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13日の虚無の曜日 第四話

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雑草が抜き取られた、豊穣な大地。
そこに一人の男が立っていた。
男は手に何かを持っていた。手に持ったそれを上へ上へと上げ、
自分の頭の上まで持ち上げる。次の瞬間、振りかぶったそれを
自身の立つ大地へと向かって叩きつけるように振りおろした。
湿った音が足元で響く。一瞬の風切り音を纏って
振りおろされたもの、それは鍬だった。
ジェイソン・ボーヒーズは無感動にそれを見つめる。
ここが彼の住まいのクリスタルレイクならば断末魔の叫び声と共に
血しぶきが上がり、大地を真っ赤な絨毯に模様替えしただろう。

しかし今彼がいる場所はクリスタルレイクではない。
さらにいえばアメリカ合衆国の地でもなく、地球ですらない。
月が二つあり、見たことがない植物や耳の尖った少女がいる
異世界ハルケギニア。それが今いる場所だった。
それゆえに死の絶叫は上がらず、血ではなく土と泥が飛び散っただけだった。
だがジェイソン・ボーヒーズは殺人鬼である。それも筋金入りであり、
目に映るもの全てを虐殺の対象としているといっても過言ではない。
然るに殺人鬼ならば、刃物をもって振りおろすならば、
人体に向かってと考えて相違ない。しかし、彼は何もない地面に
凶器を叩きつけるという、おおよそ相応しくない行動をとった。
だがその行動に意味がないわけではない。目的は人体の破壊ではなく
地面をほぐすこと。改まって言えば、耕すこと。
滑稽にも恐怖の殺人鬼は、一介の田吾作のように畑仕事をしているのだ。

太陽がギラギラと輝く日。地球時間だと2月の頭に相当する。
しかしここハルケギニアでいうならば「ハガルの月」の「フレイヤの週」、
「虚無の曜日」であるが、ハルケギニアの暦の読み方や日付を知る由もない
ジェイソンにとっては至極どうでもいい些細な問題であり、
また今日が何日なのかも気にしていないジェイソンは
日差しが強まる中、鍬を地面に振るうことに集中していた。
鍬が突き立てられた地面は易々と穿り返され、
土は鍬の持ち主の意思のまま、太陽へとその身をさらす。
引き締まった地面とは裏腹に、抉りだされた土は柔らかい。
例えるなら人の体が裂かれ、腹から腸が出てくるのと同じ様。

常人には理解できない例えだが、人殺しならばそう考えてもおかしくはない。
だがジェイソンは何ら感慨を抱くことなく黙々と作業を続けた。
元々ジェイソンは行動を起こすとき、考え事をすることがほとんどない。
感慨や思考、感情は即座の行動に支障をきたすからかもしれない。
そのことを理解しているのか、理解していないのかはわからない。
ただジェイソンは目の前のことに集中し、事を成すことに精力を傾けていた。

「ジェイソーン!」

彼の後ろから一人の少女の声が響く。
鶴の一声とはこういうものなのか。機械のように規則正しく動き、
何者にも止められないはずの殺人鬼が、無力な少女に呼びかけられただけで
仕事の手を休めた。少女の要件を聞こうと待とうというのだ。
彼を知っている者には想像できない光景だろう。
先ほど殺人鬼に声をかけた少女の名は、ティファニア。
ジェイソンの住んでいた世界とは違う異世界ハルケギニアに
彼を召喚した眩しい金髪の美少女であり、ジェイソンの主となった少女だ。
そのティファニアが小走りにジェイソンの方へと向かう。
手には傍目でわかる大きな帽子を抱えていた。
麦で編まれた帽子、麦わら帽子だった。

「日差しが強くなってきたからこれが必要かなと思って・・・・」

ジェイソンの前にたどり着くと、ティファニアはおずおずと帽子を差し出した。
その射すくめるような、その実何も感じさせない、
無感動な眼差しで差し出された帽子を一瞬見つめたジェイソンは、
手に持った鍬を地面に突き立てると、徐に麦わら帽子を両手で掴み
マスクをつけたままの頭にそれを被った。
実を言えば、ティファニアが思うような暑さをジェイソンは感じていなかった。
常人にとっての茹だるような暑さは、ジェイソンにとって未だ清涼であり、
それは過去何度か電撃や火炙りにあい、それ以上の熱さを知っているためだ。
(その肝心の電気や炎も意に介してはいなかったが)
では、それ以上のものを知っているはずのジェイソンが
何故ティファニアから麦わら帽子を受け取り、あまつさえそれを被ったのか。
これは主であるティファニアに対して気を遣っているのか、
それとも純粋にティファニアからの贈り物として受け取ったのか。
何にしても、その殺人鬼らしからぬ行動は彼にも心があることを示していた。

