あれからギーシュと一旦別れて自室へと戻ってきたルイズとカイト。
その二人はとてもとても大切な事を話していた。
「さて、それじゃあ聞かせて貰いましょうか?」
ルイズは鞭を軽く振りながらカイトに微笑みかけている。
穏やかな表情をしていたが、眼は笑っていない。
笑顔とはこんなに恐ろしいものだったのだろうか。
穏やかな表情をしていたが、眼は笑っていない。
笑顔とはこんなに恐ろしいものだったのだろうか。
「シエスタの所に、何の用事があったの?」
「……ハァァァァアアア」
デルフを取り出して、訳を言ってもらう。
単にシエスタに料理を振舞って貰っただけだと。
「本当に? それだけ?」
心なしか鞭を振るスピードが速くなっているのはきっと気のせいじゃない。
僅かに身震いをしたカイトを見て居た堪れなくなったのか、通訳をしていたデルフが口を挟んだ。
僅かに身震いをしたカイトを見て居た堪れなくなったのか、通訳をしていたデルフが口を挟んだ。
「あ~…、カイトの言ってる事は本当だぜ。
俺が証人、いや証剣だ。」
俺が証人、いや証剣だ。」
デルフの言葉にカイトはコクリと頷いた。
その仕草にルイズは少し追い詰めすぎたかな、と思いながらカイトの傍へと寄っていった。
その仕草にルイズは少し追い詰めすぎたかな、と思いながらカイトの傍へと寄っていった。
「……はぁ、前から言おうと思ってたんだけど。」
鞭を下ろしながら、言う。
カイトはホッとしながらもルイズを見る。
カイトはホッとしながらもルイズを見る。
「アンタは大事な事を省略しすぎなのよ。
それとそのまま直訳するデルフも。」
それとそのまま直訳するデルフも。」
俺も!?、とデルフは叫ぶがルイズは無視してカイトを見る。
「……」
カイトの表情は動かない。
だが、彼の脳内では思考をひたすら巡らせていた。
だが、彼の脳内では思考をひたすら巡らせていた。
「アンタはね、頭は良いし理解力も速い。
だけど、応用する事が出来ない節があるわ。」
だけど、応用する事が出来ない節があるわ。」
ルイズは単純な思考を持っている時があるが馬鹿ではない。
カイトがシエスタの所に行った、と聞いた時も何をしていたか、大体アタリはつけていた。
それでも怒った素振りを見せたのは、まあその場のノリだ。
カイトがシエスタの所に行った、と聞いた時も何をしていたか、大体アタリはつけていた。
それでも怒った素振りを見せたのは、まあその場のノリだ。
カイトからすれば堪ったもんじゃないが。
「良い?
次からは、ちゃんと『誰と』、『何処で』、『何をしていたか』言いなさい。
漠然とした言葉じゃ解らないから。」
次からは、ちゃんと『誰と』、『何処で』、『何をしていたか』言いなさい。
漠然とした言葉じゃ解らないから。」
その声は、何処か子供を諭す親のようで。
「……ハアァァァアァア」
カイトは静かに頷いたのであった。
(やっぱり、こっちの方が良いのかな…。)
ルイズは目の前で理解を努めるカイトを見てそう思った。
確かにあの時、カイトがシエスタの所に行ったと聞いた時は、怒りがこみ上げた。
だが、その後ギーシュと共に怒鳴り散らした後、急激に頭が冷めて、こう思った。
確かにあの時、カイトがシエスタの所に行ったと聞いた時は、怒りがこみ上げた。
だが、その後ギーシュと共に怒鳴り散らした後、急激に頭が冷めて、こう思った。
幾らなんでも大人げが無いんじゃないか、と。
確かにカイトは訳がわからない存在である。
だが、人と同じ機能を持っている事は漠然としたものだが理解できる。
だが、人と同じ機能を持っている事は漠然としたものだが理解できる。
そして、何処か幼い一面を持っていると言う事も。
そんな彼に無闇やたらと怒鳴り散らしてあれこれと頭に叩き込ませるのは、何か違う、と感じていた。
確かに使い魔と主の主従関係は絶対だ。
確かに使い魔と主の主従関係は絶対だ。
だが、生憎カイトは普通の存在ではないし、あのギーシュとの決闘の時も自分を庇ってくれた。
それに対して、ただ怒るだけと言うのは貴族としてではなくルイズ個人として間違っていると感じていた。
それに対して、ただ怒るだけと言うのは貴族としてではなくルイズ個人として間違っていると感じていた。
ルイズには姉が居る。
一人は厳しく、幼かった彼女にとっては恐怖の象徴だったが、
もう一人は何時も自分を慰めてくれた優しさの象徴だった。
もう一人は何時も自分を慰めてくれた優しさの象徴だった。
ならば、自分がするべき事は何か。
優しく接してみよう。
使い魔としての扱いでは無く、カイトとしての扱いとして。
主従関係は絶対だが、信頼関係はソレよりも圧倒的に勝る。
そう思い始めたルイズだった。
あの後、仮眠を取っていたルイズが目を覚ます。
「ん……」
目をこすりながら、窓の外に目を向けると日は降りており、薄暗くなり始めた頃だった。
そして、時間を確認する。
作戦時刻まであと1時間30分だ。
「っ……」
時間を確認した瞬間、ふるりと彼女の体が震えだした。
自分を抱きしめるように腕を回すが、体の震えが止まらない。
自分を抱きしめるように腕を回すが、体の震えが止まらない。
正直、怖い。怖くて怖くてたまらない。
これから2時間後に更に暗くなる外へと行くのだ。
買い物やピクニックに行くのとは訳が違う。
命を懸けた戦いが始まるからだ。
買い物やピクニックに行くのとは訳が違う。
