あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ルイズと夜闇の魔法使い-23b


『このメールが無事にPCに届いている事を、
 そして君がこのメールを無事に読める状況にあることを願って。

 才人くん、元気にしているだろうか。
 「そちら」が「こちら」の時間が同期しているかどうかはわからないが、君がいなくなってから「こちら」では約半年が経過している。
 今更言う事ではないのかもしれないが、今君がいる場所は「地球」ではない。
 俗な言い方をすればいわゆる「異世界」と呼ばれる場所だ。
 君達の常識では考えられないことかもしれないが、この世にはそういった常識の「外側」が存在する。
 君が今いる異世界もそうだし、君が今まで生きてきた地球も例外ではない。
 かくいう俺自身も、そういった「外側」を知りそこに生きている人間でもある。

 ご両親から君が行方不明になった事を聞いた時は、正直驚いた。
 だが、君が俺の修理したPCを持ったまま行方を消した事が不幸中の幸いだった。
 ……実は、君のPCにはちょっとした遊び心で改造を施してあったのだ。
 いわゆる「外側」の技術を使ったものだ。
 まあ充電不要になるとかちょっぴり余分な機能がついている程度で普通に使う分には気付く事もないようなものだ。
 ただ……いやなんでもない』


 ※ ※


「イノセントのPCを魔改造してんじゃねえよ……」
「き、気になる所で切んないでよ叔父さん! ただ何なんだよ!?」

『なに、ちょっと特殊な操作をするとボーンと爆発するだけだ。あまり気にするな』

「メールが返事すんなよっ!? っつうか自爆装置とかつけんなよ!?」
「お、俺のPCにそんなロマン機能がっ!?」


 ※ ※


『話を本題に戻そう。
 とにかく、そんな訳で君のPCには俺謹製の処理が施されてあったのだ。
 行方不明という事を知った後、俺はそれを頼りに独自に捜索を行なった(GPS的な用途に使ったと思ってくれればいい)結果、君が地球ではなく別の世界にいるという事を突き止めた訳だ。

 ……突き止めたまではよかったが、そこからが問題だった。
 君がいる「場所」はわかったのだが、そこに辿り着くことができなかったのだ』


 ※ ※



「……」
 メールを見ながら柊は眉を潜めた。
 文面のそのフレーズは以前にフール=ムールが言っていたのとほぼ同じなのである。
 ――見つけたところで喚ばれぬ限り"辿り着く"ことはできない。
(どういう事だ? ファー・ジ・アースの人間はこっちに来れない理由があるのか?)
 フール=ムールはそれを『ここがハルケギニアだから』と言っていたような気がする。
 この世界は主八界とか関係ない『外世界』ではなく、ファー・ジ・アースと何らかの関係がある世界なのだろうか?
 答えの出せない疑問を胸に浮かばせながら、柊はメールを読み続ける。


 ※ ※


『俺のできる限りの知識やコネを使ってそちらに繋がるゲートを作ろうと試みたが、それは叶わなかった。
 そもそもの話、「外側」の技術で君達イノセント(外側を知らない一般人)に対して過度の干渉をする事はあまり薦められた行為ではない。
 俺が取引した、ゲートを作り得る技術を持った組織もその趣旨は例外ではなく、組織のトップにいる人物はその点に関して殊に厳格だった。
 結果としてゲートが繋げられない事実が判明すると早々に捜索は打ち切られてしまった。
 こうして君にメールを送ったのは苦肉の策、あるいは最後の手段だった。
 無事に届くという保障はないが、何もしないよりはマシだろう。


 長々と書いてしまったが、結論としては「こちらからは君を助ける事ができない」という事になる。
 そう結論付けることしかできないのは非常に心苦しい。俺の力の及ばなかったことを許して欲しい。


 無責任な言い方かもしれないが、決して諦めないでくれ。
 俺や君の御両親、君の友人。そういった人達が君の戻ってくることを待っている事を忘れないでくれ。
 彼等は君と同様イノセントなので事情を明かす訳にはいかず、とりあえずは俺の勤めているミーゲ社の所在地……つまりドイツに留学という形で処理している。
 だから君は何も心配せず、ただこちらに戻ってくる事にだけ頑張って欲しい。