ホッケーマスクをつけた状態で麦わら帽子を被るというのは
なんとも奇妙だが、当の本人は一向に気にせず、また農業を開始しようとする。
そこへマスクめがけて何かが飛来する。その速度はゆっくりとしたものだが
これをジェイソンは避けずに当たるがまま、自分の顔を覆うマスクに直撃させた。
直撃したものが炸裂し、マスクに開いている穴を塞ぐように流れ込み
ジェイソンの顔を汚す。目にも入ろうとするそれを瞬きで防ぐ。
それは泥の塊だった。十分に水を吸い込みながら、投擲する際に
真っ直ぐに飛ぶようにある程度固められた、元々は泥団子だったものだ。
ジェイソンがマスク越しに見た先にあったのは、
孤児たちが泥団子を握りしめ、敵意に満ちた目を自身に向ける姿だった。

***********************************

数日前、ジェイソンが少女の使い魔となった日。
ティファニアに従って、森を抜けた先にあったのは村だった。
家へと案内しながらティファニアは村に住んでいるのは子どもだけで
彼らは孤児であり、自分の家族だと簡単に説明し、
もう朝なので食事の準備をしなければならないといって
家の中に入った。と、すぐに顔を出す。

「皆があなたを見て驚く姿を見たいから、朝食の時まで隠れてて。
そのときになったら合図するから、皆に挨拶してね」

ニッコリと微笑む少女の提案にジェイソンは了承の意に首を縦に振った。
ティファニアはそれを確認すると、すぐに家の中へと戻って行った。
ジェイソンは一人になって初めて村の全貌に目を向けた。
家の戸数はティファニアの家を含めて21。ティファニアの家を除いて、
そのどれもが同じくらいの大きさで、家との間はそれほど離れておらず、
キャンプ場のコテージを思わせた。しかしジェイソンが住んでいた
廃屋とはまるで違い、多少荒削りな部分があるが、
クリスタルレイクのコテージ群とさほど変わらない出来であり、
違いといえばわりと新しく建てられたものが多く、
また人が住んでいる気配を感じさせた。ジェイソンは森の中に隠れようと歩きながら、
通り過ぎ様に一つの家の中を窓から覗いた。家の中は質素ながらベッドが三つあり、
子どもが寝ているのだろう、毛布が盛り上がっているのが見えた。
そのままジェイソンは森の中へと入り、村から少し離れた木々の間から
様子をうかがうことにした。

それから数十分後。

一つの家の扉が開く音が聞こえ、小さな姿が現れる。
そしてそれに合わさるように次々と家々の扉が開かれ、
脱兎のごとく次々と小さな姿が家から飛び出し、ティファニアの家へと向かっていた。
60人近い子どもが一つの家に集合する姿は、まるで雲霞のようだ。
孤児たちが続々と集結する中、ジェイソンは森の木の陰からその様子をじっと見つめた。
幸いにも誰も彼がいる方へは目を向けず、孤児たちに気づかれることはなかった。
10人近い子どもがティファニアの家の中へと入っていったが、
ほとんどの子どもが外で走り回り、家の中を覗くといった行動をしていた。
その時、家の扉が開かれ、中から食器やバスケットを持った子ども達が現れ、
最後にティファニアが大きな鍋を両手で持ちながら現れた。
子ども達とティファニアは村の真ん中に位置する場所まで歩き、
そこで食事の準備を始めた。鍋の中にはスープが、
バスケットには不揃いな形のパンがあり、全員にパンとスープが配られる。

「皆、ご飯の前に少し話を聞いて!
今日は皆に、新しい家族を紹介したいの!」

食事を配り終わり、いざ朝食という段になって上がったティファニアの声に
大抵のものは残念そうに目の前の食事に目を向け、
ごく少数だが期待の籠った目をティファニアに向けるものと
子ども達の反応は二分化した。

「新しい家族のジェイソンよ!」

子ども達の目が当て所もなく彷徨い、新参者を探そうと顔が揺れ動く。
中には空を見上げるという、奇想天外なものもいた。
どんな子だろう、と話し合うものもいた。
ジェイソンは名前を呼ばれ、森を離れて村の中心へと歩く。
手に持っていた鉈はベルトに差し、なるべく目立たないようにし、
ジェイソンはその体を子どもたちの前へ晒した。
新しい家族を探していた子ども達の目がジェイソン一人に向けられる。
話し声のトーンが一気に下がり、そして消えた。
2メイル級の大男を見上げる、その目に映る何かがジェイソンには
懐かしく感じたが、それが何なのかは思い出せなかった。
その視線が気になったのか、ジェイソンはティファニアの隣に並び、
横でティファニアが自身の紹介している間も、子どもたちを見下ろしながら、
柄にもなく子どもたちが向ける視線の意味を考えていた。

