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使い魔は四代目-03


トリステイン魔法学院の学院長室で、渦と詰まれた書類と延々格闘していたこの部屋の主である学院長、オールド・オスマンが心底うんざりしたといった声を上げたのは、竜王のひ孫がここハルキゲニアに召喚された辺りの頃であった。

「のぅミス・ロングビル。人間は下らぬ書類にサインをするよりも、もっと有意義に時間を過ごすべきだとは思わんかね?」
「そのお言葉には一理あるとは思いますが、その様な時間を過ごしたければせめて御自分の成すべき事を成されてからにすべきだと思いますわ」
「正論じゃな。じゃが…正論がいつも正しいとは限らんじゃろ?」

溜息と共にそう呟くと、オスマンに冷淡な返答をした理知的な女性、秘書を務めるロングビルの背後に立つと、重々しく呟いた。そろそろと下の方に手を伸ばしながら。

「真実はどこにあるか、考えた事はあるかね。ミス・ロングビル。しばしば正論と真実とは一致せぬのじゃよ」
「…だから、仕事もせずに私のお尻を撫で回しても良い、…とそういう事ですか?」

ロングビルの更に冷え込んで氷点下以下となった冷淡な返事を気にも留めずに手の感触を楽しみつつ、オスマンは自説を披露した。

「それは違うぞミス・ロングビル。それではただのヒヒ爺ではないか。仕事の合間に、じゃ。やはり労働には見合った対価を与えるべきだと…
あたっ 君、年寄りにそんな、これっ!」
オスマンに最後まで言わせず、ロングビルは振り返りもせずに裏拳を叩き込んだ。そのまま素早く立ち上がり、振り返る動作の勢いを足先に全て乗せて蹴った。更に蹴る。蹴る。蹴る。踏む。世界を狙える見事な足捌きであった。

「ごめん。もうしない。やめて。いたい。…あ、もっと…嘘。今の無し、本当に…む?」

無様に蹴り倒されていたオスマンの表情が、何かを感じたか一瞬にして引き締まった。電光石火の早業で立ち上がり。

「ミス・ロングビル。ちと待ってくれ。緊急事態じゃ」

先程とはまるで別人のような威厳のある声で宣言すると、オスマンは素早く壁にかかった鏡に向かい、杖を振った。すると、鏡に映る像が学院長室内から一転した。遠見の鏡を使用したのだ。
そこに映し出された光景を見てその眼が驚愕に見開かれる。その様子を訝しく思い、ロングビルも同じく鏡を覗き込み…絶句した。

「な、何ですの、これは…」
「見た通りドラゴン、じゃな…それも凄まじく強力な…
ミス・ロングビル。わしはちょっと行って来る。もし戦闘が始まるようだったら…即座に全員を避難させるように」
「…わかりました」
ロングビルは青ざめた顔で頷いた。心中の「それで、逃げ切れますか?」と言う疑問は恐ろしくて聞けなかった。

顔面蒼白で遠見の鏡を注視していたロングビルが安堵の溜息をついたのは、それからしばしの時間がたっての事であった。

契約を終えた竜王のひ孫は、自分の左手の甲に複雑な文様が刻まれるのを興味深く眺めていた。
「ふむ。なかなか強力な術じゃな。並みの魔法や剣などものともしないこの体にこうもあっさりと文様を刻むとはのぉ…
それはそれとして…ルイズよ」
「何かしら?」
「これ、割と痛いんじゃが?」
「す、すぐに終わるから!すぐ!」

僅かに非難の混じった竜王のひ孫の言葉に焦ったルイズが口走った通りに、それはすぐに収まった。文様が刻まれるときに感じていた熱も、今は感じない。
もっとも、普通の人間なら火傷したと思うようなその熱も、竜王のひ孫にとってはどうという事もなかったのだが。

「…ほぅ、これは珍しいルーンですな。失礼ですが写させて貰いますよ」
コルベールは興味津々といった様子で竜王のひ孫のひ孫に現れたルーンをスケッチし始めた。
「む…? コルベール、これは珍しいのかね?」
「はい、私も教鞭をとって20年になりますがこの様な模様は初めて見ます。もっとも、貴方の様な高位のドラゴンなら当然なのかもしれませんがね…と、終わりました。お手を煩わせました。もう結構です。それでは私はこれで」
「あ、ちょっと待ってくれい。この学院で一番の実力者といったら誰になるんじゃ?…ああ、地位ではなく純粋な力量という意味でな。お主か?」
「え?とんでもない。それはやはり学院長であるオールド・オスマンかと…」
「ふむ…、それはあの老人の事かな?」