 故意にせよ事故にせよ、こちらとそちらを繋ぐゲートが存在した以上、必ずそれを作る手段があるはずだ。
 それに、君は覚えていないだろうが、君には以前からこの手の「外側」に対する適応力が見て取れていた。
 だから俺は、君が今の状況を受け入れそして乗り越える事ができると信じている。

 再び君と会える日が来ることを、心から祈っているよ』


 ※ ※ ※


「……叔父さん」
 サイトはわずかに顔を俯かせ、手の甲で目元を拭った。
 一緒にメールを読んでいた柊が、力強く肩を叩く。
「大丈夫だ。俺も手伝う。俺もこの十蔵って人と同じウィザード……『外側』ってのを知ってる人間だから、力になれる」
「……うん」
 ありがと、と呟くように言った後サイトは改めてメールを見やった。
 そして柊に眼を向け、尋ねる。
「俺のこと、ドイツに留学って事にしてるみたいだけど……」
 懇意にしている親戚ではあるが、基本ドイツに在住している十蔵にすぐに連絡がいくという事はあまりないはずだ。
 つまり十蔵がそれを知ってサイトの事情を調査し、そして対応するまでに行方不明という事はそれなりに広まっているはずだ。
 果たしてそれで誤魔化せるものなのだろうか。
 すると柊は腕を組んで少し考えると、
「多分記憶処理かなんかだろうな。地球じゃそうやって『外側』の事を知られないようにしてるんだよ」
「き、記憶処理って。それじゃ……」
「……。お前は最初っから行方不明になんてなってなくて、単にドイツに留学してるからいないだけ……って周りの人達は思ってるってことだ」
「そんな……」
 幾分申し訳なさそうに柊が言うと、サイトは顔色を失って肩を落とした。
「けど、親御さんとか友達に行方不明だって心配かけるよりはずっといいだろ?」
「それは、そうだけど」
 理屈としてはそれは理解しているし、心情としてもそういった人達に心配をかけたくない、かけずにすむ事になって安堵しているというのは確かにある。
 だが、その一方で自分がこんな事になっているのを知らず、自分がいない事に疑問も抱かないどころか気付いてさえいないという事実に、まるで見捨てられたような感覚も覚えるのだ。
 矛盾した感情を上手く処理する事ができずに、サイトは呆然とメールの開かれたディスプレイを見つめることしかできなかった。
 柊はそんなサイトを見やって口を開きかけたが、上手く言葉にできずに黙り込んでしまう。
 部屋に下りた沈黙を破ったのは、搾り出すようなか細い少女の声だった。
「……サイト」
「テファ?」
 振り返って彼女に眼を向け、サイトは眼を見開いた。
 椅子から立ち上がり、しかし近寄りがたいように立ち尽くしてサイトを見やる彼女の顔は酷く翳っていて、今にも泣きそうに見えたのだ。
「その手紙……みたいなの、私には読めないけど……家族の事が書いてあったの?」
「あ……うん。まあ……」
 サイト達がハルケギニアの文字を知らなかったのと同様、ティファニア達には地球の文字が読めないのでメールの内容はわからないだろう。
 だが、その後の柊との会話でなんとなく類推することはできたはずだ。
 誤魔化すこともできずにばつが悪そうにサイトが答えると、ティファニアは顔を俯けてしまう。
「ごめんなさい……」
「……テファ」
