あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

使い魔は四代目-05


リュオは返答に詰まった。そもそも、なぜメイドがドラゴンを探すのかわからないのだ。
どう見ても何の変哲も無い只のメイドだし、怯えきったその様子をみても「凶暴なドラゴン」を退治にきた一攫千金を目指す冒険者、という線は無いだろうが…
リュオは少し逡巡した後、浮かんだ疑問をそのまま返す事にした。

「あ~その… もし、その凶悪なドラゴンとやらを見つけたら、どうするつもりだったのかな?」
「そ、そしたら逃げるに決まってるじゃないですかっ!だって、ドラゴンですよ!火をボウって吐くんですよ!ドラゴンは!」
「…そうじゃな。じゃぁなんでドラゴンを探してたんじゃ?」
「いや、だって、危険が危ないドラゴンがいるならみんな逃げないといけないじゃないですか!だって、ドラゴンですよドラゴン!」
「……そうじゃな、ドラゴンじゃな。…要するに、もしドラゴンがいるならみんなと避難しないといけないから怖いけど確かめに来た、という事で良いのか?ちなみにそのモップは?」
「掃除中だったんです。もしもの時、素手だと心細いので…」
「………ええと、逃げる気だったんじゃよな?」
「当たり前じゃないですかっ!だって、ドラゴンですよ!重いぞ硬いぞしつこいぞのドラゴンですよ!」

メイドはこんらんしている!

「そりゃゴーレムじゃろ!あんな輩と一緒にするな!…はっ、いかんいかん。あー、まあ落ち着きなさい。
危険は去った。もうそのドラゴンはおらん。…わしが倒し…いや違うな。あー、その、何だ、なだめた?」

随分苦しい言い訳じゃ、とリュオは思わないでもなかったが、メイジで通すことにした矢先にいきなり正体をばらす様な真似はしたくなかったし、
メイドは見るからにかなりの興奮状態のようだからこれでも充分通用するだろうと判断した結果である。
仮に疑念を持たれたところでそのドラゴンはもういないのだから露見する心配は無い。多分。

「なだめたんですか!凄いです!どうやって!?」
「…えーと…なぁに、人もドラゴンも知的生物同士、誤解さえ解ければ案外上手く行ったりするもんなんじゃよ」
「す、凄いです!凄いメイジ様だったんですね!
あ、申し遅れました。私、ここでメイドとしてご奉公させていただいておりますシエスタです」
「む…わしはリュオ。ルイズの使い魔を今日より勤める事になった。しばらくここに留まる事になる故、これから世話になることもあるだろう。よろしく頼むぞよ」
「はい、よろしくお願いします!…え、使い魔?ええ、メイジ様が?」

ころころとよく表情の変わるメイドじゃなぁ、と微笑ましく思いつつ、リュオは今日ルイズに召喚されて使い魔になった、と軽く事情を説明した。勿論肝心な部分は伏せてある。

「ところでシエスタよ、いつまでもここにいて良いのか?仕事の方は大丈夫なのかな?」
「ああ、そうでした!わぁ、また怒られちゃう…くすん。…すみません。これで失礼します…」

先程までとは一転し、沈んだ様子で立ち去ろうとするシエスタが気の毒になり、リュオは呼び止めた。

「待つんじゃ、サボってたわけでもなし、叱られるのは気の毒じゃ。これも何かの縁、シエスタが何をしてたか証言してやろう」
「そ、そんな!悪いです。そんな事で貴族様の手を煩わせるわけには」
「これこれ、良いんじゃよ。わしが言い出した事なんじゃから…とは言っても納得してなさそうじゃな。じゃあこうしよう。
わしは今言ったとおり、今日ここに来たばかりでどこに何があるかさっぱりわからん。案内を兼ねて、と言う事で頼む。
ああそれと。わしは貴族ではないぞ。普通に接してくれるとわしとしてもそっちの方が楽なのじゃが」
「…分かりました。じゃぁ案内しますね。あ、行き先は厨房ですけどそれでも良いんですか?」
「かまわんかまわん。では、頼むぞよ、シエスタ」


文字通り駆け足で通り道上にある学院施設等をリュオに案内しながらシエスタは厨房へ戻った。
そして、手早く身嗜みを整えると、手を洗いながら声を張り上げる。

「すみません、マルトーさん!遅くなりました!」

その声に、厨房の奥の方から怒声が返ってくる。

「シエスタ!晩の仕込みで忙しいこの時にどこで油売ってやがった!早く手を動かせ!」
「は、はいぃ!」

夕食に向け数百人分の食事を用意すべくフル回転で動く厨房はまさしく戦場であった。シエスタも素早くそこに突入し、仕事を片付けていく。その凄まじさにリュオが気圧されていると、