命を懸けた戦いが始まるからだ。
カイトは強い。それこそ土くれのフーケすらにも負ける事はないだろう。
ギーシュだって、陸軍元帥の父がいる。初めてとはいえ、上手く立ち回れるだろう。
ギーシュだって、陸軍元帥の父がいる。初めてとはいえ、上手く立ち回れるだろう。
ならば、自分はどうだろうか。
全ての魔法が爆発に変換される。
運動神経だってあまりよくは無い。
命を奪い合う戦いなんて対岸の火事の出来事だ。
運動神経だってあまりよくは無い。
命を奪い合う戦いなんて対岸の火事の出来事だ。
(なんで、あんなこと、言っちゃったのかな……)
ルイズはあの時の事を深く後悔していた。
もしも、あの時手を上げなかったら。
もしも、あの時口を出さなかったら。
もしも、あの時プライドよりも自分を優先させていたら。
それのせいで、ギーシュまで巻き込んでしまった。
ギーシュは自分に借りを返したいと言った。
ならば、自分が行かなければ、ギーシュもきっと手を上げなかっただろう。
体の震えがさらに大きくなる。
体に回す腕にも更に力が入る。
目は強く閉じられ、息が荒くなり、歯はカチカチと鳴っていた。
体に回す腕にも更に力が入る。
目は強く閉じられ、息が荒くなり、歯はカチカチと鳴っていた。
「~~~~~~~っ……」
今、怖いから逃げ出したいと学園に言えば、きっと学園長は別のものを手配してくれるだろう。
だけど……
(逃げたくないっ…)
貴族としてではなくルイズ自身の小さなプライドがそれを邪魔していた。
使い魔は、カイトはギーシュとの決闘の際に、逃げなかった。
自分がアレだけ必死に命令しても、カイトは応じなかった。
決闘の当事者であるギーシュに言われたのだが、あの時カイトはギーシュの陰口に対して怒りを見せたという。
使い魔は、カイトはギーシュとの決闘の際に、逃げなかった。
自分がアレだけ必死に命令しても、カイトは応じなかった。
決闘の当事者であるギーシュに言われたのだが、あの時カイトはギーシュの陰口に対して怒りを見せたという。
陰口を言われた、と面と向かって言われると腹が立つ。
だが、その苛立ちが霞むほどに、カイトが自分の為に怒ってくれたというのは、正直、かなり嬉しかった。
もっとも、素直になりきれないルイズはカイトに対して強く当たってしまうのだが。
もっとも、素直になりきれないルイズはカイトに対して強く当たってしまうのだが。
そんな彼を裏切りたくない。
自分をゼロと呼ばなくなったギーシュを裏切りたくない。
自分をゼロと呼ばなくなったギーシュを裏切りたくない。
そして何よりも…
(自分を裏切りたくない……!
裏切りたくない…
裏切りたくない……
裏切りたくない………!!)
裏切りたくない…
裏切りたくない……
裏切りたくない………!!)
そんな言葉を頭の中で繰り返していると、ふと後ろのほうで布が動く音がした。
カイトが起きたのだ。
「!!」
カイトの特徴的な瞳がゆらゆらと暗い部屋にゆれている。
ルイズは慌てて、明かりをつけて、何時もどおりを装ってカイトを見た。
「お、おはよう…!」
「……」
カイトは無言でルイズの傍に近づいて行く。
そんなカイトにルイズは少しだけムッと来た。
声を出して叱ってやろうと口を開こうとした瞬間。
そんなカイトにルイズは少しだけムッと来た。
声を出して叱ってやろうと口を開こうとした瞬間。
「ダ@ジョウブ?」
「えっ?」
カイトがルイズの目元に手を伸ばしたのだ。
「ちょ、ちょっと!」
何するの、と言う前にカイトの指がルイズの目元を拭ったのだ。
「え、あっ…」
ルイズは泣いていた。
泣いていた事にすら気がつかなかったのだ。
それほどまでに、彼女は追い詰められていたのだ。
「っ……」
その手を振り払う事も出来ず、かと言って、離せと命令する事も出来ず、ルイズはカイトのなすがままになっていた。
ルイズはカイトの目を見た。
そして、見てしまった。
そして、見てしまった。
その不気味な瞳が、自分を心配しているかのようにルイズを見ていたことを。
カァッとルイズの頬が赤くなる。
使い魔が主を心配していたことに対する苛立ちか、
はたまた、ある意味純粋な瞳で見られていたということに対する羞恥心か。
はたまた、ある意味純粋な瞳で見られていたということに対する羞恥心か。
「aasdvカラ…」
「え?」
「ルイズヲ、a34fgsafvカラ。」
「……」
「マモルカラ、シンパイシナイデ。」
ルイズの目が見開いた。
きっとカイトは解ってしまったのだろう。
今、自分が不安と恐怖に包み込まれている事を。
そして、デルフを介してではなく、自分の口から言った事。
ルイズはカイトの指を払い、俯いた。
「……?」
そんなルイズにカイトは首を傾げた。
こういう時は、大体彼女が怒り出す予兆だ。
こういう時は、大体彼女が怒り出す予兆だ。
その瞬間、カイトの脳内で怒る彼女の映像が映し出された。
そして、その映像と同じように目の前のルイズが手を上げて…
ぽん、と背の高いカイトの頭にルイズの右手が乗せられた。
「……?」
訳がわからない、とカイトはルイズを見る。
「ばーか。 心配なんてしてるわけ無いでしょ。
アンタは私と一緒に動けば良いのよ。」
アンタは私と一緒に動けば良いのよ。」
ルイズは笑顔になってそのままぐりぐりとその右手はカイトの頭をなでた。
その手はもう、震えては居なかった。