「私のせいだよね? 私がその地球からサイトを召喚しちゃったから、サイトは家族とも離れ離れになって……」
「い、いや。テファのせいじゃないって。別にわざとやった訳じゃないし、俺だって何も考えないで馬鹿みたいな事しちゃったからこうなったんだし」
 サイトは慌ててティファニアに駆け寄ると、宥めるように肩に手を置く。
 すると彼女は俯いたままサイトに身体を寄せて、顔を彼の胸に埋めた。
 ――泣きそう、ではなかった。
 サイトの胸にしがみつく様に身体を寄せる彼女は、泣いていた。
「ごめんなさい。私にできること、何でもするから。虚無の魔法っていうのも、覚えられるようがんばるから」
 ティファニアはサイトに顔を向けないまま、肩を震わせて言う。
「――メロンちゃんとかもやるから」
「いや、メロンちゃんはもういいから!?」
 マチルダの殺気が膨らんだのを察知して、サイトは慌ててティファニアの両肩を掴んで引き剥がす。
 そしてサイトは見上げる彼女を真っ直ぐに見据え、ふっと笑って見せた。
「大丈夫だよ、テファ。柊も協力してくれるし、どうにかなるって。父さんとか母さんの事だって、叔父さんが上手くやってくれてるって書いてた。だからテファが心配することなんてない」
 なおも不安そうな表情で見つめてくるティファニアの視線を受けてサイトは一瞬言葉につまり、そして少しだけ眼を反らしながら照れ臭そうに呟いた。
「だから、その……テファにそんな顔されてる方が、困る。テファは笑ってる方が似合うと思うし……その。ほら、俺、使い魔だから、テファのこと守るのが仕事だから、俺が泣かしたみたいなのは……」
「……サイト」
 少し前にマチルダに似たような事を言ったのを思い出して口に出してしまったが、気恥ずかしくなったのかサイトは次第にしどろもどろになって最後には完全にそっぽを向いてしまった。
 ティファニアはサイトの言葉を胸の裡で反芻すると、僅かに頬を染めてくすりと笑みを浮かべた。
 それを見てマチルダは口の端を歪めてふんと鼻で笑い、柊もにやにやとした表情で「言うなあ」と零す。
 周囲の反応を見やってサイトは羞恥に顔を染めた。
「か、勘違いしないでよね! これはただの使い魔の仕事なんだから!」
「なんでそこでツンデレなんだよ!?」
 呻くように叫んだサイトにすかさず柊が突っ込むと、テファは今度こそ声を漏らして笑った。
 沈殿してした空気がどうにか持ち直した事に柊は安堵を覚えつつも、
(……ルイズもこれくらい協力的だったらなあ)
 僅かばかりの羨望を感じてしまった。
 しかしよくよく考えてみると、ルイズは柊に対してはともかくエリスに対してはそれなりに柔らかい対応をしているし、エリスもうまくやっているようだった。
(もしかしてぞんざいに扱われてるの俺だけなのか……?)
 なんとなく釈然としない気分になった。
 柊は気をそらすようにしてノートパソコンに眼を移し、サイトに声をかける。
「サイト。他のメール、いいか?」
「え? あぁ」
 言われてサイトも思い出したかのように再びノートパソコンへと歩み寄る。
 十蔵からのメッセージはあれで終わりだったが、送られてきたメールは一つだけではない。
 残ったメールには全て添付ファイルがついているというのも気になる所だった。
 サイトは二番目に送られてきたメールを開いた。


