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使い魔は四代目-02



一芝居打って満足した竜王のひ孫は再び老人の姿に戻っていた。先程までの威圧感は嘘のように消えうせ、辺りは再び静けさを取り戻している。
ようやく茫然自失から立ち直ったコルベールは、最早授業を続けられるような空気ではないのを察し、未だにコントラクト・サーヴァントを済ませていないルイズを残して他の生徒に授業の打ち切りを宣言した。故に、殆どの生徒は既に教室に戻っている。
ただし、タバサとキュルケは残っている。タバサはシルフィードがこの場を動こうとしないので仕方なく。キュルケはタバサが残っているのが半分、この後の展開を見届けたいのが半分で。
生徒達はルイズに対し文句を言いたそうだったが、結局は皆無言で去って行った。何を言ったところで恥の上塗りになるのは目に見えたからである。
それを見送りながら、しかしルイズは痛快とも思わなかった。その表情は硬かった。
竜王のひ孫の行動が芝居と知った時こそ安堵したものの、結局自分はコントラクト・サーヴァントを済ませていない事。
そして竜王のひ孫相手にそれが出来るとも思えない事。それを考えた時に安堵感は露と消えた。
確かに密かに願っていた通り、強力で珍しい存在を召喚する事はできた。そういう意味でなら確かにこれ以上は無い、と言い切れるほどの大当たりなのだけれど。

「…使い魔に出来なければ無意味なのよね…」

ルイズは小さく呟いた。竜王のひ孫を使い魔に出来ない以上、使い魔召喚の儀式を成功させようとするならば、後は再召喚を行い新たに何かを呼び出してそいつと契約するしかない。
が、先程のコルベールの反応を考えるとそれを行うのは望み薄だろう。失敗したのだ。事は終わったのだ。
ルイズの表情はどんどん暗くなっていった。

コルベールは、そんなルイズを気遣わしげに眺めていた。
彼女の考えている事は分かる。分かるが、まず今第一に確認しておかねばならない事は…

「…あの、竜王のひ孫様。…本当に怒ってはいないのですね?」

「安心せい、大体わしがその気なら今頃はおぬしら全員灰も残っとらんわ」

返ってきたのはそんな物騒な答えだった。

「…で、ですよねー…」

冷や汗をダラダラと垂らしながらコルベールは相槌をうった。先程のドラゴンの姿から考えれば、それを容易くやってのけるだけの実力があるのは疑いようも無い。全く、ミス・ヴァリエールもとんでもないものを召喚してくれたものだ…
しかし困った。このままでは彼女が今危惧している通り、コントラクト・サーヴァントは不可能だろう。という事はつまり、春の使い魔召喚の儀式は失敗であり自動的に彼女の進級は不可、となる。
コルベールはルイズがどれだけ真面目に勉学に打ち込んできたかを知っている。
そんな彼女をむざむざ落第にするような真似は教師として、そして人間としてしたくは無かった。
だが現実問題として、コントラクト・サーヴァントを成功させない限り、彼女を落第にするしかないのだ。ならばどうする?
決まっている。私は教師だ。教師であろうと決めたのだ。ならば、その勤めを果たすまでだ。では、そうする為には何をすれば良いのだ?

しばらく考え込んだ後に、コルベールは緊張した面持ちで口を開いた。

「あの、非礼は十分承知の上なのですが、よろしければ、ミス・ヴァリエールに協力していただけないでしょうか
。…つまり、一時の間だけでも彼女の使い魔となって戴けないでしょうか」
「ミスタ・コルベール!?一体何を?」


「ほぉ…コルベールよ、わしの真の姿を見てなお、使い魔になれというか」
竜王のひ孫から笑みが消え、目つきが鋭くなる。それだけでコルベールは首を絞められているかのような息苦しさを感じた。それを無理やり押さえつけ、言葉を重ねる。
「も、勿論強制ではありません。ただ、先程の『異世界』や『上の世界』といった言葉から察するに、
帰還が困難なほど遠くから召喚されたのではないかと推測します。私達も全力で帰還の方法を探しますが、何分この様な事は例が無いため、相当に時間がかかることが予想されます。
ならばせめて、その間だけでも…」

竜王のひ孫はじっとコルベールを見つめた。
…私心は無さそうだ。純粋に生徒を心配しての事か。見事な覚悟だ…と言いたいが…

「ふむ。どうやら嘘は無さそうじゃな。確かにこちらでやる事もないし、わしとしてもお主らの協力が得られるならその方が良い。が…それだけではまだ足りぬな」
「…足りない?」

