
いただろう。
 刃の勢いは背後の壁にぶち当たっても衰えず、甲高い音とともに本塔
を駆け上った。屋上に達したところでようやく斬撃が霧散し、後には下
から上まで一直線の細く深い爪痕が刻まれている。多重の【固定化】で
内側への浸透こそ免れたものの、外壁は薄皮一枚ほどの厚みしか残って
いない。屋上にいた竜と少女がひっくり返るほど、といえば、この一撃
の恐ろしさがわかってもらえるだろうか。
 あまりの威力にへたり込んだギーシュに、クロコダイルは憤怒の形相
で詰め寄った。

「いいか、おれはてめェを弟子にする気はない!」
「そ、そこをなんとか! 同じ土系統のメイジなのですから——」
「それがそもそもの間違いだ! おれはメイジじゃねェんだよ!」
「メイジじゃ、ない?」

 言い切って、内心「しくじった」と思った。激情に任せて『メイジで
ないと説明する方』を口にしてしまったのだ。今更言い繕う事もできず、
クロコダイルは諦めて正直に話す事にした。

「おれは元々普通の人間だった。この砂を操る力は『悪魔の実』を喰って得た物だ」
「悪魔の実? それは、どのような」
「喰った人間に特別な能力を与える果物だよ。
 おれはその中の一つを喰って、砂を操る『砂人間』になった」

 そこまで言い終わると、砂と化したクロコダイルの体が崩れ落ちた。
目を白黒させるギーシュの背後から、再び声がかかる。

「おれに魔法を教わろうってのはお門違いなんだ。諦めな、小僧」

 ハッと振り向いた先には誰もいない。乾いた風の中にただ一人残され
たギーシュはしばらく呆然としていたが——やおら立ち上がって拳を突
き上げた。

「ぼくは、ぼくは諦めないぞ! 必ず弟子にしてもらうんだ!」

 この後、音に気づいて飛び出したコルベールとロングビルに質問攻め
にされるのだが、それは今のギーシュの知るところではなかった。


   ...TO BE CONTINUED

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