 ※ ※ ※


『追伸。

 君を救出する事は叶わないが、せめてもの力添えをしたいと思いコレを送る。
 もし君のいる世界が平穏に満ちた場所であったのなら、コレは無用の長物だ。
 場所を取って大変邪魔になるので、このままファイルを開かずに放置しておいた方がいい。
 だがもしそうでないのならば、コレは君の力になってくれるはずだ。

 コレは君の翼だ。君にはコレを扱う「資格」がある。
 俺の翼は既に折れてしまったが、君ならば俺の届かなかったあの蒼穹の果てにも辿り着けるだろう。
 君に戦乙女の加護のあらんことを。

                            平賀 十蔵 』

 ※ ※ ※


「……なんだ?」
 書かれている内容がいまいち理解できずサイトは首を捻ってしまった。
 ちらりと隣の柊を覗いてみたが、彼もまた眉を潜めている。
 ただ、その表情はサイトのように意味がわかっていないというのではなく、何事かを考えているようでもあった。
「どういうことか、わかる?」
「……なんとなく」
 サイトの問いかけに柊は呟くように返した。
 サイトの状況を理解していてこの内容だとすれば、おそらく送られてきたという『何か』はウィザードの技術を使ったものなのだろう。
 更に言えば、文中で書かれていた通り『平穏でない場合に力添えになる』ものでもある。
 添付ファイルで送られてきたという事はおそらくその中身は術式プログラムである可能性が高い。
 術式プログラムとは回復魔法などと言った魔法技術を電子プログラム化して軽量化と効率化を図ったもので、中には魔術書一冊が丸々プログラム化してメモリの中に封入してある事さえある。
 しかし、この術式プログラムをインストールするためには機器に《メモリ領域》という専用の記憶媒体が必要になるのだ。
 これはかなり特殊な技術であり、柊やエリスの0-Phoneにすら搭載されていない。
「イノセントのPCにどこまでやってんだよ……」
 普通に使う分にはまず気付かれない範囲とはいえ、いくらなんでもやりすぎな改造に柊は嘆息した。
 そして不思議そうに覗き込んでくるサイトに眼を向けると、肩を竦めて見せた。
「まあ、お前の叔父さんが信用できる人なら悪いもんじゃねえだろ。開いてみればいいんじゃないか?」
「……んじゃ」
 僅かに逡巡した後、サイトは添付ファイルを開いた。
 ――同時にディスプレイ上にある全てのウィンドウが閉じ、画面一杯に新しいウィンドウが開かれる。
 その直後、まるで滝のように意味のわからないプログラム言語が流れ出した。
「う、うわあっ!? な、なんだコレ!! ウィルスとかじゃねーの!?」
「俺にもわかんねえよ!」
 怒涛の勢いで溢れ流れる文字群にサイトは思わず身を強張らせる。
 処理が追いついていないのだろうか、PCがガリガリと嫌な音を立て始めた。
「大丈夫なのか? 本当に大丈夫なのか!?」
「だからわかんねえって――」
 サイトが泡を食って柊に詰め寄ろうとした時、PCに更なる異変が起こった。
 流れ続けるプログラム言語はそのまま、ディスプレイ上に淡く光る魔方陣が描き出されたのだ。
「お、俺のPCがァーーっ!?」
「さ、サイトちょっと下がれ!」
 柊はサイトを引き摺るようにして後ろに下がらせて、PCとの間に立ち塞がるように位置取った。
 危険はないとは思うのだが流石に不安になり、月衣からデルフリンガーを取り出すか数瞬迷う。
 と、その間にPCの異音がぴたりと止まり、それと共に流れていたプログラム言語も停止した。
 ディスプレイ上で淡く明滅する魔方陣に眉を潜めながら、柊はPCを――画面一杯に陳列するプログラム言語を凝視する。
 この手の知識がない柊にはその内容も意味も全く理解できなかったが、かろうじて読み取れる単語を見つけ出した。
「ガーヴ……月衣?」
 改めて画面を見渡すと、その単語がいくつか散見できる。
 という事は、このプログラムと魔方陣は月衣に関する何かなのかもしれない。
 サイトやティファニア、マチルダが言葉も失って呆然と見やる中、柊はPCに歩み寄ってディスプレイに手を伸ばした。
 五指が液晶の画面に触れ――その手が画面の中に入り込む。
「な、なにしてんだ!?」
「……多分、この『中』に十蔵って人が送ってくれた物が入ってる」
「中ぁ!?」
 この魔方陣はおそらくガンナーズブルームの圧縮弾倉と似たような代物なのだろう。
 それをプログラム化して送ってくる辺り、平賀 十蔵というウィザードはかなり優秀な技術者のようだ。
「……あった。コイツは――」
 中に収納されている『何か』を掴み取り、次いで眉を顰めた。
 そして柊はソレをしっかりと掴んだまま引きずり出す。
 魔方陣の中から現実の空間に顕れたそれは――巨大な剣だった。

