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三重の異界の使い魔たち-07a


~Extra Episode 流れゆく伝説~

 ムジュラの仮面は、完全に追い詰められていた。
 紅蓮の炎も、高速の疾走も、連続の魔力弾も、眼前の少年剣士には通じない。どんな攻撃を
仕掛けようとも、この剣士はあっさりと活路を見出し、逆にこちらへダメージを与えていくのだ。

 歯が立たない。
 現状を表すべきその言葉に、ムジュラの仮面は内心唖然とする。たかだか12か13を数えた
ばかりだろう少年に圧倒されている事実に、屈辱よりも驚きが優っていた。それでも、相手の
強さへの恐れはない。そもそも、魔物、魔族は極端に恐怖心が薄い。相手が自分より強いと
しても、迷うことなく襲いかかるのがモンスターという存在だ。
 だから、今心にあるのは、恐れや怯えではない。

 宙を飛んで間合いをとり、ムジュラの仮面は鞭を剣士へと放つ。しゃにむに繰り出す鞭の
嵐は、しかし剣士の構えた盾に全て防がれてしまった。それどころか、こちらの攻撃の隙を突き、
剣士は弓矢を射てみせる。飴色の光を纏った魔法の矢がムジュラの仮面に突き刺さり、得も
いわれぬ激痛が全身を貫いた。

 その戦いの最中、ムジュラの仮面は一切の恐怖は感じていなかった。今まさに命の危機が
迫っているのだとしても、そこに恐れはなかった。

 あるのは、ただ妙な落ち着きだけ。

 視界に、剣を構えて向かってくる少年剣士の姿が見える。こちらが放っていたトゲ付きのコマを
避けながら、こちらへ突進していた。一方、ムジュラの仮面は剣士の放った魔法の矢のダメージが
抜けきれず、まだ動けそうにない。そして、次にあの剣士から一刀でも受ければ、恐らくそれが
止めの一撃になるだろう。

 それを理解しながらも、ムジュラの仮面に焦りはなかった。最早抵抗もできない身体では
あったが、何故だか心は静かだった。

 眼前で、少年剣士が刃を振りかぶる。それを見据えながら感じていたことは、ただこれで
終わるのだという、その一点だった。



 ムジュラの仮面程の力を持ったモンスターが、1度倒されただけで果たしてそのまま滅びるのか
ということに関しては、特に考えることもなく――



 戦いは終わったようだった。離れた位置からそれを確認すると、ムジュラの仮面を闇の封印から
解いた張本人、しあわせのお面屋は一息ついた。どうやら、あの少年剣士はムジュラの仮面を
子鬼から取り戻すという約束を守ってくれたようだ。
 見れば、その少年剣士は仮面を盗んだ子鬼や妖精2人とともに、なにやら談笑しているようで
ある。それを少し微笑ましく思いながら、紫の衣をまとったお面屋は少年たちの許へ歩み寄って
いった。ムジュラの仮面を返してもらわないといけない。
 と、その途中で、お面屋は足許に転がっているものに気が付いた。少年に敗れたムジュラの
仮面が、無造作に放られていたのである。
――一応、ワタクシのものなんですがねえ
 思わず苦笑が漏れる。これが月の墜落騒ぎの元凶であることは承知しているが、伝説の呪物を
打ち捨てたままにしておくとはなかなかの罰当たりぶりだ。
 苦笑いまじりにムジュラの仮面に手を伸ばすと、今度は別の意味で驚く。
「おお、やはり仮面から邪気が無くなっている……」
 仮面を手に取りながら、我知れず声が漏れていた。剣に、古来より魔を追い払うといわれる
武器によって倒されたのだから予想はしていたが、実際に確認すれば驚きもする。それだけ、
この仮面は禍々しい力を発していたのだから。

 一方、その呟きで気が付いたらしく、少年たちがこちらへ顔を向けてくる。
「たしかに受け取りましたよ」
 言いながら、背負っている大型のリュックにムジュラの仮面をしまい、少年へ会釈した。
「さて、ワタクシは旅の途中ですので、これで……」
 これでもしあわせのお面屋はそれなりに忙しい。様々なお面を集めるため、東西南北を巡り
回らなければならない身だ。なので、約束の期限――少しオーバーしてはいるが――で少年が
ぎりぎりムジュラの仮面を取り戻してくれたことは、幸運であったといえる。リュックを軽く
背負い直し、お面屋は少年と子鬼の間を通っていった。罪の意識からなのか、子鬼がやけに
震えていたが、もはや終わったことだ。今更この子鬼を責める気はない。もう十分手酷い目に
あったようだし。

 しばらく歩いて少年たちから距離を取ると、ふと足を止めて振り返る。
「アナタもそろそろお帰りになられた方がよろしいのでは……?」
 静かに言いながら見据える先は、仮面を取り戻してくれた少年だ。
「出会いがあれば必ず別れは訪れるもの。ですが、その別れは永遠ではないはず……」
 緑の服にとんがり帽子の少年剣士が、僅かにはっとした表情を見せる。
「別れが永遠になるか一時になるか……それはアナタ次第」
 少年の眼を真っ直ぐ見詰めながら、そう言葉を締めくくった。この少年が、何かを探しながら
旅をしているのだということは、なんとなく察しが付いている。それは、恐らく過去の絆。かつて
別れた、誰かを求めてのものだということが、少年の眼から見て取ることができた。
 自分も古今東西のしあわせのお面を求めてさすらう身。求めているものこそ違うが、同じ何かを
探しての旅を続ける者として、ついこんな言葉を掛けてしまっていた。
「では、失礼します……」
 そんな老婆心が我ながら可笑しくなり、誤魔化すようにもう1度会釈してその場を去ろうと
する。と、そこでまたも足が止まった。今度は、お面屋として気が付いたことがあったのだ。
「おや、アナタ随分たくさんの人をしあわせにしてあげましたね」
 言いながら、少年が持っているだろう幾多のお面の気配を探る。
「アナタの持っているお面にはしあわせがいっぱい詰まっている」
 言葉の通り、彼の持つお面は、人々の幸福の念で満ちていた。愛し合う男女の心、自分の
願いを託す想い、新たに拓けた道への希望、それらが少年への感謝という形で幸せを形作って
いる。
「これは実にいいしあわせだ」
 最後にそれだけ言い残し、今度こそしあわせのお面屋はタルミナを去っていった。