「ジェイソンはこれから皆の家族になります。
 遠いところから来た人だから、優しくしてあげてね」

ティファニアはあくまでジェイソン・ボーヒーズを「遠いところから来た人」といい、
孤児たちにジェイソンが自身の使い魔であることを告げなかった。
それはジェイソンが自分たちの中で一番年上であることを配慮したためであり、
平民の中でも使い魔の存在は知られており、もしもの場合、子どもたちが
ジェイソンを人並み以下の扱いをするかもしれないことを考慮し、
彼の社会的地位を著しく低下させないためだった。
ティファニアはそれに集中していたため、二つのことを見落としていた。
一つ目は、子どもたちがジェイソンに向ける奇妙な視線に気づかなかった。
二つ目は、見知らぬ大人の存在が現れた時、子どもたちが
どのような反応をするのか、一度も考えなかったことだ。

一応の紹介が終わり、ジェイソンは次にどうするのだろうと考えていた。
目の前にパンとスープが手渡された。
渡したのはティファニアであり、そこには笑顔を浮かんでいた。
ジェイソンはこれをどうすべきか悩んだ。
一度死んだ身のためか、ジェイソンの体は飢えを感じず、
食物は勿論、水分を摂取する必要もなかった。
睡眠は最低限取っていが、それは形骸化した一種の習慣であり、趣味といってもいい。
この不眠不休が可能な肉体に、食物を与える事態にジェイソンは面食らった。
しかし体は求めなかったが食べられないわけではなく、
頭の中で人間として生きていた頃を思い出しながら、戸惑いつつマスクを上にずらした。

奇怪な白い仮面に包まれていた一部が露わになった。
そこへジェイソンを除く一同の視線が突き刺さった。
顎や頬、唇と鼻の下は皺が刻みこまれており、
まるでミイラのように干からびて見えた。しかしそこには妙な瑞々しさがあり、
はっきりいうなら一種の腐敗死体ともいえるものがそこにあった。
一同の視線が集まる中、ジェイソンは一瞬だけ戸惑ったが
すぐにスープの皿を口に運んだ。手で掬いながら。
場が凍った。2メイル級の大男が何も言わずに手掴みでスープを
口の中に放り込む姿に、子どもたちの視線が釘付けになる。
ジェイソンはその視線を意に介さず、スープの温かさと美味さに心奪われていた。

ジェイソンがかつて殺人鬼ではなかった頃、公には死んだとされた時。
母にすら溺れ死んだと思われていた子どもが、どのようにして生き延びたか。
彼は一人で森の中を彷徨い歩き、捨てられていた生ゴミや
森に棲む動物たちを殺して食べた。その食物の状態は最悪であり、
幼少もあって、食べ難いものはあっただろう。
そして普通はゴミのようなものを食べはせず、
殺したばかりの動物を自分の手で食べることもしないだろう。
しかし自分の手元にあるもので、食べられるものはそれしかない状況。

それだけにジェイソンは生き残るために、
ただ夢中に口内へ掻き込むことだけを考えた。
その結果、生きるためだけに執着し続けた彼の中で
久しく行儀作法は忘れられ、汁物を飲むときは
「手で掬って飲んだ方が余すところなく飲めて効率が良い」という考えで
頭の中は埋め尽くされていた。このように彼の食事状況は凄惨を極めており、
そのことを鑑みればこの行動にも納得がいっただろう。
しかし子どもたちや、驚愕しているティファニアを含め
そんなことは知る由もなく、ただ奇異の目でその光景を見つめた。
だが子どもたちの目には、それ以上の何かが芽生えようとしていた。

スープを飲み終わり、次にパンをガツガツと食べ始めたころになって
一人の少年が叫んだ。

「気持ち悪いからやめろ!」

パンに齧りついていた口が止まった。
少年の声が鼓舞したのか、一人の少女も叫ぶ。

「なんで普通に飲めないの!?」

この二人の叫びから子どもたちは一斉に捲し立てるように騒ぎ始めた。

「皆、落ち着いて。ジェイソンは・・・・・・遠いところから来たから
 皆とは少し食べ方が違うのよ。だからそんなに騒がないで!」

これを見たティファニアは治めようとするが、
終いに彼女の声は大声を上げなければ聞こえないほどになった。
子どもたちはまるで火に油を注がれたように叫び、

「なんでそんな仮面をしているの!!!!」
「なんで剣なんて持ってるの!!!!!!」
「なんで顔を見せてくれないの!!!!!!!」
「どうして喋らないの!!!!!!!!!」