「やっぱり、ウィッチブレードか」
 ガンナーズブルームを始めとしたウィザード達が用いる『箒』――その中でも近接戦闘型のモノだ。
 現在柊が所有している一世代前のガンナーズブルームはどこか機械的で無骨な印象があるが、こちらは現行型で全体的に洗練されたフォルムを持っている。
「す、すげえ……」
 完全に現出したウィッチブレードを凝視しながら、サイトが感嘆にも似た声を上げた。
 これまで呆気に取られるしかなかったマチルダは、やはりどこか呆然と言った態で呻く。
「……一体なんなんだ、それは……」
「箒……あー、『破壊の杖』の同類みたいなもんだよ」
「破壊の杖? 全然似てないじゃないか」
「用途が違うだけで同じ系統のモンなんだよ。あっちは『銃』でこっちは『剣』」
 言いながら柊はウィッチブレードを起動させる。
 反応を示す音と共に重低音が響き渡り、後部スラスターから淡い魔力光が零れだした。
 動作は特に問題なさそうだ。
 おおおー、と感動した面持ちで歓声を上げるサイトを他所に、柊はウィッチブレードの状態を確認していく。
 オプションスロットには姿勢制御用のスタビライザと、出力上昇用のエネルギーブースターがいくつか。
 いわゆるフル装備という奴である。
 イノセントにどこまでやる気なんだよ、と柊は眉を顰めながら各部位をチェックし、
「……なんだこりゃ?」
 思わず上擦った声を上げてしまった。
 この箒、外見上はウィッチブレードに属するそれなのだが、中身がまるで別物で性能も奇妙な代物だった。
 まず、スペックでいうと現行のウィッチブレードをかなり上回っている。
 柊の知る限り現行の箒の中では最上級とされる『エンジェルシード』と比較しても遜色ない……どころか、それすら凌駕しているといっても過言ではない。
 ――のだが、『制限機動』というモード設定によって出力と一部機能にリミッターがかけられている。
 しかも肝心要のコアユニットが現行のウィッチブレードと同一規格なので、スペックを十全に発揮するには出力が圧倒的に不足していた。
 例えていうならF1のレーシングカーに普通車のエンジンを載せているようなものだ。
 通常のウィッチブレードと同程度の性能は発揮できるとはいえ、これでは竜頭蛇尾もいいところではないか。
「試作機……未完成品ってところか」
 言いながら柊がウィッチブレードを軽く振るうと、剣身に通常の魔導具に用いられる魔術刻印のルーンとは異なるサインを見つけた。
 記された文字は『VALKYRIE-03』。
「ヴァル……ヴァルキューレ03? この機体の名前か?」
 ナンバーが振ってあるという事はあるいは何らかのシリーズのコード名なのかもしれない。
 そんな事を考えていると、サイトが弾けるように叫んだ。
「ひ、柊! それ、見せてもらってもいいか!?」
「お、おう。まあ元々お前用に送られてきたんだしな」
 好奇心を抑えきれないといった様子のサイトに少し気後れしながらも、柊は念のためウィッチブレード――ヴァルキューレ03を機動停止させてサイトに手渡す。
 歓声混じりで子供のようにヴァルキューレ03を手に取り、あちこち観察するサイトを柊は嘆息しながら見つめた。
「うおー、すげー! かっこいい!!」
「馬鹿、振り回すんじゃない! 玩具じゃないんだよ!」
 実際に『破壊の杖』の挙動を見た事のあるマチルダが抗議交じりに柊を見たが、彼は軽く手を振った。
「機動した状態じゃなきゃ単なる馬鹿でかい鈍器だから、あの時みてえな事はできねえよ」
 言って柊は改めてPCに向き直った。
 箒を取り出した事で再起動がかかったのか、PCの画面はウィンドウの開いていない初期の状態に戻っている。
 メールソフトを開いてみると、添付ファイルの着いた複数のメールの内最後の物以外は全て開封済みになっていた。
 唯一の未読メールを開いてみると、それは箒の取り扱いについてのマニュアルだった。
 ふと思い立ち、柊は先程の月衣もどきが機動したプログラムを再び起動してみる。
 しかしファイルの破損によりプログラムは実行されなかった。
 どうやら内容物を取り出した事でプログラムだかステータスが書き換わってしまったようだ。
 複製は不可能なのがわかって柊は軽く舌打ちする。
 そして柊はしばし何かを黙考した後――

