あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

どげぜろ

――それは、おおよそその場の空気には似つかわしくない、奇妙な風体の男であった。

年の頃、三十代半ばから四十代前半と言ったところであろうか。

整髪料でガチガチに固めたリーゼント気味の髪型に、
ファンタジーと言う物を虚仮にしているとしか思えない、よれよれのスーツにスニーカー。
見るからに気弱そうなタレ目とチョビ髭に、喧嘩には向かない背の低い痩身。
だが、その眼鏡の奥に宿った眼光の鋭さが、華奢な外見にかえって曲者じみた凄みをもたらしていた。

周囲がシン、と静まり返る中、男はしばしキョロキョロと辺りを見まわしていたが、
やがて、その視界に薄桃色の髪の少女を捉えると、おもむろに口を開いた。

『あのぉ……どこ、ココ?』

たまらぬ男であった。

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――その男と遭遇した時の記憶を、
 トリステイン魔法学院教員、ジャン=コルベールは、後にこう回想している。

「――ええ、あの時は本当に、ただ茫然とするばかりで……。
 知っての通り、通常のサモン・サーヴァントにおいて人間が召喚されるなど、考えられる事態ではありません。
 ましてやあの奇妙な装束、アレは異国の住民と言うより、
 まるで、異世界から来た人間なのではないかと言う異和感すら覚えました。
 もっとも、それも今なって思い返してみれば……、と言う事なのですが。

「――もちろん、ミス・ヴァリエールは必死で抗議してきましたよ。
 当然でしょう、いかに慣例とは言え、年頃の少女が平民、それもあんな得体の知れない中年に……、
 その、唇を、捧げるなど……、ま、まあ、躊躇するのも無理ない事です。

「――ですが、儀式は儀式。
 彼女があんな冴えない男を呼び出したのには、きっと我々凡人には計りしれない
 始祖ブリミルの思し召しがあるのだ……、と。
 私は心を鬼にして、彼女にコントラクト・サーヴァントの遂行を命じました。
 彼女はしばらくの間、真っ青な顔をしてその身を震わしていましたが、やがて大きく息をついて、
 男の方へと足を向けました……、その時です!」


――ドゲッ!!


『なッ……!』
『ちょっ、ア、アンタ! 何やってんのよ!?』

『使い魔は……、どうか、勘弁して下さい』

『~~~~~~~ッ!?』



「――土下座です。
 ミス・ヴァリエールが憎まれ口の一つでも叩こうかと、口を開きかけた一瞬。
 その一瞬の隙をついて、男が地面に額を擦り付けるほどに、全力で土下座したのです!

「――確かにこのハルケギニアの社会構造において、
 無力な平民が貴族相手に我儘を押し通そうとするならば、アレ以外の方法はないでしょう。
 だが、だからと言って大の男が、初対面、しかもまだ年端もいかないような少女相手に、
 ああも臆面もなく土下座できるものでしょうか?

「――スピード、タイミング、フォーム……、どれをとっても完璧な土下座でした。
 男の淀みない鮮やかな動きに対し、私は生まれて初めて、本物の土下座と言うものを見た気がしました。
 もっとも、土下座の本当の恐ろしさを思い知らされたのは、その直後の事ですが」


『ア、アンタ、馬鹿じゃないの!? 早く頭を上げなさいよ!』
『どうか、儀式のやり直しを』
『くっ、こ、この……』


「――ミス・ヴァリエールも相当動揺していましたよ。
 当然でしょう、同級生達の視線が一身に集まる中、大の男に真っ向から土下座されて、平静を保てる少女などいません。

「――この、額を地面に擦り付けるほど、というのがミソでしてね。
 男の額と地面の間には、梃子を差し込むほどの間隙すらありませんでした。
 あれでは例え、オークの膂力をもってしても、力ずくで男の唇を奪う事などできなかったでしょう。
 かと言って背面の耐久力は正面の七倍、少女がどれほど全力で踏み続けたとしても、
 男が音を上げて顔を向ける可能性には期待できませんでした。

「――えっ? 魔法で無理やり、男の顔を上げれば、ですか?
 ハハ、あなたは何も分かっていない……、土下座の真の恐ろしさを!

「――確かにミス・ヴァリエールは魔法の才に恵まれず、級友達からは【ゼロのルイズ】と呼ばれていました。
 だが、問題はそこではありません。
 今回の敵は、正真正銘ただの平民、しかもこちらに対して、初めから全面降伏しているのです。
 ……もしあの場で、彼に杖を向けられる者があったとしたら、
 それはメイジであったとしても、決して【貴族】とは呼べない輩でしょう……」

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 ・

『もぅ、いいから、いいから頭を上げなさいよォ~!』
『どうか、何卒、召喚のやり直しを』
『無理、ムリなのよ~、私が何を言ったって、これは……』
『どうぞ、心よりお願い申し上げる……殿……』
『……えっ? ア、アンタ……一体?』


「――そんなやりとりが五分ほど続いたでしょうか?
 ミス・ヴァリエールの態度が、急に変化したのです。
 彼女はおもむろに立ち上がり、ゆっくりと私の方を振り返ると、急にハッと息を呑み、そして……!」


――ドゲゲッ!!