「…おや、こんな所に貴族様が何の用ですかな?済みませんが、ご覧の通りの慌しさでして、手短にお願いしますよ」

先程怒声を上げたマルトーと呼ばれた恰幅のいい男がリュオに気付き、話しかけてきた。言葉遣いこそ普通だったが、彼の口調には明らかにリュオに対する嫌悪の響きがあった。
が、リュオには召喚されたときの生徒達の尊大な態度を見れば「貴族様」とやらが彼等にどんな態度で接しているのかは容易に想像ができたのでそれは当然の事と受け止めた。

「ま、そう言うでない。わしは貴族じゃないぞよ。毎日生意気な小童どもの相手でうんざりするのは分かるがそう邪険にしないで欲しいのぉ。
それにシエスタはすぐ近くに凶暴なドラゴンが出たという話を聞いたので確認しに行ったんじゃ。本当にいたらすぐに逃げねばならんじゃからな。むしろ大した勇気だと褒める所じゃないかね?」
「…シエスタ、そうなのか?」
「…はい。でも大丈夫でした。このリュオ様がドラゴンをなだめて追い払ったそうですよ」
「…なだめた?」
「…うむ。まあ、その、そういう事じゃ。じゃからそのドラゴンはもう立ち去った。危険はもう無いぞよ」
「へぇ、こいつぁ驚いた!…にしても、その割にはここはいつも通りでしたがね。普段大口叩いてる貴族様は何をしていたんですか?」
「…あー、なんと言うか、その場にいた連中は腰を抜かすものが大半でのう、まるで使い物にならん。まあお子様には刺激が強すぎたな。
結局、わしが事態を収めた。その上にほれ、連中はプライドだけは高いじゃろ。無様を晒したなんて自分から言えやせんわ」

あの場にいた者の殆どがまともな行動が取れる状態でなかったのは事実だし、事態が収まったのはリュオが冗談だと明かして人間の姿に戻ったからである。
だから、リュオが事態を収めた、と言っても嘘ではない。色々と肝心な事実―そもそもは茶目っ気を出して正体を披露したせいだ―をすっ飛ばしているが。


「ああ、だからこっちまでは伝わってこなかったのか…いやすまねぇリュオさん。シエスタが世話になった上に恩人にぞんざいな態度をとっちまった。シエスタもだ。悪かった。」
「気にしないでください、マルトーさん。私も様子を見に行く前に一言言っておくべきだったんです」
「わしの事も気にせんで良いぞ。わしとて、生意気なだけの貴族連中とは関わり合いになりたくないからのぉ、無理もないわ」
「全くだぜ。…しかし、その格好、本当に貴族様でないんで?」
「まぁ、見た目どおりに魔法は使うがな。貴族ではない。わしのいた所じゃ魔法使い、ってのはただの職業じゃ。
お主がコックやってるのと同じ感覚じゃよ。大体、今のわしはルイズの使い魔じゃ」
「すげぇ…」
「ん?何がじゃ」
「いやだって、リュオさん。あんたは魔法が使えて、しかも凶暴なドラゴンを宥めて追い払うような実力を持ちながら決して奢った所が無い!
おまけに平民のシエスタを気遣うその寛大さ!貴族崩れのように荒んでもいない!見たかお前ら!
これが真の達人ってやつだ。聞いてるかお前ら!達人は決して己を誇らない!」
「聞いてますよ親方!達人は誇らない!」

マルトーが振り向き大声を張り上げると、それに答えて厨房のコックが一斉に唱和した。どうやらこの厨房を仕切るだけあって、中々に人望はあるようだ。

「はっはっは、いや、そんな、大げさな、なぁ」

若干引きつった笑いを浮かべるリュオに構わず、マルトーは逆に盛り上がっていくのだった。

「いや、そうやって謙遜するところがまた凄い!そうだ!あんたは今日から『我らの杖』だ!」

 「我らの杖」の称号を手に入れた!