「わしは下衆やただの愚昧な輩に貸す力など欠片も持っておらんわ。ルイズとやら。わしを使い魔にしたいなら自力でお前がそうでない事を証明してみせい」
「し、…証明…と言われても…ミスタ・コルベール!本気で、この竜王のひ孫…様を使い魔にしろと言っているんですか!?」
「ミス・ヴァリエール。君が躊躇するのは当然だ。だが、私は可能性はあると考える。
今の竜王のひ孫殿の言葉を聞いただろう。その気が無いならあのような事はおっしゃらないだろうと私は思う。
第一、竜王のひ孫殿がその気ならとっくにここから去っているか、我々が全滅するかしている。
そして…こんな事は言いたくないが、これはラストチャンスだ。君はもう分かっている筈だ。これを物にできないようなら、再召喚不可がルールである以上、
私は君がこの春の使い魔召喚の儀式に失敗した、と判断せざるを得ない。すなわち、君を落第にしなければならない。
…済まないとは思うがこれは決まりであり私ではもうどうすることも出来ないのだ」
「…と、言う事らしいわい。ルイズよ。言いたい事があれば言うてみい」

ルイズは必死で考えた。まだチャンスは残されていたのだ。しかしどうする?実力でどうこうできるわけも無いのははっきりしている。
かといって嘘やハッタリはまず通じないだろし、通じたとしてもそれが露呈したときが怖すぎるのでこれも論外だ。
それでは諦めるのか?諦めるしかないのか?

思いつめたような顔で考え込むルイズを、竜王のひ孫はしばらく見つめていたが、ふ、と表情を崩すと声をかけた。その声には先程コルベールに向けられたような鋭さは無かった。
「…魔術の道は、深く険しい。誰もが、道に迷い、立ち止まるだろう。
一流の魔術師は、あらゆる手立てを尽くし、速やかに歩き出す。並みの魔術師は、少しばかり歩き出すのが遅い。そして負け犬は、立ち止まったまま歩き出せない。
…わしらの世界の高名な魔術師、ダクダクバンボの言葉じゃ。ダクダクバンボを知っておるかね?」
「…申し訳ありませんが…知りません。不見識を恥じるのみです」
「はっはっは。いや、素直でよろしい。まぁ当然じゃろうて。何せ口からでま…あ、いや、もとい、
あー、まぁようするに、失敗が問題なのではない、努力し続けるのが肝心、とまぁそういう話じゃ。
じゃからな?黙っていては何も伝わらんぞ。わしは別に見事な演説を聞きたいわけじゃないんじゃから」

その言葉を聴いて、ルイズは少し気が楽になったような気がした。そして、想像してみた。メイジになるのを諦め家に戻った自分、竜王のひ孫を使い魔にした自分を。
そして思い出した。何度もサモン・サーヴァントに失敗し続け、ついに手ごたえを感じた瞬間の歓喜を。

顔を上げた。結局何をどう言ったら良いかは分からないままだったけど…けれど、やはり諦める事など出来ない。
方法は間違っているかもしれない。駄目かもしれない。けど、やれる事をやらずに諦める事など出来はしない。そんなのは貴族のする事ではない。

杖を持ち、竜王のひ孫に対峙する。

「竜王のひ孫様。どうすれば証明する事になるのか、私には正直分かりません。
なので、私の力を見て貰いたく存じます…エア・ハンマー!」

その言葉と共に、風が唸りを上げ、破壊の槌となり標的へと襲い掛かる!
…わけもなく、結果はいつもの通りだった。すなわち爆発。

「…ご覧の通りです。このエア・ハンマーだけではありません。私は、今までどんな魔法も成功させたことがありません。いえ、成功しないどころか、爆発させてしまう…その為に『ゼロのルイズ』と呼ばれるような…駄目なメイジです。
ですから、竜王のひ孫様を使い魔とするような資格など、ありはしません」
「…!ミス・ヴァリエール!君は…諦める気かね?」
「いいえ。ミスタ・コルベール。ただ、ここで嘘を付いてはいけない事位分かります。我こそは竜王のひ孫殿を使い魔にするに相応しいメイジだ、など言えるはずもありません。
そして、使い魔になってもらおうとするなら、私の全てを曝け出す必要がある事を。だから…、この事は言わねばならないのでしょう」

搾り出すようにルイズが言う。プライドの高い彼女の事だ。これだけ言うのもさぞ苦しいだろう、とコルベールは思った。

「けれど、竜王のひ孫様。貴方を召喚したサモン・サーヴァントが私の始めて成功した魔法なんです。だから、だから…」

ルイズは、自分の思いがまるで言葉にならない事が悔しかった。

竜王のひ孫様。貴方はわからないでしょうね?
今まで魔法が成功しないことがどれだけ不安だったか。どれだけ苦しかったか。それだけに、サモン・サーヴァントが成功した瞬間、どれだけ嬉しかったか。
まぁこれは人間を召喚した事による不安ですぐ消えちゃったけど。
ああもう、思った事がそのまま言葉になるならこんなもどかしい思いはしないのに!
とにかく、まだチャンスがある、と聞いた時、確かに恐ろしかったけど、貴方と共に歩く自分を想像したんです。
それは、凄く輝いて見えた。今までの、迷いとか、悩みとかが一気に晴れて、どんな困難にも立ち向かえそうな気さえした。だから…