竜王のひ孫の視線をコルベールが辿ると、そこにはいつの間に現れたか、オールド・オスマンが真剣な顔でこちらを注視していた。

「…はい、そうです。それでは、私は色々と報告することがありますので、これで失礼させていただきます。ああ、それとミス・ヴァリエール、後で学院長から竜王のひ孫殿のことで話があると思うのでそのつもりで」

そう言い残し、コルベールはオスマンの元に文字通り飛んでいった。それと入れ替わるようにして、タバサを乗せたシルフィードが猛烈な勢いで竜王のひ孫の正面にやってきて、そのままきゅいきゅい捲くし立てた。
竜王のひ孫はそれに動じもせずに、ルイズが今まで聞いた事もないような-それもそもそも人間に発音できるかも怪しい-言語で答えていた。
シルフィードの様子から竜王に会って興奮しているのは想像できるが、流石にルイズにはその内容まで分かるはずもない。困り顔でタバサを見上げ問いかけた。

「えっと…タバサ?」
「…ごめん。シルフィードが、王様に挨拶したいと言って聞かない」
「まぁそれは想像ついたけど…うーん、こういうのを見ると竜族の王ってのを改めて実感するわ …それで、なんて言ってるの?」
「…え?…いや、私も竜王のひ孫が何を言ってるか分からない。だから良く分からない」
「ああ、そうか。使い魔だからシルフィードとやり取りできるわけでドラゴンの言葉が分かるわけじゃなかったわね。分かる範囲で良いわよ」
「…そう言われても… 後で竜王に聞いた方が確実」

困り顔でタバサはそう言うと、手にしていた杖でメメタァ!とシルフィードの頭を叩いた。
「きゅいっ!?」
と流石にシルフィードが黙り、恐る恐る、といった様子でタバサの方を振り返る。
「しゃべり過ぎ」
怒ったような調子で言うボソリと言うタバサにきゅ?…きゅきゅきゅきゅい、とさっきとは違った見るからに焦った勢いで再び捲くし立てるシルフィード。

その様子を竜王のひ孫は苦笑しながら見守っていたが、やがて声を掛けた。
「ああ、安心してええぞ。シャ…いや、タバサよ。お主が言いたくないなら誰にも言わんわい」
「…。ご配慮いただき、感謝いたします。竜王のひ孫様」
「もっと砕けた感じで良いぞよ。タバサ、色々大変じゃろうがお主には見所がある。きっと報われる日が来るじゃろうて」
「…ありがとう…」
「そうそう、それでえぇ。」
深々と頭を下げるタバサと、どこと無く嬉しそうなシルフィードを見ながら、竜王のひ孫は満足そうに頷くのであった。こうして何やら二人と一匹の間で良い話が纏まりつつあったのとは裏腹に、ルイズは完全に蚊帳の外に置かれ、少々むくれていた。

「…何よ…使い魔になって早々置いてきぼり?」
「いいじゃないの。タバサが話したくないみたいだし、そっとしておいてあげなさいな」
「別に私はタバサに怒ってるわけじゃな…って、なんでアンタも来たのよ、キュルケ」

いつの間にか隣に寄ってきていたキュルケに、ルイズの眉が僅かに上がった。

「あらぁ?ミスタ・コルベールの授業は終わったし次の授業まではまだ間があるわ。どこにいようと
私の自由じゃないの。
ああ、それと。言い忘れてたわ。おめでとうルイズ。誰にも負けない凄い使い魔じゃない」

ルイズは一瞬、何を言われたのか分からない、と言った風に眼を瞬かせていたが、

「…何?何の気紛れ?」
「ふふ。そう構えなくても良いわよ。ゲルマニアの女はね、良い物は良いと素直に認める度量があるの。体面ばかり気にして言いたい事も言えないお堅いトリステインのご婦人とは違うわ」
「ふ、ふん、よく言うわね。…ま、まぁ、その賞賛は素直に受け取っておくわ。…ありがとう」
「あらあら、無理しなくていいのよ?ルイズ」
「む、無理なんかしてないわよ!」
顔を真っ赤にして礼を言うルイズをキュルケは皮肉っぽい言葉とは裏腹に、優しい笑みを浮かべて眺めていたが、そこへオスマンと真剣に何事かを話していたコルベールが戻ってきて宣告した。

「ミス・ツェルプストー、並びにミス・タバサ。オールド・オスマンがミス・ヴァリエールと竜王のひ孫殿に今後の事について重要な話があるそうです。私事に関わる事ゆえ席を外して下さい」
「あらぁ残念、私も竜王様に挨拶したかったのに…ま、今度にするしかないわね。じゃぁルイズ、また後で会いましょ。竜王様によろしくね。タバサも聞こえてたでしょ。行きましょ」
「…失礼しました」
「きゅいっ!」