「わ、我らの杖?」
「シエスタ!感謝と敬意の印だ。アルビオンの古いのを持って来い!出し惜しみ無しだ!」
「はい!リュオ様、今上物のワインをお出ししますね、座ってお待ちください」
「…いや、別に、そんな、気遣わんでも良いのじゃが…それに、その、何じゃ、今は忙しいんじゃぁ」
「かぁ~この気配り!さすが『我らの杖』は違う!なぁに、これ位で支障が出るようじゃ魔法学院のコック長はとうてい勤まりません!
ささ、こちらへ。こっちの事は気にせずにくつろいでください。さぁシエスタ、つまみを出すんだ」
「おつまみは最初はチーズでよろしいですか?種類は色々取り揃えておりますから、好みの味があるなら遠慮なくお申し付けくださいね」
「…う、うむ…」

心酔しきった眼を向けるマルトーと、晴れやかな笑顔でワインをグラスに注ぐシエスタを見比べて、もうどうにでもな~れ、と、リュオは半ば自棄になりつつ座った。飲み込んだ溜息の味は、とても苦かった。



授業を終え、部屋に戻ってきたルイズは、部屋に漂う芳香に気付くなり、眉を顰めた。

「今戻ったわ。…何この匂い。昼間っから飲んでたの?」
「ルイズか…ふぅ、酒では酔えんかったが善意に悪酔いしてな…」
「…何よそれ、全然分からないんだけど」
「気にせんで良いぞい。ああ、酷く疲れたわい…」
「え、そんな遠くまで出歩いてたの?」
「いや、そうじゃなくて.な…はぁ、まぁいいわい。さて、色々決める事もあるんじゃろ。それじゃ、早速始めるか?」
「んー、そうしたいところだけど…。ちょっと間を置きましょ。私だって、一息つきたいし、今日の復習もあるし、
…そもそもあんたが酔いを醒ましてからでないとね。色々決めたは良いけど酔ってて何も覚えてません、ってのは勘弁よ。
…ったく、なんで使い魔になっていきなり一人で飲んだくれてるのよ…」

ぶつぶつ呟き始めたルイズに対し、リュオは全く酔っておらんのじゃがなぁ、
と若干遠い眼をしながら思ったが、この状況で何を言っても説得力が無いのは分かっていたので口には出さなかった。

そんなリュオを見ながらその後もしばらく愚痴り続けていたルイズは、やがて、気を取り直したか、あるいは諦めたか、
ともかくも日課である復習の為ノートを取り出し、開くとすぐに黙り込み没入していった。その自然な様子に取り繕った所は一切無く、この事が習慣と化していることをリュオに伺わせた。
真面目な努力家である事は間違いないようだ。
あの時、コルベールが必死に食い下がってきたのも頷ける、これだけ熱心ならいずれ魔法が使えるようになるんじゃないか?
とリュオは思いつつ、集中しているルイズの邪魔にならないように黙して見守っていた。

そのまましばしの時間が流れると、ルイズを見守っていたリュオの表情が、突然怪訝なものに代わり、扉の方を振り向いた。そして、少しあってノックの音が響き、扉越しに声が掛けられた。

「失礼します、ロングビルです。ミス・ヴァリエール、学院長より頼まれた倉庫の備品の目録をお持ちしましたが」

その声に、ルイズは復習の手を止め、伸びをすると、立ち上がりつつ答えた。

「今開けます。少し待ってください、ミス・ロングビル」
「ありがとうございます、ミス・ヴァリエール。さて、こちらが倉庫の備品の目録となります。不完全な物ですが、それでも良いという事でしたので…」
そこで、ルイズに目録を手渡すと、ロングビルは言葉を切り、リュオに向かい礼をした。
「始めまして、リュオ様。私はオールド・オスマンの秘書を勤めさせていただいているロングビルと申します。
リュオ様のことは学院長から聞きましたわ。何か御用がありましたら遠慮なくお申し付けください。それでは失礼します」

と、簡潔に用件を済ませ退室していった。

「聞こえてたわよね?はい、目録よ。何か気になる物はある?」
「…む、これは…」
「な、何?何なの?」

リュオは、ルイズに手渡された目録を眺めつつ、まるで別の事を考えていた。それは、かつてカインに引き合わされた一人の男の事であった。
その男の名は、リオス。かつてムーンブルクでならした盗賊である。盗賊でありながら飄々として、抜け目無くもどこか憎めないこの男は、奇妙な縁で何度かカインの手助けをしている。
そのリオスと、今会ったばかりの秘書、ロングビルに似ている所があるのだ。
部屋に近づいてきた時の足音―というか気配―を殺した歩き方とか、身のこなしとか、注意の配り方とか、そういった諸々の事が。
と、いう事はこのロングビルという女、かなりの食わせ者かもしれぬ。

…どうやら、この学院も色々波乱がありそうじゃなぁ、何事も無ければ良いのじゃが…

そう思ったが、口にしたのはまるで別の事だった。

「…済まぬ。字が全く読めん」
「…あ、あのねぇ…」

思わせぶりな態度にルイズは思いっきり脱力するしかなかった。


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