「貴方は私の希望そのものなんです!身の程知らずと言われても仕方ありません。けれど、お願いです、力を貸してください!」

竜王のひ孫は、沈黙を守ったままルイズの瞳を見つめていた。そこには彼がかつて力を貸した勇者であり、そして掛け替えの無い友人である三人組の中の一人を連想させるものがあった。

人の身でありながら破壊神と渡り合った最強の戦士にして勇者達のリーダー。ローレシアの王子アレン。
剣と魔法、どちらも一流の使い手の魔戦士。サマルトリアの王子カイン。サマルトリア防衛戦での彼の獅子奮迅の戦いぶりは最早伝説だ。
国を滅ぼされ、家族を全て失い、一時は犬の姿に身をやつし、それでも慈愛の心と勇気を失わず、癒しの力、破壊の力、究極と言われた呪文さえ自在に操った偉大なる魔法使い。ムーンブルクの王女ナナ。
彼がやってきた世界アレフガルドでこの三人の名を知らぬ者など存在しないだろう。

そして、ルイズの眼光に彼はカインを重ねていた。その瞳に宿る強い意志の力と、見え隠れする劣等感がそう思わせたのかもしれない。
意地の悪い見方をすればカインは器用貧乏だ。剣技ではアレンに、魔法の威力と言う点では攻撃魔法でも回復魔法でもナナに劣るからだ。
勿論、その事に対する思いもあっただろう。しかし、一番彼に常に付きまとっていた劣等感は、自分一人だけが、勇者ロトの血を引いていないと言う自力ではどうにもならない事だった。
だが、彼はまぎれも無い勇者だった。そんな大きな劣等感を抱えながらもそれを表に出さず、飲まれる事無く戦い抜き、ついには克服したのだから。

…生意気そうなところもよう似ておるわい。いらん事を言って余計な騒動を巻き起こす姿が見えそうじゃな。

一人で納得して頷くと、彼は穏やかに尋ねた。

「ところでルイズや。先程力を貸してほしいと言ったが…、お主はその力で何を手に入れる?地位か?名誉か?…それとも、世界か?」
「そんな物じゃありません!私はただ、一人前のメイジになりたい。そして、胸を晴れるような貴族になりたいだけです」
「ふむ。今の言葉に偽りはないとわしの目を見て誓えるか?」
「無論ですわ」
「安請け合いするでないわ。嘘があったらその命を貰い受けるとしてもか?」
先程コルベールに向けられた眼光が、今度はルイズに向けられた。その威圧感と、何よりその言葉の内容に一瞬絶句したが、それでも目を逸らさず答えることはできた。

「…!つ、杖に懸けて」

その返答を聞き、竜王のひ孫はしばし眼を閉じ、やがて静かに問うた。

「どうやら本気のようじゃな…ルイズよ。わしは竜族の王じゃ。人間に使役される謂れは無い。よって、使い魔といえども立場はあくまで対等じゃ。それで良いな?」

「…!?竜王のひ孫様、それでは!」
「対等、と言ったじゃろ?じゃからそんなに畏まらんでもええわい。まぁそれはそれとして…」

そこで言葉を切り、竜王のひ孫は周囲を見渡した。一瞬、未だこの場に残っていた竜にまたがる青い髪の少女、タバサとその傍らに立つ褐色の肌を持つ赤毛の少女、キュルケの所で視線が止まった。

しかし奇縁というものはあるものじゃ。ルイズがカインに通じる物があるなら、あの少女は…ナナじゃな。
どことなく漂う翳りの様なものがナナを思い出させたか。まぁ、幸いにもそれを支えるだけの強さを持った友もいるようじゃ。

そんな考えを脳裏に浮かべつつ、了承の言葉を聞いて安堵の表情を浮かべていたコルベールに問いかけた。

「さて、コルベールよ。お主の提案どおり使い魔になってやる事にしたが…まだ儀式が残っておるんじゃろ?具体的にはどうするんじゃ?」
「はい。後は面倒な事はありません。スペルを唱えつつ誓いの口付けをするのみです。それにしても…ミス・ヴァリエールに対する寛大な御心に感謝の言葉もございません」
「ああ、ええわいええわい。…それにしても、接吻とはのう。時にルイズ。これは非常に重要な問題なんじゃが」
「何でし…何かしら」
「初めて?」
「こ、これは使い魔相手にするものだからノーカウントですっ!」
「そうか…ルイズ、感謝するんじゃぞ。竜族の王にこんな事が出来るなんて普通は一生無いんじゃからな」
ニヤニヤしている竜王のひ孫をルイズは真っ赤になって睨み付け、サモンサーヴァントを始めた。

呪文が唱えられる。杖が振られる。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この物に祝福を与え、我の使い魔と成せ」

そして、唇が重なり…儀式は完了した。
これが、竜族の頂点にして王の中の王、竜王(のひ孫)が使い魔となった瞬間であった。



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