 それから少しばかり経ってのこと。森の中で、しあわせのお面屋は切り株に座りながら休憩を
取っていた。
「いやあ、あれは本当にいいしあわせでした」
 あの少年の持っていたお面のことを思い返しながら、呟いてみる。
「少し、惜しかったかもしれませんねえ」
 あれほど幸せの詰まったお面はそうそうない。1つぐらい譲ってもらった方がよかったのでは
ないかと、今更ながら思ってしまう。
「まあ、それも無粋というもの……」
 軽く頭を振って、その考えを打ち消す。あれらのお面は、あの少年への感謝が合ってこその
幸福で満たされていた。やはり、彼の許にあるのがあるべき姿だろう。

 それにしても、僅か3日間であれだけ人々に感謝され、幸福にしてしまうとは、今にして思えば
あの少年も凄まじいことをやってのけたものだ。
「まあ、だからこそこの仮面の呪いに打ち勝てたんでしょうがね」
 一人ごち、ムジュラの仮面を取りだす。伝説に謳われる程の邪悪で凄まじい力を宿していた、
伝説の仮面。事実、手にした時はその禍々しさに身の毛がよだった。それを見事に打ち破り、
邪気を祓ってみせたあの少年。彼が丁度ムジュラの仮面と関わることになってくれたとは、
僥倖としかいいようがない。

「さて、ではそろそろ行きますか」
 十分に休みは取れた。そろそろ出発しようかと腰を浮かせると、不意に違和感に気付く。空気の
流れが妙だ。普通とは違う、何やら奇怪な気配をすぐ傍から感じる。
 異様な雰囲気が周囲に漂う中、突然目の前の空間が揺らぎだした。それに驚く間もなく、揺らぎは
やがて形となり、銀色の鏡のようなものとなって顕現する。
「こ、これは一体?」
 突然の出来事に呆然としていると、うっかりムジュラの仮面を持つ手から力が抜けてしまった。
「あっ!」
 声を上げる間にも、ムジュラの仮面と鏡との距離はみるみる縮まり、やがてそれはゼロとなる。
刹那、再び空気が揺らいだ。銀色の鏡はムジュラの仮面を飲み込むと、みるみるしぼんでいって
しまう。
 そして、周囲の空気が静けさを取り戻した頃には、鏡は影も形もなくなっていた。その中に
取り込んだ、ムジュラの仮面とともに。
「ああ、なんということだ……」
 折角取り返してもらったばかりの伝説の仮面が、また何処かへ消えてしまった。恐らく、先程の
鏡のようなものは大物モンスターを倒した時等に出現するワープ・ゲートのようなものだったの
だろう。ムジュラの仮面の2度目の喪失に、しあわせのお面屋は天を仰ぐ。
「またあの仮面が野放しになってしまうのか、邪気が無くなったとはいえ、魔力はまだかなり
残っていたというのに……」
 口にする声に、懸念が滲む。そう、ムジュラの仮面は確かに邪気こそ失われてはいたが、
それでも魔力の方はまだまだ強大と呼べるレベルだった。魔物の中でも特に強力なものは、
ただ倒すだけでは蘇ることがあるのだ。某大魔王や、某風の魔人等がいい例である。

「これはとんでもないことになってしまった……」
 邪気はなくても、あれだけの魔力があるなら悪用されれば、また恐ろしいことになる
だろう。
 しかし、そこでふとお面屋は考える。
「正しい使い方ならば、どうなるでしょうか……」
 顎に手をやり、思い起こす。先程の妙な鏡、あそこからは少なくとも邪気は感じられなかった。
誰がなんのために開いたゲートかは判らないが、あれを開いた者に悪意はないと見ていいだろう。
 ならば、と、しあわせのお面屋は何処の誰とも知らない相手に語りかける。

「ムジュラの仮面を持っていってしまった誰かさん。その仮面の力は、恐らくアナタの想像を
遥かに超えているでしょう」
 虚空を見据えながら、お面屋は言葉を続けた。
「ですが、それは今や災いを招くためだけの力ではないはず……その力が世に仇為すか、それとも
しあわせをもたらすか、それはアナタ次第……」
 もはやことは自分の手を離れてしまった。それならば、自分にできることは、この言葉を託す
ことのみ。
「自分の正しいと思ったことを、信じなさい……信じなさい……」
 それは、半ば自分に対して言い聞かせる様なものだった。恐らく届いてさえいないだろうその
言葉は、祈り程度の意味しか持たないかもしれない。
 それでも、今はこの言葉に全てを込めるしかなかった。しあわせのお面を求める自分が手に
入れた、あの伝説の呪物が、今度こそ世に幸福を与えてくれる。その願いとともに。

「でも、後でちゃんと返してくださいね」

~Extra Episode Fin.~


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