「サイト」
「え、なに?」
「……大事な話がある」
 努めて真面目な表情で柊が言ったので、浮かれ気味だったサイトも僅かに眼を見開き黙り込んだ。
 そして柊は重々しく口を開く。
「お前、確かルーンがガンダールヴって言ってたよな?」
「あ、うん。何かブリミルがどうとか伝説の使い魔だとか」
「そうだな。伝説の使い魔って話だったな。……伝説の使い魔だったら、使う武器もそれにふさわしい伝説の武器の方がいいと思わねえか?」
「え? そりゃまあ、それもお約束だしなあ」
「そうだろうそうだろう。そこでお前にいい話がある」
「い、いきなり胡散臭くなったぞ」
「まあそう言うなよ」
 言いながら柊はおもむろに月衣からデルフリンガーを引っ張り出した。
『なんだ、やっと出番か? 待ちくたびれたぜ……いや、月衣の中じゃ時間経過とかあんま関係ねーんだけど』
「け、剣が喋った!?」
 驚きを露にするサイトをよそに、柊は至って真面目にサイトに語りかけた。
「こいつはデルフリンガー。かつてガンダールヴが使っていたという伝説の魔剣だ。訳あって今は俺が使ってるが、
 やっぱ伝説の剣は伝説の使い魔が使うのがふさわしいと思うんだ。デルフもそう思うだろ?」
『なんだ、その小僧ガンダールヴなのか? まあ確かにガンダールヴ用の能力もあったような気もするが……』
「そんなのあったのか」
『多分』
「そうかそうか、なら話は早ぇ」
 そして柊は気持ち悪いくらい朗らかにサイトに笑いかける。
「デルフもこう言ってるし、こいつを本当の意味で使いこなせるはお前なんだ……そう、お前だけだ!」
「お、俺だけ……!?」
 超嬉しそうに声を上擦らせるサイト。
 何故かデルフリンガーも嬉しそうに声を上げる。
『こ、これはアレか? 俺様の真の所有者を巡って争いが勃発!? やめて、俺様のために争わないで!!』
 そして柊が畳み掛けるようにサイトに詰め寄った。
「そんな訳だからコイツとその箒を交換してくれ!」
「ヤだ」
『またしても即答!』
「チッ!」
 デルフリンガーが愕然と叫び、柊が忌々しげに舌打ちする。
「いいじゃねえかよ! 今から箒の使い方覚えるよりも普通の剣の方が扱いやすいだろ!?」
「ふっ……よくわかんねえけど、ガンダールヴのルーンがあると武器の使い方がわかって身体も軽くなるんだよ。だから全然問題ないし。何なら今からコイツを起動させてやるぜ?」
「くっ……なんだよそのインチキくせえ能力!」
 悔しそうに、そして羨ましそうに顔を歪める柊にサイトは勝ち誇ったように笑みを浮かべた。
「それにこれは叔父さんから貰った大事なモンだし! 喋るのは珍しいけど普通の剣よりこっちの方が格好いいし、強そうだし!!」
『……おい小僧』
 意気揚々とヴァルキューレ03を掲げてのたまうサイトに、酷くくぐもったデルフリンガーの声が響いた。
「あんだよ」
『屋上。……じゃねえ、表に出ようぜ……久々にキレちまったよ……』
 わなわなと震えた声でデルフリンガーはそう漏らし、次いで爆発したように叫びだした。
『外面ばっかで選んでんじゃねえよこのボケッ! 男だったら中身で勝負しやがれ!』
「いや中身でも圧倒的にあっちのが上だろ」
『やかましい! とにかく、テメェみてえなド素人のガンダールヴに使われるぐれえなら相棒の方が百万倍ましだってんだよ!!』
 柊の突っ込みを無視して喚き散らすデルフリンガーを、サイトは流石にこめかみを引くつかせて睨みつける。
「なんだよ、喧嘩売ってんか? ……上等じゃねえか。古臭え伝説に現代の戦術って奴を思い知らせてやるよ」
『やってみろよ。新しいモン好きのバカガキに伝説の信頼と実績って奴を見せ付けてやらあ』
 お互いに顔(?)を突きつけてにらみ合う一人と一本を見ながら、柊はおずおずと手を上げる。
「おい、おかしくねえか? その流れで行くならデルフを持ったガンダールヴのお前が箒持った俺とやるのが正しいだろ?」
「細かいことはいいんだよ!」
『もう何がなんだかよくわからねえがとにかくそういう事なんだよ! おら、行くぞ相棒!』
「またこんなかよ!」
 召喚されて早々にギーシュとの決闘に巻き込まれた事を思い出し、柊は思わず叫んでしまうのだった。




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