ジェイソンに対して質問攻めにし、叫び声は悲鳴に近いものになった。
ティファニアは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
子ども達やジェイソンのことを理解しているつもりだった彼女にとって
この事態は予想の範囲外だった。ジェイソンの食事方法事態も驚きだが、
何より先ほどまで沈黙していた子どもたちが
これほどまでに騒ぐ理由が、彼女にはわからなかった。
狂乱とまではいかないが、それに近い状況にジェイソンは既知感を感じた。
子どもたちが自分に向ける視線、今の状況に彼は覚えがあった。
彼はそれを思い出そうとした。自身の故郷、クリスタルレイクでは
日常的に見ていた光景、人間が見せる、最も原始的な感情。
この段になって、ジェイソンは思い出した。と同時にティファニアもまた、
子どもたちの様子に既知感を感じ、それが自分にとって馴染み深いものだとわかった。
主従関係でありながら、似たような境遇を持つ二人は、
現在の子どもたちの心を表す一つの言葉を、同時に考え至った。

それは恐怖だった。ジェイソンを見た子どもたちの視線に宿っていたのは
異質な存在への恐怖の感情だった。戦争で自分たちの家を焼き払い、
自分たちの本当の家族を奪い、離れ離れにし、
暴虐の限りを尽くした、大人という存在に対する恐怖だった。
ジェイソンは恐怖という感情に慣れ親しんでいた。
虐められたとき、自身が溺死しそうになったとき、
母親が死んだとき、彼の凶行による被害者たちが、顔や目に浮かべる恐怖、
何度もその感情、表情を目の当たりにしていた。
だが異世界ハルケギニアという、自身の住む世界とは全く違う、
異常な存在に圧倒され、すっかり失念していたのだ。

そしてティファニアがこれを悟ったのは、子ども達の言葉に聞き覚え、顔に見覚えがあったからだ。
言葉自体は彼女には関係ないが、その言葉に伴う感情を知っていた。
彼女を初めて見た人間が口を揃えてエルフといい、
言葉に畏怖があり、表情もまた恐怖を現わしていた。
彼女もまたこれを失念しており、それは単に時が彼女の心を癒し、
義姉マチルダと孤児たちの支えがあってだった。

孤児たちの声が響き続ける朝。永遠に続くものと思ったそれも
数分を過ぎて、ハーフエルフの少女の説得で本来の静けさを取り戻す。
しかし孤児たちは、叫ぶことはなくとも、ジェイソンの巨体を
恐怖と敵意がないまぜになった視線でとらえ続けた。
その視線を真っ向から受けるクリスタルレイクの殺人鬼は、
ただ沈黙で応えるだけだった。

***********************************

「テファ姉ちゃんに近寄るなよ、バケモノ」

初めて会ったときから変わらぬ、
この対応にジェイソンはやはり沈黙で応えた。
内心怒りが渦巻くと思われたが、ジェイソンにとって子どもは
怒りの矛先の対象外であり、彼の殺人遍歴でも
子どもをその手でかけたことはなかった。
ましてや泥を顔にぶつけられただけでは怒る理由にもならない。
だがそれだけが理由ではない。ひとえに孤児たちを自分の「家族」と認識しているからだ。
ジェイソンにとって母親という存在は絶対であり、
母親は死んだとわかっていても、母親に化けた殺人鬼のいう事を聞き、
被害者が母親の真似をすれば殺意が霧散するなど、
ジェイソンは「母親」に対して絶対的な忠誠を誓っていた。
使い魔になると決意したとき、母親の面影をティファニアから感じ取った
ジェイソンは、ティファニアを「主」よりも「母親」に近い存在として見ていた。
そのためティファニアを守ることは、彼女の「幸せ」を守る事と考えた。
家族を目の前で奪われたことのあるジェイソンにとって
「幸せ」とは「家族」の存在であり、彼女の「幸せ」もまた「家族」と考え、
ティファニアの家族、ひいては自分の家族を守ることは
当たり前のことだ、と彼は考え始めていた。
この一方的かつ、絶対的な服従と狂信的な愛情を捧げているために、
例えその家族に冷遇されても、「家族だから」という理由で許せるのである。

ティファニアが孤児たちを叱りつけ、
孤児たちが蜘蛛の子を散らすように逃げていく中、
青空を見上げながら、「家族」の存在にジェイソンは幸福を感じていた。
かつてただ醜かった少年は、殺された母親を想って殺人を行い、
殺人鬼の人生を歩んだ。そして醜い殺人鬼へと変貌を遂げた男は
その生涯とは打って変わって、いつになく心が充実し、
心身に幸福が満ち溢れていた。

その独善的な幸福は、果たして彼が見上げる空のように青く純粋で、
自他が認める、本当の幸福なのか。それに応えるものは居らず、
またその答えを知るものも、いなかった。




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