さばさばした様子で一礼するとあっさり引いたキュルケ、対照的に名残惜しそうなタバサとシルフィード、ついでに終始怯えていたフレイムの姿が見えなくなると、それまで遠くでこちらを注視していたオスマンがやっとやって来た。

「始めまして。竜王のひ孫殿。わしが当学院の学院長、オスマンです。お目にかかれて光栄ですぞ。まずは、召喚されたにも関わらず無理なお願いを聞いていただき、心より感謝しております。
コルベールが申したとおり、我々に協力できることがあれば出来る限りの事をいたしましょう。」
「お主がオスマンじゃな。コルベールから色々と聞いておったようだし、今更自己紹介はいらんじゃろう。まぁ前置きは良いから本題に入ろうかい。今後の事について、とコルベールは言っておったが?」
「はい、、実はですな、ここでは出来れば竜族の王、という事は伏せて表向きは遠方からいらした高位のメイジ、という事にしてほしいのですが」
「別に構わんが…理由の説明はあるんじゃろうな?」

その質問に、コルベールがオスマンに代わり説明を始めた。
「理由の一つは、貴方の存在は絶滅したといわれる韻竜を連想させるからです。貴方のいたところではどうか知りませんが、この地では魔法を操るどころか人と会話できるような知性を持った竜は最早いません。
勿論、それにしたって他の動物よりは余程賢いのには違いが無いのですがね。そういうわけでそんな竜がいることがアカデミーにでも知られでもしたら大騒ぎになることは必至。
すぐにでも貴方の事を研究しようと大挙して連中は押し寄せてくるでしょう。連中ときたら研究のためなら何でもやりかねないですからな」

アカデミーの名が出てきたので、ルイズはその研究員である姉、エレオノールを思い出した。確かにあの学者肌の姉ならすぐにでも飛んできて、色々研究しようとしそうではある。
しかし、あの姉に詰め寄られて自分は竜王のひ孫の正体を隠し通せるだろうか?これは中々の難問になりそうだった。
ただ、近頃目出度くもバーガンディ伯爵と婚約が決まったと聞いたから、上手くいけばひょっとしたら今はそっちの方に夢中なのかも知れない。
多分夢中だと思う。夢中なんじゃないかな。…ま、ちょっと覚悟はしておこう。…ああ、偉大なる始祖ブリミルよ、この婚約に何卒祝福をお与えください、と姉の為、そして自分の為に小さく祈りの言葉を捧げたルイズであった。

一方、竜王のひ孫は聞き捨てなら無い言葉が出てきたのでコルベールに問い返していた。念頭には無論シルフィードのことがある。

「絶滅じゃと…?それは確かなのか?竜王としては何とも切ない話なのじゃが」
「はい、少なくともそう信じられていますし、それを裏付けるように近年存在が確認された例はありません」

その返事を聞き竜王のひ孫は、なるほどタバサがシルフィードが喋れる事を隠そうとするわけだわい、と一人納得した。
ルイズやコルベール、オスマンの表情や言動から察するにアカデミーとやらはあまり評判の良い組織でも無さそうだし、只でさえ込み入った事情の有る身、そういう事であれば尚更隠したくもなるだろう。
ならば、ここはオスマンの要望に乗った方が賢明そうだ。そう判断し、竜王のひ孫はそれを受け入れる事にした。

「確かにそうなると厄介な事になりそうじゃな…了解した。お主の言うとおり遠方から来たメイジという事にしようではないか。するとどう名乗るかじゃなぁ…
ルイズ、そういうわけで何か適当な名前が必要となったわけだが、良いのはないかな?」
「え?私が決めるの?」
「使い魔に名付けるのは主人の役目じゃろ。初仕事じゃ」
「まぁ確かにいちいち竜王のひ孫、ってのはちょっと言いにくいと思っていたしね。何か希望があるのかしら」
「特に無いぞ。ま、単に竜ちゃんでもいいぞい」
「そんなんでも良いの?…じゃぁ…竜王だから、リュオというのはどう?」
「ん、それでええわい。じゃぁ、これからわしはリュオじゃな」

二人の間で話が纏まったのを見届け、オスマンが話を続けた。

「それでよろしいですかな?それでは、我々も今後貴方の事はリュオ殿と呼ばせて貰いますぞ。
さて、そしてもう一つの、そして最大の理由が、貴方の手に浮かんだそのルーンです。リュオ殿、それにミス・ヴァリエール。そのルーンは、ガンダールヴの物です」
「ガンダールヴって…あのガンダールヴですか!?」

怪訝そうな表情のリュオと、驚愕で眼を見開くルイズにオスマンは頷くと言った。

「そうじゃ。かつて始祖ブリミルと共に戦い、ありとあらゆる武器を使いこなしたという伝説の使い魔、ガンダールヴ。
リュオ殿、貴方のそのルーンは、それと同じなのですよ」



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