『おッ!? お願いします! どうか私に、もう一度だけチャンスを下さい!!』
『~~~~~~~ッ!?』


「――土下座です……、完全にしてやられました。
 彼女はあっさりと貴族の立場を捨てたのです。

 【容姿】×【家柄】×【観衆】=【土下座力】!!

 男と相対した時の数万倍ものプレッシャーを前に
 私は周囲の背景が、ぐにゃりと曲がり落ちるような錯覚すら覚えました」


『やッ!? やや、やめなさい! ミスヴァリエール、顔を上げなさいッ!』
『どうか、どうかもう一度、サモン・サーヴァントをッ!』
『そ、そんな事、私に言われ……』

『『 何卒ッ 』』


「――そうです、サモン・サーヴァントは、大いなる始祖ブリミルの定めた神聖な儀式。
 一介の教員に過ぎない私に、どうこうする権利などありはしません……。

「――でも、それならば一体、ミス・ヴァリエールは何に頭を下げていたのでしょうか?
 学院長? アンリエッタ姫殿下? あるいは彼女の両親?
 ……いえ、彼女達の土下座はあまりに真摯で、すでに人間に相対するレベルを超えていました。
 まるで、運命の神にでも是非を問うかのような。

「――そこまで思い至った時、私も不意に気付いたのです。
 彼らの土下座は、始めから私を見てはいない、私の背後にある存在に捧げられたものなのだ……、と。
 後背より何か、神々しいオーラが満ちていくのを感じ、私はゆっくりと後ろを振り返りました。
 ……そして、そこにいた者は」


『しッ!? 始祖! ブリミルッ!?』


「――伝説以上の神が、そこにはいました。
 もちろん、私は始祖の御尊顔など知る由も無かったし、あなたも狂人の妄言として、一笑に付すかもしれません。
 だが、あの時の神秘に満ちた感覚を、私のささやかな知識で例えようとするならば、
 そこに、始祖ブリミルが立っていた、と表現する以外にはないのです」

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 ・

(~~~~~~~~~~ッ!?
 始祖ブリミル、本物?、何と言う神々しさ!!全裸!?
 スッゲェ筋肉!イメージと全然違……ッ、原作無視?、どうすんの俺?
 まさしくアンチェイン、神秘体験、始まる……!、何が?これから……!
 ファースト・ドゲから始まる…… 奇跡! 未来! 今――ッ!!)


――ドゲゲゲッ!!


『お、お願いします! 始祖ブリミル! どうか、私の生徒にもう一度チャンスを……!』



「――必死でした。
 私はあの時、ミス・ヴァリエールを助けようなどと言う殊勝な心がけで動いたワケではありません
 ただ、あの時はじっとしていると、自分がどうにかなりそうで、
 ただただ必死で体を動かした結果が、あの体勢だったのです。
 陳腐な言い方ですが、運命が、私の肉体を突き動かしたと言ってもいい。
 そして、どうやら彼らも、同じだったようです……」


――ドゲッ!

『ぼ、僕からもお願いします!』

――ドゲッ!

『どうか、友人のヴァリエールに力を……!』

――ドゲッ!

『……お願い』

――ドゲッ!

『きゅいっ! きゅいきゅいッ!!』

―― ド ゲ ゲ ゲ ゲ ゲ ゲ ゲ ゲ ゲ ゲ ゲ ッ !!!!!


『『『『『『『『 も う 一 度 、 チ ャ ン ス を 下 さ い 』』』』』』』』


「――トリステイン魔法学院新名物【学年総土下座】誕生の瞬間でした。

「――土下座は、力無き弱者に残された、最期の牙です。
 それは、たとえ始祖ブリミルであっても……、いえ、全知全能の神であればこそ
 投げ出された無力なる者の必死の祈りを、無下に打ち捨てる事はできないのです。

「――どれほどの時間が過ぎたでしょうか。
 私の頭の上で、大いなる始祖が深く溜息をつくのを感じました。
 やがて、除々に神秘的なオーラは薄まっていき、
 光が完全に潰え、私達が気がついた時には、既にあの男の姿も、広場にはありませんでした……」

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 ・

――ジャン=コルベールはそこで大きく息をつくと
 すっかり冷めてしまったブラックコーヒーのカップを手に取った。

「――分かっていますよ。
 あなたが本当に知りたいのは【その後】の事なのでしょう?

「――あの時、始祖ブリミルは私たちの懇願に対し、容認もしなければ否定もしなかった。
 ミス・ヴァリエールの再召喚を、いわば【黙認】したのです。

「――結論から言えば、再召喚などするべきでは無かった。
 ミス・ヴァリエールは、あの土下座男で納得しておくべきだったのです。
 最期に始祖のついた溜息の意味を、私達はもっとよく考えておくべきだった……。

「――二度目のサモン・サーヴァントは、一発で成功しましたよ。
 ミス・ヴァリエールの詠唱と共に、背景がぐにゃりと歪み、……そして【あの男】が現れた。

「――ええ、そうです、平民の男性です。
 ……正直私も、アレを平民と……、いや、我々と同じ人間だと割り切るのにすら抵抗があります。
 異常に発達した背筋の盛り上がりなど、もはやオークや亜人の親戚にすら思えました。
 けれども、ヤツらのような脂肪混じりの肉体とは違う、アレは闘争の中で磨き上げられた戦士の筋肉……。

「――そう、言うなれば彼は【鬼(オウガ)】の化身のような男でした……」



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